幻想立志転生伝
43
***建国シナリオ3 レキ大公国の誕生***
~魔の管理者・戦竜公カール~
≪side カルマ≫
ある日の早朝……薄暗い地下室に剣戟の音が響く。
黒金の鎧を脱ぎ捨てた俺に相対するのは緑鱗のリザードロード、スケイルだ。
先日の戦いの反動で死に掛けた為、体を心臓に慣らす必要がある。
その為、普段やっている素振りなどのメニューの他にこの組み手を始めたのだが、
その相手を務めてもらっている訳である。
『……ふむ、強化魔法無しでもこの身体能力か。心臓に引っ張られ確実に強化されているな』
「違うぞスケイル。俺だって、少しは……成長してるんだよ!」
お互いに手にしているのは練習用の刃の潰された鉄の剣だ。
とは言え、俺の正規武装自体が刃の潰れた剣のため感覚的にはいつもと大して変わらない。
そのお陰か?数十回ほど斬り合いを続けているが、
何とかスケイルの動きに付いて行く事が出来ていた。
『では次だ。……この一撃を受けきれるか!?』
「捌ききってやるさ、ってうわっ!」
流石に強化魔法まで使ってしまうと勝負にならないため魔法を使わない条件下だが、
純粋な剣術であのスケイルと渡り合えている事実は俺に確かな自信を与えてくれる。
今も体重を込めたジャンプ斬りを体捌きだけで回避出来て、
『俺の攻撃が一撃で終わりだと思ったのか?』
っと!……切っ先を此方に向けそのまま神速の三段突き!
辛うじて二回目まではかわしたものの、最後の一撃が間に合わず思わず剣で受けてしまう。
スケイルの剣は俺の剣に阻まれ前進を止めるが、
……俺の剣も鍔迫り合いだけで精一杯か!
下手に動くと隙が出来る。さて、どうするか?
『よく受けきった。だが、この状態からどう反撃に移る気だ?』
「普段なら魔法で攻撃する、かな?」
『お前なら確かに正解かも知れんが、その隙を敵が与えてくれるとは限らん!……60点だ』
「ぐあっ!?」
突然の体重移動。剣をいなされ、俺は勢い余ってつんのめる。
そこに容赦なくチョップでの追撃。
対処する暇などあるわけも無く、俺は無様に地面に叩きつけられていた。
『今日は、ここまでだな。仕事に差し障る』
「……ああ」
心臓を体に慣らすには実際に使うのが一番。
軽く筋肉痛になるくらいに体を動かしていれば、
いずれ超回復により体が心臓になじんでくる。
と、ファイブレスが言うので毎朝こうして体を動かす事にした。
あの運命の日から一か月あまりが経過しているが、
体を動かすついでにスケイルやホルスに鍛えてもらっているお陰で、
体術や剣術は随分鍛えられたと思う。
『しかしな。まさかお前ほどの有名人が武術や剣術では基礎しか知らんとは思わなんだ』
「親父との訓練は、基本的に基礎と体作りがメインだったからな」
さもなくば死の一歩手前としか言いようの無い組み手とかな。
此方も武器とかを工夫して必死の抵抗をしていたが、
あの親父はその度に此方の上を行く行動で此方の抵抗を封じ込んでいたっけ。
……まさしく九割九分まで殺しかけときながら、
それでも最後の一線だけは越えない鍛え方。
しかも、不甲斐無さ過ぎると飯抜きと来たもんだ。
あれなら俺のような元一般人以下の体力と根性でも、否応無く強くなるってもんだ。
ま、親父には感謝すべきなんだろうな。
あのシゴキのお陰で生き延びている部分も多々あるし。
『……良い師を持ったものだ。その基礎と体力があってこそ安心して応用を教えられる』
「よくある話ではあるな。まあ自分がそれを実践する羽目になるとは思ってなかったが」
汗を取り出したタオルで拭きながらごろりと仰向けになる。
ひんやりとした床が動き回って火照った体に気持ち良い。
……治癒などで強制的に回復するのではなく、自然治癒に任せる。
それが成長の為に必要らしい。
故に、わざわざ時間をかけて訓練と回復を繰り返している訳だ。
『本当に理解しているのか?お前の体はずっと先を見据えた鍛えられ方をしているのだぞ』
「確かに親父は農夫してるのがおかしい所もあったしなぁ……なんで兵士辞めたんだろ?」
『……近すぎて、偉大さに気付かない、か』
「なんか言ったか?」
『いや……それより早く部屋に戻った方が良い。そろそろ仕事時間だろう?』
「そうだな。それじゃあそろそろ行くか」
全身の汗を拭き、黒金の鎧を装備する。
そして、地下室から出て俺の部屋……君主の間へと戻る事にした。
再度言うがあの冠を押し付けられた日から一ヶ月が経過。
……レキ大公国の建国の儀は、一週間後に執り行われる事が決まっていた。
俺はそんな訳で国一つをでっち上げる必要に迫られていた訳である。
この訓練はそういう意味では良い気晴らしでもあったのだ。
……。
「にいちゃ、くんれん、おつ、です」
「お疲れ様であります!」
「にゃ~。に、にいちゃー……疲れたよー。遊びたいよー」
「自業自得だアホ妹」
部屋に帰ると執務用机の横に小さなテーブルと蟻ん娘が並んでいる。
……そして、その周囲を取り囲む大量の書類、書類、書類。
アリサは疲れ果てその中に突っ伏しているが……当たり前だ。
何も無い所に国一つでっち上げるとしたら取り決めないといけない事なぞ、
それこそ星の数ほども存在するに決まっている。
「……忙しくて死にそうだよー」
「あ。あたしのおしごとじかん、おわり、です」
「こうたい、するです。……ばとんたっち」
「あたしの交代要員はまだ来ないでありますか!?」
目の前でアリシアが椅子から立ち上がり、代わりに別なアリシアが席に着く。
そして書類に目を通しハンコを押していく。
……アリスは交代要員が遅くなってるらしく涙目。
アリサに至っては、
「お姫様って、忙しいんだねー。…………むがあああああああああああっ!?」
「建国なんて大事なんだ。そりゃあ書類も増えるさ。……さて、俺もノルマを片付けるか」
暴走寸前だったりする。
生まれた時から女王蟻のアリサは実の所"お姫様"と言う響きに憧れていたらしい。
まあ、生まれた時から女王様でお姫様時代が無かったからなコイツは。
取り合えず色々と夢を見ていたらしいが……甘い甘い。
一般的お姫様ならのんびりと紅茶でも飲んでアイドルみたくしてれば良いのかも知れんが、
我が勢力には文官があいも変わらず不足している。
当然、アリサには能力も責任もあるので大量の仕事が回ってくる訳だ。
……他にカルーマ商会の仕事も減る訳では無いので……まあ、修羅場な訳だな。
「いちまーい、にまい、さんまーい……いちまいたりない、です……あ、あった、です」
「しくしくしくしく……お姫様なのに。あたしお姫様なのに……」
「アリサ、取り合えずノルマ終わったら一緒に遊ぶであります。それまで頑張るであります」
とは言え、泣きながらも書類の山は確実に減っている。
さて、俺も負けていられんな?
……ってアルシェが部屋に入ってきたんだけど……何その木箱?
「あ、カルマ君?これ、書類の追加。法整備がどうとか言ってたよ?」
「なんてこったい!」
「鎧兜一式入っててもおかしく無い大きさの箱なのに中身は書類!?ありえないよー!?」
「……じーざす。です」
「こ、交代のあたし、早く来るでありますよ……」
一ヶ月前からこうなので大分参ってるな。
……俺含めて。
まあ、それでも昼過ぎまでには書類の山は消滅し、
「遊ぶぞー、食べるぞー。……でもその前に寝る!……すぴー」
「アリサ。……ゆかで、ねちゃ、だめ、です!」
「……取り合えずベッドまで運ぶでありま……すぴー」
「おーい、アリシア。他のアリスを二~三匹くらい連れて来い」
「……はいです。べっど、つれてく、です、はふー」
疲れ果てて昼間なのに床で寝っ転がるチビ達。
児童福祉とかそういう物に引っかかりそうだが、そこはそら、人じゃないし。
……ついでに言わせて貰えばこいつ等全員成体、要するに大人なんだよな、種族的に。
「あ、そうだ。向こうも見回っとくか」
ふと思い出したので部屋に敷かれた絨毯をめくり、隠し部屋その一へ向かう。
ま、なんだな。いざと言う時の備えって奴だ。
因みに強力かけてやっと開く程度の石造りの床板が入り口なので、
事実上俺専用の入り口だったりするが。
……そして垂直落下する事約一分。
更にそこから3m級大型兵隊蟻に乗って迷路を進む事数分……少し開けた場所に出る。
ここが今回の目的地だ。
「あ、にいちゃ。みまわり、おつ、です」
「今日も順調に育ってるで有りますよ」
そこには薄暗い地下室。そして大量の樽。
……但し中でバチャバチャと水音が。
内容物は砂糖を加えた生理食塩水。
そして胎児モドキのクリーチャーがひと樽につき一匹づつだ。
「大分育ったなコイツも。まるで昨日とは別人だ」
「それ、別な子であります」
「にいちゃ。きのうのは、あたし、です!」
樽の蓋を開けると複眼がギョロギョロとした胎児の様な生き物が、
砂糖入り食塩水の中を泳いでいる。
……要するに蟻ん娘の幼体だ。
食糧事情の良くなったこの一族は、こうして人目につかないように増え続けている。
ぶっちゃけると何がチートってコイツ等の存在自体がチートなんだよな。
力はあるし知恵もある。ついでに数もあると三拍子揃っている。
「おは、です」
「あたし、誕生!であります!」
「にいちゃ、だっこ、です」
「さて、生まれたでありますし、さっさと掃除に行くでありますか」
ごろん。と何個かの樽が倒れ、今成体になったばかりの個体が数匹這い出してきた。
……同型のロードは自我はある程度別として、記憶と価値観を共有している。
よって、生まれ次第すぐに生産活動を開始するのだ。
卵から孵化し、成体になるまで僅か二週間。
そして成体になった途端に別な個体と同等の働きが出来る。
しかも、各個体が成長し習得したスキルは同類全個体に適応されるという凄まじさだ。
……正直、何でコイツ等が今まで天下を取れなかったのか。俺には理解できない。
いや、本当は判っているんだ。
だってコイツ等……種として誕生してから一年経ってないし。
「明らかにお前等の"おかーさん"とかとは違うよな、お前等は」
「少し人に近いでありますよ。にいちゃの遺伝子が組み込まれてるでありますからね」
「……ていうか、にいちゃ?ハピが、さがしてる、です」
あ、もうそんな時間か?
確か午後は……新規採用の面接だったな。
「……じゃあ帰るから3m級兵隊蟻呼んでくれ」
「あいあいさー」
なお……既に蟻ん娘だけで千匹を超えたらしい。
これで自国内の情報網に関しては完璧との報告が来ているが、
……個人的には子蟻含めた全体数のほうが気にかかっていたりする。
なお、増え過ぎた時は出産制限も余裕なんだとか。
相変わらず異常以上だよなお前等……。
「じゃあな。頑張れよ?」
「生まれたばかりの子蟻に対し、何と言う荒い人使いでありますか」
「とりあえず、ごはん、たべてから、です」
そんな訳で新規増殖分の蟻ん娘との語らいを終え、俺はまた地上に戻る。
そして。
「総帥、何処に行ってたのですか!?大事な時期なのはご理解頂けていると思っていましたが?」
「ハピ。マジでスマン」
見事に怒られました。
……。
さて、面接である。
現状では正直一国興すには人材が不足していた。
そんな訳で、俺が一番に命令したのがこれだったりする。
「……ハピ、今回も粒揃いとは行かないか」
「仕方ありません。有能な者の殆どはとっくに何処かの組織が抱え込んでいますし」
謁見の間でこれぞと思った人材と実際会ってみて、仲間に加えるべき人間かどうか判断する。
やっている事はそれだけだが、有能な人材はまさしく宝物だ。
……今後書類の山に埋もれる事を無くす為にも、
特に文書管理や内政に心得のある人間を集めねばならない。
「今回も、当方の存在を知るサンドール系の人間が多いですね」
「だが、ドイツもコイツも精々読み書き出来る程度か……それを売りにされてもな」
この世界観で読み書き出来ると言うのは確かに特殊技能に加えても良い程度には珍しい。
とは言え此方としては秘密を守れて、かつ有能な人材が欲しいのだ。
そんな思いを胸にまず書類選考(本人に無断で調査)から開始。
そしてこれぞと思った人間をこっそり連れてきて面接、と言うか交渉開始だ。
そうやって文官中心に、今日までに十数名の採用を決めている。
……だが、企画の立案から進捗管理まで出来るような人間は中々捕まらないでいた。
「今回確保した連中じゃあ、言われたとおりやるのが精一杯だろうな」
「総帥。それが出来るだけでもありがたいのですよ?現に本当に助かっていますし」
細かい所を任せられる人材が居るだけで随分違うのはこの世界も同じ。
支店長クラスがちり紙一枚分の伝票まで全部起こさねばならない現状が間違っているのだ。
ならば、軽く読み書き出来ると言うだけでありがたい、そう言えるのは確かである。
「だがなぁ。出来れば国家の中枢を任せられる人材が」
「……でしたら私めにお任せを、ハイ!」
「だ、誰ですか!?衛兵、それにあの子達の警戒網を潜り抜けるなんて!?」
「べつに、きけんな、おじちゃんじゃ、ないです」
「マナリアでいつもお菓子くれた、良いおじちゃんであります」
「ね?子供は正直ですよね?ハイ」
「それは良いのですが……何故その子達を小脇に抱えて登場されるのです?」
「幼女を愛でずして何を愛でろと仰るのか貴方は!?」
……その男は突然現れた。
音楽室の肖像画になっていてもおかしく無い、そんな容姿。
貴族然とした姿。……現にその男は貴族だった。そして紳士だった。
元マナリア王立魔法学院の名物教師、ルイス教授。
彼は研究者でもあり、また内政官でもあった。
まあ、ご覧の通り変態紳士だけどな?
「何しに来たんだルイス教授……今忙しいんだけど?」
「ふふふ。カルマ先生も水臭いですね?私めも貴方の国づくりをお手伝いさせてください」
「正気か教授?此方の幕僚になるって事は国を捨てるって事だぞ!?」
「このルイス、幼女100人に請われて動かないような冷血漢ではありません、ハイ!」
幼女百人って……あ、アリスがピースしてる。
全く、危ない事をするもんだ。
コイツは某作家と違って真性のロリコンだぞ?
……まあ、手を出すような下衆ではないのが唯一の救いだが。
とは言え、
「マナリアの内政を一手に引き受けてきたアンタが来てくれるのは正直ありがたい」
「そんなに優秀な方なのですか?」
「ああ。教師してた時に確認した」
「内政なんて面倒でしたけどね。まあ研究資金の為には仕方ないですよ、ハイ」
と言うか、教授とか言われているが本職は魔法研究者だ。
それ以外の仕事は研究資金を出させるためのバイトに過ぎないと豪語してたっけ。
実際マナリア、と言うかあの宰相はあまり政治に関心が無かったらしく、
初代様が残した遺産を全て食い潰さない程度の施策しかしていなかった様だ。
かなり完成していたとは言え、数百年前に作られたシステムを守る事にこだわっていた訳だな。
魔法だけで全てが回せる訳ではないのだが、それを何人が理解していた事か……。
なお、各領主は自分の領地を富ませる事には拘っていた為税収はそれなりに高く、
国そのものが揺らぐことは無かったと言う。
「ま、お任せを。私めは可愛らしい幼女が居る所なら、地の果てまでもやって来ます、ハイ」
「文字通り、そして相変わらずだな教授は……」
因みに、心配になってルンの事を聞いてみたら、
あろう事か"育ち過ぎ"とか言う答えが帰って来た。
……まさしく真性の変態紳士である。
「同好の士……もとい同輩の内務官も数名連れてきました。勿論貴方に忠誠を誓いますとも」
「「「「「幼女いっぱい、ハァハァ。……我等幼子を見守る会!」」」」」
まあ、一応断言するが全員"紳士"ではあるのだ。
子供に手を出すのは犯罪と言う事だけは徹底しているからな。
ただ……遠くの木陰から息を荒げてチビどもを凝視し続けていたりするので、
アリシアたちが思わず冷や汗をかいてしまう程度には変態なのだが。
それでもマナリアから追い出されなかった事が、逆説的に彼等の有能さを証明している。
……嫌な証明だけどな?
ああ、そうだ。
もうどうせ受け入れざるを得ないだろうから理解あるところでも見せておくか。
「……今度小学校を作る。そっちの教師役も頼んで良いか?」
「むしろ望む所!」
「話が判るな先生!」
「国を捨ててきた甲斐があったってもんです!」
「テンション上がって来た!」
「ありがとう同志よ!」
……え、と。
取り合えず悲願だった内政面の人材は揃った……んだけど嬉しく無いのは何故だろうな?
「と、とりあえず、おうち、あんないする、です」
「ふおおおおおおおっ!アリシアちゃん可愛いですよアリシアちゃん!」
「一応言っておくけど……手を出したら殺すぞ?」
「は?手?……失敬な。幼女とは花、そして花は遠くから愛でるから美しいのですよ、ハイ」
「そ、そうか……」
「あ、それとこれ、幾つかの試案を纏めておきました。目を通しておいて下さいね、ハイ」
そう言って、封筒一つを放り投げると、
かなりのハイテンションのまま去っていくルイス教授、及び彼の率いる変態教師陣。
……一応、一回姉姫側に寝返ってから此方に逃げてきたという形を整えているらしく、
リチャードさんに怨まれる可能性は低いようだが……。
今後のマナリアに一抹の不安がよぎる結果となってしまった。
まあ、もしかしたら変態が消えて喜んでるかも知れんがな?
「……能力は本物なのですね。この試案、かなり練りこまれてますよ」
「母子家庭支援、遺族保険、養護施設の充実や扶養手当か……良くこの時代に思いついたもんだ」
全部子育て支援系なのが教授らしいが……。
俺には思いつかない細かい部分の問題点まで洗い出してある。
これは殆どこのまま使えるぞ。
……取り合えず女の赤ん坊が居る家の優遇過ぎる所を直したら、だがな?
……。
さて、そんなこんなで朝は特訓、昼から夕方にかけては君主の間で政策立案という日々が続く。
国内の引き締めの為、アリサ達に蟻の秘密警察を設立。
誰にも知られずに犯罪者はその場で排除する形を取る事で善人が暮らしやすい街を目指したり、
スパイの洗い出しを進めたりしている。
ここでのミソは秘密警察が存在する事自体を誰にも悟られないようにする事。
……引越しが多いけど、こんな荒野だから嫌気がさす人も多いよな?
などと白々しい事を言ってみる。
特にスパイに関しての応対は厳しくしろと言っておいた。
情報を制する物が勝利に一歩近づくのは古今東西変わらないからだ。
……敵は全員内情的に丸裸になってもらう。
こっちの情報?まともなのは一欠けらもやらないけど何か?
そんな訳で、今日も秘密の地下室でスパイに対する尋問が続いている。
「別に喋らなくて良いよー。ちょっと子蟻を脳味噌に侵入させるだけだからねー」
「だいじょうぶ、です……ちょっと、かんがえかた、かわるだけ、です」
「価値観弄ってやるのであります!今日からおじさん、あたしらのシモベであります!」
「何をする貴様等ーーーーっ!?」
「ころしてでもうちの子にするよー」
「本当はあまり人格否定はしたくないでありますが、仕方ないで有ります!」
「さようなら、ひとのこころ。こんにちは、ありのしもべ、です」
……しかしどう言う訳かコイツ等にとっ捕まったスパイは例外なくこっち側に寝返るんだよな。
世界はロリコンで出来ている、なんて訳は無いと思うんだが……。
まあ、情報がどんどん入って来るようになったし別に良いけどな?
あ、部屋にアリサが入ってきた。
「兄ちゃ、あのスパイさんこっち側に付いてくれるって」
「そうか。……教団側からの離反スパイはこれで三人目だな」
「じゃあ、今後は偽情報を掴ませまくるね」
「いや、八割がたは正確な情報を掴ませろ。偽情報はここぞと言うときに取っておくべきだ」
「じゃあ、知られて困らない事は普通に流させるねー」
「頼む。それとどんな情報を流したかは判るようにしておけよ?」
……アリサを下がらせて、一人物思いにふける。
マナリアで発見されたリボルバータイプの拳銃は量産に手間取っているようだ。
……なんでも基本的な技術力の問題で同じ大きさで作れないのだとか。
見せてもらったが殆ど六連発式の大砲といった状態である。
これでは個人で持ち歩く事など出来まい。
弾薬の方はどうにかなりそうとか言っていたが、器が無くては意味が無い。
火縄を通り越していきなりこれを実戦配備できたら凶悪な威力だろうが……。
まあ、それはおいおいと言う事にしておく。
火薬はあるのだから取り合えず外道兵器の代表格、対人地雷の製作を急ぐべきだろう。
え?人道?残念だけど、家族や仲間守るだけで精一杯でな。
敵の人権まで守ってやれんのだ。……ま、いざとなれば魔法で手足くらい生やせるからな……。
しかし、そう言えば……鉄砲モドキは現状でも使えない事は無いのか?
……良く考えておこう。
……。
さて、お次は外交面だ。
取り合えず名目上の主君であるサンドールに擦り寄っておくのは確定として、
そのほかの勢力との関係はどうするべきだろうか。
……何をするにもカルマの名がネックになる事が多い。
竜の信徒達が俺の事を悪く言いふらしてるお陰でトレイディアでの俺の評判は底値だ。
こうなると何を言っても無駄なので新聞も追従させている。
……マスコミが手のひら返す日を楽しみにしてやがれ、連中め。
などと思いつつ、ともかく現状ではトレイディアは敵といっても過言ではない。
サクリフェス?論外だろう。
事実上のトップが狂人。それに母体の神聖教団にとって俺は怨敵以外の何物でも無い。
潰すか潰されるか、それしか無いと思われる。
現に連中は何人ものスパイを既に送り込んできているしな。
マナリアも大問題が一つ。
……現在彼の国は内戦の真っ最中なのだが、現在国が東西に分かれてしまっている。
王都を中心に中央から東部を辛うじて維持しているリチャードさんの東マナリア。
そして姉姫のティア19世がサクリフェスの支援の下、西部を制圧下においている。
これを便宜上西マナリアと呼んでいる。
……さて、その問題だが……双方から俺個人宛に救援要請が来ているのだ。
リチャードさんはともかくティア姫の方は何で……とも思ったが、
考えてみれば幽閉状態のあの人を助けたのは俺とその一党と言う事になる。
当然、向こうは俺を味方だと思っているのだ。
そう、どちらも俺を味方と思っているのでこれまた手を出し辛い。
それに他国の内乱に関わっている暇は無いんだよなこれが。
おまけに一時とは言え教え子だった連中から個別に手紙も来るし……。
ま、こうなるとだ。……例えルンの母国でも、現状は自国側を優先させる他無い。
故に、手紙?届いてませんよ?のスタンスで無言を決め込むしかない訳だ。
……さて、続いて傭兵国家だが……。
あいつ等は良く考えれば金さえ出せば味方に付けることも可能なのでは……ん?
「カルマ君、ちょっといい?」
「ん?アルシェか……どうした?」
「ちょっとね。サンドールが傭兵国家に攻め込んでるって言うじゃない」
「ああ。けど助けてはやれんぞ?一応宗主国だしな」
部屋に入ってきたのはアルシェだった。
新兵の訓練を頼んでいたが、中座してきたのだろう。
……因みにルンはサンドールからの使者と会談中である。
考えてみれば国際的なマナーと言う奴を一番上手く出来るのが他ならぬルンなのだ。
貧乏とは言えそこは歴史ある公爵家の嫡子だっただけはある。
何だかんだで細かいしきたりとかに関しては俺達の中では抜きん出ている。
そんな訳で外交の席では俺の代理を頼んでいる訳だ。
今も面倒な交渉が続いているのだろう。
……。
「……と言う訳でして、朝献の他に軍費を金貨一万枚ほど用意して頂きたく」
「貸与なら可。もしくは奴隷千人と交換」
「奴隷を千人も!?無茶を言わないで下さい!」
「なら貸す。金利は年間三割で」
「ふざけないで頂きたい!そも、我が国が本気になればこんな都市国家一つくらい!」
「だったら、代わりに捕虜を此方に回して」
「それは一体……?」
「労働力が足りない。戦時中に捕らえた捕虜を一人頭金貨一枚で引き取る」
「捕虜を買い取りたいと?」
「そう。……これなら貴方達の懐は痛まない」
「……ふむ……しかし護送費用もかかりますし出来れば金貨三枚ほどは頂きたいが」
「なら奮発して金貨五枚出す。……これで契約成立」
……。
このように微妙な交渉も何だかんだで此方に有利なように持って行っているらしい。
あのホルスが絶賛していたくらいだし、かなりの手腕である事は確か。
今回の交渉でも金の代わりに捕虜の身柄……それも傭兵が手に入る事になりそうだ。
因みに数字の押し引きがやたら上手いとか言われてるようだ。
実際大した交渉力だ。意外な特技だといえよう。
まあ……なんだか、値引き交渉の延長線上にあるような気もするがな?
そういや……事実上ホルス、ハピ、ルンの三人だけなんだよな。
まともに外交が出来そうなのは。
俺?殺すか殺されるかになる可能性が高いな。
友好的な会談でも嫌味を言われ続けたら即座にキレる自信があるさ。
何せ向こうは言葉のプロだし。
……さて、脱線はここまでにしておくか。
アルシェの話も聞いておかないと。
「で、何かあったのか?」
「うん……以前鍵開け名人の話はしてたよね?」
ああ、結局必要にならなかったが、首輪を外せそうな心当たりの人か。
確か傭兵国家に住んでるんだよな。
それがどうかしたのか?
「いやね。実はその人が昔僕を拾ってくれた傭兵団の人でね。……少し心配でさ」
「ああ、親元から逃げた後に拾われたって話か」
成る程、親代わりだったわけか。
道理であの状況下で首輪を外せる人間として推せた訳だ。
普通なら俺を捕らえて賞金貰う方に動くだろうしなぁ。
「要は、安否が知りたい訳だな?」
「うん。出来れば」
まさか嫌という選択肢はあるまい。
情報収集のついでに出来るし。
「了解。多分数日中には結果が出るだろ……で、どんな人なんだ?」
「名前はタクト。ちょっとビクビクしてるけどこれで中々に国内では顔の効くおじさんだよ」
「……ん?アリサ達の報告書に名前があったような」
「チーフの片腕だもん、当然だよ。傭兵国家の会計責任者だし」
確かフルネームをタクト=コンダクターとか言ったか。
あまり表に出てこない、傭兵の中では異色の存在だ。
武闘派揃いの傭兵国家でほぼ唯一の内政系か。
他には開かない宝箱の開錠とかで食っている人らしい。
……重要人物過ぎるぞ、この人。
これはもう改めて調べるまでも無いんだけど?
「大丈夫だ。その人なら無事だ……と言うか前線に出る人でも無いしな」
「そっか、安心した。ありがとねカルマ君!」
それだけ言うとアルシェは安心したのかニコッと笑うとまた部屋を走り出ていく。
新兵の訓練に戻るのだろう。
しかし……これで傭兵国家への対応は決まりかな?
アルシェの家族なら俺にとってももう他人では無い。
それに傭兵連中は戦力としては何だなんだで大きいと思うのだ。
幹部クラスに仲の良い人間が居るならその伝で関係改善が出来るかもしれない。
ま……今回の戦争、傭兵国家が守り抜ければの話だけどな。
さて、次は……。
『待て。少し話がある』
「ファイブレス?どうした?」
『あのマナリアとか言う人間の国に関してだが……共倒れには出来ぬか?』
「おいおい、いきなり何を言い出すんだ!?」
今度はファイブレスか。
しかもいきなり笑えない内容を言い出しやがった。
『あの国の内乱を知って少し考えたのだがな。要らぬ魔法を失伝させる良い機会だと感じた』
「笑えないな」
『それに術の使い手自体が激減すれば、少しは世界の歪みも正される』
「故意に被害を拡大させろと?」
とはいえ、言いたい事は判る。
この世界には無駄な魔法が多すぎる。
……その一つ一つが世界を歪ませているのにも拘らず、だ。
要するに特にマイナーな魔法の使い手に戦死してもらい、
更にその術式を記した書物を焼いてしまえば幾つかの術は失われる。
竜と言う立場からすれば、使用される魔法は少ない方が管理しやすいのだろう。
『既に彼の宰相は滅び、術式作成の技術はこの国にしか存在せぬ』
マナリアから移設した術を作成する為の魔方陣は、今やこのレキの地下奥深くにある。
作成に必要な魔力は俺自身で時間さえかければ生成可能だ。
魔法の本場マナリアでは既に失われた技術でもある。
……あれ、そう言えば……?
「つーかさ。そんなに魔法が邪魔なら、要らない術を消し去る方法は無いのか?」
『そんな便利な物は無い』
「じゃあ、作れば良いだろ?常考」
『は?』
……。
思い立ったが吉日。
そんな訳で地下魔方陣までやってきました。
『術式形成を宣言!新規術式"術式崩壊"を設定』
『該当魔方陣に魔力供給開始。安全装置設定……暗号壱、設定終了。暗号弐……使用者限定』
『効果設定……完了。消費魔力など各種使用制限を計算……完了』
『現象操作機構機動!術式形成…………完了だ!』
さて、これが俺の初めての魔法作成となるわけだが。
……試してみるかな?……筋肉痛がぶり返す前に。
では、何を消すか?
……うーん。俺が普段使用してる奴はどれも必要だしな。
ああ、そうだ。他者の尊厳を破壊するあの凶悪魔法を消しておくか。
さて印は……両腕を丹田で組み上げて、と。
『彼の術式はこの世に要らず。世の理よ、有るべき姿に!』
自らの設定した"異常な理"が他の異常を破壊する。
まさしく毒を持って毒を制するの論理!
その魔法の名、それは……。
『偽りの理!その名は"腹内崩壊"なり!……術式崩壊(スペルブレイカー)!』
……僅かに周囲の空気が揺れた気がした。
更に、何かが崩壊したような感覚が全身を包む。
……そして、うめくような声。
『おお、おお、おお……僅かだが……僅かだが世界が修復された!』
「試す必要も無く効果確認!?」
術式崩壊は詠唱、印の双方をきちんと理解していないとならない、と言う制限はあるが、
対象の魔法自体を破壊し、世界の理を元に戻す魔法である。
コイツは本当に凶悪な術式だ。
もしコイツが発動したら、その魔法は未来永劫使用不可能。
但し、その修復は曲がった鉄の棒を無理に曲げなおすような物で歪みは残るらしい。
何度も同じ術を作り直すのは歪みが拡大する為に承服しかねるとファイブレスが言う事もあり、
あまり多用できる魔法ではないな。
因みに腹内崩壊の印はルン経由で知った訳だが、
もし知らなかった場合、術は発動すらしないようだ。
魔力消費も大きい。まさしく竜の心臓でも持っていなければ使えないだろうな、これは。
まあ、そんな訳で以上の複合的要因により、
そうそう乱発の出来ない術に仕上がってしまっていた訳だ。
「兎も角、これは対魔法使い用の切り札となり得るな」
『我が身としては、増えきった魔法の整理が出来る事に喜びを感じるがな!』
「まあ、そりゃそうか」
『カルマよ、お前も既に管理者の一員だ。我等が同胞として迎えようではないか!』
なんとも嬉しそうにファイブレスが言う。
まあ、魔法の管理者、制限者として生を受けながら、現実はこの状況だ。
一度放り出したとは言え、本来の役割に復帰できるのが嬉しいのだろう。
いいだろう。俺も魔法の管理者とやら、なってやろうじゃないか。
……。
「等と、数日前に思ってしまったのが運の尽きなのか!?」
『祝福はありがたく受けるがいい。人の身でそうそうある事では無いぞ?』
この日、城の前には国のほぼ全員が集結していた。
そう。レキ大公国の建国の儀、その当日なのだ、今日は。
俺は晴天の下、特設のステージ上で冷や汗をかいている。
恐らくその下で走り回っているホルスたちも同じ気分だろう。
「お前が呼んだのか!?」
『うむ、あの城壁の上に手をかけ此方を覗き込んでいる陸亀のようなのがグランシェイクだ』
「じゃあ、頭上を飛び回っている巨大なワイバーンは?」
『ウィンブレスだ。因みに横にいるのは以前会ったライブレスだな』
「ぴー」
「んでもって、この足元に居る秋田犬サイズのフタバスズキリュウは……」
『おお、アイブレス……再生したか。記憶は無くともお前はお前だ。歓迎するぞ同胞よ』
「いや、何で生き返ってるんだよ?」
『自我と記憶の初期化と引き合えに、心臓から新たに"生まれ直した"のだ。転生と言う奴だな』
「ぴー」
「何と言うチート種族……いや、魔法そのものだから何でもありなのか?」
……そう。竜族総登場と言わんばかりにドラゴンが押し寄せてきている。
いや、押し寄せるといっても数匹だけどな。
ただ、一体一体の存在感が生半可じゃないからえらい事に……。
「主殿!?これは一体!」
「兄ちゃ!周りの見物人達がパニックだよー」
「判ってる!」
どうすんだよファイブレス!?
このままじゃあ建国当日に崩壊しかねんぞ!
『それを治めるのがお前の仕事だろう?……汝を我等が同胞として認める、世界に秩序を!』
『ぴー』
『グォオオオオオオオッ!』
『人の子よ。"戦竜"の称号を授与します。私達も出来うる限り協力はしますよ。風と共に!』
『オレサマ、オマエ、マルカジリ、ハ、シナイ。コンゴトモ、ヨロシク』
……なん、だと?
あまりの異常事態に逆に冷静になる。
何か、良い案が浮かびそうだ。
深呼吸二回分ほどの時間を思考にまわして・……。
……思いついた!
『ファイブレス……竜連中に俺の指示通り動けるか聞いてくれ……それでだ……』
『了解した。まあ、この程度なら何も問題ないだろう』
……そして、次々に返って来る承諾の声。
自我が崩壊しているライブレスなどは軽く言い聞かせればどうにでもなるらしい。
それなら、いけるはずだ!
『来い、アイブレス!』
『ぴー』
口笛を吹くと、それを合図に先ずアイブレスが俺の腕に飛び乗る。
そして俺は片腕を天に向けて突き出し叫んだ!
「ウィンブレス!ライブレス!並んで叫べ!」
「キシャアアアアアッ!」
「グォオオオオオオッ!」
二頭の竜の咆哮に、集まった人々が硬直する。
そして、こちらの狙い通りに気付く連中が現れだした。
「おい、あの竜……大公様の命令に従ってないか?」
「そ、そんな馬鹿な」
「でも、あの腕に居るのも……小さいけど竜じゃない?」
「まさか!?」
ざわめきはいつの間にか収まっていた。
代わりに周囲に広がるのは驚愕。
「聞け!レキ大公国の忠勇なる臣民諸君!」
俺はそこに、言葉の爆弾を落としてやればいい。
もうこうなったら何でもありだ!
ヤケクソでもいい!兎も角テンションあがるような演説をぶっこいてやる!
「彼の竜達は我が友人。この良き日のためわざわざ集まってくれた者だ」
周囲の視線が俺に集中する。
……思わずゾクリと背中が震えた。
「何故か?坊やだから?そんな訳は無い!……聞け、我こそは戦竜。人であり、竜でもある!」
ごくりと喉を鳴らしたのは俺か、観衆か。
だが、もう止まらない。何処までも続けるしかない。
「諸君、聞いてくれ。我々は世界の負け組。三万程度の敗残者の群れに過ぎない。だが!」
思い当たる節がある連中も多いのだろう。
軽く頭を垂れる奴も居る。額に皺を寄せる奴も居る。
……だが、大半はその視線を俺から離そうともしない。
「今は俺という庇護者が居る。……俺に従え!そうすれば生きる為の糧はくれてやる!」
我ながら、何言ってるんだこの痛い人?状態だが……何度も言うがもう止まらない。
ここまで来ると厨二全開でも無いとやってられないのだ。
……自身の精神年齢に関してはもうこの際忘れておく。
「この地に俺達の理想郷を作り上げる!異論は認める!が、気に入らないなら出てけ!」
こんな建国宣言があるかい!
と自分自身で突っ込みを入れたくなるが、実は半ば以上本音である。
いや、不満分子抱えてる余裕はマジで無いから。
「従う物には幸いを!抗う物には滅びを!世界の動乱をこの世界の果てで嘲笑うのだ!」
いや、しかし我ながら俺自重しろ、だな。
何処の独裁国家だよこれ!?
「敗者にも再起の機会を!底辺より這い上がるチャンスを!それを与えられる社会を目指して!」
あ、これは元々の演説原稿の一説。
……やっぱり再起の機会は重要だよね?
「なお、これに先立ち……俺は己の名をカールと定める。……古の偉大な王の名だ」
そしてこれも予定通りの部分。
……カルマの名は何だかんだで破壊には適するが創造には適さない気がするのだ。
何せ商会が上手く行ったのも、なし崩しに改名したからの様な気もするし。
……因みにその後にこう続く。
「そして我等はこの地より世界と言う猛牛に挑む戦士。よってセカンドネームはマタドール!」
そして、いつの間にか世界でも有名になってしまった苗字をつけて完成と言う訳だ。
「俺の新たなる名はカール!……カール=M=ニーチャ!」
愛称にはカルマの名を残しつつ、
公人としての俺は今後こう名乗る事にしようと思う。
今日から俺はカール=マタドール=ニーチャ大公だ!
何と言うか……ネーミングセンスの余りの悪さに涙がこぼれそうだけどな。
……しかしまあ、随分遠くまで来たもんだと思う。
寒村の貧乏農民が遂に、ねぇ?
さて、締めと行きますか……演説の最後はやっぱり何かの宣言で終わるべきだろうし。
「ここに、カール大公の名の下にレキ大公国の建国を宣言する!」
……その瞬間、怒涛の轟音が大気を震わした。
「カール大公殿下、万歳!」
「戦竜公、万歳!」
「俺達の国に、万歳!」
「荒野の理想郷に、栄光あれ!」
人々の歓声に合わせるかのように竜が吼える。
そして、竜の雄叫びに呼応するかのように人々の歓声は更にそのボルテージを上げる……。
……それは幻想的なのか狂気の沙汰なのか判断つきかねる光景であった。
いや、しかし我ながら何をやってるんだか。
冷静になってみると演説は支離滅裂だし死ぬほど恥ずかしいぞこれ?
「戦竜公万歳!」
「万歳!」
しかも周囲の扱いが竜そのものになってないか?
ドラゴン達の視線が掛け値無しに友人に対するそれな上に、
どういうつもりか周囲のお爺さんお婆さんが俺を拝んでるんですけど?
「ありがたや、ありがたや」
「生き神様ですよ、おじいさん」
いや……俺、取り合えずまだ人のつもりなんだけどな……。
……。
まあ、こうしてこの日、
世界に新しい小国家が一つ誕生する事となった訳だ。
竜達の去っていく後姿を尻目に、祝いの宴が続いていく……。
だが世界の大半にとって、それは大したニュースとなりえなかったようである。
何故なら大陸では二箇所で大規模な戦争が今も続いている真っ最中であるからだ。
……取るに足らない都市国家の建国など実は大して珍しい事でもなく、
誰もが戦争時のドサクサでしかないと感じている。
それに、そもそもこの国の存在を知るもの自体が今の所殆ど居ない。
ただ……ごく一部には衝撃が走った事は確か。
それが、レキ大公国の最初の評価であった。
ま、俺としてはありがたい事だけどな?
本当は誰にも知られずに居たかったが……贅沢は言わんさ。
さて、明日も忙しそうだ。
先ずは何から始めるか?
「ぴー」
……取り合えず、アイブレスの寝床作りからだな。
しかしコイツ、なんでここに住み着いてるんだろう?
***建国シナリオ3 完***
続く