幻想立志転生伝
44
***大陸動乱シナリオ1 群雄達***
~そして魔王復活未満~
≪side リチャード≫
「そうか。カルマ君が遂に一国の主、か」
「左様。そして我が主は事実上の大公妃殿下となられました」
カルマ君とルンちゃんを送り届けた魔道騎兵団騎士団長ジーヤが帰国したのはつい先日の事。
率いていた五百名の兵の内三百名を引き連れての帰還だった。
今日はようやく王都の修復もひと段落着いた事もあり、旅の報告を受けているわけだね。
「レキ大公国か……あの状況じゃ自分の国でもないと安心できなかったのかも知れないな」
「兵の内、お嬢様に二百名が付き従いました。私はまだこの国への恩義が残っておりますゆえ」
それ故に帰ってきてくれた、か。
ありがたいね。
正直、実戦経験のある指揮官と精鋭の兵は幾ら有っても足りることは無い。
それに、カルマ君が君主をしている国家があるというなら、
援軍すら期待できるかもしれないな。
まあ、追い出した僕らの言う事を聞いてくれるかは微妙だと思うけど。
とにかく情報としては値千金だ。
さっそく書状を送ってみることにしよう。
「では早速手紙を書こうか。カルーマ商会の速達なら、親書を三日以内に届けてくれる筈だし」
「ああ、マナリア以南なら何処でも三日以内に手紙を届けてくれると言う新商売ですな?」
あの商会の商売は相変わらずそつが無い。
値は張るがその価値はあるサービスだと思うよ。
片道一か月はかかる道のりをどうやって短縮したのかは知らないが、
手紙が早く届くのはとても便利で良い事だからね。
そう言えば、カルマ君はカルーマ総帥の族弟だったか。
ならば彼の国にはカルーマ商会の資金が流入している筈だ。
……恥を忍んで資金援助も頼むべきだろうか?
「……と言う訳で、君のお兄さんにお手紙を頼みたいんだけど」
「むり、です。まだ、あそこには、いんふらせいび、されてない、です」
だが、カルマ君に同行しなかったらしい妹さんを呼んでみると、
まだ速達の配達網がレキ大公国には出来ていないと言う回答が帰ってきた。
「とどくことは、とどくです、けど、まだふつうより、すこし、はやくとどくだけ、です」
「なら仕方ない。それで良いよ?使節団を派遣する余裕は今のマナリアには無いし」
一般的な冒険者とかに配達を頼んだら、あんなとこに街があるわけ無い、
そんな一言で斬って捨てられるだけ。届くだけでも僥倖だね。
……それに……速達が届かないなんて嘘だろうしね。
だってそうだろう?
あのカルマ君が、自分の本拠地にそんな便利な物を優先配置しない訳が無い。
恐らく数日中には彼の元に書類自体は届いている筈だよ。
ま……要するにだ、彼は僕の親書を握りつぶしたいって事さ。
忙しいのもあるだろうけど、それ以前に色々引っかかっている所もあるんだろう。
もしくは……姉だと言うあの人と僕を天秤にかけているのかも。
ふう。しかし友人を大切にしなかった罰が当たったのかもしれないな。
こんな時こそ力を借りたい所なのだけど。
……ままならないものさ、人生とはね。
……。
さて……アリシアちゃんに手紙を持たせて下がらせると、僕は主だった家臣を謁見の間に集めた。
勿論この内乱をどう治めるかを議論する為だ。
「皆、よく集まってくれたね。早速だが良い報告がある」
「おーっほっほ!リオンズフレアの恥さらしからご報告いたしますわ!」
「応!お坊ちゃん。前線の町を幾つか落としておいたぜ?」
リオンズフレアの人間として動き始めたライオネル君の働きは本当に見事なものだ。
あのお坊ちゃんと言う僕の呼び方も……まあ素の部分も多々あるだろうが、
それでも基本的には出会った当初から親しみを込めてくれていたのだと最近気付いた。
レオ君は出奔してしまったがカルマ君の下ならまあ問題にはなるまい。
そして当主のリンちゃんは兵の調練から資金調達まで幅広く活躍してくれている。
「これでマナリア中央部はほぼ奪還しましたわ!」
うん。流石はリオンズフレア公爵家だね。
伊達に四大公爵で唯一離反者を出さなかっただけはある。
正直君達が残ってくれなかったら既に敗北していただろう。
感謝しているよ、本当にね。
「では次は私達だな?昨日より我がランドグリフ家は魔道騎兵と共に敵主力と一当てしてきた」
「しかし残念ながら押し負けました。幾ら主力を欠いていたとは言え、申し訳ありません」
外野から野次が飛ぶ。
醜いね。貴族としてあってはならない行為だと思う。
でも僕はその立場上それを止める事が出来ずに居た。
何故って?……皆の怒りはもっともなのだから。
……ランドグリフ公爵家は当主を先日の動乱で失っている。
新当主のランには実戦経験が不足している上、西の連中に士卒が殆ど寝返ってしまっている。
だから主だった将など残っては居ない。皆こぞって西に向かってしまったんだ。
と言う事で残った僅かな兵を率いるのは、
研究者で教育者上がりの若輩当主。
そのせいだろう。毎日のように脱走者が出続けているのだ。
かつての四大公爵筆頭の面影を、その弱卒の群れに見出せる者は殆ど居ないだろう。
馬鹿にされても仕方ないと本人達でさえ思っているようだ。
だが、魔道騎兵に至っては更に悲惨だ。
主君たるルーンハイム公爵家は当主が敵に寝返った上に跡継ぎは出奔。
挙句勇者であり公爵夫人でもあるマナ様から公爵家の断絶が宣言され、
当のマナ様自身も責任を取るといってふらりと国を出て行ってしまった。
……あの方の力が一番必要とされる状況だと言うのに。
つまりだ……ルンちゃんの元に居る二百名以外は一人の脱落者も出していないと言うのに、
それを指揮するべき人間が誰も居ないのだ。
その上、本来の主君が戦場に出てきたらきっと裏切るに違いないと警戒され、
半ば厄介者扱いされている始末。
……ようやく騎士団長が帰国しまともな軍事行動が取れる状態に戻ったと言うのに、
既に兵にはやる気が失われつつあると言う始末。
機動力、打撃力共に高く実戦経験も豊富な精鋭部隊であるのに勿体無い事この上ない。
……僕としては主力の一つとして運用したかったのだけど。
でもまあ、レインフィールドに比べればまだマシだけどね。
リオンズフレアは言うに及ばず、
ランドグリフ、ルーンハイムの両家もそれなりの戦力を残してくれた。
だが、レンちゃん……なんで君はよりによって全戦力を連れて裏切ったりするのさ?
こういう時は普通、双方に一族を分けて滅亡を避けるものじゃないのかな……。
ともかく、状況は楽観を許さない。
現在、兵力は拮抗しているが敵はサクリフェス……神聖教団から支援を受けている。
……対してこちらは備蓄を切り崩して戦っているような状態だ。
これから段々と物資は減少していくだろうし……。
せめて味方を労う事は忘れないようにしないといけないと思うね。
「ランの家は当主が先日骨との戦いで死亡して、魔道騎兵は旗頭を欠いている。仕方ないさ」
「殿下。私も実戦をもう少し経験しておくべきだったのか……」
いや、ランは良くやってくれているよ。
何せ魔力が全ての我がマナリアで、
僕と姉だと言う人との実力差が明らかなのに、それでも付いて来てくれている。
それだけでどんなに救われているのか……。
「……早くこの戦、終わらせたいですね、殿下」
「そうだね、ラン」
「そして、可愛い男の子達が安心して過ごせる世界を取りもどさねば」
「台無しだよ、ラン」
「……細かい事は良いんですわ。兎も角勝たねばなりません事よ?」
「左様ですな。しかし何人の兵を屠っても、敵大将をどうにかせねば如何ともしがたい」
「応!もし一騎討ちなら俺が必ず倒してやるぜ?」
「駄目だろうね。そもそも君では請けて貰えまい。彼女達だって決して間抜けでは無いだろうし」
僕となら一騎打ちにも応じてくれるだろうけどね。
ただし僕と彼女の魔法の才には天と地ほどの差がある。
……それをどうやって埋めろと言うのだろう……。
「応、そうだお坊ちゃん。この前この謁見の間で見つけた物があるんだけどよ。やるよ」
「……これは!」
ライオネル君が差し出した物に思わず目が釘付けになってしまった。
これは……これがあれば……もしかしたらあの人に勝てるかも知れない。
……次の戦い、僕自身が出陣するのも悪く無いかも知れないね……。
……。
≪side ティア19世≫
自由の身となって暫く経つ。
現在余は王国最西端にある国境沿いの砦を拠点に戦いを続けてる。
……弟、確かリチャードとか言ったか。
奴は余に比べ魔法の才で格段に劣ると言う話だが、それでも王位継承権を余に渡そうとしない。
なんとも俗な事だな。
祖国において魔力は全てに優先するのだ。
気持ちは判らんでも無いが、
自らより勝る継承者が現れたのなら大人しく譲るが正しき道だと思うのだがな?
まあいい。
それなら力づくで奪い返すのみだ。
「ルーンハイムは居るか?」
「殿下。我をお呼びか」
うむ。以前は幾つかの故あって敵対した事もあるが、今では忠実な僕。
余の軍勢にあらずんば滅ぶのみの身と化した現在では、
正に最も頼りになる男だと言っても良いだろう。
「幾つかの集落を奪われたと聞いた。早速奪回に向かうのだ。何時までもクロスの部下に頼りっぱ
なしにも出来まい?故に兵千名を連れ即座に奪回に向かうのだ。出来れば弟だと言う男を王都から
引きずり出してくれればなお良い。流石に王都を灰塵と化すのには抵抗があるのだ。出てきたら一
騎打ちで実力差を内外に見せ付けてやる。さすればあ奴にまだ従っている連中も考えを変えるであ
ろうからな!」
「…………判った」
ルーンハイムはふらりと現れふらりと消えた。
あまり誠意を感じられぬ対応だが、まあ居ても腐った体が臭いだけ。
まともに仕事する分良しとせねばなるまい。
「あらぁ。また出撃なのぉ?」
「その通りだレインフィールドの跡継ぎよ。お前はもっと術を身に付け早く戦力になれ。流石にここに来た時点で公爵家の跡取りが十個の魔法もまともに使えぬと聞いて驚きを通り越しあきれ果てたものだ。だが、余の元に来てからと言うものはまさに遅咲きの花が咲き誇るが如く、素晴らしい成長を見せてくれているな。これなら数ヶ月以内に実戦にも出せよう。一日でも早くひとかどの人物となるのだぞ」
ルーンハイムが消えた方向からひょっこり現れたのはレインフィールド公爵の跡取り娘だ。
年頃だと言うのに片目を覆い隠す眼帯が痛々しい。
公爵級とは思えぬ無能な娘ではあったが、最近とみに実力が向上してきている。
そして自家の全軍を即座に纏め上げ、いの一番に余の元にはせ参じた忠臣でもある。
……召集の檄文を届けようとした時点で、既にこちらにやって来たのには驚いたが、
ふっ、余の人望もまだ捨てたものでは無いということだな。
「そうそう。サクリフェスからの物資が届いたそうよ殿下ぁ?」
「医薬品と食料を頼んでいたのだ。短期決戦を狙って兵には無理を重ねさせてはいるがな、やはり限度と言う物があるのだ。出来れば複数箇所を攻めたい所だが指揮官が足りぬな。お前に兵を任せるには今少し時間が欲しいし、余の復活を国内外に知らしめる時間も必要。ここは我慢だ。いずれサクリフェスの増援も参ろう、その時こそ決戦の時だ。まあ、出来ればその前に敵の総大将をこの手で粉砕し確実な勝利を確定させておきたい所だがな」
「えっとぉ。とりあえず援軍が来たらそいつ等を使い潰す、で良いのかしらぁ?」
「うむ」
当然だな。
はっきり言わせて貰えば怪しすぎる。
確かに助かるのは確かだが、ルーンハイムを勝手に不死者化したり、
その存在を完全に秘匿されていた筈の余とその監禁場所を知っていたり。
やる事なす事不気味すぎるのだ。
特に、あの地下室に余が捕らわれていた事は、
宰相か、それとも余と共に裁判にかけられたかつての部下しか知るまい。
部下達はあの場で処断されたゆえあの場を知る人間など居る訳が無いのだ。
可能性があるとすれば、風に言葉を溶かし遠隔地の同族に意を伝える術を伝えていたあの家。
余の敗北と共に断絶させられた第五の公爵ロストウィンディ家関連のみか。
だが、あのブラッドとか言う男が彼の一族に連なる者である訳が無い。
何故ならあの敗戦により一族ことごとくが殺し尽くされたからだ。
家伝も放浪していたゆえ唯一生き残った族弟により、殆どがルーンハイムに譲渡されている。
彼の者に子が出来たと言う話は聞かぬ故、恐らく幾つもの術が失伝の憂き目に合うのであろう。
これはまことに残念な次第である。
話が逸れたが……まあ、つまりだ。
余はやつらを信用しておらぬ。
「外部からの力に頼りすぎた国家は早晩危機に陥るものだ。余はそんな愚かな真似をする気は無いぞ?使うだけ使い潰したら早々にお引取り願おう。……まあ、大方教団の復権を望んでおるのであろうが、余は止めぬが手伝いもせぬ。向こうで勝手にやればよい」
「ふぅん、なるほどぉ。ところでこの戦いに勝ったらどうするんですかぁ?」
「ん?正当後継者としてマナリア王位を継承するに決まっておる。ああ、お前は良くやっているからレインフィールドは公爵級の筆頭の家柄としようぞ。ロストウィンディも再興させて……ルーンハイムはどうするかまだ決めておらぬがその他の二家は断絶だな。それで全てあるべき姿に戻る」
「そっか、そうですかぁ。……有難う御座いますぅ。私は勉強に戻りますねぇ?」
うむ。あのような娘が残っているのならまだ祖国の明日は明るいな。
そう言えば、内政官を探していたのに変態が来た時はどうしようかと思ったが、
即座に追い出せと言ってくれたのもまたあの娘だった。
上手く育ってくれた暁には余の側近として動いてもらおうか。
……おお、そうだ。
ついでに聞くべき事があったな。
行ってしまう前に聞いておこうぞ?
「そう言えばレインフィールドよ。余を救った兄妹の所在は知れたか?」
「もちろんよぉ?でもぉ。私達に味方はしてくれるけど、こちらの戦力にするのは無理ねぇ」
「……矛盾しておるが?」
「あの人と弟殿下は親友なのよぉ。それを助けないって……凄くコッチに気を使ってる証拠よぉ」
ふむ。余の事があるため向こうの手助けが出来ぬと?
そういうことなら止むを得まいな。
元々我がマナリアの内乱でしかないのだし。
「ならば」
「せめて向こうには付かない様にさせてご覧に入れますねぇ」
判っておるな。
……やはり余の元にはせ参じる者は有能な者が多いのだろう。
やはりあの弟に従うのは家名に縋るしか能の無い無能者か、
以前の戦いで余に逆らった為こちらに来ようが無いライオネルのような輩のみなのだ。
「……あの弟も、そんな輩に操られておるのだろうか?」
やはり先ずはあの弟王子を陣から引きずり出し、実力差を見せ付けてやらねば。
さすれば自然と、アレも余に下ろうと言うもの。
そうすれば残りは旗頭を失い、意地のみで戦う後の無い有象無象のみとなる。
こうなれば勝ったも同然だ。
「待っておれ、余の王位よ」
折角拾った機会なのだ。
……絶対に無駄にはせんぞ……?
……。
≪side 神聖教団新本部・警備主任≫
あの呪わしい俗物どもとの戦から早数ヶ月。
奴等に下った振りをして捲土重来の機会を伺っていたブラッド司祭の秘策により、
我等が信仰はこのサクリフェスと言う都市国家に生き延びました。
表向きはただの修道女ではありましたが、その実諜報部門の長であり、
更に大司教様の妹君でも有ったシスター・フローレンスが枢機卿の位に昇られた事もあり、
教団はいまだ健在だとひしひしと感じています。
先日の戦乱に心を痛められ心を壊されていたと言う枢機卿も先日やっと回復され、
ようやく体制が整ったという所でしょうか。
現在はマナリアの反体制派を援助するなどして友好勢力の勢力拡大に貢献しているようです。
反乱の首魁は天才的魔法使いだと聞きますし、彼の国に信仰が戻る日も近いのでしょう。
……私はそんな状況下、枢機卿をはじめとするお歴々が並ぶ会議室の警護責任者を務めている。
全くもって、重責に身が引き締まる思いです。
現在も教団、引いては世界の行く末を左右する会議の真っ最中なのですから。
「それでは、今日の会議を始めます。ブラッド戦闘司祭、カルマさんの動きは?」
「ヒヒヒ……足元を固めるだけで手一杯のご様子。ま、慣れない建国などするからです、ケケッ」
長き眠りから覚めた枢機卿は日々教団の為に駆けずり回っています。
修道女から一足飛びに枢機卿などと言う重責を負わされてもそれを意にも介しません。
先日も街の有力者達から金貨五十枚ほどの寄付を募ってきたばかり。
現在の教団は慢性的資金不足。
その為に鬼気迫る働きを見せる枢機卿はやはり大したものだと思うのです。
「そうなんですか。では暫くは安心して資金集めが出来ますね」
「ハ、ヒヒヒ……枢機卿、毎日同じ事ばかりですねクヒヒヒヒヒヒィ!」
「よぉく考えてみてください。お金は大事ですよ?」
「クフッフフ!まあそれはそうですね。ところでティア王女に関してですが……ヒヒヒヒ」
「兵は出しましょう。手伝うと約束したなら……でも、お金はびた一文出さないで下さい」
「フフフ、現状では資金より兵の方が厳しい状態ですが」
「駄目です。出来るだけ兵を預けて恩を売り、ついでに養ってもらうべきです。そうしましょう」
「フフ、アハハハハハ……相変わらずお金に五月蝿い方ですね、ケケケケケケ」
「ですけど。私も起きたらいきなり枢機卿なんて……このやり方しか知らないんですよ私は?」
「ウフフフフ、判りますよ?ですけど現在旗頭は貴方しか居ないんですよね。クク」
「ですよね。でも私は、出来れば前線で……肉とか潰してる方が、うふ、ふ、ウフフフフ……」
「ひょ!?それも判りますとも。今少しお待ちを枢機卿。ヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒ……」
突然雰囲気の変わった枢機卿に新参の数名が目を見開き震えています。
まあ、すぐ慣れるとは思いますが。
それにこれぐらいで驚いていては、恐らく一か月持ちませんよ?
……それにしても、会議の回数を重ねるごとに発言する方が減っていますね。
最近では異端審問官ブラッド"戦闘"司祭と枢機卿しか話さないこともしばしばです。
まあ、余計な事を言ってあのお二方のご不興を買うと文字通り飛ばされますからね。
それも当然でしょうが。
因みに戦闘司祭とは新設された新たなる位階でして、基本はただの司祭と変わりませんが、
戦争に関してのみ全権を任されると言う特殊な立場なのです。
……戦いだけやりたいというブラッド司祭、そのたっての希望で作られました。
「ところで皆さん。以前からお願いしていた諜報部門の再建は出来ましたか?」
「……今少しお待ちを。訓練が終わり次第各国に送り込みますので」
「彼の国に新たに二人送り込みました。現在存在する八名の内三名が国外追放を受けましたがね」
「そう言う訳で現在間者は七名、その内二人は早くも王城に潜り込んだと報告が」
「……それはマズイですね」
「クフフフ、その通りです。感づかれてますよその二人は。ヘヘヘヘヘヘ……」
「そんな!?ですがかなり詳しい報告を何時も送ってくれるのですが」
「ですけど内容が薄いですね。これは泳がされてると見たほうが良いですよ?」
「ヒヒヒヒヒ、幼稚な手です。いざと言う時に偽情報を流させるつもりなんですよ、ウフフフフ」
「むしろ、市井の暮らしに馴染んだ者からの報告のほうが信頼できますよ」
「ヒャハッ!できるだけ目立たず、かつ情報を素早く手に入れる、それが大事です。クククク」
恐ろしいお方だ。
スパイ逆用の戦術に気付いておられるとは。
だが、そうでなくては意味が無いと私は思うのです。
簡単に騙されるようなら逆に怪しい、はこちらにも言えるのですから。
「で、では王城に潜入した者は下がらせますか?」
「駄目ですよ?折角だからその人には向こうに寝返った事にしてもらいます」
「ウフフフフ、いざと言う時に偽情報を流し返すのですね、クケケケケケケ!」
「そういう事です。では、来るべき日に備えお金をじゃらじゃら溜め込みましょう」
「ケケケ!それでは解散です!」
そういう事ですか。
寝返ったように見せて実は寝返っていないと。
しかももしばれたとしても、既にスパイである事はばれているので損はしないということですか。
確かに有効な手ではあると思います。
ただし、本当にスパイが寝返りさえしなければ、の話ですが。
……。
「ええと。今月の収支は金貨二百枚の黒字……子供たちにも幾らかは回せますね」
「孤児院への予算でしょうか?」
「あら警備さんお疲れ様です。もう少しだけここを使わせてくださいね?」
「無論です。私などに断る必要は有りませんよ枢機卿」
会議が終了し人の居なくなった会議室。
そこでは未だ部屋の中央に居座った枢機卿が金貨の入った麻袋を弄り回しながら、
なにやら計算をしているようでした。
……思わず話しかけてしまいましたが……まあ、怒ってはおられないようですね。
「いえいえ、これは個人的なものですので公的な場所でやるべき事ではないんですが」
「ですが、恵まれない子供たちへの施策なのでしょう?でしたら問題無いかと」
「それは良かったです。私室は小銭で埋まっちゃってまして寝る所しかないんですよね」
「そ、そうですか……それは……よかったですね」
「まったく、寝てる内に商都銀行の預金は差し押さえられてるし情報網は寸断されてるし」
「それは仕方ない事かと。なにせ敵国ですから」
「どうやってお金儲ければ良いのかわかりませんでしたけど、お布施集めればよかったんですね」
「……えーと、もしやそこの金貨は……」
「いえ、壷を売って得た利益です。私が行くと原価の百倍位で買い取ってもらえますので」
「……それは詐欺では」
「そうでもないです。私のサインも入ってますから」
……枢機卿が何を言っているのか判りません。
「それと、免罪符も高く売れますね。昨日も100枚くらい書きました」
「最近免罪符を見せて盗みやら殺しやらを正当化する輩が多いのは貴方のせいですか!?」
「え?神様は許してくれると思いますけど、現世の罰は受けなきゃ駄目だと」
「免罪符で現世の罰が免ぜられると皆信じきっておりますけど」
「……きちんと刑罰は受けるように言っておきます」
「ですがそれでは免罪符は売れなくなりますけど」
「暫く放置ですね。後で折を見て話す事にします」
「即答ですか!?」
「では、急用を思い出しましたので私は帰りましょう、そうしましょう」
ぷいと横を向いた挙句会議室のテーブルから金貨を引っつかむと、
枢機卿は逃げるように部屋を出て行ってしまいました。
「まったく、困ったお方です」
「でも、お陰でこっちもやりやすいであります」
おや、おいででしたかアリス様。
敵地のテーブルの下に潜むとは大胆なのか無謀なのか。
「お疲れ様下僕1号。今日も色々収穫が有ったでありますね」
「はは、伊達に大司教健在の折より貴方がたにお仕えしている訳ではありませんよ」
いかなる策謀も、相手側に知られていては意味が無い。
枢機卿もあの化け物にマークされた時点で終わりなのですよ。
……まあ、蟻の僕と化した私にはもう、関係の無い話でありますけどね?
え?俗物?ええそれはもう大嫌いですよ。
ただ、もう逆らう気がしないだけです。
……全ては女王蟻の為。どうせ死んでも代わりは幾らでも居ますしね……。
……。
≪side 傭兵王ビリー≫
「だああああああああっ!俺様ともあろうものが!」
「旦那ぁ!前線が崩れだしやしたぜ」
「やっぱ、払う給料が無いと駄目ですな、逃げますかぁ」
ちっ、サンドールの大軍が攻めてくるって言うからって、
傭兵どもをまるごと引き上げさせたのは拙かったかも知れねぇ。
……大陸中の契約先から突きつけられた違約金。
そして兵に払う給金で俺様の国の台所は火の車よ!
どうだ参ったか?
……本気で参ったぜ。
「タクトの爺さんは何処にいやがる?金払わないと戦わないって奴が出てきてるぞ!」
五月蝿ぇ!その事は言うな!
こんな非常時に表に出せる訳が無いだろ!?
冗談じゃ、冗談じゃ無ぇ!
「ククク、金が無いなら敵から奪えば良いじゃねぇか?俺等は傭兵だぜ?」
「いや、旦那。ところがどっこい……連中にとって俺等の方が略奪対象なんでさ」
「連中の大半は奴隷兵。武器は棍棒とか槍とは名ばかりの棒切れでさ。服に至っちゃ腰布のみ」
「こっちに略奪のうまみはゼロですわ。逆に連中、略奪許可が出てるらしく……」
判ったぜ!俺達は傭兵。当然命を守る装備に金をかける……だよな。
当然、結構な値が付くものも多いわな?
「……って事はよ、連中は夜盗まがいの事してるって事か?」
「へい。敵の食料は現地調達らしく荷駄隊も存在しやせん」
「夜盗と言うよか野獣の群れでさ」
「奴等が通った後には戸板一枚残ってないそうですぜ!」
畜生、乱暴狼藉は傭兵の十八番の筈だぜ!?
それが略奪される方に回ってるって言うのか?
……いいだろう。俺様達を怒らせたらどうなるか、見せてやらぁ。
「なら、守りは止めだ!直接敵の本国を叩くぜ!」
「無理でさ。サンドールまで辿り付く前に飢えと渇きで兵がやられますぜ?」
「しかも、あの国の殆どは貧しい。金持ってる奴は王都に一握りくらいでさ」
「あんな奥地まで行けって言っても、報酬前払いでも無いと動きやせんな」
ふ、ふ、ふ……所詮は傭兵の集まりってことかい。
アイコクシンの欠片もありやしねぇ。
傭兵の傭兵による傭兵の国、なんて俺様の頭の中にしか無いのかね?
この国が無くなりゃ傭兵なんぞ基本的に二束三文でしか雇ってもらえなくなる。
この国の傭兵は纏まった数を即座に出せるから結構な値を付けて貰えるのさ。
個人でも良い金出してもらえる兵は直ぐに士官も決まるだろう。
……だが、そうで無い奴はどうなる?
そこに残るのはまさしく使い捨てにされる俺達の姿。
万一の時に報復も出来る国家と言う力。それが無いなら搾取されるだけだってのによ?
……何でドイツもコイツもそれが判らんのかねぇ?
ま、そんな目に遭う奴は最近居なかったからだろうけどよ。
何かあった時は他ならぬ俺様がしゃしゃり出てたからな。
「最近は逃げる奴も増えやしたからね」
「……けっ、何処に逃げるって言うんだよ?所詮俺様傭兵なんてのははぐれ者だぜ?」
アルシェの奴みたいに居場所を見つけた奴は良い。
けどよ、そうで無い奴はどう考えても厄介者扱いしかされないぞ?
それでも良いのか?
「マナリアとかに行けば食いっぱぐれ無いそうで」
「ククク、そんなの今だけよ。内乱収まったら放り出されるぜ。そん時後悔しなきゃ良いがな」
「……違いないでさ」
アルシェで思い出したが、アイツ上手くやってるのかね?
気立ては良い娘だが、どう考えても国家元首の嫁なんぞ務まる女じゃないと思うが。
……ま、お相手がお相手だ。別に貧乏臭くても問題は無ぇか。
それにサンドールの属国だっけか?ある意味これ以上も無く安全だ。
俺にとっても娘みたいなもんだし、上手くやっていけるならそれで良いけどな。
「よっしゃ。取り合えず無いもの強請りしてても仕方無ぇや……俺様が出る」
「へい!」
「……ところで、資金はどうしやす?金が無い事を悟られたら一気に崩れますぜ?」
「借りる!商人連中には砂漠の阿呆どもを追い返したら賠償金で返すとか言っとけ!」
「へいっ!」
……守りに入るわけにはいかねぇ。
傭兵国家といっても王宮とか砦とかがあるわけじゃない。
俺様の住家も古い貴族屋敷でしか無いんだ。
攻めて攻めて攻めまくる。
これが出来ない時は……まあ、勝ち目無いわな。
「バリスタ隊を前面に押し出す……遠距離から戦意をぶった切るぜ!」
「へい!」
「え?あの……その。バリスタはもう売約済みですぜ?」
……は?
もう売れたのか?それも全部かよ?
「そうかい。ククク……けどよ、それなら資金的には余裕が出来るんじゃないか?」
「いや?代金先払いしてもらって兵達の飯代にしてますぜ?」
「……そうかい」
進退窮まったか?
いや。まだだ。
決定的な勝利さえ収められりゃあ逆転の目はある。
……個々の戦力は比べ物にならねぇ。
それに奴等は訓練もまともに受けてない。一度負ければ士気も崩壊する筈だ。
「よし!俺様が出る。フェイス、フォックス、エヴァ。それにドミナは続け!」
「奴等を使うので?連中は桁外れの報奨を要求してくるに決まってますぜ?」
「他に手はねぇ!ピエールは結婚と同時に引退しやがったしな!」
「コンドッティエーレさん、それにハスカールの奴は?」
「先日契約が切れて去って行ったよ!」
ククク……頭が痛いぜ。
有能な奴は沈む船から逃げるネズミのように去っていきやがる。
そうで無い奴は無駄に屍を晒すだけ。
「辛ぇな。だが、この国は俺が育てた……つまり俺が居る限り無くなる事は無ぇ!」
「旦那が出るぞぉぉぉっ!」
「出撃だ!野郎ども続けーーーーっ!」
はっ。先に言っておくが早々やられはしねぇぞ。
何せ、俺様は……不死身だからなぁ!
……。
≪side シバレリア帝国皇帝≫
少し肌寒い。ここはかつての怨敵の居城。
だが、今は私の家。
そして……我が国唯一の拠点である。
「さて……今月はどの部族の村に赴こうか?」
「先日下した者達から、少し南に大き目の集落が幾つかあると連絡がありましたよ……陛下?」
30年来の付き合いのある友人が私の下で側近を勤めてくれている。
まあ、陛下と言う呼ばれ方は……少々こそばゆいがな。
「そうか、ではそこに向かい我々に従うよう促すのだ。……貴公も来て欲しい」
「ええ。貴方はカリスマであればいい。細かい交渉はわたくしが行いますから」
頼りになる事この上ない話だ。
確かに私に交渉の才などありはしないしな。
……あの者の言うとおり、過去を捨て放浪する事数ヶ月。
気が付けば千に近い集落と十万に近い人民を統べる一国の王か。
魔物に襲われた小さな集落を助け、その族長に推された日が昨日のように思い出せる。
そして今後の事を相談する為向かった先で死の眠りに落ちていた友を救った。
「済まぬな。本当は貴公も帰りたかろうに」
「いいえ。貴方の言うとおり理想を捨てたわたくしに、帰る場所などあってはなりません」
「そうか……感謝する、友よ」
「いいえ。わたくしも憑き物が落ちた気分です。重荷を下ろしたお陰で心地よいくらいですよ」
そうか。
私の新しい願いの為に犠牲を強いてしまっていたかと思っていたが、
例え建前でもそう言ってくれるなら助かるという物だ。
「シバレリア帝国軍、出撃!」
「わたくしたちの国威を見せるのです、隊列を崩すな!」
「「「「皇帝陛下、万歳!ウラアアアアアアアーーーーーッ!」」」」
しかし、皮肉な物だ。
魔王の城を勇者が……おっと、今は皇帝だったな。
呪いにやられぬよう、気持ちもきっちりと切り替えておかねばいかんだろう。
ここまで大きくなった我が国を、今更失うのも癪だ。
……しかし、運が開けた物だ。あの者には本当に感謝せねばな……。
……。
≪side ガルガン≫
「のう、村正よ。……飲みすぎじゃ」
「うるへー。のんでなきゃ、やってられっかいでござるよー?へへへへへへ」
哀れすぎる。
先日カルマの消息がわかったらしいと喜んでおったと思ったら、
今度はいきなり連夜、潰れるまで飲み続けておる。
一体何があったのやら。
「だいたい、カルマ殿が竜だとか言われてもぜんっぜん理解できないで御座るよーっ?」
「人が竜になる訳ないじゃろ。少し落ち着かんかい」
「……ううう、信徒連中は全部拙者が悪いって虐めるので御座るよ。もうやってられぬで御座る」
「落ち着け村正。お主がしっかりせんで誰がこの国を引っ張るのじゃ?」
ただでさえ食い詰め傭兵が多数押し寄せておるのじゃぞ?
竜の信徒とやらも何か分裂して争っておるそうじゃし、
……本当にしっかりしとくれよ……。
……。
≪side サンドール将軍・セト≫
はっはっはっは!笑いが止まらんな。
前回の戦では北東部の一部を得たに過ぎんが、今度は国一つ飲み込めそうだ。
「セト将軍、指揮官不在、如何?」
「アヌヴィスか。指揮など不要だ。奴隷どもの欲を撫でてやればそれで良い」
現に略奪した物を全て与えると宣言したその日から進軍は快調そのものではないか。
これ以上何をする必要がある?
俺達は酒でも飲んで勝利の報を待てばよいのだ。
「呆。我、指揮代行。許可、求」
「お前がやるなら安心だな。全軍の指揮を任す。好きにやれ」
「……承知」
呆れたような表情を浮かべアヌヴィスが天幕から出て行くが、あれも心配性な事だ。
奴隷など幾ら死んでも二束三文。
一度負けようが二度負けようが、次々新手を呼び寄せれば良い。
「傭兵国家を下したら次は商都か宗教都市か……フフ、笑いが止まらん!」
暫く前まで遠征軍どころではなかった。
カルーマ商会から流れ込む資金に感謝せねば。
あの商会からの税収のお陰でこれだけの軍が編成できるのだからな?
「あの……カルーマ総帥が大公に任ぜられたと言う話は本当ですかのう?」
「何だ、居たのかアブドォラ」
今回の遠征で一応の俺の副官となっているアブドォラがおずおずと話しかけてきた。
ふふふ、コイツも少し前までは国でも有数の奴隷商だったのにな。
欲を出して貿易の真似事なぞするから財を失う事となる。
……まあ、お陰でコイツの所有していた奴隷達が極めて安値で手に入った。
俺としては願ったり叶ったりだ。
「その通りだ。ハラオ王は年間金貨五千枚の朝献を条件に奴をレキ大公とした」
「そんな。わしは確かに奴が外国人だと伝えた筈なのに……」
馬鹿かコイツは。
今更誰もそんな事気にしていない。
とんでもない大金を毎年落としてくれる奴等を自ら追い出すような阿呆が居ると?
しかも、気付いているかは知らんがコイツのやった事は明らかな背信行為。
偉そうに王の前で密約の事を話していたが、
後ろから刺されても最早文句の言えん立場なのだぞお前は?
……とか何とか誰かが言っていたような。
まあ、俺には関係ないがな。
「そんな事よりアブドォラ。兵が足りん。三日以内に五百の奴隷を連れて来い」
「……ははぁ。……わしは結局、奴隷商以外にはなれぬのか……」
んー。と言うか、恐らく奴隷商にも戻れんだろうとアヌヴィスが言っていたな。
契約相手との密約を勝手に反故にするような奴は最早信用されんとか。
俺でもそれぐらいは判るぞ。
今は軍の後ろ盾があるから良いだろうがな?
「くっ、くそっ。やはりあの男は疫病神だったんじゃ!」
かつての大商人も老いたものだ。
まあ、適当に利用して後はポイだし、どうでもいい。
さて、アヌヴィスにだけ任せるのも手柄的に問題だな。
俺も少しは手柄を稼いでおくか……。
「よし、そこの奴等俺に続け!金目の物を探しに行くぞ!」
「「「おおーーーっ!」」」
そう言えば。レキの連中は今頃どうしているかね?
連中、捕虜を欲しがっていたらしいが……幾らか手に入れておくか。
俺も小遣いが欲しい所だしなぁ?
……。
≪side ??≫
繋がった。
幾度か危機に陥り、その度に感じる事となるこの感覚。
……魔力には使用者の人格が宿る。
そして、呪いとは魔法である。
呪いは殺害者に対し嫌がらせを行う。
だが、同時にそれは次世代の者には高い身体能力と魔力と言う福音として現れる。
故に、呪いを受けた一族同士はいずれ出会う。
何故か?有能なものはいずれ頭角を現すものだからだ。
そして……何時か血は結ばれる。
分かたれた魔力が出会った時、わらわは再び蘇るのである。
これが、わらわが最強たる証明。
敗北したものの子孫となりその力と戦術を受け継ぎ、
更に先代より受け継いだ太古の英知と組み合わせて己の力となす。
……それは、この身がこの世に生み出された時より続く使命がため。
その存在が始まった時既に与えられていた世界を守るための力なのだ。
わらわはそうやって、幾度と無く殺され、そして生き返ってきた。
……まあ、ここ数百年では久々であったがの。
ふふ、ふふふふふふふふふふふふふふ……。
『ふははははは!……わらわは、ここに、蘇り!我こそ魔王!魔力の王にして管理者なり!』
……。
「先生!赤ちゃん出来た……!」
「なんだってー!?つーか、結婚式は昨日……」
しかし、わらわ、か。
此度は女として生まれてくる訳だな?
……しかも、先代の孫が父か。
面白い事になってきそうじゃのう?
『て言うか、俺の、俺の子が……魔王?』
「先生、この子は天才。もう古代語覚えてる」
「あ、いや…………そうだな、ルン」
「私も古代語使えればよかった。赤ちゃんと、お話したい……」
ふふふふふふ、さあ、おののくが良いわ!
どうするのかの?
我が子を殺せるのか、父よ?
『だが、おなかの子は知らない。自らがあたしの玩具にされることなど……なんつて』
は?
誰だ、おぬしは?
***大陸動乱シナリオ1 完***
続く