幻想立志転生伝
56
***大陸動乱シナリオ7 論功行賞***
~信賞必罰・責任を取るべきは誰?~
≪side カルマ≫
ファイブレスの巨体と俊足を持ってすれば、
片道一ヶ月かかる筈の道を丸一日程度で走破するのも難しいことではない。
……とは言え、疲れるのも嫌なのでサンドール王都近くまでは蟻の地下通路で移動する。
そして岩陰に巧妙に隠された出入り口を抜けると、
もうそこはサンドール王都まで目と鼻の先。
「さて、ここから先は遮る物も無いな……」
『遮る物?必要なのか?足手纏いの居ない今の我が身達に』
足手纏いと言う台詞はどうかと思うが……まあ確かに要らんな。
残存兵力は確か、僅かに千名とか……いや、油断は禁物か。
ともかく気を引き締めていこう。
城内入場の途端に暗殺者が狙ってくるとかも考えられない訳ではないしな。
……そんな思いと共に竜の頭に乗って進んでいく。
サンドール王都の城壁近くまで来た所で一度ファイブレスを戻し、竜馬として再召喚。
そして……俺は竜馬にまたがったまま、サンドールの王都城門前に立った。
「……さて、報告ではホルス達がセト将軍達を討ち取ったという話だが」
『まあ、問題無ければすぐにでも門は開くだろうさ』
……問題があったら俺達自身で何とかする事になるな。まあ、それも一興か。
と、思っていたのだが。
「アニキ!迎えに来たっすよ!?」
「おお、レオか!」
城門は音を立てて開いていく。
どうやら心配するほどの事はなかったようであった。
……そして。
「うっす!自分ことレオ以下守護隊五百名、一人も欠けずにお供するっす!」
「……無事なのはお前らだけだよ。頼りにしてる」
城門の奥から現れたのはレオと守護隊。
更に……。
「新主君、歓迎!」
「アヌヴィス将軍か……本当に味方に付いてくれるとは。ともかく今後はよろしく頼む」
「御意。当方保有兵、内、半分、護衛供出!」
「配下の半分を護衛に?良いのか?まあ、たった五百人じゃ軍としては少ないから助かるけどな」
そして、俺は背後の左右にレオとアヌヴィス将軍を従える形でサンドールの街を進む。
総勢千人の部隊でサンドールの大通りを我が物顔で進む。
……これは、戦争の勝敗を周りにも判り易く示すと言う狙いだ。
無駄に逆らわれたりしたら、それ相応の対応をせなばならん。
こうするのが、多分お互いの為なのだ。
「レキ大公殿下!ばんざーい!」
「解放者万歳!」
「俺たちに飯と自由を!」
「週に一度は休みをくれるって話は本当ですか!?」
……沿道から歓声が響き渡る。
時間をかけてサンドール王家から信用を奪い去った結果だ。
もっとも、此方が失策をすれば直ちに掌を返されることは明白。
なので、既に地下道を使い救援物資を大量に運び入れつつある。
カルーマ商会の名でそれらは既に配給され始めている。
……昨日までと明らかに違う食生活。
民衆の心を溶かすにはとりあえずそれで十分だったようだ。
まあ、不満分子は腐るほど居るだろう。
なにせ歴史はある国だったのだ。
今はまだ大人しくしているが、その内大々的に動き出すに違いないのだ。
その対策も急ぎ進めなくてはならないな。
ふう。しかし我ながら何でこんな事やってるんだ?
……俺の人生の目的としては、楽に暮らせて適当に金持ちになれればよかった。
つまり望みは全てカルーマ商会が軌道に乗った時点で全て叶っていた様なもんだ。
後はのんびり年金暮らしが出来た筈なんだけど、現実は何故か一国の主なんかやっている。
国家元首なんてものは、周囲の恨みを一身に受ける立場でしかない。
労多い割に、益は大財閥のトップとそうそう変わるものではない。
法律を好きに出来るという利点は周囲の反発を招くから実際は自由になんか出来ないしな。
あーあ、折角ブルジョアの仲間入りで左団扇だった筈なのに、
面倒な事に首を突っ込む羽目になったもんだよ。
本当に一体なんでこうなってしまったんだ?
……まあ、今更逃げ出す訳にも行かんけどな。
望む望まぬに関係なく、もう逃げられない所まで来てしまったのは俺にだって判るさ……。
とりあえず言える事は一つ。
平穏な暮らしをしたいなら、既に色んな物を押さえ込んで行かなければならないと言う事だ。
思えば教会と事を構えた時から、
対抗する為に力をつけ、付けた力と仲間を維持するために更なる戦いを巻き起こす、
と言う循環が続いている。
だが、今更止まらない。止められる筈が無いのだ。
行き着く所まで行き着くか、それとも沈没か。
……期せずして、遂に行き着く所まで行き着いてしまった訳だがな。
自分と家族、そしてここまで付いてきてくれた仲間達の幸せの為に俺は突き進む。
……突き進めなくなってしまったら、もう、滅ぶしかないんだ……。
……。
等と、ぼやいている内にも行列は進む。
様々な理由で寂れてしまった街並み、そしてやけに目立つ妊婦の姿。
成人男子の姿は殆ど無い。戦争でかなりの命が失われてしまったのだ。
……暫くは税どころか、国家規模での支援が必要になるか。
ま、それが出来るのがカルーマ商会であり家の蟻ん娘どものチート具合なんだが、
まあ、普通なら。ここまでやったら文字通り焦土しか残らないよな、うん。
復興は出来るからって一度焼け野原にするような真似は正直効率悪いよな。
完全に叩き潰すと言うのは、同時に得る物が少なくなると言う事でもあるのだし。
……正直、俺のプレイングスキルとでも言うべき物の低さに泣きが入る。
腕力は付いたし、姑息な作戦を立案する事も出来ない訳ではない。
しかし、正直な所……上手く手加減する事が出来ないのだ。
下手に手を抜いたり手心を加えるたびにしっぺ返しを受けてる気がする。
故に、とことんまでやるしかない。
もう少し穏便なやり方もあったろうが、俺自身は元々謀略なんかは門外漢。
前世からの記憶で策そのものは色々持っていても、果たしてそれを生かせているのかどうか……?
ゲームに例えれば……幾らステータスが高かろうと、資金が常にMAXだろうと、
プレイヤー自身の頭が悪いとどうしようもない。
どんな切り札も、使いどころを間違えると殆ど意味がなくなるように……。
……そう考えると……、
「まあいい。配られたカードで勝負するしかないのさ」
「……いきなりどうしたっすか?」
「何でもない。さて、王宮まではもう少しだよな」
「うっす!因みに大規模な炊き出しを平行して進めてるっすよ!」
「当軍配下、行動中也」
ふむ、確かにそのようだな。
蟻ん娘が中心になってどんどん水と食料が積みあがっていく。
……それに群がる人間達に最早奴隷も市民も無いようだった。
「……一般市民にまで飢餓が始まってたのか」
「そうっすね。まあ、それも今日までっす」
「本日、配給開始……安堵……安堵……」
王宮の城門は既に開け放たれている。
……そして、そこには。
「主殿、ようこそいらっしゃいました……ここに居るは我が国を支えうる逸材達です」
「「「「ようこそいらっしゃいました、新たなる王よ!」」」」
ホルスとサンドール文官団の姿。
……予想外なのは文官達に随分若い姿が目立つ事と、その目が希望に満ち満ちている事。
何でだ?祖国が戦争で負けたばかりだと言うのに……。
「腐敗した上層部は残らず国外逃亡を図った模様。砂漠を出る事も出来ずに全滅するでしょうが」
「……つまり、ここに居るのは正論故に日陰者だった連中か?」
苦虫を噛み潰したような顔でホルスは言う。
そう言えばこの国にも上層部ってのは存在するんだよな。
まあ、この反応を見る限りろくなもんじゃ無さそうだけど。
……なら、最初から居ない方が良いか。
残ってくれた奴らだけで上手くやって行く事にしよう。
「はい。この国をより良い物にしたいと願う有志です」
「そうか……これから大変だと思うが頑張ってくれ。予算に糸目はつけなくて良いから」
……我ながら凄い台詞である。
だが、カルーマ商会の地下輸送網は既に大陸外にまで達し、
世界中から富と物資を吸い上げている最中なのである。
必要な物を必要な所に運ぶ。そして時折新製品を開発する。
……後は、世界中の金山銀山を地下から掘り進め、
上の坑道にぶつかる前にただの岩と交換しておくと言う行為を繰り返しているな。
後、こっちの地下道に気づかせない為に下のほうで大々的に狼煙を焚いて、
上の鉱山の中で"毒ガスだー"とか騒いでみたりとか。
いや、権利侵害じゃないよ?
地下を掘り進めてたら偶然金山や銀山に残らずぶち当たっただけだからね?
まあとにかく……それだけで、
既に大陸の一割ではなく世界の富の一割を保有するに至ったとか何とか。
故に、大陸……と言っても実は大して大きくも無いらしいこの大陸、
その中の国一つを救うのはそれ程難しくないとの事だ。
「「「ははっ!お任せ下さい!」」」
「さし当たって、飢餓で働けない人間が増えてると思うから、今年一年は全面的に税免除な」
「「「おおおおっ!助かります!」」」
「後でレキの文官団と打ち合わせといてくれ……」
感動しているらしい国中から集められた文官達とやらに別れを告げ、
やって来たのはかつてのハラオ王の自室。
謁見の間は何か問題があるらしくまだ使えないとの事だ。
……俺はそこで人払いをするとホルスから軽く報告を聞き、ついでに此方の現状を話しておく。
そして、その日の晩に何処か慌てたような雰囲気のアリサが駆けつけてきた所で、
……論功行賞の打ち合わせ、と言う名の責任問題追求の場が設けられたのである。
出席者は俺とホルス、そしてアリサ。
奇しくもそれはカルーマ商会結成時、忘れられた灯台の密談と同じメンバーだった……。
「……さて、そんな訳で予定外の被害が出てしまった訳だ。だが皆勇敢に戦ってはくれている」
「なるほど。罪を断ずるには勇敢に過ぎ、罰しないには後の影響が強すぎるのですね」
「そのままにはしておけないけど、やり方如何では不満が残りそうだねー……」
ロウソクの明かりで照らし出された三つの顔はどれも例外なく厳しい。
……それはそうだ。これは今まで無かった"味方を断じる"為の会議なのだ。
褒美を与えるのは問題ない。
だが、それだけでは今後に差し障る。
……今までに無い難しい舵取りをする必要があったのだ。
そんな中、ホルスが重々しく口を開いた。
「……イムセティを罰しましょう。功を焦り君命に背く。あってはなりません」
「待った!イムセティはホルスの子供じゃない!?本当にそれで良いのー!?」
「……私が身内を罰せばこそ、公平感は得られるでしょう……」
ホルスは何事も無いように言うが、拳がきつく握られたままだ。
……本心としてはそれで良い訳が無い。
それに、俺としても初陣でいきなり指揮官を任せたと言う負い目も有る。
更に、サンドールが新しく統治領に加わったと言う事情も考慮すれば、
サンドール出身のイムセティを罰するのは国民感情的に余り良くないだろう。
ただでさえ、サンド-ル人の比率が跳ね上がるのだ。それは出来れば避けたかった。
「……イムセティは初陣、更に命令を下したのは俺だ。故に」
「駄目です。勝ち戦で君主が罰を受けるなど。今後の君主が罠に嵌められる可能性もあります」
「そだね。……勝ったのに奸臣に難癖付けられて、とか色々ありそうだよねー」
……未来の為に、おかしな前例は作れない、か。
だとしたら、責任は誰が取る?
誰も取らないと言う選択肢もありえないぞ?
何せ、それが慣例となりかねないのだ。
「……じゃあ、オドを更迭するのか?あいつは今回の功第一位だぞ」
「功罪合わせてお咎め無し褒美無しも有り得ますが……もしイムセティを無罪とするならそれは」
「出来る訳無いよね。だって、余りに贔屓過ぎるし」
功多く、失策もあったオド。
それに対し、初陣ではあるものの、失策ばかりが目立つイムセティ。
この場合……オドを罰するなら当然イムセティも罰せねばならない。
だが、
「まさか二人とも切る訳には行かんぞ?なにせ貴重な指揮官だ」
「……そうですね」
「じゃあ、あの二人にはご褒美を与えると言う方向で決定だよー」
そうだな。双方を罰するよりは双方を褒め称えた方が良いか。
……とは言え、何らかの形で罰も与えねばならないだろう。
しかし、周りにはそう見えないような方法で本人達には思い知らせる?
……そんな方法、あるのか!?
「さて、となると……誰に責任を取ってもらうか」
「はい!今回は、はーちゃんが悪いと思うよー!」
「……し、しかし姫様はまだ赤ん坊です!」
「甘い甘い、魔王だよ?分別は普通の人間以上。むしろ罰が無い方が堪えるんじゃないかなー」
「……だとしても、今回はハイムに対する罰は取りたくないな」
……何故かって?
それは、俺がアイツをあくまで魔王としてではなく一人の姫として扱いたいからだ。
子供のポカは親が責任を取るべきだろう。
少なくとも、アイツはレキ大公国ではただの姫君でしかない。それも生まれたばかりの赤ん坊。
……そう、赤ん坊に責任を取れなんて言えない。言いたくない。
例え人並み外れた能力を持っていようが、だ。
「……アイツも今回は懲りただろう。今回だけはお咎め無しで行きたい」
「そうですね……しかしだとすると誰が責任を……」
「いっそホルスが全責任被る?私情で宰相が国を空けてたんだからさー。あたし大変だったよ?」
……確かに書類的に凄まじい事になっていたな。
お陰でアリサは余り動く事が出来なかったくらいだ。
とは言え、それは俺自身が認めた軍事行動。
責任どころか予想以上に上手くやってくれたとしか言いようが無い。
それを罰するなんて……。
「……兄ちゃ」
「うわっ、何だよアリサ怖い顔して」
悩んでいると、突然目の前に複眼が。
……何時の間にやら目を見開いたアリサが俺の膝に乗っていたのだ。
「誰でも良い。さっさと罪を被せろー。さもないと、あたし嫌な役割を演じなきゃならない」
「……嫌な、役割だと?」
ふと気付くとアリサの顔色はかなり悪いのが判る。何か、躊躇しているようだ。
……そして、その手には一通の手紙が握り締められている。
「……後悔しても知らないよー?……はい、ルン姉ちゃからの手紙……というか懇願」
ぞくりとするような表情だった。……ルンからの、懇願だって?
とりあえず読んでみるか。
ふむふむ。
うん、ハイムに罪を被せたりはしないから安心しろ……って。
こ、この内容は……。
ルン…………本気か!?
「兄ちゃ……その手紙の通りにすれば、確かに問題は解決だよー」
「いや、しかし……」
「一体何が……読んでも宜しいので?」
振るえる手で手紙をホルスに投げる。
……暫く黙って読んでいたホルス、その顔から表情が消え、唇が真っ青になる。
「た、確かに有効な手段です……それに事実上誰も罰する必要が無い……ですが」
「罰する必要が無いだけで、事実上凄い罰だよこれ!?相手はルン姉ちゃなんだよ判ってる!?」
……なんと言うか、もう、他の事はどうでもよくなってしまった。
そして、ここから先はその手紙の内容を実行するか否か。
その議論だけに一晩を費やす事となる。
……結論から言おう。
確かに理は適っていた。適い過ぎていたのだ。
故に俺は、それを受け入れざるを得なかった、と。
ただし、それだけで終わらす気も俺には無かった。
ルンだけに全てひっ被せて、のうのうとしている気は無い。
……そのための策を、長く三人で練り続ける事となる……。
……。
……時は流れる。
結局俺達はサンドール王宮に結構な期間、詰めている事となった。
関係各所に書類を書き、手紙をしたためる。
結果、新首都ではなくこのサンドール王宮にて、
遅まきながらも先立っての戦争の論功行賞が行われる運びとなった。
……出産の近いアルシェを含めたレキ、及びサンドールの重鎮達が続々と王都に集まってくる。
その中でただ一人、何かを思いつめたようなルンの姿を見たと、会う者皆から聞かされた。
……俺は、アイツを何とかしてやらなければならない。
……。
その日、掃除の終わったと言うサンドール王宮謁見の間にて、
論功行賞が開催されようとしていた。
そう、開催だ。
まるで何かの儀式のように進行していく。
サンドールの王座に仏頂面の俺が座り、
その横にホルスとアリサが立つ、そして下座に並ぶように文武百官が立ち並んでいた。
……表情はそれぞれだ。
報奨に期待している者、不安を感じている者……。
そんな中、ホルスの声が謁見の間に響く。
「勲功第一位!魔道騎兵オド隊長、こちらへ!」
「イエッサー!」
自信満々の笑みを浮かべながら、伊達男が赤絨毯を進む。
そして、俺の前に膝を付いた。
「オド、お前とその部隊は特に勇猛で勲功もあった。よってここに賞する……まずは金貨だ」
「後々爵位の授与も行われます。それまでこの場に残って下さい」
「ハッ!承知いたしました。このオド、今後も殿下と妃殿下に忠誠を誓いますとも」
アリシアが運んできた金貨袋を受け取り、満面の笑みとなってオドは所定の位置に戻っていく。
続いて。
「勲功第二位!守護隊レオ隊長、こちらへ!」
「はいっす!」
自信満々にレオが歩み寄ってきた、そしてニカッと笑うとオドと同じように膝を付く。
……俺も思わず笑みがこぼれた。
「レオ、長期にわたる敵地での任務ご苦労だった。そら、これがお前たちの取り分になる」
「うっす!頂くっす!」
「レオ隊長にも故国の物以外に我が国としての独自の爵位をご用意しました。お残り下さい」
……軽くガッツポーズをしてレオは元の位置に戻る。
ふう、全員これくらい文句無く渡せればよかったんだよなぁ……。
さて……問題は次か。
「勲功第三位……決死隊イムセティ隊長、こちらへ」
「えっ!?私達にも褒美が頂けるのですか!?」
少しばかりきょろきょろとしながらも、イムセティは俺の元にやって来た。
そして、先ほどの二人よりは幾分ぎこちなく膝を付く。
「……さて、色々問題は有ったが初陣としては稀有なほど勇敢な戦いだったぞ」
「い、いえ……ただ無謀だっただけでして……」
「報奨は僅かな銀貨ですが、戦死者は先に此方で弔っておきました……以後、精進しなさい」
「父さん…………はい!全力を尽くします!」
小さな銀貨の袋を握り締め、イムセティは戻っていった。
心なしか足取りも軽く。
……。
その後、小さめの報奨が次々と渡されていく。
だが、そろそろ違和感に気付き始めた連中が現れたようだ。
ヒソヒソと内緒話が始まり出している。
……即ちそれは……。
「おかしいっすね……ホルス宰相の論功行賞が無いっす」
「ホワーィ?確かにそうですね。どうしたのでしょう?」
「殿下が父を忘れる事は流石に無いと思いますが……父さんは別に不満も無さそうですね」
丁度良いかな?
いい具合に周囲が騒ぎ出したし丁度一般連中への報奨も渡し終えた所だ。
「……以上で表彰を終わる。続いて……」
えっ!?という視線が俺の元へと届く。
長期従軍してサンドールを落としたのは間違いなくホルスの手柄。
それを表彰しないのは何故か?
そんな感じの視線だ。
……そんな中、何処かおずおずとルンが歩み出た。
そして赤絨毯を俺のほうへと進む。
その表情は、俺が今まで見た中で一番と言っても良い位に硬いものだ。
「せ……大公殿下にお願いがあります」
「……言ってみろ、大公妃」
ざわり、と周囲がざわめく。
自分でも思うが今のやり取りは異様だ。
……少なくとも俺達の間で交わされるやり取りの雰囲気ではない。
「恐らく有るであろう姫への処罰、どうかお待ちになって頂きたく存じます」
「駄目だ……第一公女ハイムへは、相続権の剥奪が既に決定している」
ザワリ……!
今度は空気が変わった。
そして……いの一番に口を開いたのはやはりこの男。
「ホワーーーッツ!?何故姫様がそんな事に!?」
「決まってるだろ?私的な理由で軍の作戦を妨害し、軍を半壊させた罪だ。むしろ軽すぎる」
「罪状は国家反逆罪になります」
ホルスの補足、だがそれにオドは噛み付く。
「……ホルス宰相!貴方、まさか姫様を……」
「口が過ぎるぞオド!これは俺が決めた決定事項だ!」
「……因みに私の功は、イムセティの失策の穴埋めとされています」
「なっ!?父さん!そんな事一言も!?」
呆然とするイムセティ。
だが、話はここで終わらない。
ルンは声を震わせながらも次の言葉を口に出してきた。
「では……私の持つ最も価値のあるものを差し出します。……ですから」
「………………それは、何だ?」
そっ、とルンが指から外した指輪を差し出す。
……そう、それは……一言で言うなら結婚指輪。
「レキ大公妃。その称号を、おかえし、しま……す……」
「………………」
……しん……と静まり返る謁見の間。
誰も一言も発せず、沈黙が痛いほどだ。
俺も色々な意味で痛い。痛すぎる。
だが……周囲に判らせるにはこうするしかなかった。
これ以上の手は、思い浮かばなかったんだ……!
「……オジョウサマーーーーーーッ!?」
「ひ、妃殿下!?と、父さん、これは一体どういうことですか!?」
……ハイムはここに居ない。
ショックを受けて、今も話を聞かせた近くの部屋で硬直したままだ。
瞬き以外いっさいせずに完全にフリーズしている。
「あ、アニキ!?今のルーンハイムの姉ちゃんからアニキ取ったら、何も残らないっすよ!?」
「そう……何も残らない……私には、もう、何も……ぁぁ……」
耐え切れなくなったのだろう、ルンが一目散に謁見の間から逃げ出した。
だが……追うな!今追ってはいけない!
ルンの……これを自分から言い出したという意味を無駄にするな!
「では、大公妃ルーンハイムの称号永久剥奪を持って第一公女への処罰は不問とする……」
「ノオオオオオッ!?永久、剥奪ーーーーっ!?」
「アニキ!?それってこれから永遠にルーンハイムの姉ちゃんが戻る事は無いって事すか!?」
「……馬鹿な、そんな馬鹿な話があるのですか?あの方は別に何も悪い事は……」
いや、よくよく考えるととんでもない事をしでかしている。
自分から気付いて言い出したのは、やはり誇り高き公爵令嬢だったと言う事だろう。
「ハイムの暴走時、指揮権も持ってないにも拘らず勝手な判断で軍を動かした……」
「そして、それに姫様の罪状を加えると……こうする他無いのです」
その時……凍りついた時が遂に崩壊した。
スラリ、と剣が抜かれる。
そして怒りの形相でオドがホルスに剣を向けた!
「ハハハハハ!そういう事ですか!こうなるとお嬢様が邪魔と言う訳ですね?……狐がぁっ!」
「父さん……嘘ですよね!?…………どうなんですか!?」
意外な事にオドとイムセティが飛び出したのはほぼ同時。
向かう先も同じくホルスだ。
ただし、剣装備と無手という差はあったが。
……とりあえずありえる事と心の準備はしていた。
王座から飛び出し、加速をかけてオドの土手ッ腹に鉄拳を食らわす!
「ぐはああああっ!?」
「ぎゃっ!」
ほぼ同時のタイミングでイムセティがホルスに蹴り飛ばされる。
そして、二人が地面に叩きつけられたのを確認して口を開いた。
「いい加減にしろ。まさかそれだけで俺がルンを手放す羽目になったと思っているのか!?」
「ルーンハイムさんがここまで思いつめたのは、あなた方の行動もあったのですよ?」
「ルン姉ちゃ、責任感じすぎて人生まで放り出しちゃった……あーあ。知ーらないよー?」
呆れた顔のアリサがルンからの嘆願書を読み上げ始めた。
中にはハイムやオド、イムセティ達に罰を与えないで欲しいと言う旨が書いてある。
……そう、ルンの手紙には、
ハイムと同様にオドやイムセティまでに及ぶ嘆願が書かれていたのだ。
曰く、彼等が暴走したのは私の後先考えない命令のせいだと。
オドの提案を蹴る事も出来たし、
イムセティが意地を張ったのはそのオドたちとハイムの存在があったからだと。
そして、その為に現在ルンの持つ唯一価値のあるもの……。
即ちレキ大公妃と言う立場を手放す事も止むを得ない。
……余りに切実な訴えだった。
「妃殿下……いえ、お、お嬢様…………」
「そんな、私達の事まで!?」
それを託された時、アリサはルンの顔が真っ青になっているのを目撃している。
そして、少なくとも自分から返還したと言う形をとる以上、
まあ……周りへの影響を考えると再び同じ称号を与える訳にもいかんだろうが、
少なくとも誰かを罰する必要は無くなった。
何せ……それ以上の精神的ダメージを負う者がかなりの数になるからだ。
俺を含めてな?
更に文面からして、
直接ルンと繋がりの無いイムセティにまで責任を感じさせる事が出来るのは大きい。
ルンがそこまで考えていたかは不明だが、現状を打破するためには最適の策では無いだろうか?
少なくとも俺にはそれ以上は考え付かなかった。
故に、採用せざるを得なかったのだ。
……けれど、それじゃあルンだけが悲惨すぎるではないか。
俺は……そんな結末は望んでいない。
少なくとも俺はそれで幸せにはなれない。
……故に、一発逆転の策を用意している。
ただし、今は俺を含めて全員に判らせる時だ。
自分達の行動とその結果というものを……!
まあとりあえず全員、今回の事を深く反省して欲しいと願う。
……さもなくば本当の意味で非常手段を採らねばならなくなるし……。
まあいい、とりあえず今はこの場を無理やりにでも治めねば。
「ホルス!例の通達を配れ!」
「はい、主殿!」
ホルスの指示の元、その場の全員に一枚の紙が配られる。
皆は訝しげな顔を隠そうともせず、それに見入っていた。
「……こ、これは……」
「カルーマ商会の……ですか?しかし何故?」
……ふふふ、真意がわかるまい?
「おっ!小麦粉が半額っす!新作の槍も三割引きっすか!」
「ホワット!?一体このチラシが何の意味を……!?」
「いえ、待って下さい!これは、この記念セールは!?」
そう、明日には街全体に配られる予定だが、そのチラシにはこう書いてある。
でかでかと、やけに巨大に、黄色い縁取りの赤い文字で。
"リンカーネイト連合王国、建国記念セール開催のお知らせ"
と。
……。
「ホワーッツ!?りんかーねいと、王国?」
「連合、とは何処と何処が連合を組むのでしょうか……まさか!」
「そう、そのまさかだ!レキとサンドールは合併してリンカーネイトと言う名の王国になる!」
「「「「なんだそりゃーーーーっ!?」」」」
青天の霹靂。
正にそんな感じでどいつもこいつもアホ面をさらしている。
まあ、ここは何としても言いくるめないといかんのだ。
説明は無茶苦茶だが悪く思うな!
「だって……レキ"大公国"は名前からしてサンドール"王国"の属国ではないか!」
「ですが、現状では主従は逆転しました。そのままの名前もおかしいでしょう?」
「そんな訳で改名するついでに……という流れになったんだよー」
「「「と言う訳で再建国するから。異論は認めない」」」
ぽかーん。
そんな擬音が聞こえてきそうな周囲の連中。
それに反比例してテンションの上がる俺達三人。(その内一匹は蟻の化け物)
「いいじゃん気分で国名変えても。俺、王様になるんだし!」
「ついでなので、恩赦を出す事になりました。どんな罪も一度無かった事にします!」
「な、何を仰るんですかお三方!?特に父さん!何言ってるか判ってる……あ」
「グラーーーーーーッチェ!それはつまり今現在までの罪は全て帳消し……と言う事は!」
「ルーンハイムの姉ちゃんも晴れて無罪放免っす!」
……おかしな事を慣例としない為には、それ相応の理由が必要。
恩赦にもそれ相応の理由が必要。
そんな訳で無理やり恩赦の理由を作る事にしたのだ。
女一人助ける為に国家一つでっち上げる。
……文字通り前代未聞である。
まあ、国民の大半はサンドール人とならざるを得ないので、
属国に支配されたと言う意識を薄らせるためにも、何らかの処置を行う必要があった。
それに便乗した形だ。
「既に東西マナリアとトレイディアとは国交を結ぶ事で合意がなされている」
何時の間に?
東マナリア……リチャードさんの所にはアリシアが一匹、
食客のような身分で滞在し続けている。
そう、隠し部屋でカサカサの入った冷蔵庫とかを見つけた個体だ。
そいつがそのまま外交のチャンネルとなっているのだ。
西マナリアでは、何故かレン……レインフィールド新公爵が窓口になってくれている。
それと別のアリシアが一匹赴いて、交渉を纏め上げてくれた。
、
トレイディア?元々商会の力がかなり広範囲に渡っている。
竜の信徒との戦いも終わり、また元のような商売を続けている関係もあり、
殆ど苦労することも無く話が付いたな……金は掛かったけど。
「まあ、そんな訳で国際的にはその2カ国、そして幾つかの都市国家と国交樹立する運びだ」
「サクリフェスとの交渉は難航しておりますが……まあ、あそこは仕方ありません」
「これで、うちも正式な独立国家になるよー。凄いねー!」
その場のほぼ全員が呆然としているのは変わらないが、
さっきまでとは違い、純粋に驚き呆れているようだ。
……もしかしたらオド辺りには建国の本当の理由に気付かれてるかも知れんな。
感動してちょっと涙ぐんでいる。
まあ、知られて困る事ではないが。
「なお、それにあたり体制を変える。新規の役職は明日発表するので明日もう一度集まるように」
「以上です。爵位授与もその時にしますので今日はここまでとします」
……その時、アリサが一歩前に歩み出た。
「一つだけ言っておくよー。こんなウルトラCの恩赦は二度も使えない……次は無いから」
そしてまだ床に転がってるオドとイムセティを軽く蹴っ飛ばす。
……怖ぇ。
流石に女王の迫力だ。小さくてもそれが衰える事は無い、か。
「イ、イエッサー!判りましたアリサ様……」
「今後主君の命に背くような事は決して!……今回は流石に堪えましたよ」
「それと、二人ともなかよくするー。貴族とか奴隷とか、戦場に持ち込んだら……潰すよ?」
「そうだな。次にルンが責任取る羽目に陥ったら俺も庇えないし……原因を許せないな」
俺も声のトーンを一段階下げてみる。
……二人は顔を見合わせ引きつった笑みを浮かべると……。
ガシッと硬く握手を交わした。
「うん。判ってくれて何よりだ」
「だよねー」
「ハハアアアアアッ!承知いたしました!」
「肝に、肝に銘じます!」
……とりあえず、問題はひとつ解決したようだ。
文武百官が退室していく中、とりあえず安堵のため息が漏れる。
「次はルンか」
「そうですね。早く行って慰めてあげて下さい」
「大公妃の称号は返せないけど、新しく王妃にしてあげるってさっさと伝えれー」
で、今は部屋に篭ってる?
……はいはい、じゃあ急ごうかね。
急がないと、マズそうだし。
……。
そんな訳でサンドール王宮を疾走する。
慣れない造りに苦労しながらも、ルンとアルシェに宛がわれた部屋に急ぐ。
「アリサ!傷薬と包帯を」
「最初から部屋に大量に用意してあるよー」
「主殿……治癒用の魔力は」
「余裕だ!その代わり今夜は一晩中付いててやらんといかんだろ……後は任す!」
どうせルンの事だ。リストカットしてるってオチだろう。
もしくは飛び降り?
そんな訳で窓の無い部屋にルンが唯一話を聞くアルシェと一緒に配置した訳だ。
そして、俺達はルンの部屋の前に……。
その時、部屋の戸が乱暴に開かれた。
同時にアリサが突然顔色を変えると、回れ右をして何処かにすっ飛んで行く。
な、何事だ!?
「先生!大変!」
「ぬわっ!?ルン!?」
「……意外ですね。ルーンハイムさんなら」
「それどころじゃない。アルシェが!」
「アルシェが!?」
「いきなり産気づいた」
「なんと!?」
「少し、早くないですか?」
確かに出産予定まではまだ日にちがある。
部屋にわたわたとメイド達が飛び込んでいく。
更に十数匹の蟻ん娘が産婆さんを乗せて室内に突入。
その部屋の中は修羅場と化した。
「……最初、アルシェは私の事を励まし続けてくれた。けど、いきなり苦しみだして……」
「で、自分の事どころじゃなくなった訳か」
「一応予定調和はされたんですねルーンハイムさん……」
見ると僅かにルンの腕に傷が……。
まさかアルシェは心労が原因で早産!?
それは洒落にならん、笑えんぞ!?
「心労、は確か。でもルン姉ちゃが自殺するのはデフォだから負担になった訳じゃないよー」
「アリサ?それはどういう事だ?」
その時アリサがちょっと疲れたような顔で現れた。
……産婆やらなにやらの手配をしていたようだな。ご苦労さん。
で、だったら問題は何なんだ?
「名目上、自分が大公妃扱いになったのが問題だったっぽいよ」
……そう言えば、
アルシェはルンが会食とかで外交してるのを見ていたはず。
傭兵上がりにはとても真似できないと感じていただろうことも明白だ。
ああ、あの世界に飛び込むのは苦痛だろう。
笑顔で相手の粗探しとか、出来る性格じゃないよなぁ。
いやいやいや、だがアルシェには事前に伝えておいた。
本人にはまだ言えんがすぐに元以上の立場に戻れるとな?
だったらそれが原因になるとは……。
「いえ、それでも数日は正式な大公妃として振舞わねばなりません……それが辛かったのでは?」
「で、内心行きたく無いなー……って想いが体の変調として現れた、って事みたい」
……上司に怒鳴られ続けたサラリーマンかよ……。
だがまあ、仕方ない。
権謀術数の世界よりも剣を合わせ弓矢で勝負の方が向いてるんだろう。
あの独特の纏わり付くような気味の悪い世界と関りたくないのは判る。
「しょうがない。まずは見舞うか……ルンも付いて来い」
「……ん」
「では、私は執務に戻らせて頂きます。新首都からレキの民の移住に関する報告も来ていますし」
「あたしは疲れたから今日は早いけどもう寝る……おやすみー」
その場でどっと倒れたアリサをアリス数匹が回収して去っていく。
「お休みであります!」
「連れてくであります!」
「アルシェねえちゃの事、宜しくであります!」
……さて、こりゃあ建国宣言と同時に王子様の誕生祝いも兼ねる事になりそうだな。
おっと、そうだ……アレの開発状況も聞いておくか。
「……ちょっと待った。例のアレは完成したか?ほれ息子の誕生祝予定の……」
「流石にまだであります、まあもう少しでありますが……早産は予定外であります」
「そもそもリボルバー式拳銃が出来たばかりの技術力でアレはキツイでありますよ……」
そうか、仕方ない。
ハイムの見立てで竜の心臓こそ生まれながらに持っているものの、
残念ながら魔法は使えない可能性が高い。と言われたので、
護身用に武器と兵器を一個づつ用意していたんだが……。
偶然見つけた魔道書の中に設計図があったから無理やり作り始めた無反動砲は兎も角……。
こりゃあ、今日中に武器の方は用意しておかんとな。
名前もそれらしく付けるつもりなんだ。どっちかだけでも無いと話にならん。
……。
「と言う訳で、いかがわしい用途に使われていたと思われる王宮地下に来ている訳だ」
「アニキ!頼まれてた"隷属の指輪"一万個ほど回収して持ってきたっす!」
おお、来たか。
……魔力を持つ魔剣とかマジックアイテムの類は魔法を作るような要領で作れる。
要するに、そう言う物があるという常識を世界に刻む訳だな。
ただし、原材料になる"魔法で出来た物質"が必要になるのが道具を作る時の制約。
……今回はこの"隷属の指輪"を原材料にして作ろうというわけだ。
「そう言えば、この指輪って何が原料だったんだろう?」
『……竜の骨を削って作られているな。作成時はその竜の心臓を使ったか……クッ!』
え?そうなのか?
だがそれはおかしい。
……ファイブレスよ。お前が死んだ時その体は……。
『生きながらにして骨を削られたんだろうさ……完成してからなら死んでもそれはもう』
「指輪として竜とは独立した存在扱いか……聞いてしまってスマンなファイブレス」
「な、何に対して謝ってるんすかアニキ!?」
ともかく、この指輪は竜の骨を材料に竜の心臓を使って作られたわけだ。
……まさか俺のザンマの指輪も、か?
いや、考えない方が良さそうだな。
『……一頭の竜から数百の指輪が作られたようだな。脆いのはそのせいだ』
「逆に言えば万の指輪から一振りの剣を作り出せば、かなり硬くなるだろ」
とりあえず、作成時の魔力は俺達の心臓から出す。
……火竜の心臓で作るんだから、炎の魔剣だ。
まあこれは元々の予定なんだけど。
じゃあ、気を入れていきますか!
『『術式形成を宣言!新規魔道具"炎の魔剣"を設定!』』
俺とファイブレスの宣言が地下に響く。
……足元にはマナリア王都地下より移設した(床板ごと盗んだ)魔法陣。
『『該当魔方陣に我が身より魔力供給開始。原材料融解、再結合……!』』
その中央に用意された指輪たちがドロドロに融け、新しい姿を現した。
それは……燃えるような赤い刀身を持つ深紅の魔剣!
『『効果設定……完了。存在固着……完了……全工程、終了……最終処理に移行……』』
……はたから見ていると実にあっさりと完成したように見えるだろう。
だが、俺もファイブレスも全身に虚脱感が漂う酷い状況だ。
『おい、最後に銘を刻め。さもなくば完成せん』
「ああ。判ってる……えーと、ファイアブランド、っと」
因みに銘を刻むのにも他の魔力で出来た物質、それも刃物か何かが必要。
今回の場合スティールソードを使う事にする。
しかし、長剣なだけに名前を彫るのには向いていないな……。
えーと、ふ……あ、ヤバ。
この文字の大きさじゃあ、6文字くらいしか入れられん……よし、名称変更だ。
ふ、れ、い、む、た、ん……っと。
……あれ?ひらがな?
ここはカタカナだろう!?
ああっ!ちょっと間違った……ええい、ままよ!
……コリコリコリコリっと。
……シャキーン!
これで、完成だーーーッ!
「おおっ!これはマジで凄いっす!自分、感動したっすよ!?」
名を得た新たなる魔剣は、その存在を示すかのように赤く光り輝く。
……新型魔剣、フレイムタンの完成だ!
「本当に凄いっすね、この炎の剣"ふれいむタソ"は!」
「……なぬ?」
『いや、お前の刻んだ銘だろうが……』
熱気に溢れながらも、場は凍りついた。
……と言うか俺が。
なお、作り直すたびに世界の寿命が削れるため、作り直しは論外であった。
と、とりあえずこれはあくまで"炎の魔剣"って事で一つ……。
……。
≪side アリス≫
忙しいであります、忙しいであります!
アルシェねえちゃは産気づくし、新しい国になると言うことで色々ゴタゴタしてるし!
「どくであります!書類様のお通りでありますよ!」
そんなわけであたし等も色々忙しいのであります!
新首都とサンドールとの間を数万枚の書類が行きかっているのがその証拠。
これをさっさと新首都のルイス達に渡さねばならぬのであります!
「…………わらわ、は……」
「邪魔であります!」
「ふぎゃ!?」
「どけどけどけどけー、であります!」
置物っぽくなってるはーちゃんを踏み台替わりに踏んづけて屋根裏に移動。
そのまま地下に降りて移動開始であります!
「ううう……母……母……わらわが、わらわが悪かった……」
……あ、そう言えば。
はーちゃんにはネタ晴らしして無いでありますね。
まあいいか。
その内誰か気付いて教えるでありますよ。
さあ急ぐであります!
この書類は今日中に届けないといけないのでありますからね!
どけどけどけどけーーーーっ、であります!
***大陸動乱シナリオ7 完***
続く