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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 46 魔王な姫君
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/30 20:19
幻想立志転生伝

46

***レキ大公国のへっぽこな日常シナリオ1 魔王な姫君***

~いまだかつてこんなに悲惨極まりない魔王が居ただろうか、いや無い~


≪side カルマ≫

部屋の前からホルスの執務室、そしてロリコンの巣窟の前から食堂を通って兵舎の前へ。

そこから蟻ん娘どもの住み着いた大部屋を幾つか巡礼、更に城門前をうろつく。


……まだらしい。


仕方ないので大通りをうろうろ。

後ろを面白がって付いて来る子供たち(一部魔物)を追い払う余裕も無くうろうろ。

遂に外郭地帯の牧場地帯までたどり着いたので、苛立ちまぎれに鶏のつがいを引っつかむ。

そのまま市場までたどり着き、売り子の声を無視しつつ歩き続ける。

更に近くをうろついていたカサカサを小脇に抱え、城壁に上って叫んでみる。


「まだかああああああーーーーーっ!?」

「まだだと思うっす。つーかアニキ、落ち着くっす」


呆れたようなレオの声が聞こえるが取り合えず無視。

コケコケカサカサ、コケコケカサカサ……

両腕の辺りが騒がしいが取り合えず気にしない。


……そろそろ戻るか。

いつの間にか街の端まで来てたしな。

そしてまた、ウロウロしつつ城へと戻った。


……。


「戻られましたか主殿」

「うん。……しかし話には聞いていたが、この時ばかりは本当に手持ち無沙汰だな」


「父親なんてものはそんなものです」

「しかしまさか俺が出産待ちでウロウロする父親なんてものを演じる羽目になるとは……」


正直子供の頃は明日生きていられるかも自身が無かったもんだけどな。

人間変われば変わるもんだ。

……きっとこうしている内に産声が聞こえて……。


「あ、カルマ君?生まれたよ」

「え?産声は?」

「うにゃ?別に泣かなかったよー」


産声無しかい!

ま、仕方ないかもしれない。


『ぷぎゃ!?』

「赤ちゃん、しっかり!」

「お、お嬢様落ち着いて!?」


って、それどころじゃ無いっぽいぞこれ!?


「ルン、どうした!?子供に何かあったのか!?」

「泣かない、泣かないの!」

「ですから、産声が無くとも呼吸さえしっかりしていれば……」

『ち、父!?助けてたもれ!?母に殺される!』


異常な雰囲気に飲まれつつ部屋に飛び込む。

……そこで俺が見たものは。


「泣かなきゃ駄目!泣かなきゃ死んじゃうってお母様が!」

『痛い痛いイタイイタイ……!』


ピタンピタンピタンピタン……!


「ですから、お子様の呼吸はしっかりしているので……落ち着いてお嬢様ーっ!?」

「そうですよ!それにマナ様のお言葉を鵜呑みにされては……」


泣きながら我が子に往復びんたを食らわせ続けるルンの姿だったり。

……一体、何事!?


「早く、早く産声を上げて……死んじゃ、駄目!」

『うわあああああああん!母、やめて、もうやめたもれーーーーっ!?』


パンパンパンパン……ぴたっ、

あ、止まった。


「良かった……産声、あげた」

『ひん、ひん……生まれて早々酷い目にあったわ……』


涙を目に浮かべながら我が子を慈愛の目で見つめるルンと、

生まれて早々虚脱状態の赤ん坊が対照的だった。

……そう言えば、産声を上げない子は呼吸をしていないと言う事だから、

頬を張ったり口に手を入れたりして呼吸を開始させるとか昔聞いたような。

……なるほど、それを曲解するとこういう悲劇?も起こり得るのか……。


「まあ、何にしろようこそ現世へ、我が娘よ」

『うむ。……ちょっと待て……ふん!』


チビ助が全身に力を込めた……が、特に変化なし。

何をしたんだ?


「ようやく声帯が動いたわ。道理で現代語が使えんと思った」

「あー、今までのは半ば念話だった訳か」


「先生、この子普通に喋った」


ルンが目を丸くしている。

まあ当然か。……使えるのはまだ古代語だけだと思ってたろうしな。


「こんにちは赤ちゃん。私がママ」

「知っておる」


「え、と。この人があなたのお父様」

「それも知っておる」


「そしてこの人が」

「母その2だ。知っておる」

「嬉しいんだけど、何その言い方」


「それで、この子達が」


ごおっ、

突然風が横を過ぎる。壁の石が外れ、床と天井に穴が開いた。

……そう、あいつ等の降臨だ。


「やほー。あたし等が姉ちゃだよー」

「「「「「「こんにちは、です!」」」」」」

「「「「「「わーい、生まれたでありまーす!」」」」」」


「何をする貴様等ウボォアアアアアアッ?!」


群がる蟻ん娘。その数数十匹。

四方八方からぺたぺたと触っては悦に浸る。

……ある意味恐ろしい図だ。

大量の同じ顔。それに群がられてる本人の恐怖いかばかりか?


「ぎにゃああああああっ!?わらわは玩具では無いぞ!?」

「ぷに、ぷに、です」

「可愛いでありますねーっ!?」


……あれ?いつの間にかベビー服を着ている……。

まさかあのドタバタのドサクサで着せたのか?

恐るべき蟻ん娘どもだな。


「ねーねー……魔王ちゃん?」

「何だ貴様等は!?」


あら?アリサの目がいきなりマジになった。何故?


『前世の貴様のお陰で我が一族は滅びかけた。その恨み、弄り倒す事で晴らす故覚悟せりゃ?』

「アリサ、じょーだんは、だめです」

「もう家族なんだから、もちつくでありますよ」


「あ……そだよねー。にふふふふ、あたしが姉ちゃだよー?懐けー、敬えー」

「その声……貴様!まさかクイーン!?何でこんな所でそんな姿に!?」


「おかーさんの声真似したら流石に気付くよねー……ただ……」


めきっとな。

おおー、これは凄まじいアイアンクロー。

頭を随分凄まじい勢いで掴まれてるな……。


「アリサだよー。姉ちゃだよー…………わかった?」

「イタタタタタタタッ!?わ、判ったから離せ!……って目ぇええええっ!?こ、怖っ!」


なんだろう。今、見てはいけないものを見てしまったような?

……いいや、忘れよう。

怒りのままに双眸を見開くアリサなんてそうそう見る機会などある訳も無いからな。


「はぁ、はぁ、危なく生まれたばかりで死ぬ所だったわ」

「はぁはぁ……ふらつく姫様もカワユスですよハイ……」


「ひ、ひいいいいいいいっ!?今度は何だ!?こやつは一体!?気味が悪いぞ!」

「ルイスと、申します。姫様にはご機嫌、ごくっ。麗しゅう、ハイ」


おおっ、明らかに背筋を震わせてる。

魔王すら怯えさせるとは、恐るべしルイス教授。

……と、取り合えずあのロリコンは部屋から叩き出しておくか。


てりゃ。


「ああ、後生です、後生ですからせめて室内に入れてくださいですハイ!」

「黙れ変態。娘が怯えてるだろうが」


「せめて匂いをををををーーーーーー…………」

「そこまで言われて部屋に入れられるかよ!?」


蹴りだされる勢いのままルイスが転がっていく。

……頼むから紳士のままで居てくれ。


「……この家は魔界か何かなのか!?怪しい輩が多すぎるぞ!?」

「いや、僕はまおちゃんも大概に怪しいと思うけどな。」


チビ魔王が悲鳴のような叫びを上げるが、

そのほっぺたをつんつんとしながらアルシェが案外酷い事を言う。

まあ、生まれたばかりの赤ん坊の行動ではないわな。


……あ、ルンがアルシェの袖を掴んだ。


「アルシェ。なんでまおちゃん?」

「いや、魔王だし」


……ピシッ


「ま、お、う?」

「うん。魔王の生まれ変わりらしいよ」

「ちょ、アルシェ!?」


言っちまったよ!

どうすんだ!?ルン、心の準備できてるのか!?

……て言うか……。


「カルマ君。どうせすぐばれるもん、ここで言っておいたほうが」

「いや、それどころじゃ……ルン、落ち着け!」

「まおう?……魔王!?……先生、ごめんなさい……この子に罪は無いから……!」


ザシュッ、とな。

……って言ってる場合じゃないーーーーっ!?


「母ーーーっ!?いきなりリストカットとは一体ーーーーっ!?」

「ルンちゃん!?手馴れすぎだよどうしてーーーーっ!?」


え、え、え……衛生兵ーーーーーっ!

至急止血をーーーーーーーーっ!


「って言うか、俺がやれば良いんじゃないか!」

「ルンちゃん!ごめんね、考え無しの僕でごめんねーーーっ!?」

「今までわらわが殺されたり無理心中はあったが……こんな展開は知らん、知らんぞ!?」


「姉ちゃ!早まっちゃ駄目ーーーーっ!」

「しけつ、です!」

「メイドさん達も気絶してる場合じゃないでありますよーっ!?」


ルンよ……責任感じる必要は無いから、とりあえず自殺はやめてくれ……。

後、自殺用のナイフを何時も隠し持ってるのか?それも止めて欲しい所なんだけど。


『痛みは失われ再生の時を迎えん事を祈る。砕けた肉体よ再び元へ。発動せよ治癒の力!』


……よし、止血完了。

これで命の心配は無いはずだ。


「せんせぇ……ごめんね、ごめんね……」

「いや、別にお前は悪く無いだろ。だから泣くな」


「でも、でも、赤ちゃんだけは……」

「心配するな。全て覚悟済みだ。だから無茶するな、な?」


「責任……」

「要らないから。むしろ最後まで生きて責任とらにゃならんだろ常識的に……」


「あ、ありが、とう……」

「うんうん、今まで黙っててゴメンなルン……」


ふう、ようやく落ち着いたようだな。

ナイフもどこかにしまった様だし一安心だ。

……と言う事にしておく。


何せ次の予定も詰まっているのだ。


「さて取り合えず、お前にも名前が必要だな」

「ハゲ以外で」


まあそりゃそうだ。

……でもな。お前の名前は生まれる前から決まってるんだよ。

俺に決める権利は無いと思うんだ今回ばかりは。


「と言う訳で……ルン、言ってやれ」

「貴方の名前はルーンハイム。ルーンハイム14世。代々続くその名、受け取って」

「ルーンハイム=フォーティーン、か……はて、何処かで聞いたような?」


「母親の略称がルンだからお前の略称はハイムって事で」

「魔王ハイムか。まあ悪く無い」


……しかし威厳に欠けるか。しかもその名は勇者の名だぞ?

それに家の娘が自分の名前で魔王を名乗られるのも少し、な。


うーん。ならこんなのはどうだろう?


「魔王にしてはハイムは可愛すぎるな。ちょっともじってハインフォーティンなんてどうだ?」

「……宜しい。では魔王としてのわらわは今後、魔王ハインフォーティンと名乗ろうぞ!」


心底ほっとした様子で娘……ハイムが言う。

いや、流石に女の子にハゲチャビンなんて名前は付けないから。

何せ今まで馬鹿な事しなかったし。一応。


ん?どうした、いきなりプルプル震えたりして。


「って、ちがーう!わらわは魔王ぞ!?」

「知ってる」


「何故恐れぬ!?」

「いや、どうみてもちっちゃ可愛いし」


生まれながらに青い髪を足元まで垂らしているが、

実に顔立ちが整っている。

……ルンもマナさんも、いやマナリア全般でそうなんだけど、

このままアニメとかゲームとかに出ててもおかしくない位だ。


……ふと気付いた。

今まで気付かないようにしていた事を含め気付いてしまった。


「ちょっと髪が邪魔だな。……よし、これでツインテール完成」

「うむ。これならあまり邪魔にならんか」


「よし、娘よ。ロイツマ辺りでも歌ってくれ」

「……何だそれは?」


……ですよねー。

見た目は色違いの電子歌姫、しかもSD入ってるような感じだが、

当たり前だけど当人な訳は無いんだよなこれが。


……と言うかルーンハイム家の遺伝子はどうなっているんだ!?

性格はともかく容姿は無口無表情系ヒロインのテンプレが代々続いていた。

……かと思えば今度はこれだ。

全く遺伝子情報に統一感を感じる事が出来ない。

一体どうやったらこんな無茶な系譜が出来上がるんだか……。


まあ、理由は判らないがそれで良いのかも知れないな。

ただ、あの国の人間は何処かで見たような見た目ばかりなんだと理解できれば良いんだ。


ま、この世界自体が何処かおかしいのかも知れん。

あまり考えない方が精神衛生上良いかも知れないな。

……どうせ禄でもない裏事情があるに違いないだろうし。


「ろ、ろいつまー。ろいつまー、ろいつまー?」

「いや、判らないなら無理しなくて良いから」


取り合えず、後で葱でも持ってきてみよう。

きっと無駄に似合う筈だし。


……。


まあ、そんな訳でドタバタしたもののレキ大公国第一公女誕生と相成った訳だ。

生まれたばかりの娘を抱きかかえると、取り合えずお披露目の為二階のテラスへと向かう俺。


「はーなーせー」

「まあ、ちょっと待ってろ」


「おのれ父め。もう少ししたら魔力の生成が始まる。そうすれば父など……」

「判った。判った。……取り合えずお披露目中は静かにしてろよ?」


「む。お披露目とはなんだ?」


答える必要は感じない。

……暗い通路を抜け、光の下へ。

そこには。


「レキ大公国大公、カール=M=ニーチャ殿下、及び公女殿下、おなーりー」


「主殿、お疲れ様です。……姫様初めまして、私はホルスと申します」

「同じくハピです」

「はぁはぁ……姫様かぁいいですよ姫様はぁはぁ……ハイぃぃぃっ!」

「「「「「生まれたばかりで既に完成された芸術です!スバラシィィィィ!」」」」」


テラスの上には文武百官が列を成し、

そして下には城の前の広場に集まった群集、群集、群集……。

その熱狂は凄まじく、二階のここまで圧力を感じているかのように錯覚するほどだった。


「…………えーと。これは何だ?」

「ホルス。説明してやれ」

「姫様のお目見えを楽しみに待っていた民達ですよ」


「姫?民?」

「姫様はレキ大公国の第一公女殿下であらせられます」


……呆。

そして、


「えええええええええええええええええええええええええっ!?」

「皆、本日我が国に新しい命が誕生した。名はルーンハイム14世!」


奇声を上げる娘を尻目に、俺の話が始まると共に静まり返る群集たち。


「マナリア王家とも所縁のあるこの娘は、世界最強の魔道師となる才を持って生まれてきた!」


おおっ。

と、ざわめくような声が重く響く。


「讃えよ!俺達はもっと強くなる!俺達はもっと豊かになる!」

「レキ大公国、万歳!」

「「「「「「「「「「「「「「「万歳!」」」」」」」」」」」」」」」


根拠を示さない煽り文句だが、この国の人間の受けは良い。

……まあ、こういうのも必要ってことで。

それと、ついでに嬉しい話題を提供しておくか。


「なお!この祝いに本日の晩の食料配給には色を付ける!楽しみにしておけ!」

「「「「「「おおーっ!」」」」」」


おお、喜んでる喜んでる。

……因みにこの国には他国では思いつく訳も無い特殊な法律があり、

忠誠を誓った国民には貴賎の区別無く毎日二回の食糧配給の制度があるのだ。


無論最低限でありそれ以上が欲しくば働く他無いが、

万一働きたくとも働けない場合に備え、職が無くとも生きていく事は出来る体制を作った訳だ。

それと、これまた着替えと住居も最低レベルは無料で与えられる。


衣食住の最低限は国家が保障する。

だがそれ以上が欲しくばそれ相応の働きをせねばならない。

これがこの国の国是と言う訳だ。

……俺の子供の頃の経験がこんな事をさせているのは、まあ間違い無いがな?


なお……これは保険とか年金の概念の無い世界故の苦肉の策だが、

やってみるとこれが意外と上手く行っている。

他人が良い暮らしをしているのを見ると奮起するのか、意外とサボる人間が多くないのだ。

……万一の際の非常手段は用意していたが使わなくて済んで幸いだったと思う。


おや?ハイムどうした?

固まって。


「いやいやいやいやいや……ここは何処だ?」

「レキ大公国」


「レキ。……レキは不毛地帯だぞ?」

「そうだな。正に荒野だ」


「何でそんな所に国があるのだーーーーッ!?」

「一から作ったから」


ありえないと言いつつ人の腕の中でパタパタと七転八倒する娘を生暖かい目で見つめつつ、

眼下の皆に手を振っておく。

……下からは赤ん坊がむずがっているようにしか見えないのだろう。

向こうも手を振り返してきていた。

それに応え俺はまた手を振る。


そんな事を何回か繰り返した頃、

アリサが俺の足元に走り寄ってきた。


「兄ちゃ?そろそろ時間だよー」

「ん?そうか……時間か」


「じゃあルンの所に戻るかハイム?」

「……ぽかーん」

「はーちゃんには刺激が強すぎたっぽいねー」


腕には放心して固まったままの娘を抱き、背中には妹を乗せつつ奥へと向かう。


ハイムの生まれたばかりの頭には刺激が強すぎたのだろう。

完全に硬直し口をポカーンと開いたまま白目を剥いて固まっている。

……本当に大丈夫だろうか?


「大丈夫。だって魔王だし」

「そうか。魔王だしな」


うん。魔王なら問題ない。

と、根拠の無い自信と共に俺達は薄暗い廊下を行く。


「因みに次の予定はどうなっている?」

「んー。夕ご飯まで空いてるよー」


「そうか……じゃあ暫くハイムはルンに愛でられていろ」

「そだねー。ルン姉ちゃ、きっとワクテカしながら待ってるよー」


「……お、お断りだぁあああああああーーーーっ!」


あ、赤ん坊が空飛んで逃げた。

……そして窓の外に出た辺りで力尽きて……落ちた。


「……だい、じょうぶなのか?」

「大丈夫だよー。後で迎えに行けばOK」


そう言ってる間にもアリシア数匹が凄まじい勢いで窓の外にかっとんで行く。

……コイツ等も心配なのだ。

まあ、蟻ん娘が付いてるなら問題は無かろう。


「じゃあ、溜まってる書類片付け次第迎えに行くか……」

「……考えないようにしてたんだけど……やるしかないかー……」


こうして俺達は慶事があろうが増える事はあっても減る事は無い書類の山に立ち向かう。

……恐ろしい事だがこれでも文官団が半分以下に減らしてくれてるってんだから驚きだ……。


「山ーーーーっ!?」


言うな、妹よ。

……泣きたくなるから。


……。


さて、それから数時間。

夕方に入ろうかと言う時間帯になる頃、俺たちの書類はひとまず片付いた。

そんな訳で産後すぐで動けないルンに留守を任せて娘の迎えに向かっている。

因みにお供はアリス。……アリサは仕事疲れで目を回し、泡を吹いて寝ていた。


「……で?あの子は何処だアリス」

「あそこの広場で何人かと遊んでるようであります」


おお、居た居た。

何人かの子供たちと上手く打ち解けたようだな。

……俺の子供時代とは大違いだ。


「ふははははははは!わらわこそ魔王ぞ!」

「じゃあ僕、勇者アクセリオン!」

「くろすだいしきょう、やるー」

「えー、俺が傭兵王かよ?」

「じゃあ、私は戦士ゴウをやるね」


……勇者ごっこか?なんともまあハマリ役だ。

ただし、魔王が負ける余地が無い気もするがな。


「む?お前は紅一点。それ故マナをやるべきではないのか?」

「え!?……や、やだぁ……ふええええええん!」

「あー、姫様泣かせたーっ!」

「あーあ。酷いんだー!」


「な!?……わらわが悪いのか!?」

「だってコイツの家、マナリアから夜逃げしたんだぜ?」

「当の勇者様に店を潰されたんだってさ」

「お父さん達は、マナ様は悪く無いって言うけど……ううっ……ぴえーん!」


……なんて言うか、いたたまれない。

この場にルンが居なくて本当に良かったと思う。


「うう、わ、判った!ならばゴウで良い!さあ、かかってたもれ!」

「ひいいいん……え?……あ、うん。ありがとうお姫様……」

「よぉし、じゃあ気を取り直して始めようぜ!」

「まって、僕の絵本をそこに置いて来るから」


……アクセリオン役の男の子が"ごだいゆうしゅのたたかい"と書かれた絵本を道端に置いた。

どうやらそういう本が出回っているらしい。


「魔法の一つも書いて無いかな?」

「さあ?取り合えず今度の遊びが終わった辺りで話しかけて連れ戻すであります」


どれ、少し見せてもらうか?

ふんふん。


昔、魔王が現れて人々は大弱り。

そこで魔王のお城に選ばれし五人の勇者が攻め込みました。


「やあやあ、われこそは勇者アクセリオン。きゅうめいけんを受けてみろ!」

「何と小癪なぁっ!わらわの魔力の前に跪くがよいわっ!」


……ノリノリだなハイム。相手は殆ど棒読みだぞ?

えーと、次は……と。

ヲイヲイ!マナさん、開幕で腹内崩壊使ったのかよ!?


……取り合えず今日は役が居ないから飛ばすみたいだが。


「ええい、先ずは足を潰すんだよ」

「ちっ、ゴウめ……左膝ばかり狙いおって……ああ、そうだったな。思い出したわ」


戦士ゴウは執拗に魔王の左膝を狙って攻撃を繰り返した。

そして、反撃で壁に叩きつけられる頃には流石の魔王も片膝を付かざるを得なかった訳か。

……有効だがえげつないな。

膝立ちでは有効な打撃は最早期待できないし、回避力も激減だ。


「へっへっへ、俺様も行くぜ!」

「貴様など、障害になりえぬ!」


「ところがどっこいまだ死なないぜ!」

「何度来ても同じ事だ!」


「でもまだ行くぜ、何せ俺様不死身なんだ!」

「……本人もこうだったのう……」


傭兵王は……うわっ、被害担当かよ!?

魔王に数十回消し飛ばされ、それでもその度謎の復活……。

魔王はいつの間にか体力気力を使い果たしていた訳だな。

……この辺でマナさんは気絶、と。


「ふはは、幾ら強いといってもそんなものか!」

「わたくしたちだけではそうかもしれませんが、あまたのえいれいがたすけてくれます」


……現在目の前では近くに居る全員でワラワラーっという感じで動いているが、

実際は使徒兵を突入させたんだな?

魔王一人に群がる人の波……冷静に考えると酷い最終決戦だな……。

例え一対四でも卑怯。と言う意見もあるというのに。


「隙あり、赤い一撃をくらえ……だっけ?」

「うむ。ただし唐辛子は本当に使うなよ?鼻に突っ込んだら殺すぞ?」


「商都の聡き兵さん……なんつー戦い方だよ……」

「にいちゃ、こう言う所が似たんでありますね?」


「誰にだ?」

「気付いて無いなら別に良いのであります」


歯切れが悪いな……まあ良いが。

さて、続きはどうなった?

ちょっと先が気になってきたんだけど。


「うがあああああ。苦しいいいいい」

「よし、魔王は弱ったぞ!ここで一斉攻撃だ」

「俺様はかまわないぜぃ」

「わたくしも、おともします」

「私、じゃなくて俺は皆に合わせて援護するぞ!」


そして全員がいっせいに魔王に攻撃を仕掛けた訳か。

これが魔王討伐の顛末って事らしい。

……と言うかこの絵本かなりメジャーな奴みたいだな。表紙を見たことあるぞ。

もしかして知らない俺が異常なのか?


「うわあああ、だが呪ってやる。そしてわらわは必ず蘇るぞ!……このようにな」

「「「「魔王を倒したぞー」」」」


……何処まで本当かは良く判らんが、驚いたのは魔王本人がこんな遊びに付き合って、

なおかつ負けてやっているという事である。


「……ハイム?飯の時間だぞ」

「うむ。では僕どもよ、わらわは帰るからな」

「「「「大公様、姫様。バイバーイ」」」」


俺が声をかけると子供たちは蜘蛛の子を散らすように帰っていく。

実に夕日に映える、平和な一日のひとコマだ。

……手を振っているのが魔王本人だという事を除けば。


「意外と度量は大きいのな?普通なら自分が殺された場面など認められないだろ」

「奴等は勇者本人では無いからの。それにわらわに忠誠を誓うと言われては無碍に出来ぬ」


そう言ってハイムが指差した方角では、見事に城壁に穴が空いていた。

蟻ん娘が指揮を取り、既に修理が開始されているがな。

……何をしでかしたんだコイツは。


「魔力弾頭(マジックミサイル)のスペルだ。わらわにとっては通常攻撃のような物だな」

「……何でそんな事を」


「うむ。魔王だといっても信じんのでな。……一応人間の居ない所を狙ったからな?」

「人の居る所を狙ってたら誕生当日でもお尻百叩きの刑だったぞ」


あ、笑顔のまま凍りついた。


「何度も言うが父よ、貴様は魔王を何だと思ってる?」

「お前は俺の娘だ。魔王だろうが何だろうがそれだけは変わらん」


「……馬鹿にしおって」

「いいや、愛でてるだけだ」


頭をくしゃくしゃにしながら城へと向かう。

……ん?どうしたプルプル震えたりして。


「ええーい!わらわを馬鹿にするなぁっ!表に出ろおおおおっ!」

「……何処に行く気だ!?もう飯だぞハイム!」


「知ったことかああああああっ!」


腕の中の体がスポーンと飛び出し城壁の更に外側まで吹っ飛んでいく。

そしてあっという間に小さな点になってしまった。

放っても置けないのでそのまま追いかけておく。

しかし……飛ぶのに詠唱も必要ないのか。流石は魔王。


「アリス、飯は少し遅れそうだ。皆に伝えておいてくれ」

「あいあいさー、であります」


……。


強力をかけ追跡する事10分ほど。

……丘の上に仁王立ちするベビー服の赤ん坊と言う不思議な存在を見つけた。


「こんなとこまで来てどうするつもりだ?」

「わらわを馬鹿にするからだ!父よ、見てたもれ!これが魔王の魔王たる証よ!」


両腕を突き上げ詠唱を開始した?

……しかしちっちゃいから可愛い部分が先に立つな。

うん。荒ぶるまおーのポーズと名づけよう。


『正規術式起動。魔王戦闘形態第二段階に移行。外装骨格展開……変身!(トランスファー)』

「これは!?」


……正直、生まれたばかりの相手だと舐めていた事は認める。

だが、それを見てまだ相手を舐めてかかれる奴が居るのなら見てみたいものだ。


「ふははははは!肉体的な脆弱さを補う手段くらい用意してあるのだ!恐れよ!崇めよ!」

「RPGのラスボス第二形態みたいなもんか!?」


詠唱と共に雷が魔王の背後に落ちる。

……そして、気が付くとそこには全高10mは下らない大男が立っていた。

青い肌、角の付いたゴツイ顔。豪奢なマントを纏い、腕を組んでいる。

まさしく魔王だ。ビキニパンツは流石にどうかと思うが、確かに魔王としか言いようが無い!


「ふははははは!これぞ魔王の特権、外装骨格だ!……ちょっと待て、今乗り込むから」

「……操縦式か」


ここで先制攻撃を加えても良いのだが、

必死によじ登り鼻の穴から内部に侵入しようともがく愛娘の姿を脳裏に焼き付けるのに忙しい。


「おーい、気をつけろよー」

「わ、わかっておるわ、うわっ!?」


何度か落っこちそうになりながら、ようやく頭部にあると思しき操縦席に辿り付いたのだろう。

魔王(大)の目に光が灯る。


『ふはは、待たせたな父!まだ赤ん坊ゆえ真の力には程遠いが、父を殺すなど造作も無いぞ!』

『召喚・炎の吐息(コール・ファイブレス)』


高笑いを続けるハイムには悪いが、ここいらで天狗の鼻を叩き折らせて貰うか。

……さて、魔王と竜ではどっちが強いのかね?


『試した事は無いな。だが、今の魔王に負ける我が身では無い』

「そうか。まあ試してみるかね?」

『いやいやいやいやいやいや、何だこの展開は?』


向かい合う赤い竜と魔王の巨体。そして俺は竜の頭の上に立っている。

……ノリは殆ど怪獣大決戦だ。

魔王の目の部分の裏側に張り付いて、ハイムが呆然としているのが良く判る。


「ハイム。そんなにべったりガラスに張り付いても何も出ないぞ?」

「いやいやいやいや、父。ちょっと待ってたもれ」


「何だ?」

「なんでファイブレスの頭に乗っている?」


べったりと魔王の目の部分に内側から張り付いたままのハイムが心底困り果てたように言う。

とは言え、困るのはこっちも同じだ。何て答えれば良いのやら?


「いや、だって……アイツの心臓は俺のだし」

「……は?」


「レキ大公カール=M=ニーチャ……またの名を戦竜公……それが俺だ」

「まさか……食ったのか!?竜を、食ったのか!?」


『当たらずとも遠からず、だな。久しいな魔王よ』

「ファイブレス!貴様、誇り高き竜ともあろう者が人間なぞの下僕と成り下がったのか!?」


ヒートアップしている所悪いが……取り合えず飛び蹴り!

張り付いている窓目掛けて全体重を叩きつけるとその衝撃でハイムが後ろに倒れた。


「ぐぎゃっ!?」

「窓に張り付いているからだ。最大の弱点である自分自身は最後まで隠しておくべきだったな」

『実の娘に対しても容赦無いなお前は……』


……いや、まあ何でか知らんが妙に腹が立つ物言いだったんでな。

ハイムは……あ、鼻の頭を両手で押さえてるか。


「言っとくけどな。ファイブレスには選択肢なんか無かったんだよ……罵るなら俺だけにしろ」

『……気にするな。意識を残している事自体が我が未練。なんと言われようが止むをえぬ』

「人間と竜が友情ごっこか!?ふ、ふ、ふ……ふざけるなああああっ!」


魔王がその丸太では済まないような太い腕を振り回す。

最早語るべき事など無いと言った風だ。


「一度天狗の鼻をへし折らないと現実も見えないか……ハイム、ちょっと痛むが我慢しろよ!」

『止むを得んな……魔王よ、時代が変わってしまったのだ。それに早く気付くが良い』


今や俺とファイブレスは二つの体を持つこともある、ひとつの個と言っても良い。

竜とは強力な種族だ。だがそれ故に精進すると言う感覚に欠ける。

人は脆弱だがそれ故に様々な方策を駆使し、己の力を底上げしようともがく。

……古来よりその努力と策略により、人は己より遥かに強力な物をひとつずつねじ伏せてきた。

月並みな話だ。けれど竜殺しの逸話、と言う物が存在しうるのはそのためである。


「人の策謀と」『竜の力』

「食らえええええい!」


「『その二つの合わさった我等の戦いを見ろ魔王!』」

「それがどうした!絶対の力、それこそが魔王!どんな罠も、力づくで、食い破ってやるわ!」


……衝撃、そして土煙が周囲を覆う。

魔王の両腕と竜の突進が激突した、その結末は……。


「ふは、ふははははははは!どうだ?堕落した貴様等などには、負けぬ!」

『ふむ……生まれたばかりだと言うのに……更に力が上がっておらぬか?』


空中を舞い、地面に叩き付けられたのは竜のほうであった。

とは言え余裕で起き上がる。ダメージは殆ど無いといっても良い。

そして魔王はと言うと、軽くよろめきながらも辛うじて膝を付かずに再び構えを取る。

こちらもまだ余裕だ。


「ふはははははは!わらわは、わらわは使命を捨てぬ!諦めぬ!」

「うんうん。偉いぞハイム。可愛いぞハイム」


「え?」

「よぉ。我が娘よ」


……魔王外装骨格の内部で高笑いを続けるハイムに対し、後ろから肩に手を乗せる。

うん、つまり予定通りって事だ。


「なん、だと?」

「乗り込む所を見られたのは失策だったな。鼻から入れるなら俺も入れるだろ?」


ここは外装骨格内部。要するに、操縦席って奴だ。

さっきの激突の瞬間、加速をかけて内部に侵入した訳だな。


「いやいやいやいや……」

「うりゃ、ほっぺたぷにぷにぷに……」


で、現在チビ魔王はチェックメイト食らってると言う訳。

冷や汗だらだらと垂らしても、今更遅いぞ我が娘よ?


「じゃ、お仕置きな?」

『やりすぎるなよ』


「……ちょ、ま、待てええええええええいっ!?」


……。


こうして、荒野には空っぽになった魔王の外装骨格のみが残され、


「ひぃぃぃん……誕生初日にお尻百叩き……酷すぎる……酷すぎるぞ……」

「はいはい」


蟻ん娘の群れに運ばれるハイムは、誕生早々尻百叩きの刑に処されたと言う訳だ。

……いやあ、これぐらいで済んでよかった。

下手に怪我人でも出たら、文字通りお灸でも据えてやらねばならない所だったからな。


現在は腫れ上がったお尻を濡れタオルで冷やしている。

これで大人しくなってくれれば良いんだが。


「しくしくしくしく……わらわは、わらわは真面目に成すべき事をしているだけなのに……」

「まあ、お父ちゃんも手伝うからせめてこの国では大人しくしておけ」


「手伝える訳無いだろうに!じゃあ何か?マナリアの宰相を殺してくれるのか?」

『もう殺した後だ』


「……じゃあ、勇者の誰かを」

「ビリーなら何回も殺してる。それとクロスは失脚させて現在行方不明だ」


「えーと。人としてそれで良いのか?」

「どうせ世界の敵だし?」

『因みに要らぬ魔法そのものを破壊する術式を組み上げよったぞこ奴』


……うつ伏せ状態だったハイムがピョコッと顔を上げた。


「は?」

「要するに、だ。魔法の管理で術者を殺す必要は必ずしも無いと言う事」

『既に幾つかの不要術式の解体を完了している。はっきり言うと我等より仕事しておるぞ』


「……」

『我等竜から"戦竜"の称号も与えられた最も新しい管理者の一柱だよお前の父親は』


こてん、と音がしてハイムの顔が地面とぶつかる。

……そして顔の周囲には水溜り。


「ううううう……何だそれは?わらわの必死さは何だったと言うのだ?誰か教えてたもれ……」

「「「「むだ、です」」」」

「「「「管理ツールを作ると言う考え方が足りなかったでありますね!」」」」

『まあ、今後は楽に仕事が進むさ。我が身としてもこれなら使命に復帰できると言うもの』


「そういう事だ……お前一人に苦労はさせんから少しは子供らしくしてて良いんだぞ?」

「……とりあえず、だ。グーで殴らせろ、父」


痛。

……飛び上がって竜馬の上に跨る俺を殴ると、ハイムはそのまま俺の後頭部に着地した。

所謂肩車と言う奴だな。


「……父、頼みがある。腹内崩壊という魔法があるが、問答無用で破壊してたもれ」


「もうやってる」

「……そうか」


今度こそ黙りこんでしまった娘を肩車したまま、夕日をバックに城へと帰還する。

そして、赤ん坊を泥だらけにしてどうすると皆から怒られる俺なのであった。

……お後が宜しいようで。


……。


≪side 魔王ハインフォーティン≫


……夜中目が覚める。ここは寝室だ。横で両親が寝ている。

そして天井に小さな隙間があり、そこから何かがこっちを見ていた。

まあ、害は無いから放っておくが。


さて、赤ん坊の身ゆえすぐに腹が空くのは仕方ない。

よって、わらわは晩飯の残り物をあさろうと考えた。


「……なにせ、豪華な晩飯だったが一口も食わせてもらえなんだからな」

「お腹空いた?」


「うむ!およそ30年ぶりにまともな食事がしたいのだ。……母!?」

「はい、どうぞ」


「いや。もう乳は良い……腹に溜まる物を食わせてたもれ……」

「まだ早い。お腹壊す」


「壊さんわ!なあ母、頼む。哀れな魔王を助けると思って……」

「いっぱい飲んで早く大きく」


「人の話を聞かんかーーーーい!」


しくしく……止むをえないので母に吸い付く。

……母乳で育てると言うのは王侯貴族では珍しいし愛情も感じるのは確かだ。

けどな?こちらは自我もしっかりしておるのだ。

それに他ならぬ母の作った料理は大層美味そうに見えた。

……それを尻目に乳以外口を付けられぬのは拷問以外の何物でも無いわ!

頼む!あの香辛料のたっぷりとまぶされた肉の厚焼きだけで良いから!

ひとくち、一口で良いから食わせてたもれ……。


後は父!うらやましそうにこっちを見るでない!

交代して欲しいのはこっちの方だぞ!?


……それとクイーン!天井裏からこっちを見るな!ニヤ付くな!

無様なのは百も承知だ……うう、何なのだこれは。

わらわの予定としては今頃不気味がられて捨てられてるか、

殺されかかった所を返り討ちにしている筈だったのだが……。


「あ、まおちゃん。いや、はーちゃんか。……お腹いっぱいかな?」

「味気ないが膨らむ事は膨らんだ」


「じゃあ今度は僕が子守唄歌ってあげる。おいでー」

「……もういい。好きにせよ……」


魔王を屁とも思わぬ不思議な国。

わらわが新たに生まれてきたのは、そんな異様極まりない国であった。


ただ、何なのだろうな?この妙な心地よさは……。


「ぴー」

「こら、噛むな」


それと何で竜の子供が住み着いておるのだこの城には!?

て言うか痛いイタイイタイ……!

わらわは食い物ではないのだぞアイブレス!?


『……ところで天井裏のアリサ。コンダクターと連絡は取れたか?』

『条件面までバッチリだよー。これで大体準備は出来たねー』


「ホルスは気を使ってくれているが、まあ、こっちで準備するのは勝手だよな?」

「OKOK。基本戦略が決まったし当のホルスには伝えとくねー」


「頼む。ホルスには負担ばかりかけてるからな。たまには楽をさせてやらんと」

「うにゃ。結構喜んでやってる節もあるけどねー?結構天職なのかも」


父は父で何やら怪しげな策を練っておるし……。


「ガサガサガサガサ」

「カサカサカサカサ」


植木は動くし!


「ゴクリ。……はぁはぁはぁはぁ」

「「「「はぁはぁはぁはぁ」」」」


部屋の隅で変態が鼻血垂らしておるし!

と言うか奴等は何故室内に居る!?

父よ、奴等を消したもれ!


「まあ、今日だけだって懇願されたからな」

「嫌じゃ。あ奴らは気味が悪過ぎる……」


『まあ、諦めるべきだ。子は親を選べん』

「やかましいわ!飼いならされおってファイブレス!……じゃない?」


部屋の戸が少し開き、外側から何かが顔を覗かせておる?

……見覚えがあるぞあのリザードマンには!


『緑燐族族長、スケイル推参』

「おお!久しいな……いやマテ、何で貴様がここにおる?」


『貴方の父親は俺の弟子でもある』

「……もう驚かんぞ。もう驚いてやるものか……」


もういい、取り合えず寝る。

……これは悪夢か何かだ。

目を覚ませば、きっと……。


「むり、です」

「どうせ起きた時にあたし等が集まってて"夢じゃないーっ"て嘆くのがオチでありますよ?」


……オチまで潰されたああああああああっ!


もういい。本当にいい。何もかも忘れて現実逃避だ。

あー。母その2の腕の中は暖かいなー……。


「「コケー」」


「ハイラル、コホリン……うう。わらわの味方はお前たちだけだ……頼りにしておるぞ……」

「あれ?はーちゃん、そのニワトリ。カルマ君が小脇に抱えて持ってきた奴だよね」


「……新生魔王軍団の最初の兵だ。わらわがそう決めた」

「そっか。良かったね?じゃ、そろそろ寝ようね」


本当に良いのか!?……後で魔法で強化してやるのだが。

まあいい。取り合えず二羽はあの変態どもの頭頂部に配置しておく。

……変態どもは何故か喜んでいるが絶対に声はかけてやらんぞ。


「しかしカオスだよねー?この部屋」

「言うなクイーン」


因みに……朝起きたら折角の配下に顔面をつつかれていた。

……わらわは、不幸だ……。


***レキ大公国のへっぽこな日常シナリオ1 完***

続く


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