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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 63 商道に終わり無し
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/08 10:17
幻想立志転生伝

63

***商人シナリオ5 商道に終わり無し***

~遥か異郷にて、故郷遠く離れ、それでも先に進む~


≪side 別大陸、とある山村の村長≫


「はい、それではあの屋敷は今日からあなた方商会の物になります」

「です!」

「じゃあ、代金支払うであります。現金で」


どさり、と置かれた麻袋の中身を確認する。

ふむ。これが最近別大陸から流れてきたと言う新しい金貨か。

他の村長連中はトレイディア金貨とか言っておったか?

いや、それは古いほうだ。

これは古い金貨に比べ装飾も細かく、純度も高い。

リンカーネイト金貨……だったかな?


……軽く噛んでみる……メッキではない。

横を見ると横にいる息子が軽く頷いた。

普段はお城で文官として働いている息子はこれで中々金の質に対しては五月蝿い。

それが何の懸念も無さそうである以上、この金貨の価値は本物なのであろう。

ふふ、この日の為に帰省させておいて正解だったか。


「判りました。ではこれで商談成立とさせて頂きます」

「しかし、これだけの良貨をこれだけの数用意できるとは……カルーマ商会のお力が知れますな」

「いえいえ、です」

「リンカーネイト鋳造のお金は質が良いであります。自信を持って勧められるでありますよ!」


半ば本音でもあるリップサービス。

そう、わしらの目の前に居るのは今度村への出店が決まった、

カルーマ商会と言う名の商人達である。

その使いは……まるで見た目は幼い子供のようにも見えるが、

商人、それも特にあの大陸と取引のある港の連中は対等な扱いをする。

つまり、それだけやり手だと言う事だ。


あの細められた目の中にどれだけの物を抱えているのかは知らぬ。

だが、我が村の利益を損なう事だけは許してはならんのだ。

……さて、ここからが正念場かも知れんな。


「ところで、この村で商売したいとの事ですが……何を商われるので?」

「こちらから提供できるものといったら、精々質の良くない農畜産物か材木くらいですが」


息子が言ったが残念な事にこの村で他所に出せるような物は殆ど無い。

何せ、山の中。不便さは語るまでも無い。

自慢だった鉱山は先日突然ガスが出て採掘できなくなってしまったし、

お陰で村は一気に寂れてしまった。

……こんな村に新規出店?裏があるに決まっている。


「なんでも、うるです」

「生活必需品からドレスとか宝石、香水とかも仕入れてくるでありますよ?」


……ふざけているのだろうか。


「残念ですが生活必需品は自前で何とか出来ますな。嗜好品は買う余裕のある者が……」

「しおとか、おやすくする、です」

「お金が無いなら働く場所はこっちで用意。材木があるなら木工芸品や家具が出来るであります」


……そう言えば、買い取った昔の領主館の他に何件か大きな小屋を作っていた。

商品の倉庫にしては大きいと思っていたが。


「……確かに働く場があるなら多少は物を買うことも出来ましょう。ですが売れるのですかな?」

「そうですよ?確かに木材加工の技術はありますが街の職人に敵う訳も無い」


「ちっちっち。じゅよう、とは、さがすではなく、つくる、です!」

「売れる場所に心当たりはあるし、街から職人さんを親方として連れてくるであります」


……もし、これが本気ならこの村は、蘇る。

鉱山と言う仕事場を失った村人達も新しい仕事が手に入るし、

彼女達の上げた職人の名は、街でも有数の実力者ばかり。

彼等の元で働けばその技も手に入ると言うもの。

質の良いものが作れるようになれば、それだけでこの村は食っていける!


だが、鵜呑みにして良いものだろうか。

上手い話には当然裏があるはず。それが何なのか判らない限り容易に信じるわけには。


「して、それに対しあなた方は何を望んでおるのだ?」

「と、父さん!」


ちと性急な聞き方だったかも知れん。

だが、わしは元々ただの村長。

街のお偉方連中のような腹の探りあいなど、元々向いていないのだ。

なら、直接聞くしかあるまい?


「……ぶっちゃけると。こんごともよろしく、です」

「要するに、この村を家の商会の木工芸品生産の一大拠点にしたいであります」


ふむ?


「でんらいのわざ、かこいこむ、です」

「技術流出をするとそれだけで負け。この村は街から離れてて隠し事に向いてるであります」


……そう言う事か。

ま、それなら良かろう。

なにせ、街の職人達の技はこの村の若い衆に受け継がれる。

それはきっと大きな財産となるだろうからな。


それに。


「それに、考えてみたら商館用の建物を売り渡した時点でこちらに否応もないですからな」

「それでも、きちんとせつめい。です」

「それが誠意ってものでありますよ!」


……息子と顔を見合わせ、お互いに苦笑する。

わし等は一体何をしておったのか?

相手を疑うばかりで……何か良い事があるのか?

無いだろう?


「えと、じつは……おやまから、きんが、とれなくて、むらがぼろぼろって……きいて……」

「何て言うか、何かしないとと思ったでありますが、ほら。あたしら商人だし……」


そうか。

何かしてあげたくとも利益にならないことは出来ないと?

……という事は、わし等のため!?


「なぜ、そこまでしてくれるのか?あなた方には何の得も……」

「りえきは、でるから、もんだいなし、です」

「そうそう。このまま飢え死にされたりしたら夢見が悪いでありますし」


……なんと、なんと優しい娘っ子達なのだろう。

この、世知辛い世の中でこんな話がまだ残っていたとは……。

ああ、まずはなには兎も角疑ってしまう、自分達の性根が憎らしい。


「判りました。そこまで考えていただけるなら何も言えません」

「久々に村へ帰ってきた甲斐がありました。何時かは街の方へもいらして下さい」


「いえいえ、です」

「街のほうは、もう少し落ち着いたら出店するでありますよ」


「それじゃ、いそぐので、ばいばい、です」

「サヨナラであります!」


そう言って彼女達は帰っていった。

……いやあ、昨今見ないほどの理想的な娘さん達だ……。


……。


≪side アリス≫


「はふぅ。つかれた、です」

「そうでありますね」


あたしらは数ヶ月前に下から掘りつくして廃鉱にさせた鉱山の傍にある村に来てたであります。

大陸から遠く離れたこの場所は、

基本的にあの大陸で動くにいちゃの物語とは全く関係しないのでありますが、

商売には国境も大陸の違いも無いのでありますよ。


「帰りに隣村に寄って、ミルク買ってくであります」

「です!あのむらの、みるく、おいしい、です」


で、なんでこんな山の中に工場を建てようとか言っちゃってるかと言うと、

さっき言った事も本当でありますが、主な理由は要するに罪滅ぼしであります。

やっぱり鉱山一本の村は鉱山無いと滅びるでありますよね?

流石にそれは酷すぎるのではないかと言うアリサの判断であります。


まあ、それに我が一族繁栄の為に役立つし、

流石にあたしも罪悪感を感じないといけないような気もしないでも無いので、

お世話をする事に決定したであります。


「おちびちゃん達、香水有難うね!」

「しきょうひん、よかった、ですか?」


あ、村長さんの奥さんであります。

最初は胡散臭く見られたけど、今は違うでありますよ?

試供品の香水とドレスのプレゼントで180度態度が変わったのであります。

え?賄賂?

違うであります。潤滑油でありますよ。


「そりゃあもう。ふふふ、10年若返った気分だわ」

「それは何よりであります」

「こんごとも、かるーましょうかいを、よろしく、です」


アリシアと二匹でお辞儀であります。

謙虚な態度と言う奴が大事だとにいちゃに言われているのでありますからね。


「それじゃあ、豚の世話があるから……またね」

「ばいばい、です」

「これからも、お世話になるでありますよ!」


手をふりふり山道を行くのであります。

そして、隣町でミルクを買ってゴクゴクと飲みつつ、


「よぉ、綺麗な服着たお嬢ちゃんよ……ちょっとオジサンにお金カンパしてくれないかい?」

「すこーーーっぷ!」


「ぐはあああっ!?」

「……銅貨10枚に使いかけの傷薬……しけてるであります」


盗賊から金目のものを分捕り、


「ガオオオオオオッ!」

「おおっ、わーたいがー、です」

「生け捕りにしてはーちゃんへの手土産にするであります!」


「ガウ!?」

「ぼこる、です!」

「手足の2~3本は構わんであります!」


襲ってきた魔物をお土産にして、


「とうちゃく、です」

「ふう、疲れたでありますが、芋虫は何処に居るでありますか?」


「誰が芋虫ですか?ここに居るのはハニークインちゃんなのですよ?」


自称魔王軍参謀、

ミツバチの女王ハニークインと合流であります。



ここはにいちゃのいる大陸とは別な大陸の一つ。

今回はちょっと気になる情報を掴んだりもしたのであたし等で解決に来たのでありますよ。

……ついでに商会の活動範囲も広げるのであります。


「とりあえず、この街は無人化してたので商会に買い取らせたであります」

「はつあんしゃは、ハニークインだと、きいた、です」


「ふふん!良くぞ聞いてくれたのですよー」


あたし等同様ありもしない胸を張って……ありもしない……まあ良いであります。

ともかく胸を張って説明を始めたハニークイン。

長くて眠いでありますが、その話を要約するとこうなるのであります。


「ようするに、さりげなく、リンカーネイトの領土に加えるのでありますか?」

「そうですよー。誰も治めてない所を商会関係者だけで固めればあら不思議なのですよー」


ふむう。まあ、判らないでも無いです。

今のリンカーネイトは当初の目的である隠れ家からは離れすぎたであります。

もう、排除される可能性は低いでありますが一応逃げ場は用意しておくべきでありますか。


……アリサも大賛成のようであります。


「この辺は山国で、お塩とか高く売れるのですよー。魔王軍の良い資金源に」

「ならない、です」

「そっち関係の儲けはあくまで商会に帰結するであります。そっちの取り分は卵の分だけ!」


とりあえず、さっきの村での木工品や家具が軌道に乗ったら、

木材と合わせて本国に送り出すであります。

村の人たちは気づいて無いけど、何気に木材の材質は一級品なのでありますし。


……あ、アリサからの命令であります。

ふむふむ、苗木も生かしたまま持ってこい、でありますか。

売れるのでありますかね?まあいいか。承知であります。


あれ?ハニークインがどんよりしてるであります。


「魔王様、申し訳ないのですよー。あんまり予算増やせそうも無いですよー」

「まあまあ、とりあえず大きな商談が纏まったでありますからお祝いであります」

「うまーな、ごはん、いっぱいよういする、です!」


……ハニークイン、よだれ。

アリシアも、よだれ。

ついでにあたしも、よだれ。


……ふきふきしないと汚いであります。


「あ、そうだ……ワータイガー捕まえたから引き渡すであります!」

「おお、これはかたじけないのですよー。でも、餌代かかりそうな猛者ですねー……」

「ガオオオオオ……ぉぉぉ……(簀巻きはもう嫌だーっ)」

「どなどな、どーなー、です」


……。


さて、その日の夜であります。

今回最大の懸念を払拭すべく、この辺を任されているアリシアの一匹と合流したのであります。

そんでもって、現在は会議中。

今後の商会と魔王軍の行く末を決める大事な会議なのでありますよ?


「では、まず、げんざいの、かるーましょうかいの、ひろがり、です」


ごそごそと広げられた、この大陸の地図。

ふむ、西側は港町を中心に満遍なく支店が出てるでありますね。

だけど、中央当たりを境にして、大陸の真ん中への出店が無いであります。

港を中心の繋がり……まるでドーナツであります。


「みてのとおり、このたいりくの、まんなかには、してん、ないです」

「判ってて聞きますけど、何でか教えて欲しいのですよー?」


「……まおうぐん、の、せい、です」

「意義有りですよー。魔王軍とは魔王様の軍隊。アレはニセ魔王軍と言うべきですよー?」


正直、どっちでもいい。

でも、魔王を名乗る魔法使いの人間が色々悪さしてるのは大問題であります。


……はーちゃんに、

引いてはねえちゃ、挙句にいちゃにまで迷惑がかかるのは容認しかねるのであります。


「で、そのニセ魔王の情報はどれだけ掴めてるのでありますか?」

「うーん。もともとは、ふつうのまほうつかい、です。けど……」

「報告書によれば、借金で身を持ち崩して盗賊に身を落としているのですよー」


でも、それだけじゃあ、終わらなかったという訳でありますね。


「得意の魔法で荒稼ぎしてるうちに、いつの間にか盗賊の数が千人越えでありますか」

「あげく、このへんで、いちばんおおきいおしろを、おとしちゃって……」

「周りが勝手に魔王とあだ名したと。全く、本物からすると迷惑な話ですよー?」


本当であります。

ただの盗賊と世界を守る管理者を一緒にされては困るのであります。

……こう言う傍迷惑な輩を見ると、人間は何故か魔王にしたがるでありますが、

そんな関係ないところでまで魔王のイメージを下げられても困るのであります!

既にはーちゃんは身内も同然。

それにお仕事にも差し障るし、そのニセ魔王はどうにかしないとならないのであります!


「……ふむ。皆さん憤ってますねー」

「当たり前であります」

「はーちゃんの、にせもの。しかも、すきかってばかり。むかむか、です!」


と言うか、ハニークインの笑顔が引きつってるであります。

一番怒り心頭なのはお前ではないのでありますか?


「正直、今すぐ潰したいですよー?」

「あたしも、です」

「あたしもであります」


でも……でも……!

……あれ?


「ところで。なんで倒せないのでありますか?」

「それは、周囲を他国の兵士達が常に囲んでるからであります」


まあ、当然そうなるでありますね。

でも、お城の防御力はこれで中々高くて攻めきれないで居ると。

ま、向こうとしてはこのまま囲んでれば日干しになると言う魂胆なのでありますが。


「でも、ニセ魔王側はお城の非常口を利用して、普通に獲物の物色に動いてるのですよー」

「お城自体も基本的に難攻不落。あいつらは元々出入り業者に化けて落としたそうであります」


その時、ドアがバタンと開いたであります。

って、はーちゃん!?


「わらわの偽者が居ると聞いたが真かハニークインよ!?」

「魔王様!?なんでここにいるのですかー?」


と言うかびしょ濡れ……ああ、地下水脈を流れてきたでありますね?

まったく、何て命知らずな。

三日も流され続けて溺れ死ぬ可能性を考えなかったのでありますかね?

……にいちゃ達が心配しても知らないで有りますよ?


「ええい!その痴れ者を叩き潰すぞ!?」

「ふかのうでは、ないです」

「でも、相手はお城に篭ってるし被害はでかくなるであります」

「それに問題はむしろ、周囲を取り囲んでいる他国の兵士達なのですよー」


「むう……それら全てを相手取るのは流石にきついか」

「外装骨格出せば楽勝ではありますよー」

「ただ、その後の泥沼を考えるとお勧めできないであります」


気持ちは痛いほど判るでありますが……、

兵隊を無茶な戦争に出しちゃ駄目でありますからね。


「じゃあ楽に倒す方法は無いのか。クイーンの分身たちよ!?」

「いや、仮にも城に篭った相手でありますよ?それを倒す手段なんて……手段、なんて……」

「……ある、です」


そういえば、あるでありますよね。

しかも一杯。

……あれ?もしかして……別に悩む必要無いでありますか?。


「そういえば、幾らでもやり様はあるのですよー?考えてみれば」

「たしかに。です」

「ならば良し!わらわは幾度と無く現れた偽者を討伐出来る日を楽しみにしていたのだ!」


……そっか。

自分の事で手一杯で、一応牽制や陽動代わりになるニセ魔王に対処は出来なかった訳でありますか。

まあ、ムカッとはしてたと思うでありますし、お手伝いするでありますよ。


「でも、魔王軍とか名乗りを上げながら白昼堂々と突っ込むのは無しでありますよ?」

「……信用無いな。まあ、仕方ないが。だが、たまには魔王として動きたい……」

「ふふ、ご安心あれなのですよ!つまり、白昼堂々で無ければ良いのですよー!?」


ふえ?


……。


≪side 魔王ハインフォーティン≫


「頃合は良し……わらわは良いが、皆の準備は良いか?」

「もーまんたい、です」

「覆面良し、装備良し、別働隊配置良し、であります」

「魔王様、何時でもいけるのでありますよー……ふああぁ」


……ハニークインよ。策を立てたお前が寝こけてどうする。

頼むからしっかりしてたもれ、だ。


「……痛いのですよー」


ともかくウトウトしているハニークインを張り倒して目を覚まさせると前方を見据えた。


「流石に暗いな」

「まあ、夜中でありますしね」

「というか、ここ、ちかだから、あたりまえ、です」


うむ。そう、地下なのだ。

……要するに、自前で穴を掘って敵の本拠地地下まで来ていたと言う訳だ。

しかも夜中の為、周囲を取り囲んでいる兵隊達も見張りを除いて寝ているらしい。

気付かれずに事を進めるには良い機会だな?


「では行くぞ。ハニークインよ、後に続け!」

「行くのですよー?」

「じゃ、あたしらは、べつこうどうで」

「武運を祈るであります!」


ちょろちょろと崩れた石壁から消えていくクイーンの分身たち。

さて、ここからはわらわとハニークインの二人だけ、


「じゃ、兵隊蟻さんたち、道案内兼露払いヨロシクなのですよー」


じゃ、ない!?


「ハニークインよ、教えてたもれ?兵隊蟻どもは秘中の秘。世に晒してよい物なのか?」

「まさか。今頃別働隊が外の軍隊の見張りは無力化してるでありますし……実戦テストですよー」


ふうむ。成る程。

最初から存在を表に晒す気は無いか。

存在を秘匿するようにした、その上で一度実戦で使ってみると言う訳だな?

まあ、あのクイーンの配下が愚かしいと言う事は無いと思うが、

たまには演習も必要だと言うことだな。

……そう考えると、後ろ盾の無い割に規模の大きいこやつらは格好の敵と言う訳か。


「とりあえず急ぐのですよー?見張りの無力化なんてそう長持ちする物でもないのですからねー」

「違いない。行くぞ!」


地下から飛び出し、予め子蟻に偵察させていた賊どもの寝ている部屋に忍び込む。

酒の匂いがするところを見ると宴会でもしていたのであろうか?

兎も角ぐっすりと寝入っている盗賊がひいふうみい……20人ほど。

連れてきた全員で一匹に付き一人づつ枕元に立ち……、


「せーの」

「そりゃ!行くのですよー」


わらわが斧を脳天に振り下ろすと同時に、兵隊蟻がそれぞれの担当に頭からかぶりつく。

……断末魔を上げる間も無くスイカ割りと化した現場を後にしたわらわ達は、

続いて見張り台の下に移動。

上で遠くを見ながらあくびをしている暢気な見張りを見つけると、

わらわはふわりと上昇、後ろからそろそろと近づいて……。


「……横薙ぎ一刀両断」

「へ?」


首を刈る。


「オーケーなのですよー?」

「うむ、では次の場所へ向かうぞ!」


地面に落ちた首はあえて片付けない。

血を処理するには時間が掛かるし、

これが見つかる前に事を済ませれば良いだけだ。


「では、兵隊蟻どもよ。ここから先は姿を見られる恐れがあるゆえ別行動だ。大義である」

「じゃあ、いきますよー」


わらわが浮遊し、ハニークインは羽を羽ばたかせる。

ぶーんという蜂特有の音を響かせながらわらわ達は外側から一気に城の上層階へと向かう。


「バルコニーから、潜入なのですよ?」

「うむ。道案内をしてたもれ」


ぽてん。ころころとバルコニーに着地。

そのまま玉座の間になだれ込む。

……ターゲット、発見だ!


「貴様等……何処の国の暗殺者だ?へ、へへ……けどな。この俺を倒せると思うなよ……」


ぞろぞろと盗賊どもが集まってきたな。

まあ、音も無い襲撃に雰囲気だけで気付いて、

予め防御機構を整えていた玉座の間に兵を招集したその手腕はとりあえず見事。

だが……相手が悪かったなニセ魔王よ!


ドン……と音が響く。

今回の襲撃で初めての大きな音だ。

そして、玉座の間両側面の壁が吹っ飛び、

中からクイーンの分身どもに率いられた兵隊蟻どもが飛び出してきた!


「たべる、です!」

「薙ぎ倒すでありますよ!すこーーーっぷ!」


「わらわ達も行くぞ!」

「えーと、ハニークインちゃんはミツバチなので後方で見学の方向で」


そういえば、針が内臓と直結してて、下手に刺すと死ぬのだったか。

ま、それなら仕方ない。

爺の斧……銘を"根切り"と言うそのトマホークを振り回しつつ突撃をかける。

ふっ、"ルーンハイム伝来遠近両用投擲戦斧根切り"略してネギアックスを食らえ!


「こ、このチビ!」

「効かんな!」


ナイフが脇腹に突き刺さるが、どうって事は無い。

……魔王の生命力を舐めないでたもれ?

逆に斧で脚を膝から断ち切ると、崩れ落ちた脳天にもう一撃を食らわす。


む!ニセ魔王めがなにやら詠唱を。


『昼下がりの団地妻、第一章 酒屋の若旦那……』

「ちっ!何の詠唱だ……まあいい、叩き潰す!」


玉座の間を埋め尽くすほどの盗賊どもの群れ。

わらわはその頭の上を踏んづけながら先へと進む。


『ああ、いけませんわミカワヤさん。……奥さんが魅力的なのがいけないんです。これを……』

「短縮詠唱ではないのが幸いだが……ええい、足を掴むな!」


流石に楽に先に進ませてはくれないようだ。

待てといわんばかりにこちらの足を掴んだ男の腕を両断し、

そのまま飛び上がり、魔力弾頭を乱射する。


次々敵は倒れていくが、その間にもニセ魔王の詠唱は続く!


『まあ、お米券!?……はい、20kgのを三枚。ですから……そ、そんな。でも……』

「くっ、いっそ一度は食らってやるか!?」

「だめ、です!」

「あの詠唱は逃亡(エスケープ)!旦那が帰ってくる所まで詠唱されたら逃げられるであります!」


なんだと!?

くっ、こちらは蟻どもまで晒している。

奴を逃がせる訳が……。

そうだ!


『いいじゃないですか!だって旦那さんは……ああっ、言わないで。でも、ああ、ミカワヤさん!』

『魔王特権発動!眼光!(アイビーム)』


「『ただ今帰った、ぞ!?……ああ、あなた、違うの!……しまった、今日は逃』ぐはああっ!?」

「痛みしかなくとも、それだけで詠唱は続けられまい?貴様が根性無しで助かった!」


悶絶するニセ魔王を逃がさんとばかり突撃するも、何か不可視の壁のような物で阻まれた。

もう、これでもかと言うくらいビターンと。

痛……は、鼻が痛いぞ……。


「だいじょうぶ、です?」

「むむむ、これは厄介な……この強度は自宅警備(マイホームセキュリティ)辺りか?」

「何でありますかそれ」

「ああ、準備にやたら手間がかかる半永続防御魔法なのですよー」


まさかまだ失伝していなかったとはな。

あれは術者が引き篭もるゆえ、伝承者が途切れやすい筈なのだが……。

まあいい、恐らく最後の術者であろう。

……後で印と詠唱を聞きだして破棄してやるわ!


「なにがむむむだ……俺を馬鹿にしてただで済んだ奴は居ないぞ……」

「と、言いつつ後ろに下がる、であります」

「たしか、ぎょくざのした、ひみつつうろ、です」


ぴたっ、と動きが一瞬止まった。

どうやら図星らしい。


「ふ、ふふふふふ……魔王とまで呼ばれるこの俺が、逃げるとでも思ったか?」

「はいです」

「別に泣かなくても良いでありますよ?」

「まあ、それにわらわも魔王がトンズラするのも最近は有りのような気がしてきたしな」

「おにーさんの薫陶なのですよー」


……沈黙が、痛い。


「て、手前ぇら……馬鹿にしやがって!なら、コイツを食らえ!」

「む、何か来るぞ!?備えよ!」

「はいです!」

「すこっぷがーど!」

「スコップガードしてる人の後ろに隠れる、ですよー」


パンと胸の前で手を叩くと両手を上に掲げる。

そして!


『困った時の神頼み!……神召喚!(コール・ゴッド)』

「な、なんだと!?」

「かみさま、よぶですか!?」


驚愕する暇もあればこそ。

そして、神が光臨した……!


……ボタボタボタ、と言う効果音と共に。


「……あるぇ?」

「ばらばらしたい、です」

「それと、これ、刃物ですねー。ノコギリみたいにも見えるのですよー?」

「あ、そういう事でありますか。まさに神であります」


わらわにはさっぱり訳が判らん。

とりあえず、数秒後に"神"は消えた。

……呆然とする術者とわらわ達、そして謎のノコギリのような物を残して。


「いったい何だったのだ?誰か教えてたもれ」

「えーと。かみ、です」

「とりあえず、アレは神の成れの果てである事は保障するであります」


「わ、ワンモアちゃんす!あ、あれは師匠から最後に受け継いだ魔法でまだ成功した事が無かったんだ!だからもう一回!」

「ニセ魔王がぶっ壊れたのですよー」


なんと言うか、止める隙も無かった。


『困った時の神頼み!……神召喚!(コール・ゴッド)』

「あ、また、です!」


再び光臨する神。

……と言うか、ちょっと匂う男。


「か、神か!?」

『ほら、二次エロ画像ZIP満載のDVD。焼いたからUPしてやんよ』


そして神は消えた。

一枚の光る円盤を残して。


「こ、これは神の残した神器か……?」

「……」


何も言えなかった。

奴は古代語を理解できていないようだったが、それは余りにも幸いな事だったろう。

わらわにも何を言ってるのか良く判らなかったが、とりあえずアレが戦闘用で無い事は判る。

哀れすぎて本当に声も出ん。


「よ、よし……とりゃ」

「きゃっち、です」


「うぼぁあああああああっ!?」


挙句武器と勘違いして投げた円盤を奪われ半泣きに陥る始末。


……。


『困った時の神頼み!……神召喚!(コール・ゴッド)』

『困った時だけの信仰で助けてくれると本当に思っているのですか?』


また神は消えた。

……これで何回目だろうな?

福の神が出てきてお金をくれたと思ったら、

次に貧乏神が出てきてさっき貰った分+αを持っていかれたり、、

疫病神に病魔をうつされたり……。

後は新世界の神とか神と言うより紙とか。

なんと言うか……簡単に言うと、当たりが一個も出てこなかった。


「……邪神や破壊神の類が出てこられても困るし、そろそろ止めるか?」

「そのひつよう、ないです」


『困った時の、か……み……』


「あ、倒れたでありますね」

「精魂尽き果てたって感じなのですよー」


魔力を使い果たした術者の気絶に伴い解除された結界を踏み越え、ニセ魔王を確保。

すっかり食い尽くされた盗賊どもの残骸を尻目に地下へと戻る事にした。


「じゃ、おとす、です」

「証拠隠滅であります!」


最後に城ごと崩落させて完了と。

……そろそろ夜も明けてきたが、これを見た周囲の兵隊達はどう思うのであろうな?


「まあ、ともかく。しょうばいのじゃまもの、かたづいた、です」

「早速支店を出すのであります」

「良い商品も手に入って、万々歳なのですよー。魔王様?」


なぬ?

商品?


「にせまおう、いくらでうれる、です?」

「まあ、引渡し先の国家の勢力と財務状況にもよりますが……」

「金貨百枚はかたい、とハニークインちゃんは思うのですよー」

「……」

「まあ、元気出せ」


泡を吹くニセ魔王の鼻から子蟻が何匹も体内に侵入している。

もう直ぐクイーンの忠実な下僕がまた一匹増えるのであろう。

ま、それはどうでもいい。

わらわもまだまだ修行が必要なようだ。

それが判っただけでも儲け物という物だ。


「とりあえず、さっさと流されて帰るか。父には言ったが母には内緒でこっち来たしな」

「おしりぺんぺん、かくごする、です」

「ルンねえちゃ……怒ってるっぽいでありますよ、ガクブル」


……えーと。


「帰るのは明日と言う事にしてたもれ?」

「だめ、です」

「ただでさえ帰還に三日は必要なのですよー?」

「これ以上帰りが遅くなると、もっととんでもない事になるのであります」


……なんと言うか、トホホである。

ああ、わらわが魔王らしい威厳を取り戻す日は、一体何時になるのであろうな……。


……。


≪side カルマ≫

一週間ほどハイムが姿を消していた。

まあ、許可は出していないものの、俺は話を聞いていたし、

アリサ達からも近況報告を受けていたのでそれほど驚かずに済んだが、

事情を説明してもオロオロしていたルンが印象的だった。


「ち、父……治癒を……治癒を……」

「判った判った」


娘が帰ってきたその次の日。玉座に座っていると、

ヨロヨロと、赤く腫れ上がった尻に濡れタオルを乗せたハイムが匍匐前進で近づいてきた。

ルンに折檻を食らったらしいが、まあ、自業自得と諦めているらしい。

……とりあえず反省はしているらしいので治癒をかけてやると、

ハイムは軽く飛んでぽすんと俺の膝の上に納まった。


「し、死ぬかと思ったぞ……」

「ルンは本当に死に掛けてたけどな」


はーちゃんが居ない、はーちゃんは何処、

と夢遊病患者のように城を彷徨うルンは見るに耐えなかったからな……。

余り心配かけるなよ?


「とりあえず、話しただけでなく許可まで取ってたら俺も庇ってやれたんだが」

「うう、偽者が出たから退治しに行くと言ったではないか」


「……返事も聞かずに飛び出していったじゃないか」

「まあ、それはさておき」


置くな。

とは、あえて言わないでおく。


「にいちゃ、ほうこく、です」

「ニセ魔王、金貨600枚で売れたであります!」

「おお、わらわ達が思ったより高値が付いたな」

「向こうの大陸のカルーマ商会支部へ、各国より感謝状が届いております、ハイ」


その時、アリシアとアリスがルイスに伴われてやってきた。

……まあ、俺としては別大陸の事にまで関る余裕は無いが、

商会が広がっていくのを止める気は無い。

とりあえず大まかな事を報告さえしてくれれば問題は無いってものだ。


「ともかく、向こうの大陸での懸案事項は片付いた、と考えていいのか?」

「はい、です!」

「もうすぐ更にもうひとつ隣の大陸への地下通路も完成するであります」

「これでお米等もコンスタントに輸入できると言う物です、ハイ」


ふむ。それは僥倖。

ボンクラからもカレー用に米を売ってくれと矢の催促が来ているらしいし、

俺としても米の飯を食えるようになるのはありがたい。

……現在の相場は二年前に収穫された古米10gくらいで銅貨1枚だしな……。

高くて普通に食うのが申し訳ないんだよな……常識的に。


因みに銅貨一枚とは日本円換算で100円、

つまりご飯一杯で千円もしてしまうのだ。

別な言い方では1kgで一万円の古米……正直ありえないと思う。


「そういや、米で思い出したが醤油の製法が書かれた本が見つかったって?」

「そう、です」

「もうすぐ届くでありますから、解読ヨロシクであります」

「陛下の仰られる魔法の調味料の実力とやら、早く堪能したいですねハイ」


米の話と違い、そっちは本当にわくわくするな。

久々に焼き魚に醤油をかけて食える訳だ。

まあ、作るのに時間がかかるだろうしまともに使えるようになるには数年かかるだろうが……。


「そうそう。今やリンカーネイトは食の国としても知られるようになりました、ハイ」

「そういえばそうだな」


ルイスが突然話し出したがそれは事実だ。

俺が美味いものを食いたいが為に色々再現させたため再現させた料理が市井に出回り、

一大ムーブメントを巻き起こしているらしい。


「それについてハピさんが何か腹案をお持ちのようですよ、ハイ」

「そうか……じゃあちょっと聞いてみるとするか」

「あいあいさー。ハピに伝えとくであります!」


ちょろちょろとアリスが部屋から飛び出していく。

続いてまだ仕事の残っているルイスがアリシアに背中を押されながら部屋から出て行った。

軽く伸びをすると俺も立ち上がる。


「ハピは執務室にいるようだぞ父」

「ああ、判った……」


……。


ハピの執務室は噴水塔の上層階、俺の部屋から大して離れていない区画に有る。

勝手知ったる、とばかりにドアを開けると、

ハピと……横でアルシェがお茶を飲んでいた。


「総帥、いらっしゃいませ。そちらもお茶いかがですか?」

「あ、カルマ君だ」

「んー、じゃ、貰うかな」

「ハピ、わらわにもくれ!」


背中でパタパタと片手を動かして肩口から存在をアピールするハイムに苦笑しつつ、

勧められるまま椅子に座る。


「茶葉は緑と紅がありますが……」

「俺はどっちでもいいぞ」

「じゃあわらわは緑で!」


差し出されたのは緑茶であった。

……こんな物までこの中世モドキの大陸に入ってくるあたり、

商会の勢力はかなり広がっているのだろう。

そう思うと、どこか誇らしげな気持ちになる。


「さて総帥。多分ルイスさんからお話は聞いていると思いますが」

「ああ、何か新しい商売の腹案があるんだったな」


ハピはこくりと頷く。


「どうでしょう、これだけ異国の食材が手に入るのです。地方の特色を生かした店を作ってみては」

「いいんじゃないか?」


要するに日本料理店とか中華料理店とか。

そういう専門店を作ろうと言う試みか?

悪く無いと思う。


「どうせなら、店員の格好とか店の造りも、各地方っぽくすると異国情緒が出て良いと思うぞ?」

「異国情緒、ですか……いいですね、流石は総帥」

「何か、話半分聞いただけだけど、旅行に行ってる様な気分になれるかも。僕も賛成!」

「わらわには良く判らんが美味いものが増えるのは歓迎だ」


とりあえず、反対の人間は居ないようだな。

ま、後はハピに任せておけば問題ないだろ?


「じゃ、細かい所は全部任せるからな、頼むぞ。」

「総帥、お任せ下さい。必ず成功させて見せます」


いっそ、そういう店の立ち並ぶ街を、

異国の人達も多く来るサンドール辺りに作ってみるのも面白いかもな。

……そうだ。


「この際だ、そう言うのを一纏めにして遊園地にでもしてみるか?」

「ゆうえんち?父よ、なんだそれは?」


「色んな遊ぶ所があって家族連れとかで楽しむ場所だ。無論昼飯を食う所もあったりする」

「遊ぶ所、ですか?」


「そうだな……ハピ。動力が要らない所で迷路とか眺めの良い展望台とか……」


とりあえず動力源になりそうなものに心当たりが無いため、

無難な所をチョイスしておく。

広い花壇とか巨大滑り台、ついでに公園にありそうな物を大型化したようなものまでな。

で、遊び疲れた連中用に何件かの食堂とかあるわけだ。

……中央に劇場でも作って、一日数回の公演をさせても良いかも知れない。


「成る程、確かに意欲的な試みです。並みの公園とは桁が違う、ですが……」

「維持だけでも大金が要るな。国民向けのサービスとしては度が過ぎるのではないか父?」


うんうん、そこに気付くようなら先は明るいぞハイム。

どうやらハピも同意見のようでしきりにうんうんと頷いている。


「そこでだ、周囲を壁か何かで囲い、入場料を頂く訳だ」

「ふむ?だが、立ち入るだけで金が掛かるなら、物好き以外入りはせんのではないか?」

「そうですね……立ち上げが上手く行かない場合大きな赤字部門になりかねません……」


うーむ。確かにそうかも。

それが当たり前になればいいんだが、

ただの綺麗な公園や迷路なんかに金まで出して入りたがる奴がこの状態でいるかは未知数だな。

……とりあえず保留、かな?


「ちょっと待った!って言わせて貰うよー」

「アリサ様?」

「アリサちゃん、僕ら脅かしてどうするのさ?」

「クイーン。天井板を外して現れるな。心臓に悪い」


その時、アリサが天井裏から登場。

器用に天井板を嵌めなおしながら、自らは半回転しつつ着地する。


「それだけだと駄目だよー。だけど、観覧車とメリーゴーランドがあれば話は別!」

「出来るのか?」


ニッ、とアリサは笑う。


「水脈を……水力を利用する。ついでに噴水も作れば良い客寄せになると思うよー」

「ついでに脚漕ぎ式のゴーカート?とかも追加とかな」


「いいねいいね!でも、流石にジェットコースターは無理!でも回転ブランコは何とか……」

「おお、夢が広がるじゃまいか!」


「何を言っているのだこの二人は……」

「うーん。たまに僕らでも近寄れない話をしてる時があるんだよねこの兄妹」

「正直、総帥達が羨ましくなる時もありますね……どんな世界が見えておられるのでしょうか?」


気が付けば、予算の確保まで行っている俺たちを、周囲の三人がじーっと見つめている。

……これは恥ずかしい。

ともかく、立地条件の良い所(地下水脈の速度の速い所)をピックアップするよう命じ、

遊具選定もアリサに一任する。


面白そう、の一念でかなりやる気の高いアリサを解き放ち、

ついでに蚊帳の外状態のハピやアルシェ達にも説明してみた。


「なるほど。しかし、安全を確保する為の予算はかなりの物になりますね」

「乗らない人も要るのに他人の分のお金も入り口で払わされるのはどうかと思うよ僕は」


ふむ、不評だな。

なら……。


「そんなの、別料金にすれば良いじゃあないか」

「えー?それはけち臭くないか父?」


「だが、乗らない奴等からすれば公平感が出る。しかも楽しそうに乗ってるのを下で眺めると?」

「……乗りたく、なる。……ですか」


「ハピ、そういう事だ。しかも、どうせこんな所まできたんだという心理が後押しをする」

「人の財布を狙う悪党だな父は」


悪いか?それに相手も満足させられるぞ。

何せ世界でここだけ、って奴だ。

乗るだけで自慢の種が増えるってもんさ。


そして、こう言う"心の栄養"を体の栄養と一緒に与えておけば中々不満は爆発するもんじゃない。

世の中を治めるコツは、民にパンとサーカスを与える事とはよく言ったものだ。

つまり、俺達の足元を固めるという意味でもこれは有用なものとなる。


「と言う訳で、後でアリサと細かい所を詰めてくれ。俺の責任でこの計画を推進するから」

「承知いたしました総帥」

「それにしても、カルーマ商会って何処まで行くの?僕、もう全体像が把握できないんだけど?」


……ん?

そんな事、決まってるさアルシェ。


「終着点なんか無いさ。商いの道に終わりなんか無い」

「……本当に?」


「ああ。何せ一度進んだ所でも、探せば新しい商売の種は必ず転がってるもんだからな!」


気が付けば、トレイディアの外れカソの村に始まった俺の旅は、

大陸の南端レキ砂漠に及んでいる。

そして……その途上で作り上げたカルーマと言う名と商会は半ば一人歩きし、

遂に俺の目の届かない別大陸にまでその勢力を伸ばしつつある。


終わりなんて有る訳も無い。

何せまだ、実現出来ていない物も腐るほどあるのだから。

簡単に作れそうに思うものだけでも、安全剃刀とか高枝切り鋏など色々ある。

第一、生活必需品の需要が無くなる事など無い。

そして……。


「にいちゃ!それにはーちゃん、いたです!」

「ルンねえちゃ、探してるでありますよ?」


「うわっ!?は、母を放って置くのは危険だ!父よ、戻るぞ!?」

「はいはい、判った判った」


この蟻ん娘どもが居る限り、カルーマ商会が無くなる事は無いのだろう。

……そんな事を思いつつ、

俺はハイムが見当たらず情緒不安定に陥っているであろうルンの元に向かうのであった。


ん?アリサが戻ってきたぞ?


「言い忘れてた!兄ちゃ……こないだ崩落させたお城、遊園地に移設しておくねー」

「はいはい、好きにしろ」


「ニセ魔王城は入場料お一人様銅貨3枚くらいで良いかな?」

「ちゃっかり別料金取るのか。……良いんじゃないのか?」


ま、コイツ等もすっかり商売人だ。

飽きる事なんか、無いだろう。

それに……餌を地道に探すより、金を出して買うほうが色々な意味で楽だと、

蟻ん娘どもは理解している筈だ。

何せ一番厄介な人間との衝突が無く、逆に行動を制御できてしまうのだから。


だから、カルーマの商道に、終わりなんか無いのだ。

何時か……コイツ等が居なければ世の中が回らないようになる、のかも知れない。

ま、アリサ達に人間をどうこうするつもりは無いからな。

地上と地下への住み分けで上手くやって行くような気がするよ。


さて、とりあえずさっきも言ったがルンと合流だ。

そろそろ商都軍も動き出した頃だし、そちらの動きに合わせて対応を練らねば。

……俺も随分この世界に慣れてしまったもんだと思う。

ただの大商人、カルーマだった頃で俺の望みとしては十分だったんだけど……。

ま、何を今更だな。

商会はハピと蟻ん娘達に任せて、俺は俺の戦場に行くとしますか……。


***商人シナリオ 完了***

続く


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