幻想立志転生伝
60
≪side ガルガン≫
カルマとスーが騒ぎ、よく判らん匂う貴人が店に現れたその翌日。
……何か朝から街が騒がしいのに気付く。
「……あたまいたい、です」
そして早朝の人気の無い店内の隅でアリシアが一人頭を抱えておった。
やれやれ、またろくでもない予感がするわい。
「おはようさん。朝が早いのう」
「あ、おはよう、です」
「……で、どうかしたのかの?朝っぱらから頭など抱えて」
「いま、だいせいどう、から、はーちゃんが、こっち、むかってる、です」
大聖堂?はーちゃん?
ふむ。カルマの娘か……で、それがどうしたのか?
「おばかが、へいたいさん、つれてきてる、です……」
「別におかしくないじゃろう?一国のお姫様なんだしの」
む、暗くなった。こう、背負う影が濃くなった感覚と言うかな?
……どうしたというんじゃろう。
「……ごうりゅうさせた、へいたいさんの、しゅぞくが、だいもんだい、です……」
「どう問題なのであるか?アリシアよ」
なんじゃそれは、と思ったとき……上から誰かが降りてきた。
階段を軋ませ降りて来たのは、件の紳士じゃ。
それを見てアリシアがひょこっとお辞儀をする。
ふむ?知り合いなのかの?
昨日も顔を見て驚いておったしな。
「ルーンハイムのおじちゃん、おひさしぶり、です」
「うむ……元気そうで何よりである」
「ルーンハイムじゃと?」
「はいです。ルンねえちゃの、おとうさん、です」
「まてまて。ルンの父親は一年以上前に亡くなった筈じゃ!?」
「ああそうだ。我は死んだ……だと言うのにまだ存在している……」
その言葉にわしは気付いた。気付かされてしもうた。
「まさか……アンデット!?いや、使徒兵ですかの……?」
「そうだ。どう言う訳か自我は残っているが、我が心臓は既に鼓動しておらぬ」
なんと言うことだ。
そうなるとわしの目の前に居るこの方はかつてのルーンハイム公爵その人ではないか!
そして必然的にカルマとスーの義父であり、
今こちらに向かっているカルマの娘からすると祖父と言う事になる。
驚いた……とんでもない大物じゃ……。
「して、兵の種族が問題とか言って居たが、連れてきた兵は一体何なのだ?」
「……すぐわかる、です。ついでにたぶん、とんでもない、しつげん、するにちがいない、です」
「失言すると判っていて、周りは誰も止めんのかのう?」
む。今度は遠い目になったぞ!?
大丈夫なのかの?
この子は以前から異常なほどに良く働く娘だったが……。
「とめても、むだ。です……そうだ。せめて、すこしでもあんぜん、かくほするです」
それだけ言うとアリシアは"あとしまつ、です"とか言いながら店を出て行ったのじゃ。
ああ、きっとまた禄でも無い事になるに違いないの……。
「大変だぜ親父さん!」
「コテツか?どうかしたかの」
続いて飛び込んできたのはコテツ。現在うちで一番の冒険者じゃ。
……とは言っても戦闘だけBランクで総合は未だDランク。
かつてと比べればお粗末としか言いようが無いがの。
「百匹を超えるコボルトの群れがこの商都に向かってるって話だ」
「なんじゃ。別に百匹程度のコボルトで何を騒いでおる?その数じゃ商都の城壁は抜けんわい」
「……だけどよ。その集団の中にオーガが居るとしたらどうだ?」
「何じゃと!?オーガがコボルトを率いているじゃと!?」
有り得ん。
何をどうしたらそんな事になるのじゃ?
「しかも、そのコボルトは揃いの鎧兜で武装してるらしい。大仕事の匂いがしないか親父さん?」
「……コボルトが、揃いの装備で行進……まるで軍隊ではないか」
「そうであるな。武装した魔物の軍隊か。30年前を思い出すのである」
……魔王軍、か。
とは言え、武装したとは言え高々コボルト百匹。
まあ、気をつけていさえいればそうそう遅れを取る事は……。
「それどころかオーガに至っては巨大な鋼の胸鎧を纏い、鉄兜を被ってデカイ金棒を持ってるとか」
「武装したオーガとか、有り得んぞそれは。何かの間違いではないのか!?」
「……確かに。我もそんな存在を聞くのは初めてであるな。何せあの巨体。鎧も特注だろうに」
「それが本当らしいぜ。街に来て初めての大仕事って訳だ。他の宿の連中も騒ぎ出してるぞ」
「……何と言うことじゃ……ん?待てよ……」
「どうかしたか?」
はて、なんじゃろう。この感覚。
焦るアリシア、迫る魔物の群れ。
そして、兵の種族が問題だという言葉……。
「……もしかして、それ、カルマの娘の連れでは無いのか?」
「なん、だと……!?」
「はぁ?アイツの、竜殺しの娘が何で魔物の群れなんぞ率いてるんだよ」
いや、リンカーネイト……レキ大公国では普通にコボルトが一般市民として暮らしていると、
知り合いの商人から聞いた事があるのじゃ。
そうなると、お姫様の軍隊ごっこに犬どもが駆り出されていてもおかしくないの。
……そうなると。
「いかん。ギルドに至急連絡じゃ!」
「どうしたんだよ親父さん!?」
既にルーンハイム公の姿は店内から消えていた。
ああ、流石に現状の様々な意味での拙さを感じ取ったか。
「このままでは……また戦争になるぞ!?」
「ええ!?俺、人間相手の殺し合いはまだちょっと……」
そりゃそうじゃ。
腕っ節があって殺しに躊躇しないなら軍隊に入ったほうが高待遇。
そうなると残りは……たかが知れておるよな?
……まあ、中にはただ単に軍隊の規律の中では生きられないアウトローもおるがの。
そういう輩は何かしらのデカイ失敗をして遅かれ早かれ居なくなるもんじゃが。
まあ、冒険者と言う職が廃れる訳じゃな。
ともかく急いで向かわねば。
アリシアが動いておるとは思うが、一応確認にな。
……。
走るにはちと多めの人手を掻き分けつつ、わし等はようやくギルドに辿り付いた。
最近ようやく活動を再開した冒険者ギルドの前には多数の冒険者や情報屋、
商人たちから野次馬に至るまで多種多様な人々が集まって、
凄まじい熱気を放っておった。
「おい、とんでもない数の魔物の群れがこっちに迫ってるってよ!」
「でも……どう言う訳か軍は動く気配が無いらしい」
「危害を加えてくるか判らんってか?はっ、面倒なだけだろ?」
「だから、町内会とかが独自に賞金をかけようとギルドに駆け込んだみたいなんだが……」
ふむ、商都軍が動いておらんとなると、益々カルマの娘の可能性が高いの。
……じゃが、市民が勝手に仕事を依頼するのを止める事は出来なかろうな。
だが、その流れは阻止せねばならん。
万一カルマの娘に何かあった日にはもう……。
「わしはドラゴン相手に戦える人間がこの街に残ってるとはとても思えんのじゃが」
「え?ドラゴン?親父さん……それどう言う事だ?」
……あの馬鹿親が、娘を害されて切れない訳が無いからに決まっておるからじゃ。
だがコテツの問いはあえて無視しておく。
何せ、こやつらから見れば千載一遇のチャンスでもあるからの。
煽り出す輩も出てこないとは限らん。
「よおコテツ。何か大仕事が舞い込んできそうだな」
「おおよ。がっつり倒してがっぽり儲けようぜ!」
「けっ。お前らの場合は溜まってるツケを返すほうが先じゃないのか、あん?」
ふう。こ奴を連れて来たのは失敗だったかも知れんな。
コテツよ。お前は聞いておったでは無いか、アレはカルマの娘の連れだと。
……アレだけボコボコにされて、カルマをまだ舐めて居るのかの?
あの時はあの子竜が動いてくれたから良かったような物だの。
もし万一カルマ自身に敵対されたら、何をされるか判らんのだぞ……!?
「おい!張り紙が!」
「へぇ……これは中々……」
「コボルト一匹銀貨一枚、ね」
「もしオーガを退治できたら金貨10枚だってよ!」
くっ、遅かったか!
貼り出された張り紙は、やはり迫るコボルトの群れに対する討伐じゃった。
……周囲は色めきたっておるな。
それもまた仕方ない。
最近では本当に久しぶりの討伐依頼、それも魔物相手の、なのじゃからな。
盗賊退治よりも良心の呵責は覚えず、それに中々報酬も悪く無い。
そしてそれより何より街を守ると言うのは冒険者として血沸き肉踊る冒険譚じゃ。
ああ、どう考えても誰も断る余地が無い!
……そして、誰もが我先にとその依頼に飛びつこうとしたその時、
「おい、新しい張り紙だ!」
「今度は何だ!?」
「……え?」
周囲に冷や水が浴びせかけられた。
「なんだこれ?"動物的な物愛護協会"って聞いたこと無いぞ」
「……つーかさ。この金額本気なのか?」
「ギルドを通しての依頼だし……本気じゃないか?」
ふふふ……アリシアの奴もやるもんだの。
……二枚目の張り紙の内容は、先ほどの依頼と相反する物じゃった。
無害な動物の群れを襲う悪者達からいたいけな動物たちを守ってくれ……とはお笑いじゃの。
何せ連中は武装しておるしの。
じゃが……そこに書かれている内容が問題なのじゃ。
簡単に言えば、襲っている暴漢から一匹護る度に銀貨10枚。
しかも期限は本日限り。
要するにあのコボルトの群れに対する、と言っても過言では無い依頼じゃ。
「……でもよ。護るって……具体的にはどうするんだよ」
「そうだな。何か穴のある書き方だよな」
ま、仕方あるまい?
何せ緊急で作った依頼文なんじゃろうし。
ほれ、その証拠にギルドの隅っこでアリシア達が"はふー"とか言いながらお茶など飲んでおるよ。
ま……今ここにこんな張り紙が出た以上、誰も迂闊に動けんじゃろうし……。
「なあ。お前さっきあの依頼請けるって言ってたよな……」
「ああ。でも次の依頼を見ると止めて置いた方が良いかもな。後ろから刺され……ぐはっ!」
「な、なにをするきさまらーっ!」
なんじゃ?
「へ、へへ……ひいふうみい……30回護るから銀貨300枚か?これで借金が返せる!」
「な!?何を言ってやがる貴様、ぎゃああああっ!?」
「あ、成る程……ここの連中はコボルトを殺しに行くもんな……ひいふう、凄いぞこ、ぐはっ!」
「お前も同じ穴の狢だろうがよ!へっ、酒だ……酒が歩いてやがる!」
なにが、おこっておるのじゃ?
何でギルドの目の前で大規模な殺し合いが起きねばならん!?
「おじちゃん!」
「はっ!?あ、アリシアか!?」
「な、なにか、えらいこと、なった、です!」
「あ、ああ……そうじゃの」
「そんなことより早く逃げようぜ親父さん!?連中、俺達の事も狙ってるぞ!」
判ったと叫び惨劇の場から逃げ出す。
「冗談じゃねぇ!軍の警備隊が集まってくるぞ……」
「兎も角走るのじゃ……野次馬に紛れて逃げ切らんと!」
「なんで?なんでこんな!?です!」
知らんよ!
むしろわしのほうが聞きたいわい。
お、警備隊じゃ!
「静まるで御座る!彼の犬人の群れはリンカーネイトからの使者!敵では無いで御座る!」
「静まれ!騒ぎを大きくする者は斬る!」
「彼等に危害を加えてはならない。繰り返す、彼等に危害を加えてはならない……!」
「彼等の来訪は予定された物である!彼等の来訪は予定された物である!」
遅いわ村正!
……もう、あの狂気はそうそう簡単に止まらんよ……。
……。
≪side カルマ≫
「なあ村正……俺は確か使者として魔物の群れを寄越すと最初からそう言ってたよな?」
「ううう。確かにその通り。1か月程前の書状の時点でそう言う事になってたで御座る」
ハイムのお使いはただお祝いを個人的に渡すだけの物だ。
だが、それとは別に俺はコボルトの使節団を商都に派遣していた。
……目的?
まあ、うちは魔物とも仲良くやってますよと言う一種のメッセージを発する為だ。
ここまで大きくなってはこっそり共存と言う訳にも行くまい?
何せ、傍から見てれば邪教の王国にしか見えんだろうしな。
……そんな訳で余計な軋轢が生まれる前に一つ手を打つつもりだった訳だ。
いや、実は娘と犬の群れの揃ったパレードが見てみたかったと言う事もあるんだけど。
何せ日時は一緒だ。途中で合流してくれる可能性は大いにありえるだろう?
「俺はそれに関して国内に徹底させてくれてると思ってたんだけど……言葉が足りなかったか?」
「いや、十分に理解していたで御座る……各方面への根回しもしてたで御座るよ?」
「じゃあ何でこんな事に?」
「……判らんで御座る。犬の使節団の話は新聞にも載ってたぐらいだから皆知ってる筈で御座るが」
「え?じゃあ政府は?」
「え?皆知ってるなら無駄に知らしめる必要は無いで御座ろう?皆却って混乱するで御座る」
駄目じゃん!
一番動揺する層にしっかり説明しておかないと!
……あのコボルト達にはチョコチョコとした歩き方を習得させている。
見た目は直立歩行する柴犬だ。
可愛らしいおもちゃの兵隊の行進により、一般人の恐怖を取り除くのが目的だったんだが……。
因みにオーガの奴はハイムから予め借りていた。
まあ、お神輿の変わりだな。笑顔でムキムキのポーズを決めさせたまま、
足の指だけで移動させると言う爆笑ネタで笑わせるつもりだったんだ。
キモイと言われようが恐怖心さえ和らげばこっちのもんだ、そう考えていた。
けど結果は見ての通り。
どうするよ!
街が大混乱なんだけど!?
と言うかアリス達は何であんな依頼を?
何もしなければ全部商都軍がやってくれる段取りだった筈だろうに!
「くっ!止むをえん。抜刀を許可するで御座る!」
「「「「サーイエッサー!」」」」
ちょ!村正ナニイッテルノ!?
あーっ!連中追い詰められて窮鼠モード入ってるぞこれ!
「ええい!商都の平和を乱す者は断じて許さぬ!」
「相手は所詮冒険者……所詮は世の中のはみ出し者だ、容赦は無用!」
「斬れ斬れ、切捨てぃ!」
「くそっ!もう少しだ!後三人で借金が返せるのに……!」
「た、助け、ぐはっ!」
「駄目だ!警備連中襲ってるほうと襲われてるほうの区別が付いてないぞ!?」
「畜生ーーーーっ!こうなったらヤケクソだああああああっ!」
いやいやいやいや!
おーい、誰でもいいから少しは自重しろよ!?
……。
≪side ハイム≫
「何やら街の方が騒がしいな……わらわの来訪を歓迎しておるのか?」
「……ちがう、です」
「ど、どうしようであります!」
「「「「「コケー」」」」」
現在わらわ達は商都に向けて進んでおる。
近くまで来たので地下から出て、予め先行させていたハイラル達と合流。
……近くをリンカーネイトの旗を持ったコボルトの群れが歩いておったので、
ついでにそっちの連中とも合流した。
「父はわらわの他にも使者を出しておったのか?」
「わんわん!」
「そうか。お前らは正式な使者か……使節殿、大役上手く果たせるよう祈っておるぞ」
「わふ」
もふもふする頭を撫でてやるとコボルトリーダーはうれしそうにはっはっ、と息をした。
うむ。癒される。
……さて、しかしこうやって正規の使者と合流したとなると……わらわ達の立場が下か。
所詮は個人的な手紙を届けるだけだしな。
「うむ。では魔王と名乗りを上げるのはよしておこう」
「やっぱり、やるつもりだった、です」
「絶対城門の前で"魔王ハインフォーティンである!開門!"とかやると思ってたであります……」
うむ。当然じゃろう。
わらわの復活、何らかの形で世に知らしめたいと思ってはいかんのだろうか。
だが、いかんとしても、一度くらいは名乗りを上げておきたい。
だとしたら子供の冗談で済む内が良いなと思ったのだが?
まあ、ともかく今回は正規の使者に迷惑がかかるから止しておく。
「名乗りを上げる際の乗り物としてハイラル達を召集したが……仕方ないな」
「そのせいで、えらいこと、なったです!」
「まさか一晩でここまで飛んでくるなんて想定外の飛行速度であります!」
「なんだと?」
「ハイラルたちのことまでは、村正に、しゃべってなかった、です」
「だから襲われない様にと依頼を出したら……えらい事になったであります!」
何を言っておるのだ。
こやつらは何処からどう見ても丸々太った大きなニワトリではないか。
「……はーちゃん。たぶん、わかってないです……」
「何がだ?教えてたもれ?」
ぽふぽふと、わらわを乗せて歩くハイラルの頭を叩きながら聞いてみる。
「判らないで有りますか?」
「うむ。何か不都合でもあるのか?別に人間はニワトリを魔物扱いしておらんだろうに」
考えても判らんのでハイラルの背中で仰向けになった。
ぐぐーっと伸びをする……爽やかな朝日がまぶしい。
一体こやつらの何が問題だというのか?
……くちばしに麻痺毒を持たせるためにサソリの尻尾を食わせまくってる事か?
尻からのジェット噴射で成層圏まで到達できる事か?
足の爪が虎を殺せるレベルに至っている事か?
それとも一ヶ月あれば成体となる上、メスは一日に数百個の卵を産むことか?
ああ、もしかして毒を持たせようとした副作用で肉の一部が毒を持ち、
そして文字通り死ぬほど美味い事か?
……因みに、卵に毒は無いからそれは安心だ。
だがそもそもそれらは黙っていれば判らん類の事。
見た目は何処までも普通のニワトリだぞ?
「……でかすぎ、です」
「ポニーに匹敵する大きさのニワトリなんか居る訳無いのでありますよ!」
……なるほど。それは盲点。
馬を数百頭も連れ歩いていればそれは不気味がられるか。
クイーンの分身たちがあきれ返るのも当然だ。
「で、それがどう問題なのか?わらわには判らん、教えてたもれ」
「……ぼうどう、おきた、です」
「なぬ?」
「ハイラルたちが襲われない様にと依頼を出したら、大暴動に発展したのであります!」
……訳が、判らんな。
何をどうやったらそんな事になる?
「みんなには、きっちり、せつめいしてたです。けど、げんぶつ、みたら、びっくらされた、です」
「使節団を普通のと勘違いされないようきっちりとした格好させたのが間違いでありました」
はあ。そう言う事か。
話半分と現実は違うと言う事だな。
うん、どんなに可愛らしく振舞ったとて人にとって所詮魔物は魔物と言う事か。
「要は、コボルトの魔物としての脅威度を見誤ったか?確かに弱い魔物とは言え一般人には脅威」
「そうです。でも、それだけなら、村正が、たいおう、してくれてる、です」
「コケトリスは想定外。対応をしたのでありますが、冒険者が過剰反応してるであります」
その後身振り手振りを交えたクイーンの分身達の説明が続く。
……成る程、ハイラル達を護る為の破格の報酬に目が眩んだ阿呆が、
コボルト達へ攻撃しようとした連中を獲物としてその場で暴れだしたと。
で、それを鎮圧すべく動き出した商都軍との間で戦闘開始。
挙句にまだ暴徒化しておらぬ冒険者まで巻き添え&暴徒化というオチか。
「それ……わらわが悪いのか?」
「わかんない、です。でも、こちらのかきかたも、わるかった、です」
「時間が無かったし、手続き時間もかかる。文面の不備は仕方ないであります。ただ」
うむ。どちらにせよこのまま進むのは危険かも知れんな。
だが、刻限に間に合わぬのもまた危険か。
普通なら、ここでどうするか誰か教えてたもれ状態なのだろうが……。
「ま、良い。先に進むぞ」
「え?だいじょうぶ、です?」
「……話からすれば、父が居るのだろ?なら、問題など無い」
「ばれた、です」
「あーあ、折角こっそり見守るんだって勢い込んでたでありますが……まあ仕方ないであります」
そういう事だ。
何かあっても父が居るならまあ安心だろう。
我ながら大分甘えが出てきた気もするが、どうせ向こうが子ども扱いしかしないのだ。
精々子供らしく我が侭に生きさせてたもれ、だ。
「……と言う訳で、到着だ。門が見えてきたぞ!」
「これで、ゆみや、いかけられたら、どうする、です?」
「さあ?でもその時はトレイディアが灰塵に帰す気もするであります」
笑えんな。まあ良い。
……コボルトの群れから一匹が走り出て行く。
そして、城門前でリンカーネイト国旗を振った。
さて、どうなる事か……。
「よし、開けーっ」
「い、良いんですか!?」
「いいんじゃないか……つーか見ろよあれ」
「あ、カルマ」
うむ。剣が血で濡れている所を含めて間違いなく父だな。
いつの間にか背後に立たれている気分、門番どもの心境いかばかりか?
「目が三白眼だしな……」
「開けろーっ!急げーッ!消されるぞーっ!?」
……あ、開いた。
と言うか父よ。どれだけ恐れられておるのだ!?
「父ーっ!それでもありがたいぞー。助かったー」
「あ、いや、俺はカルマなんかではなくただの通りすがりの竜だ。じゃあそういう事で」
……は?
「……かたるにおちた、です」
「せめて、変装くらいするでありますよにいちゃ……」
あ、跳んで逃げた。
……まあよい。見ているなら丁度良い。
わらわの勇姿、しかと見届けてたもれよ?
……。
さて、チョコチョコ歩く犬の兵隊どもを連れてわらわは商都の大通りを行く。
目的地は同じくトレイディア大公館。故に一緒に進んで居るのだが……。
「……なあコボルト」
「わう?」
ちょいと指差したその方向では……。
「フグォオオオオッ!」
「なにあれ……」
「ぷっ」
……オーガよ。何故お前は筋肉を誇示したポーズを崩さぬまま、
足の指先だけで歩くと言う苦行を続けておるのだ?
しかも笑顔で。
多分人間には表情の判別など付かぬと思うのだが……。
「わふ。わふ」
「……父の命だと?何を考えておるのか……」
「何あの子、可愛いくない?」
「ニワトリに乗ってる子?」
「うわ、犬と喋ってるのかな、かーわいいー♪」
……む、何か知らんが注目されておる!
ここは凛々しい所を印象付けねば!
きりっ!
「あ、こっち見た!」
「背筋一生懸命伸ばしてるよ」
「くすくすくす。ほんとかーわいいー♪」
……なんだろう、この理不尽さ。
まあ、生まれ変わってからこっち理不尽な事ばかりだがな。
ただ、クイーンの分身たちよ。街に入ると共に逃げたのはこのせいか?
だとしたら許せんのだが。
「しかし……まるで見世物だな」
「わふ!」
「うん。お前たちはそうなのだろうがな……合流するんじゃなかったか?」
「……くぅーーーん」
「泣くなーっ!判った、悪かったからそんな悲しそうな目でこちらを見ないでたもれーっ!?」
「わふん」
鳴いたカラスがもう笑う、か。
とほほほほほほ。
まあよい。もうじき目的地だ。
「ルーンハイム14世、父の名代にてトレイディア大公に対し贈り物を持参した!開門!」
「わおーーーーん!」
わらわが声を上げる横でコボルトリーダーが大きく旗を振る。
そして、大公館の扉が開いたのだ。
「じゃ、言ってくるぞ」
「コケ!」
その場でお座りをするコボルト99匹とコケトリス達。
それらをそこに置いてわらわは館へと足を踏み入れた。
……後、父よ。
徹底的な隠れ身お疲れだが、わらわの場合……父の居所は大体把握できる。
故に隠れるだけ無駄だぞ?
あ、天井に小さい穴。
……。
「ようこそ。コジュー=ロウ=カタ=クウラ大公で御座る」
「あー……大公殿下へはご機嫌宜しゅう。本日は父より祝いの品を預かって参りました」
応接間に通されたわらわを待っていたのは、砥石で刀を研ぐ村正だった。
コボルトは今頃親善大使としてその役割を果たしている筈だ。
それにしても……まったく、そちらが無礼をしてどうするのだ。
わらわはこの日の為だと母から礼儀作法を詰め込まれたのだぞ!?
それを無駄だと思わせないでたもれよ……。
う、思い出したら少し泣きたくなった。
ええい、考えるなわらわよ!
母に抗う事の危険性など……最初から判りきっていた事だろうに!
「無礼を許されよ。でも刃が少し欠けてしまって急いで処置せねば危険なので御座るよ」
「仮にも妖刀だろうが」
「……カルマ殿の剣と違って材質は普通で御座るからな。あ、それと村正で良いで御座るよ」
「場合によっては折れる可能性もあるのか……」
稀代の名刀だが脆いのか。
それは手入れに難儀するだろう。
万一の際はもう帰って来ない訳だしな!
「以前カルマ殿を襲って返り討ちに遭った時は洞窟の底に投げ落とされたりもしたで御座るよ……」
「あの父を敵に回したのか。それも複数回。……よく生きておったな」
基本的に父は敵を生かしておく人ではない。
例外は余程気に入ってるか、文字通り殺しそこなったか……。
「…………全くで御座る。拙者悪運だけはあるようで御座る」
「そうか。悪運しかないのか」
あ、沈んだ。
口からエクトプラズムも出てるしこれはヤバイかも知れんな。
……お、クイーンの分身か。ああ、祝いの品を取りに行ってたのか。
「おいわい、もってきた、です……村正ーーーっ!?」
「あ、沈んでるでありますね」
「そうで御座るな……まともな運なんか拙者には……」
その瞬間いきなり首根っこを誰か……一応"誰か"に掴まれて頭にバケツを被せられる。
そして。
「村正……(心の)傷は浅いぞしっかりしろーーーーっ!?」
「カルマ殿、ふふ、燃えたで御座る。真っ白に燃え尽きたで御座るよ……」
……えーと、これは。
「はーちゃん。もうすこし、かぶってる、です」
「うむ。多分そのほうが良さそうだな」
被せられたバケツを軽く叩く。
コツコツと音がした。
……ただそれだけだがな。
「一国の主の癖にヘタれてるくらいで何だ!人の価値はそんなもんでは決まらん!」
「……かはっ!」
「ち、はいた、です!?」
「にいちゃ!?トドメ刺しちゃ駄目でありますよ!?」
「ぐ……すまん村正……えーと、えーとお前だって、えーと……」
「ほめるとこ、みつからない、です?」
「無いでありますね」
…………ばたっ。
えーと、この擬音は?
……。
おーい、なんで全員黙って居るのだ?
……バケツ、もう取って良いか?
「……だめです」
「はーちゃん、こっち来るでありますよ」
「え?なんでバケツを押さえる!?なんで部屋から連れ出されるのだ!?」
『痛みは失われ再生の時を迎えん事を祈る。砕けた肉体よ再び元へ。発動せよ治癒の力!』
『痛みは失われ再生の時を迎えん事を祈る。砕けた肉体よ再び元へ。発動せよ治癒の力!』
『痛みは失われ再生の時を迎えん事を祈る。砕けた肉体よ再び元へ。発動せよ治癒の力!』
『痛みは失われ再生の時を迎えん事を祈る。砕けた肉体よ再び元へ。発動せよ治癒の力!』
ちょっと待てええええええええっ!?
い、今部屋の中はどんな状態になっておるのだ!?
「ちょっと待て!村正はどうなったのだ!?教えてたもれ!」
「だめ、です」
「考えるな、感じろであります!」
いや、感じ取りたくないぞ?
どうせろくな状態じゃ……おい、何処まで連れ出すつもりだ!?
「とりあえず、はじめてのおつかい、だいせいこう、です」
「いやあ、良かったでありますね!」
「良いわけ無いだろうが!?」
棒読みなのは何でだ!?
もしやわらわに見せられない状態なのか!?
「……おこづかい、きっと、いっぱい、です」
「……ふむ……えーと。ならまあ良いか」
「現実逃避でありますね?多分大正解であります」
……こうして、わらわの初めてのお使いは見事大成功(?)に終わったのである。
色々問題もあった気がするがな。
そしてその日の晩、飯をかっ食らうわらわ達を父が尋ねてきたのだ。
……。
≪side カルマ≫
いやあ、一時はどうなるかと思ったが、
村正のダメージは精神的なもので命に別状が無くて良かったよ。
痙攣するわ泡吹くわ……。
挙句に白目を剥いてぶっ倒れたのでとりあえず人を呼んで介抱しておいた。
ただ、俺たちの面会の後にはティア姫との交渉もあったそうで、
瀕死の状況で臨んだ会談の結果が心配で仕方ない。
……これで大損してたら何らかの形で被害を補填しておいてやらないと拙いよなぁ。
まあ、それは後だ。
まだ結果も出てないし、とりあえずハイムを褒めてやらねば。
……何だかんだでアイツは頑張ってたみたいだしな。
そう思って首吊り亭にやってくると、ハイムは芋の煮っ転がしをモグモグとやっていた。
うん、まるでリスのようにほっぺたを膨らませてるな、可愛いぞハイム。
「よぉし、よく頑張ったなハイム」
「うん?……父か。とりあえず頑張ったぞ。で、何で隠れて付いて来ていた?」
「……知らんなぁ」
「バレバレだが……まあいい。ともかく頑張ったのだから小遣いを寄越せ」
両手を突き出してクレクレポーズ。
まあ、よく頑張ったのは事実なので金貨袋をその上に乗せてやる。
「ふう、これで弓隊に訓練用の矢を用意してやれるぞ」
「……お前みたいな小遣いの使い方する子供は前代未聞だろうな」
「まあ、魔王だし。それぐらい当たり前だと思ってたもれ?」
「なんじゃ、カルマの娘よ。お主まだ魔王ごっこなんぞ続けておったのか?」
あ、ぷぅとハイムのほっぺが膨らんだ。
今度は空気入りか。
「わらわは本物の魔王だ!勘違いしないでたもれ!」
「ははは、こりゃ済まんわい」
「いやいやガルガンさん。コイツは本当にまおーなんだぞ、な?」
「うむ!わらわこそ魔王ハインフォーティンなり!」
「ぎゃははは!おチビちゃん、本当に魔王なら早く世界滅ぼせよ。退治してやらぁ」
「ふん、別にそんな事する必要はもう無い。と言うかわらわの仕事は父に全部盗られておる!」
「ぷぷぷ。ニセ魔王様ご苦労さん」
「ニセではないわ!父、こ奴殴り倒してたもれ!?」
「え!?冗談じゃない。竜殺し相手に喧嘩!?なあカルマさんよ、まさかそんな大人気ない対応は」
「ないない。遊んでやってくれて有難うな、新人さんよ」
しかし……マジ話だなんて、言えないよなぁ……。
「してカルマよ……今後はどうするつもりじゃ?何時帰るかの?」
「うーん。実はちょっと情報が入ったんでな。息子のプレゼントの為にちょっと潜りたい洞窟が」
「む?父よ、この辺の洞窟は全て荒らされた後ではないか?」
いや、確かにその通りだが……まあ、物は考えようなのさ。
「廃鉱山?ああ、確か鉱石はほぼ掘りつくされた上、厄介な魔物が住み着いて廃鉱になったの」
「そんな所に宝があるのか父よ?まあ、アリサ辺りの情報だろうし何かあるのだろうがな」
そう、結界山脈にある廃鉱山だ。
小規模でほぼ掘り尽くされた上、厄介な魔物が住み着いたため廃鉱になっている。
「ああ、確実にある。ただし問題もあるがな」
「厄介な魔物、と言う問題かの」
「何が住み着いておるのだ?教えてたもれ」
「ハイム……シェルタースラッグって魔物は知ってるか?」
「うむ。丁度人の頭くらいの大きさで異常に固い殻を持つナメクジ……と言うかカタツムリだ」
「溶解液でこちらの装備を溶かしてくる厄介な魔物じゃな。まあ洞窟外に出て来る事は無いがの」
そう。で、そいつがその廃鉱山に住み着いていると言う話があるんだ。
その殻は大抵の魔力は弾き返す上、無茶苦茶に固くて並みの武器では歯が立たない。
しかもガルガンさんの言うとおり溶解液で装備を溶かしてくる始末だ。
弱点は熱と炎だが、それもある程度なら自らの溶解液で消火してしまうとも言われている。
まあ、テリトリー内部に侵入さえしなければ無害なもんだ。
そんな訳で周辺への被害もあるわけが無く、廃鉱は文字通り捨て置かれた訳だな。
「と言う訳でハイム」
「無理だ。知性の無い者を従える事などできん。かつての戦でも直卒はそれ程多くは無かったのだ」
「ほとんどの、まものは、ただ、いきおいに、びんじょうしただけ、です」
「強いから魔物の間で尊敬はされてる。ま、あくまで魔法の王、魔物の王では無いであります」
そうか……従えられるなら楽なもんだったんだがな。
まあ仕方ない。ならば事前の策を考えるまでだ。
とりあえず、酒を一杯と晩飯を注文する。
娘と妹に半分くらい強奪されながらも食事を続けていると、横から声がかかった。
「よぉ。竜の信徒の敵」
「ん?ああ、確かコテツだっけか?」
何時ぞやの、戦闘のみBランク冒険者だ。
昼の乱闘から何とか逃れたようだな。
「……さっきの話、本当か?」
「なにがだ?」
「とぼけるなよ。なあ、廃鉱山にお宝があるって本当か?」
「ああ……ま、手に入れるのは非常に困難だし、見ても価値の判らない奴が殆どだろうがな」
……僅かに酒場内の喧騒が収まった気がする。
その中でコテツはごくりと喉を鳴らしながら口を開いた。
「……冗談だろ?」
「本気だが……止めとけよ。シェルタースラッグは守りに入ったらオーガでも勝つのは難しい」
「ぶき、とかされる、です」
「まあ、にいちゃのスティールソードなら絶対不壊でありますから問題無しでありますがね」
ちっ、と舌打ちしてコテツは自らのテーブルに戻って行った。
そして代わりに。
「カー!宝探しか?スーも連れて行くのダ!」
「だが断る」
「うん。良い仕事探してボーっと待ってるよりずっと建設的だナ!」
「人の話を聞けよ」
「馬鹿母さんが言っていた。人の話を聞いていたら自分の話が出来ないって」
「……マナさん……」
あー。頭痛い。
あの人何教え込んでるんだよ全く。
……あれ?そう言えばルンに人の話を聞かない所って……。
まあいい。
地中から蟻達に攻め込ませるのが一番楽だが、俺もたまには息抜きの冒険がしたい。
この休暇が終わったら暫く休みなんか取れそうも無いし、
ここぞとばかりに行かせて貰うさ!
「まあ、なら付いてきても良いぞ?ただしお宝は譲れん……ああ、複数個手に入ったら話は別か」
「そうか。なら付いて行く事にするゾ!」
「おいおいスー。金にならないどころか装備を失う可能性が高いんじゃぞ?金は持つのか?」
そう言えばそうだな。
シバレリアには金と言う概念が無いとか言ってなかったかスノーの奴。
「全部ツケにするから大丈夫ダ」
「それ、全然大丈夫じゃない!」
「言っておくがツケとはいずれ返さねばならんものじゃぞ?」
その反応に対しスノーは胸を張ってこう言った。
「いずれマナリアはスーの国になると皇帝陛下は言っていたのダ。その時に返すゾ!」
「……森に帰れ」
「うちの店ではツケにはせんからの……他所でやってくれよスー」
「底抜けに金銭感覚の無い女だな、わらわには理解できん。親兄弟の顔が見てみたいものだ」
……何人かは知ってるんだなハイムよ。
と言うか、お前の叔母だ。
「む、もしやそこの小さいのはカーの娘のハーか?」
「ハイムだ。何者だお前は?」
「うん!ハーの新しい母さんだ!」
「勝手に決めるなスノー!」
「……ぽかーん」
驚きの余り芋を噛まないまま飲み込んでしまって七転八倒するハイム。
それを蟻ん娘どもが介抱する中、俺はまた頭を抱える羽目に陥っていた。
「なあ、本気なのかよ……言っておくが俺は今の家庭をぶち壊す気は無いぞ?」
「スーは本気だ。スーはいずれマナリアの王様になるのダ。悪い話ではないと思うゾ?」
「のうスーよ。お前……今口説いてる相手が誰だか判っておるのかの?」
「カーだ。それ以上でもそれ以下でもないゾ」
「……なにひとつ、わかってない、です」
「無知は罪悪でありますね……」
気が付くと周囲の視線を独り占めするカウンター周辺。
うわぁ、恥ずかしいぞこれは……。
「ほぉ。貴様が噂の簒奪者か。リチャードめが困惑しておったが……ふん、この程度の頭に花畑のあるような娘だったか。マナを誑かしたそうだが余がここに居る限りこれ以上の狼藉は許さんぞ?リンカーネイトの王をも誑かしあわよくばそのまま手に入れようとは何とも、大した雌狐だな?言っておくがリチャードと違い余は正式に即位した唯一無二のマナリア王、ロンバルティア19世である。余の目が黒いうちは貴様等のような北の蛮族どもに好きにさせることは無い。それにしてもアクセリオンめ、余の最も信頼していたロストウィンディ最後の一人だと言うのにとんでもない裏切りだな、まあ所詮は継承権も無い傍流か……だが、許せるものではないがな。まあいい、所詮は余も同じ穴の狢なのかも知れんからな?」
「……長すぎて理解できないゾ?」
……最悪のタイミングで最悪のお方が来たーーーーッ!?
ティア姫!?なんでこんな古酒場に来てるんだよ!?
「久しいな。まさか一国の王にまで上り詰めるとは、流石の余も思わなかったぞカルマよ。思えばあの王都地下にてお前とその一党に助けられたのも何かの運命だったのかも知れんな。宰相の死を感知しかつてロストウィンディ当主より習った念話で必死に助けを求めたのだが、それに応えたのが南の大英雄とはな。まあ、正当なる王はやはりどんな危機に陥ろうが必ず救いの手が差し伸べられると言う事だろう。ふふふ。サンドールの魔力を持たぬ者達と違い、お前とは上手くやっていけそうだ。リチャードとは旧友らしいな?まあそれなら東の馬鹿どもとも交流しているのも止むを得まい。だが、忘れないで欲しい。マナリアの正当なる王位は世の物であることを。何故なら余こそロンバルティアの名を継ぐ者なのだからな!」
「……元気そうだなティア姫」
「いや……それにしても何でこんな所に?」
「ふんふんふーん!拙者が案内したので御座るよ♪」
……え?村正?
「拙者達、結婚する事になったので御座る!」
「「「「なんだってーーーーーーーっ!?」」」」
思わずティア姫のほうを見る。
……口の端だけで笑っていた。
「我が世の春で御座る!ガルガン殿、今日は拙者のおごりで御座る!皆に料理を!」
「……そ、そうか。よ、良かったのう村正……」
えーと、村正よ。
……ティア姫、トレイディア乗っ取る気満々なんだが……。
「まさかこんな美人が拙者の嫁に来るとは……奇跡を待つのも良い物で御座るなカルマ殿!」
「え?ああ……そ、そうだな……」
「何か知らんがめでたいのだナ?そして今日は飲み食いただなんだナ?うん。めでたいのダ!」
……ちょいちょいとアリシアを突付く。
アリシアは黙って頷いた。
「あたまいたい、です」
「そう遠く無い将来……えらい事になるかも知れないであります……」
そうだよな……西が資金を得たら傭兵が集まるのは間違いないだろうし……。
まあ、今はアリサに任せておけば良いだろうが、早めに帰る必要が出てきたな。
……大騒ぎの中、一人黙々と料理を口に突っ込んでいたハイムの耳元で囁く。
「ハイム。そんな訳で明日にも廃鉱に乗り込む。お前はどうする?」
「当然付いて行くぞ。後、見つけたのはわらわからグスタフへのプレゼントだからな!」
はいはい、それじゃあ急ごうかね……今日は早く寝るんだぞ……。
「…………」
「ん?何か視線を感じるが……」
まあいい。悪意は無さそうだしアリス達も警告を発しない。
考えすぎ、だよな?
続く