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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/08/11 20:20
幻想立志転生伝

49

***冒険者シナリオ10 冒険者カルマ最後の伝説***

~商都に集う蜂狩り達 前編~


《side 門番》

俺は商都の門番だ。もうこの巨大な扉を守って10年にもなるか。

今日も変わらず、行き来する荷馬車の群れを見送ってる。


……いや、変わったな。


あの忌まわしい戦争の後、商都の門前に続いていたスラム街が撤去されたのさ。

治安は良くなったし門をこっそり突破しようとするような輩も消えた。

……一見すると何もかも良くなったように見えるさ。


けどな。何か足りないんだよ。

強いて言うなら活気が。

街全体に何処か元気が無いんだよなぁ。


要するに、だ。

先代の大公殿下は嫌ってたけど、

あのスラムの連中も商都の大事な客であり、構成員だった訳だ。

一人頭、一日銅貨一枚でも、万の人数なら金貨が一枚動くのに等しい。

それに、安くこき使える貴重な労働力でもあったのさ。


つまりだ……奴等をあまり粗末にするべきじゃ無かったって事だな。


「ま、言っても仕方ないわな……ふぁ……今日も平和だ」


戦争以来国境警備も拡充されたらしいし、まあ再びここまで敵が攻めてくる事も……ん?

何だ?地震か?

地面が震えて……


『退けい人間ども!我が身が……火竜ファイブレスが通るのだぞ!』

「ど、ドラゴンーーーーッ!?」


南の森の奥から赤い何かが見えると思ったら、それは何と竜の首だった。

それはどんどん大きくなり遂に城門前に到達した……って言ってる場合か!?


「開門ーーーーっ!」


何か、竜の頭の上で騒いでる奴も……って、あれカルマじゃないか!?


「おい、カルマ……ここじゃあお前は殆どお尋ねもんだぞ!?何帰って来てるんだよ!?」

「門番のオッサンか。久しぶり」


城壁の上から叫ぶが、向こうはその更に上から見下ろすように喋ってくる。

竜は呼吸するかのように軽く火を吐いてるし……怖ぇええええええっ!


……ここでの最善の選択肢は、さっさと上官に報告、これに尽きるのは判っている。


いや、だが俺はアイツを知っている。

ボロボロの格好でロバを連れ、この街に初めてやって来た頃からな。

そして俺は知っている、奴は周りから妬まれるほどに毎日頑張って居たんだ。

周りから仕事の取りすぎと言われる日まで、殆ど休みすらなく毎日のように働いていた。

少なくとも……こんな所で狂信者どもに殺されて良い奴じゃあない!


「アホか!?最近大手を振って歩いてる竜の信徒連中に殺されるぞ!?」

「むしろ殺すから心配するな」


「その方がよほど問題がでかいわーっ!」

「まあ、正直生きてるご神体相手に逆らえるなら逆らってみろ、だけどな」

『人間どもが生意気言ったら焼き殺す』


あ……そういえばそうだな。

竜の信徒が竜相手に逆らう訳も無いか……。


「もういい。鍵は開けるからさっさと先に進んでくれ……と言うか竜はどうするんだ?」

「まあ、かなりきついがトレイディアの城門から潜り抜けられるさ」


……連れてく気かよ。

まあいい。どうせ止めたら俺ごと城門が吹き飛ぶだけだろうしな。

それにカタ子爵だったら相手が相手だし見逃してくれるだろ……。


「と言うか飛べないのかその竜!?」

「巨体の割りに翼が小さくて飛翔するのは不可能だ!」

『地を這う竜で悪かったな。……出来ても精々短距離滑空だけだ』


要するに、門がボロボロになるのは仕方ないと。そう言う事か?

とは言え開けなかったら文字通り破壊してでも先に進みそうだしなぁ。


「……仕方ない。開門だ!」


正直相手が悪すぎらぁ。

俺、知ぃらないっと。


……。


≪side カルマ≫


随分久しぶりのトレイディアの町並みである。

しかし……建物は変わらなくとも中の店が別店舗になっていたりして、

時の流れを否応無く感じさせられる。


「この街は相変わらずだな。けど……街を行く人数が減ったような?」

「それはそうだろ父。暫く前は門前にも街があったとレキの友達が言っておったぞ」


ああ、勇者ごっこ仲間な?

あいつ等の中に商都スラム出身者がいてもおかしくは無い。

……なるほど、あいつ等相手の傷物野菜売りや焦げたパンを売る店も一緒に消えたのか。

そりゃあ人が減ればそれだけで活気も無くなるか。


商売ってのは何だかんだで活気がかなり影響するもんだし、

今頃商人ギルド長のバイヤーさんも頭抱えてるんじゃないのか?


「愚かな話だ。父はこれを教訓としてたもれ?いいな?」

「ああ。判った」

「ぴー♪」


ガラゴロ、ピヨピヨ。

アイブレスに引かれた"車輪付き魔王城、ひよこ入り"が俺たちの後を続く。

因みに鶏夫婦は犬小屋……もとい魔王城の上で警戒中だ。


因みに今回のパーティーはかなり本気の編成だ。

俺とルン。アリシアとアリスが一匹づつ。

……アリサは色々有って結局留守番。今頃は書類に埋もれてるだろう。


さて、それにハイムを加えた上で、


「主殿……ここがトレイディアなのですか。……思ったより静かな所なのですね」

「そりゃあ、戦争の後帰ってこない奴も多かったっすからね。以前はもっと凄かったっすよ」


更に一度ここに来てみたかったと言うホルス。そして護衛代わりにレオが付いて来たのである。

特にホルスは俺との関係を隠すため、この街に入る事は出来なかったからな。

まあ、一度くらいならと許可を出した訳だ。


「さて、首吊り亭も久々だな」

「ガルガンのおじちゃんも久々でありますね」

「あ。おかしやさん、ひとつ、つぶれてる、です……」

「……思い出の街、懐かしい」


因みに前衛にはホルスにレオ、中衛に俺と蟻ん娘二匹、後衛にルンと言う編成だ。

……冷静に考えると強力すぎて恐ろしいパーティーだと自負できる。

あ、ハイムと魔王城は後衛で員数外のリザーブメンバーな?


「では、久々の古巣へ……よぉ、ガルガンさん」

「うを!?カルマではないか!久しぶりだのう!」


さて、宿の戸を開けると懐かしい店内だ。

幾つかの調度品が置き換わっている以外は何一つ変わって無い。

声をかけるとガルガンさんは嬉しそうに双眸を細めた。


「取り合えず、連れに食事を出してくれ」

「お安い御用じゃ。……わしも少しは上達したんだぞ?」


しかし首吊り亭は相変わらずだ……と、言いたいが何だか冒険者の質が下がっているようだな。

上位冒険者の放つオーラと言うか自信と言うか、それが全く伝わってこない。

以前は曲者波動が店内に充満していたものだがな……。


「ところでガルガンさん。調子はどうだ?」

「ぼちぼちじゃの。ただ、主力冒険者がD級ばかりで困っておる」


「おいおい、D級って……オークも倒せない連中かよ!?」

「ははは、最近腕の立つ奴は冒険者などならなくても軍隊に幾らでも求人があるからの」


「軍隊?生粋のアウトローも居る筈だろうに」

「そう言うのはそういう気風の部隊に配属されるんじゃと。村正の発案じゃよ」


「流石だな、と言いたいが……それって冒険者ギルドに来る依頼がこなせなくなるんじゃ」


いつぞやのスティールソードとファイブレスを巡る一連の騒動を思い出す。

……あの時は余りまくった下級冒険者の為にシェアリングをしていたが、

今は逆に受ける人間の居ない上級依頼を片付ける為に何人も宛がう必要性が出ているんじゃ……。


「そうだの。かつてC級一人でこなしていた仕事にD級数人で当たるなんてザラじゃよ」


しかも、それはこの宿に限った事では無いという。

聖俗戦争の後始末で商都冒険者ギルドが休業した際、

隣町の倉庫街ポートサイドにて、冒険者が職にあぶれていた。


……結果、食う為に軍に志願するものが増える。


しかも戦乱故に各国とも優秀な兵士の確保に躍起だ。

結果すぐ死ぬ事もあり、兵士は高給取りの人気職に。

その割を食う形で、冒険者は数、質ともに下がっているという。

……現在は高度な依頼を完遂する為ギルド長クラスが出向く事も珍しくないのだとか。


「冒険者冬の時代だな」

「ああ。だからお前みたいなのが残っているのは幸いじゃよ」


「……先生も私も、今回の一件で引退する」

「なんじゃと!?ルンよ、本気か?」


いや、仕方ないんだよな。

俺としての意思はともかく、既に俺一人の人生じゃないし。

今の自分がそうやられるとは思わないが、不安要素は極力排除しないと。


「そうか……ライオネルも将軍に復帰して引退したし、うちのトップはこれで村正だな」

「仲良い筈じゃないのか?少しは喜んでやったら……」


「仮にも一国のトップ。冒険者の仕事などやってる暇があると?」

「さーせん、と言っておく」


そうだよなぁ。裏で色々理由がある今回の場合でも、

俺が動くのに側近の反対が起きるくらいだしな。

……権限が薄そうな村正じゃあもっと苦労してるのが目に浮かぶな。


「ところで、魔王の蜂蜜酒が見つかったって聞いて来たんだが?」

「なんじゃ。お前さんもか……この前シスターが久しぶりに顔を出したと思ったら」


おいおいおいおい。シスターも来てるのかよ。

教団が動いていると言う情報は掴んでいたが……まさかトップが動くとは……。

いや、金の匂いでも嗅ぎつけたな?相変わらずだあの人も。


「まあいいわい。ほれ……依頼内容は巨大蜂の討伐、となっているが本音は蜂蜜酒の奪取じゃ」

「一応B級用の依頼なのな」


渡された張り紙には銀貨五百枚プラス出来高払いで最大金貨百枚とある。

要するに、酒持ってこなけりゃ大して美味く無い話だぞということだな。


「まあ、今となってはランク分けも有名無実じゃよ。事実D級どころかE級まで行っておる」

「……死ぬ気かそいつ等」


E級って、下手したらコボルトに負けるような連中じゃないか。

何一つ人並みの部分が無い……駆け出しなんてレベルじゃないぞ!?

本当なら雑用をこなす事以外許されないレベルじゃないか……。


それが万年雪の結界山脈に挑む?登ったまま帰れないんじゃないのかそれ?


因みにオークにすら勝てないようだと盗賊にすら勝てないって事だ。

思い返すと5段階ある冒険者ランクは戦闘力、技能、実績からなり……。

面倒だから戦力のみで語るが、


E級……ゴブリン(小動物級)に勝てる程度……おちこぼれ

D級……コボルト(野犬級)に勝てる程度……駆け出し

C級……オーク(一般男性)に勝てる程度……一般的冒険者

B級……リザードマン(熟練戦士)に勝てる程度……ベテラン

A級……オーガ(強大な魔物)に勝てる程度……精鋭。下手すると伝説


ご覧の通り、ランク間の格差が大きい事がわかるだろう。


因みに俺は竜殺しを成し遂げた為A級に認定された口である。

なお……当の竜を取り込んでしまった現在の戦闘能力は当時を大きく上回っていたり。


「しかし、C級までは行けて当然、そこからはデカイ壁が冒険者だったはずだがなぁ」

「時代がな、変わってしまったのじゃよ。……冒険者ギルド宛の依頼自体も減っておるしな」


「……それは、軍が対応してくれるって事か?」

「ああ。新兵の訓練と民の慰撫を兼ねてじゃと」


軍が無料でやってくれれば住民はわざわざ金を出したりはしないだろうしな。

……冒険者冬の時代か。自分で言っておきながら薄ら寒い物を感じる。


「それにの。お前のせいでもあるんじゃぞカルマ。……商会が速達なんぞ始めるから」

「……そう言えば冒険者の一番の定期収入が手紙配達だったな」


「冒険者を使ってでも届けたい手紙。高くとも、早く確実に届く方が良いに決まっておる」

「もしかして同業者の仕事を根こそぎ奪っちまったのか?……また」


いつぞや、仕事を根こそぎ持っていったために疎まれた時の事を思い出した。

仲間の為に仕事を残しておくのはある意味冒険者としてのマナーである。

だが、その考えが欠けていた俺は、

新人向け依頼を根こそぎ持って行った挙句、討伐依頼の対象になった事がある。


……まあ、それは結局当時のマスターからの警告だったんだけどな。


さて、それは良いとして今回の事を考えてみよう。

別口の仕事が沢山ある上に、

一番無難な稼ぎを奪われたんじゃ冒険者など続けてられんか。

何処まで行っても冒険者なんて怪しい流れ者扱いされるしな。

だったらまともな職に就きたいよなぁ。


「まあ、いざとなったらただの酒場兼宿屋になるさ……幸い次期大公の覚えはめでたいしな」

「そうだな。ガルガンさん……正直スマン」


「んー?親父さん、そいつ新入りか?」


振り向くと一人の男が居る。

ずっと酒場の隅で飲んでいたらしいな。

……腕は立ちそうだが……?


「何だよその目は……俺は戦闘B級だぞ!?」

「総合Dだけどなーっ」


周囲から茶々が入る。

戦闘Bで総合D?総合とは3つの評価の平均だから……技能無し、信用も無しか!

……しかしまさか、この展開は……。


「まさか、現在首吊り亭最強の男とか言わないよな?」

「お、判るかい?アンタもなかなか強そうだな!」


「村正の次にじゃがのう?」

「親父さん、それは言わないお約束だぜ!」


何とも単純な男だ。

信用が無いのは頭が悪いのかただ単に駆け出しだからか……。

取り合えず悪党で無いのなら、腕力はあるのだろうし大成する可能性はあるか。


……しかし、子犬がほえてる程度にしか感じん。

これが最強格とか、首吊り亭終わってないか?

村正との戦力差も近衛兵とコボルトぐらいありそうなんだが……。


「で、登録はしたのか?ギルドに行ったのか?ランクはどうだった?」

「くくく」


「親父さん笑わないでくれよ!」

「じゃあ名乗らせてもらうか?総合Aランク、竜殺しのカルマだ」


……名乗った途端に空気が凍った?


「お、お前がカルマか!竜の信徒の敵め!」


すらりと抜き放たれる刀……へえ、結構な業物だな?

まあ、今の俺を倒すにはせめて妖刀村正持って来いと言った所だが……。


「ぴー」

「何だ?」


ガチー……ン!


「うわっ!?コテツが凍りついたぞ!?」

「何だコイツ……ってまさか竜の幼体!?」


「ぴー!」


「怒ってるぞ!?」

「マズイ逃げろ!」


こ、これは予想外。

アイブレスだけに氷の吐息を吹くのかよ!?

コテツ、だっけ?生きてるか?


「……まあ、無茶ばかりする奴だからの。たまには良い薬じゃよ……と思う」

「とりあえず、おゆ、わかすです」


……表にファイブレスを待たせておけば竜の信徒は黙らせられると思ったんだけどな。

まあ、最初から中に居たのは仕方ないか……。


取り合えず、警戒の必要がある事だけでも判れば御の字だな。

それと……ってハイム?

何を凍った相手にハンマーなんか振りかぶっている?

ここは冒険者の宿だ。戦場じゃないんだぞ?


「で、父。阿呆は消し飛ばしてよいのか?」

「娘、自重」


……。


そうして幾つかのアクシデントに見舞われながらも、

昔話に花を咲かせながら時は経ち、夜もふけてきた。


さっきのコテツとか言う冒険者は、氷が融けた頃に酒場を出て行った。

……なんでも、アイツも結界山脈に向かうらしい。

前回は辿り付く前に遭難しかけたから準備の為に街に戻っていたと言うのが本音だそうだが、


「そんな体たらくで、冒険者が務まるのかよ……」

「最近の冒険者などそんなレベルでしか無いぞ」


「質が下がったな、本当に……」

「代わりに軍のレベルが上がってるからの。まあ、ご時世だな」


本当に冒険者と言う職業を取り巻く状況は厳しいようだ。

……いや、考えてみればそれも俺のせいか。

戦争起こしたのがそもそも俺だし。


「……しんみりしちまったな、取り合えず部屋を取りたい。取り合えず三部屋用意できるか?」

「おお、空いてるぞ。取り合えず一週間分くらいで良いかの?」


まあ、そんな長期戦にする気も無いが……取り合えずそれで良いか。


「結界山脈の火竜がご帰還されたぞ!」

「ありがたやありがたや……」

「我々竜の信徒の時代だ!」


『五月蝿いぞ黙れ下郎』

「はぶっ!?」


「竜の神様のお怒りじゃーっ!」

「祈れ!皆祈るのだ!」


あ、振動がここまで……。

ファイブレスには悪いがもう少し頑張ってくれよ?


「じゃあ明日にでも出かけるかな。……そう言えば村正は元気か?」

「まあな、色々苦労もしておるがの。まあすぐ会えるわい」


「何でだ?まさか……」

「そうだ。アイツも部下を連れて蜂蜜取りに出かけておるわい」


……やれやれ、旧知の連中と取り合いかよ。

この分だと予想外な知り合いも居そうな気がするぞ?

全く、厄介な事になってきたなぁ。


……。


そして翌日。

朝方に目が覚めたので、寝たまましがみ付くルンをゆっくりと引き剥がし、

アリス達とハイムの部屋に行ってみる。


「おお父。今日は山登りだな……ハイラル達はここに残していくぞ」

「それは良いが、今日もひよこの仕分けか。しかし生まれたばかりのひよこの雄雌が良く判るな」


今日もハイムは生まれたひよこをより分けて、メスにはリボンをつける作業をしている。

難度の高い作業だろうに良く出来るもんだと正直感心するんだけど。


「それぐらい、本気出せばすぐに出来るようになるさ。伊達に長く存在はしておらん」

「それだけでそんなに上手く出来るのか?」


「いや……昔、軍の編成費用を稼ぐ為に身元を隠し養鶏農家で働いていた時があってな」

「魔王がバイト!?」


流石は魔王。俺達とは色んな意味で次元が違う……。

本当に伊達に長く生きて無いんだな。


まあいい。


「取り合えず連絡だ。余り人目に付きたく無いからな。出来るだけ早く出かけるぞ」

「うむ。クイーンの分身達にはそう伝えておこう」


さて、次はホルス達か……。


「主殿!大変です!」

「ってホルス、どうした!?」


「レオさんが、神聖教団の信徒らしき連中に絡まれております!」

「何だと!?」


「朝のジョギングに出かけると言っていたのですが、その帰り道で」

「……非合法化されてもまだ居たのか信者……いや、宗教だし当たり前か!」


指差されるまま窓の外を見る。

……確かにレオが数名の男達に絡まれている。

相手のリーダーは……ああ、前まで隣町の神父をしていた男だ。

聖俗戦争の煽りを受けて失職していた筈だな。

しかし、そんな奴がどうしてこの街に?


「貴様!我が教団の許しも無く騎士を名乗るか!?」

「今更教団の許しなんかいらないっす!自分はレキの騎士、教団の言う騎士とは違うっす!」


「馬鹿な事を!この大陸における騎士とは我が教団が認めた者のみ!」

「非合法宗教団体が寝言ほざくなっす!」


「くっ、異端者が偉そうに……!」


あ、そう言えばそうだった。

例えばルーンハイム魔道騎兵の面々が騎士ではなく騎兵と名乗ってるのは、

教会の認めた騎士ではないからと言う事もあるんだよな。

あくまで教会の認めた回復の出来る戦士、それがこの大陸での騎士の定義だ。


……すっかり忘れてたよ。


ま、いっか。

俺の国の騎士は教団の許しは要らないということで。

きっと、騎士修道会と世俗騎士くらいの違いはあるだろうから……なんてな。


「とりあえず、問題は無さそうだな。この国では今や神聖教団は非合法団体だ」

「いえ、それ故に更なる問題が……」


何だと?どう言う事だホルス。

ん、誰かが駆けて来たぞ?

中華系っぽい僧服……と言う事は!


「何をしているのですか!神聖教団は出て行って頂きたい!」

「くっ、異教徒め!図に乗っているな……!」


やっぱり例の説法師か!

まあ、竜の信徒の事実上の本拠地だしいてもおかしくは無いが。


「貴方達の住む場所は既にこのトレイディアには無いのです」

「よっしゃ!もっと言ってやれっす」


「……貴方もですよ。レキの騎士と言う事は当然あの方の部下なのでしょう?」

「そう言えば、あんた等アニキを殺そうとしたっすよね……死ぬっすか?」

「異教徒に異端者か……こうなれば纏めて!」


ヤバイ、一瞬即発だ。

レオを中央に竜の信徒と神聖教徒がそれぞれ左右に集まってきた。

……宗教戦争+1って感じだ、これはマズイ。

特に街の真ん中なのがマズイ。


「主殿が居る事が判れば、私達は両教団を相手にせねばならない公算が高いです」

「……この街で今の俺が暴れるのは得策ではない、か」


ふと横を見るとアリスが荷物を持って立っていた。

俺が見ているのに気付くとこくんと頷く。

そして娘はと言うと。


「わらわはひよこの選別が終わるまで動かんぞ」


まさに我関せずを地で行っていた。

だがまあ丁度良い。熟睡してるルンを叩き起こすのもかわいそうだしな。


「判った。じゃあ後でルン達と一緒に追いついて来てくれ」

「了解だ。母の沐浴が終わり次第レオと合流し追いかけるとしよう」

「では、参りましょう主殿!」


ひよこを持ったままのハイムに伝言を頼み、ホルスとアリスのみを連れて宿の裏口から街に出る。

そして事情を知らない人間が居ないからこそ使える蟻の地下道を通り、城壁の外に出た。


「ミツバチ一族との兼ね合いもあって、向こうの巣の近くまで行ける地下道は無いのであります」

「ここからは、地上を行くしか無いか」

「連絡はアリシア様が向こうに居るので問題ありません。今は橋頭堡を確保すべきかと」


それもそうだな。

取り合えず前進して仲間が追いついて来るのを待つか。


「よし、だったら今は先に進むぞ!」

「はっ、承知しました主殿」

「取り合えず食い詰め傭兵とかもうろついてるから気をつけるであります!」


……そんなのまでうろついてるのか。

すっかりゴールドラッシュ状態だな、本当に。


……。


さて、時折現れる夜盗を叩きのめしつつ先へと進んでいく。

時には百人単位の部隊に出会う事もあったが、その悉くを粉砕し突き進む。

……結界山脈の麓までたどり着いてみると、山頂付近には万年雪が相変わらず積もっていたが、

中腹辺りはまだ辛うじて緑の存在が確認できた。


「さて、蜂の巣はどの辺なんだ?アリス」

「……人間の軍隊同士が争ってる辺りであります」


え……と、思って上を見ると、確かに中腹で争っている。

察するにトレイディアの正規軍と教団兵か。

何か、マナリアの軍服も混じっているような気もしないでも無いが。


「勝手に争ってくれるお陰でまだ巣は陥落していないであります」

「……それは良いが、ミツバチ達を地下道から運び出せないのか?」


考えてみればそれが一番手っ取り早い。

ならばやらない手は無いよな。


『それについては我が身から説明する……ミツバチ達の巣穴はな。地下の溶岩地帯にあるのだ』

「今まで隠れ続けられたのは、その溶岩を明かりにして細々花の栽培をしてたからであります」


ふむ。つまり下手に穴を開けると溶岩が流れ込んできて危険と。

……ツッコミどころ満載だなヲイ。

ミツバチの巣が巣穴って事もそうだし、お前ら溶岩地帯での掘削経験もあるだろ。

そもそも蜂が農業してるってのも異常だ。……うちが言えた義理じゃないが。


「第一、今まで地下道なんぞ掘るな敵対する気か!と五月蝿かったから手付かずであります」

「そう言えばミツバチとスズメバチは本来不倶戴天の敵同士だもんな」


向こうの縄張りの辺りは避けてた訳か。まあ賢明だ。

……ファイブレス戦の時の通路は確かその後使う事も無くほったらかしの筈だしな。

安心して使える気がしない。今回は無視するのが正しいだろう。


「つまり、地上から普通に侵入し、帰りも地上を帰る他無い訳だな」

「救援要請出した後も、巣へ直結する通路の掘削には応じなかったであります。馬鹿であります」


まあ、仕方ないわな。

襲われるかも知れないと疑心暗鬼だったんだろう。


お前らが魔王の出馬を願ったのも当然か。

……しかし、どうせ次期女王を預けるんだから同じ事だと思うがなぁ?

まあ所詮でかくとも、基本はただの昆虫。そこまで頭が回らんのだろう。


それでもアリサ達が助ける気で居るのは。

……多分、いつぞやの自分達の境遇と重ね合わせてるんだろう。

何せ、俺の体内に隠れてようやく生き延びたんだもんな。

嫌でも同情してしまうんだろうさ。


「じゃあ早速登るか。今日はある程度距離を取った所で野営の準備をしつつ仲間の到着を待つぞ」

「はっ、主殿。全員揃い次第突入と言う訳ですね」

「あいあいさー」


ホルスを先頭にその後に俺が続き、更に後ろに荷物持ちのアリスが続く隊列で俺達は進む。

とは言え道も道程も平坦ではありえなかった。


「大司教様の仇だ!」

「黙れ」


俺の姿を見た途端に切りかかってきた神聖教会の信徒を切り倒す。


「説法師殿を二人も害したそうだな!?」

「じゃあお前も後を追え!」


続いては竜の信徒の過激派を撃破。

……説得が面倒だったのは内緒だ。


「ブヒブヒブヒー!」

「多くのオークが……死んでいった!」


更に軍隊に追われたはぐれ魔物の群れを蹴散らしていく。

うーん、正に無双。気持ち良い。って思っちまう辺り俺も大分狂気に毒されてると思う。


そして、目的地より少し上の辺り、間違っても軍隊とぶつかる事の無さそうな辺りに辿り付いた。

……この辺りがキャンプ地には良いかな。


「と言う訳で、ここいらでキャンプを張ろうと思う」

「……し、しかし主殿?ここには厚く雪が積もっていますよ!?」


そう。目的地より標高が高い故、この辺りには既に厚く雪が積もっていた。

ホルスの疑問も当然だろう。

何せ、ここから少し下れば雪の無い場所など幾らでもありそうなのだ。


……けれど、ここは雪国の知恵をもって乗り切ろうと思う。

何故か?そう、ここには雪がある。

そしてもう少し下がれば雪が無いのなら、

こんな所までやってくる馬鹿がそう居るとは思えないのだ。


第一目的地はここより下。

ここまで登ってくる意味がまず無い。

つまりだ、ここは比較的安全なのだ。


「と言う訳でかまくら作りだ。アリス、行くぞ」

「デカイの作るであります!」

「よく判りませんが、取り合えず近くの沢から水を汲んできますね」


周囲の雪をかき集め、山にした後で穴を掘る。

ファイブレスも動員すれば巨大なかまくらの完成もそう難しくは無かったが、

万一崩れた時も考え二人部屋を幾つも作る形を取った。

念のため予備のかまくらも何個か用意して、最後にかまくら群の周りを雪で出来た土手で囲む。

何か、簡易的な砦と化してしまったが……とりあえず今日の寝床は完成だ。


「まさか雪で家屋を作られるとは……」

「風が入ってこないしこれが結構暖かいんだぞ?」

「偉大なる先人の知恵であります」


流石に砂漠育ちのホルスは唖然としているな。

まあ、カーヴァーに付いて世界中を巡っていた時期もあったと思うが、

この大陸にはエスキモーみたいな部族も居ないし、家を氷で作る発想などある訳も無いか。


「取り合えず晩御飯の用意と暖房の為に、でっかい七輪を用意しておいたであります」

「……ふっふっふ」


妹と二人でニヤついてみる。

手元の食材は先ず大陸外から輸入した米。

そして芋、さらにニンジンとタマネギが続く。

肉は登ってる来る途中で手に入ったし、と。


……多分、この時点で同世界の人間なら既に何を作るか理解出来る奴もいるだろう。


「さて、それでは主殿のお勧めだという魔法の粉の味を確かめさせて頂きましょうか」

「美味しくてびっくりすると思うであります。まあ、直接食べた事は無いでありますが」

「と言う訳で、本日のメインを出すぞ!」


取り出したるは黄色い粉。そう、カレー粉!

先日ようやく完成したのだ。

そんな訳で今回の遠征は、同時にカレーライスのお目見えでもあるわけだな。


「では早速……七輪の火力を上げるぞ、と言うか火球を使う」

「あいあいさーであります」

「主殿お待ちを!下を大軍が進んでおります!」


何だと!?

かまくらを飛び出し眼下を進む部隊を確認する。

……よし、雪の土手のお陰で向こうからはこちらが見えてない。

火を使えば煙でばれていたかも知れないと思うと、早めに気付いて僥倖だったと思う。


「あの装備は……トレイディアの兵か。それも地方の部隊だな」

「しかし、数千人は居ますよ!?」

「……に、にいちゃ!?あれ、指揮官が……」


ん?と思うと下を馬に乗って進む、見覚えのある二人組。


「ふう、冷えるのう」

「そうですね団長。その頭では更に冷えますねタコ」


ブルジョアスキーとその副官か。

近くで野営でもされたら厄介だ、が見た所西へと移動中か。

暫く止まりそうも無い、と言う事なら黙って隠れているのがお互いの為だ。


「……やり過ごすぞ」

「了解であります」


「しかし、ボン男爵が何ゆえ蜂蜜酒を?魔法を使えないのなら価値は半減すると思うのですが」

「さあ?純粋に酒として、もしくは金として見てるんじゃないのか?単純な人だし」

「でも、他の勢力と戦うから、お金の為だとしたらむしろ損するような気もするであります」


そうだな。

まあ、人様の家の財布の事など気にしてる場合じゃないけど。

……とりあえず、カレーは連中が行ってしまってからだな。

ってどうしたアリス。人の袖を引っ張ったりして。


「にいちゃ?おかしい人が居るであります」

「誰でしょうか?神聖教会の司祭服ですが」

「……ブラッド司祭、だと?」


当初俺たちの掴んでいた情報では、確かにこの男が教団を率いて遠征して来ていた。

予想外なのはシスターの動向だけだ。

故にここにいてもおかしくは無いが、仲の悪いブルジョアスキーと一緒に居るのはおかしいし、

そもそも現在名目上敵対している商都軍の中に居て大丈夫なのか?


……陰謀の匂いがするな。


「少し待ってろ。俺が後を付けて来る……多分子蟻には色々と荷が重いだろうしな」

「了解。カレー作って待ってるであります」

「お気をつけて」


おお、じゃあカレー、期待してるぞ。

晩飯までには帰ってくるからな?


……。


さて、そんな訳で隊列から遅れかけていた運の悪い兵士の装備を剥ぎ取り、

俺は今ブルジョアスキーに率いられた商都軍の野営地の中に居る訳だ。

問題は一つだけ。


「やあサクリフェスのご同胞。ようやく合流できましたな」

「これは男爵領の同胞よ。今まで本当にお疲れ様でしたね」


どう言う訳かサクリフェスの軍隊と仲良く一緒に野営をしているという事実だ。

とは言え、俺が警備している横で行われている眼前の光景を見れば一目瞭然か。


「枢機卿。騎士団長ブルジョアスキー、商都より奪った兵と共に帰還しましたぞ!」

「子爵も遠征中に内側から刺されるのは予想外だったようですね。味方した兵は僅かでした」

「ククッ、元々あの地には信者が多い。機会さえあれば此方に付くと思ってましたよ、ヒヒッ!」

「では騎士団長、帰還を認めます。お疲れ様でしたね。今日はお帰り会です、そうしましょう」


……村正、今度は自分が刺されたか。

と言うか、全然自重しないなコイツ等は。


「これで全軍合わせると二万の大軍となりますな枢機卿!」

「逆に商都は合計五千を越す兵を失い、まともに動ける数はまあ三千といった所でしょうね」

「ヒャハッ!上見ろ下見ろザマアミロですね、ケケケケケケケケ!」

「私はそれより商都の金蔵から持って来てくれた軍資金金貨二千枚の方が嬉しかったです」


「え?持ち出した金貨は二千五百枚ですよ?きちんと渡しましたかタコ?」

「勿論全額手渡したぞ副官」

「フョホホホ。枢機卿?随分ポッケが膨らんでますね、まあいいですけど、ヒャハッ!」


「五百枚ぐらい、誤差ですよ。そうでしょう?」


非道いよシスター。

周囲を固める警備ほぼ全員が顔に縦線入れてるのが判るくらいだ。

相変わらず銭ゲバなのな……。


「とりあえず、無くなったお金はきっと恵まれない子供のために使われます。忘れましょう」

「クククク、大した自己弁護、自己欺瞞ですね?まあ良いでしょう、フフフフフ」


「さ、さて、それでは私と副官は兵を引き連れサクリフェスに向かえば宜しいのですな?」

「そして、再編成の後西マナリアのティア姫の援護に向かう、ですね」

「フホホッホ!そうです!その通りですよ?私達は蜂蜜酒探してから帰りますので、ヒヒ!」

「兵一万五千を連れてタダご飯食べさせてあげて下さい。ここには百人も居れば良いので」


援軍を出す理由が兵にただ飯食わす為か。

シスターらしくて泣けてくるな。


「フフフ、フ?……あれ、カレーの匂い、ですかねこれは。ひへ?」


しまった!カレーの匂いは暴力的だ!

ブラッド司祭、鼻まで利くのか!?

くそっ、体に染み付いたカレー粉の匂いまでは考えて居なかった。

正体が割れる前に逃げ出さないと……!


……。


そうして、見張りの交代に合わせ脱出した。

冷や汗ものだったが、どうにか怪しまれずに居られたと思う。

そしてかまくらの砦に帰り着いた俺を待っていたものは……。


「あ、にいちゃ。お帰りであります」

「主殿、ご無事でしたか?」

「…………カルマ殿。お久しぶりで御座る……駄目人間の村正で御座るよ……」

「おおカルマか!このカレーとは美味いであるな!我輩初めて食ったのである!」


何でここに居るんだ。

村正はともかくボンクラまで……。


続く


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