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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 71 ある皇帝の不本意な最期
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/13 23:07
幻想立志転生伝

71

***最終決戦第三章 ある皇帝の不本意な最期***

~策と謀、力と力~


≪side カルマ≫

決戦が始まった。

アクセリオンと兄貴が左右から切りかかってくる。

クロスは少し離れて両手にメイスを持ち、

傭兵王は魔槍を腰に下げクロスボウでこちらを狙っている。

マナさん……だった使徒兵は後方に下がっていた。

前衛中衛が二人づつの後衛一人、これが勇者の必勝隊列と言う訳か?


「感謝するぞカルマよ。私の最後の戦いで見事な華を持たせてくれるとは!」

「勝手に決めるな!そっちの最後の戦いってのは同意するがな!」


ファイブレスの膝に飛び乗り、前腕を経由して肩口にまで登ってきたアクセリオン。

お互いの剣が鍔迫り合いを起こし、共鳴するような甲高い音を立てる。

……兄貴の方はファイブレスと足元でやりあっている。

あの長々剣を振り回しながら動き回る兄貴をファイブレスが捉えられるかが勝負だろう。


クロスがマナさんに何か指示を出している?

詠唱が始まった……何を唱えるつもりだ。

いや、それ以前に死んでいるマナさんは魔力が回復しない筈だが……大丈夫なのか?

そもそもあれは本当に魔法の詠唱?

使徒兵が魔法を使えるなんて話は聞いた事も……。

いや、普通の使徒兵の場合、細かい指示を術者が出さねばならない。

常に術者が指示を出さねばならないと言う事は逆に言えば指示された簡単な事は出来るかも。

いや、まさか……。


「余所見をしている暇があるのか!?私も舐められたものだ!」

「ちっ!これが目的かあの野郎!」


良く見ると無意味に口パクしてるだけだ。

畜生、してやられた……!


時折ファイブレスが腕を振るって援護してくれるが、

向こうもちょこまか動く兄貴の相手でかなり大変そうだ。

あまり頼り過ぎるになる訳にも行くまい……。


「はああああああっ!」

「ちいいっ!」


アクセリオンの攻撃を何とか弾く。

既に五十歳を超えている筈なのに、その動きは俊敏そのもの。

パワーこそこちらが遥かに上回っているが、

俺は明らかに敵の動きに翻弄されている……。


……チラリと敵本陣の方を見る。

大丈夫だ、進軍自体はゆっくりとしたもの。

兄貴の率いていた二万の兵も本隊に合流したようだ。

騎馬隊を蹴散らしている以上、こちら側の陣に敵が到達するまでまだ時間は有るな。


「また余所見か!」

「しまっ……!」


隙を突かれて小手を受け、俺は魔剣を弾き飛ばされた!

無手になった俺に、アクセリオンが迫る……!


『コラーッ!何やっとるんじゃお前等ーッ……召雷!(サンダーボルト)』

「ぐうっ!?」


弾かれた手を掴み、咄嗟に召雷を詠唱。

今度はアクセリオンが感電して体制を崩す。

追撃を取るか魔剣を回収するか……俺は回収を優先した。

火竜の背中を滑り落ちようとしている魔剣を手を伸ばして掴み上げると両手で正眼に構える。

アクセリオンもその時には既に体勢を立て直していた。

しかし、足場はファイブレス……つまりこちらの援護に回ってくれているのにも拘らず、

一進一退が精一杯かよ……情け無いな。

だが、あるもので戦うしかない、無いものねだりはしない!


「おおおおおおおおっ!」

「ぐううううううっ!?」


ならば勝っているもので勝負するしか無いだろう。

そう、すなわち腕力で押し切る……!


「ぐぎぎぎぎぎぎぎぃっ!」

「ぬ、ぬううううううっ!」


相手に上段から打ち込んだ面を剣で受け止められるままに、そのまま力をかけて押しまくる!

じりじりとアクセリオンの体制が後ろに崩れ、崩れ……。

……自分から倒れた!?


「甘いぞ!そのまま下まで落ちていくがいい!」

「巴投げ!?」


こちらの腕力を逆用されて投げ飛ばされる。

ファイブレスの背中を滑って落ちていく、落ちていく、おちて……

落ちていくが落ち切る直前に突然竜の尻尾が跳ね上がり、俺は跳ね飛ばされる。

そして、元の位置に着地した。


「ふう、危ないな……」

「……流石にこの場所では不利か」


流石に此方の土俵で何時までも戦ってはくれないか。

アクセリオンがファイブレスから飛び降りたので俺達はバックジャンプで距離を取る。

そうして、お互いに距離を取ったまま暫し睨み合う事に。


「思い出すな……魔王と戦った青春のあの日々を……」

「そうですね。わたくし達の一番輝いていた頃でした」

「ククク、今となっちゃあ過去の栄光以外の何物でもないがな!」

「ヲヲ……ヲヲヲヲ……」

「俺は代理だから関係ねぇが……浸ってる場合じゃねぇだろあんた等」


『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』


ある程度距離を置いた状態での対峙が続く。風は軽く頬を撫で、

空には一羽のコケトリスの姿。太陽光を一瞬遮る。

その光景にどうやら思う所があったのか勇者達は何やら浸り始めた。


なので並んで思い出に浸った瞬間を見逃さずに速攻開始。

爆炎をぶっ放した後ノシノシと前進し竜の足裏で蹂躙してみる。


……踏みつけた跡からうつ伏せで唸るマナさんを見つけた。

兄貴は少し離れた場所でニヤニヤしている。

更にアクセリオンがのそりと起き上がりゲホゲホとむせていた。

そして、


「貴方には人の心が無いのですか!?」

「アレだけ隙だらけなら攻撃するだろ。普通に考える頭のある人間だったら」


俺は猛抗議するクロスに醒めた視線と反論を贈っていた。

因みにもう一言言わせて貰うとしたら、

わざわざニセ詠唱でこっちの隙を作って攻撃してきたあんた等にだけは言われたく無い、である。


「ともかく仕切りなおしだ……!」

「良かろう、私が年季の差を教えてやるぞ……」


……と、ここまで言って気が付いた。

アクセリオンを竜の背中から降ろすんじゃなかった、と。

輝く剣がファイブレスの弁慶を切り裂き、

鱗が割れて地に落ちると共に、

竜の叫びが周囲に響く。


『ぎゃあああああああっ!』

「そう言えばコイツと俺のとは兄弟剣……相性が悪過ぎる!」


俺がファイブレスを倒した時の事を思い出す。

……それまで一方的な勝負だったにも拘らず、魔剣が一度突き刺さった途端に形勢は逆転した。

そう。俺のスティールソードはマナリアの剣だが、元になった剣が存在する。

魔王城より母さんの手により持ち出され、

現在はアクセリオンの手にある吸命剣ヴァンパイアーズエッジ。

あれこそが我が魔剣のオリジナル。

スティールソード程の凶悪な吸収力は持たないが切れ味鋭く持ち手を冒す事も無い優秀な武器だ。

幸い刺されただけで動けなくなる程衰弱する、と言うような事は無いようだが、

それでも傷口からは魔力が消耗していく。

……ヤバイ、考えれば考えるほど俺達とは相性が悪いじゃないかこれ!?


「ふふふ、30年間私と共に歩んできた愛剣だ。中々のものだろう?」

「さあ、竜は苦しんでいますよ。わたくし達も参りましょう!」


クロスも愛用のメイスでこっちの足元を叩きまくるがそちらからはダメージが無いようだ。

傷を負った脛を軽く庇うように後ろに下げながら、ファイブレスは爪を振るう。

俺自身も援護の為に地面に降り立ち魔剣を構えた。


……しかし、多分硬化も貫通してくるよなあの剣。

まともに食らったら魔力を奪われ後はジリ貧か……注意しておかねば。


「応!じゃあまず俺から行くぞ……必殺、アッパースウィング!」

「あの、それは……ただ剣を振り上げてるだけじゃないのですか!?」


「そう見えるよな!?確かにそうなんだけどよ!」


そう、それは技としてみれば唯の鋭い切り上げに過ぎない。

傍から見ていれば技とも言えないそれは……力量の高い戦士が使うと途端に凶悪なその本性を現す。

はっきり言えば威力と速度が桁違いなのだ。

しかも、微妙に避け辛い角度がいやらしい!


長々剣の切っ先は視認出来る速度を遥かに越え、

辛うじて回避した俺、どころか背後のファイブレスの鼻先までかすっていく。

……判りきっていた事だがこの攻撃も硬化を貫いてくるな。

兄貴の攻撃回避には優先順位二番を付けておこう。


「隙ありです!」

「そりゃ、こっちもだぜ!」


続いて兄貴の攻撃を回避した瞬間を狙って、

クロスが背後に回りこみ隠し持っていた吹き矢を放つ。

同時に前方より傭兵王がクロスボウから矢を放った!


「が、効きはしない。判ってるよな」

「…………ええ。今のは念のため、効くかどうかの確認ですよ」

「ククク、間がでかいなクロスよお」


幸いこれは此方の装甲を抜くほどではなかったようだ。

吹き矢は地面に落ち、クロスボウは額に衝撃を残して後方に弾かれていった。


「ヲヲヲヲヲ……」

「マナさん……」


マナさんは魔法を扱えなくなったので肉弾戦、というには余りに粗末な攻撃を仕掛けてきた。

所詮魔法使いなのである。しかも、生前の動きを忘れたのか、

余りにも普通のゾンビ的な動きでゆっくりとこちらに向かってくる。

そして手が届きそうな位置に来てクワッ、と目と口を開いた。

うん。どうやら両腕で押さえ込んで噛み付く気らしい。

本当にゾンビになっちまったよ……ルンには何て言えばいいんだ……。


ともかく、近くに転がっていた誰かが落としたらしい棒を拾うと、それで相手の額を押さえる。

するとマナさんはそれ以上此方に来る事も出来ずうーうーと唸るだけだった。

……少しでも避けるか引くかすれば簡単に外れるのだが……やはり知性はまるで残っていない。

ある意味あの人らしいと思ってしまった俺は罰当たりだろうか?


「クロス、この状態のマナさんがなんの役に立つ!?いい加減楽にしてやれよ!」

「いえいえ、重要な戦力であると今実感した所ですからそれは出来かねます」


何が?と思う間も無くクロスは少し距離を取るとパチリと指を鳴らした。


「さあ、マナさん……本気で攻撃をしてくださいね!」

「ヲヲヲ……!」


ふっ、と杖の先の顔がぶれたと思うと、

次の瞬間には額に棒の後を付けたままのマナさんが俺に抱き付ける程の距離まで近づいていた!

あの鈍い動きは嘘八百、此方を油断させる策と言う事か。

そしてそのまま俺の首筋に向かって犬歯を突き立て……。


「うおっと!?」


今度は俺が巴投げをする番だ。

マナさんの体は地を滑りながら少し先で止まった。

立ち上がると全身擦り傷だらけ。

だが、意にも介さずこちらに向かってくる。

……斬るか?斬るしかないのか!?


「くっ……覚悟を、覚悟を決めた筈だろ、俺!」

「そう簡単に割り切れる物では有りませんよ。だからこそ……付け入る事も出来るのですがね!」


兄貴と傭兵王、それにクロスがダッシュで俺にしがみ付いてくる。

無論此方もただではやられないさ。

兄貴の鼻の頭に肘を叩きつけのけぞらせ、

傭兵王の顔面には裏拳で型を付ける。


だがこれで両腕を使ってしまった。

その隙に大司教は俺に辿り着き羽交い絞めにしようとする……が、


「クロス……お前じゃあ足りないな!」

「うわっ!?」


腕力差を舐めるなよ!?

圧倒的に不利な体制をパワーだけでねじ伏せ体制を整える。

そして体を強く振るってしがみ付いてきたクロスを振り払った。

……が、罠はここからだ。


「ヲヲヲヲヲッ!」

「ぐっ!?」


マナさんは恐らく肉体的なリミッターを外しているのだろう。

華奢な体形に似合わない腕力で俺に抱きつき、犬歯を露にする。

思わず振りほどこうと突き飛ばす……と、ここまではいい。

だが、絶対に次がある!


「行くぞおおおおおおっ!」

「やはり来たかアクセリオン!」


突き飛ばされるまま地面を転がるマナさんの背後から、

突きの体勢で突撃してくる勇者アクセリオン!

両腕が伸びきって無防備な俺はその一撃を腹にまともに受けてしまった!


「ぐ、ううううううっ!?」

「さあ、皆さん今です!」


力が、抜ける!

幸い致命的と言うほどではないが、確実に魔力を何%か削られているぞ!


「カルマーーーーっ!さあ、これをどうやって凌ぐ!?」

「これで勝っちまったら……まあ、それはそれで良いのか?」


更に駄目押しとばかり兄貴の剣が振り下ろされ、傭兵王は自慢の魔槍を手に突っ込んでくる!

……腹の傷からはじわじわと魔力が流れ出し、未だ此方の戦力を削っている。

ならば。


「甘いんだよ!」

「ゴフッ!?」

「うおっ!?危ねぇ!」


食らっちまった一撃はともかく次の攻撃は凌ぎ切るべきだろ常識的に!

……力任せに振るった魔剣は未だ光の刃を纏わず……だが、鈍器としてなら意味がある。

兄貴は横っ飛びで回避したが、傭兵王の頭に直撃させて吹っ飛ばす事に成功した!

どうだ!?やられっぱなしじゃ終わらないぞ!


「お見事ですねカルマさん?しかし相手がビリーでは倒しても無意味と言うものですよ」

「だろうな!どうせ生き返るんだろ!?不死身なんだし!」


だが、ここまでこっちが深手を負ってたら、流石のあんた等も気が緩むみたいだな?

こちらにはもう一人友軍が居るんだぞ!


「ファイブレス!」

『我が……紅蓮の炎を食らえっ!』


俺すらも巻き込む広範囲火炎放射。

元から吹っ飛ばされたままのマナさんはともかく、

それ以外全員がその炎の中に飲み込まれていく!


「カルマ!?貴公、自分ごと……?」

「飲み込まれろ!伝説の最後には相応しいだろうが!」

「応……マジかよ……くっ!」

「は、は、はははははは!悪らしい選択です!これで私達の正義は証明……され……」


……。


『痛みは失われ再生の時を迎えん事を祈る。砕けた肉体よ再び元へ。発動せよ治癒の力』


紅蓮の炎に周囲が覆われ、そして焼け野原が残る。

俺はその焼け野原の上、ファイブレス頭上で自らに治癒を施していた。

ま、残念ながら俺にはどうにかする術があったって事だな。


足元には焼け残った傭兵王の足とブーツ。

そして、少し先に倒れたまま不自然な体勢で固まっているマナさんが放置されていた。

兄貴は焦げて煙を上げながら、時折ピクピク痙攣している。

暫くすればまた復活するだろう……今回は敵なので治療はしてやらないのだ。


「ま、なんだな……予想とは違うがこれで、決着なのか?」


全身火傷でボロボロだが、予想していた被害からすれば微々たる物だ。

後は俺をスルーして南の陣地に攻撃を加えようと行進中のシバレリア兵に、

皇帝以下幹部達の死を知らしめてやればいい。それで大半の面倒ごとは方が付く。


……んだったら楽だったんだけどなぁ。


「まさか、アレで終わる訳が無いではないか?」

「……どうやって、とは聞かないぞアクセリオン」


アクセリオンは片手の人差し指と薬指を立てそれ以外の指を曲げてみせた。

そうだ。加速だ。

加速術で炎から逃れたのだろう。

クロスの姿は無い。

逃げ遅れた?とは考えない方が良いだろう。

ここであいつを逃がしたのは惜しいが、

此方にも余り余裕は無いし、まずはこの皇帝を何とかしないとな。


「期せずして一騎打ち状態だなアクセリオン……」

「成る程な。騎乗する物と騎乗者で"一騎"か。まあ、仕方ないだろう……」


アクセリオンは僅かに焦げた髭を撫でながら苦笑するが、

まさしくお互い様だ。

ともかく万全の体制ではないとは言え、これもある意味一対一の勝負。

"そちらとしては"望む所だろう?

さあ、決着を付けようじゃないか。


「私はシバレリア皇帝アクセリオン……かつて勇者と言われた者。最後には必ず勝利してきた!」

「そうかい。例外が出来て残念だな」


お互いに剣を構える。

アクセリオンは地面に立ち正眼の構え。

此方は火竜の頭上で大上段に振りかぶった。


そして、二呼吸ほどの時が流れ、

どちらからとも無く声がかかる。


「いざ尋常に……」

「勝負だ!」


掛け声と共に双方前進。


ファイブレスの爪がアクセリオンを襲うがジャンプで回避された。

そこを狙って火球をぶっ放すが、相手は空中で剣をまるでバットのように使ってかっ飛ばす。

ライナー気味に戻ってきた僅かに弱まった火球を俺が魔剣で受け止めると、

火球はその力を弱めながら弾かれて明後日の方向に飛んでいった。


「甘いぞカルマよ!」

「甘いのはどっちだ!?」


振り下ろされた腕は振り上げねばならない。

その振り上げるファイブレスの手の甲がアクセリオンを襲う。

バットのように振り切られた剣で受ける訳にも行かず、

まともに受けたかつての勇者は地面をゴロゴロと三回転半ほど転がった。


「今が好機!」

「むうっ!?」


……竜の頭上から剣を振りかぶったまま飛び降りて、そのまま剣を振り下ろす。

相手はうつ伏せ……迎撃が出来るか!?


「本当に隙があると考えたのかね貴公は?」

「思うわけ無いだろう!?」


うつ伏せになったその姿……マントが突然不自然に持ち上がる。

脇の下から吸命剣を背後に向かって突き出しているのだ。

このまま突っ込めばそのまま投げつけられた剣に額でも貫かれるのか?

その場合でも無理な体勢から投げられた剣など回避できるとは思う。

けど、少しでも相手の思惑は外しておきたいよな。


「ぐぎゃっ!?」

「と言う訳でアキレスに死んでもらう」


そう言う訳で振り下ろした先は足の先、アキレス腱。

これを斬られてはまともに動けまい?

機動力を奪う、これが戦いの基本だ!


「ぬう、ぬううううううっ!」

「覚悟しろ……アンタが死ねばそれで戦は終わりだ」


実際は嘘。少なくともクロスが死ぬまで戦いは終わるまい。

だが、相手の総大将を討ち取ったと言う情報は大きい。

今後がかなり有利になるのは間違いないのだ。

と、言う訳でトドメを!


『アクセラレイター!(高速化)』

「ぬなっ!?」


……一瞬の隙を突かれて放たれる光。

俺の全身を光が包んだ後、アクセリオンは妙にチャカチャカとした動きで立ち上がる。

やっぱり、存在してたのかよアクセラレイター……加速を習った時の態度から、

絶対あるとは思っていたけど。


……ビデオの早送りのように妙に甲高い早口でアクセリオンが口を開いた。


「ふふふ、油断大敵だぞカルマよ」

「いや、しかし足の腱が切れた状態で戦うのは不可能だろ」


今、アクセリオンは自慢の剣を杖にしてやっと立っているという状態だ。

加速、いや、高速化だったか?

例えスピードが上がっていても、元の速度が無くては意味が無い。

それに、加速(クイックムーブ)に比べて効果時間は長いようだが加速度は低いようだ。

精々倍速か三倍速程度か?

それではさっきまでと此方から見た動き自体は変わらない。

いや、むしろ動きが雑になっている分対処しやすいかもしれない。

まあ足が動かない事への窮余の策なのかもしれないが、

それで貴重な魔力を消耗しては意味が無い。


「……息が荒いし目が回って無いかアクセリオン?随分ふらふらしているぞ」

「ふふふ、何せ高速化は加速の倍以上の魔力を消耗するのでな。仕方あるまい?」


冷や汗を滝のように流しながら必死に立つアクセリオン。

この窮地に諦める様子が一切無いのは流石だ。

本当は流石勇者と言ってやりたいが、どうしても感情が納得してくれないので、

今回はそういう風に思うのは止めておこうかね。

……何にせよ、待っていては埒が明かない。


「悪いが、止めを刺させてもらう!」

「ぬぐううっっっ!?」


全速力で近づくとそのまま袈裟懸けに切りかかる。

皇帝は凄まじい速度で防御しようとするものの既に体の方が付いていかないようだ。

此方の攻撃をまともに食らい、鎧が破損し赤い鮮血が周囲に飛び散る。


「再攻撃!」

「せめて、急所は外す!」


続けざまの一撃は腹を横薙ぎに切り裂く。

アクセリオンも必死に体を動かし何とか内臓は守ったようだが、

無理な動きに足が付いていかずその場に尻餅をついた。


……詰んだな。

これが最後だと、俺は再び大上段に剣を構えた。


「こんどこそトドメだ……」

「……そうでも無いぞ。賭けに勝ったのはこっちの方だ」


その言葉に反応するかのように、俺の横っ面に衝撃が1、2、3……。

常識を超える速度で俺にぶち当たった矢の嵐。

思わず横を見ると……。


「クロス!?」

「使徒兵、全力前進!陛下を救うのです!」


使徒兵を率いたクロスが……あ、ありえない速度で近づいてくる!?

使徒兵ごと、まるでビデオの早送りを見ているかのように矢を射かけながら迫ってきた。

何だこれは?

おかしいぞ!?

しかも高速化しているアクセリオンはともかくクロスまで早口言葉になってるし……。

それ以前に、こんな速度で突き刺さったら流石に唯の矢でも硬化を突き破る筈。

それなのになんで防御出来ている?

そう思った瞬間、目にも留まらぬ速さで赤い壁が降りてきて俺を矢の嵐から守った。

ファイブレスの腕!?何か妙に動きが早くないか!?


……いや、待て。

そう言えばさっき……。


「アクセリオン!?」

「ふふ、気付かれたか……もうじき効果が切れるぞ」


ふっ、と全身から何かが抜け落ちたような感覚。

その瞬間、高速化されていた周囲の時間が元に戻った。

いや……むしろ俺が鈍足になっていたのだ。


「高速化とか言いながら、実際は敵の動きを遅くする魔法かよ!?」

「貴公にとっては……敵側の高速化には変わり無いだろう?」


大した"高速化魔法"じゃないか。まさにペテンだ。

確かに自分が遅くなると言う事は周囲全てが高速化するということだ。

俺がゆっくりになっている内に援軍を呼び寄せた。

いや、むしろ予定していた援軍が来るまでの時間をこれで稼いだということか。


「大丈夫ですか?」

「あまり大丈夫とは言えんな……」


慌てて近寄ってきたクロスからアクセリオンは応急処置を受けている。

だが、俺にはそれを追撃する余裕は無かった。

……千に近い数の使徒兵が、俺とファイブレスを取り囲む。

しかも、斧やハンマーなどの重量級武器ばかり装備してな。

要するに対硬化、対俺用の編成をされていると言う事だ。

しかも……何人かは何処で手に入れたのか、例の儀礼用竜殺しを装備している。

正に本気だ。


「ふう、これで暫くは持ちますね陛下」

「うむ。では後は頼む……私は暫く観戦しか出来ん」


「十分です。さて、わたくしが間に合った以上、貴方に勝ちの目は有りませんよカルマさん?」

「そう上手く行くかよ!」


飛び上がりファイブレスの頭上に戻る。

これで生半可の武器では届かないし、ここまで来れる奴も限られる筈だ。


「ファイブレス!使徒兵が動けなくなるまで焼き尽くせ!」

『良かろう!』

「来ますよ!皆さん、彼さえ討ち取れば全てが上手く行くのです。ここが正念場ですよ!」


四方八方から使徒兵が迫る。

俺は爆炎を、ファイブレスは炎のブレスで迎撃を開始した。


「ヲヲヲヲヲヲ……!」

「焦げたくらいじゃまだ動く!完全に焼き尽くせーーーっ!」


周囲に焦げた匂いが充満する。

肉を焼き尽くし、骨を踏み潰して粉砕する。

こうでもしないと相手の動きは止められない。

一度のブレスで十数人から数十人づつ敵は減っていく。

だが……。


……。


『ぬ、ぐ、ぐううううううっ……』

「ファイブレス!?」


突然、ファイブレスの体勢がぐらりと揺れた。

……頭部から放り出されて振り返った俺が見たものは、

先ほどアクセリオンから受けた傷口にたかる儀礼用竜殺し装備の群れ。

普段なら鱗に弾かれる筈のそれも、流石に傷口には突き刺さるようだった。

そして、それは即ち……。


「ま、魔力が……抜けていく……」

「でしょうね……さあ、竜の冠が落ちましたよ。早くトドメを!」


ファイブレスと俺は心臓、つまり力の根源を同じくする。

その傷から流れ出す魔力は即ち俺の魔力をも削り落としていくのだ。


……まだ敵は半分以上残っている。

そして俺に向かって集まりだしている。

これ以上の猶予は無い……この場を逆転する方策は……。


「さあ、せめて最期くらい神に祈りなさいカルマさん!」

「クロス、調子に乗るな……ん?クロス?」


ふと、その時戦場を見て閃いた。

クロスはアクセリオンを庇うように立っていて、その周囲には数名の使徒兵が居るばかり。

……なんだ。冴えたやり方が一つ残ってるじゃないか。


「使徒兵は……術者が死ねば全滅する!」

「マナさんも再び死にますよ?」


「今のアレが生きてると言えるのかよーーーーーっ!?」

「……違いない、ですね」


敵を突き飛ばしつつ敵の中枢へ突撃開始。

そして加速をもかけて一陣の風となった俺は、

下手な脅迫をするクロスの胴体を横薙ぎ一閃!

……上半身と下半身を泣き別れにさせた……!


……。


「……今更、あんな物言いで俺が止まると思ったのかよ?」

「ま、まあ……半々ぐらいで、とは……」


血溜まりに沈むクロス。

周囲にはゴロゴロと使徒兵だった亡骸が転がっている。


……致命傷だ。

下半身は数メートル先に落下し、ここにあるのは上半身のみ。

落下の衝撃で腕も片方折れ曲がっている。

これでは治癒も使えまい……。


「何にせよ、これで終わりだな?」

「わたくしは、そうですね。ですが……まだ終わりません」


……死に瀕していると言うのに妙に不敵なその態度。

俺は不思議な不安感に駆られる。


「ふふふ、嫁召喚と言う魔法はご存知ですか?私はそれの改良に成功したのですよ」

「……あれを!?そしてそれがこの現状とどう関係すると言うんだ!?」


「ふふふ、もし彼等が、思うが侭の力を持ってこの地に降り立ったら?そう考えて御覧なさい」

「まさか!」


「魔王の蜂蜜酒を使ってまで呼び出した精鋭……あのブラッドはその失敗作に過ぎ、ません……」

「ヲイ!何中ボス的な今際の台詞吐いてやがる!?」


「先に地獄に行って……待って、いま……す……後は……わ、たく……し」


それが最後の言葉だった。

宰相クロス。かつて勇者であり大司教と呼ばれた男の実にあっさりとした最期である。

余りのあっけなさに俺は思わず呆然と呟いた。


「逝った、のか……」

「……クロス……馬鹿者が……!」


眼前には剣を杖にして立ち上がるアクセリオンの姿。

だがもう暫くは戦えまい……。

俺は意識をアクセリオンに集中する。

……大丈夫だ、まだ体は十分動く。

これで、勝負は、


「あぐっ!?」

「わざわざ命を捨ておって……」


突然の激痛に振り返る。

……全身に突き刺さる斧、その傷口を更に抉る竜殺し。

無表情な死神達が俺の傍に音も無く忍び寄っていた。


何故だ?何故使徒兵が動く!?

術者は、死んだ筈だ!


「判らんか?私にも、魔力はあるのだぞ?」

「自分の切り札を……反魂を他人に伝授したと言うのか!?」


見ると、使徒兵の大半は倒れている。

アクセリオンの手の者は精々十数体くらいだ。

だが、


「手段は選ばない、そういう事だよカルマよ。貴公とて勝利を確信すれば気も緩もう?」

「……だよな」


消耗し過ぎた魔力を補おうと、ファイブレスの実体化が解除される。

しかし、まさかあのクロスが……。

教会の特権だからと俺が治癒をクロス自身の妹を救うために使った事にさえ猛反発した男が、

仲間とは言え教団外の人間に、非難の対象になりかねない反魂を使わせるとは思わなかった。

……これは……もう……。



「切り札その一、発動」



切り札を切るか。

しかも語尾に草生やす感じで。

……と、言う訳で。


「任せたぞおまいら?」

「はいです!」

「足掴んじゃえそれ、であります!」

「何?……ぬおおおおおっ!?」


アクセリオンの姿が消える。

いや、地面に吸い込まれていった。


「にいちゃ、だいじょうぶ、です?」

「蜂蜜酒持って来たであります!」

「ああ、助かった。良いタイミングだ」


ボコっと地面に穴が開き、中から蟻ん娘が顔を出す。

俺は受け取った魔王の蜂蜜酒を一気飲みし魔力を回復した!

……内容物の正体に関しては考えないようにしながら。


「ぐわっ!?一体、何が!?うわああああっ!?」

「ぼこる、です!ぼこれ、です!」

「生きて返す気は無いでありますよ!」


「み、見えん、動けん!?くっ!剣よ!」

「いただく、です」

「剣は没収であります!」


地中から声が聞こえる。

地下ではまだ戦いが続いて……戦闘と呼べる状態なのかはともかく、

とりあえずまだ続いていた。


「ま、待て!?お前達は誰だ!何故私達の決闘を邪魔する!?」

「しったことか、です」

「にいちゃのてきは、あたしらの、てきです」

「あたしら×1028匹が現れた!であります」

「シリアスに死ねると思うなでありますよ!」

「いちだめーじ、です。いちだめーじ、です。いちだめーじ、です……いか、えんどれす、です」


段々と、アクセリオンの声が遠くに離れて行っている気がする。


「目が!目があああああああっ!?」

「むすーか、です」

「針で刺しちゃえ×100であります!」

「とりおさえる、です」

「兵隊呼べであります!」


「何も見えぬ!何も聞こえぬ!痛みしか……!」

「いたいだけ、まだまし、です」

「じゃ、コカでも投与するで有ります」


あ、何か段々声が聞き取り辛くなってきたかも。


「わからぬ、なにも、わからぬ……」

「ひっさつ、かっぱこうげき、です」

「刻むであります!」

「そろそろとどめ、です!」


そして、僅か数分後。



「……ぁぁぁ、う、あ、ああ、あぁぁ……ぁぁ……」



……先ほどアクセリオンが引きずり込まれた穴から勇者の断末魔が聞こえた。

うん。そうなんだ。蟻ん娘を予め地下に配備、と言うか、

この辺の地下は既に絶賛拡大中のコイツ等蟻ん娘地底王国の領域内。

要するに、家の屋根の上なんだなここは。

今回結構真面目に相手をしていた(と自分では思う)のはこれのお陰。

要するに、負けは無いから安心して戦える。

そう言う事なのだ。

……勝敗って、戦う前から決まってる場合が多いってのは本当だよな。


「ごちそうさま、です」

「ふう、筋ばっかりで美味しく無いであります」


ぺっ、と地下から骨と吸命剣が吐き出される。

更に勇者を引きずり込んだ穴が内側から閉じられ、その場には元の平原だけが残った。


……シバレリア皇帝、勇者アクセリオンの最期だ。


現に使徒兵たちの生き残りもその活動を停止している。

この結末を聞けば釈然としない奴も多かろうが、とにかく最期なのだ。

アクセリオンも不本意だろうが……まあ、化けて出ないでくれとしか言えんな。


「ヲイ待てカルマ……一騎打ちって話はどうなったんだ?」

「あ、兄貴。目が覚めたのか」


あ、釈然としない人一号発見。

全身焼け焦げたままの兄貴がこんがりとした良い匂いをさせながら立ち上がってるじゃないか。


「応……皇帝はな、お前と戦うのを楽しみにしてたんだぜ?それを、こんな……」

「おじちゃん!あたしらは、にいちゃのはたもち、です!」

「同じく馬のくつわ取りであります!」


一騎は一騎でも、従卒を率いて、と言う意味の"一騎"である。

実に戦国的で騎馬武者的だが別にそこまで細かく指定されては居ないから良いよな?

まあ、仮に駄目でもやっちまった後だからどうにもならんが!


「お前なぁ……お前、なぁ……」


あ、兄貴が肩を落として震えてる。

……マズイ、怒らせた。


「ちょっとツラ貸せやああああああああっっっ!」

「だが、断る」


メキョ……と言った感じの擬音が響き渡る。

その嫌な音は兄貴の……主に首から発せられていた。



「魔王ハインフォーティン、惨状」

「間違ってるけど間違って無いなハイム」



そう……空中からの刺客、我が家の愛娘。はーちゃん登場である。

うん。ハイムが空中で待機していたのだ。

どうやら最高のタイミングで乱入してくるつもりだったらしいが、

いい感じに出番を取られたので取りあえず兄貴に対し、

八つ当たり気味に奇襲を仕掛けて登場したらしい。

高高度からの自由落下。

落着地点は……兄貴のデコ。

つまりは一撃必殺である。



「まおー!まっおーーーーーーっ!」



首がイイ感じに曲がり、立ったまま泡吹いて気絶した兄貴の頭上で、

ハイムは今も荒ぶりながらクルクルと回転している。

勝ち鬨だろうか?どうやら名のある武将を撃破したのが嬉しいらしい。

それにしても何時の間に足の指先だけを使った回転法を覚えたのか……。

まあ、大した問題ではないがな。


……取りあえず、これ以上邪魔されたら敵わないので兄貴は地中に埋めておく事にしよう。

何せ兄貴は戦闘民族的気質も持っているから、まともに戦うと色々大変だ。

どうにか上手く戦わないようにしていかないと。


……。


「わっせ、わっせ、です!」

「掘って、埋めて、固めて!であります!」

「うむ!これで暫く邪魔は出来まい」


兄貴を穴に突き落とし埋めた後、ご丁寧に上をポンポン飛んで踏み固める蟻ん娘&ハイム。

何時の間に合流したのかアイブレスまで一緒になって踏み固めている。

ま、一応空気穴は竹筒で作ってあるから窒息はしないだろう。

食料と水は後で差し入れるとして……取りあえず兄貴の件はこれで片付いた。

戦争終結後でレオにでも掘り出させるとしよう。


「ところでにいちゃ……」

「何だアリシア」


「ほんじんに、せめてきてる、てきは、どうする、です?」

「ん?アクセリオンもクロスも死んじまったんだし問題は無いだろ」

「え?本陣を攻めてる敵に、クロスが居たでありますよ?」


え?

……横を見るとクロスの遺体がある。

うん。ここに居るじゃないか。


「いや、まさか偽者?」

「……たぶん、それはない、です」


「じゃあ、今本陣に攻めてきてるのが偽者か?」

「……うーん。ほんものっぽく、みえるです」


その時、今際の際のクロスの言葉を思い出す。

まさか、アイツ……。


その時、俺の脳裏に激震が走った。

もしも、の話でしかない。

だが、俺はいてもたっても居られず本陣へと走り出す。


「あ、にいちゃ、まって、です!」

「待つであります!」

「あ、こら父!待ってたもれ!?」


後ろをチビ助達が付いてくる。

ファイブレスを呼び全員を背中に乗せ俺達は急いだ。

今の防衛戦力は勇者が指揮を取らない事を前提としているからだ。


……幾らあの防御線が抜かれる事前提に造ってあるとは言え、

クロス自身が陣頭指揮を取られては本陣そのものが抜かれかねない。


しかし、まさかなぁ。

……俺の予測が正しければ、どっちかが召喚された偽者だ。

とは言え、能力まで再現できるとしたら他人に判別など出来はしない気もする。

ならば陣を攻めてるあれも、死んでるあれもクロス本人って事になっちまうよな、ある意味。

さて、予測が外れている事を……祈るとするか。


それと、死んだアクセリオンとマナさんの冥福も、な。


***最終決戦第三章 完***

続く


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