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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 47 大公出陣
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/30 21:10
幻想立志転生伝

47

***大陸動乱シナリオ3 大公出陣***

~その初陣、半ばやらせにつき~


≪side カルマ≫

僅かな休日。短い平穏は終わろうとしていた。

……だが、俺は他者からその平穏が崩されるまで待ってやる気は無い。

故に、娘が生まれてから数日にも拘らず軍議を開く事にしたのだ。


「……主殿。書状の件、黙っていて申し訳ありません」

「気を使ってくれたのは判っている。気にするなホルス」


今頃謁見の間には国の中枢を担う連中が集まってきている事だろう。

……俺自身はホルスと共に会議前の最終打ち合わせを終わらせ、共に向かっている所だ。


「あ、兄ちゃ。もう皆揃ってるよー」

「ああ、今行く……」


俺のセカンドネーム、マタドールとは闘牛士の事。

世界を猛牛にたとえ、それに立ち向かうちっぽけな存在が俺だ。

そう。一歩間違えば角で突かれてあっさり逝ってしまう。

そんな自戒を込めた名前である。

……さて、それでは最初の勝負を始めるとしますかね……。


「カール=M=ニーチャ大公殿下の、おなーりーーーー」

「……揃っているか?」

「そのようですね、主殿」


俺が玉座に座る。その右横にはホルスが立つ。

左横後方に目を向けるとルンが玉座に軽く手をかけていた。

……その腕に我が子を抱いて。


さて、視線を前に戻すと文武百官が並んでいる。

玉座の前に巨大なテーブルを持ち込み、それに並んで座っているのだ。


右手には文官……ハピ、ルイス、そしてその文官団。

左手には武官……アルシェ、スケイル、レオ。

その次にジーヤさんから魔道騎兵の指揮を引き継いだ騎士オド。

更にその下座に街の代表者達が並ぶ。


俺の丁度反対側には背後に蟻ん娘を引き連れたアリサが堂々と座っている。

更に部屋の隅ではモカ・ココアのメイドコンビがお茶の準備をしていた。


……今日ばかりはカサカサ達も微動だにせず部屋の左右に分かれ立ち並び、

謁見の間の入り口には決死隊の猛者が仁王立ちし、侵入者に備えていた。


……ピリピリとした空気が僅かに頬を撫でる。

まあ、当然だろう。レキ大公国初めての軍事行動になるのだから。


では……始めようか。


「……まず、この場に集まってくれた事ありがたく思う」

「「「はっ!」」」


「今回、宗主国サンドールの要請により援軍の派遣を決定した。……今日はそれについてだ」

「殿下!このオドとルーンハイム魔道騎兵に先陣を仰せ付け下さい、ンー、トレビアーン!」


バラの花を咥え前髪をかきあげながら騎士オドが一番槍を望んできた。

……ジーヤさん曰く指揮官としての技能は確かなのだと言う。

だが、少々権威主義者的な部分があるのが玉に瑕なのだとか。


「悪いがそれは出来ない。魔道騎兵は今回留守番だ」

「ノー!ナンタール、チー、アー!魔道騎兵はこの国最強の部隊ですよ!それを置いていくと?」


……ゾクリ、と謁見の間の入り口から怒りの視線が飛ぶ。

ふう、決死隊の皆にも困ったものだな。

これぐらいの大口に噛み付く必要も無かろうに。


「俺自身が出るからな。決死隊とお前達……最強格の部隊に街を守って欲しい」

「ノンノンノン!我々は機動力こそ信条!守りなど似合いません!」


それは判ってるって。

だが、こんな戦いで死人を出す気は無いんだよ。

……つまりまともに敵と当たる部隊は連れて行きたくない。

相変わらず二百人しか居ない魔道騎兵をこんな所ですり潰せるかよ。

そも、魔道騎兵は予想以上に扱い辛い。馬の確保が必要な事と、

コイツ等が納得するような血筋の人間が集まらないと増強すら出来ないのが玉に瑕だ。

……動かし方は細心の注意が必要になる。ここではどう考えても使えんよ。


「それを承知で頼む。何、攻めて来る奴など居ないだろうし気楽に」

「それでは手柄になりませんよ殿下!我等は誇り高き尊き血の末裔なのですから!」


……ジーヤさん。アンタ人選間違ったんじゃないのか?

俺の言う事聞いてくれないんだけどコイツ。


「……はっきり言って反吐が出る。母、あれ黙らせたもれ?」

「そうだな。ルン、頼む」


軽く振り返りながら言うと、ルンが軽く頷いた。

そして静かに、だがよく通る声をオドにかける。


「オド」

「ンンッ!ルーンハイム様、いかがしました!?」


「……君命に従って」

「ははあっ!御意のままに」


「ルンの言う事は聞くのなお前……」

「申し訳ありませんが我等の直接の主君は何処までもルーンハイム様ですので。アゥン!」


……今まで俺の傍には居なかったタイプだよなぁ。

まあ不便だがルンの言う事は何でも聞くから問題は無いのか?

取り合えず配置に納得したのならそれで良いが。


何せ、ちょっとした理由で今回の戦、機動力のある部隊は使えんし。

……敵に追いつけると思われるような奴等は拙いんだよな……。


「……次に決死隊だが、これも守りに使う。ホルス、防衛部隊総司令と兼任で指揮を取れ」

「はっ、お任せを主殿」


これも精鋭だが数の少ない部隊だ。

……数を増やし訓練を繰り返しているが、錬度を保つ為に大量増員は出来ないのが現状だ。

当然コイツ等もすり減らす訳には行かない。

何せ軽歩兵としては法外な近接戦闘力と絶大な忠誠心を誇る。

大事にしないと罰が当たるというものだ。


続いて警備兵やら一般の兵たちの配置を次々と指示して行く。

とは言っても、そんなに多くの数は居ないんだけどな。

さて、次は連れて行く連中か。


「次に遠征隊の編成だが……その前に。レオ!」

「はいっす!」


ホルスのほうを向いて首を軽く振ると、

ホルスはレオの元に向かい、予め用意させていた物を手渡す。

ライオンの顔を図案化したワッペンだ。


「こ、これは。エンブレム!?」

「リオンズ・プロファイル(獅子の横顔)と主殿が名付けられております」

「鎧に取り付けろ。……今日より騎士を名乗るんだ。レオ=リオンズフレア」


材質は火竜の鱗。

それ単体でも強力な防具でもある紋章入りのワッペンだ。

レオを指揮官として使うにあたり、

リチャードさんからこっそり許可を貰い騎士に任命させてもらった訳だ。

……万一の際はラン公女とかを亡命させる事を交換条件とされたけどな。

切ない話だよ。全く。


因みに、レキ大公国として任命する初の騎士でも有る。


「それと、新規に編成した部隊を預ける……魔法の才が僅かにある者ばかり集めたから」

「うっす!アニキから習ったあの魔法を伝授するっす!」


「部隊名は守護隊(ガーダーズ)だ。魔法は才ではない。使い方だと世界に示してやれ!」

「はいっす!よっしゃ、これで自分も騎士の端くれっすよ!」


「因みにフレアさんと兄貴から言葉を預かってる。"調子に乗るな"だそうだ。以上」

「うはっ!いきなり釘刺されたっす!」

「ザッツ・ライト!流石はリオンズフレアの御曹司。殿下も素晴らしい選択をされましたな!」


……やれやれ。

笑ってるけど……レオ、お前判ってるのか?

お前は出来るだけ早く自軍部隊に魔法の訓練を施さねばならないんだぞ?


「現在五百名居るが……1ヶ月以内に全員覚えられなかったら……梅干な」

「あ、頭ぐりぐりは勘弁して欲しいっす!頑張るっすよ自分!」


レオが使っても気絶しない程度の魔力消費で効果時間も長く、

実戦で極めて有効な魔法がひとつだけあった。

そこで単一魔法のみを使う装甲歩兵の部隊を考案した訳だ。


その為に、俺の切り札でもあったあれを折角教えてやったんだ。

……上手く使ってくれることを祈る。


「その他、荷駄二百台を随行させる。出立は一月後。それまでに物資を満載しておけ!」


「承知しました。物資の用意はお任せ下さい総帥」

「ま、そちらは余裕ですよ、ハイ」

「「「「「我等の事務能力をご覧あれ!」」」」」


……そちらは確かに心配していないな。

何せうちの事務方は極めて優秀だ。

数年後には基礎教育を終えた人材も大量流入するだろうし、

そうなったらもっと凄い事になるだろう。

ま、そのためにはそれまでこの国を守らにゃならない訳だが。


「以上だ。兵五百と荷駄隊二百名、総指揮は俺自身が取る」

「我がレキ大公国の初陣です。主殿に恥をかかせないようにして下さい!」


「そうそう。副官としてアルシェを連れて行く。参謀はアリサ達!」

「判ったよカルマ君。……出来れば他の国との戦いが良かったけど贅沢は言えないもんね」

「あたし等にまかしとけー!」

「じゅんびはまかせる、です!」

「久々の実戦であります!」


「……先生。私は?」

「子供生んだばかりだろうが。暫く安静にしておく事」


「わらわは?」

「おい、生後数日。本気で言ってるのか?」


「ぴー」「コケー」「コッコッコッコ」

「お前らはハイムに付いてろ……それ以外にどうするつもりだ?」


……どいつもこいつも無茶ばかり言うよなぁ。


『俺はどうする?』

『……スケイルには大事な仕事がある……後で俺の部屋に来てくれ』


さて、これで大体全部か?


「以上だ。国威を見せろとか偉そうな事は言わん。ただし舐められるな、それだけだ」

「「「「ははっ!」」」」


……。


さて、解散した後で部屋に戻るとスケイルが来ていた。


『それで?俺が成すべき事とは何だ?』

「ああ……今回の戦での肝なんだが、ひとつやってほしい事があるんだ」


ごにょごにょ……


『ふ、ククククク……カルマよ。お前も相当な悪党だな』

「手を出したくてうずうずしてる奴が居るみたいだからな……精々引っ掻き回してくれ」


パンパンと手を打つと、天井裏から麻袋を担いだアリスが一匹降りてくる。

……中身は大量の銀貨だ。


「副将としてアリスを付ける。魔物将軍スケイル……極秘任務に就け」

『良かろう。……ただし、作戦後の身分は保証してやってくれ』


「当然だな。こちらとしては一挙両得だ。存分に動いてくれ」

『任せろ』

「じゃあ行って来るでありまーす!」


……スケイルたちが去った後の部屋。

気付くと膝の上にちょこんと小さい生き物が乗っていた。


「のう父。……何を企んでおる?」

「ハイムか。企んでいるとは人聞きが悪いな」


ひょいと持ち上げ放り上げる。

そぉら、高い高ーい、と。


「先日の話といい、今回の密談といい……きな臭くて敵わんぞ」

「国益の為、って奴だ。判るだろ?」


「……何を考えているのか、教えてたもれ?」

「うーん。成功するか微妙だからまだ内緒だ」


落ちてきた所を再度放り上げる。

そぉら。たかいたかーい。


「むう。ではヒントだ!」

「……そうだな。今回の戦い、俺は何処を攻めると思う?」


「傭兵国家とやらだ。あのビリーの作った国だな……だが、真実は違うだろう?」

「……いいや?攻めるのは、間違いなく傭兵国家だぞ?」


ぽふっとな。

落ちてきた所を今度は受け止める。


「嘘を付け。実際潰したいのは最早宗主国殿だろう?」

「例えそうだとしても、戦う気は無いぞ、今回は」


「……今回は、か。つまり次回がある訳だな?」

「時間って奴は繋がってるんだ。出来うる限りの布石は打っておく……先を見据えてな」


「で、どんな布石をを打ったのだ父?教えてたもれ?」

「一つだけヒントだ。……侵略者が被征服民に慕われる条件とは何だ?」


ほっぺたむにー。

おお、伸びる伸びる。


「よふ、わからふ……あほ、へ、はなへ」(良く判らぬ、それと手、離せ)

「それと、今回の戦……一兵も失う気は無いとだけ言っておく」


てしっ、とな。

あ、ほっぺたホールドを解除されたか。


「戦争でそれは不可能だ。圧勝でも人死にが出ないなど有りえんぞ」

「……そのための策。そのための布石だ。少なくとも今回は宗主国に疑われたく無いしな」


ひょいと娘を抱き上げる。


「まあ、大人しく待っていろ。……帰ったら要らない魔法の整理しような」

「……何と言うか、まあ普通では有り得ん会話だが……約束だぞ」


ああ、わかってるって……。

ん?いきなりドアが開いて……なんだルンか。


「先生!赤ちゃん居な……居た」

「しまった!母だ!」


その瞬間腕の中から体がスポーンと飛び出し、

……あ、飛んでった。


「待って」

「嫌だっ!」


そして追いかけっこがはじまる。

……でも何故?


「はーちゃんね?カルマ君に付いて行きたいってさ。で、ルンちゃんが心配してるんだよ」

「ヲイヲイ。生まれて数日の赤ん坊だろうが……」


遅れて部屋の中に入ってきたのはアルシェだ。

苦笑しながら手近な椅子に座ってパタパタと手を振っている。


「誰も信じないよそんな事。自在に空を飛ぶし普通に子供たちと遊んでるしね」

「……そう言えばあの子達も良く普通に遊んでたもんだよな、普通ありえないだろ」


先日の勇者ごっこの際は身長差を誤魔化す為か常に宙に浮いていたっけ。

あまりに馴染み過ぎてて忘れてたが、ハイムとは会ったばかりなんだよなあの子達も。


「力を見せて納得させたらしいよ?具体的には……」

「オーケーわかった。石壁に穴を開けて見せればそりゃあな。子供じゃ従う他無いわな」


あの時の壁の穴はそういうことだったな確か。


「ま、それはさておき……チーフ達と本気で戦う気なの?なーんか、引っかかるんだけどさ」

「……ほれ」


アルシェにはさっさと教えておいたほうが良いだろうな。

と言う事で密書を一通見せる事にした。


「……これは……タクト叔父さんからの手紙!?」

「そういう事だ」


作戦の全体像を必死に考えているのだろう。

黙り込んだアルシェを置いて俺は君主の間へと向かった。

さて、じゃあ準備に取り掛かるとしますか。

一ヶ月って言っても、何かするには短い時間だしな?


……。


それから一ヶ月。

長いようで短い時間を経て、レキ大公国軍は初出陣の日を迎えたのである。


先ず竜馬ファイブレスに跨った俺。それにアルシェとアリサ達。

その次はレオを先頭に新編成の重装甲歩兵ガーダーズ五百名が続く。

更にその後を物資を満載した荷馬車二百台。


大通りに詰め掛けた群衆に手なんかを振りながら俺達は進んでいく。


……アリサ達の正体は未だに秘密なので、地下の近道を使う事は出来ない。

これから何日もかけて先ずはサンドールまで入らねばならないのだ。

ただ一つ安心できるのは属国の大公なんてものになったお陰で、

俺の出身とかを気にする奴が居なくなったことくらいか。


「サンドールに着いたら先ずは王宮に賄賂でも渡していきますか……」

「見も蓋も無い言い方だねカルマ君ってば」

「いちおう、けんじょうひん。とか、いうべき、です」


ま、そうかも知れんがな。

結局の所賄賂以外の何物でも無いんだよなぁ。


……。


さて、出陣からおよそ一月が経過。ようやくサンドール首都に辿り付く。

もう少し行軍速度は上げられるかもしれないが、まあ最初だからこんな物だろうか?

取り合えず王宮に顔を出して貢物をばら撒いておく。


……因みに、サンドール王宮にはこれと言った人物は存在しなかった事を付け加えておく。

俗物か愚者か下衆しか居なかった。

ハラオ王とも初めて会ったがあれはモブキャラだ。間違いない。

そしてまともな人間は罪を着せられ奴隷に落とされている。


……終わってるなこの国。

何せ、あのセト将軍がまともに見えるくらいだから。


……。


さて、王宮に落胆した後は街に出て恵まれない方々に炊き出しをしておく。

馬車の内王宮宛の賄賂十台と炊き出し用食料四十台分、そしてそれを連れて来た荷駄隊五十名。

これを置いて北の戦場へと向かう。


……残った50人には俺たちが戻るまで炊き出しを継続してもらおう。

何せ、国内の飢餓はかなりまずいレベルに達していた。

放っておけば暴動に発展しかねない。


……と言う名目で人気取りを行いつつ、王家と軍の人望を削り取る。

我ながらえげつないと思うが、これも俺達が生き残るためだ。

サンドールの皆にはもう少しだけ我慢してもらおう。


「ありがたい、カルーマ商会には何時もお世話になっております!」

「買い物の代金も待って貰っています。感謝してますよ本当に」

「畜生。軍隊に若いのはみんな連れて行かれちまった……」

「なんで隣国の人たちは助けてくれるのに王様は俺たちを助けてくれないんだろうな……」


ここで、よしよし順調順調、と言う台詞が出てきてしまう自分が怖い。

……しかし、予想していた事だが国力と言うか経済がやばそうだな。

一時的には戦争特需で儲かっていたようだが、

既に売り物である奴隷が高騰すると言う事態に陥り、労働力不足が深刻な問題になっている。

おまけに水と食料も手に入れずらくなっている様だ。


……最近商会に水を売ってくれと言う依頼が増えた。

それも王宮や軍からだ。……他では既に買える値段ではないようなのだ。


「まあ、もうすこしだズラ。きっとセト将軍が緑の大地を手に入れてくれるダ」

「そうだなぁ。きっと北には素晴らしい場所が広がってるのさ」

「傭兵って金持ちなんだろ?絶対に金銀財宝を山のように持って凱旋してくれるさ!」


……今の現状を維持しているのは略奪への期待感、か。

悪い。残念だけどそれが叶う事は無い。

何せ……。


「ねえ、カルマ君……チーフの所も資金的には火の車の筈だよ。……大丈夫なのかな」

「大丈夫な訳無いだろアルシェ。……暴走の時はそう遠くないのかもな」


だが、それでも王宮の連中は権力に固執するだろう。

……王宮を見てるだけでそれは間違い無いと確信できる。

そうなると不満を押さえ込むために新たな略奪先が必要になる。

その時、標的になるのは何処か。

……まあ、考えるまでも無い"罠"?


……。


さて、北上すること半月。

水と食料は大量に持ってきているし、

面倒な障害物はファイブレスで粉砕しつつ直線的に進んでいたお陰で、

思ったよりは早く現場に到着できた。


「セト将軍。水と食料、そして資金を持ってきたぞ?兵は五百ほどだ。有効に使ってくれ」

「大公か。良く来た、予想より早かったじゃないか。俺は満足だぞ!」


たどり着いた途端に引き渡し用の荷馬車百台に群がる兵士達。

……どんだけ飢えてたんだと言う間も無く督戦隊らしき連中に切り殺されていく。


「勝手に食うな愚物ども!ふん、つまらんものを見せたな」

「…………ところで俺達はどう動けば良い?」


ニンヤリと笑うセト将軍。

うん。こっちの流した情報は見事に耳に入っているようだな?


「実は先日良い情報が入った。傭兵王は勝利を諦め資産を持ち出しにかかっているらしいぞ!」

「ほほう。それはそれは。サンドールの勝利も近いようだ」


「うん、その通り。だが俺は奴等の逃亡を見逃す気は無い!」

「では俺たちに先陣を!」


嘘だ。本当はこちらの担当になると困る。

まあ、そうはならないだろう。

……流石に流した噂の内容を理解できる頭はあると信じたい。


「いや……大公は敵首都レイブンズクロウの攻略を頼む」

「セト将軍。相手の首都を五百名で落とせと?」


「心配は要らん!連中は逃げる途中。半ば捨てられたようなものだ」

「成る程な。そんなに手間はかからんと言う事か」


「それにお前の連れて来た兵士は追跡には向かないだろう。悪いが傭兵王の首は俺が貰う」

「いいだろう。数日以内に首都は落としてやろうじゃないか!」


「はっはっはっは!素晴らしいぞ!最高の気分だ!」

「では、こちらも早速準備に取り掛かる」


そう言って俺は将軍の前を後にした。

……横目で馬車を見ると、案の定資金を乗せた馬車が異様に大事に扱われている。

うんうん。予定通りだな。


「アリサ。馬車の動向は見逃すなよ」

「あいあいさー」


さて、現状を鑑みるに予定の変更は必要無さそうだな。

では明日にでも向かうとするか、傭兵国家首都レイブンズクロウ。

……今でも主力がてぐすね引いて待ち構えているその街へな?


しかしセト将軍め、判ってはいたがこっちを敵主力にぶつけやがって。

その隙に自分は傭兵王によって持ち出された資金を奪ってウハウハと言う訳だ。

……まあ、そうは問屋が卸さないから覚悟する事だ。


「世の中上手くは行かないこと。教えて差し上げないとな」

「ククク……そういうこった。ああ面白すぎて腹が痛ぇ」


では、裏の軍議を開始するかね。……傭兵王殿?


……。


翌日。俺達は傭兵国家の首都に向け進軍を開始しようとしていた。


「武運、祈願」

「頼むぞ大公。貴様等の活躍がこの長い戦の終わりを告げる事に繋がるのだからな」


「ああ。まあ期待しないで待っていてくれ」

「うっす、じゃあ進軍するっす。守護隊、前進!」


街道沿いに進むと半日ほどで傭兵国家の首都レイブンズクロウにたどり着くそうだ。

元をただすと30年前の戦いで滅んだ都市国家の首都跡地で、

そこに住み着いた連中を組織化したのが傭兵王なんだそうだ。

今でも決して復興が進んでいる訳では無いらしく、

壁はヒビだらけだし、本来の王宮は崩れ落ちている。


"正直、まともに攻めて来られたらアウトだったぜ"


とは傭兵王の言である。

……そう。もう気づいている者は気付いているだろうが、

俺と傭兵王の間には密約が結ばれている。


簡単に言えば、資金と情報を引き渡す代わりの街からの立ち退きだ。

……昨日の晩、セト将軍の天幕を監視させていた所、

俺の持ってきた資金は既にサンドール国内に持ち帰られようとしているらしい。

そう言う訳で、早速情報流出が起きる訳だ。


「兄ちゃ!傭兵王配下のフォックス隊があたし等の持ってきた資金の奪取に成功したって」

「よぉし。これで料金の支払いはOKだな?」


「傭兵さん達、移動開始したであります!」

「全員が城門を出た所を見計らって城内に入れ。……後はスケイル待ちだ」


ふふふふふ。おかしいと思わなかったのかね?

何でこんな所に大金を持ち込まねばならなかったのか。

そう、あの金はサンドールの軍資金ではなく傭兵国家への支払い用だったのだ。

ま、そもそもセト将軍はくれると言う物を疑うような奴ではないが。


「と言う訳で無傷で首都奪取!」

「えげつないっす!流石はアニキ、俺たちに出来ない事を難なくやってのける!」

「「「そこに痺れる憧れる!」」」


ふふふ、サンドールへの約束は首都奪取だったからな。

何にせよ、これで向こうからの依頼は完遂だ。

……その結果、傭兵達の全財産が持ち出された後だとしても俺は知らない。


「いやあ、正直指揮官なんて初めてっすから膝がガクガクものだったっすよ!?」

「……本当の初陣はこれからだ。そろそろウォームアップしとけ、レオ」


そう。流石に戦闘の跡が無いのもまずい。

勝手に相手が逃げたから街は確保した、なんてあのセト将軍が認める訳も無いのだ。

……何せ、これからの負けが決定してるからな。


そんな所にこちらが無傷とか言ったらどんな難題出されるか知れたものじゃない。

まあ、そこへ飛んで火に入る夏の虫が現れたって訳だ。


「にいちゃ。スケイルが、まえ、とおりすぎる、です」

「そうか。……総員、前方を通り過ぎる集団は無視しろ!」

「了解っす!」


そうして待つこと暫し。……スケイルだ!

背後に魔物、更に夜盗やら山賊やらを連れて何かから逃げるように走り去っていく。

……そして、その後ろから。



馬鹿主従がやって来た。



「待てえええい!このブルジョアスキーから逃れられると思うな!?」

「あの。流石に深入りしすぎです、あれ、傭兵国家の首都ですよ?蛸頭」

「なるほど、判ったのであーる」


見事に誘い出された商都のはみ出し者ボンクラ一党……って本人まで来てる!?

いやいや、開戦の理由を欲しがっていた馬鹿主従が居るって聞いたからあえて誘ったが……。

まさか底なしのボンクラまでかかるとは思わなかったぞ!?


……で、何がわかった?


「今回の野党襲撃は……傭兵王の陰謀であーる!」

「え?わしは流石にそれは無いと思うのだが?」

「それに、詰めてる兵士が傭兵っぽく無い装備ですよボンクラ」


現在子蟻による傍聴で敵陣内の会話を拾っているが、

そうでなくともまあ目立つ目立つ。

……ブルジョアスキーはあれでかなり高レベルの指揮官だった筈だが、

その能力の殆どをあの男爵芋のお守りに費やさざるを得ない状況に追い込まれているようだな。


「許せんのであーる。我輩の大事な領地を荒らすとは、万死に値するのであーる」

「……ではどうするので?」


「我輩の精鋭三千をもって、愚か者に天誅を食らわすのであーる」

「……焚き付けるつもりで連れて来たが、その必要すら無いとは……」

「いや、団長。私は悪い予感しかしないのですが……それに三千は全軍でですよ空頭」


……大丈夫なのかコイツ等。

兵士が心配そうに見てるんだけど。


「そうであるか。では現在の兵数はどうであるか?」

「現在追随している兵は八百名そこそこですよヌケサク。領地の守備もありますから」


「では全軍をつれてまた来るのであーる」

「ちょっとお待ちを!ここまで来てしまった以上手柄の一つも立てねば罰せられますぞ!」

「と言うかただで帰らせてくれる訳無いですよ蛸」


いや、判ってると思うけど手柄があっても罰せられるぞ。

勝手に他国の領内。それも首都の真ん前まで来ているんだ。

……普通なら国境警備隊に補足されてジ・エンドだ。

いやあ、紛争中で警備隊が引き上げててよかったなぁ。


ま、ここに呼んだのは七割以上俺なんだけどな。


「ええい!敵め、一体何人居るのであるか?」

「まあ五百といった所ですかな?壁もボロボロ。一応攻城戦としての難易度は低いですな」

「一応兵数では五割り増し以上で上回ってますよ……ただ、錬度が」


「うほっ!兵で上回ってるなら安心であーる!……全軍前進であーる!」

「え?ちょ!何で勝手に軍を動かしておるんですかアンタ!?」

「いえ団長。一応男爵の軍ですから。勝手に私物化してる我々が言えた義理じゃないですけど」


お、前進してきた。

……とは言え色々と適当臭いな。

仮にも敵に攻めかかる軍隊の進む擬音がゾロゾロ、じゃあ拙かろうに。


「ふう。取り合えず敵が攻めてくるぞ?」

「うっす!迎撃するっす!先ずは弓を持てぃ。っす!」


崩れかけた城壁とは言え有ると無いとでは大違いだ。

レオに命じて弓を射掛けさせる。

……決して弓の上手い部隊では無いが、牽制程度にはなるだろう。

そして、ブルジョアスキーなら気づく筈だ。


それぐらいなら、前進の邪魔になりえないことを。


「ひるむなっ!あの程度の弓矢など無視できる程度でしか無いわ!」

「ええ、幸いでしたね。あまり錬度の高い部隊では無いようですよタコ団長」

「むっふっふ!このまま街ごと落としてしまうのであーる」


……阿呆か。

向こうは傭兵国家と戦っていると思い込んでいるが、

もしそうだとしたらこの後待っているのは泥沼の戦争だぞ?

サンドールが攻め込んでいるのは知っているだろうに。


……まあ、サクリフェスの意向としては、

そんな泥沼に商都を引きずり込むのがお望みなんだろうがな?


「ま、精々逆利用してやるさ……レオ、旗を。獅子の横顔を高く掲げろ!」

「はいっす!自分等の旗を掲げるっすよ!」


敵が城門前に殺到した頃、満を持して傭兵国家の旗を引き摺り下ろす。

代わりに掲げられたのは獅子の横顔を図案化した軍旗である。

残念ながら俺用の軍旗はまだ無いのでレオの部隊の分だけだ。だが今回はそれで十分だろう。


さて……敵には僅かな同様が見られるが、あまり気にせず攻撃を続行しているな?

よし、なら次だ!


「トレイディアの兵とお見受けする!現在傭兵国家首都はサンドールの占領下にある!」

「な、なんだと!?」

「……まずいですよ団長。何かサンドールのほうに喧嘩を売ってしまったようです」


「これは、宣戦布告と見なして宜しいのか?」

「う、いや……」


まあ、そうなるわな。

教会の狙いは三カ国の疲弊だろうし。

恐らく向こうの戦略では、先ずサンドールとトレイディアで傭兵国家を分割。

その後双方が争いだした頃を狙って自軍を南下させ、

漁夫の利で三カ国全てを飲み込むと言う感じだろう。

その後は信仰の力で民を慰撫、一気に勢力を回復……と言った所か。


ただし、その戦略で行く場合に最初にサンドール対商都となると、

現在のサンドール対傭兵国家の構図が変化し、サンドール対商都&傭兵国家となる。

何故か?商都と傭兵国家は戦闘状態に無いのだ。当然手を結ぶ事になるだろう。

傭兵国家は資金を得て回復するだろうし金だけ出していれば商都はそれ程疲弊しない。

……要するに教会の勢力拡大どころではなくなる訳だ。


当然ここは引く事にするだろう。

……普通の頭に持ち主ならな。


「いや、わしらは領内に入り込んだ賊徒を探して来ただけで」

「……ほぉ?賊を探して一国の首都に攻め入るとはどんな考えをしておいでか?」


「あー、いや。確かに申し訳無い事を」

「何を言うのであーるか!馬鹿にされたのであるぞ!?」


だが、ここには世界最凡愚の男がいる。

……ああ、罠の一つすらなくても勝手に崖から落ちそうになってるよこの人。


「我輩はボン=クウラ男爵!その暴言を取り消さんと叩き斬るのであーる!」

「……サンドールへの宣戦布告、確かに受け取った」


「ウボァアアアアアアッ!?」

「団長、あのボンクラを止めてください!団長、団長ーッ……おいハゲ、聞いてるのか!?」


きっとこの話を聞いたら村正は床に突っ伏して泡でも吹くんだろうなと思いつつ、

取り合えず迎撃再開、と言うか城門オープン。

突然開いた城門に向こうが困惑しているのがここからでもわかるぞ。


「な?どう言う事かわかるか副官」

「知りませんよ……ここは街を譲る気でしょうか?だが本隊と合流されてはまずいですね」


「そうだのう。宣戦布告を持って帰られちゃ枢機卿の策が破綻してしまう」

「もしくは……反撃に出るつもりか。まあ、兵力で下回る以上それは無いかと」


……ズシーン


「え?」「は?」「お?」


大きく開け放たれた城門から何かが現れようとしていた。

……巨体ゆえ城門が邪魔なのか、自ら門を破壊しつつそれは現れる。


「待たせたな。では、戦おうか?」


要するにファイブレスとその頭部に乗った俺だ。

……いやあ、城門を開けても竜の巨体が出入りできないのは予想外だったが、

インパクトと言う点では及第点以上だな。うん。

さて、八百名とは結構な数字だが、ドラゴン相手に勝てるのかね?


「ファイブレス。……焼き尽くすぞ!」

『良かろう』


突風、そして紅蓮の業火。

竜の吐き出す炎のブレスに、一瞬で十数名の兵が消し炭と化す。


「首を振るんだファイブレス!全員に、公平にな?」

『判っておる』


ブレスを吐き出したまま巨体の竜が首を体ごと左右に振る。

当然広範囲に広がった炎が、今度は数十名を火達磨にした。


「い、一瞬で前衛が全滅状態です!団長、どうしましょう!?」

「な、何でサンドール軍にドラゴンがいるのだ!?」

「こ、こら!?兵士ども逃げるなであーる!」


「もう少し脅すか?」

「ギャアアアアオオオオオオッ!」


「「「「ひいいいいいいっ!?」」」」


元々夜盗討伐程度の気持ちでやって来た連中だ。

ドラゴンの咆哮を目の前にして戦意を維持できる筈も無い。

ただの一鳴きで数十名が逃げ出していく。


「ええい!どうにかするのであーる!」

「落ち着けーッ!竜と言えど不死身ではない!冷静に落ち着いて行動すれば助かる道はある!」

「無理です団長。せめて竜を何とかしないと。もう士気は崩壊してますよタコ」


「竜を?……よし、判ったのであーる!」

「「え?」」


突然……のしのしと、こちらに向かって歩いてくるボンクラ男爵。

……何をするつもりだ?


「カルマ、カルマであろう?その顔、見覚えが有るのであーる!」

「ああ、確かにそうだ。男爵様お久しぶりで」


「うむ!ボン男爵が命じる。兵を引け」

「無理」


何を言ってるんだこの人。

……俺との縁はとうに切れているのだけど?


「なにおおおおっ?叩き斬るであーる!」

「……出来るので?」


ファイブレスがその爪を大きく振り上げる。

……一般兵にすら勝てない人がどうやって竜と渡り合うつもりなんだか。


「いやまて、お前がここに居るのも元を正せば我輩の見事な統治下で育ったからであーる」

「ファイブレス……」

『うむ』


流石に当てはしないが、眼前の地面目掛け竜の爪を振り下ろす。

……あ、腰が抜けたっぽいな。


「いや待て!待つのであーる!」

「男爵……アンタのは統治とは言わん。搾取だ」


少なくとも統治と言うからには、取り上げる見返りに与えられる物が無くてはな。

税の取り立てはしても公共事業どころか流行病の対策はおろか、賊や魔物の討伐すらしない。

……これを統治と言える訳が無いだろう?


「ひいいいいいっ!いや待って、待つのであーる。それでも我輩はかつてお前の主君だった訳で」

「……いいだろう。ただしこれで完全に縁切り。それと引くのは俺だけだ」


とは言え、なんだか哀れになってきた。

それに、明らかに敵の足を引っ張る男を排除するのも勿体無い。

……守護隊の初陣もまともな物にしてやりたいしな。


「レオ。俺は城門前から見ている。……蹴散らせ」

「うっす!既に敵はこっちとほぼ同数。行けるっすよ!」


「おお、おお……カルマが判ってくれたであーる!」

「信じられん、が……好機だ!」

「全軍、あの竜はもう攻撃してこない。恐れずに向かって下さい!」


城門前に引っ込んだ俺とファイブレスに敵は勢いづく。

……が、それ以上に喜んでいる連中が居た。


「……手柄が転がり込んできやがったぜ」

「いや、家に帰った時に家内に馬鹿にされずに済みそうですな」

「どきどきどきどき……緊張するなぁ」


折角連れて来られながら弓を数回射ただけの守護隊諸君だ。

相手を舐めてかかっている様子があるので軽くたしなめると、自信に満ちた返答が帰ってくる。


「お前ら……ここで死人でも出してみろ、即日解散だぞ?」


「まさか。相手の武器は軽装備のみ」

「長棒の先を削っただけの槍が、僕らを貫けると?」

「まあ、怪我する危険の無い相手が初陣でよかったですね」


「よぉし!じゃあ前進っす。総員隊列を組むっすよ!」


レオを戦闘に魚燐の陣形を組むと、守護隊はゆっくりと前進していく。

……装備は重装甲、かつ重武装。進軍速度が遅いのは仕方ない。

だが、コイツ等の真価はそこではないのだ。


「き、来たのであーる!」

「わしにお任せを。同数なら負けてやらぬ!」

「敵は装甲歩兵。鎧の隙間に剣を突き刺して下さい」


ブルジョアスキー率いる兵士達が弓を射るが、重装甲と大盾に阻まれ効果が出ていない。

……それ故鎧の隙間を狙う戦術に切り替えたようだ。

軽歩兵達がこちらに駆け寄ってくる。


うん。逃げ出されたらどうしようかと思っていたが……、

これなら恐れる事は無いな。


「来たっすよーっ!全員、詠唱開始!」

『『『人の身は脆く、守りの殻を所望する。我が皮よ鉄と化せ。硬化(ハードスキン)!』』』


戦場に、硬化の詠唱が響き渡る。

そして……明らかにこちらが押し始めたのが見て取れた。

ふふふふふ、攻撃の効かない兵士との戦いはどんな気分かな?


「は?敵に攻撃が効いていない?……何だとおおおおっ!?」

「いけない、団長……兵を下がらせましょう!」


鎧の隙間だろうが何だろうが刺しても斬っても効果が無い。

……これが大鉄槌とか大斧なら話は別だったろうが、

木槍やショートソードではこの装甲は抜けない。

その圧倒的防御力で敵陣を蹂躙、もしくはしぶとく自軍陣地を守り抜く。

それが守護隊ガーダーズだ!


「ば、化け物だあああっ!?」

「に、逃げろーーーーッ!」


そして、敵が恐怖し背を向けたときがこの部隊の真骨頂。


「よし、敵が逃げ出したっす!……前衛二百五十名、鎧を脱ぐっす!」

「「「「おおおおっ!」」」」


約半数が重装甲の鎧を脱ぎ捨て残り半数がその装備を回収しつつ後を追う。

……鉄の皮膚はそのままに、軽歩兵と化した追撃部隊が敵の後を追うのだ。


本来守護隊の重装甲は、硬化が切れても戦えるようにといった配慮だった。

だが、副次的な効果として、鈍足の部隊であると敵に錯覚させる事が出来る。

更に追撃で鎧を外すと、防御が薄くなったと反転する敵まで出てきた。

……そして、剣を振るい……絶望するのだ。

いつか強力(パワーブースト)も教え込んでやりたいと思うが、今はこれで十分だろう。


「のはあああああっ!?に、逃げるのであーる!」

「……くっ。しかしこれで商都も戦わざるをえんだろう、わし等の策は成った……」

「そうですかね団長。私は何か悪質な詐欺に引っかかった気分ですが」


馬鹿主従は必死に兵を鼓舞しつつ引き上げようとするが、

こちらの追撃でどんどん数を減らしていく。

……この日の一連の戦闘で、商都側は三百名を越す被害を出した。

代わってレキ大公国軍は、死人はおろか怪我人すらほぼ出さないという大勝利となったのである。


……。


「カルマ君?サンドール軍からの捕虜の引きとり作業完了したよ」

「了解。で、何人くらいだ?」


「んー。大体三百人位かな?皆大人しく従ってくれてるよ。……ただしお給料は出してあげて」

「判ってる。傭兵王にもその旨は伝えてあるから何の心配も要らんさ」


いつぞやの協定に従い、定期的に傭兵国家からの捕虜がレキに送られていたが、

今回は流石に数が多いな。直接引き取りに来ただけはある。

まあ、傭兵王から言い含められているだけあって大人しい物だ。

流石に大枚はたいた甲斐があるってもんだな。


さて……現在あの戦闘から三日ほどが経過していた。

サンドール軍の陣地からアルシェに捕虜傭兵の引取りをさせ、ようやく再編成が完了した所だ。

レキ大公国軍は城門から出て、表に野営する形になっている。


……勿論宗主国に疑われない為の策だが。


「今日はサンドール軍がレイブンズクロウに入るんだっけ?」

「そうだ。……追撃戦でボロ負けしてるからな、ここらで勝利を内外に示したいだろ」


サンドール軍は傭兵王に対し追撃を行い、逆に散々に蹴散らされていた。

まあ、情報が漏れていたんだからそれも当然か。

それに持ち出された財宝の内、追いつかれそうな後方に存在していた物は全て罠。

欲に目が眩んだ指揮官が覗き込むたびに酷い目に遭っていたらしい。


……何処から情報が漏れてたって、そりゃあ俺からだがね。


まあ、そんな訳でサンドール軍はボロボロだ。

傭兵国家は全資金を持ったまま北部のアークの街に遷都。

一応領土は増やしたからサンドールの勝利とは言っているが、

残念ながらこの首都を占拠してもサンドールに得る物が無い事はほぼ間違い無い。

……ここには緑の大地があるが、作物すら全て持ち出された後だからだ。


「財宝は全て持ち出された後。町は元々廃都……食料すら得られん」

「……でも、水くらいは手に入るよ?」


「水は嵩張るからな。運んでいる荷駄を見逃す傭兵王か?」

「まさか。嬉々として狙うと思うよ?……その場でぶちまけるだろうけど」


そういう事だ。

延々と南へ水を運ばないとならないが、ここはまだ敵側に地の利がある。

そう考えるとサンドールはむしろ弱点を得てしまったに等しい。

……かといって、水の豊富なこの地を手放す訳にも行くまい。

非常に扱いの困る土地の出来上がりと言う訳だ。

まさしく鶏肋。食うほど肉は無いが味はある非常に始末におえない土地である。


「兄ちゃ?瀬戸物将軍が来たっぽいよ」

「判った……ってあまりそういう言い方はするなよ?」


瀬戸物=中身が空=能無し=セト。

そんなアリサのジョークに苦笑しつつ野営地を出てサンドール軍の隊列に向かう。

……将兵共に疲れきっているな。まあ、当然だが。


「大公か。……良く敵首都を落とした」

「ああ。敵の大軍が駐屯しててかなり苦戦した。しかも商都の連中がちょっかい出してきてな」


「何だと!?ちっ、あの連中め!」

「後ろで糸を引いてるのはサクリフェスだ。枢機卿が何とか言ってたしな」


敗戦で気が立っているのだろう。

折角俺が持ってきた資金も奪われた後だ。

この報告は冷静さを奪うのに十分だったようだな。

額に青筋浮いてるぞ?


「……許さんぞ連中め。この俺をコケにした代償はいずれ支払ってもらう……」

「取り合えず、何とか首都奪取は成った。入城してくれセト将軍。俺達は」


「お前たちは?」

「今回の戦いでの死者を弔っておく」


指差したのは戦死者の為に作った合同墓地だ。

……自軍の兵は一人も入っていないが、まあ、見ただけなら自軍の葬儀と勘違いするだろう。


「そうか。大義である。……ちっ、どうせ金目の物は残っていまいな……」

「葬儀が終わり次第俺達は帰還する」


「何!?駄目だ、お前たちにはこれから役立ってもらわねばならん!」

「……兵の消耗が激しくてな。それに物資が尽きそうだ。新兵の訓練にはまだ時間が掛かる」


「増援を寄越せんのか?!」

「指揮官が足りない。所詮は建国一年の小国だからな」


軽く顔を伏せてやると、向こうはムムムと喉から声を出す。

……自軍以外を養う物資など残って居まい。

つまり、俺たちをここに留めるのは難しいと理解せざるを得ないのだろう。


「……ちっ、では一度帰国を許可する。ただし」

「ああ。荷駄隊を再編成して後で物資を送らせてもらうさ」


「判っているなら良い」


苦虫を噛み潰したような顔のセト将軍に背を向けて、俺は隊列を後にした。

そしてその日の晩には全軍を引き上げさせる。


「ふう。軍勢が減っていないのに気付かれなくて良かったな」

「捕虜傭兵を軍に加えたから。って言う言い訳は用意していたけどねー」

「何にせよ、新兵に実戦経験も積ませたし、悪い結果じゃなかったんじゃないかな?」


今頃サンドールはおろかトレイディアも上から下まで大騒ぎだろう。

さて、厄介ごとが飛び火する前に帰らんとな。

……何せ、もうサンドールの尻拭いに来る気は無いから、な?


……。


そして……一月半ほどの時を経て、再びレキに帰りついた俺たちは約三ヶ月ぶりに城門を潜る。


最初に俺とアリサ達。

続いてアルシェ率いる傭兵隊三百。

更にレオ率いる守護隊五百と空になった荷駄隊が続く。

その後ろには、スケイルが金をばら撒き腕力を見せ付けて集めた夜盗約百名と魔物数百匹も。


結局一兵も失わず、むしろ数を増やして我がレキ大公国の初陣は終わったのである。


「先生。お疲れ様」

「父。帰ったか」

「主殿、策が成ったご様子。お疲れ様です」


「ぴー」

「コケー」「コッコッコッコ」

「「「「「ピヨピヨピヨ」」」」」


……なんか、こっちも増えてるが……まあ、気にしない方が良いか。

あれ?ふと気付いたが、そう言えば謎植物の数が少ないような?


「なあルン。カサカサ達は?」

「向こう」


指差された方角は壁の向こう。なので城壁に昇ってみる。

……何故かそこには林が広がっていた。


「「「ガサガサガサガサ!」」」

「「「「「「「カサカサカサカサ!」」」」」」」


「三ヶ月で増えた」

「……増えすぎじゃないのかこれは」


俺に気付いて木々が寄って来る。

城壁の下の辺りで何やらガサガサ音がしたかと思うと、

組み体操で木々が持ち上がり、俺の目の前にはリンゴが差し出された。


うん、懐かれてるって。慕われてるって気分が良いな?

そしてやっぱ数こそ力だ。そう思う。


……増える速度に関しては、もう考えないようにするか……。


***大陸動乱シナリオ3 完***

続く


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