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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/11 20:21
幻想立志転生伝

50

***冒険者シナリオ10 冒険者カルマ最後の伝説***

~商都に集う蜂狩り達 中編~


《side カルマ》


「それで……兵を奪われて側近はほぼ皆殺しか」

「そうで御座る。バイヤーも拙者を庇って……」


日の暮れかかった雪山、かまくらの前で燃え盛る焚き火の前に円になって座り、

俺達は村正達に起こった出来事の詳細を聞いていた。


「我輩の連れてきた兵は残らず裏切ったのであーる。ブルジョアスキーに騙されたであーる」

「最初からバレバレだったで御座ろうが!……叔父上が大丈夫だって言うから」


「いや、このボンクラ男爵の大丈夫は大丈夫じゃないだろ」

「おおっ!流石はカルマであーる。我輩の事を良く判ってるであーる」

「……褒めてないでありますよ?」


取り合えず、話で判った事は以下の通り。

先ず村正率いる三千とボンクラの連れてきた二千五百が蜂蜜酒目当てに雪山に登る。

次にシスターたち率いる教団の遠征部隊と遭遇。

そして譲れ譲れないの押し問答の末一触即発になった所で……ブルジョアスキーの裏切りと。


「まあ、あの男は元々ブラッド司祭嫌いでこちらに付いた経緯があるで御座る」

「思えば裏切るのも当然であるな!うん、我輩は悪く無いであーる!」

「悪いよ。どこをどう考えてもアンタのせいだよボンクラ」


「過ぎた事でござる。しかし運の悪い事に敗走中のマナリア軍とぶつかり、」

「連中も一緒に殲滅されたのであーるよ、はははははははは」

「笑い事じゃないだろう常識的に」


笑い声が乾いているのがせめてもの救いか。

ともかく、村正の部隊から二千五百とボンクラの全軍が裏切ったせいで部隊は壊滅。

村正たちはバイヤーさんが最後の抵抗をしてる内に何とか逃げ出したと。

……しかもその際マナリアの部隊を巻き込んで壊滅させたとか……なんぞそれ?


「後々問題になりそうな話だな……」

「……気が滅入るで御座るよ」

「気にしても仕方ないであーる。あ、おかわり」

「判ったであります。肉多めに入れておくからどんどん食って早死にすると良いであります」


それで……雪の中二人でさ迷っていた所をカレーの匂いに釣られてここに来た訳か。


「何か食い物の匂いがしたから来たのであーる」

「一時は死を覚悟したで御座る」


「ともかく体力が回復したら山を降りた方が良いぞ」

「そうであるな。我輩は疲れたのであーる」


ところで、ここだけの話だがボンクラの部下に関しては残らず裏切って当然だったりする。

ボンクラの領地は過疎化の進んだ三集落。

そこで一時は三千もの兵を確保していたと言うことは……。

要するに教団信者が排斥されない土地に集まっていただけ、と言う訳なのだ。

今頃あの三集落は下手したら無人の野と化しているのかも知れない。


まあ、要するに地獄はこれからだ、って事だな。


「主殿、ルーンハイムさん達が到着いたしました」

「判ったホルス。こっちに来させてくれ」


「先生……おまたせ……」

「アニキ、遅くなったっす!でも良い運動だったっすよ」

「父、いきなり厄介事に巻き込まれたようだな」

「ごうりゅう、です」

「応!カルマ、元気そうだな!?」

「おーっほっほ!あら、人の部隊を巻き込んでくれたトレイディアの子爵様ですわ」


……いや待て。

何か人数多くないか?


「つーか兄貴にフレアさん!?何でここに」

「応!お坊ちゃんに頼まれてあのお姫様の軍隊を側面から突く事になったんだけどよ」

「おーっほっほ!ルーンハイム公の部隊に見事に読まれてましたわ!」

「んで親父達が命からがら撤退してたら、ここのイザコザに巻き込まれたみたいっすね」

「せんとう、まきこまれて。ぶたい、かいめつ、です」


そう言えば、ゾンビ化した公はティア姫側だったっけ。

……しかし運が無いというか何と言うか。


「そう言えば、暫く前に大回りで迂回攻撃に向かった部隊があるとか情報があったでありますね」

「そう。まちぶせくらった、です」

「流石は公ですわね。お陰でこちらは危ない所でしたわ」


「それで、兄貴たちが命からがら撤退中に、商都や教団の連中がいきなり襲ってきた訳か」

「そうだ。んで、皆バラバラになって逃げ帰る途中で嬢ちゃん達を見つけたって訳だな」

「それで付いて来て見れば……」

「悪かったで御座るよ。どうせ拙者は自軍も満足に統率できない阿呆で御座る」

「まったくであーる」


「「「「お前が言うな!」」」」


まあそれはさておき、まるで同窓会だな。

随分なメンバーが揃ってしまった。

俺とルン、ハイムにアリシア&アリス。

それにホルスとレオを加えた国から連れてきたメンバーに加え、

兄貴とフレアさん、そして村正にボンクラ……。


一体どうしてこうなってしまったのやら。


「先生、皆お腹すかせてる」

「ああ、そうだな。先ずは飯にするか」

「応!何か美味そうな匂いがするな」

「我輩は先に頂いてるのであーる」


そうだな……先ずは、腹ごしらえとしようか。

明日は明日で忙しいし。

……しかし、この面子で明日巣まで行けるのか?

内緒にしておかねばならない事柄が多すぎるんだけど……。


……。


さて、翌日……ここは蜂の巣入り口前、からは少し離れた丘の上である。

俺達は眼下を見下ろしてちょっと困り果てていた。


「……教団の兵士が入り口を封鎖してやがる」

「先生、あの装備は商都軍……」

「ルーンハイム殿。言ってくれるな……言わないで欲しいで御座る!」

「細かい事は良いんですわ。敵が居るなら薙ぎ倒す。それで良いのではないこと?」


兵士によって巣穴の入り口が封鎖されているのは仕方ない。

問題は此方の裏事情を知らない人間が多数その場に存在するという事実なのだ。

……なんでここまで付いて来てるんだよ……。


「そりゃあ。お前と一緒に行った方が勝率高いからな!」

「おーっほっほ!せめて魔力回復用に蜂蜜酒を持ち帰るつもりですわ。協力をお願いしますわね」


「今更……何の成果も無く帰れんので御座る!」

「えーと。我輩一人で山から下りるのは無理であーる」


うわー。最悪だ、特に足を引っ張りそうな人物が約一名居るのが拙い。

ん?ルンが袖を引っ張って……。


「先生。ちょうどいい」

「何が?」


ふむ、村正を指差しつつ……、


「裏切り者を処理する」

「せ、拙者で御座るか!?いや、確かにお怒りはごもっともで御座るが!」


目から光が消えたルンがじりじりと村正ににじり寄っていく。

対する村正は腰を抜かして雪の上に座り込んだまま凄い勢いで後退中だ。

……一応止めておくか。


「もういい、ルン。お前の手を汚すまでも無い」

「…………ん」

「今の間は何で御座るかーっ!?」


村正、涙目過ぎる。

まあ、次があったら俺も流石にただで済まさんと思うけどな?

取り合えず今回の事は数少ない友人と言う事で見逃しておくが。


さて……派手に暴れて蜂の巣を破壊するのも拙いし、

ここはどうにか侵入する方法と、事情を知らない面子を出し抜く方法を考えないと。



「うおっほん!我輩はボン男爵であーる、ここを通すのであーる」



あ、あのボンクラ何時の間にーーーーッ!?

一体何をしてやがりますかねーーーーっ!?



「……男爵、アンタ現状判ってるので?我々アンタの所から寝返ったんですけど?」

「だとしても、我輩の部下であった事は事実であーる」


……何を言ってるんだあの人。

いや、あまりにボンクラらしくて泣けてくるな。


「………………お覚悟を」

「ええっ!?ちょっ!?我輩を斬っても美味く無いのであーる!」


ほらみろ、いきなり切っ先を突きつけられ……ん?

なんだ?鍋を取り出したりして……。


「ほ、ほれ。カレーとやらをやるからここを通すのであーる」


何時の間に……と言うか昨日の残りを持ち出してたのか。

どんだけ気に入ったんだよカレー。


「おいカルマ、よく考えたらチャンスじゃねぇか?」

「兄貴?……いや、確かにそうだ。敵の注意はボンクラに集中している」


今ならこっそり忍び込むのも不可能では無いか。

……それにだ。


「すまぬがあれでも叔父なので御座る。拙者に力を貸してくれぬでござるか?」

「そうだな。……兄貴、フレアさん。村正の奴に協力してやってくれないか」


「駄目ですわ。私達も手ぶらでは帰れませんわ」

「なら、見つけた蜂蜜酒は全部やる。それでどうだ?」


「応!いいのかよ、それならやるぜ!」

「か、カルマ殿!?」

「……酒なんか問題じゃないんだ。俺達にとってはな」


「余り立ち入られては困る問題があるようですわね。いいでしょう、カタ子爵?」

「で、では拙者達は叔父上の救出を」


「俺達は蜂蜜酒を取ってくる。……無事でな、村正」

「か、かたじけないで御座る……今までの無礼、許して下されカルマ殿!」



よし!村正達がボンクラを助けに飛び込んで行ったぞ!

邪魔者排除の上背後の憂いが消えた!

これはラッキーだ!


「にいちゃ?蜂蜜酒は全部渡すのでありますか?」

「約束だからな。ただし……」

「はちは、つれてく、です」

「そうだな、わらわ達の目的はあくまでそっちだ。……では行こうか?」

「よっしゃ、早速突撃っす。親父と姉ちゃん、済まないっす!」


「よぉし、じゃあ行くぞ。敵に気付かれるなよ?」

「なら……敵の気を更に逸らす」


ルンがそう呟き、衝撃(インパクトウェーブ)を詠唱。

不可視の衝撃波により背後の山が僅かに崩れる。

……そして、その混乱の最中に俺達は洞窟内にまんまと潜入したのである。


……。


洞窟内は暗く、寒々しい……そんな状態だった時間は僅かだった。

結構近くまで溶岩が流れているのか気温がぐんぐんと上がってきたのだ。

なるほど、これならミツバチたちも、真冬でも問題なく行動できるだろう。


……その時、僅かに天井から石の破片が。

どうやら、余り頑丈な洞窟ではないようだな?


『カルマよ、判っていると思うがここで我を呼ぶような暴挙はするな』

「だな、ファイブレス。何時崩れてもおかしくない」


『元々蜂の巣穴の入り口は小さな物だった筈……ここは人間が急遽掘り起こしたのだろう』

「偶然見つかったお宝だしな。あるのなら掘り出したいのは人の常か」


明らかに人の手が加えられている。しかも突貫工事のせいで耐久性に乏しい洞窟。

ファイブレスを呼ぶどころか下手をすると爆炎(フレア・ボム)でも崩落しかねない。

……要するに使える手がかなり限られる訳だ。

教団側の兵士も入り込んでいるだろうが、

余り出会わない内に目的を果たしてしまいたいもんだな。


「あれ?アニキ……前方に灯りが……」

「教団のキャンプか!?」

「違う。あれは溶岩だ」


溶岩?と思い先に進むと、そこは一面の花畑だった。

いわゆる高山植物という奴が、溶岩から発せられる赤暗い光に照らされている。

暗い地下世界だというのにそれは健気に咲き誇っていた。

……赤く照らされて不気味でもあったけどな。


「しかし、蜂はいないな」

「人に押し込まれてここまで来れないのであります」

「みずやるひと、いないから、しおれかけてる、です」


よく見ると確かにその通りだ。

ここまで自然に水が来る事は無いのだろう、既にしおれかけた花が幾つもある。

そして……人間の靴跡により無残に踏まれた花も。


正直勿体無いと思う。


「高山植物は育つのに時間が掛かる。ここが再びもとの姿を取り戻すには何年かかるか……」

「もう、むり、です」

「表に続く大穴を空けられたから、環境が激変しちゃってるでありますからね」


「草花の事は良く判りませんが、取り合えずこの靴跡は大きなヒントですね」

「靴跡、向こうに続いてる」


……ちょっとしたノスタルジーを排除すれば、残るのは情報か。

ふむ。この広間からは二方向に道が伸びている。

そして、靴跡は何故か右側の道にだけ続いているようだった。


「これは一体?」

「かんたん、です。ひだりはまだ、にんげん、とおれない、です」

「要するに、まだ右側を掘っている最中なのであります」


子蟻からの情報、もしくはミツバチ側からの情報なのだろう、

アリシアとアリスが続けて報告してきた。

そして、それに合わせるかのように……左の道から体長30cmほどの蜂が飛んできた。

ミツバチとしては異常にでかい。

アリサの所の巨大兵隊蟻と比べるのは流石に酷と言うものだろう。


「ブーン、ブンブン」

「おつ、です」

「ミツバチの使者だそうであります。魔王様?ハーちゃんはそこの子でありますよ」

「うむ。ご苦労……わらわが魔王ハインフォーティンである」


そのミツバチは俺達を無視するかのようにハイムの元にやってきてその目の前に降り立った。

頭部をブンブン振っているのは恐らくお辞儀か何かなのだろうか。

そして、俺達を無視するような態度は、

コイツ等にとって主君とはハイム……魔王であるという意思表示なのだろう。


「だが、気に入らんな」

「……父?」



ミツバチをブチッと踏み潰す。



「ちちちちちちちちいいいいいいいっ!?」

『いきなり何をするのだカルマよ!?これはこう見えてミツバチ達からの正式な使者だぞ!』

「にいちゃ!?」

「あ、あんまりでありますよ!」


正式な使者ね?だとしたらなおの事だ。

……珍しい事だと自分でも思うが、取り合えずハイム達に軽く殺気を当てておく。

うん?ホルスは俺の意図を判ってくれたみたいだな。大きく頷いている。


「ホルス、説明してやれ」

「はっ。アリシア様、ミツバチの女王にお伝え下さい……貴国は他国の王に無礼を働くのか、と」

「ふぇ!?」


「わざわざ他国の王が救助に来てやったのに、その態度は何だ、と言っている」

「姫様は魔王かもしれませんが我が国での立場はあくまで"姫"なのですよ」


現実の外交に置き換えると、どれだけ無礼な事か判るだろう?

目の前に王が居るのにそれを無視する使者がいるかよ。

それに、だ。


「そもそもコイツ等には助けて貰おうと言う気が見られん」

「もし本気なら、地下道の建設ぐらい逆に頼んでくれても良い位ですよ」


何か……コイツ等にも権威主義者的な物を感じるんだよな。

行動の節々にどうも、自分達が特別だって意識を感じるというか。

まあ、コイツ等の現状に俺の動きが関っているのは事実だが、

それを不快感が上回ったってだけの話なんだけどな?


「こっちの要求は呑まない。自分達の要求は通す。挙句水先案内人も寄越さない。不愉快だ!」

「そう言えば道案内ぐらい居ても良いような気もするっすね」

「……いかがでしょう主殿。このまま殲滅に入るというのは」


「ほ、ホルスよ!何で父を焚き付けている!?」

「そうでありますよ、折角ここまで助けに来たのに!」


「…………アリス。アリサが……にいちゃのいうこと、もっとも、だって……」

「え?……あ、ほ、本当であります……」


うん、アリサは流石に判ってたみたいだな。

動揺が全くみられないようだ。

恐らく俺がどう感じるかまで読んでただろうな、アイツなら。

そして、それを自分の利益に変えるか。

……流石にアイツも地下王国を統べる女王なだけはある。 


まあ、つまりだ。

上下関係をここらで判らせておきたい、って事だな。


「……ちょっとどけ」

「あ、は、はい……って、父?何をする!?」


ん?

ちょっと恫喝、そんでもって敵殲滅かな?


『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』
『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』
『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』
『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』
『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』


俺の叫びと共に、右の通路の奥へ……魔法の手榴弾が次々と飛び込んでいった……。


……。


「な、何で、こんな所で、あんな大魔法を……父よ」

「まあ、待ってろハイム」


「いや、アニキ……向こうから断末魔らしき悲鳴が……」

「酸欠かな?生き残れば生き残るほど悲惨な事になるぞ。通路は崩れたし」


「流石は先生」

「ルンはもう少し引いてくれて構わないからな?」


「さて、向こうはどう出ますかね?」

「別に攻撃してきたらそれで良いさ。敵なら助ける必要は無くなる、それだけだ」


さて、ここで待っている時間が長くなりそうなら、

表からの足止めに軽く洞窟を崩しておくかとも思ったがその必要は無さそうだった。

左の通路の奥、人の通れないほどの小さな通路から蜂が数匹飛んできたのだ。


「「「「ブーン、ブーン、ブブブブブーーン」」」」

「おお、こんどは下にも置かない扱いだな」

「父よ。あれだけ脅せば決戦か服従かのどっちかしかあるまい?」


今度は沢山の蜂が俺の目の前で平伏を始めた。

うん。これが他国に援軍を頼んだ連中の正しい姿だよな。


さて……あ、今度は近くの天井に留まって、

おい、床の一部が抜けたぞ?


「おお、隠し通路っす!」

「ええと、がんらい、だっしゅつよう、とのこと。です」

「……人間でも通れるって事は王族はやっぱかなりでかいっすかね?」

「連中、助けに来た連中からも逃げる算段を組んでやがったのか……」

「いやアニキ。元々敵だったなら当然の備えっすよ?」


レオの言い分もわかるがな、連中は今後レキで暮らす事になる。

……天に太陽は二ついらない。

俺に従わない奴等まで守るいわれは無いが、それでも住んでいる連中は動揺するだろう。

俺たちもいずれは見捨てられるかも、ってな。

だから、後々禍根になりそうなものは潰せるだけ潰しておくのが俺の正義だ。

その結果ここのミツバチが滅ぶ事になってもそれは仕方ない事だと思う。


まあ、それでもコイツ等は従う事を選んだ。

だとしたら、なんとしても守り抜くのが俺の役目と言う事だろう。


「ともかく、女王蜂の所まで行くぞ。今後の事を決めておかないとな」

「はいです」

「と言うかにいちゃ。蜂たち怯えてるからこれ以上怖がらせないで欲しいでありますよ」


それは、連中の心がけ次第だな。

何度も言うが、俺は敵対する奴等まで守れるほど強くもないし善良でも無いから。


……。


「……マオウサマ、オヒサシュウ、ゴザイマス」

「ハニークインよ。わらわが不甲斐無いせいで苦労をかけた。それと父が無礼をしたな、すまん」


さて、脱出路だったという通路を進む事おおよそ三十分。

洞窟の奥にそれは居た。

体長3m級の巨大ミツバチ。これがミツバチの女王ハニークインか。

確かに堂々とした体躯だが……それ以上にボロボロなのが気にかかるな。

まあ長年の耐乏生活だ、それも止むをえんのかもしれない。


「コウヤノ、オウヨ、カンシャスル。ギャクニ、コチラガ、シツレイシタナ」

「構わん。元々そちらを救うことにしたのもアリサの進言だ。詫びは受け取るが礼は妹に言え」


「アリノジョオウ、ソシテ……スズメバチノ、ジョオウ……」

「色々思う所はあるだろうが、吹っ切れないと一族自体が生き延びれないぞ?」

『あたしらもプライド捨てて人間に擬態したら運が開けたであります』

「まいにち、ごはんおなかいっぱい、うまー、です」


「ユウフクナ、セイカツ……ダガ……」


ハニークインは迷っているようだった。

恐らく万一の事を考えて念のため後継者候補の一匹を逃がしておく程度の認識だったのだろう。

だが、断言できる。

このまま放って置けばこの巣も恐らく一ヶ月持たずに殲滅されるだろうさ。

……欲に目が眩んだ人間を舐めちゃいけないぞ?

第一、そっちがボロボロなのって……ここまで辿り付いた人間が居るって事じゃないのか?

だから万一の事を考え始めた。違うかな?


まあ、残念な事にそこまで説得してやるほどの義理は無いのだが。


「まあいい。ハニークインよ、ともかくわらわ達が連れ出す後継者を連れてくるのだ」

「ギョイ」


……そして連れてこられたのは、でっかい芋虫?

いや、普通に幼虫なのか。

もこもこ動きながらハイムの背中に張り付いたんだけど。

なるほど。これが女王蜂の幼虫と言う訳か。

その周囲を飛び回る30cm級と普通サイズのミツバチは世話役と護衛だな。


「では、貴様の娘は確かに預かったぞ。その……息災でなハニークイン」

「よし……じゃあこんな所を誰かに見られたら事だ。さっさと撤収だ!」

「マテ、コウヤノオウヨ。コレヲモッテイケ……キサマラニモ、カチアルモノダロウ」

「蜂蜜酒!ありがたく貰って行くであります」


そうして俺達は何本かの蜂蜜酒を貰って、またあの脱出路に戻った訳だ。

……というか俺はなんでまあ王家の脱出路にこうも縁があるのか……。


「蜂蜜酒。わらわの大好物だ。久々に飲めるか」

「はーちゃん。子供だから駄目」


「母ーっ!?そんな殺生な!」

「大人になるまで我慢」


「一体何年後の話だ!?」

「15年くらい?もしくは20年?」


ハイムが本気で涙目だ。なにせ生殺しだもんなぁ。

だが、最近ようやく普通に食べるのが許可されたくらいだ。

子供の内に酒の許可が下りる事は無いだろう。

しかし……意外だよな。ルンが躾に厳しいのって。


「つーか、ルーンハイムの姉ちゃん。これ、酒って言うより薬なんじゃ無いっすか?」

「おお、レオ!確かにそうだ。魔力回復薬だ!」


「……はーちゃん。魔力切れする?」

「する訳無かろう母!わらわは魔王ぞ!」


「つまり、お薬は要らない」

「ががーーーーん!」


……駄目じゃん。

と言うかハイムよ。お前判っているのか?

その酒は全て兄貴たちに渡すからどっちにしろ俺たちの口に入る事は無いんだけど。


そうやってまた30分ほどの道程を進み、再びあの広間、

と言うか畑のような場所までやって来た俺達一行。


「あらあら。やっぱり蜂蜜酒持ってきてくれましたねカルマさん?」

「し、シスター!?」


……そこにはシスター達が網を張って待ち構えていたりするんだけど!

総勢五十人くらいか。幸い使徒兵ではないようだが……。

でも、なんで!?


「うふふ。この先の通路が埋もれてるのに貴方達が居ないから……やはり隠し通路ですか」

「しまった!敵を減らす事ばかり考えて行動を読まれやすくしちまった!」

「つーか、道が無いのに人が消えたら確かに隠し通路を疑うっすよね」


……さて、どうするか……。

このまま戦闘に入っても良いのだが……参ったな。

この期に及んで俺はまだこの人を殺したく無いとか思っているらしい。

出来れば話し合いで何とか出来ないか、何て考えてるのがその証拠だ。


「……にいちゃ、ここはまかせる、です」

「アリサから連絡があって、あたし等とはーちゃんは蜂蜜酒持って先に行けって」

「わらわもか。……いいだろう、クイーンのお手並み拝見だ」


「判った。こんな連中にやられるんじゃ無いぞ?」

「……先生、いいの?」


ああ。近くに味方の人間が居ない時こそあいつ等が全力で戦える時だ。

正体を隠している以上、下手な味方は逆に毒となる。


「じゃあ、いくです!」

「すこーーーーーっぷ!」

『魔王特権、専用術式起動……魔力弾頭!(マジックミサイル)』


魔力で形作られたミサイルが敵陣を爆破する中、

小さな影が三つ。包囲を突き破って入り口に向かい走っていった。

即座に近くの敵が後を追おうとするが、魔力弾頭の衝撃で天井が崩れ、その追撃を阻む。


「枢機卿!敵が数名囲みを破りました!」

「相手は子供ですから逃がしましょう。そうしましょう」


「しかし、スコップを持った子供の背中に蜂蜜酒が」

「急いで追ってください。ただし子供だから乱暴はしないように」


頷いて踵を返した兵士に向かって火球をぶつける。

……そう簡単に追撃なんかさせるかよ。

まあ、あいつ等は普通の兵士じゃ討ち取れないけどな?

蟻の腕力を舐めたら火傷じゃ済まない。


「おっと……俺達を忘れてもらっては困るな」

「カルマさん。確かにそうですね。……教団の為、貴方には死んでもらわねばならないのです」


「へぇ。俺がここに来るのは判っていたのか?」

「それはもう。魔王の蜂蜜酒を貴方達がマナリアへ持ち込んだのは知ってます」


そういえば、あれはファイブレスの巣。

つまりここの近くで手に入れたのだった。


「つ、ま、り、この辺で蜂蜜酒が取れるのは明白。……ここから取っていたんですね」

「違うっつーの」


「じゃあ、何で今更欲しがるんですか?今なら普通にお金で買えるでしょう?」

「……」


参ったな。ここに来た事情を説明する訳にもいかんしな。

いや、いいのか。

勘違いしてくれるとある意味助かるし。


「兎も角、貴方がここに来ると思っていました。教団の為です、お覚悟を」

「……そうだな。覚悟を、決めるか……」


そう。そろそろ覚悟を決めなくてはならない。

……シスターを倒す。

ここいらで彼女を何とかしないと俺は一生この人と戦い続ける事となるのだろうしな。


「なら、シスター。勝負だ!」

「騎士団の皆さん。囲んで下さい!」


「自分等を忘れてもらっちゃ困るっすよ!」

「先生を、守る」

「さて、久々の実戦ですか。来るべき決戦に向け体を慣らさせて頂きます」


俺が前線に出て暴れまわる後ろで、ホルスとレオがルンを護衛する。

そしてルンが俺を魔法で援護する体制だ。

……敵は全員が騎士以上で明らかに最精鋭部隊。

俺に向ける殺気の強さからも聖俗戦争以前よりの生き残りと思われた。


「教会に逆らう異端者め!」

「いや、むしろ無神論者だ」


「なお悪い!消えろ竜よ!」

「……竜殺しだと!しかも儀礼用じゃあない!?」


『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!……火球!(ファイアーボール)』


この日の為に用意されていたのだろう。

敵の獲物は全て竜殺しばかりだ。

ルンが火球で牽制する中、敵の剣をかわして逆に敵の喉を突く。

一人目の騎士が倒れるも、敵側はそれにひるむ事無くこちらに向けて突進する!


「ホルス、レオ!敵の武器は竜殺しだが恐れるな!人間相手だとただの魔力吸収武器に過ぎない!」

「承知しました!」

「自分には辛い相手っすね……斬られたら気絶っすか?」


本当はそれ以前にかなりの業物なのだが、それを言って味方の士気を下げる事も無いだろう。

それに、あいつ等なら言葉の裏に隠された意味を理解してくれる筈だ。

……要するに。


『アルミ缶の上のミカン。このカレーはかれー……氷壁(アイスウォール)』

「くっ、近づけやしない!」

「ええい、削れ削れ!」


俺が相手するからまともに当たるなって事だ。

氷壁が上下からルン達と敵の間を寸断、

ホルスは槍のリーチを存分に生かし氷の隙間から敵を迎撃する。

そのフォローをレオにさせている内にルンは……防壁の詠唱か。

削られる事前提の上魔力消費もけして少なくない壁だが、

自分で自分を守る必要があるなら魔法使いの必需品と言えよう。


ただ、詠唱を初めて聞くのだが……ぬるぽだのガッだの聞こえるのは気のせいか?

いや……間違いなく対ガッ用超高性能ぬるボックスのテスト開始!

とか言ってるな。

ガッ……うん、聞かなかったことにしよう。


「仲間を緊急避難させたのはお見事です。ですが、それで貴方は孤立しましたよ」

「そうだな。だがむしろ好都合だ」


えっ?と言う間もあればこそ。


『侵掠する事火の如く!……火砲(フレイムスロアー)!』


悪いリチャードさん。そっちの魔法借りる。


「ぎゃあああああっ!?」
「ぐぉおおおおおおっ!」
「うあああああっ!」


濃密な火炎放射。それも逃れる所が無い狭い洞窟内だ。

使徒兵すら焼き尽くすその炎をまともに食らった騎士達は次々と倒れていく。

うん。悪いけど攻撃にあたってやる訳には行かないんだよな。


「皆さん、ひるまないで下さい!」

『2月1日 晴れ。今日も司祭様に癒しの術を……ぐほっ!」


後方に下がったシスターが声を上げるが返事はまばらだ。

哀れな事に折角全員が使えるであろう治癒魔法も、長い詠唱の為に役立てる事が出来ない。

残念だが、これで積みだ!


「……さて、シスター。と言う訳で残りは数名、しかも虫の息だぞ」

「そうですね。けど……こんなのはどうです?」


ちょっ、待て。

その印は!


『6月3日 曇り司祭様が亡くなられてしまった。私の心にも隙間風が吹雪のように吹き込んできている。最後に教えられたのは身を守るための魔法。有難う司祭様貴方のことは忘れません。……次に恋をするまでは。とは言えあの方のような老人にはもう出会えないでしょうが。さて、その魔法を忘れないように書き込んでおこう。人差し指と小指を立て、中指と薬指を曲げ親指で抑える。そして唱えるべきは"人の身は脆く、守りの殻を所望する。我が皮よ鉄と化せ。硬化(ハードスキン)!"これで私の皮膚は鉄のような硬さを持つ上に動きに影響もないらしい。さて、では司祭様を困らせた地下の連中に神々の鉄槌を食らわしてあげますか。く・た・ば・れ』


硬化(ハードスキン)だと!?

一体どうやって……!


「ふふ。鉄の皮膚は貴方だけの専売特許ではもう無いのですよ」

「印と詠唱、どうやって知った?」


「いえ、印は貴方が難度も使ってるところを見た方から少しづつ情報を集めてました」

「詠唱は?」


「治癒の書かれた魔道書の一部がこれの詠唱だって聞きましたので……総当りです」

「一文字ずつずらして試したのかまさか!」


治癒を唱えるのに硬化を含む数個の魔法の詠唱とその解説文を纏めて読んでいる。

それが教会側の弱みだった筈。それを覆されたのか!?

いや、俺が有用性を示しすぎたんだよな。

タダでさえシスターは情報を大事にするタイプだ。

此方の切り札の情報を集めていてもおかしくは無い。

……ヒントがゴロゴロしてるなら、何時か正解にたどり着くか……。


「ふふ♪やっぱり動揺しましたね」

「そりゃまあ」

「先生危ない!」


……!

焼け爛れた騎士の生き残り数名。

それが一斉に俺に飛び掛り、


「これは……魔封環!?それもこんなに沢山!」

『いかんぞカルマ!十数個は付けられた。魔力飽和させるのに10分はかかる!』


その懐に隠していた"切り札"を俺の全身に叩き付けた……!


「ふはは、はは……枢機卿に、討ち果たされるが、良い」

「……なんて執念だ」

「ふふ。これで立場は逆転ですね」


確かに。流石に竜の心臓のお陰で魔力不足で気を失うまでには至らないが、

それでも魔法を使うどころでは無いな。

しかも魔力を吸われスティールソードの刀身もその光と切れ味を失っている。

……こんな状態を後10分もかよ!?


対するシスターはほぼ完全状態。

しかも本来俺側の切り札である硬化を用い防御力は以前の非では無いだろう。

ならば此方は逆転した頭数で……。


「カルマさん。一騎打ちをお願いします」

「何だって!?」


「私が勝ったら命を捧げてもらいます」

「俺が勝ったら?」


「私は枢機卿の座から降りましょう。教団も貴方に下らせます」

「このタイミングでその条件か!」


……此方は弱体化。相手は強化。

だが、今後教団が敵対しないと言うのなら……。


ああ、そもそも迷う必要は無いのか。

元々シスターのスレッジハンマー"神々の鉄槌"は硬化では防げ無い類の重量級武器。

要するに、俺は攻撃魔法が使えないだけで条件は五分なのだ。

それに……まあいい、答えは決まった!


「いいだろうシスター。その一騎討ち、受ける!」

「せんせぇ!」


「心配するなルン。不利な戦いなんか何度もこなしてる」

「……じゃあ、行きましょうか……アハハッ!」


シスターがスレッジハンマーを振り上げて襲い掛かる。

にこやかな笑みを浮かべたままで……。


「はあああっ!」

「たあああああっ!」


紙一重でその攻撃を避けた、と思ったのだが、


「甘いですよ!」

「くっ、この軌道は……燕返しだと!?」


振り下ろされた筈のハンマーはそのままの勢いで振り上げられた。

更にそのまままた振り下ろされ……エンドレス!


「それそれそれそれ!流石に良く避けますね……楽しくなってきちゃいましたよ、ウフ、ウフフ」

「狂気の顔がまた覗いてるし!」


「その割りに気圧されませんねぇ。ウフフフフフフフ!」

「トチ狂った女を愛している身だ!今更その程度の狂気なぞ!」

「先生……嬉しい」

「いや、ルーンハイムの姉ちゃん。そこ、褒められてるように見えないっす」

「常人には理解できかねる絆と言うのもあるのですよレオ将軍」


外野の声はともかく段々と危なくなってきたな……。

この猛攻何時まで耐えられるか?

……何処かで止まってくれねば反撃にも移れないのだが。


「手元がお留守ですよぉおおおおおおっ!」

「しまった!」


鈍い衝撃が装甲越しにでも伝わってくる。

弾け飛んだ黒金の欠片がシスターの頬に一筋の傷をつける中、

俺の右腕はその感覚を失っていた。


「……骨が折れたか」

「硬い鎧ですね、欠片が鉄の肌に傷をつけるなんて。……でもこうで無いと面白くないですよね」


片手で自らの血を拭いながらシスターが言う。

それを言うなら鉄の肌を傷つけ得る装甲材を破壊するほどのアンタのハンマーは何なんだと。

……まあ、顔を引きつらせた笑いを浮かべ続ける今のシスターに何を言っても無駄か。


「片手だからどうと言う事は無い!行くぞ!」

「そうこなくっちゃいけませんよね♪」


袈裟懸けに切りつけるも、鉄の肌に弾かれる。

薙ぎ払われたハンマーを回避してカウンター気味に放った突きも腕でそらされてしまう。

……自分でやってみると実に厄介な相手だったんだと実感するな。


「何しても無駄。それって凄い精神的負担ですよね?」

「全くだな。我ながらえげつない戦術を使っているもんだ!」


「ではでは。次はこれにしましょう、そうしましょう」

「なっ!?」


シスターが、ハンマーを放り投げて抱きついてきた?


「えーと、これは一体?」

「ウフフフフー。何でしょうねぇ?」


ウケケケケとでも言いかねない笑いを浮かべたままのシスターが俺に抱き付いている……。

いや、違う!これは!?


「……気付くのが遅かったですね?うん、結構純情さんだったんですねカルマさんは!」

「せんせええええええっ!」


ぐらり、と視界が揺れる。

俺の脳天が陥没してるのが判った。


「相手に抱きついて混乱させ……本命は頭上に投げ上げたスレッジハンマーか」

「必殺、死の抱擁……と言った所ですか。男の子にはよく効くんですよこれ」

「……シスター……コロス……」

「ルーンハイムさん落ち着いて!」


だが、脳味噌が潰れた訳ではないようだ。

体はまだ動く、ならば反撃のチャンスはある……。

その為には!


「せんせえええええええっ!?」

「あ、主殿!?」

「アニキが自分の腹に自分の剣を突き立てたっす!」

「あらぁ?自害ですか。意外とあっさりでしたね」


んな訳あるか。

……その余裕が命取りだぞシスター……。


「ぐふっ!?」

「外部に放出する魔力は残って無くてもな。体内には濃密な魔力が流れてるんだよ俺の場合!」


俺は先ず、自害するように見せかけて剣を自分の腹に突き刺した。

魔剣スティールソードはある程度魔力を吸うと刀身に輝く魔力の刃を纏う。

俺の体内の魔力を吸ったスティールソードが刃を纏った瞬間に、シスターの腹を切り裂いた訳だ。



「あは、あは、アハハハハハ……やりますねカルマさん」

「そ……の状態でも動ける、の……かよ……」


片腕で零れ落ちそうな腹の中身を押さえたままシスターは再び立ち上がる。

対する此方は片腕が完全に砕かれた上、脳天に受けた衝撃のせいで意識が朦朧とし始めている。

その上腹にはでっかい穴が。

……まだ魔封環を砕くには5分ほどの時間が必要か……これは拙いな。


「お互いボロボロだなシスター……」

「でも、紙一重で私の勝ちです!」


片腕でハンマーを支え、回転しながらシスターが迫る。

片手分の腕力を遠心力で補う気か……!


「待てぃ!」


その時、俺の目の前に何かが立ちはだかった。

小さくふわふわと浮かぶその姿は……!


「わらわはハイム。父に対する狼藉、これ以上見過ごせぬ」

「な、何で戻ってきた!?」


「姉達はあのブラッドとか言う司祭と相対しておる。わらわはこちらに来た方が安全だそうだ」

「……くっ、二段構えか!」


それは良いが……馬鹿野郎、早く引くんだ。

目の前の修道女は頭がおかしいんだぞ!?


「あの。ハイムちゃんでしたっけ?一騎討ちなんですけど……退いてくれません」

「だが断る!」


「ええと、困りましたねぇ……あ、飴食べます?」

「要らぬわ!……ともかく父に敵対するのはやめたもれ?」


「それは困ります。だって教会の敵なのですから」

「そもそもそれは、貴様がポカをしでかした後始末だと聞いたぞ!?」


「ううっ、酷い子ですねぇ」

「お前ほどでは無いわクロスの妹よ」


あれ?何かシスターが押されてる?

何でだ?

……あ、そう言う事か……。


「そも、神聖教会とは寿命をある程度操る回復魔法を人間内で管理する為の組織」

「あ、よく知ってますね。偉い偉い」


「管理者から委託されただけの権限を自分達の特権と思い込みよってからに」

「えー?でも神様から委託された権限って事は正に特権じゃありませんか?」


シスターは汚い事をする為の免罪符として孤児達を使った。

子供たちを守る為に仕方ない悪事なのだと自分に言い聞かせる為に。


俺が子供の頃彼女をただただ優しい人だと思っていたのもその為。

……自分を肯定する為には子供に手を上げる事だけは出来ない。

特に親の無い子供には慈愛をもって接する。そうで無いと自分の所業を許せない。


本来は優しい人なのだと思いたい。

だが、大司教がのし上がる為、教会に理想を広める為には金が必要だった。

それ故に兄の為の資金集めで汚い事を続けている内に心が壊れてしまった。

その為の代償行為である孤児達の世話が、

いつの間にか彼女の中で大きな位置を占めるようになっていた。

たぶん、そう言う事なんだろう。


「ふん。そもそも貴様等の言う神とは何だ?」

「神様は神様ですよ?」


「……そうか、ならいい。では質問を変えよう。お前は孤児達の世話をしていると聞いた」

「はいそうですよ。私が人に誇れるたった一つの善行です」


「わらわを孤児にする気か?」

「え?」


「父が死ねば母も生きては居まい。わらわを天涯孤独にする気か?」

「……え、えーと」


「姉達もそうだ。知っているか?姉達は全員戦災孤児なのだ」

「えええええええええっ!?あ、そう言えばカルマさんに本当の妹なんか居ない筈」


「戦場で拾った、と言うか付いて来たのが姉達だ。父はそれを本当の妹のように扱っておる」

「あ、あの三人にそんな過去が!?」


ああ、そう言えばそう言う事になるのか。

確かにアリサは孤児だよな、うん。


「姉達から父を奪うという事は、姉達は再び孤児となると言う事だぞ?」

「そ、そんな……わ、私が孤児を作るなんて……」


「ふん。シスターの頃と同じと思うな。枢機卿」

「それは一体?」


シスターの顔が青ざめている。

……それは一体とか聞きながらも、多分既に理解してしまったのだろう。


「お前の命令で何人もの兵が死ぬ。つまりそれだけの孤児が生まれているのだ。お前のせいで!」

「それは……それなら、カルマさんだって!」


「父は覚悟しておるよ。自分が極悪人だとな……お前はどうだ?」

「わ、私は……信仰と子供たちを守る、た、め……」


それだけ言うとシスターは膝から崩れ落ちる。

……自己肯定が出来なくなったのだろう。

ああ、これはもう俺でも判る。

この人は、心が折れた。折れてしまった。


「そもそもだ、貴様が神といって居る存在だが」

「もういいです!止めて、止めて下さい!」


「嫌だ。わらわの家族を害するというのなら貴様には地獄を見てもらう」

「わ、判りました。枢機卿なんか辞めます、教団運営からも外れます!」


「もう、父には逆らわんのか?」

「誓います!もうカルマさんと戦うなんて言いません。だからお願いです!」


……私の心をこれ以上壊さないで。


それだけ言うとシスターはヨロヨロと立ち上がる。

だが、そんな口約束だけで……。

あ、そうか。


「じゃあ仲直りだシスター。指を出してくれ」

「あ、はいカルマさん。これでいいですか?」


「OK、じゃあ俺と一緒に同じ事を言ってくれ。今後仲良くするためにな」

「はい……わかりました」


『指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲~ます、指切った!……契約(エンゲージ)』
「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲~ます、指切った!……契約(エンゲージ)」


がちゃり、と何処かから鍵のかかったような音がする。

レオ辺りはドキッとしたようだが、心底憔悴したシスターは気付いていないようだった。


「もう、良いですよね?……帰ったら荷物を纏めて出て行きます……」

「うむ。そうせよ、わらわも無駄な殺生は好まん」


そうして、フローレンス枢機卿は歴史の表舞台から姿を消す事となった。

契約がある限り彼女はこれを破る事など出来ないだろう。

それに……それに対抗する意思も気概も、彼女にはもう残っては居ない……。

そう、シスター・フローレンスとの長い戦いに終止符が打たれたのだ。


「さあ、父よ急ぐぞ!」

「え?ああ、そうだったアリシア達を助けないと!」


娘からの声で正気を取り戻す。

そうだ相手はあのブラッド司祭。流石のあいつ等でも荷が重いかもしれない。

……ルンから治癒をかけてもらいつつ走り出す。

魔力飽和を起こして崩壊していく魔封環を尻目に俺達は表へと向かったのである……。


続く


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