幻想立志転生伝
57
***建国シナリオ4 王国の始まり***
~新首都・アクアリウム~
≪side カルマ≫
サンドール王都、かつてそう呼ばれた街。
現在は王都の文字が取れ、かつての古き国の国名を残すサンドールと言う一都市となった。
……その中央に位置する宮殿の一室で、今……新たなる命が生まれようとしている。
「リンカーネイト王国の始まり、その最初に生まれる子供が王子と言うのはきっと慶兆ですね」
「そうだなホルス。それにどうせすぐ新首都に移る。先にお目見えしておくのも悪く無いだろ」
生まれてくる赤ん坊は男の子だそうだ。
更に竜の心臓持ち。ただし魔法が使えないという。
……矛盾してる気がするが、きっと何か意味があるのだろう。
さて、それは兎も角……俺の子でありながら魔法が使えそうも無いというのは大きなハンデ。
そんな訳でその話を聞いた時から、息子の箔付けのためにも象徴的な何かを俺は欲していた。
それこそ人が聞けばそれだけで恐れるような何かがあれば、生まれてくる子も安心だろう。
そう思ったのだ。
……そんな訳で"炎の魔剣"を作ったわけだな。
因みに息子に与える予定の名前はグスタフ。
グスタフ=カール=グランデューク=ニーチャ。
通称グスタフ、もしくはカールジュニアだ。
魔法が使えなかろうが関係なく、己の才覚で突き進んでくれるのを期待して付けた名だ。
ついでに現在その名を冠した、
……と言うかゴロの良い無反動砲カールグスタフのレプリカを作成中。
更にマナリアより発見された資料から作られたリボルバー式拳銃と、
その製作中に偶発的に完成した六連発式の大砲と言う酷いチート武装も順調に量産中である。
そう、小型化が出来ないならでかいまま使ってしまえという発想だな。
……まあ、大砲は巨大なリボルバーを荷台に乗せただけで、人間の腕力じゃ扱えないけどな?
実質蟻ん娘専用武装になりそうだ。
更に無反動砲は部品の精度が低い為ネジ一本まで職人さんの手作り。
そちらの量産はまだ不可能だと言う。
とは言え、これらが完成し兵がそれに慣れた暁には、
ここだけ近代戦状態と言う典型的外道戦術がこの国のデフォになるのだろう。
敵の被害も火力の集中によりえらい事になるのは明白だ。
ともかくファンタジー世界で生きながら、
それを否定しつくす事が出来るのは転生者やトリッパーの特権。
まあ、堪能させてもらう事にするさ。
……ん、袖口を引っ張られるこの感覚は。
「せんせぇ……アルシェの子、男の子?」
「らしいな。ハイムの見立てだから間違い無いだろ。何せ魔王だし」
「今更おだてても遅いわ、この馬鹿父!」
ルンに抱かれたハイムの脚がポコポコと俺の横っ腹を蹴る。
……かゆい。
まあ、それはさておきルンは非常に上機嫌だ。
家庭、地位、名誉……その全てを失うと言う悲壮な覚悟をしていたそうだが、
決死の覚悟が色々と実を結んだ上に自身は結局何も失わずに済んだ。
故にこれ以上の事は無いと言う事らしい。
とりあえず俺も一安心である。
……代わりにほったらかしだったハイムがお冠だけどな。
まあ、後で魔王城の一つも建ててやれば機嫌も直るだろ……。
「許さんぞ父!わらわがどれだけ心配し絶望したか、わかるまい!?」
「いや……そもそもそこまでルンが追い詰められたのは、誰のせいだ?」
……あ、そっぽむいた。
しかも冷や汗だらだらだ。
自覚はあるのか。なら良い。
「……まあ、今回は皆考えるべき事が多かった、そういう事だな」
「う、うむ。わらわもそう思うぞ父よ!」
「ふふ。丸く収まって、良かった……」
そんな事を言い合っていると突然産声が。
これまた元気な声だな……早産なのに……。
……。
「えへへ、えへへへ……これで僕もお母さんかぁ」
「良く頑張ったな、アルシェ」
「お疲れ様、アルシェ」
数時間後、赤ん坊と並んで寝ているアルシェの元に俺達は立っていた。
生まれたばかりのチビ助は非常に元気いっぱいにハイハイをしている。
うん、本当に元気な……、
……いや待て、生まれた当日になんでハイハイできるんだコイツは!?
「凄い子なのは確かだが……成長早過ぎないか?」
「そうか?わらわは生まれた当日に飛ぶ事も出来たぞ?」
「あたしは生まれた日にはお掃除してたであります!」
「うまれてすぐ、おつかい、いった、です」
「生まれてすぐにとんでもない謀略に参加したよー」
……そうか。
うん、それに比べればまだ普通の部類だな。
俺の感覚がおかしかっただけなのか?
……本当に?
何か根本的におかしいような気もするが。
「うあー……」
「うむ、元気で宜しい。わらわはハイム。お前の姉だ!」
さて、俺達の横ではベッドをハイハイしている息子の脇を、ハイムがふわふわ飛んでいる。
そして、空中で胸を張って自己紹介の真っ最中だ。
で、グスタフはと言うと、そんなハイムの方へ無邪気に手を伸ばして、
「あうぅ……」
「のあああああっ!?わ、わらわの髪はおっぱいでは無いぞ!?こら、食うな!」
ありゃりゃ、ハイムの髪の毛を口に入れてら。
魔王涙目だな、ご愁傷様。
「父ーっ!助けてたもれーっ!?」
「わかったわかった。ほれグスタフ。お姉ちゃん困ってるだろうに」
「あぶー?」
「ふふ、赤ちゃんに判る訳、無い」
「ルンねえちゃの言う通りであります」
「あうあうあうあう……わ、わらわの髪がドロドロだ……」
「きゃっ、きゃっ」
涙目で天井付近に退避するハイム。
そしてそんなハイムにぎこちなく手を伸ばすグスタフ。
……しかしまぁ、活動的な子だ。
これもまた竜の心臓の賜物なのかね?
「うう。父よ……野生の獣は生まれると同時に立ち上がる。こ奴もそれと同じだ……」
「自分の弟を野生動物扱いかよ」
「だが、基本設計は人の物。心臓のみ人を越えるこ奴のあり方は正しく歪であるな」
「……俺もそうなんだが」
「まあな。だがこ奴の場合、心臓が強靭なだけで魔力は持っておらぬようだ」
「それはおかしくないか?」
コイツが竜の心臓を持っているのは俺の体に心臓が馴染んで完全に俺の心臓になったから、
と、推測できる。
だが、竜の心臓とは魔力そのものだ。
それが魔力を持っていないなんて事はありえるのか?
「正確に言うと、外部に放出できる魔力は持たぬ、だな。こ奴の魔力は体内循環で完結しておる」
「ふむ。その物言いだと魔力は体内を巡ってはいるのか……身体強化がお約束だな、この場合」
「まさにその通りだ。それ、その証拠に生まれたばかりで這い回っておる」
「なるほど」
「その内素手で鉄板をぶち破るようになるだろう。腕力と強靭さは竜そのものになりそうだ」
「……それはそれで問題だな」
いやいやいや……どんな怪力王子だよ。
つーか、そこまで行ったらそもそも魔法要らなくないか?
って、なんだよハイム。その不敵な笑みは。
「ふっふっふ。と言う訳でわらわはそれに見合う武具をこ奴に用意してやろうと思う!」
「同じ事考えてるな……既に剣を用意してるんだが」
……あ、明らかに不満そうだ。
自分の案を横取りされたようで気に食わないんだろうな。
でもなハイム?
魔法の大家扱いされてる家の子として魔法が使えないなんてとんでもないハンデだ。
なら、親はそれをどうにかしてやろうと考えるんじゃないか、普通は。
「何を言うか!わらわが用意するは古代の魔法武具。並みの武器では太刀打ちできぬわ!」
「ほいこれ」
と言う訳で、アリスが気を利かせて炎の魔剣を持ってきたので見せてみる。
……今度は口があんぐり開いた。
「なんぞこれーっ!?こんな凶悪な魔力を放つ魔剣は見たこと無いぞ父!?」
「ファイブレスと一緒に昨日作った」
ぽてっ。
そんな音を立てつつ魔王がすっ転ぶ。と言うか墜落。
そしておもむろに顔を上げて一言。
「アホかーっ!世界の破滅が近づくわーっ!」
『いや、代わりに隷属の指輪を大量廃棄した。大して世界の寿命は変わらんよ』
まあ、廃棄分と使用分の差し引きで大体マイナス20年と言った所か。
それぐらいなら大した問題にはならないだろう。
……と言うか、正直世界より息子の方が大事な訳だが。
別に良いじゃん。累計で俺が活動開始してから世界の寿命は数百年延びてるしさ。
今更10年や20年でけちけち言うな。……って本当は言っちゃ駄目なんだろうな。
まあ、もう作った後だし仕方ないよな?と言う俺、確信犯。
「……ファイブレス!裏切ったか!」
『我等の仕事は管理。使用の差し止めでは無いぞ魔王よ。この場合は適正使用と考えているが?』
「因みに俺が頼んだから責めるなら俺だぞハイム……まあそんな訳で無理はするな」
とは言え、今更引けんと言わんばかりだな。
むう、と唸っているのがその証拠だ。
「ううう……ならば防具だ!心当たりの遺跡を片っ端から漁ってくる!ちょっと行ってくるぞ!」
「あたしらも行くであります!」
「ちびっこたんけんたい、しゅっぱつ、です!」
「あー、魔王様。待つのですよー」
そしてハイムは一陣の風のようにすっ飛んで行った。
お目付け役の蟻ん娘達を引き連れて……。
あれ?そう言えば一匹見た事無い奴が居たな。
目が普通な上に背中に羽の生えた蟻ん娘なんか居たっけか?
いや、あれはブンブンと音を立てて飛んでたし……蜂っ娘?
あ、もしやあれ……ハニークインかよ!?
「……あの子は、元気」
「そうだな。まあ弟へのプレゼントを探そうと言う気概は良し。今回は温かく見守るかね?」
「あぶー」
「あはは。駄目駄目、そっちに行ったら落っこちちゃうよグーちゃん?」
無意識にハイムを追おうとしていたグスタフを抱きとめるアルシェ。
……うん。お母さんだなぁ……。
「三日位したらテラスでお披露目するからな。その後で新首都に引越しだ……準備は任せろ」
「グーちゃんは元気。きっとお披露目も平気……だから今は休んで」
「そうだね。えへへ……強い子になるんだよグーちゃん?」
強い子、ね。
アルシェ、その心配は無い。間違いなくコイツは強くなる。
ただし、素手でオーガと渡り合えるような猛者に育つしかないがな。
まあ、無力なよりは良いだろう、うん。
……。
そして、一週間後。
無事にお目見えを終えた俺達は、細かい引継ぎをサンドール文官団と交わした後、
文字通り、新首都へ向かって"飛んで"いた。
『空の風はいかがですか戦竜カルマ?気持ち良いでしょう?』
「うん。流石に速いな……でももう少しゆっくりでも良いぞ。赤ちゃんが乗ってるから」
「うあー。うあー!」
「うーん。グーちゃんは喜んでるっぽいけど?」
「……強い子」
地下道を使えれば良いが、実はこの後に及んでもまだルンは俺達の秘密を知らなかったりする。
元々母方から秘密が漏れるのを恐れての処置だったが、
今更、言えないってば。
そう。今更喋ったら、ショックで確実にルンは死んでしまうだろう。色々な意味で。
そんな訳で現在最速の交通手段である風の竜ウィンブレスに乗って移動中なのだ。
これなら地下滑り台で移動するのと時間的には大して変わらない、
と言うか明らかにこっちのが速いような……。
流石は風を司る竜と言うだけはあるな。うん。
……因みにサンドールの押さえは防衛部隊をアヌヴィス将軍に任せている。
守護隊や魔道騎兵は今頃えっちらおっちらと何も無い砂漠を新首都目指し行軍中のはず。
決死隊はイムセティ他十数名しか残らなかった為解散。守護隊に同行している。
そして蟻ん娘達は地下を疾走中だ。
要するに、主要メンバーの大半が新首都に向かっている訳だ。
……これは体制の再編成の為の処置で、終わり次第それぞれの任地に飛ぶ形となる。
なお、今後サンドール王都は外交上の拠点、副都サンドールとして機能させる予定だ。
新首都は、部外者お断り。
半分鎖国のような秘密都市になる予定である。
「さあ、そろそろ見えてくるぞ!」
「どんな所なのかな?僕初めて見るから緊張するよ」
「……私も」
実は俺もだ。
アリサからはマナリアで見たある物をモチーフにしているとしか聞いていない。
名はアクアリウム。
水族館の名を冠するこの街は、レキ以上に"砂漠の水都"をイメージして作られたらしい。
だが、その詳細をアリサは言おうとしない。
……来て見てのお楽しみと言うのもちょっと不安なもんだな。
さて、どんな街になって、いる、のか……って。
ヲイコラ。これは一体何の冗談だ!?
「……噴水?」
「噴水だな」
「綺麗……」
……そこにあったのは巨大な噴水だった。
荒野のど真ん中で岩山に囲まれ、
外部からではその姿を中々確認する事が出来ないようにはなっている。
だが、そうでもしなければいけないほどに"それ"は目立ち過ぎだった。
最早湖と言っても過言ではない半径数十km超の噴水型巨大都市だと?
……有り得ないって!
高さ数百メートルの円形のプール内部には水が満々と湛えられ、
中央にそびえる噴水口の塔は恐らく王城としての役割も果たしているのだろう、
その塔の直径たるや百メートルを優に越えている。
基部には船着場と露天市を兼ねる広場が塔の周囲を囲むように円形に広がっているようだ。
そして塔の屋上は殆ど公園のノリだ。その中央には更に小さな噴水があり、
数十センチの噴水口からは穴の大きさの割りには大人しめに水が噴出している。
……ただし、周囲には"危険な為立ち入り禁止"のフェンスが。
必要とあればその巨大さに相応しい量の水が噴出す仕組みなのだろう。
人々は浮かぶ船で暮らしているようだな。
他にも城壁の内側に溝が何層にも渡って彫られ、そこが居住地として機能しているのがわかる。
更に船と船の間には艀(はしけ)が渡されて道として機能している。
……そのプールを下界から隔離する壁自体も人が住んでいると言う事もあり、数km級の厚さだ。
しかし噴水の動力はどうやって……いや、意外とヘロンの噴水なのかもな。
アレなら使用時に水を出し入れするだけで済むし……。
いやいやいや、それどころじゃないだろ!?
あの地竜グランシェイク(歩けば地震が起きる)が縁を歩いて全く問題無しとか……。
どんだけ丈夫に作ってあるんだ?と言うか分厚すぎるぞ城壁!
いや待て、更に待て!
何か住み着いてるぞグランシェイクが!?良いのか本当に!?
全く。
城壁の外どころか上にまで正体バレバレな謎の森がうぞうぞと蠢いてるし、
街のあちこちでコボルトやゴブリンなんかが人間と普通に暮らしてる。
更に厚さ数kmもある城壁の上には所々に土が盛られ農地や牧草地まで存在する始末。
……まさに異常地帯だ。
とりあえず、アリサを探して締め上げるか。
……趣味に走りすぎだあのお馬鹿は!
……。
「……良く来たな、父」
「しかし出迎えたのは部屋の隅に体育座りで暗雲を背負う魔王様だった、と」
正確に言えば、
ここは新首都アクアリウムの噴水塔内部上層階にある王族専用エリア。
窓辺にテラスまである豪奢な部屋の隅っこでどんより雲を背負うハイムがお出迎えをしてくれた。
……そうか、探索失敗か。
「うむ。世の中盗掘者ばかりだな。何も残っておらんかった。……この気持ち、察してたもれ?」
「ま、仕方ないだろ?そもそもお前のやろうとした事も大して変わらんよ」
あ、どんより雲が更に黒く。
「……かも知れんな。元々わらわの物だとしても、それはもう遠い過去の事に過ぎぬ」
「事実、このスティールソードを含めてかなりの数が世間に出回ってるしな」
因みにこの剣は母さんが魔王城から持ち出した物らしい。
確かファイブレス曰く"竜殺しの剣の始祖"だとか。
あれ?違うか……間違って売り払われて二束三文で親父が買ったんだっけ?
細かい所は忘れちまったな。……まあいいけど。
「ん?違うぞ?それはわらわの城からギルティが持ち出した剣を元にあの宰相が作った物だ」
「……そう言えばヴァンパイヤーズエッジとか言うのが持ち出された剣の名前だったっけ」
『なんだと!?では我が身は偽者に滅ぼされたと言うか!?』
「元の吸命剣は持ち主を蝕んだりはせんよ……切れ味も元々高い。ただし爆発力には欠けるな」
「一長一短か。魔力を爆発的に吸った時は派生品のスティールソードが上回る……で良いのか?」
「うむ。光の刃は元からの機能だが、流石に向こうは切れ味や射程が上がったりはせんからな」
『……彼の剣を探し続けた我が身の費やした月日は一体……挙句偽者に返り討ちか……』
そう言えばファイブレスが結界山脈に居たのって、
竜殺しの剣を手に入れるか滅ぼすかするためだったっけ。
……結局探していた剣に良く似た別物をずっと追ってた訳か。それは辛いな。
まあ、ある意味竜殺しとしては本家より上かも知れん。
ある意味その選択は間違って無かったって事だファイブレス。
「あ、兄ちゃー。ようこそ&おかえりー!」
「きょうから、ここが、おうち、です」
「お疲れであります!」
そんな時、壁にかかった絵画の裏からコロコロと蟻ん娘三匹が転がり出てきた。
まあ今更何処の忍者屋敷だと突っ込んだりはしないがな?
……ともかく丁度良い。追求したい事は山ほどあるんだ。
「アリサ……ところでこの街は何だ!?」
「新首都アクアリウムだよー?」
いや、そうじゃなくて。
「名前は水族館、実態は噴水であります!」
「現在大陸に残存している竜種全員が集まってるよ。一応国民扱いにしてるさー」
……まあ、それもなんだけどな?
むしろ俺が聞きたいのは名前が水族館なのに何故噴水とかそういう話では無く……。
「そもそもなんで噴水?」
「かわいいから、です」
「そもそもにいちゃ、街の形は指定して無いであります!」
「つまり、実用性があるならあたし等の好きに作って良いって事だよねー」
……良い訳無いだろ!?
そもそもこの造りに実用性なんて物があるのか?!
「ふんすいで、おんどちょうせつ、するです」
「熱い時は冷たい水を街全体に散布。寒くなったら昼間温まった水でどうにか出来るであります」
「かべ、たかくて、あつい、です。ふつうのいりぐち、ないから、でいり、むずかしい、です」
「普通に街に入る際は、城壁の上からロープとか降ろして貰わないと駄目であります!」
「……因みに地下も100m単位で壁があるよ?つまり地下から掘り進むのはまず無理」
いや、でも壁をもし破られたりしたら、内側の水圧で偉い事に……あ。
「ふっふっふ。馬鹿な事考えたら鉄砲水で吹っ飛ぶよー」
「そも、あの、ぶあついかべ、どうやってやぶる、です?」
「内側の居住区も、溝は大体百m位でありますよ?」
つまりあの壁をぶち破るには厚さ数kmの城壁をぶち抜かなければならない訳か。
……そんなのまず不可能だな。
と言うか、街の周囲を囲むガサガサ達がそんな暴挙は許さんだろうし。
「さらに、まちなみ、もようがえ、かんたん、です」
「敵がもし城壁に上がっても、国民は噴水塔に避難。艀も回収すれば広すぎるお堀完成だよー」
「で、船の上から大砲ドカンであります!」
……鬼だ、鬼がいる。
更にそれにちょっと心躍った俺も鬼確定。
と言うか、意外と理に適っている……のか?
まあ兎も角、作ってしまって人も住んでいる以上今更やり直しも効かない。
このままで行くしかないのだと思う。
「オーケーわかった。じゃあ、とりあえず案内を頼む」
「あいあいさー」
「あ、僕も行くよ。勿論グーちゃんを連れて!」
「……私もお供する」
そんな訳で、第二回新国家首都探索ツアーが始まったわけだ。
……因みに一回目はレキに初めて辿り付いた時だったな。
「あ、アリシア。ガレー船用意しておいてねー」
「はいです!すいふさんたち、しきゅう、しょうしゅう、です」
「護衛は小早三隻ぐらいで良いでありますよね?」
えーと……俺、これから今居る街の視察に行くんだよ、な?
……。
「こげー、こげー、こげー、です!」
「気合入れるでありますよ!それドンドコドンであります!」
「うわぁ。本当にガレー船だよカルマ君。ラムまで付いてる」
「……本格的に海戦が出来るレベルの船。びっくり」
「本当に護衛の船が付いてきてるし……」
「まあ、アクアリウム海はあたし等の海だから本来心配要らないんだけどねー」
「じゃあなんで付いてこさせてるんだよ……」
「王様のお出かけだから。箔付けだよー」
……と言うか、アクアリウム"海"かよ!?
いや、半径数十km単位の広さがあるし名乗った者勝ちなのかも知らんけどな?
だからって、これは無いだろう常識的に。
というか、隠しきれるのかこの大きさで……?
「例え見つかっても。この街は、この城は……誰にも落とせないよー!」
「物理的にな……」
両手に握り拳で熱弁を振るうアリサだが、俺としてはなんと答えれば良いのか判らない。
……ええい!なるようにしかならんか!
「よし、ともかく案内してもらおうじゃないか!アリサの自信作とやらを!」
「よっしゃー!ではでは兄ちゃご案内だよー!」
「しゅっこう、です」
「全員気合入れて漕ぐでありますよ!?」
「「「「オイッスーッ!」」」」
片側三十人ほどの漕ぎ手が一斉に声を上げ、巨大な櫂が動き始める。
そしてガレー船は港を出港し……いや、そう言う他無いんだよな。
ともかく船は噴水塔基部に設けられた船着場を離れ、とりあえず手近な所にある街、
と言うか数十隻の船と艀、そして巨大筏によって構成される集落へと向かう。
「えー、ここはマナリア系住民の多い街だよー。ただの住宅地だから近くを通るだけー」
「……ん。見覚えある人が居る」
軽くルンが手を振ると、向こう側でも気付いた何人かが大きく手を振る。
そしてそれに気づいた他の住民も集まってきて、何時しか大規模な歓声が上がっていた。
……因みに植木は全部カサカサだったようだ。植木まで手を振ってるし……。
まあ、人気があるのは良い事だ。
そんな訳で、ついでに俺も手を振っておいた。
「じゃあ次だよー」
「こぐです!いそぐです!ひがくれる、です!」
「それドンドコドンドンドンドコドンであります!」
アリスの太鼓に合わせて男達が一心不乱に櫂を動かす。
まあ、基本的に外海と繋がっていないんだから手漕ぎなのは当然だが、
それでも大変そうだな……。
と言うか、ここが荒野のど真ん中だと言う事を忘れそうになるんだけど……。
そうしてガレー船に揺られる事小一時間。
ようやく次の目的地に辿り付いた。
……集落の傍を通りがかるたびに手を振る羽目になって、肩が痛いのは内緒だ。
「次はここだよー」
「おりるです」
「……なんだこの長巨大筏とその上にそびえる巨大な小屋は……」
「ふはははは!わらわの領土だ!」
あ、ハイムが天から降ってきた。
そしてそのまま俺の肩に座って肩車状態なんだけど。
「で、ここは何なんだ?魔王城とか言うなら、もう城は要らないのか?」
「いや?ここはむしろ……魔王場、といった所か。間違えないでたもれ」
なんだそりゃ。
「正確に言えば魔王養鶏場でありますね」
「つまり、ハイラルたちの、おうちです」
「コケー、コッコッコッコ……」
すると、小屋の中からヒヨコ数十匹を引き連れてハイラルがこちらに寄って来た。
……最近姿が見えないと思っていたら、こんな所に居たのかお前ら。
しかも大きさが既に大型犬、しかもセントバーナード級なんだけど?
何処まででかくなる気だお前……。
ん?何かくれるのか……って卵!?
良いのか、お前の子じゃ……って無性卵か。
「様々な意味で強化されているゆえ美味いぞ父よ!」
「因みにカルーマ商会の名で既に大陸中に卸してるのであります」
「うりあげの、さんわりが、はーちゃんの、とりぶん、です」
「うん、初めて提案された時はやっぱ親子だと思ったよー」
なぬ?ハイムの発案だと?
「そうだ。魔王軍再興を父からの小遣いで成し遂げたとあっては魔王の名折れだと思わんか父?」
「確かに格好悪いなそれは……」
で、卵の卸売りを開始したと?
「既にハイラル達の最初の子らも立派な鶏となったので、何とか採算が合いそうだったしな」
「ちなみに……このひよこ、ハイラルとコホリンの、まご、です」
「「「「「ぴよ!」」」」」
そうか……うーん。色々言いたい事はあるが……。
「そうか。頑張れよハイム。自分で稼いだその金はお前だけのものだ。好きにすればいい」
「うむ!クイーンにこの小屋を建てた代金を返済し終わったら好きにするぞ!」
「……しっかりしてる。とても良い事」
「お爺ちゃんお婆ちゃんがあれだったもんね……良かったね、ルンちゃん」
実際この自立心は伸ばしてやりたいよな……。
正直な所、ハイムの成長がもの凄く嬉しいし。
「ともかく、黒字を溜め込んで新規事業も模索せねばならん。今後の為にも!」
「おお、何か生き生きしてるであります」
「洞窟内探すより、お金貯めてグーちゃんのプレゼント普通に買ったほう良くないかなー?」
「アリサ……それは、いわない、おやくそく、です。」
自信満々に腕組みをするその姿は、小さいながらも何処か威厳すら感じられた。
うん。魔王なんて存在なんだし、それぐらいの威厳は常時持っていたほうが良いな。
……まあ、たまには可愛らしい所を見せて欲しいとも思うけどな。
いや、必死に金策に走るまおーと言うのも中々……。
「ちなみにハニークインちゃんの発案なのですよ?」
「うおっ!?突然耳元で囁くな、びっくりしたじゃないか!」
ぶんぶんぶん、と羽音がする。
横を見るとウェーブのかかった長めの髪を伸びるがままにしている小さな女の子。
目は普通。背中には羽。そして尻から針が生えている。
うん。正体隠す気が全く感じられんな。
「ミツバチの女王、ハニークインちゃん。人型で登場なのですよ?」
「……それはいいが、なんでまた人型になろう、なんて思ったんだ……」
お前が誰にも相談せずにあんな所で羽化しようとするからとんでもない事になったんだけどな?
そこんところ理解してるかハニークイン?
「踏み潰された先代の部下の敵討ちなのですよ?……ふがっ!?」
「確信犯かよ!?」
とりあえずぶん殴る。
ただし、色々と考慮して突っ込みレベルの威力でだが。
「酷いお兄さんですね?こちらは帰る所も無い可哀想な子供なのに、よよよ……」
「……わざとらしい。低評価」
「お姉さん言い方が辛口……その瞳孔の開いた目で此方を凝視するのは止めて欲しいのですよ?」
「ハニークインちゃん、だっけ?カルマ君に関する事でルンちゃんをからかったら、死ぬよ?」
「ん……否定しない」
そして、ルンの腕がハニークインに伸びる。
……場の空気が凍った。
「あ、あははははは。冗談なのですよ?ともかくハニークインちゃんは魔王様の参謀!」
「む、むしろ軍師だな。と言う訳でこ奴はわらわの軍師だと思ってたもれ?」
「そ、そうなんだ。良かったねはーちゃん?お友達が出来て」
「……とりあえず、ルン。俺の事は良いからハニークインの頭、離してやれ」
「ん」
ぼてっ、と音がしてアイアンクロー状態でルンにぶら下げられていたハニークインが床に落ちる。
太陽がまぶしい昼下がり、大きな大きな筏の上で、何処か寒々しい空気が漂っていた……。
「お、恐ろしい方なのですよあのお姉さん……魔王様の母君は」
「母に逆らうのは止めておけハニークイン。ともかく洒落の通じない母ゆえ」
「と言うか、幼虫時代に理解してなかったのかよ……」
「所詮は芋虫。枕扱いが嫌で人型になる事を望んだのがハニークインちゃんなのですよ……」
「つまり、ぷにぷにごろごろだった時はそんなに頭良く無かったって事かな?」
「母その2……ぷにぷにって……いや、まあ良いがな」
成る程。
地位向上を狙って半ば無意識で遺伝子を組み替えたのか。
とりあえず、悪気が無いなら良しとするか。
しかし……本当にこの世界の女王蟻や女王蜂はとんでもないな。
ま、今に始まったことじゃないけどな?
「……ともかく、ハニークインはハイムの側近になった、と考えて良いんだな?」
「そうなのですよ?」
「因みにもう少ししたらわらわの蜂蜜酒も少しばかり市場に流してやる予定だ」
わらわの蜂蜜……ああ、魔王の蜂蜜酒な?
そうか。作れるようになったのか。
「なあハイム。だったら俺にも少し飲ませてくれないか?」
「あーっ、カルマ君ズルイ!僕も飲んでみたい!」
「……私も」
やっぱり皆飲みたいよな。
……ん?どうしたアリサ達。
何か微妙な顔をして。
「あ、いや……何と言うか、後悔しないで欲しいんだよねー」
「あうあう、です」
「とりあえず、結構ショッキングでありますからね……」
何がだよ。
「じゃあ、とりあえずコップ一杯だけ用意するのですよ。ぐびぐびぐび」
「あー、酒飲んでる?ああ、原料なのか」
突然ハニークインがラム酒をがぶ飲みし始めた。
そうか、体内で生成するんだもんな。
……体に悪そうだな……なるほど、これは確かにショッキングだ……。
「シェイクするのですよー」
「あうー」
更に腰振りダンス開始。
ついでにその横で何が楽しいのかグスタフがうろうろしている。
それ、しぇーいくしぇーいく……なるほど、これもヤヴァイ。
ルイス辺りが見たら卒倒しそうだ。
「ではでは、さっそく注ぐのですよ」
「早っ!つーか、何で脱ぐ?」
……何だよそのニヤリ笑いは。
「だが蜂蜜酒は胸から出る!」
「色々とちょっと待て!」
そしてコップ一杯分ほど注がれる魔王の蜂蜜酒。
……いや、あれは人型のクリーチャーであり人間では……。
いや、どう見ても絵面が犯罪以外の何物でも無いんだけど!?
「どうかしたのですか?」
「どうもこうも無いんだけど?ハニークインよ」
「とりあえず飲んでみるのですよ?」
「……色々と……飲み辛いんだけど」
そう言う事か……これは辛い。
嫁の前だぞしかも。
……これじゃあ蜂蜜酒を薬としても使いづらいんだけど……。
「人型だと放出専用の器官が付いていてありがたいのですよ?」
「むしろ飲む方にとっては罰ゲームだ……」
「先生……」
「カルマ君……」
嫁の目が怖ぇ!
しかも妹がニヤ付いてやがる!
ど畜生!アリサ……こうなるのを予想してやがったな!?
「……と、とりあえずまた今度な?」
「「……ほっ」」
「にいちゃ、へたれた、です」
「仕方ないで有りますよ。にいちゃは頑張ったであります」
「これから大変だね兄ちゃ?にやにや♪」
ふっ。アリサに対し……うめぼしぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
「にぎゃああああああっ!?」
「あ、アリサーっ!アリサ、おこられた、です!」
「逃げたいでありますが、アリサを見捨てるという選択肢があたし等には無いであります!」
「……にやり、なのですよ?」
……俺は見た。
大混乱に際し口の端をつり上げるハニークインを。(黒幕だったらしい)
そして俺は見た。
無表情のまま瞳孔だけは全開になったルンが、
ハニークインの肩に背後から手をかけるのを。
「……お仕置き」
「はにゃああああああああああああっ!?」
お後が宜しいようで。
……。
そして、一時間後……俺達は再び船上の人となっていた。
「行けぃ!リンカーネイトの精鋭ども!わらわ達を次なる目的地に運んでたもれ!」
「兄ちゃ、あたしが悪かったよー?悪かったから。だから梅干しは……止めてー……」
「ガタブルガタブル……この国で一番逆らっちゃ駄目なのはあのお姉さんなのですよ……」
「ほっぺた、いたい、です……」
「……お尻百叩きは酷いでありますよ……」
「グーちゃん、次は商店街だって。カルマ君……お父さんに何か買ってもらおうね?」
「あぶー」
「……無駄遣いは、駄目」
「何なんだこのカオスは」
調子に乗りすぎたせいでお仕置きの憂き目にあったちびっ子ども。
そしてその代わりに漕ぎ手に指示を出すまおー。
後ろには赤ん坊に構うお母さん達。
更にそれがどうした状態の漕ぎ手達と言う異様な状態。
俺はそんな混沌の真っ只中に居た。
「あう、あう、あう……ちょっとしたジョークだったのですよ……」
「ちょっとじゃなかったねハニークイン?兄ちゃから怒られたじゃないかー」
「むか、むか、です」
「いや、クイーンアント……そんなに怒る事は……」
「……黙りゃ?兄ちゃに怒られるのがどんだけあたし等にとって恐怖か判るのかなー?」
「アリサ。口調が変わってるであります」
おー、ほっぺたを雑巾絞り状態にする大技だ。
「いだだだだだ!クイーンアントもノリノリだったのでは?責任転嫁はズルイのですよ!?」
「やかましいよー」
「ほっぺたぐりぐり、です」
そうやってチビ達が責任のなすり付けをして居る傍から、
目的地は俺たちの脇を通り過ぎていく。
一際豪華な船ばかりで構成されたその町では、
それぞれの船が己の存在を誇示するかのように大きな看板を掲げていた。
クゥラ商会出張所やボンクラクレクレカレー本舗、トレイディア商人ギルド支部。
アヌヴィス家のキャラバン事務所やオーバーフロー金融そしてまおーエッグ直売所。
そして一際大きな船にはカルーマ商会の文字が。
更にマナリア王立交易社リンカーネイト支店などの看板を掲げた大型船の横を通り過ぎていく。
……なるほどな。
ここは商店街と言うよりも各企業、
それもかなりの優良企業の支社を集めている。
商談の拠点になっているのだろうな。まさしく中心街と言って良い。
これなら必要な時に一箇所に集まって会議を行う事も出来る。
「……と言う事でいいのか?」
「いいよー」
子供の喧嘩は結局噛み付きで決着が付いたらしい。
顔に痣まで作ったアリサが俺の問いに親指を立てている。
……しかし何時の間に殴りあいに……。
「おおおおお……いつか、いつか煮殺すのですよ……」
「もう止めんかハニークイン。クイーンも機嫌直してたもれ?」
「あいよー。ちょっとやりすぎたしねー。ごめんねー」
「魔王様が言うなら……。まあ、ハニークインちゃんも調子乗りすぎでした。ゴメンなのですよ」
「うむ。これにて一件落着!」
どうやらハイムの仲介で一件落着したらしい子供達のほほえましい喧嘩を横目で見つつ、
俺はこれからの事を考えていた。
「……先生?」
「ルンか。いや、これからの事を考えていた」
「これから?」
「そうだ。期せずして王様なんて物になってしまったし、今後どう動くかなって、な」
そう。責任は今まで以上に重大だ。
誰にも従わなくて良い代わりに、全ての責任が自分の肩にのしかかって来る。
まあ、気楽にやって行くつもりではいるが、
それでも失敗するという恐怖は付きまとう。
『だが、受け入れた以上全力を尽くすのみ、なのだろう?カルマよ』
『ああ、その通りだファイブレス。流石に判るか?』
俺の内部から火竜の声がかかる。
『ああ、昨日より今日、そして今日より明日、お前のことが良く判るようになるのだろうさ』
『……そうだな。それで俺が人で居られるのはあと何年だ?』
『以前言った通りだ。その後はどうなるか我が身にも判らん。完全に混じってしまうからな』
『その後……俺は俺で居られるのか……?』
混ざった物は戻らない。
かつて、前世の"俺"とこの世界の"カルマ"が一つになった。
だが、元々のカルマは赤ん坊だった為、最終的には"俺"をベースにした人格が形作られている。
そして、現在俺の体には俺とファイブレスと言う二つの人格が存在している。
……少しづつ、混ざり合いながら。
そして、その存在は明らかにファイブレスの方が大きい。
人と竜では魔力量も生命力も比べ物にならないのだ。
そうなると、完全に交じり合った時、俺と言う人格はどの程度残っているのだろう?
今と変わらない可能性もある。
もしかしたら今まで通り二つの人格が特に問題なく共存し続けるのかも知れない。
だが、どちらかに吸収されてしまうかも知れない。
まったく新しい人格が出来る可能性もあるな。
そして最悪の場合双方の人格が消失するという危険性もある。
……前例が無いからどうなるか判らないのだ。
「ま、永遠なんてある訳無いけど、先の事を考えて強固な体制を作らないとな」
「……先生なら、出来る」
杞憂かもしれない。
そしてこの国は現在俺と言う存在で持っている。
つまり……不安を抱かせる訳にはいかない。
だから、誰にも言う訳には行かない。
けど、最悪の可能性も否定できない以上、
俺が居なくても大丈夫なほどに、この国を強固なものにしなければならない。
「あぶー」
「あああああ、また髪を口に……グスタフ、何が楽しいのか教えてたもれ……」
「はーちゃん。水に飛び込んで髪洗って来たらどうかなー?」
「……駄目、風邪ひくかも」
「そうだね。僕も早く帰って熱いお湯を浴びた方が良いと思うよ?」
何故なら……守るべき物があるのだから。
……理由はそれだけで……十分だろ?
『……家族を守るだけなら、商会の長と言うだけで十分だと思うが?』
「心中の決意に水をささないでくれよファイブレス……」
締まらない事この上無いが、
ま、これくらいの方が俺らしいか。
……ともかく今日も明日も頑張る以外に選択肢は無い。
明日、か。
確か明日は、爵位の授与式だったよな……。
***建国シナリオ4 完***
続く