幻想立志転生伝
75
***最終決戦第六章 北へ***
~狂った世界の狂った命~
≪side カルマ≫
南に下がり噴火した火山からサンドール住民を逃がし始めておよそ一週間。
ようやく対策にも目処が立ち始めていた。
「ふう、何とか溶岩の流れ込む方向を変えられたか……」
「はっ、無人地帯に溶岩を誘導し流し込む主殿の策、当たったようですね」
ま、地下で兵隊蟻達が頑張ってくれたようだし俺も、と言うかファイブレスも頑張った。
溝を作って溶岩の流れる方向を制御しようという無謀極まりない試みだったが、
上手く行ってよかった、といった所か。
ふう、しかし熱いな……火山の噴火中とは言っても幾らなんでも熱すぎだ。
ここはサンドール旧王都。火山から何キロ離れてると思ってるんだか……。
「……氷壁、増やす?」
「いや、これで十分だろ……これ以上は蒸すだけだ」
俺達の周囲には氷壁が立ち並び、異常な高温から俺達を守っている。
勿論ルンによって作られたものだ。
付いてきてくれて本当に助かったと思うぞ本当に。
因みに溶岩の誘導はまあ……普通に土木工事して溶岩の通り道を作り、
最後にファイブレスに堰を破壊させると言う形を取った。
今まで街中に流れ込んだ分はともかくとして、
今後はサンドールの逆側に用意した広大なくぼ地に溶岩が流れて行くことだろう。
「……ところで避難民の方は?」
「意外と疎開先に馴染んでいますね。大半は元奴隷で居場所を選べないのには慣れているからかと」
それは何より……と言っていいものか。
まあ、サンドールの首都は地下のあちこちから溶岩が吹き出てえらい事になった。
対策として圧の高まった時に溶岩を逃がす池のようなものを作ったが、
それでも今まで吹き出てきた分は街に残ってしまったからな。
それの後始末だけで多分一か月はかかる。
暫く戻らなくていいならそれに越した事は無いのだが。
「……そう言えば、グスタフはどうなった?アリシア達が付いている以上危ない事は無いと思うが」
「はあ。取りあえず魔王城までは辿り着いた模様ですが……」
うーむ。
まさか勝手に向かってしまうとは……。
まあ、世界各国から色んな理由で集まってる軍隊が山ほどいるだろうからな。
どう考えても中に入れてもらえるとは思えん。
そういう意味では安全だが、変な介入やら誘拐やらが無ければいいんだが……。
まあ、そこも蟻ん娘に任せておけば問題は無いか。
「ところが……それはそうと主殿、何処かの国の方がまたやってきたようで」
「ホントだ。またあの国かよ……ちょっと火口に落としてくる」
まったく。
クロスの言葉を真に受けたのか、最近の異常気象に疑心暗鬼になったのかは知らんが、
うちを攻めても何も起きないっての……。
まあ、言って聞かないしそもそも宣戦布告も無しで攻め込んできてる以上文句は言わせん。
ともかくこの機にとばかりに攻め込んできてる大陸外の国家が幾つかあるのは事実だ。
トレイディアにも何回か現れているらしい。
一応印も詠唱も確認済みだ。
俺が向こうに行き次第魔王城に有る魔方陣で破棄する事になっている。
しかしそれまではこのうんざりするようなもぐら叩きを続ける必要があるのだ。
「帰れ。さもなくば落ちろ」
「「「「おのれ魔王!」」」」
やかましい。
もし本気で言ってるなら何でクロス存命中に来なかった?
お前の国の場所的にとっくに話は行ってただろうに。
そもそも俺は魔王じゃないっての。
いや……でもドラゴンに摘み上げられて火山の噴火口の上に吊り下げられてもこう言えてる以上、
コイツ等の気持ち的には本気なのか。
……本気ならそれ相応の扱いをせねばなるまいな。
「……あー。一応聞くけどお前ら勇者?」
「その通り!我等こそは」
あ、聞いて無いから。
……ふむ。それでは見た事無い顔でもあるし、命まではとらないでお帰り願うか。
ただし。
「ぎゃああああああっ!?何をする!?」
「命はとらんがプライドはズタズタにさせてもらう」
と言う訳で異国の勇者様達をパンツ一丁半脱ぎにして、
更に尻にネギの代わりに和解金を兼ねた金の延べ棒を突っ込み、
トドメに俺も最近知った帰還魔法を唱える。
……全文だとコント一回分にも相当する長文になるが、重要なのはここだ。
『飛びます飛びます!何でこう……なるの!』
「「「「ぎゃあああああああっ!?」」」」
こうして名も知らぬ勇者達は祖国へ帰った。
……多分真っ昼間、メインストリート辺りにでも現れる事だろう。
取りあえず彼の国からは何度も来てるので段々と応対が酷くなっている事は否めない。
何せ二回目に来た時は復興中ということもあり面倒なので放っておいたら、
いの一番にサンドール王宮の宝物庫にダッシュしやがったからな……。
場所知ってるだろとしか言いようの無い迷いの無い進軍に一時呆然とした後、
報復としてその国の王宮にゴミを送りつけた俺を誰が責められよう。
……と言うか。本当に何でこうなるんだよ全く……。
実際は詠唱と長距離転移が全然関係ないじゃないか。
「アリシア……じゃ、今回も頼む」
「はいです!またわるいうわさ、ながすです」
その必要も無い気がするが、念には念をってやつだな。
因みに同じ人物が二度来たら生きては返しません、あしからずって奴だ。
……余談だが、俺が使ってるからお手軽に見えるが、
普通の魔法使いが使おうとすると宮廷魔道師クラスが数人がかり、
それも確実に数日は気絶……下手すると衰弱死する者も……と言う禁呪だったりする。
その結果がこれでは浮かばれない気もするが……まあ、余り気にしてはいけないと思う。
「取りあえず、これで一応の目処は立った。俺も北へ向かうぞ」
「……私も行く」
「はっ。後ろの守りはお任せ下さい主殿」
「そうでありますね。向こうではぐーちゃんやはーちゃんが暴れてるでありますし」
「だいげきとう、です」
え?ハイムまで合流してるのか!?
まあ、ハイムが暴走するのは予定内だ。
だがアイツもこっちの都合は理解してるだろうし、監視のアリスも付けてある。
それでも魔王とか何とか抜かしかけたら殴り飛ばしてでも連れ帰れと蟻ん娘に厳命してあるし、
それが無い以上破滅的な事にはなっていないだろう。
ま、あいつは自分の身は自分で守れるからまだ良いんだが……あれ?
「いや待て、それ以前に立ち往生してるんじゃないのか?各国の軍隊が集まってるんだろ?」
「ぜんぶ、けちらされた、です」
……マジで?
国際問題ってレベルじゃ無いぞ!?
幾らなんでもそこまで馬鹿をやるか?
と言うか蟻ん娘でも止められないのか?
「ハイム……何やってるんだ……」
「違うであります。魔王城から沸いて出る謎生物の群れに押しつぶされたであります」
「まおうとかは、いっさい、いわせなかったし、そもそも、いわない、です」
そうか。まあそれなら良いか……いやいや、各国の軍隊があっさり全滅ってどういう事だよ!?
仮にも対魔王用の精鋭部隊だろ!?
それにしても魔王城から沸いてるのは魔物ですらないのか。
……と言うか、本当に誰が弄ったんだよ。
と言うか管理者以外動かせないってのは本当なのか?
何か段々うそ臭く感じてきたんだが……。
「まあいい。自分で確認だ……急いで合流するか」
「待って欲しいっす!アニキ、自分もお供するっす!」
「僕も行くよ!絶対行くよ!?ぐーちゃんが、ぐーちゃんが!」
「……アルシェ大丈夫。ぐーちゃんも強い子……」
ともかく、謎は残るがやるべき事は一つ。
魔王城に乗り込み上階封印区画を停止させる事。
……時は来た。これ以上事態が混乱する前にさっさと行くべきだろう。
俺はぴょいこらと飛び上がって叫んだ!
『飛びます飛びます!何でこう……なるの!』
けどさ。もう一度だけ言わせて欲しい……なんで詠唱がよりによってこれなんだよ?
他にもっとそれらしいの、あるだろうに。
そんな益も無い事を思いつつ、俺達は謎の光に包まれて消えていった……。
……。
≪side アリス≫
……だばだばだば。冷や汗が垂れるのであります。
現在あたしとアリシアは一匹づつ並んで目の前のぐーちゃん達を見てるであります。
「これが魔王城ですか姉上」
「うむ。判ったら帰るぞ。世界の危機だがそれ以上に現状危険すぎる。無茶は無しにしてたもれ」
ここはシバレリアの森の中。
視線の先には魔王城の上端が見えてるであります。
因みに意外なことにはーちゃんは理性的。
……と言うか、
「あの魔王城はおかしい。わらわが治めていた時とは雰囲気が違いすぎる……」
「そんなに、あぶない、です?」
洒落にならない状況っぽいであります。
なんか、北のツンドラ地帯の筈なのに妙に熱いし……笑えない状況でありますね。
「うむ。と言うか三階の窓から謎の触手がウネウネしてるし変な鳴き声がするしな」
「それに……なんか、あつい、です。きょうは、いちどもどる。です」
そうでありますね。
一応コテージは用意してるでありますし、
多分後数日もたせればにいちゃが合流してくれるであります。
それまで無茶をさせるわけには。
「姉上?なんでこんなにあついのですか?」
「地軸がずれてここは現在赤道直下だからだ……まあ、言ってもわからんと思うが」
赤道直下?
ああ、お日様が南から昇って北に沈むって事は、一番熱い所がこの辺に変わって……え?
それって、拙くないでありますか?
「まあ、色々手を打っても後一週間か。それ以上修正にかかったらもう元には戻るまい」
「なんでそれをにいちゃに言わないで有りますか!?」
と言うか、アリサに連絡であります!
アリサーーーーーッ!
かくかくしかじかであります!
至急対処して欲しいでありますよ!?
「……それを喋れば父もこちらを先にするな……だが、慌てた父がろくな事をするとは思えん」
「あー、判るであります」
「わかる。です」
にいちゃはゆっくり考える事が出来れば結構強いでありますが、
突発事項には結構弱いでありますからね。
そう考えれば考える事を減らしてあげるのは皆の為でもありますか。
「まあ、元に戻らんでも季節がおかしくなる程度だ。世界そのものはまだ死にはせん」
「いやいやいやいや、です」
「生きてりゃいいってもんじゃないでありますよ?」
どんだけ悲惨な事になるかなんて蟻でも判るであります。
それに、季節がおかしくなる、だけで済むとはとても思えないでありますね。
はーちゃん、何か見落としてるでありますよ。例えば極地の氷とかを。
生き物だって、そこの環境って奴に適応した奴だけが生き残るでありますし……大絶滅時代?
あたしらはもう多少の変化は大丈夫でありますが普通の生き物はそうはいかないのであります。
「しかしそれ以外に何が出来る?選んだのは他ならぬ人間だ。もう状況はわらわの力を超えたぞ?」
「はーちゃん。諦めるなであります」
あーあ、すっかりすねちゃったであります。
しゃがみ込んで棒切れで地面にお絵かきとか……。
ともかくアリサにも連絡はしたし、今日は休むで有ります。
ゆっくり寝ればきっと良い案が……。
「では、せんこうていさつに行ってきますね」
「ち、ちょっとまつ、です!?」
「何言ってるでありますか!?」
と、思ったらぐーちゃんが針葉樹ばかりの森を歩いて行くであります。
あ、危ないでありますよ!?
……っ!?
あ、あそこにいるのは……!
「ぐーちゃん!飢えたグリズリーであります!」
「きのかげにいる、です!ゆっくりうしろに、さがるです!」
「わかりました」
判りましたじゃ無くて逃げるで……ああっ!
お腹空かせたでっかい熊がぐーちゃん目掛けて突っ込んできたであります!
あたし等が走っても間に合わないで……!
「えい」
『ふれいむタソ、頑張っちゃうわよーん?』
「グオアアアアアアアアッ!」
……あれ?
グリズリーは熊であります。
熊でありますが……今は肉であります。
腰の辺りからこう、まっぷたつ?
「先に行きますね」
「いや、ちょ!?待つであります」
「あうあうあう、です!?」
「ええーい!錯乱するな!ともかく追うぞ!?」
あー、何ていうか。
やっぱぐーちゃんも……にいちゃの子供なんでありますね……。
やっぱりあたし等以上の化け物であります。
ねえ、にいちゃ。
何ていうか、護衛要らなくない?であります。
と言うか炎の魔剣が喋ってる気がするのでありますが?
……まあいいであります。考えると負けな気がするでありますから。
……。
あれから多分30分ぐらい経過したであります。
ようやく魔王城の傍まで来たでありますが、これは凄いでありますね。
なんて言うか……天幕村というか。
要するに各国の軍隊とか勇者とかがキャンプ張りまくって偉い騒ぎ、
に、なってる筈なのでありますが。
「……静かでありますね」
「ごーすとたうん、です」
「灰はまだあたたかいです、きっと城内にせめこんでいるのでしょう」
「いや、それだとしても留守番も居ないのはおかしいぞグスタフ」
と言うか、人間の一歳児が灰に手を突っ込んで温かさを確かめてる時点で異様であります。
まあ、それは良いとして確かにおかしいでありますね。
勇者はともかく軍隊なら当然後方にある程度戦力を残す筈でありますが?
「子供かよ……まあいい。取りあえず生かしておく余裕は無いんだよな……」
「ふえ?にいちゃ?」
「!?……違うぞ!こ奴は……!」
その時、横の森の奥から誰か来たであります。
なんかにいちゃに良く似たおじさんが……。
「俺はゴウ。皇帝……勇者アクセリオンの親友にして五大勇者の一人……ダチの留守を守る者だ!」
「あなたが!?」
「ぐーちゃん、にげるです!」
いきなりボスとエンカウントであります!
さっさと逃げるが吉でありますよ?
「遅ぇよ……一応加減はしてやる。ただしここから先には来んなよ?」
「あ、きに、きりこみ、です」
「と言う事は……あ、これはマズイであります」
でも、おじちゃんの方が素早いでありました。
とん、と木を一本押したと思ったら、
切り込みの入っていた木がゴゴゴと音を立てて……。
倒れてきたでありまーーーーす!
それも何か連鎖するように何本も!?
「悪いが、こっちも余裕が無いんでな。生きてたらさっさと家に帰れよ?」
しかもおじさん帰っちゃったであります!
凄く酷いでありますよ!?
お子様に対する態度がそれでありますか!?
へぇみにずむ?が足りないであります!
「にゃああああああああっ!?ともかくいきなり大ピンチであります!」
「ゴウーーーーーっ!?いきなりこれかーーーーーっ!?」
「うわあ。すごいはくりょくですね」
「そういう、もんだい、です?」
十本近い大木に押しつぶされて、あたしらは……。
「ふう。びっくらした、です」
「いきなりでありましたよね」
「ええい!こんなものでわらわがどうにかなるとでも思ったか!?」
「姉上。頭にこぶが」
……別に平気でありました。
はーちゃん以外は回避に成功。
はーちゃん自身も自分で巨木の下から這い出して来て、今も荒ぶってるであります。
まあ、雑な攻撃でもありましたし、
そもそも避ける必要があるほど柔な生き物はここに居ない気もするで有ります。
……因みに。
近くで倒れてる同じ攻撃を受けたと思われる何処かの兵隊さん達は、
下敷きになって死んでるで有りますが。
運が悪いでありますね。なむなむ。
「ところで。姉上達?あれはなんでしょうか」
「どうしたグスタフ……何ぞあれーーーーッ!?」
……と、言ってる暇も無いであります。
何か何時の間にか、変な生き物に囲まれてるでありますね。
どんなのかと言うと……手足の配置がおかしい謎生物、でありますか。
「なんだこれは……」
「はーちゃん。多分例の部屋で作られた奴であります」
「しかしこれは、明らかにおかしいぞ?こんな生き物が作れるようには出来ておらぬ筈」
「しかし居るものはしかたありませんよ」
「そんなふうに、あっさりいいながら、せんめつするぐーちゃん。さすが、です」
ざくざくざくーーっ、て感じで謎生物は切り刻まれているであります。
しかし、本当に何なのでありますかね?
人間クラスの腕力はあるようでありますし、何と脚力は虎ぐらいでありますか。
頭頂部から生えた尻尾がまるで触手か蛇のようにのたうってるでありますよ?
でも普通の生き物の頭は背骨の半ばから生えたりはしないでありますし、
太ももから腕が生えたりもしないでありますね。
あたしらだって二対目の腕くらいはあるでありますが肋骨に擬態させるぐらいはしてるであります。
でも、それだって昆虫の体としては当たり前の構造で。
ここまでおかしいと突然変異とか放射線の浴び過ぎとかしかありえないであります。
「グゲエエエエエッ!」
おお、吼えてる吼えてる。
……やっぱりおじちゃんが放したのでありますよね、これ。
「ところで、これ、名前はなんと言うのですか?」
「さあ……しらない、です」
「判る訳も無かろう、と言うか名があるのか?」
ぐーちゃんが指差してるでありますが確かに名前が無いと不便でありますね。
……よし、いい事考えたです!
「命名、げろしゃぶ、であります」
「みーとすぱいだー。いったく、です」
「ふっ、甘いな。わらわが名付けてやろう。その名も」
「取りあえずあのアンノウンは全部斬りますね」
ざくざくざく、アンノウンは次々になますにされて行くであります。
ぐーちゃん、すごいであります。
ただ、あんまり美味しそうじゃないでありますね。
……て言うか、いつの間にか名前がアンノウンで決定されてる気がするであります。
ま、いいか。
「えーと。わらわの命名した名を聞いて……たもれ?」
「姉上、いきますよ?」
「ぐーちゃん、まつ、です!」
「近くで死んでる人たちの鎧剥ぎ取るまで待つであります!」
因みによく見ると近くには各国の兵隊さん達がこれでもかといわんばかりに死んでるであります。
装備品は結構値の張る物も多いでありますから後で売るでありますよ。
アンノウンは手先が器用だったみたいで普通に人間用武器が使えたようで、
自分の武器を奪われて殺されてたり、虎の脚力でやられたりしているであります。
中々手ごわいと思うでありますよ。多分一般リザードマンよりかは強いかも知れないであります。
まあ、今回は色々と相手が悪かったで有りますが。
「炎の魔剣よ。残らず焼き尽くしてください」
『はいはーい、ふれいむタソがんばちゃうわよーん!?』
ぐーちゃんが叫ぶと魔剣の刀身がにょろにょろと伸びてしゅるしゅるーって敵を絡め取って、
更に燃え盛る刀身で焼き尽くしていくであります。
流石はにいちゃの造った魔剣。法外にも程があるでありますね。
ん?はーちゃんがあたし等の袖をくいくいと引っ張ってるでありますよ?
「……クイーンの分身どもよ、少し聞いてたもれ?」
「どうしたであります?」
「グスタフの戦闘能力が明らかにわらわを上回ってる点についてだが」
「まあ、しかたない、です」
「相手は竜としての魔力を全部身体強化にふりきってるであります。強くて当然であります」
あ、今度は魔王城の城門の前に立ったであります。
鍵がかかってるようであります。当然でありますね。
他の軍隊さんたちは二階の窓をぶち破って侵入してるようであります。
鍵かけても梯子の前には無力でありますね……。
「発射します」
「グボァァァアアアアアッ!魔王城の城門があああああああっ!?」
「なんという、むはんどうほう、です」
ところがどっこいせ。
ぐーちゃんにはアレがある。
にいちゃが名前に因んで作らせた無反動砲カールグスタフ(多分レプリカ)なのであります。
これでぶっ飛ばせば鍵も何もあったものでは無いのであります。
と言う訳で正面からごめんくださいなのであります。
ともかくようやく出番が有って良かったで有りますね。
まあふれいむタソで十分ぶっ壊せた気もするで有りますが。
あ、それとはーちゃん。
「泣いちゃ駄目でありますよ」
「これに泣かんで何に泣けと!?」
取りあえず、肩に手をポンと置くです。
むがぁと吼えられたけど目の幅の涙流しながらだから全然迫力無いであります。
「姉上達。先に行きますよ?」
「はいはい、です」
「ぐーちゃんは結構無鉄砲でありますか?」
まだ進む気でありますかこの子は。
まあ、それに付き合ってるあたし等も大概でありますが。
「しかし、敵は雑魚ばかりではありませんか」
「そうおもうの、ぐーちゃんだけ、です」
「そこいらに死体がゴロゴロしてるのにどうして平気なのでありますか……?」
「明らかに魔物としての格は中級上位クラスだぞ……それが雑魚ってグスタフよ……」
正直あたしらとしてはこの辺で退却したいでありますが……。
「帰るであります……!」
「あぶないから、かえるです!」
「グスタフよ。父達が合流するまで待ってたもれ!?」
「しかし、世界のききなのですよ?」
あたしら全員で引っ張っても無駄でありますからねぇ。
もう、諦めて付いてく他無いであります。
トホホであります。
こうなれば、ぐーちゃんのお弁当に眠り薬を仕込むのであります。
ふっふっふであります。
もう少ししたら休憩を取るように言うであります。
そこでこのお弁当を食べたら流石にぐーちゃんもグースカピーでありますよ?
そうなったらさっさと連れて帰るであります。
「姉上。別なてきです」
「はいはい、です……ウガアアアアアッ!?」
「アリシア?」
突然アリシアが吼えて……。
あ、アリクイ。
「死に晒すでありまあああぁぁぁっす!」
「ありくいは、ほろぶべき、です!」
抉りこむようにして、突くべし!突くべし!
蟻を食う生き物なぞ世界から消え去ってしまえで有ります!
汚物は消毒でありまーーーーーーす!
「すこーーーっぷ!すこーーーっぷ!すこおおおおおおーーーーっぷ!」
「どくないふ!どくないふ!ふぐ!とりかぶとおおおおおおっ!です!」
「お前らまで暴走してどうする!?わらわを一人にしないでたもれぇぇぇっ!」
はーちゃんがよく判らない事を言ってるで有ります。
あたし等は直ぐそこに居るでありますが。
ま、それはさておき……。
槍をぶっ刺せ!
首をねじ切れ!
種を脅かす怨敵に裁きをっ!
『あの忌々しい舌を引き抜いてやるでありまーーーす!』
『あたしらの、こありたち……かたきはとる、です!』
「ええい!正気なのはわらわのみか?!泣いて良いか!?」
「姉上。とりあえずそっちに三匹行ったので宜しくお願いしますね」
あ、ホントだ。
アリクイが二匹とアンノウンが一匹はーちゃんの方へ行ったで有ります。
「なんだと!?ええい!こ奴らめ!根切りにしてくれるわぁっ!」
「姉上、そのいきです」
スコップが血飛沫をあげ、
毒ナイフがアリクイどもにめり込んでいくのは気分がすっとするで有ります。
ぐーちゃんが魔剣を振るうたびに火柱が周囲を覆い、
はーちゃんはネギ斧をぶん回しつつ魔力弾頭(マジックミサイル)を周囲にバラ撒く。
んー。強いで有りますね。さすがはあたしら。
「むう、助かったぞ童たち」
「……誰でありますか?」
ん?なんでありますか見知らぬおじちゃん。
良く判んないけどお礼でありますか?
何かボロボロでありますよ。もしかして負けてたでありますかね。
なんかサムライっぽいでありますが。
「わしらは東の国より参った。童たちは何者だ?その強さ、只者ではあるまい」
「えーと、あたしらは……」
「ぼくはリンカーネイトの王子グスタフです。こちらは姉上達です」
それを聞くと見知らぬおじちゃんはむう、と唸ったで有ります。
「……件の檄文にて悪党とされて居た国か……」
「濡れ衣であります(半分は)」
「せめてきたのは、ていこくのほう、です(まおうふっかつは、ほんとですが)」
どうやらシバレリアの檄文は普通に遠くの国まで行っていたようであります。
まだカルーマ商会の商圏に入ってない国でありましたので、
取りあえず全力で否定するのでありますよ。
「まあ、そうであろう。それに本当の魔王なら檄文の前に悪名が届く筈だしな」
「……父の評判は良いのか。驚きだ」
「ああ。わしらの周囲でも評判は良い。民を幸福にする良い君主だとな」
「暇さえあればわらわのほっぺたをフニフニ引っ張るような男が名君、のう……」
はーちゃん。悪評が大きくないなら十分に名君なのでありますよ。
第一、マスメディアを完全に握っていれば、どんな阿呆でも評判が悪くなりようは無いであります。
自前での情報網を持たない人間なら尚の事であります。
あ、因みににいちゃの政策は、福祉寄りに傾き過ぎではありますが悪くは無いでありますよ?
住んでる人々の生活が良くなっている以上、成果は上がってるって事でありますから。
国民が幸せになるなら別に王様は悪党でも良いので有ります。
自分の生活が良ければ、上の馬鹿な行動も多少は笑い飛ばせるってもんでありますし。
後、ほっぺぷにぷには愛情表現であり別にはーちゃんを虐めてる訳では無いであります。
「まあ、何はともあれ助かったぞ……わし等は一度天幕に戻って体制を整える」
「ぼくらはもう少しさきに行きます」
ぐーちゃん。
……一体何を口走ってるでありますか。
「えええええっ!?流石に帰るぞグスタフよ!」
「そうです!」
「流石に無茶であります!」
そろそろ気付いていい頃でありますよね?
魔王城の中は死んだ兵隊さんで一杯なのであります。
それなのにアンノウンとかの死体は凄く少ない。
これが何を意味しているとかと言うと……敵が強いって事であります。
それなのに無茶を言うであります。
まあ、子供だから仕方ないのでありますが、余裕のある内に帰るのが正しいのでありますよ?
「でも、敵、弱くないですか?」
「無い無い。実力はそこそこあるし数が異常だ。流石に体力が持たぬわ」
「え?姉上はこの程度でお疲れですか?」
「やかましい!お前が異常なだけだ。それを理解してたもれ?」
……余談でありますが、魔王城突入からあたし等は三回ほど交代してるであります。
そして、あたし等だってけして弱くない。
魔法覚える前のにいちゃくらいの戦力はあるでありますね。
要するに、やはり敵は強いのでありますよ。
流石のはーちゃんも疲労の色が濃くなってるであります。
いままでだってぐーちゃんが先頭に立って戦ってくれたから進んでこれたようなもので……あれ?
もしかして、ぐーちゃん。めっちゃ強い?
「流石だな……勇者よ」
「え?誰がです?」
「お主だ、グスタフ王子。彼のマナリアの勇者の孫なのだろう?」
「あ、ルンねえちゃはマナおばちゃんの娘だから、その子だったら勇者の孫でありますね」
「なるほど、です」
「……」
でもそれ、違うであります。
あ、でも傭兵王のおじちゃんの孫でありますから、ぐーちゃんも一応勇者の孫ではありますが、
そっちは血がつながって無いし、
第一ルンねえちゃが生んだのは他ならぬはーちゃん……魔王本人でありますよ?
……そう言えばにいちゃ自身が勇者の息子でありました。
なら、どっちでも構わないでありますか。
あれ?でもこの城の現在のボスはそのにいちゃの父親自身のような?
あー、人間関係が複雑で判り辛いであります。
「無理はしない事だ。世界中から集った精兵達はほぼ全滅だろう……童達が人類最後の希望だ」
「はい。世界を救うためがんばります!」
「なんか、かってにきぼうにされた、です」
「おじちゃん、真っ昼間から酔ってるで有りますよ……自分の言葉に」
「これだから人間は始末に負えんのだ……」
なんか、ぐーちゃんと見知らぬおじちゃんが意気投合してるでありますが、
あたし等は付いて行けないであります。
世界は頼まれなくても救うでありますが、
そもそもあたし等の中に純粋な人類は居ない気がするで有りますよ。
それなのに人類最後の希望とか、思わずクスクスと噴出しそうであります。
ま、いっか。
「頼むぞ童……魔王を倒し世界を救ってくれ……」
「えーと。世界はすくいますが魔王をたおすのは無理です」
その言葉に異国のおじちゃんはニッと笑って言ったであります。
「そうか。ならばわしらが手を貸そう。わしは新。魔王と戦う時は呼んでくれぃ」
「はあ。では呼ぶことはなさそうですね。ともかくはやくお逃げください」
そうしてあたらしと言う名前のおじちゃん達は一時撤退して行ったであります。
……魔王倒しても世界は救われないのでありますが、
まあにいちゃの言葉を借りればそれこそ知らぬがフラワーって奴でありますね。
そして部外者が居なくなったのを見計らってはーちゃんが呟いたであります。
「時に……魔王はここに居る訳だが」
「べつに、はーちゃんってだけのいみじゃない、です」
「そうでありますね。あくまで人類の敵と言う意味で魔王でありますから」
要するに倒せればいいのであります。
考えるのが面倒だから誰か責任を被せる相手が必要って、良くある話でありますよ?
「……ともかく、最上階に行くで有ります」
「このさい、かくにんさいゆうせん、です」
「そうですね。この魔物たちが世界中に拡散したら大変です」
そうでありますね。見たこと無いような魔物が何種類も居るで有ります。
不気味な姿のアンノウンとか、何か合成生物っぽいこの世界には居ない筈のケンタウロスとか、
後にいちゃの記憶にあったキマイラとか言うのとか。
後は憎っくきアリクイとかアリクイとかアリクイとか。
ともかく生かしては置けないであります。
どうせぐーちゃんが引かないなら、
この際徹底的に調べるのも悪く無いと思うようになったでありますしね。
「ふむ。グスタフよ……一応聞く。引く気は無いのだな?」
「ありません」
はーちゃんがぐーちゃんに対し重々しそうに声をかけてるであります。
あ、多分あれだから先に開けておくでありますかね。
「ならば良い。付いてきてたもれ?」
「あ、そこ……かくしつうろ、です」
ふふふ、はーちゃんがガガーンって顔してるであります。
でも、あたし等が何者か忘れてるでありますか?
隠し事は難しいのでありますよ。
「……わらわの見せ場……」
「さ、ぐーちゃん。行くでありますよ」
「あたしらも、かくご……きめるです」
「はい、姉上達。まいりましょう!」
暗雲背負ったはーちゃんの襟首を引きずりながら、あたしらは秘密の通路を行くのであります。
魔王城に元々あった隠し通路。
あたし等は当然見つけていたのでありますね。
……まあ古い建物でほこりも被ってるで有りますし、
人間大のあたし等が使った以上、痕跡は残る。
これが最初で最後の使用になるであります。
……そうだ。一応はーちゃんのフォローもしておくでありますか。
「はーちゃん。ちなみにこれ、何処に通じてるであります?」
「……むむっ!わらわが出番か!?うむ!これは最上階まで通じておる。封印区画もすぐそこだ!」
「はい、ありがとう、です」
フォロー完了。
そして、秘密の出入り口をあけるとそこは……。
……敵いっぱい。
「みぎゃああああああっ!?これは何でありますか!?」
「いっぱいいすぎて、ゆか、みえないです!?」
「ええい!これだけの魔法生物の群れを作り続ければ、そりゃあ世界の寿命も縮むわ!」
「取りあえず、はいじょしますね」
あたし等がびっくらしている暇も無く、
ぐーちゃんが当たり前のように殲滅していくであります。
……もしかして、身体能力だけなら既ににいちゃを超えているかも。
ブンブンとちっちゃな体で剣を振り回すたびに、敵の死体を量産してるでありますよ……。
まあ、強い事は良い事であります。多分。
ともかくそうして今や出入り口となった壁の穴を通って封印区画に向かうあたし等であります。
……やっぱり死体を量産しながら。
「よし!ここから先はわらわに任せよ……暗号を入れて緊急停止だ」
「だいじょうぶ、ですか?」
「ふっ。任せよ……わらわの持つ管理者権限が一番高位だ。機構に否は無い」
「で、どうするです?」
部屋を埋め尽くしていた謎生物達を窓から放り出しつつアリシアが聞いたであります。
あたしもスコップで死体処理をしながら聞いていたであります。
……ついでにゴミ掃除もしながら。
そしたら、はーちゃんは自信満々に言ったのであります。
「まずは赤いレバーを倒す……あれ?」
「ゆかにおちてた、です」
ボッキリ折れてるレバーをショートした機械の傍から拾い上げながら言うと、
はーちゃんの顔色が悪くなったであります。
「……な、ならばコンソールを……」
「指差したものは大穴があいていますが?」
えっと。段々自信が無さそうな声色になって来たでありますよ?
はーちゃん。大丈夫でありますか?
「り、リセットボタンだ!そこの緑のボタンを」
「けん、つきささってる……です」
あ、顔色が白を通り越して土気色になってきたであります!?
「ええい!面倒だが仕方ない!機構本体を直接操作する!まず保護カバーを開け」
「姉上。既にそれらしき物は吹き飛んでいる上に、本体とやらにはハンマーが……」
確かにボッコボコであります。
……これは、もしかして。
「誰だぶっ壊したのはーーーーっ!ただ暴走してるだけでは無いかーーーーーッ!?」
「やっぱりーーーっ!です」
「道理でショートしてると思ったでありまーーーーす!」
あはははは、であります。
たしかにこれなら管理者権限も何も有ったものでは無いでありますね。
ただ、一時期のテレビじゃないんで有りますから叩けば治るってレベルじゃないでありますよ?
まあこの世界に未だテレビは無いのでありますが!
その時、今度はべちゃ……って音が聞こえたであります。
……今の音、何でありますかね?
「姉上。へんなドロドロが……」
「な、何だこ奴は!?」
「すらいむ、です!?」
「この世界にいたでありますか?いや、出来たばかりかも知れないでありますが!」
流石にぐーちゃんと言えど全身を完全に液体に包まれては動けない様子であります。
じたばたしても、ドロドロに包み込まれるばかりでありますよ?
「むむ。しかし慌てず騒がず……頼みますふれい、むぐっ!?」
「ああっ!?グスタフ、口を塞がれたぞ!?」
「鼻は残している辺り器用であります!」
「でも、たいへん、です!」
しかも、発声を封じられて魔剣が反応しないであります!
無反動砲?弾切れでありますよ!
ど、どうしようであります!?
「ふう、まさかこんなチビ助が一番警戒しないといけない相手とはな……」
「あ、ゴウおじちゃん」
……これはちょっとヤバスかも知れないで有りますね。
完全に敵の術中に嵌ったっぽいであります。
ゴウのおじちゃんが柱の影からひょっこり出て来たでありますよ……。
「さて、どこの連中か知らんが子供だろうが危険な奴は放っておけねぇ……大人しくしな」
「あうあうあうあうあーーーーっであります!」
「いや待てゴウ!こ奴は……」
むぎゅ!?一斉に猿ぐつわ!
更に縄で縛られたであります!きつ過ぎてあたし等でも脱出不能……。
一体誰がって……アンノウン!?もしかして勇者の制御下に居るで有りますか?
「へっ、厄介な魔法も口を封じれば何も出来ないよな?」
「むがむごむがーーーっ!?」
あわわわわわっ!どうしようであります!
最悪でも孫だって言えばどうにかなると踏んでたでありますがそれも出来なくなったであります!
他のあたし……無理!ぐーちゃんはーちゃん無しでここまで辿り着けない、
と言うか二人が居ないとアリクイが怖いであります!
ひゃああっ!?耳、耳に舌を入れるなでありますこのアリクイめ!
「へっ。何か知らんがコイツ等俺を親か何かだと勘違いしてるようでな。何でも言う事を聞くのさ」
ああ、刷り込みでありますか。
生まれたばかりだと雛鳥みたいなものでありますからね……。
しかしどうしようであります。
このままだとはーちゃん達諸共……。
あれ?
あたし等殺さないで……何処に行くでありますか?
「……ギルティ。もう少しだけ待てよ、必ず助けてやるからな」
「……」
あ、あれは魔王軍最終兵器にしてにいちゃのおかーさんのプロトタイプ!
もしかして、と言うか確実にあの人を目覚めさせる気なのでありますね!?
やっぱ止めるべきでありますか。
「ふう、ここまで侵入者が出るって事は時間が無いな。急ぐか……さて、何処を弄ればいいんだ?」
「ふがああああっ!?むごおおおおっ!?」
勇者のおじちゃんが機械をゴンゴンぶっ叩いてるで有ります。
うわっ、外装はもうボコボコでありますね。
それを見てはーちゃんが一際大きく暴れてるであります。
「大人しくしてれば殺したりはしない。人質にする気だからな」
「ふごおおおおおおっ!?」
いやいやいやいや、
はーちゃん達はむしろおじちゃんにとって人質になる代物でありますよ?
まあ、それはともかく、アレだと壊れる一方だと思うでありますが。
……きっと叩いたらアンノウン達が出て来たからそれが正しい使用法だと思ってるであります。
と、ともかくアリサであります。
アリサに情報を送り続ける事だけが今のあたしに出来る事でありますよ!
……にいちゃ、早く来るであります。
何か、機械のショート具合がやばいレベルに達してきたでありますから……!
***最終決戦第六章 北へ***
続く