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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 45 平穏
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/30 20:17
幻想立志転生伝

45

***大陸動乱シナリオ2 平穏***

~動乱大陸で唯一平和だった国~


≪side カルマ(カール大公モード)≫


「カール=M=ニーチャ大公殿下のおなーりー」

「いや、そんな畏まらなくて良いから……」


俺がレキ大公国大公なんてものになってから早一ヶ月。

先日遂に結婚式も行われ、

国がはじまって最初の大イベントだと大いに盛り上がったのは記憶に新しい。


だが、その日の晩……12時を回った深夜に事件は起こった。


『ふははははは!……わらわは、ここに、蘇り!我こそ魔王!魔力の王にして管理者なり!』


魔王復活。

それも俺の子として今まさにルンの腹の中で細胞分裂を繰り返しているようなのである。

しかもよりによって娘ですか。

母親の腹の中から偉そうに吼えてるだけだから実害は無いが、

正直ぶん殴ってやりたいのにそれも出来ず色々とストレスが溜まる。

その上、


「……早く大きくなって」

『よいのか母?わらわはマナリアだけは確実に滅ぼすぞ?』


「せんせぇ……この子、言葉に反応した……」

「…………嬉しそうだな、ルン」


「幸せな、家庭……もうすぐ」

『……後10か月だ。まあ首を洗って待っておれ』


……ルンが幸せそうでもう何と言うか、言い辛い……。

今までろくな目に遭わなかったからな。

これで我が子が魔王だなんて知ったらどうなるか判らんぞ?


「幸せ……夢みたい」

「覚めなきゃ良いな。……良い夢なら」


夢見心地が悪夢に変わる、か。

本当に運が無いよなコイツ……どうしてやれば良いんだ俺は。


「妹分ゲット!あたしと一緒に遊ぶんだよー!」

「おどるです、それ」

「あ、それ、それ、それ。であります!」


『俺たち緑鱗族の未来も明るいか』

『偉大なる管理者の復活だ。アイブレスの事も含め今年は慶事が続くものだ』

「ぴー♪」


人外連中は顔をニヤケさせてるし。

……ああもう、頭痛ぇ。


「……と言う訳で10ヵ月後に魔王が復活する。それについてお前たちの意見を聞きたい」


そう言う事なので、今日は主だったメンバーを集めて緊急会合を開いた訳だ。


「カルマ先生、いや殿下……その魔王、確かにわらわと言ったんですよね、ハイ」

「ん?ああそうだ。娘として生まれてくるらしいな」



「生まれてくる命に貴賎はありません!このルイス!姫様をお助けしたいと望む所存ですハイ!」

「「「「「我等、幼子を見守る会も協賛しております!」」」」」



……ですよねー。

まあお前らにまともな意見は期待して無いから良いけど。


「やはりお前達が頼りだ。ホルス、ハピ。二人の意見が聞きたい」

「主殿のお気持ちのままに」

「総帥が殺せというなら殺しましょう。生かせと仰せなら全力を持って支えさせて頂きます」


……そうか。有難う忠臣中の忠臣たちよ。

ただ、出来れば今回は冷静な意見を聞きたかったけどね。


「お気持ちは痛いほど。ですがルーンハイムさんの事を考えると……」

「そうですね……総帥?姫を切ると仰せなら、それはルン様も切るのと同じです」


「そうだよなぁ。ルン、喜んでたしなぁ」


ろくな事が無い人生だったけど、この国に来て変わったと大喜びしていたルンの笑顔を思い出す。

……ぬか喜びになったら首でも吊りかねないのは俺でも判る。


『こちらは是非生まれて欲しいが』

『体内より同じく』

「ぴー」


「魔王かー。まあ生まれて来ても良いんじゃないかなー?」

「あたしらの、いけんは、アリサにじゅんじてる、です」

「右に同じであります!」


はいはい、判ってる判ってる。お前らの場合は当然だよなぁ。

気持ちは判らんでもないさ。


では次。


「僕に聞くだけ無駄だよ?僕もカルマ君のお嫁さんでルンちゃんの親友なんだから」

「立場が近いだけに結論は出てるよなアルシェは。それで、レオはどうだ?」


「自分は、やっぱり……少々恐ろしいっす。ただ」

「ただ?」


「やっぱルーンハイムの姉ちゃんの気持ちを考えると、せめて生ませてやりたい気はするっすね」

「そうか。ありがとよレオ」


出来ればジーヤさんの意見も聞きたかったが帰っちまったしな。

いや、聞くまでも無いか。あの人はルンの家の人間だし……あ、そうだ。


「と言う訳でメイドの二人の意見は?」


「私達もルーンハイムの使用人ですよ!?」

「お嬢様にお子様を諦めろなんて言えません!」


ふむ、要するに胎児の内に排除しろって奴は居ないって事で良いのか?

……有難よ、皆。


「実は、最初から俺の中で結論は出ている」

「お聞かせ願いたい、主殿」



「……折角出来た娘を排除なんか出来るかーーーーーーッ!」



「ごもっともです、主殿」

「だよね、カルマ君?」

「了解。じゃあベビーベッドを作らせとくね、兄ちゃ」


正直、自分の子を殺せる訳が無かった。

けれどこのままじゃあルンがとにかく不憫すぎる。

まあ……後は成り行きに任せるしかないが、俺にも出来る事が一つだけあるか。


取り合えずルンの部屋に向かって、と。


『娘よ。と言う訳でお前は普通に生まれてきて良い事になった』

『ふはははははは!何がと言う訳なのかはわからんが、そうか!わらわの勝ちじゃな?』


『但し、胎児中あまり馬鹿な事をしでかしたら……』

『どうする気だ、父?』


『ハゲチャビン=ヘタレスキー=ニーチャ』

『はい?』


『親の権限としてそれがお前の名となるから覚悟しとけよハーちゃん?』

『ちょーーーーーーっ!?』


ふっ、まだ体細胞が数えられるほどしかないような状態で馬鹿な事言い放っているからだ。

これで胎内では大人しくしてて、生まれてから騒ぎ出されてたら対応も少しは変わったろうが、

こちらにも考える時間があったのは幸いだ。


……全力持って躾るから覚悟しとけ我が娘よ。


しかし、声帯も無しでどうやって喋ってるんだコイツは?

まあ魔王に常識を当てはめるだけ無駄か。


「……きちんとお話してる?」

「そうだぞルン。凄い子といえば凄い子だ。……でも不気味じゃないか?」


「ううん。だって先生の子だから」

「……そ、そうか……俺の子だから何があってもおかしくない、か。アハハハハハハ……」

『父よ、遺伝的に先代の孫。と言う事しか判らんが、どれだけ化け物扱いされておるのだ?』 


まあ、人外扱いされる程度には、な。

しかし俺の子と言うだけで多少の超常現象はさもありなんとはどう言う事だ?

と言う訳で謁見の間に戻り、皆に意見を求めてみる。


「いや、だって兄ちゃだし」

「そう、です」

「にいちゃだったらなんでも有りであります!」


「確かにカルマ君の子だしね。……僕の子もそんな風になるのかな?」

「主殿の子であれば、生まれた瞬間に立って歩いても誰も不思議に思わないかと」

「流石は総帥の子。の一言で全てが片付くような気がしますね」

「アニキも規格外っすから!」


『何を今更』

『我が身の心臓を取り食らった男が何を抜かすか?』

「ぴー?」


「やる事なす事無茶苦茶ですからね貴方は、ハイ」

「「「「「殿下が普通、なんて言い訳は有り得ませんよ同志!」」」」」


……そうか。

皆の気持ちは良く判った。

真実を教えてくれてありがとな、うん。


……スマン、ちょっと寝床で泣いてくる。


……。


さて、そんなこんなで時間は過ぎる。

例えドタバタしようが


「地下水の引き具合はどうだ、アリサ」

「畑の土はだいぶ肥えてきた。戦略的に何時でも枯らせるようにしとかなきゃいけないけどさー」

「そろそろ、最初の収穫期であります!」


地下水を引き、土壌を改良して農地を肥やし。


「鉄砲と大砲の量産、何とか形になりそうであります!」

「そうか。先ずはアルシェに使い方を叩き込んでおいてくれ」

「りょうかい、です」


「へぇ。これが鉄砲?小さいけど本当に弓より強力な武器なの?」

「ああ……とんでもないぞコイツは」


装備の更新と兵の調練……。


「主殿。大陸外から、お探しの穀物と調味料を輸入いたしました」

「うっしゃあああ!米と味噌、来たぞおおおおっ!……え?醤油は無い?」

「古代語で作り方書いた本はあるから、後で試すであります!」

「香辛料も世界中から集めたから、カレーが出来る日も近いよー……早く食べてみたいなー」

「へいたいさんにも、かれーこ、できたら、くばるです」

「まぶせば大抵の物が食べられる魔法の粉ですか……総帥、一刻も早く実用化すべきかと」


新たなる産物の創造と捜索……。

……というか食い道楽。


「と言う訳で、ルイス。明日から小学校校長の重責を背負ってもらう」

「……この日をどんなに待ちわびた事か……ハイ」

「「「「「殿下サイコー!」」」」」


ほとばしる鼻血をふけ変態ども。

……いや、教育改革。


考えられるだけの施策を施しつつ、俺はこのちっぽけな平穏を楽しんでいた。

大陸は未だ戦乱の中にある。

だが、少なくともまだこの国には関係の無い事だったのだから……。


……。


さて、そんなこんなで半年ほどが経過。

ルンのお腹も随分大きくなって来た頃の話である。


当のルンが重くなった腹を抱えて謁見の間にやって来た。

そして、俺の眼前においてある物体に目を丸くしている。


「……先生、これ何?」

「ん?ルンか……これはマナリア王都の隠し部屋で見つかった冷蔵庫なんだけどな」


「なんでそんな物がここに?」

「……まあ、気にするな」


そう、以前アリシアが鉄砲と共に見つけてきた冷蔵庫だ。

どういう原理なのか電源も無いのに稼動し続けている。

全然開かないし、いっそ破壊をとも思ったがこれまた硬い。


……全然お手上げだったのだが、つい先日ある事に気付いたのでここに持ってこさせたのだ。


「にいちゃ、これ、ひらくですか?」

「うん。多分な……この鍵で」

「おー、それはいつぞや宰相の持ってた鍵でありますね!」


そう、俺の首を締め付けていた魔封環の鍵だと思ったら違ったあの鍵だ。

何の鍵か相変わらず不明だったが、多分重要そうな鍵だったので持っていた訳。


「と言う訳で、おっ……ビンゴ!」

「おかし、おかし、おかし、です♪」

「いやアリシア。それは無いと思うでありますが……アイスとかだったら嬉しいでありますね」


……どっちにしろ菓子じゃないかそれ。

まあ冷蔵庫。しかもあのマナリアの初代様の遺した遺物だしな。

さて、何が出てくるか?オープンザドアーっと。


がさがさがさがさ……


「……え?」

「先生、今……中から」

「なんか、とびだしていった、です」

「植木でありますか?」



冷蔵庫の鍵を開けた途端、何かがドアを内側から開け飛び出していった。

……って生き物!?

しかもそこいらに葉っぱが……って植物かよ!?

なんで冷蔵庫の中に……いやそれ以前になんで動くんだ?


「兎に角追うぞ!」

「はい、です!」

「追跡であります!」


「……私達はゆっくり行こう、赤ちゃん?」

『ハゲは嫌ヘタレは嫌……いっそ構うな……どうせわらわが親に好かれる事などありえぬ……』


慈愛の目でお腹を撫でるルンとその中から聞こえる絶望的な声色を他所に、

俺達は謎の植物を追って外に出る。


……そこで俺たちが見たものは……!


「……水路に浸かって光合成してるな……」

「て言うか、既に実が生ってるで有ります」

「れもん?みかん?ばなな?りんご?ぱいなっぷる?です?」


いや、全部だ。

……って、えええええええええええっ!?


良く見たら小さいけどマンゴーまで。

何なんだよコイツは……。


その時その謎植物がクルリとこっちに振り返り、

幹の中央から瞳のように覗く大きな琥珀でこっちをじっと見つめた。

……見つめてきやがったよ。植物の分際で。


かさかさかさかさ……


そして枝と葉をかさかさ揺らす。

何処となく朗らかに。


「喜んでるみたいでありますね」

「はい、です」

「……まあ、数百年単位であの箱の中に閉じ込められてた訳だし仕方ないわな」


わさわさ、かさかさと音をさせつつ、その謎植物は体操しながら光合成を続けている。

……で、結局お前は一体何なんだ?

ちょっと調べておいた方が良さそうだな……。


……。


さて、更にそれから一ヶ月が経過した。

マナリア在住のアリシアに命を下して調べ上げた結果、

ようやく正体が掴めたのだ。


で、その問題の正体は何かと言うと、

初代ロンバルティアがどうやったのかは知らんが遺伝子改造で作り上げた謎生物との事。

動物の如く動き回り、世界中の様々な果物の実を付ける植物との事だ。


笑えねぇ……生命倫理とかどうなっているんだあの国、と言うか初代様は。

動く果樹園とかこれまたチートにも程があるだろうに。


なお……どういう訳だか封印されていたらしく、あの宰相は主君が封じたものだからと、

訳も判らずそのままにしていたらしい。


カサカサカサカサカサカサ……


いや、しかし今の俺には判るぞ。

どうして封じられたのか。


カサカサカサカサカサカサカサカサ……


「カサカサー、何処いったでありますか、ってここに居たであります!」

「アリスー。こっちにも、いる、です」


カッサ、カサ、カサ、カッサ、カサ、カサ……


「増えすぎだよー。兄ちゃ、どうしよう?」

「……どうしろと言うんだよマジで」


カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ……と、

謁見の間を埋め尽くさんばかりの緑、緑、緑!


「……たった一ヶ月で増えすぎだお前らーーーーッ!?」


ガサガサガサガサ……


「それと最初に冷蔵庫から出てきた奴!お前は育ちすぎだっ!」


その幹に大量に生い茂る果物に最初は誰しも喜んだものだが、これがまた増える増える。

既に盆栽サイズの植物が数百も繁茂している。

しかもその大元たる植木は既に倍以上の大きさに育ってしまっている始末。


……これは封じられるわな、これだけ凄まじい速度で増えるとなると。

しかしまあ、某くりまんじゅうを髣髴とさせるが……放っても置けまい?


「なあガサガサ。増えすぎると薪にせにゃならんのだが……自重の方向性は無いのか?」


ガサガサガサ……と枝と葉が震える。

ダイナミックに動いてジェスチャーで何かを伝えようとしているが、正直良く判らん。


取り合えずバナナでも一房もぎ取って食いながら解読する事としよう。


ふむふむ。

別に、薪でも良し。

減らない程度には、勝手に増える。

……か。


「って、構わないのかよ!」

「カサカサ達、色んな意味で凄いであります」

「あたし等同様、同族間の接続があるっぽいんだよねー、この子達」

「……けいびに、つかえる……おもう、です」


因みにカサカサと言うのはコイツのあだ名。

一体何の木かイマイチ判らないので、動く時のカサカサ音がそのまま名前と化している。

なお、最初の奴は大きくなりすぎてカサカサと言うよりガサガサと動くのでガサガサだ。


「主殿、しかし基本的に土地の痩せている我が国としてはありがたい存在かと」

「そうですね、父の言うとおり勝手に自分で水と肥料を採取してますし、手間いらずです」

「……うん、それは判るけどな。ただどんどん普通とかけ離れていくのがちょっと……」


って、どうした皆。

いきなり真面目な顔になったりして?


「先生に普通は似合わない」

「そうだね、僕もそう思うと言うか最初から普通じゃないよカルマ君は」

『すぴー……くかー……父ー。その名は……やめたもれ……』


「兄ちゃは兄ちゃ!好きに生きるが兄ちゃだよー」

「ふつうじゃ、ここまで、これない、です」

「誇り高く異常者道を突き進むが吉であります!」


またも家族全員から酷い事言われたんだけど!?

……いやまあ、確かに普通じゃないのは理解してるけどな……。


『お前も今や竜なのだ。人間の普通などと言う枠に捕らわれるな!』

「ぴー」


ちょ、ファイブレス!?トドメを刺すのはやめてくれ!

俺はまだ人で居たいんだが。


……って、どうしたハピ?


「総帥、忘れる所でした。今月の報告ですが宝くじの売れ行きが倍増しております」

「戦争で貧乏な人間が増えたからなぁ……夢だけでも大きくって所か」


「食料品はともかく贅沢品の値上がりも激しいです。利益率はうなぎのぼりですよ」

「……地下を運ぶから賊に襲われるリスクが無いもんな」


「それと腕の良い鍛冶屋が何人も亡命してきております。武具の生産も本格的になっていますよ」

「うちは兵の数も少ないから、まだ武具も余り多くは必要ないしな、先ずは輸出か」


商売は中々良い感じだ。

特に策を巡らす必要も無く、利鞘は増える一方。

同様に増え続ける人口を養っても余裕は増えるばかりだ。


……良い傾向なんだけど、何か恐ろしい事の前触れのような気もするな。

多少は警戒してしかるべきかもな。


「亡命者が増えているのは、我が国が平和だからでしょうね」

「……何処がだよホルス」


ホルスが何かを指差した。その方向を見ると、

眼下で水路に沿って緑の帯がカサカサと動いていた。

そしてそれを追いかけて果物をもぎ取る子供(一部魔物)達。


まあ……普通からは遠ざかる一方だが、

とりあえず平和なのは確か。なのかも知れない。


……。


≪side リチャード≫


騎馬に跨り、陣からゆっくりと歩み出る。


……気付けば内乱が始まってから半年以上が過ぎていた。

長きに渡る戦いに、民も兵も疲れきっている。

だが、あの人に負けるわけにも行かない。


……今まで僕についてきてくれた皆の為にも!


「姉上……今日こそ決着をつけよう!」

「リチャードか。良い度胸だ!」


弓の射程ギリギリ程度の位置で睨みあう両軍の間に馬に乗った僕が歩み出ると、

あの人は宙に浮き、風のように前進してきた。

……あれだけの術を常時維持できるとは、それだけでも恐ろしい。

けれどそれで終わる人ではないのは、この半年で痛いほど思い知っているんだ。


『ピ○チュウ!君に決めた!……高圧電撃!(10万ボルト)』

「くっ、相変わらずなんという威力の電撃なんだ!?」


高威力の電撃が僕の立っていた場所を通り過ぎる。

自ら落馬する事で辛うじて回避するも、哀れな愛馬からは香ばしい匂いが漂ってきた。


一瞬でこれかい?……恐ろしい威力だよ、全くもってね!


「ふむ。初撃で決めてしまいたかったが仕方ない。正面から叩き潰させてもらうぞ?言っておくが余は正当なる権利を主張しているに過ぎぬ。確かにいきなり現れたようにお前には見えるかも知れんがな?だが気付いていただろう。お前の名がロンバルティアで無い以上真の正当では無いということを!」


「それでも、今の正当後継者は……この僕だ!」

『○メックス!君に決めた!……超高圧水撃!(ハイドロポンプ)』


来たッ!

今度は鋼鉄の盾を砕かんばかりの水流攻撃か。

けれど……さっきは不意を疲れたが、今度はそうは行かないよ!


「……暴食の腕よ、食らえぃ!」

「ちっ!また宰相の遺産か。厄介な!」


宰相が肌身離さず付けていた腕輪、それは今や僕の腕にある。

これさえあれば敵対者の魔法など恐れるに足りない!


……凄まじい勢いで迫ってきた水流が魔力に分解され腕輪に吸い込まれた。

残念だけど、純魔法使いの貴方では、もう僕は倒せない。

今までの対戦でそれは良く判っている筈だ!


「次は僕の番だ!うおおおおおおっ!」

『反射(リフレクト)』


「暴食の腕よ!魔力の衝撃を食らい尽くせ!」

「ふん、一度で駄目なら即座に二回目の『反射(リフレクト)!』だ。流石に両腕に腕輪を着けている訳では有るまい?悪いがこちらは二連続使用が可能なのでな、流石に殴られる趣味も無いし弾き返させてもらうぞ!」


「ぐあああああっ!?」

「余とて、無為に時を過ごしていた訳では無いと何度言ったか?宰相の使う術の一部の解読に成功しておると言った筈だぞ?貴様の拳など余には届かぬ!そもそも術の詠唱速度が遅いからと野蛮な暴力に訴えるとは何事か!?それで良くマナリア王国第一王位継承者などと名乗れたものだ、恥を知れ恥を!さもなくば家伝級の短詠唱術を多数身に付けておくべきだったな?まあ父上は既に宰相の操り人形になっておったろうし、次なる人形たるお前に対し、無理に魔法を覚えろとは言わなかったであろうからの。ふふ、下手に優秀な術者となれば余のように逆らうからの。後継者を無能に育てるとはまあ、あの宰相の考え付きそうな事だ」


殴りかかった拳があの人の体を捉える前に、反射の魔法で弾き飛ばされる。

もんどりうって倒れた僕の耳に、既に聞きなれたあの詠唱が!


『ピ○チュウ!君に決めた!……高圧電撃!(10万ボルト)』

「くっ!……暴食の腕よ!」


……追撃の電撃が来るがそれは暴食の腕で食らい尽くす。

正直、タイミング的に危ない所だったけどね……!


「しかし、お互いの攻撃は無効化されるばかり……千日手、かな」

「貴様の力ではあるまい?恥を知れリチャード!」


痛い所を付いてくるが、それぐらいで揺らいでいる暇は無いね。

涼しい顔で聞き流せないと待っているのは敗北なのだから。


以前ライオネル君が宰相の遺品である魔力吸収の腕輪"暴食の腕"を発見してくれた。

僕の場合吸い取った魔力は大抵無駄にしてしまうが、

魔法に対する盾として考えるとこれ以上の物は無い。


これのお陰で僕でもあの人と互角に戦えている、と思う。

けれど、魔力吸収の際はこちらの詠唱を解除せねばならないし、

格闘戦に持ち込もうにも、まさかあの人が反射の魔法を覚えているとは……。


……自分の修行不足が恨めしいよ……!


兎も角、一騎打ちで勝負が付かない事で戦線は一進一退。

泥沼の消耗戦の様相を呈してきた。

……お陰で数百年に渡って蓄えられた国家の備蓄は減り続ける一方だよ。


幸いなのは最近カルーマ商会がこっそり食料などの援助をしてくれるようになった事か。

特にみずみずしい果物は兵士達や耐乏生活を続ける民にとって大きな救いとなっているね。


そして、現在リオンズフレアの軍勢が大回りで相手の背後を突かんと進撃を続けている。

ここで敵主力を食い止めてさえ居れば、

ライオネル君とリンちゃんが何とかしてくれる筈なんだ。


……何にせよ、ここまで耐えたんだ。

何とか、勝ちたいものだね……。


……。


≪side ルン≫

鼻歌交じりに赤ちゃんの為のベビー服を縫っていく。

この子が生まれるまでに五着くらいは縫い上げたいと思う。


けれど……ちょっと贅沢だけど一着ぐらいは市販の高い奴を用意してあげたい気もする。

後で店を覗いてみよう。


『ふはははははは!魔王光臨!恐れろ、おののけ!』

「……とても元気」


何せ、なんて言っているのかは理解できないが、お腹の中に居る内から自我を持つ凄い子だ。

それ相応の物を用意してあげたい。

……もしかしたら世界でも有数の魔法使いになるかもしれない。

親の欲目と言われようと、これは譲れない所だと思う。


「おおきく、育って……」

『……しかし不思議な家だの。前回……数百年前の両親はこの時点で怯え、母は追い出されたが』


「……早く、お話したい、な」

『最初の転生では五歳で殺された。二度目では母諸共地下牢に押し込められた……』


「女の子だってね。私もお母様も髪が短いから、あなたは長くしてみようか?」

『下らん。どうせ魔王だと知ったら捨てるのだろ?……今頃父はその相談をしてるだろうに』


語りかけてくれているみたい。

古代語は魔法の詠唱用ではなくて古代で本当に使われていた言葉だと先生は言っていたが、

この子の"言葉"を聞くとそれが真実なんだと身に染みて理解できる。


……内容は理解できないのだけど。


「皆、貴方が生まれるのを待ってる」

『それは無い。魔法の乱用者の始末……嫌われるのがわらわの使命ぞ?』


「早く会いたい……アイタイ……」

『……ちょ!?母!?何処か声色がおかしいぞ!?』


……はっ!


今……ぽこぽことお腹が内側から叩かれた。

この子はきっと良い子。

根拠は無いが、今も私を心配してくれたのだと思う。

とてもとても優しい子……。


……あ、アルシェが上がって来た。


「ルンちゃーん?あ、居た。こんな屋上で何やってるの?」

「服を縫ってた」


ベビー服を見せるとアルシェはニッと笑った。

とても明るくて良い笑顔だと思う。


「そっか。日射病には気をつけてね?ここ、風通しは良いけど日差しは強いよ?」

「ガサガサが日陰になってくれるから大丈夫」

『母、それに母その2よ。前から気になっていたが……ガサガサとは何だ?』


……ちょっと見ているとアルシェがガサガサの所に向かった。

そしてたわわに実った果物に手を伸ばす。


「よいしょっ、ぷちっとな。……パイナップルとリンゴ、どっち食べる?」

「じゃあリンゴ」

『わらわはパイナップルとやらが良いぞ!』


「了解。じゃあ皮剥くから待ってて……僕は皮むきしか出来ないけどね」

「それだけ出来れば十分」

『ぱいなっぷるー!……よーこーせー』


昼下がりの太陽を木陰が優しく遮ってくれる。

……気温は高いけど風は強め、

ゆっくり過ごすには良い日だと思う。


ガサガサガサガサ……


いつの間にか大きな木になったガサガサの琥珀の瞳がこっちを覗き込んでいる。


「そうだ、ガサガサ。お茶持ってきて?」

「枝振ってる。OKだってさ」

『……言っている事の意味が判らん』


暫くすると植木サイズのカサカサが枝にトレイとお茶を持ってやって来た。

……同族間では言葉はいらないらしいけど、とても便利。

それにしても不思議な植物だ。だけどマナリアの初代国王陛下が造ったと言うから、

こう言うのもありかもしれないと思う。


お礼代わりに枝を撫でてあげると嬉しそうにカサカサと震えた。

……この子たちもきっと良い子なんだと思う。

言葉を理解は出来るようなので、

後でお腹の子が生まれたら遊んであげて欲しいと言っておこう。


「ありがと、ガサガサ、カサカサ」

「うーん、美味しいね。ルンちゃん」

『無視するなー!……早く現代語を思い出さんと。……嫌われるなら早い方が良いしな』


木陰でのティータイムはとても落ち着く。

……特に問題など有りはしない。不満も無い。

そして今日も平和だ。


「しかし、変な生き物とかが増えるね。変な人も増えるしさ」

「大した問題じゃない……先生がその中心に居るから」


「そうかもね。ただ、やっぱり一応常識的な事を言う人間も必要だと思わない?」

「確かにそれはそう」


変わったものは増えるし、変わった人も増える。

でもそれがこの現状を壊す事は無かった。

だから問題は無い。

私は、今日のこの平穏がずっと長く続いて欲しいのだ。


……本当にそう思う。


……。


≪side セト将軍≫


「ええい!進軍予定が遅れておるぞ!?何をやっているのだ!」

「いえ、しかし、最近敵の資金状態が良くなっているようで段々と手強く」


「黙れ!時間を与えたから資金を用意してきたに決まって居るではないか!」

「は、はひぃ!?」


「このノロマめ!」

「ぐあああああっ!?」


無能な伝令を切り捨てた。

が、気が晴れんな。


……そもそもこれだけの時間をかけて落とせぬのがおかしい。

アブドォラに金を握らせ、昔の伝から奴隷どもを大量に仕入れているが、

毎月大量の補充が行われているというのに、じわじわと不利になっているではないか!

敵の傭兵どもは逃げ出す事はあっても、これ以上の兵の補充はままならぬはずだぞ?


「何故だ!?何故苦戦する!?緒戦ではあんなに楽勝だったではないか!」

「至極当然」


「何故だアヌヴィス!?」

「現在、新規奴隷兵……弱卒。大半子供兵、老人兵」


「なんだと!?補充兵が子供や老人だらけだと!?」

「肯定。奴隷消費、過多!」


ちっ、兵を失いすぎただと!?

補充兵が雑魚ではそれは当然不利にもなる。

……だったら少々高くとも質の良い奴隷を連れてくればいいではないか!


「アブドォラを呼べ!」

「……特効薬、無……我、溜息」


アヌヴィスは現状に諦めを抱いているようだが俺は違うぞ!?

ともかく質の良い兵を大量に集める事だ。

……資金はレキにでも出させれば良い。


兵さえあれば戦術など不要。

多少値が張ろうとも、質の良い兵を大量投入すればそれで勝てるのだ!


「お呼びですかのう?」

「最近弱卒ばかり持ってきているそうではないか。金に糸目はつけん。強兵を用意せよ!」


「……は。しかしそれはちと難しいかと。……健康な成人男子の奴隷が枯渇しておりますれば」

「居ないなら早く用意させよ!」


「それはもう、生めや増やせよで大量増産。お陰で成人女奴隷も動ける者が殆どおりません」

「我、質問。成人男子奴隷、用意、必要時間、如何?」


「まともな体の屈強な男ですか?……まあ13~15年は見て頂かないといけませんな」


……なん、だと?

それでは此度の戦に間に合わんではないか!


「実は現在東マナリアやサクリフェス辺りでも人が足らぬと奴隷が飛ぶ様に売れておるので……」

「……絶対数、不足?」

「馬鹿な!?奴隷が枯渇するなど聞いた事も無い!」


そうだ。奴隷はこれで中々値の張る買い物。

使用人や労働力、護衛などに使う事が専らだが、一度買えば基本的にかなり長持ちするはず。

そんなに沢山使うような事があるとは思えないがな?


「わしが知り合いから聞いた所では、傭兵の代わりに奴隷兵を使用しているようですじゃ」

「購入可能奴隷、皆無?」

「ふざけるな!では今後の兵はどうやって補充しろと!?」


買える奴隷が居ないのでは、兵が増強出来ないではないか!

一体どうすれば……そうだ!


「ならば本国に伝令!各家の所有する奴隷を一家につき三名づつ供出させよ!」

「……使用人、召集!?」


「そうだ。……もし出来ぬなら家人を誰か奴隷に堕とせと伝えろ」

「反発必至」


「軍に逆らえるか?それに俺の意思はハラオ王の意思だ!逆らうなら一族郎党全て奴隷だ!」

「……無法……悪法……是、下策」

「……そ、それは流石にまずいと思うのじゃ……いやまずいと思うのですがな?」


剣を引き抜く。

……伝令の血を吸ったそれを見て、アブドォラが震えた。

はっ、まあ当然か?所詮は前線を知らぬ奴隷商よ。


「逆らうのかアブドォラ?これは王命と心得よ!」

「ひいいいいいっ!?めっそうも無いですじゃ!」


どたどたと太鼓のような腹を抱えてアブドォラが走っていく。

うん。これで来月には優秀な兵が多数送り込まれてくる事だろう。


「状況最悪。……短期決戦、急務……」

「そうだな。何時までもこんな所でもたもたしていられん」


王からの許可は得ているのだ。

この遠征が成功した暁には新規領土は俺の土地になる。

……緑溢れる大地を手にしたならば、俺の権力は更に絶大な物となるだろう。


「そうなれば……次代の王位は、今度こそ俺の物だ!」

「……呆、溜息……」


今までネックだった資金はあるのだ。

……俺の野望、必ずや実現させてやるぞ……!


……。


≪side 村正≫


「西の戦……傭兵王と砂漠国家の戦いに横槍を入れると申すか叔父上?」


「そうであーる。こう言うのをギョフ糊と言うそうであーる」

「正しくは漁夫の利ですな。双方疲れ果てた所を狙って、パクリ、という訳で」

「下衆な作戦ですがフロー、いやフロッグ。蛙を潰す程度の難易度ですよボンクラの甥」


軍がカルマ殿との戦いで受けた傷も癒しきれていないのに、もう次の戦で御座るか。

……叔父上の発案ではあるまい。

恐らくブルジョアスキー、いや、更にその上の入れ知恵……。


はっきり言えば罠で御座る。


「駄目で御座るよ。それにシスターの案に乗っかったら、軒先貸して母屋を取られかねん」

「既に枢機卿ですよサムライ被れ……あ」


「語るに落ちたで御座るな。それに……元からバレバレで御座るよ?」

「ははは、そうでしょうな。……ですが、教団と商都が仲直りする良い機会ですぞ?」


悪びれない男で御座る。

我が国に属しながら、今でも心は教団にあると断言してるような物で御座るよ?


「あのブラッドには従えませんがな?大司教様の妹君なら話は別」

「教団を敵にしてる時点で大きく損をしている事に気付いてくださいヘタレ」


……一見するとまっとうな意見に見えるで御座るが……。

ひとつ大きな事を忘れてるで御座るな、こやつらは。


「言っておくが拙者は竜の信徒!異教徒で御座るよ!?」

「なんと!?」

「信じられません。悪趣味の極みですよ?強いのは剣だけの方!」


とてつもなく勝手な物言いで御座る。

やはり連中とは関わらんのが上策で御座るか。

……ん?叔父上どうされたか?頭を抱え込んだりして。


「一体何の話なのか理解できんであーる」

「……判らんなら、黙ってて欲しいで御座る」


「なんじゃとー!?我輩を怒らせるとただでは済まんのであーる!」

「……強気で御座るな。いや、後先考えていないだけで御座るか?」

「馬鹿な事は止してください。真なるボンクラ領主とは名ばかりの人」


叔父上が剣を抜いた。


……確かに効果的な方法で御座る。

怒りの度合いも相手を傷つける意思もきちんと伝わるで御座るからな?

あのボンクラにしては悪く無い意思表示で御座る。


ただし、それは抵抗できない立場の人間にのみ有効な手で御座る。

……冒険始める前の、一領民だったカルマ殿にさえあっさりと丸め込まれた叔父上が、

あろう事かこの拙者に剣を向ける?


「ちゃんちゃら可笑しいで御座るな……斬られる覚悟は出来てるで御座る?」

「……あれ?なんで我輩の意見が通らないのであーる?」


あっはっはっは……凡愚!盆暗!愚物!

妖刀村正よ。今宵はコテツだけではなくお前も血に飢えておるで御座るな?


……実は拙者もで御座る!


「……拙者は最近虫の居所が悪いので御座るぞおおおおおっ!」

「ひょええええええっ!?カタが怒ったのであーる!何でであるかーーー!?」


「八つ当たりはやめるべきだと思いますぞ子爵様ーっ!」

「いや、正当な怒りかと存じますね蛸頭…………転職を真剣に悩んで良いですか?」


勝手にするで御座るブルジョアスキーの副官……確か名はセーヒン、いやバリゾーゴンだったか?

取り合えず全員そこに座るで御座る……叩っ斬るで御座る故!


「子爵様ご乱心だぞーーーーっ!?」

「むしろ乱心したのは男爵様の方かと。タコ」

「ひえええええっ!逃げるのであー……グボッ!?」



なお、叔父上は峰打ちで勘弁しておいたで御座る。

……鼻の頭を。


……。


≪side ホルス≫

気が付けば随分と時間が経ったもので、

……慌しくも活気に溢れた年の暮れが近づいて来ております。

我が国では初の年末年始。

それも大公妃殿下のご出産も重なるとあって、街はお祭りムード一色。


私達はと言うと、その準備に追われていました。

今日も私の執務室で娘と打ち合わせの真っ最中なのです。


「ハピ。屋台を出したいと言う商人の一覧は出来ましたか?」

「出来上がっていますよ。父、場所代は幾ら頂きましょうか」


「今回に限り必要有りません。姫様の誕生祝のような物だと考えなさい」

「承知しました。……もう、今年も終わりですか。初めと終わりで全く違う一年でしたね」


確かにその通りです。

一昨年の今頃の私は奴隷剣闘士で、たしか前主ともども地下に閉じ込められていた筈。

……それが、気が付けば一国の宰相ですか。

人生何が起こるか判らない物ですね。


「……しかし、総帥は如何するおつもりなのでしょうか?」

「姫様の事ですか?それは主殿がお決めになる事です……それに、大して問題になり得ませんよ」


現状の主殿と、魔王という存在の意義を考えてみると答えはそう難しくありません。

きっと良い親子となられる事でしょう。


……正直な話として、

幼い頃に奴隷に堕とされた身の上としては魔王の脅威といっても実感が沸きませんしね。


「こちらとしては、むしろこの手紙の方が問題ですよ」

「サンドールからの……増援要請ですって!?」


先日届いたばかりの書状を見せるとハピの顔色が変わりました。

……まだ青いですね。

この程度で驚いているようではあの国、

そしてセト将軍と言う男と付き合っていくのは難しいですよ?

何せ、昔から無理難題の総合商社のような方ですからね。


「総帥にはお伝えしたのですか?」

「幸い返答期限は三ヵ月後……あと二ヶ月程度は家族団らんを過ごさせて差し上げたい」


「……つまり、まだ誰にも話していないと?」

「アリサ様にはお話しました。それで十分でしょう」


カサカサカサ……

備え付けの植木……カサカサから息抜き代わりに小さな木の実を摘み取り、口に運ぶ。

……仕事中のつまみ食いが許される。

それは私にとって先日までではありえない高待遇なのです。

それを与えてくださった主殿に心労などかけさせてなるものですか。


「いずれは知れる事ですが、もう少し先でも宜しいかと。……第一子ご出産も近い事ですし」

「年末年始に聞きたい類の報告でもありませんか……では水面下で準備だけ進めておきましょう」

「それはもう、あたし等が進めてるよー!」


おっと、アリサ様のおなりですか。今日は屋根裏から飛び降りてこられましたね。

この都は蟻の街でもあります。

城の中でアリサ様たちが侵入できない場所など無いでしょう。


……ですが、出来れば普通に入室していただけると嬉しいですね。


「取り合えず、兵士は二百人位しか用意できない。安全の為荷駄隊にしようと思うよ」

「……物資を満載してお茶を濁すおつもりですね?先方は納得してくださるでしょうか」

「させますよ。こんな所で死者を出す訳には行きません。……各指揮官に賄賂でも渡しますか」


賄賂ですか。

ハピはそれでどうにかなると思っているようですが、

そういうものはエスカレートするのが世の習い。

出来れば最初から頼りたくは無いです。

……それに、行き先は当然傭兵国家。

今後の事を考えると、

どういう結果に終わろうと今後傭兵が雇えなくなるであろうこの出兵自体遠慮したい所。

とは言え、行かない訳にも行きませんか。


「……兵が出せないのでしたら、それ相応の戦力を出せれば良いのですが」

「ですが、大陸中で戦乱の嵐吹き荒れる昨今、雇われてくれる兵など何処で集めれば?」

「うにゃ、そこはもう大丈夫……援軍は兄ちゃ自らに率いてもらうから」


……なんと!?


「ドラゴンなら一匹で一軍に匹敵するよ。最近ようやく制御が出来るようになったらしいから」

「確かに……ですが主殿は首を縦に振っていただけるのですか?」


「兵隊さん死ぬよりは良いって言うよ、兄ちゃなら」

「確かにそうですね。……では、総帥の説得もお願いして宜しいですか?」


「おーけーおーけー。あたしに任しとけー」

「では、よろしくお願いします。さて、主君を一人で行かせる訳にも行きません。他の将は」


「一大事っす!ルーンハイムの姉ちゃんが産気づいたっすよーーーーっ!」


ドアが吹き飛ばんばかりの勢いで開くと、

レオ様が血相を変えて一声叫び、またどこかに走り去っていきました。


……確かに一大事です!


「今日の仕事はここまでですね……ハピ、決死隊に連絡を」

「ええ。それが終わり次第すぐに向かいます」

「あたしはもう行くよ!妹だひゃほーい!」


さて、どんな結末になりますか。


……ただ、一つだけ言える事があります。

内外の状況を鑑みるに、もはや平穏ではいられないと言う事。

それだけは確か。


我が国も動乱に巻き込まれていく中、魔王の転生体が姫君として生まれてくる。

……何かしらの因縁を感じてしまいます。

まあこの動乱の根源自体が我が国とその中心メンバーのような気もしますがね。

さて、では私も参りましょうか……。


「それにしても父よ。建国以来慌しい事が続きますね」

「そうでしょうか?とても平穏だったと思いますよ」


「そうですか?」

「そうですよ」


そう、平穏だったと思います。

……今後起こるであろう大混乱に比べれば、ですが。


***大陸動乱シナリオ2 平穏***

続く


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