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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 58 新体制
Name: BA-2◆45d91e7d ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/09/12 18:12
幻想立志転生伝

58

***建国シナリオ5 新体制***

~リンカーネイト軍、及び政府の発足と他国の状況~


≪side カルマ≫


「ホルス、出席者の集まり具合はどうだ?」

「レオ、イムセティ、オド、スケイルの四名は本日召集完了です、ハピは明日早朝到着します」


夜、リンカーネイト王都中央にある噴水塔上層部。

噴水から水が迸る屋上の一角にて俺はホルスと明日の打ち合わせを行っていた。

今まで付いてきてくれた連中への褒美と新体制の発足宣言を合わせ、

爵位と新役職の授与、任命を行う事になっているのだ。


「……しかしまあ、俺が人にお貴族様の証を与える身の上になっちまうとはね」

「主殿は元々その至高の位に付くべきお方だったのです。むしろ当然の成り行きかと存じます」


やれやれ。ホルスの過大評価にも困ったもんだと思う。

だが、期待されているからには応えたい。

……そう考えてしまうから、止まる事も出来ずこんな所まで来てしまったんだろうがな?


「許して欲しいのですよー……」


だが、正直誰よりも偉い。というのもなかなかこれで気分が良いのも確か。

幸い支えてくれる奴等も沢山出来た。

そして、守るべき物が増えた今それが何よりもありがたく思う。

そう、俺だって永遠に存在し続けられる訳では……。


「ハニークインちゃんが悪かったのですよ?冗談でも言ってはいけない事もあるのですよね……」

「わかってるならもう少し底で反省してろ」

「……本来ならば、首を切らねばならない所なのですからね?」


因みにこの声は屋上の端っこに結び付けられた荒縄の先からしている。

長さはおよそ100メートル。

だが、それでも地上へはまだ遠い。


「"底"と言うか……ここは空中で逆さまなのですよ?」

「綱が足に巻かれていますからね……」

「でも、綱無しでバンジーは嫌だろ?」


「背中の羽を使って良いならドンと来いなのですよ?」

「その場合、全身に鉛の重石を付ける事になりますけど」


ごつん、ごつん、と背後で音がする、


「……御免なさいなのです。ちょっとしたジョークだったのですよ……」

「とりあえず、明日の朝にはアリス辺りに降ろさせるから、皆には十分反省したって喋るんだぞ」

「私達は良くても、良い気分をしない人……特にあの戦いで身内を失ったご遺族には……」


凄まじく重い現実に、ひっくり返ったままの蜂っ娘がしくしくと泣いている。


「ううう、反省してるのですよ……本当は芋虫当時は思考能力自体が殆ど無かったのですよ……」

「だとしても、吐いた唾は飲めないんだなこれが……」


そう、昼間の暴言……かつての意趣返しにあの場で羽化しようとしたという話。

それをホルスに喋ったら……色々諭された上でこうなったのだ。


言われてみれば必死で戦って死んだ連中も沢山居たのに、

当の助けられた本人がこれでは戦死者が浮かばれない。

……故にお灸を据える必要があったのだ。


「うううううう、父、ハニークインを許してやってたもれ?責は全てこのわらわが……」


背後からゴツンゴツンと音がする。

……ハイムが土下座しているのだ。

おでこを地面に叩きつける音が静かな夜空に響き渡る。

だが、そうはいかん。


「駄目だ。今回は特別にこれで許すから、せめて本人が責を被ってもらう」

「だから、許してたもれ?罰はわらわが受けるゆえ。……奴は大事な預かり物なのだ!」

「では、ルーンハイムさんに今度こそ死ねと?」


ぴたっ。

ハイムが一瞬停止した後、顔を上げる。


「なんだと?」

「もし姫様が上司の責だと罪を被られたとしましょう」

「そうなると、当然今度はルンが出てくる……流石に今度は恩赦なんて切り札は使えん」


ハイムの顔が青くなる。


「そ、そんな事になったら!?」

「お分かりですよね?つまり、今回はご本人が自分のお尻を拭かねばならないのです」

「魔王様ーっ。ハニークインちゃんの事はいいのでお姉さんの事を心配してあげるのですよ?」


「ハニークイン。因みに殊勝な事しても刑期は短縮されないからな?」

「鬼が居るのですよ……」


ひょいと娘を掴み上げ、そのまま階下へ降りていく。

さあ、明日も早いしそろそろ寝るとするか……。

最後に吊るされたままのハニークインのほうを見てみると涙目で何かブツブツ呟いていた。


「……皆さんも、不用意な一言には気をつけるのですよ……」


うん。反省はしているようだ。朝一で降ろしてやる事にしようかね。

……ところで……皆さんって、誰だよ?


……。


翌日。

部屋の窓から下を見てみると、基部の広場に凄まじいまでの人が集まっている。

当然その周囲には数え切れないほどの船、船、船……。

街がそのまま移動できるような体制のリンカーネイトならではといえる。

しかし、船で暮らしていては色々と大変ではなかろうか?と言うご意見もあろう。

だは、どんなに大きかろうが所詮はプール。一部地下水路で外海とは繋がっているらしいが、

全体としては基本的に水の流れは一方通行。それも非常にゆったりとした物との事だ。

よって波が殆ど立たず、当然揺れて酔ったりする事も稀だと言う。

よく見ると水面の所々から大きな土管が突き出ているが……これは船の係留用、

及び真水の供給用だとか。まあ、余りに湖面が広いので当然の配慮だろう。


「……しかし、物資供給が湖底からフロートの付いた木箱放出とか……誰も疑問視しないのか?」

「誰もしないよ?だって、兄ちゃの街だもん。陛下の街だからで万事オーケーだよー」

「ある意味信頼されてるのであります。……非常識の塊扱いかも知れないのでありますが」


迎えに来たらしい蟻ん娘どもがどやどやと寄って来る。

そして慣れた手つきで俺の服を着替えさせて行く。

しかし無駄に豪華だな、逆に落ち着かない。

まあ王様だから仕方ないのか?


「おし、これで完璧に王様だよー」

「後は王冠をかぶれば完璧であります」

「しきてんの、さいしょが、たいかんしき、です」


あ、そ。

ならぼちぼち行きますかね?


「父!そろそろハニークイン降ろしてやってたもれ?」

「もう、おろしてる、です」

「ふひぃぃぃぃ……魔王様、ようやく追いついたのですよ……」


その時、ハイムが部屋に飛び込んできて、


「あーっ、チビお嬢様ここに居たんですか?」

「ほら、早く行きますよ?お嬢様が情緒不安定になりかけてますし……」

「ぬなっ!?それは拙いぞ!よし、ハニークインも無事だったしわらわは母の元に向かう!」

「お、お供するのですよ……」


同じようにやって来たメイドコンビと共に風のように去っていった。

アレも相当に苦労性だな……。


「じゃ、あたしもいこうかな?兄ちゃはアリス達が案内するからもう少し待ってよー?」

「おう、判った。じゃあ会場のセッティングとかは任せたぞアリサ」


続いてアリサがクローゼットの裏側を抜けて去っていった。


「で、俺は何時ごろ行けばいいんだ?」

「……たぶん、さんじゅっぷんくらい、したらです」

「現在入場が開始されてるのであります。全員が入りきったら王様ご登場と言う訳であります」


わざわざ焦らさんでも良さそうなもんだが……まあいい。

……丁度良いのでもう少し表を眺めているとしよう。


「えー、煎餅にキャラメル(実態はただの飴)……冷たいお飲み物はいかがですか?」

「さあさあ、建国記念のハンカチだよ!」

「急なお金がご入用な時はオーバーフロー金融。借りましょうそうしましょう」

「良い席有るよ?見易そうな良い席を確保してるよ?一人分でたった銀貨三枚だ!」


見ていると出席者の他に野次馬やそれ目当ての商売人の姿が見えるな。

……しかし凄い人出だ。

船から降りる事も出来ない連中が大勢居るぞ?


「にいちゃの、にんき、たかいから、です」

「何だかんだで、下層階級の希望でありますからね」

「……なんか、大それた存在にされてるな」


思わず苦笑してしまう。

だが、それが必要とされていると言うのはこれはこれで嬉しいもんだな。


「さて、じゃあそろそろ行くか?」

「そうでありますね。そろそろ時間であります」

「じゃあ、にゅうじょうするって、つたえるです」


俺は椅子から立ち上がる。

……さて、行くとしますかね……。


……。


「カール=M=ニーチャ大公殿下の、おなーーーーりーーーー」

「ん?まだ大公……ああ、そういや最初は戴冠式か」


長い階段を下りきるとそこは大広間。

上階に用意されている謁見の間ともまた別なそこに、文字通り関係者が勢ぞろいしていた。

そう、勢揃いさせる為だけにこの大広間を使ったのだ。


「……ご苦労」

「主殿、では簡単ですが私が戴冠をさせて頂きます」


本来ならば何処かの聖職者でも捕まえてきてやって貰うべき事柄だ。

とは言え俺は神聖教会も竜の信徒も敵に回した男だ。

……最近竜の信徒より仲直りしたいと書状が有ったが、正直宗教はこりごりだった。

故に、戴冠するのは最も信頼する男であるホルスに任せる事となったのだ。


「では、サンドール王家に伝わる宝冠を改造したこれを……」

「ああ」


戴冠式といっても極めて簡易的なものだ。

玉座に座った俺の頭にホルスが冠を被せるだけ。

そう、本当にそれだけなのだ。

……まあ、神様に選ばれた訳でもない勝手な名乗りなのだからこれで十分だろうさ。


『文字通り風のように自由な王の誕生を、私は祝福します!』

『メデタイ』

『我が身は言うまでも無いな』

『ギャオオオオオッ!』

「ぴー!」


左右後方の竜達が吼える。

玉座も吼える。

……うん、この広間での玉座って、ファイブレスそのものなんだ。

それに、基部の一階を丸ごと使ったここなら竜達も何とか入れる大きさがある。

これなら誰にも真似できまい?

そう、これがやりたかったが為に竜まで入れる巨大な大広間を使ったわけだな。


……更に竜の雄叫びに反応するかのように門の外から大歓声が上がる。

今日のために集まってきてくれた国民達だ。

彼等にもこれを見せる為、あえて城門は開け放たれている。


さて、じゃあ締めと行くか。


「これにより、リンカーネイト連合王国の建国を宣言する!」


更に歓声が大きくなる。

そして、その熱狂が収まった頃を見計らい、

ホルスが口を開いた。


「続いて、爵位と役職の授与を行います」


……今度は静かになった。

誰がどうなるのか……誰もが固唾を呑んで見守っている。


「まず、大公位より……」


さて、ここで我がリンカーネイト王国の領土についておさらいをしておこう。


まず、大陸南東部のレキ砂漠。

次に、大陸南西部のサンドール。

つまり、大陸南部乾燥地帯全てがリンカーネイトなのだ。


更に、サンドールが最近の戦争で手に入れた大陸中部の二つの地方が加わる。


そう、聖俗戦争時に漁夫の利で手に入れた、大陸中央の旧神聖教団大聖堂付近一帯。

そして先日の戦いで確保した、大陸中央部西側一帯……つまり旧傭兵国家領だ。


以上四つの地方によってリンカーネイト連合王国は成っている事になる。

……考えてみれば恐ろしい事だ。

大陸南部全てと中央部の西からど真ん中にかけて広がる大領土。

大聖堂付近以外は礫砂漠、砂砂漠、荒地と生産性こそ低い物の、

その全領土は大陸のおよそ四分の一に及ぶ。

因みに大陸最北部の森と草原(大陸の半分を占める)を除けば半分だ。


なお、他の地方としては、

大陸中央部東寄りのトレイディア。

大陸北部中央部から東側まで続く高山地帯のマナリア。

そして大陸北部の西側にある、サクリフェス及び自由都市国家郡。

そして前述の最北部には、

シバレリア森林地帯とモーコ草原地帯がおおよそ半分づつ存在している。

あ、いやシバレリアの森の方が少し小さいのか。マナさんが焼いたから……。


おっと、思考が脱線したな。

ともかくだ。我がリンカーネイトは四つの地方に各一人づつ責任者を置く事にした。

同時に苗字が付いた連中も存在する。そして以下が現在存在する爵位一覧だ。



リンカーネイト王国

国王 カール=M=ニーチャ

第一王妃 ルーンハイム=サーティーン=ニーチャ(外交責任者)

第二王妃 アルシェ=Y=ニーチャ

公爵 アリサ=クイーン=ニーチャ

侯爵 ハピ=ハラオ=サンドール

伯爵 ルイス=キャロル(内務大臣)

伯爵 レオ=リオンズフレア(近衛団長)

男爵 レキの顔役など端役が多数 


レキ大公国(大陸南部東側)

大公 カール=M=ニーチャ(国王兼務)

大公妃 アルシェ=Y=ニーチャ

伯爵 スケイル=グリーンスケイル

子爵 アリシア=ニーチャ

子爵 アリス=ニーチャ


サンドール大公国(大陸南部西側)

大公 ホルス=ハラオ=サンドール(王国宰相兼務)

侯爵 アヌヴィス=サンドール

子爵 イムセティ=ハラオ=サンドール

男爵 雑多な連中多数


ルーンハイム大公国(大陸中央、旧大聖堂)

大公 ルーンハイム=フォーティーン=H=H=ニーチャ

後見人(大公扱い)ルーンハイム=サーティーン=ニーチャ

伯爵 ジーヤ=スクワイヤー

男爵 オド=ロキ=ピーチツリー

騎士爵 ブルー=マウンティン

騎士爵 ルーンハイム直属魔道騎兵全員 


ブラックウイング大公国(大陸中央西側 旧傭兵国家)

大公 グスタフ=カール=グランデューク=ニーチャ

後見人(公爵扱い)アルシェ=Y=ニーチャ

男爵 元傭兵数名



……大体こんな感じだ。

まあ、これからも増えていくのかも知れんがな?


因みにルーンハイムの項目で驚いただろうが、何とジーヤさんと青山さんがやって来たのだ。

理由?なんでも青山さんに言わせると奥様(マナさん)は新しい居所を見つけたのだとか。

ジーヤさんは、これ以上オドだけに任せておけないと、

手勢やその家族を連れて国を捨ててきたそうだ。

……オドが地面に頭をこすり付けて謝る姿はもう見ていられなかったなぁ。

とりあえず、馬を放牧できそうな旧大聖堂辺りに宿舎を用意して、

そのついでにあの辺りをルンやハイム……ルーンハイム系の領地にしてみたんだが……。


まあ、ともかくこれが我が国の新体制というわけだ。

発表の最中はともかく、発表終了と共に歓喜や恐慌で凄い騒ぎになってしまったな。

……まあ、一般向けのイベントはここまでだ。

次は軍の編成だな。

重々しく噴水塔の正門が閉じていく。

そして表での相変わらずのお祭り騒ぎを他所に、


「では、次に軍の新編成を発表させてもらいます」


ホルスが粛々と軍の一覧を読み上げていく……。

そちらの一覧は以下の通りだ。



守護隊ガーダーズ(国王直属重装歩兵)

指揮官 レオ=リオンズフレア

定員 500名


ルーンハイム魔道騎兵(魔法騎士団)

指揮官 ジーヤ=スクワイヤー

副官 オド=ロキ=ピーチツリー

定員 1000名(現在600名)


サンドール軽歩兵(軽歩兵)

指令 ホルス=ハラオ=サンドール

指揮官 アヌヴィス=サンドール

副官 イムセティ=ハラオ=サンドール

定員 3000名


射撃隊ガンナーズ(新編成・鉄砲隊)

指揮官 アルシェ=Y=ニーチャ

副官 アリス=ニーチャ

副官 アリシア=ニーチャ

定員 500名



以上、定数5000名に警備隊やら何やらを加えた物が、

リンカーネイト正規軍の全貌となっている。

ま、現在は。と言う枕詞が付くけどね。

ただ、いきなり軍を増強しても色々と付いてこない物がある。

だったら信頼できる少数があれば良いというのが俺の持論。

……使い潰しは論外だからな。


ただし、トレイディアやマナリアと比べても、この数は少ない。

少ないのだが、実は員数外扱いの部隊があるのだ。



混成魔獣部隊(文字通り混成部隊)

指揮官 スケイル=グリーンスケイル

定員無し 現在15000名


蟻ん娘砲兵部隊(砲撃戦用、国家機密)

指揮官 アリサ=クイーン=ニーチャ

定員無し 現在1000名


動く森(普段は目立たないが凶悪部隊)

指揮官不要

定員無し 現在数は数えるのも面倒くさい


竜部隊(事実上の決戦部隊)

指揮官 戦竜カルマ

定員 5名(ファイブレス含む)


まあ、蟻ん娘どもや竜達はともかく……。

スケイルの部隊は殆どが下級の魔物の為、数をそのまんまに捉える訳にはいかんだろうが、

それでもいざと言う時の火消しや、陽動などには十分役に立つ筈だ。


そして、もう一つ。

俺の言う事すら聞いてくれない部隊、と言うか軍が一つ。



ハイム直属混成魔獣部隊(通称まおー軍)

司令 魔王ハインフォーティン

参謀 ミツバチの女王ハニークイン

お目付け役 女王蟻の女王アリサ(事実上の最高権力者)

お目付け役 緑鱗族族長スケイル

ペット兼近衛 コケトリス族(ハイラル達のニワトリ一族)

定員不明 現在700名ほどらしい



我が娘が自分のポケットマネーで拡充しているという筋金入りの私兵だ。

さり気なく何時ぞやのオーガなんかも所属していて馬鹿に出来ない戦力である。

まあ、特に問題も起こしていないのでとりあえずスルーしているが。


「……以上です」


静かなホルスの声が広間に響く。

正規軍総勢4600名。

その全指揮官を読み上げていたのだ。


「最後に主殿よりお言葉を頂きたいのですが……」


ああ、もうそんな時間か。

皆立ちっぱなしで疲れてるだろうし、早いところ済ませてしまうかね?


「まあ、なんだ……色々あってとうとうここまで来た訳だが、なすべき事は変わらない。ただし」


ただし、の部分でビクリと震える者数名。

まあ色々思う所があるんだろう。


「生まれや育ちで人を判断するな。下らない自尊心を満たす代わりに無用な軋轢を生むばかりだ」


難しいと思うけどな。

何せ、人は自分を否定する物、そして否定する要素を持つものを中々容認できないのだから。

自分でも出来もしない事を言わねばならない……まあ、これも仕事の内か。


「俺は……出来るなら、この国を後世に理想の地として伝説に残したい」


言外に、この地も永遠ではないと滲ませておく。

だが、今なら……今ここに居るメンバーが生きている内なら出来る筈だ。

そんな淡い願いを込めて次の言葉で締めくくる。


「国名の通り……生まれ変わった気持ちで行こう。我等は一つの巨大な家族である!」

「国王陛下、万歳!」

「リンカーネイトに栄光を!」


一斉に歓声が巻き起こる。

……この日、大陸南部から中央部西側にかけてを支配する巨大国家が生まれた。

これにより、大陸南部は急速に発展し、また大規模な緑地化が進む事になるのだろう。


大広間から退室する。

部屋には大量の料理が運びこまれ、広間は一気に宴会場へとその姿を変えた。

俺はそんな中、アリサ達と共に今後の動きを考えるための会議を行う。

まだ正確な人数は出していないが、

サンドール他を取り込んだ為、人口は100万人を優に越えるのは間違いない。

それを維持せねばならないのだから。


……。


「さて、じゃあ現状の確認と行こうか」

「……はい総帥」

「あれ?ハピさん。まだ総帥って言ってるの?」


「私にとって、総帥はあくまで総帥なんですよ。特別な感じで良くないですか?」

「そうだな。別にカルーマ商会総帥を辞めたわけじゃないし……アルシェ」

「どうかしたのカルマ君?」


ちょっとマジな顔になっておく。

何せこれは重要な話だ。


「後にグスタフにも言い聞かせるが……いざと言う時守るべきは総帥の椅子のほうだからな?」

「え?王様の玉座じゃなくて?」


「違う違う。国王なんて所詮象徴。実際の力を持っているのは商会総帥の肩書きの方だ」

「リンカーネイトの総資産の9割以上は商会所有の物ですよアルシェ様」

「ふぁ……その発想は無かったなぁ」


ここは俺の私室。

今ここには俺とルン、アルシェにハピ。

それにアリサ達が居る。

下の取りまとめにホルスは置いてきたが……今後の事を考えるとこれだけの面子が必要だった。


「さて、じゃあまず現状の把握だが……アリサ。先日報告のあったシバレリア帝国についてだ」

「あい!勇者アクセリオンが皇帝になって、シバレリアとモーコの全域を支配域に納めたよー」


……流石と言うべきか。

これによりシバレリア帝国は大陸の半分を手中に収めたことになる。

と言うか、何で今まで情報が入らなかったんだ?


「いやあ、大して問題視してなかったからねー……魔王城に仕込んだ子……スパイからも」

「報告では確か、何時ものんびりとした会話しかして無いって話だったな」


ルンが居る為、蟻の事は話せない。

よって慌てて訂正するアリサ。

……しかし、平和ボケかね勇者様も。

何時もこんな感じの会話しかして無いそうだ。


「今日も良い天気だなクロス」

「ええ。先日も東の部族が一つ臣従を申し出てきました。陛下のご威光の賜物かと」


「そうか……ふふふ、勇者として大成は出来なかったが、それ以上の物が手に入ったものだ」

「まあ、わたくし含めて感謝するべきなのでしょうね、彼に」


「お前の妹も無事だったようだな」

「ええ。そうでなければ怨んでいた所ですよ」


「いかんぞクロス。憎しみで動いてはならん。私は皇帝、そしてお前はその宰相なのだからな」

「そうですね。この平和を守っていかねばなりません」


白々しいほどに平和裏でこちらとしてはありがたい会話だ。

怪しさは残るものの、

事実、彼等は領土こそ拡大するが軍の編成などの作業は行っていないらしい。

要するに、外征用の軍隊を彼等は持っていない。


では、何故領土の拡大が起きるのか?

答えは向こうから勝手に臣従してくる。と言う事情があるかららしい。

……やはり魔物が強く生きづらい地方なだけに、力ある者に従うのは当然の事との事だ。


そうなると次に来るのは高圧的な支配とか異様な拡大路線とか?と思ったが、

だが、帝国は支配域に対して余り干渉をしていないらしい。

精々各部族の優秀な者にクロス宰相が祝福とやらを与える程度だ。

……やっぱり聖職者なんだなと思うよ。

だがそれが彼等に対する忠誠の源なんだとか。

事実、その祝福を受けてから死んだ者は死後部族の守護者として蘇るらしい……。


って使徒兵じゃないかそれ!?

優秀な兵と各部族の信仰を同時に得られるとは大したもんだよ実際。

まあ、それでも使徒兵とは言え精々その数は二千名。こちらまで来れる人数ではない。

さし当たって警戒だけは緩めないようにしておくか。


「実際調べた所、帝国を名乗る割りに実に平和裏な方々です。流石は勇者といった所でしょうか」

「でもねー、マナリアと領土問題について揉めてるみたいだよー」


ほぉ?一体何処が……ってまさか!


「お母様が焼いた森、住んでた部族が居たって……」

「ルンちゃん。気にしても仕方ないよ」


やっぱりかい!

で、当のマナさんは?


「……そのシバレリア帝国の世話になってるよー。問題の部族の生き残りに謝ったってさー」

「最悪じゃないかそれ」


「……先生、何処が?」

「そうだよ。悪い事したら謝るのが当たり前だよね」

「総帥が仰っているのは、それによりマナリアに賠償の責任が生じたと言う事についてですね」


そういう事だ。

交通事故なんかでもそうなのだが、過失を加害者が認めた場合、当然賠償の責任が生じる。

……悲しい事にごねた方が勝ちという部分があるのだ。

まあ、個人の事故ではそれですっきりカタを付けるという方策もある。


だが、国際関係ではそれは危険だ。

特に今回シバレリア側が要求しているのは領土。

……しかも、現在では何だかんだで立派な穀倉地帯と化している。

更に現在のマナリアは内乱による爪跡がまだ色濃く残り、国民は非常に困窮している。

この状況下で譲れる物が何かひとつでもあろうか?いや無い。


ただし、要求を完全に蹴った場合はただでさえ苦労している北部異民族が、

今度は皇帝の指揮下の元大挙して押し寄せてくる事になる。


では、もしリチャードさんが上手く国内を纏め上げ何らかの妥協をしたとしたら?

……この場合賠償は無理だ。

向こうに駐在してるアリシアからの情報で、マナリアにはもう資金が殆ど無いと言う。


すると当然領土の割譲となる。


だが、その場合ティア姫率いる西側が黙っちゃ居ないだろう。

何せ正当なマナリア王家は自分達だと自負している。

勝手に"マナリアの"領土を削られる事を許すとは思えない。


「なあアリサ。もしかして詰んでないかリチャードさん」

「うん」

「ロン兄……」


その時ハピが口を開いた。


「そうでもないようですよ?まあ、ある意味それ以上の危機ですが」

「ほぉ?」


「マナ様は、その部族最後の生き残りを養女とされる事にしたそうです」

「……手紙、届いてる」


ルンが差し出した手紙によると、名前はウィンター=スノー。

かつてシバレリア南部を広域に渡って支配していた"冬の部族"の族長の娘で、

あの大火災の後、幾度かに渡り領土奪回の戦を起こしたものの返り討ちに遭い、

遂に部族そのものが消滅してしまったという悲劇の部族の族長との事だ。

……そうか。時折森から出てきてたのって……そういう理由があった訳な?


「因みに見た目はルン姉ちゃそっくりだよー。なんでも先祖は昔マナリアから逃げ出した……」

「ああ、そう言う身の上なんだ……」

「現在はシバレリア帝国の将軍を務めているそうです」


成る程なぁ。ある意味親戚と言う訳か。

更に自分のせいで大変な目に遭ったとなったら流石のマナさんも責任も感じるわな。


「……と言う事はかなりやばい事になってるよな?」

「はい、皇帝は一切の賠償請求をしない代わりに次期王位継承者にその娘を就けろと……」


凄いレベルの内政干渉キターっ!


と言うか先代国王の妹、ではなくその養女を次期王にしろとか……常軌を逸してる。

因みにアクセリオンはロストウィンディ旧公爵家の族弟に当たり、

一応マナリア王家の血も引いていると言うので全く口出しできない立場ではないとの事。


と、本人は言っているが他国の皇帝やってる時点でそれは拙いだろと俺は思う。


それに、飲める訳無いだろうにそんな条件。

……あ、でも飲まなければ攻められて滅亡か。

まあ軍の編成に半年かかったとしても……一年後には東マナリアは地図から消えてそうだな。

何せ動員可能な兵力が段違いだ。

と言うか、皇帝と宰相だけで敵陣を粉砕できそうな匂いがぷんぷんと……。


「まあ、放っておくしか出来ないか」

「そうですね。幸い距離もありますし」

「そうでもないよ?黒翼大公領の北はサクリフェス。その東が西マナリアじゃない」


いや、一応隣接はしていないし、こっちは領内の掌握だけで手一杯だ。

他の国のイザコザに巻き込まれるのは得策ではないな。


「……先生、せめて難民の受け入れ」

「そうだな。いざと言う時は難民を受け入れられるようにはしておこう」

「それ以上は逆にこちらからの内政干渉になりますからね」


戦争中、ホルスも居ない中で事実上商会と国家運営の責任者状態だったせいか、

ハピの感性は更に磨かれたようだ。

たまに浮気の申し出があるのが色んな意味で困り者だが、それでも頼りになるのは間違いない。


「……では、次に東西マナリアの現状です」

「相変わらず一触即発だよー」

「ですが、お互いが無くてはならない存在の為、一応大人しくしているという状況ですね」

「因みにさ、兵力の補給……資金さえあれば西側が一気に有利になりそうだね」


……なんで?等と聞くだけ間違っている。

アルシェにもフルネームが出来たが、そのセカンドネームは"Y(ヤード)"である。

そう、正式に王妃になるに当たり傭兵王に許可を取り、

名目上彼の養女と言う形をとったのだ。


で、当の傭兵王はと言うと何と西マナリア……ティア姫の所に逃げ込んでいた。

金塊を持って交渉に臨んだが、

意外なほどに高感触であっさりアルシェを義娘にしてくれたとアリシアが言っていたっけ。


まあ、ともかく傭兵王は西側の客将扱い。

金さえあれば即座に傭兵をかき集められると豪語しているという。

……実際の所、まともに兵を動かせる将が増えたと言う事の方が重要な気もするが……。


「対する東側……リチャードさんの方は悲惨だよねー」

「悲惨にした俺達が言えた義理じゃないけどな?」

「まあ、幸い総帥を追い出した事で向こうとの縁は、表向きですが切れています。自業自得かと」


領土こそマナリアの八割だが、兵力は東西同等"だった"のだ。

ところが疲弊して半数近くにまで減っていたとは言え、

何だかんだで機動戦力の要だった魔道騎兵が指揮官と家族含め丸ごと出奔。


残る指揮官はリチャードさん自身とラン公女、そして兄貴とフレアさんだけ。

その中で実戦に本当の意味で耐えうるのは兄貴だけだろう。


ところが当の兄貴は魔法が使えない事から基本的に上層部の受けが悪い。

しかも、それに反比例するかのように国難にも動じず戦い続けた猛将の姿は国民受けがよく、

指揮下に加わりたいという若者は後を絶たない。

……だが、それが面白くない上層部からは更に嫌われ……と言う悪循環スパイラル。


今まではジーヤさんがその間に入っていたらしいが、既に彼はこっちに来てしまった。

しかも一応停戦と相成った為か魔法原理主義者たちの反撃が始まったらしい。

……兄貴が愛想を尽かして出て行く日は近そうだな。

その時どんな事になるのか、考えるのも恐ろしかった。


トドメとして、最近アリシアが内政のかなりの割合を任されているそうだ。

信頼されるのは兄として嬉しいし、確かに優秀な娘ではあるんだ。

ただな……他国からの客員、しかも子供に国の機密を見せるなよリチャードさん。

いや、確かに調べられない機密は無いけどさ。

まあ、要するにそこまで人材の枯渇が酷いという事だな。

それに資金も無いせいで未だ王位継承の儀式も行えていないそうだ。


ともかく今はどうなるか判らない。

マナリア以北へは不干渉で行く事に決定だ。


「……じゃあ、次はトレイディアか……」

「えーと、そっちはねー」


結局、その日は深夜まで解放される事は無かった。

やはり、国の舵取りって奴は難しすぎるよな……。


……。


≪side 村正≫


「これにてコジュー=ロウ=カタ=クウラ大公殿下のトレイディア大公就任式典を終わります」

「「「ワアアアアアッ」」」」


ふう、と思わずため息が出るで御座る。

……頭の固い商人ギルドの連中を何とか説き伏せ拙者が父の後を継ぐまでに、

ここまで長い時間が掛かってしまったで御座る。


まあ、拙者が責任者となってからトレイディアは寂れる一方。

連中が心配するのもある意味無理は無いので御座るがね……。


「カタ大公殿下……お茶の時間で御座います」

「ああ、セバスチャンで御座るか。お前にも苦労をかけるで御座るな」


商人ギルドの長であったバイヤーの死後、

ギルドは事実上クウラ家の統制を離れ独自路線をとり始めたで御座る。

対して我が家からはバイヤーの元執事セバスチャンが辛うじてコネを持っているという状態。


「商人ギルドはクウラ家から距離を取り始めております」

「ま、それもある意味当然で御座るよ。ただ、手をこまねいている訳にも行くまい?」


問題な事に拙者は長らく冒険者として行動していた放蕩息子でござった。

確かに戦乱時は頼りにされたで御座るが、

平時においてそのコネの無さ、顔の効かなさが致命的な事になりかけているので御座るよ。

ともかく、戦乱とその際に商都が攻められ一時的に占領された事が大きい。

トレイディアからは人が流出していく一方なので御座る。


……兎も角、比較的拙者に好意的な冒険者ギルドとの繋がりを深めねばならんで御座るな。


「冒険者ギルド長マッシブ殿の招聘は上手く行きそうで御座るか?」

「半々でしょうな。我が家に仕えると言う事はギルドから離れるという事そしてそれは……」


「冒険者ギルドの崩壊を意味する、で御座るか」

「はい、冒険者ギルドも高位の冒険者は各国の軍隊にスカウトされて人材不足ですから」


とは言え、ギルドの存続自体が厳しいという噂もあるで御座る。

そこを突破口にせねば。

ま、国内での問題は……あまりにも大きい問題ではあるが一応それだけで御座るな。

さて、次はと。


「カルマ殿がとうとう王位に就かれたとか?」

「はい。旧サンドール王家の一部も取り込みました。……旧大聖堂の返還問題は如何しましょう」


「今後それは口に出さないほうが良いで御座るな。そも、サンドールにいうべき問題で御座る」

「確かに……彼等はサンドールを滅ぼした、つまり実態はともかく全く違う政府で御座います」


……それに、カルマ殿は躓くたびに大きくなっていくという不思議な御仁。

敵に回しても百害あって一理無しで御座る。


「それよりも今は国内の掌握を急ぐで御座る……北がきな臭いで御座るよ」

「はい。承知いたしました」


さて、リチャード殿はあの国難を如何するおつもりかな?

拙者もこちらから助けるだけの余力は無いし、

まあ、救援依頼があるまでは静観させて頂くで御座るよ。


……。


≪side シバレリア皇帝アクセリオン≫


「そうか。私の願いは無碍にされそうなのか……」

「わたくしの伝でも探りを入れましたが、マナリア側に譲れる部分は無さそうです」


かつて、魔王城といわれたシバレリア帝国宮殿。

今は私、皇帝アクセリオンの居城である。

……仇敵の亡骸を背後に剥製のように飾り、

その前に玉座をしつらえると言う謁見の間の造りは多少悪趣味な気もしないでも無いが、

それでもこの場に来る物に私の力を示す役には立っているようだな。

これを見るだけで大抵の物は竦み上がり忠誠を誓ってくれる。


「ふむ……とは言え冬将軍の旧領、何とか回復してやらねばな。何せ帝国には貨幣経済が無い」

「はい。シバレリア・モーコの各部族にはお金と言う概念がありませんでしたからね」


「ふふふ、税として毛皮や食料そのものが送られてきた時はどうしようかと思ったぞ?」

「わたくしもです。ですが……これはこれで悪くありません」


……悪く無い?


「と言うと、どういう事だ?」

「世界の不幸の大半は、お金にまつわる物なんですよ。わたくしはそう思うのです」


「ふむ。確かに僅かな金の為に売られる子供や突然手に入れた大金に身を持ち崩す者もある」

「ええ……それもこれもお金なんてものが存在するからではないのか?最近そう思うのです」


とは言え、貨幣無しでどう世の中を動かすと言うのか。

……とは言え、金と欲に汚染された教会を何とかしようと足掻いていたのがクロスだ。

ここに来て色々と思うところがあるのだろう。


「かつて、人々は物々交換で暮らしていました。つまり……不可能ではないのです」

「この地を見てそう考えたか。まあ、それも良いかも知れんな」


……クロスはそっと手を組むと小指を微妙に動かした。

これは私とクロス他数名しか知らない秘密の暗号だ。


どうやら、彼……カルマのスパイが何処かに潜んでおるようなのだ。

各国を見れば判るが、どうも情報が筒抜けのように思うのだよ。

まあ、一国の王ならば当然だ。

だが、それが判っても何処に潜んでいるのか皆目見当が付かぬ。

故に……自室だとしても本音で話す事も危険だと判断し、


魔王討伐時、誰にも気付かれずに合図する為に用意した暗号をここで使用する事にした訳だ。

口では世間話をしながら僅かの指や視線の動きで重要事項を話し合う。

誰にも危機感を抱かせない事。これが重要なのだ。

……まあ、今の所恐らく誰にも気付かれては居まい。


ともかく、先ほどの合図は資料を私のベッドに隠したと言う合図だ。

もっとも既に見つけて読んでいるがな?


クロスが最近考案した思想を"共生主義"と言う。

皆が支えあって生きる……実に興味深い政治体制だと思う。


貨幣経済を廃止し、全ての物資を皇帝に集め、そこから必要な分だけ人民に分配する。

私有財産を否定するゆえ貧富の差も存在せず、

もし反乱を起こそうと言う輩が現れたとしても、物資を集める事が出来ない。

必要な物を必要なだけ必要な所に皇帝の、この私の名で送り届ける。

誰もが皆、平等に全てを与えられるのだ。

……怠ける者には配給を止めるだけでいい。


実に素晴らしいではないか。

後世にアクセリオンの名を轟かすにはこれを世に広めれば良いのだ。

皆が幸せになる良い方策である、と私もクロスも信じている。

そして……願わくば。

何時か私が勇者だと言う事を……誰かが歴史の片隅から見つけ出してくれれば言う事は無い。


……軽く口ひげを撫でる。

これは今日の日付だと、了解の合図だ。

クロスが軽く笑った。

何年かかるかは知らんが、きっと反発も多かろう。

だが、それでも我等は雄雄しく進んでいくのだ。

そう。いずれ来る最終戦争に向けて準備を始めようではないか。

……こっそりと、な。


***建国シナリオ 完了***

続く


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