幻想立志転生伝
68
***大戦の足音シナリオ5 開戦に向けて***
~足音、遠くより響き~
≪side カルマ≫
商都トレイディア。
俺は今日、久々にこの街にやって来ていた。
「父。ガルガンは元気か?」
「倒れたって話は聞かないから大丈夫だろ」
お供はハイム。
……今日の用件ではどうしても外せないので連れてきたのだ。
最近、少なくとも表向きは随分と子供らしくなった。
こうやって肩車をしながら歩いていれば、極普通の親子に……。
「なんだあの黒い鎧、凄ぇ」
「頭の上の子、たまに飛んで無いか?」
「きのせい、だろ……」
……普通の親子に見えるはず……見えるはずだ。
まあそれはさておき、急な話な上に個人的な用件ではあったが、
ありがたい事に村正は何とか会談のスケジュールを空けてくれている。
そんな訳で村正の屋敷に向かっている訳だ。
「これがトレイディアか……」
「凄いな、族長の家とは比べ物にならんぜ」
「いや、皇帝の城に比べればまだまだだ」
「見た事あるのか?」
「……話で聞いた分だと、多分な」
街には北の森から出てきたらしいおのぼりさんの姿と、
「なあ、そこの兄ちゃん……トレイディア名物の揚げ芋はいらんかい?ちょっと試してみなよ」
「コイツは美味いな!いくらだ?」
「銅貨5枚だ。安いもんだろ?」
「銅貨は持ってないんだ……狐の毛皮と交換でどうだ?」
「……流石はシバレリアの人だねぇ。へへっ、まあ良いぜ」
「ありがたい!」
それ目当ての露天商が目立っている。
……かつての姿とは全然違うが、それでも活気は戻ってきたようだ。
俺としてはそれが何よりだと思う。
何せ、俺としてもこの街には思い出深い物があるからな。
「……ポテチ一皿に狐の毛皮……のう父。あれって明らかに損しておるぞ?」
「だな。ま、お互い納得ずくだから良いんじゃないのか?人生の授業料としてならそう高く無い」
ああやって、一度くらい騙されて段々とこの街に慣れて行くんだろう。
それで人生足踏み外すなら問題だが、食い物倍額払い位なら可愛いもんだ。
とりあえず、仕事をして実際の物価を知れば騙されなくなるさ。
……と言うか、おのぼりさん以外高すぎて近づかない辺り、余り良い業者とは言えないな。
ま、所詮は他人事だが……。
その時頭上で肩車中の娘が、人の頭をたしたしと叩いた。
「それは良いが、父。はやく村正の所に連れてってたもれ?」
「そうだな。早い所向かうか……」
さて、急ぐかね?
何せ、アクセリオンとクロスの連名で、世界中に魔王復活の報が知らされたようだ。
第一報はこちらで握り潰したが、毎回握りつぶして別な手を取られるのも厄介だ。
人の口に戸は立てられないともいうし、
いずれは名を上げようとする自称勇者がこの大陸に押し寄せてくる筈。
そのための対処をせねばならない。
それと、ついでにもう一つ用が有るが……ま、それは重い話が終わってからだ。
……。
「と言う訳で、例の忘れられた灯台を売ってくれ」
「いきなりで御座るな。と言うか、カルマ殿の娘は本当に魔王で御座ったのか」
「驚いたか!」
そりゃあ驚くだろうよ。
だが、村正はハイムと実際に会ってその人となりを一応とは言え把握している。
肩書きだけで判断はされないだろうという俺なりの論理があった。
だからこそ、今から言うような話も出来る訳だ。
「そう。本当に魔王だったんだなこれが。で、だ……俺としては我が子を殺させる訳にもいかん」
「心得たで御座る。我がトレイディア商王国も娘さんを保護する方向で動くで御座るよ」
あっさり言ってくれる。
ありがたいがそれだと村正が危険になるだろうに。
「あ、いや……流石にそんな危険な橋をお前にまで渡らせるつもりは無いんだ」
「ふむ。ではあの古い灯台を買い取る事と何か関係しているので御座るか?」
……うーん。
まあ、村正なら話しておいても大丈夫か。
「いや、勇者って自分の正義を信じきってるから国内まで来られたら魔物系住民が虐殺されるだろ」
「そう言えばカルマ殿の国では普通にコボルトとかが住んでいるので御座ったな」
「そう言う事だ。それに合わせて北の大国殿が暴れまわる準備してやがるからな」
「うむ。拙者も危うくティア殿を失う所であった……連中、生かしておけぬ!」
おお、村正の目から炎が!
……コイツにとって初めてまともな相手だったようだし、
それが殺されかけたとなったらそりゃあ怒り狂うわな。
それに……おっと、それどころじゃないか。
「で、だ。そんな訳なんで囮を用意する事にしたわけ」
「囮で御座るか?」
「そう。塔の地下に洞窟掘って魔王の住みかだと噂を流す予定だ」
「ああ、あそこは灯台……大陸外から来た者達は近くの港に降りるで御座るからな!」
そういう事だ。
余計な物を目にする前に目的地に着いて貰おうと言う魂胆だよ。
「因みにあの地下には元々洞窟があってな。それを利用できるという目論みもある」
「使わなくなった灯台の地下はそんな事になっていたで御座るか?」
「ああ。何せ盗品市……いや秘密のバザーなんてものが開かれてたくらいだし」
「そんな物が……」
因みに一応嘘は言っていない。
正確に言うと灯台地下のバザー開催地は元からあったものだし、
こちらで掘った洞窟も、一応うちの地下と繋がってない訳ではないからな?
まあ、歩きで辿り着ける距離でも場所でもないし、
そもそもハイムが在宅かどうかなんか向こうに教える義務など無い。
あ、一つだけ嘘があったか。
灯台地下の洞窟は、バザーの開催地を除いて蟻が掘った物だった。
……因みに、余談だがその灯台地下はアリサの生誕地でもあったりする。
「それと、洞窟内には定期的に金目の物を配置する予定だ」
「何でで御座る?」
「目的と手段を入れ替える為だ。目的を忘れ宝探しに夢中になってくれれば御の字だな」
「……相変わらず考える事がえげつないで御座るな」
「お前の国の領土なんだから、そこで売買させればお前の懐も暖まるだろ?」
「成る程。それがこちらのメリットで御座るか」
上手く管理できれば大儲けも見込める。
何せ世界中から英雄願望やら一攫千金狙いの連中が集まってくるんだからな?
そいつ等や観光客が落とす金は結構な額になるはずだ。
後は倒され役を集めるだけ。
まあ死刑囚は鉄板として、後は適当に良心の痛まない連中を探しておかんと。
「と言う訳で言い値で構わんからあの灯台売ってくれ。……一応租借地のような形になるのか?」
「……本当に、言い値で構わんで御座るか?」
「まあな。お前の領地に穴を掘りまくる訳だし」
「では、その魔王退治に来る連中を隔離する為の街を作ってもらいたいで御座る」
……街だと?
「話からすると、来るのは荒くれ者の群れ。正直シーサイド港にたむろされたく無いで御座る」
「なるほど」
魔王の住居たる大洞窟を囲む都市ね……。
ま、参考に出来るものは色々有る。
やって来る勇者連中の為の宿や酒場、訓練施設や歓楽街を備え、
内外の脅威を隔離する為の分厚い石壁に囲まれた城塞都市。
洞窟内では得たものも失うものも自己責任で。
外部から持ち込まれた物と地下から掘り出されたもので潤う街。
うん、何処の迷宮探索物だよ?
……だが、それがいい。
「判った。じゃあ出来上がり次第トレイディアに引渡しと言う事で」
「委細承知で御座る」
「うむ!わらわも出来上がる日を楽しみにしておるからな!」
……俺達ががっちりと硬い握手を交わす中、当のハイムは目をキラキラとさせていた。
ようやくまともな魔王城が出来上がる目処が付いた上、自分のためのダンジョンが出来る。
どうやらそれがどうにもこうにも嬉しいらしいな。
「承知した。時に出来上がりは何時頃になりそうで御座るか?」
「適当な物は作りたくないし、時間をかけるわけにもいかないからな……ま、一年以内だ」
「判ったで御座る。こちらとしても何も無い荒野が街に化けるなら何の問題も無いで御座る」
軽く指を曲げて損得勘定しながら村正が笑う。
……実際の所、この策は国内に不穏な連中を入れないための策、と言うだけでは無い。
調べ上げた所アクセリオンは世界中にばら撒こうとした書状に、
"魔王復活のため、共に戦う勇者たちを求む。褒美は思いのまま"
と書いている。
要は手っ取り早く戦力を世界中からかき集める気なのだ。
……まあ、もし応じたとしても"思いのままの褒美"なんてあの国には無いと思うんだがな。
どうするつもりなんだか。
ともかく、向こうに歴戦の兵が集まるのを出来る限り阻止せねばならない。
逆に、
「時にカルマ殿……集めた連中は、来るべき大戦での戦力にするが宜しいか?」
「なんだ。村正もその気か……なら、連中はそっちに譲るか」
逆にこちら側の戦力として取り込みたい。
……幾ら数が多くとも、時間さえあれば迎撃する手段は幾らでも取れる。
問題なのは、相手が勇者ゆえに起こり得る戦術……いや、戦術とも言えない戦法だ。
「勇者候補となるくらいなら、現役勇者の特攻もある程度抑えられるで御座ろう?」
「そうだな。そう期待したい」
つまり問題になるのは少数精鋭……アクセリオン自身が己のパーティーで攻撃を仕掛けてくる事だ。
どんな厳重な警備も、侵入してくる少数の敵を完全にシャットアウトするのは難しいのだから。
……十中八九まで勝利していても、僅か数名の精鋭でひっくり返される。
王道RPGで行われているのはつまりそういうことなのだ。
正面戦闘も可能な暗殺者集団。これが戦力としての勇者の本質だと俺は思う。
……鉄砲玉なんてレベルじゃないぞ本当に。
「あの連中は法外だからな。徒党を組まれると厄介を通り越して脅威だ。父も注意してたもれ?」
「ああ。ピンポイントで敵将を全て討ち取ればそれで勝ち……正直奴らに兵士など要らんだろうな」
「その怪物的な英雄が、大陸一の兵力を有しているのが最大の問題で御座る」
それが、尽きぬ兵糧を手にしたことも、な。
ま、それはこちらからくれてやったものだが。
但し、その兵糧の元はこちらのスパイ兼伏兵な訳だけどな。
それに、腹が膨れれば戦争などする必要が無いと思う連中も居るだろう。
厭戦感情が高まってくれれば良いな、程度の期待だがね。
それに、食糧不足でも無いのに略奪暴行があったらそれを責め立てる事もできるだろう。
少なくとも相手には勇者の肩書きを持つものが多く居る。
その軍隊の暴虐はクリーンなイメージを逆転させ、反動的に悪逆さを強調するだろう。
悪党は一度の善行で賞賛を得、善人は一度の悪行で今までの評価を失う。
……その事を、連中には身を持って実感してもらう予定だ。
「ともかく、マナリアに資金援助を行い国境警備を整えて貰うで御座るよ」
「ああ。マナリアで防いでもらってる内に俺達は戦力を配備する」
因みに位置的にも大義名分からしても、一番に攻められるのはマナリアであろう。
一応、商王国領のサクリフェス他旧自由都市国家郡も領土を隣接しているが、
そちらの再軍備と城壁の修復は急ピッチで行われている。
攻める大義名文も無いし、そちらから攻めてくる可能性は低いと思われた。
そして、俺達の基本戦略だが、
マナリア軍が開戦後、援軍までに無事守りきれているようなら合流し逆襲に移る。
守りきれないなら敗残兵を収容して反撃。
と言う事に尽きる。
……まあ、マナリアは荒れ果てるだろうがそもそもの事の起こりはマナリアだ。
リチャードさんには悪いが戦後復興には手を貸すから許して欲しい、だな。
「出来ればマナリア王都が篭城できる状況なら良かったで御座るが……」
「城壁はボロボロだし兵もかなり失われたらしい……篭城どころではないな」
マナさんの流星雨召喚でマナリア王都は壊滅的な打撃を受けた。
王宮は辛うじて下半分ほどが残っているようだが、街の被害は大きい。
何せ、王宮以外で今一番大きな建物が、カルーマ商会の商館だと言う始末。
……うん。蟻ん娘が修復を一晩でやってくれたんだけどな。
ともかくマナリア王都は今や巨大なスラム街と化しつつある。
資金のある住民は地方都市に逃げ、各貴族も自らの領地に篭りっきりらしい。
更にそれだけの資金も無い住民は、王都の外側に小屋を建てて住み着いているとか。
とてもとても復興する余裕などあるわけが無い。
ま、せめて来られりゃ逃げるだろ、この状況じゃ。
ともかくマナリア難民の受け入れ準備は急務だと言えた。
そして……北部領土の帰属問題はうやむやのままになった。
流石に帝国も悪いと思ったのか、北部領土へのシバレリア族の侵入は止まり、
その後要求も届いていないと言う。
ただ、段々と露骨になる戦力の拡充。
特に自分の所のイデオロギーからすれば絶対にやってはいけない事だろうに、
材木や獣肉、毛皮などの輸出と……その代わりに武具などの輸入が相次いでいる。
これで何かする気が無いとは言わせないが、
下手な刺激をすればそれだけで攻めてきかねない雰囲気の為、誰も何も言えないでいた。
……俺のほうも、まだ戦争準備は整って無いしな。
「そも、勇者などと言うものは管理者たるわらわの打倒を正当化する為の方便に過ぎぬ」
「かんりしゃ、で御座るか?」
「そうだ村正。このまま行くと世界は後千年で滅びる!」
「なんと!?……しかしまだ千年も有るので御座ろう。そんなに心配するほどの……」
「千年後に同じ台詞が言えるのか?ともかくわらわは管理者の一人として世界を維持せねばならぬ」
「今からやらないとすぐに手遅れになるって事だ」
考えてみれば成る程なのだが、世界維持のシステムとして古代人が作り出したのが魔王。
で、勇者は何かと言うと……かつて魔王が最初に滅んだ時に、
半ば偶然に止めを刺すことになったルーンハイム家の先祖に与えられた称号に過ぎないのだ。
それが慣例化し、人類の脅威となるほどの魔王や脅威そのものを倒した、
もしくは倒せると見込まれた人間に与えられる称号として定着した、と言う経緯があるらしい。
まあ、古代文明の連中もそれを見越して魔王に高い戦闘能力を与えてたんだから笑えんがな?
初めて出会った時のアクセリオンの台詞からして、その事は知っていたんだと思う。
"魔王にも思う所があったのだ。だがそれは人とは相容れなかった"
そういう意味合いの台詞からもそれが伺える。
まあ、それを承知の上で今現在の繁栄と自分の栄達を選んだ、と言う事になる。
はっきり言えば、今の俺とは決して相容れないって訳だ。なら、叩き潰すしか無いだろ?
……そう言えば初めて会った時は敵対する事は無いって思ったが……ままならないもんだなぁ。
「……世界を維持するのに一番邪魔なのが人で御座るか。まあ、判らんでも無いで御座る」
「心配は要らん。そこを何とかするのが俺の役目なんだろ」
「ま、緊急で成さねばならぬ処置は父がやってくれた。暫くはのんびり出来ると言う物だ」
それを聞くと、村正もふうと息をついた。
そしてやはり心配だったのだろう。北の結界山脈を窓から眺めて呟く。
「それにしてもティア殿が心配で御座る。拙者の子が腹に居る故、此度の災難は堪えたで御座ろう」
「なんだってー」
「父、知っておるくせにわざと驚くな。おお、そうだ。これを懐妊祝いだと母から持たされたぞ」
ハイムがガサゴソと小さめの箱を取り出し村正に渡す。
うん、実はそうなんだ。
こうして祝いの品を渡すのも今回の目的の一つだったり。
因みにルンがアリシア達を動員して世界中を巡って探し出させたと言う逸品だ。
俺にとってもルンにとっても少々忌まわしい代物だが、きっと役に立つだろう。
懐妊祝いにしては少し物騒だけどな。
「おお、これはかたじけない。感謝で御座る」
「名前は決めたのか?」
「当然で御座る。男の子だったら村雨、女の子だったらお菊で御座る!」
えーと……村雨に、菊一文字か……。
いやしかしそれは何と言うか。
「村雨は止めとけ、それとティア姫に似てた場合でもお菊とか言うつもりなのか?」
「えーとプラチナブロンド、とか言ったかな?あの色は……確かに似合わん気がする」
男の子の方は辻斬りの被害に会いそうだし、女の子の方は井戸で皿数えてそうなんだが……。
「ティア殿もそう言うで御座る……良い名だと思うで御座るが」
「しかし、イメージ的に合わんのもどうか……わらわもそう思うぞ村正?」
村正はショボーンとしながらティア姫から届けられたらしい手紙を渡してきた。
因みに遠距離恋愛ではあるが会う事はあるらしく、本当に村正の子だそうだ。
アリシアが言ってたから間違いない。
……兎も角ちょっと覗いて見ると、
村正のネーミングセンスの無さを諭し、なじる言葉が100行以上にも渡って書き連なっている。
そして、マナリアの現状を綴った文面が10行ほど続き、更に惚気が30頁に渡って書かれた後、
最後に"それでもお前と出会えて良かった"と言う一文で締められていた。
……はいはい、ご馳走様。
「ともかく、帝国の不気味な沈黙が不安で御座る。出来る限りの準備をするで御座るよ」
「国境線沿いに監視所を設けたそうだな」
「余り大っぴらに軍拡しても相手を刺激するだけ。拙者らも金が余ってる訳ではないで御座る」
「うちも常備兵が少ないんだよな……とは言え生産力を下げてまで兵士を集めるのも問題だ」
「圧倒的な物資量がうちの強みであるからな、父」
物資の出所を疑われたらアウトだし、
カモフラージュを兼ねた生産活動重視の方針は変えられんよな。
だが、クロスがなにやら怪しげな研究をしていると言う話もある。
……逆に言えばそれが終わるまで戦端が開かれる事は無いのだが、
今の内に戦力と迎撃準備を整えるべきだろう。
じゃあ、急いで戻って少しでも早く動くとしようか。
「じゃあ、俺達は帰るぞ。敵の切り札に対抗せねばならんからな」
「ほう?掴んでいるで御座るか」
「ああ……使徒兵を強化する魔法を研究しているらしい」
「あの忌まわしい死人どもで御座るか」
「それに、モーコの騎兵を纏めて大規模な弓騎兵を組織しつつあるな」
「万を超える弓騎兵の群れだそうだ。村正も注意してたもれよ」
「拙者の軍の総軍を超える可能性があるで御座るか!?」
村正の最大の強みは、軍を完全に掌握している事。これに尽きる。
リチャードさんとの最大の違いはここにあった。
当初放蕩息子と思われていた嫡男であったが、聖俗戦争で一躍名を上げ、
度重なる苦境と不況に一度は危機に陥るも、
自由都市国家を己の版図に組み入れたことで国内では英雄として扱われるようになった。
そう、軍の力を存分に使った力押しで危機を乗り越えたのだ。
……これにより、半ば離反状態だった商人ギルドもその傘下に戻り、
現在の村正の立場は極めて強固だと言えた。
そしてそれ故に自軍の戦力は良く把握出来ているし、把握するように努めているようだが、
そうであるがために敵の一部隊が自軍全体と同等であると言う事実に冷や汗を禁じ得ない様だ。
「バリスタも100基以上を確保しているらしい……お陰で一般人は困窮してるようだがな」
「国とは民を守るための組織。本末転倒で御座るな」
「窮鼠を侮るでないぞ村正。父もだ!」
その他に、俺達が監視を開始する前から用意していたらしい切り札があるようだが、
残念ながらそちらは全く動きが無く何なのかすら読めないで居た。
止むを得ないのでそれは出て来次第臨機応変に対処する事になっている。
「取りあえず今判っているのは以上だ。参考になったなら幸いだ」
「承知。余りに強大な敵だと理解した。ティア殿にも危ないなら逃げろと言っておくで御座る」
「うむ。それが最善だな!」
そうして別れを告げた俺達は村正の屋敷を辞したのだが、
突然ハイムが俺の袖を引いた。
「そうだ父。ついでだからニワトリの餌買ってたもれ?」
はいはい。判ったから今日は帰るぞハイム。
「それとゲンカ村に寄ってカレーでも食うぞ、父」
はいはい。
「後、帰りにルーンハイム城に寄ってたもれ?ジーヤ達、話があるそうだ」
はいはい。
……ん?何の話だろう?
……。
≪side 皇帝アクセリオン≫
……背後にかつての宿敵の亡骸を背負い、私は今……一応の栄光の中に居る。
かつて私が下したもの、そして私を馬鹿にしていた者達が次々と我が配下に加わってくるのだ。
【陛下……例の者どもがわたくしどもの陣営に入ると返事が来ました】
【判った。このシバレリアに従属する者として丁重に扱ってくれ、クロス】
クロスは今、自室で執務をしている。
そして私は謁見のまで一人沈思黙考。
……しているふりをしながら、クロスと念話で話をしている。
この城へも密偵が入り込んでいるようだ。
どんなに警戒してもし足りると言う事は無い。
【しかし、あんなものまでわたくしどもの配下とするのは……】
【戦力として大きい。それだけでは不満か?】
【……いえ】
念話が切れる……やはり不満か。
だが、南の者達に気付かれぬように動けるは奴等のみ。
相手がなんであろうが、使える物は使うべきだ。
「ふう」
私も年老いた。
かつてのように魔王の城へ僅かな仲間だけで突撃する事など出来よう筈も無い。
全力で戦えるのもそう長い時間では無いだろう。
……それに、当代の魔王には世界をどうこうするつもりは無いようだ。
我等に大義は無い。
だが、クロスは嬉々として開戦準備を進めておるし、私もそれを止める気は無い。
と言うより、最近気付かされてしまったが……私はどうやら所謂傀儡と言う奴らしい。
確かに政治に疎いのは承知の上。
しかも満足に意見交換も出来ぬこの状況ゆえ、仕方ないと言えば仕方ないのかも知れんが、
大事な事は殆ど全てクロスが決めてしまい、
私は事後承諾するという形が段々と増えてきた。
いずれ私は決済印を押すだけの存在になるのであろう。
……だが、最早そんな事などどうでも良い。
ここの所、そんな風に思うようにもなったのだ。
「応、皇帝さんよ……少し稽古付けちゃくれねぇか?」
「良かろう、ゴウの弟子よ」
考え事をしていると正面よりゴウの代わりに呼び寄せたと言う弟子の、
……確かライオネルと言ったな。
ともかく兵を指揮させるために呼んだ男が現れた。
……弟子とは言っても小細工を弄することを好んだゴウとは違い、
正面からぶち当たる事を好む男では有るが、裏表が無い所を私は気に入っていた。
……吸命剣を手に取る。
吸血鬼の刃とも別名を取るこの剣は切り裂いた者の生命力を己の物として取り込む事が出来る。
正直、訓練で使う武器ではないか。
……そう考え腰に戻すと、代わりとして近くの飾り鎧から剣を取った。
「かかって来るが良い」
「じゃあ、遠慮無く、っと!」
彼の者の本当の武器である長々剣は室内で使えるものではない。
向こうも極普通の剣だ。
「オラオラオラアッ!」
「ぐっ!」
凄まじい重い剣戟に思わず防戦に回る。
だが、まだ甘い所が有るか。
力の乗った横薙ぎを剣を斜めにして受け流し、無防備となった脇腹に剣を突き出す。
「さて、どうするかな?」
「甘ぇんだよ!」
予想通りでは有るが、私の剣も弾かれた。
しかし脚で剣を弾くとは……大した度胸だ。
「で、今度はこっちだ!」
先ほど弾いた剣が、今度は体制を崩した私に襲い掛かる。
ふむ。避けられんか……どうやら純粋な力と速度では向こうの方が上。
老いの迫りつつある私ではあの豪腕を完全にいなす事は最早できんという事だろうかな?
うん、では私本来の戦いをするか。
『疾き事風の如く!……加速"クイックムーブ"!』
詠唱と共に、周囲の時間がゆっくりと感じられるようになった。
いや、私の時間だけが周囲から切り離され、加速しているのだ。
いかなる剛剣も当たらねば意味が無い。
ゆったりと近寄ってくる剣を軽くしゃがんで避け、ひょいと相手の背後を取る。
そして、剣の柄を、相手の後頭部に強かに打ちつけた。
「ぐあああああああっ!?」
「ふむ。勝負有りだな」
魔力を消費したせいで額に一滴汗をかくものの、どうやら危なげなく勝利する事が出来たようだ。
彼の者は頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。
「痛ぇ……やっぱり速ぇな。カルマの奴も同じ事が出来るんだろ?」
「ああ。私が自ら教えたからな」
それを聞くと、彼の者はニヤリとした笑いを浮かべた。
「いいねいいね……流石はカルマ。ゴウの兄貴の息子だ、そうじゃないといけないぜ」
「ふむ」
そして、急に真面目な顔になる。
どうやらここからが本題のようだ。
「皇帝さんよ……アンタ、今度始まる戦争は別に賛成して無いが反対もして無いよな。何でだ?」
なるほど、それが聞きたかったのか。
弟分と戦う事を考慮しつつこの国に来たのはそのためもある、か。
ならば嘘を付く訳にもいかんだろう。
この手の輩は嘘を動物的な勘で見抜く事も多い。
「正直に言えば……私は彼の者に……カルマと言う男に勝ちたいのだ」
「勝ちたい?」
「そうだ。我が呪いのいなし方をさも当然のように思いつき、作った国の国力は比べ物にならん」
「だから、せめて戦いでは勝ちたいとでも言うか?多分だけどよ、一騎打ちじゃアンタの負けだぞ」
確かに現状を見る限りではそう見えるだろうな。
カルマと言う男は竜を呼ぶと言う。
素の戦力も決して弱くないがあれは圧倒的であろう事は容易に想像できる。
だが……戦いでは相性、装備、戦術などで勝敗は幾らでも変わる。
それに竜退治は勇者の専売特許だ。
勝つ為の方策も既に頭の中にはある……が、まあそれを教えてやる事も無いか。
「だろうな。竜をその身に取り込んだと聞いた……だからこそ倒し甲斐があるのではないか?」
「判らねぇな。そんな事をして何になるんだよ」
そんな事をして、何になる。
そう言いながらも彼の者……いや、ライオネルの口元は笑っていた。
ああ、そうか。こ奴、気付いているな?
「強い者が居れば戦いたくなるのは戦士の常。そしてもうひとつ。私は……アクセリオンである」
「話は聞いてるぜ。信じ難いがアンタこそ勇者だってな」
その獰猛な笑みは私の望みに気付いているからこそ。
「私は、私の人生を語るであろう吟遊詩人のサーガに、最終章として華々しい戦いを連ねたい」
「有終の美、って奴か」
「そしてお前も……戦いたいのであろう?今まで立場に縛られ戦えなかった英雄と」
「そうだ。俺は本当の意味で本気のカルマと戦ってみてぇ。その結果、殺されたとしても、な」
好奇心、か。
いや、むしろ弟弟子の成長を己の目で見届けたいのか?
「だが、別に戦いたければ頼めば良いのではないか?」
「駄目だな、あいつは結局身内に甘ぇ。負けても良い奴には余り無理して勝とうとしねぇよ」
「だから、あえて敵に立つか」
「応よ。ガキどもには俺を殺す気で来いと言ってある……俺にあいつ等を殺す気は無いがな」
「身内に甘いと言ったな?マナの件もある。お前相手でも厳しいかも知れんぞ?」
「ん?俺相手だったら話は別だ。殴り飛ばして鍛え上げたんだぜ……俺相手に躊躇する事は無ぇ」
「本当か?」
「ああ。アイツの事だ。俺に関しては殺しても死なねぇと思ってるさ。間違い無く」
結局の所、私もこ奴も同じか。
いわゆる、戦う事でしか己を表現できない不器用な類の人間だ。
そして、その決断により凄まじい被害が出ることを知りつつも、その想いを止められない。
本当に、どうしようもない……同志だ。
「判った。どうせクロスは止められんのだ。だったらついでに自分の望みも果たしても良かろう?」
「違いねぇ。この際だからあいつ等に敵対しそうな連中全部集めて大掃除だぜ!」
その時、部屋に靴音が響く。……ビリーの奴だ。
「ククク……何て言うか、勇者様の所業とは思えないな?」
確かに。我等の選択で泣く者は多かろう。
だが、あえて私はそこから目を背ける……全てが終わるまではな。
何時か熱狂が覚め、正気の頭で怨むなら怨めばいい。
「堕落せし勇者の凶行……とでも我等の戦いは呼ばれるのかも知れんな」
「ま、それも良いんじゃねぇか?俺もマナリアで……嫌われるのには慣れてるぜ」
「ククク、面白そうな事言ってるじゃないか。なら俺様も一口乗せろ」
ありがたいことだな。流石に私一人では何も出来ん。
……では、始めようではないか。
何時か来る大戦の準備を。
「では……クロスはなにやら魔法を広範囲にかける研究をしている。私達は私達で動こうか」
「応よ。しかし、アイツも嫌ってるくせにやってる事はカルマの二番煎じだな」
アレンジマジック、だったか。
詠唱を一部変更することにより効果範囲や威力を変えられると言う……。
良く思いつくものだと聞いた当時は驚いたものだ。
「相手の利点を真似るのはけして恥ずかしい事ではない。ただ、最近政務が滞りがちなのがな」
「部下に丸投げってな……ま、俺から言っとく。お前の部下はそんなに信用できるのかってな」
「ん?クロスの部下ってのは教団時代からの側近だぜ?俺様たち以上に信頼してるだろ」
そうだ。
だが、有名どころの双璧は存在を気取られぬ為に声をかけられずに居たまま死亡した。
残っているのは二線級ばかり。
それも、信仰を捨てろと言われてノコノコ付いてくるような輩なのである。
クロスは自身に忠実だから大丈夫だと言うが……。
「……だから問題なのだがな。ともかく才ある者を集めてくれ」
「直卒部隊か?俺様が傭兵達に話を付けとく。死に場を探してる奴でいいよな?」
「応、傭兵王さんよ……死に場を探して無い奴はどうするんだ?」
「ククク……そう言うのはとっくに南に雇われてらぁ。それも、正規の兵隊としてな」
死に場、か。
「戦力では圧倒的な差があるはずなのに、この既に敗戦濃厚な雰囲気は何なのだろうな……?」
「何言ってんだよアクセリオン。判ってるだろ?」
ビリーが鼻の頭を掻く。
へへへと笑いながら口に出したのは、普通なら言ってはいけない類のセリフだった。
「……そうだな」
「今の俺様達に時代の風は吹いてない。いや、多分今後も吹く事は無い」
「30年前に終わってるんだよ。俺様達の戦いはよ」
「では今の私達は……語るまでも無いか」
……未練、だな。
勇者が無理だとしても、何か栄光の称号を……それを求めていた。
そしてこの地で冒険し、気付けば幾多の村々を従え……。
遂には皇帝と呼ばれるようになった。
……歯車が狂い出したのは何時からだろうか?
座っていればそれで良いと言う、皇帝と言う暮らしは悪く無い。
だが、段々と……こう、なんと言うか周囲が濁って来ているのが肌で感じられるのだ。
それに私は知っている。
クロスの掲げる共生主義には個人資産は存在しない筈だと言うのに、
各部族の族長やクロスの配下に与えられた部屋にはどういう訳か異国の調度品が並び、
高価な酒と食料がふんだんに取り揃えられている。
金貨は無いが財宝はある……一見すると、我々のやり方が成功しているかのようだ。
"皇帝陛下のご威光の賜物ですよ"
村々を回り、治安を維持しているとされる彼等は言う。
私のお陰でこれだけ幸せな暮らしが出来るのだと。
だが……それと逆行するように、
忍びで出かけた先の村々では段々と暮らし向きが厳しくなっている。
これは、おかしい。
そして私を見る彼等の目に怯えの色が見て取れた時、私は悟った。
これは圧政者を見る目だ、と。
大半の住民は、これが一時的なもの。
もしくは他国の謀略だと信じている。
それに疑っている者も我々に畏怖を抱いている部分がまだ大きいので目立って居ないが、
不満もまた、段々と大きくなっている事を、私は悟ってしまっていた。
それでもまだ何の問題も出ていないのは、
この地において力ある者が正しいと言う暗黙のルールがあるからに過ぎない。
だからもし、何かの拍子で力と畏怖が失われる事があったら、
力で従えたほぼ全てが一斉に敵に回るだろう事は間違いないだろう。
……だから、これは違う。
私はそう思うのだ。
……最早人々の賛美の下に語られる勇者としての道は絶たれた。
皇帝などと呼ばれているが、その実は客寄せの看板に過ぎぬ私。
だとすれば、せめて人々に忘れられぬ存在になりたい。
記憶の片隅から、決して消えぬ存在に。
たとえ、それが悪名だとしても……。
……我が名を世界に……知らしめるのだ!
……。
≪side カルマ≫
「……いや、まさかあの副官がボンクラの元に戻ってきてるとはな」
「誰だそれは?」
『ハイムよ。死んだブルジョアスキーの副官だ』
「いや、父にファイブレス。だからそれは誰なのだ?」
「忘れたのかよ。そういや雪山でも会って無かったっけか?」
今、俺とハイムはルーンハイム城(旧大聖堂)に向かって竜馬を走らせている。
ゲンカ村……ボンクラ男爵の領地でカレーを食った後、
ジーヤさん達から話があると言う事で寄って行く事にしたのだ。
「はふはふ、うまー、です」
「辛いけど美味いであります」
「……クイーンの分身どもよ。一体何時まで食い続けているつもりだ……」
「多分、密封鍋入りお持ち帰り用カレー10人前を食い尽くすまでだろ」
カレー屋の前に辿り付いた途端に何処からともなく現れたアリシア達をお供に加え、
こうして四人乗りで移動しているのだが、
先ほど言ったようにボンクラの元に戻りカレー屋の奥で経理をしている副官を見た時は、
驚きを通り越して吹いてしまった。
何でも、今更教団には戻れないし戻りたくも無いが行く所も無かった、との事だ。
一度裏切った奴を普通に配下に組み入れるとは意外とボンクラも器が大きい、のかも知れない。
ま、たぶん本当の所は何も考えて無いだけだろうがな。
兎も角、ボンクラクレクレカレー本舗はコイツが立ち上げて運営しているようだ。
……道理であのボンクラにまともな経営が出来てると思ったが、
なにはともあれこれでボン男爵領は黒字になって、
今日もボンクラは趣味と化したカレー作りに没頭しているそうだ。
まあ、まずは"色んな意味で"めでたいと言っておこう。
「で、問題はこっちか」
「うむ。城全体から申し訳ないオーラとでも形容すべき何かが漂って居るな、父」
そうなのだ。
俺達は城が見える所まで来ていたのだが、なんと言うか……雰囲気が暗い。
空は青空なのにどんよりと暗雲漂っていると言うか。
ま、原因は一つしか無いわな。
「マナさん絡みだろうな」
「それ以外に何かあるか?」
「むぐ、むぐ、むぐ……ごち、です」
「もぐもぐであります」
旧主の妻が起こした大事件が立て続けに二つ。
特に古くから仕えて来たジーヤさんや青山さんの心労いかばかりか。
……現に城の入り口前で、死人と見間違うばかりのジーヤさんが立ち尽くしているしな。
「若様……この度は……この度は真に申し訳無く……」
「ノォ……団長、貴方が悪い訳では有りませんよ!」
横では必死にオドが励ましているが、
当のジーヤさんは顔面蒼白。口からエクトプラズムが抜け出しそうになっている。
あー、こりゃヤバイ。
「ジーヤよ、落ち着かんか!心労なら母のほうが上ぞ?気を張ってたもれ!」
「さ、左様ですな……申し訳有りません。お見苦しい所を」
「いや、気持ちは判らんでも無い。それにジーヤさんのせいじゃ無いだろマジで」
家臣として主君筋の横暴を20年以上も改めさせる事が出来なかった上での今回の暴走だ。
死にそうになる気持ちは判るが、唯の主君ではなく相手は王族。
それに止められなかったのは他の奴も同じだろうに。
「はい……ですが何か出来た事があったのではないかと悔恨ばかりが残りまして」
「ミー、トゥー……青山さんに至っては責任を感じて出奔してしまいましたしね」
……え?
青山さんが、出奔!?
「なんだと!?母は知っておるのか!?」
「……ノウ、です。姫様なら……お嬢様に言えますか?」
「絶対無理だ!今度こそ、いや今度も首吊るぞ母なら」
「左様でしょうな……ですから何も言えぬのです。問題の先送りなのは存じておりますが」
ああ、道理でこの間前触れも無くリストカットしたのか。
「知ってるぞ、ルンは」
「なぬ?」
「モカとココアが何か大事な話があるってこの間……」
「だ、大丈夫だったのですかお嬢様は!?」
「心配するな。ちょっと骨が見える程度に手首を切っただけだ」
「……なんだ、それ位か。心配して損したぞ父」
「ホワーッツ!?それは十分大事のような気が?」
いや、だってルンだし。
まあ、それは兎も角青山さんもかわいそうに。
「行き先は判るのか」
「恐らく奥様の所でしょう……色々と悲痛な覚悟を決めていたようです」
「マナは本当にろくな事をせんな。とは言ってもアレがわらわの婆なのだが……」
……まあ、仕方ないな。
意外とあの人の手綱を握れるのは侍従として長年仕えた青山さんだけかも知れんし。
ともかく上手くやってくれるのを祈るしかない。
「……そうだ。ここまで来たんだ……暫くオドを借りたいんだが」
「な、なにか、これに落ち度でも……?」
こんな事があった後の上、オド自身に前科があるのでジーヤさんも戦々恐々だ。
だが、別に悪い事じゃない。
「銃の量産が進んで騎馬隊にも回せそうなんだ。魔道騎兵の火力の底上げをしたい」
「イエッサー!どんな武器かは良く存じませんが、このオドにお任せを。必ず使いこなします!」
「頼むぞオドよ。我々と……それ以上にお嬢様の立場をこれ以上悪くするな」
そんな訳でオドを連れて一路アクアリウムまで帰る事となったのだ。
恐らく、時間があるうちにどれだけ戦力を整える事が出来るのか、
それが今後勝負を分ける。のかも知れない。
ついでなんで機種転換訓練も受けてもらいたいしな!
「もぐもぐもぐもぐ、であります」
「まだたべてる、です」
頭上を見上げると白い影。
……今日もリンカーネイトの空を、コケトリスが元気に飛び回っている……。
……。
翌年。
ハピに第一子が生まれようとしていた頃、
急報が入る。
シバレリア帝国、マナリア王国に侵攻。
王都は即日陥落し女王ロンバルティア19世陛下は討ち死に。
そして、その戦いで帝国の先頭に立っていたのは、
30年前の戦いで死んだはずの……魔王だったと。
***大戦の足音シナリオ 完了***
続く