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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 38 聖印公の落日 後編
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/11 18:06
幻想立志転生伝

38

***魔法王国シナリオ7 聖印公の落日***

~王都壊滅記 後編~

≪side カルマ≫

かつて、いや数十分前までは荘厳かつ華麗であったであろうマナリア王宮は、

今や骸骨の化け物が徒党を組んで闊歩する死の都と化した。


「きりが、無いっ!」

「確かにそうだね。しかし、何時もの君はどうしたんだい……まるで動きが鈍いのだけど」

「この先生の場合、魔力が無いと動きも鈍くなるのよねぇ。魔力で強化してるからぁ」


正に幽鬼のごとく迫り来る骸骨たちを切り伏せ、弾き飛ばす。

戦力的には一般兵同等か少し劣るぐらいか。

だが、数百年間かけて集めたであろうその数は伊達や酔狂ではない。

それに、俺自身魔法が使えない事による副次的な弱体化にも苦しめられていた。


「……くそっ、思い切って突っ込みたいんだが……」

「無理はだめよぉ?今はナイフでも怪我するんだしぃ」


そう、いつもなら恐れずに突っ込んで切り伏せていられた筈のところでも、

思わず二の足を踏んでしまうのだ。

痛み、苦しみ……慣れたと思っていたのだが、無意識下ではそうでもなかったらしい。

躊躇無く切りかかれば無傷の所でも、ほんの僅かだが踏み込みが浅くなっている。

挙句そのせいで怪我が増えているとなれば正に本末転倒。

だが、今この場でどうにかできるものでも無いようだ。

今はただ、この色々な意味で萎縮している体に喝を入れながら突き進むしかない。


ぞくり、と悪寒がした。

まただ。切り倒した数が足りない。

時間切れだ。

魔剣が血と魔力を欲しがり、不足分を使い手から吸い取っていくのだ。

……このままではいずれ、全身の生気を失って死に至るだろう。

それを回避する方法はただ一つ。


「おおおおおっ!」

「今度はまた、気合が入っているね!」


武器を持っていない骸骨に狙いを定め、一気呵成に振り下ろす!

骨の砕ける音と感触。

それと同時に体から体力の吸い取られる感触が消えた。


……続けて前蹴りで転ばした骸骨の頭蓋を叩き割る。

今度は僅かばかりだが剣から活力が肉体に送り込まれてきた。

敵を斬れなければ地獄、斬り続ければ天国。

そのあり方ゆえ持ち主はただひたすら戦場に吸い寄せられる……まさしく魔剣だよコイツは。


そして、更にもう一体を砕くと刀身に淡い光が宿る。

魔力の刃は刃の潰れたこの剣に比類なき切れ味を与えてくれるのだ。

……コレが消えない内に次の獲物を切り倒さねば!


「はあっ!とぉっ!てやあっ!」


後ろでは殆どアクションスターのノリで敵をなぎ倒し、蹴り飛ばしていくリチャードさんが居る。

殴られても痛みを感じていない敵なので、狙いは部位破壊。

肩の骨を砕き腕を地に落とす。

大腿骨に蹴りを入れ、歩くという行為を封じる。

そして、背骨を折り上半身と下半身の連絡を絶つ!

魔法を使わないのは体力温存と詠唱時の隙を恐れてだろう。

時折王宮内の壁や柱を利用した戦術を見せたりして、

妙にこの場所での戦闘経験がありそうな所を見せてくれたりするのを見ていると、

ああ、王族ってのも大変なんだなと場違いな感想を持ったりする。

おっ!いきなり絨毯を引っ張って数十体一気に転ばしたぞ!?


「重くて腕が痛い!……だけどこれで追っ手は一時休業だね、さあ行くよ二人とも!」

「了解だ……だが、階段で敵が大渋滞してるぞリチャードさん!」

「そんなぁ。取り合えず地上までは降りないと話が先に進まないわよぉ?」


そんなに言うならレンも戦え。

とは言え無理だろうなぁ。身体能力が平均以下、魔法関係の成績は軒並み底辺だし。

……むしろ、今まで敵に捕まったりして俺達に迷惑をかけて無いだけありがたいのかも知れない。


『古池や、蛙飛び込む、水の音……水圧砲(ウォーターカノン)』


って、いきなり魔法使った!?……いやいや、おかしくは無いか。

この子だって四公爵家の嫡子。

父親が死んだ今となっては一応レインフィールドの当主って事になるし。

取り合えず観察してみると指でカタカナの"コ"の字を作り、その間から超高圧の水流が!

見事に敵が崩れ、粉砕されていくぞ!?

水は低きに流れ……って言う言葉もある位だし下に向けて放つそれは敵を砕き、

砕かれた敵は階段を転がり落ち、更に下の骸骨達に被害を与えつつ、

骸骨雪崩を形成していく。


「この階段は一階まで続いてるわぁ。これで地上までは行けるわよぉ」

「よし、また集まって来ない内に先に進もうか」

「魔法一発で本日の俺の戦果を遥かに越える撃墜数をたたき出しやがった……」


ちょっと驚愕しつつも脚は勝手に階段の方へと進む。

何せ、後ろの転んだ骸骨が起き上がり、カタカタ音をさせながらまた迫ってきてるしな。

悩んでる暇は無いのだ。


「ふう、でもコレだけで魔力の三割は持っていかれちゃったわぁ……」

「一般魔法使いでも五発は使えるじゃないか。君は本当に魔力量が……いや、なんでもないよ」


「殿下は魔力量こそ多いくせに詠唱が遅いって評判じゃないのぉ……あ、ごめんなさいぃ」

「リチャードさん、辛いな……何て嫌な評判なんだ」


辛うじてまだ動く骸骨達を粉砕しつつ俺達は進む。

幸いな事に今日は硬化が使えない代わりに装備の防御性能が高かった。

武器無し骸骨の殴り攻撃くらいなら大した衝撃もなく防いでくれている。


それに相手も各個体それぞれは決して強いとは言えないのが救いだった。


「「「王子殿下!ご無事でしたか」」」

「衛兵か?君達こそ無事だったのか!」


一階に降りるとそこでは宮廷警備兵の生き残りが食事用の広間らしき場所に立て篭もって、

必死の抵抗を続けていた。

どうやらこの辺りは増築されたばかりで壁に骸骨が塗り込められていなかったらしい。

そうでない所では壁から飛び出してきた腕に気付く間も無く倒された者も多かったようだ。

そういう意味で彼等は本当に幸運だったと言ってもいい。


「怪我人が多いですが医薬品は僅かです。毛布も数枚あるだけですね」

「……厨房が横にあるので食料はあるのが不幸中の幸いでした」

「殿下……マナリアは一体どうしてしまったのでしょう?」


……その言葉に俺は勿論リチャードさんも黙り込むしかなかった。

大本の原因を作ったのは妹のあだ討ちを望んだ他ならぬ俺だし、

それを利用する形で宮廷闘争を行ったリチャードさんにも探られて痛い腹がある。

レン?冷や汗流しつつ全力で明後日の方向を向いてるけど?

ともかくここは多少安全なようなので、少し休憩を取る事になったのである。


「しかし殿下がご無事でよかったです」

「実は、先ほど。……先ほど陛下が亡くなられました!」

「上半身のみの陛下が……上階から落ちてこられて、ううう」

「一体誰がこんな非道な真似を!」


公か兄貴か……はたまたリチャードさん直属の近衛部隊か。

取り合えず身内のゴタゴタだよ、とは言えないよな。

今やここに篭る十数名にとってリチャードさんはまさしく希望の星なのだろうし。


「……そうか。父王の事は残念だよ。だが、今はそんな事を言っている場合ではないか」

「まずは逃げないといけないよな。ここに居てもじり貧だ」


しかし俺の言葉を兵の一人が遮った。


「近衛殿。それは無理と言う物です」

「城内から市街地に至るまで正体不明のスケルトン兵が占拠しております」


え?ああ、装備のお陰で俺はマナリアの近衛隊に見えてるのか。

王子と公爵令嬢の護衛だし、身分ある人間に見えても仕方ないよな。


ん?レン、どうした。

いきなり身を乗り出したりして。


「地下に秘密の脱出口があるからそこまでたどり着かないといけないのよねぇ」

「……なんと!」

「本当なのですかレインフィールド様?」

「でしたらご命令を!我々がそこまでお送りいたします」


レン。お前……こいつ等に自ら死地に赴けと、そう言うのか。

確かにこのままでは遅かれ早かれ死ぬしか無い連中だけど。


まあ、この原因を作った俺が言える話じゃないけどな。

確かに俺達が生き残る確立は跳ね上がる……可哀想だが利用させてもらうか。

何だかんだでリチャードさんもその気みたいだし。


「しかし、脱出口は地下水脈にあるんだよ。ボートは一艘、君たちを連れてはいけないよ」

「構うものですか!」

「国難に際し、王家の存続に貢献……マナリア兵として生きてきてこれ以上の名誉は無いです」

「殿下がご無事でしたら、マナリアは再び蘇ります!」

「ですが願わくば、我々の名とその働きをせめて後世に残して頂きたく存ずる」


あー、純粋な瞳が痛いよママン。

そしてそれを軽くスルーするリチャードさん。

……マジで王族って凄いよな。


「ありがとう、皆の忠誠は忘れないよ」

「じゃあ、準備出来次第出発よぉ」


「いえ……ここを引き払う以上安心して休める場所はもう無いでしょう」

「一眠りして下さい。ここを離れればもう脱出するまで休めはしないでしょうから」

「それまでは我々がここを死守いたします!」


そうか、確かに疲れたしな。

幸い休める場所がまだあるんだし、少し休んでから行ったほうがいい。


……そう言えば、他の皆は無事なのか?

気にはなるが、先ずは俺自身の事を考えるか。

こんな所で死ぬわけには行かないしな……。


……。


≪side ハピ≫

総帥が地下に潜り、ルーンハイム公爵が囚われの身となってから三日が経過しています。

……アリサ様からの連絡で無事だと判っては居ますが、やはり不安は隠せませんね。

それに他のテナントの皆様に気付かれないよう、在庫を地下から送り返したりしておりますが、

やはり店頭に並ぶ商品に安物が増えたりしている事に気付かれているのでしょう。


「なあ、ハピさんよ……この店、大丈夫なんだよなぁ」

「ええ。ただ痛くも無い腹を探られたくは無いので、商品のグレードを落としております」

「そうか……大変だなぁ。もしかしたら財産没収もありえるもんな」


時折このような質問が舞い込んできたりしています。

……既に商店街の半分はこの百貨店内部にあるという事実もあります。

もし我が商会がこの国から撤収しても、

せめて建物はこのまま使っていただけるように取り計らったほうが良いかもしれませんね。

それが安心と信頼に繋がるのだと思いますし。


「ああ、バイト君……すいませんがこの荷物を地下倉庫に運び入れておいて下さい」

「はい!了解しましたっす!」


先日の戦争時総帥の配下であったという少年をアルバイトとして雇って暫く経ちます。

力があるので開店時から色々重宝していますが、そろそろこちら側に引き入れるべきでしょうか。

……ただ、妙に顔立ちが整っていますし学生さん達が様付けしているのが気にかかるんですよね。

名前はレオ君。素直ないい子ですが……名前からもしかして、と思うこともあります。

ですが、彼は総帥の部隊に居た事があると言っていました。

名家の男子がスラム出身者に混じって他国の戦争に出て行くものなのでしょうか?


「終わったっす!自分は次に何をすればいいっすか?」

「……ちょっと面接でもしましょうか。単刀直入に聞きます、正式に商会に加わりませんか?」


「無理っす!嬉しいけどまだ学校があるし、家の事情もあるっす!」

「そうですか。残念ですが仕方ないですね。でも、まだ暫くはバイトしてくれるんですよね?」


「はい!細かい事は判んないけど、小遣いくらいは自分で稼ぐのが焔獅子の正義っすから!」


ここの稼ぎがお小遣い、ですか?これは決まりですね。

お小遣いぐらい何もしなくても山のように出て来るでしょうに見上げた心意気ですね。

……リオンズフレアの御曹司君は。


「さて、それではお仕事に戻りましょうか」

「ご期待に沿えず申し訳無いっす。……ところで隊長と縁を切ったと聞いたけど、本当っすか」


「え?ええ。流石に庇い立て出来るレベルを越えておりましたので」

「きっと後悔するっすよ……隊長は裏切りとか嫌うタイプだと思うっす」


……鋭いですね。

ここの所は流石に野生の感と言う所でしょうか。

彼がリオンズフレアのレオ公子だというなら父親が父親と言う事になりますし。

まあ、実際の所は裏切りなど無いわけですが……。


「後でお詫びの手紙を出しますよ。こうでもしないといけないのは理解していただけますから」

「そうっすか。なら問題ない……おう?なんか辺りが騒がしいっすね?」


そう言えば、さっきから悲鳴と怒号が……マナ様は確か王宮に行っておられますし、

一体何があったのでしょうか?


「大変であります!急いで雨戸降ろすでありますよ!」

「ていうか、かってに、しじ、だしたです」

「二人ともどうしたんですか!?一体何が!」


カタカタ、と何かが店の戸を潜ってきました。

……骨、ですか。

何故、骨が勝手に歩いて……。


「支店長!危ないっすよ!?」

「ハピーーーっ、にげる、ですっ!」


……はっ!

そうでした、ただでさえ戦えない私がこんな所に突っ立っていて良い訳がありません。

万一の為に作成しておいた紛争時対処マニュアルに従い伝声管に駆け寄ります。

因みに伝声管は五階建てのこの店で円滑に指示を伝える方法が無いかと総帥にお聞きしたら、

いやにあっさりと案が出てきたものです。

……非常に便利ですが、こう言う緊急事態でも役に立つのには驚きですね。

さて、急いで上階にも指示を出さなくてはなりません。


≪緊急事態です!魔物の群れが店内に侵入しました、各階の責任者はマニュアルに従って行動を≫


「化け物ども、くたばれっす!」

「すこーーーっぷ!であります!」

「あまど、おりたです。あとは、なかのを、はいじょ、です!」


吹き飛ばされる骸骨によって商品に傷が付きますがそんな事を言っている場合ではありませんね。

今回の騒動で壊れた商品の補償を各店舗の店主に確約し、その後上層階に走ります。


そして屋上まで上がってきました。上からなら状況が確認しやすいですからね。

兎も角、急いで現状確認をしなければいけません。


「……しかし、これは一体どういう事でしょうか?」

「て、店員さん。一体何が起こってるの!?」


お客様も屋上まで上がってきて不安そうにしておりますが、それはこちらも同じ事。

元から白を基調とした町並みではありましたが……今は骸骨の白がそれに加わっています。

一体何処からと思ったその時、近くの建物の壁が崩れ、中から新しい骸骨が現れました。


「パピ。ふるいいえ、ぜんぶ、ほね、うまってる、です……」

「ここは比較的新しいから大丈夫でありますが、王都中大パニックでありますよ」

「……まさか、そんな……」


由々しき事態です。

マナ様の暴走から店を守るため、外壁には何枚もの鉄板が仕込んであります。

それに扉には太い鉄格子が降りていますし、この店に侵入される事はほぼ無いといえるでしょう。

ですが……。


「そんな、これじゃあ家に帰れないじゃないか!」

「……お母さん」

「パパは無事なのかしらね」


買い物客で賑わっていた店内には、百名を優に越える来客者と店員が居ます。

彼等が暴徒と化す前に、不安を鎮めねばなりませんね。


まず、最低限の水と食料は提供せざるを得ないでしょう。

……その代わり、それ以上を求める場合は普段の10倍の値段で買い取ってもらうとして、

地下に片付けた荷物の内武器と防具に関しては再度上に持ってきたほうが良いかも……。


「ハピ、朗報であります!」

「ぐんたい、きてくれた、です!」


……本当ですか?

だとしたら本当にありがたいのですが。

……しかし、一体誰が?

騒ぎが起きてから一時間も経過していません。

たったそれだけの時間で軍の出撃準備が整うとはとても思えないのですが。


「一体何処の軍ですか?」

「紋章は"焔獅子"と"聖印"……リオンズフレアとルーンハイムであります!」

「かずは、さんぜんにん。いるです」


「ぐ、軍が助けに来てくれたのか!」

「よかった!一時はどうなる事かと」

「んー。あ、姉ちゃんが直接指揮取ってるっすね、あの派手な兜は姉ちゃん以外居ないっす」


……私には遠すぎて判別できません……。


「かぶと?きんいろ、たてがみ……はで、です」

「親父の兜っす。姉ちゃん親父の事嫌ってる割にあの兜を手放さないんすよね」

「あ、"雫に波紋"と"鷲頭獅子"の紋章の部隊がちょっと合流したであります」


あれは、街の警備部隊でしょう。

数の多い所に合流するのは賢明な判断だと思います。

しかし、あの数を集めるには少なくとも数日はかかる筈ですが。


……いえ、考えるべきは別にあります。

先ずはここの人たちを彼等が来るまで守り抜く事。

そして、我が商会の財産を守り抜く事です……。


「お客様方、どうやら軍が来てくれたようです。果物をサービスしますので暫くお待ち下さい」


では、戦力を持たない私なりの戦いを……。

今、ここから始めましょうか。


……。


≪side ルン≫

三千を超える大軍が王都を進んでいる。

私は馬上でアリシアちゃんの頭を撫で続けている。

……手を離せば何処かに消えてしまいそうな気がするのだ。


「ルンねえちゃ?……はなして、です」

「……駄目。危ない」


私は進軍する部隊の中心部に居る。

何故か?

それは数日前から準備を進め、本日挙兵をしたからに他ならない。

そうだ。それは思い起こす事数日前。


……。


先生が行方不明になった。

そしてお父様が捕まった。

レンのお父様を先生が殺して、その指示を出したのがお父様だから、だそうだ。


……ふざけないで欲しかった。これは正当な敵討ちなのだ。


先生の妹はつまり私の妹でもある。

それが害された以上あだ討ちの権利はあるはずだ。

先生はレンを倒しに行ったのだろう。そして結果的にレインフィールド公の命を奪った。

それ自身は責められるべき事なのだろうが、こちらの事情も汲んで欲しい。

レンが捕まったという話を聞かない以上、少なくとも一方的過ぎはしないだろうか?

私はそう考える。


……例え被害者が生きていたとしてもだ。


同格の家の縁者に瀕死の重傷を負わせてただで済む訳が無い。

それなのに、父は後数日で処刑されると言う。

その上先生の首には莫大な懸賞金がかけられ、

挙句お母様と私は王家の人間として戻って来いと言う書状が来た。

……これが何を意味するかは明白だ。


ルーンハイム公爵家の消滅。


即ち四大公爵の一角が崩れると言う事。

それは私の世界が砕かれると言う事。

家名すら守れずに、どの面下げて偉大な先達に顔向けできると言うのか。


お母様はあちこちに助命の嘆願に行っているが、恐らく相手を怒らせるだけで終わるだろう。

何もしないより悪い結果に終わるであろう事は、

私以下、我が家に仕える魔道騎兵千名の末端に至るまで痛いほど理解している筈だ。


故に、お父様が捕らわれたその日の晩に爺を呼んだ。

……我が家の命運は尽きた。

だとしたら、せめてお父様だけでも助けてあげたい。

それに、我が家に仕える者達の先の事も考えないとならない。

だから。


「……爺、最後だから馬鹿な事に付き合って」

「閣下を、お救いするのですな?お嬢様」


そう。お父様を救い出したい。

既に通常の手段で救うのが無理なのだから、非常手段に訴えるしかない。

……けれど、それはつまり……祖国への反逆に他ならない。

何故なら、王都へ攻め入らねばならないからだ。

どんな理由があろうとも、それが許されよう筈も無い。


「全ての責は、私が負う」

「いえ、この老骨も半分肩代わりいたします」


「……駄目、全て終わったら投降して」

「ははは左様ですか、それが許されれば僥倖ですが」


「大丈夫。全ての責任を被って逃げる……爺は私を訴えればいい」

「お嬢様!?一体何を仰られるので」


そう。全ては私の独断であり、魔道騎兵全軍は騙されたと言う形にすればいい。

精鋭部隊ではあるのだ。王都も恭順してきたら悪いようにはするまい。

そのまま王の軍隊に組み込まれれば、彼等の生活は守られるだろうと思う。


……そして私は。

地位も名誉も棄てて、先生の所に行こうと思う。


こんな事はもう沢山だ。

アリシアちゃんがあんな目に遭ったのも、元を辿れば私がだらしないせい。

……私が家の事にこだわってこんな事が起きる位なら、もう何もかも棄ててしまおう。

いっそただのルンになって、先生の後ろを付いていきたい。

家の事も、学院の事も諦めたら……最後に残ったのはそれだった。


でも、先生は私のせいでお尋ね者になってしまっている。

だから。


「……先生も私に騙された事にして。賞金は私にだけかかればいい」

「お嬢様!?」


これをやると私は先生に付いていけなくなる。

私はその後、たった一人で生きて行く事になるんだろう。

でもこうする事だけが、私に出来る、多分たった一つの事。

自分ではそう思っていた。


そんな時、背後から声がかかる。


「そんな馬鹿な事がある訳無いですわ。ルーンハイムさん?」

「リン!?……どうして」


「その、馬鹿な事に参加しに来たのですわ……私にも遠因はありますわ?責任は取らないと」

「申し訳ありません。この爺がお呼びしたのです」


爺、これはどういうつもりなのか。

確かに遠因としては無い訳ではないが、巻き込んでしまえばリオンズフレアも危機に陥る。

……騎士団長ジーヤよ。

お前は他の家まで巻き込むつもりなのか?


「……細かい事は良いんですわ。今回の仔細は聞き及びましたけど、どうも納得がいきませんの」

「それに我等の兵舎はリオンズフレア様の邸宅傍にあります。隠し立てなどかないません」

「……そう」


そういえばそうだ。

魔道騎兵千名が動いてしまえばリンの家は止めに入らざるを得ないだろう。

そこで最初の戦闘が発生してしまえば即座に王宮に伝わり、

お父様は即日反逆者として処刑されてしまうだろう。


……成功させる為にはリンを巻き込むのが最低条件、か。

ならば私も腹をくくろう。

後世にどんな汚名を残すのかは知らないが、行ける所まで行く事にしよう。


「……手伝って、くれる?」

「構いませんわよ……何せ、当の被害者が納得していないんですもの」


「被害者?」

「レンから公とカルマさんへの助命嘆願が出たんですわ。握りつぶされましたけど」


レンから!?

自分のお父様を殺されたのに、どうして?


「責任を感じたそうですわね。そもそも自分のせいでこんな事になったのだと言っていましたわ」

「……じゃあ、お父様が捕まったのは?」

「左様、恐らくは折り合いの悪かった貴族のどなたかによる陰謀でしょうな」


被害者からの申告が無いどころか訴えの取り下げまであったのに、

なんでお父様が捕まらねばならないんだろう。

襲撃を受けた方が全面的に悪かったと言っているというのに?

確かに陰謀の匂いがぷんぷんとする。


「おーっほっほっほ!ですから国一番の実力者である我が家がお手伝いしますわよ」

「目的は閣下の救出。王都を練り歩き王宮に圧力をかけます」


……場合によっては本格的な反乱騒ぎになるだろうに、二人は何処までも陽気だった。

だが、心強いのは確か。

その後はとにかく急いで出陣の準備を整え、そして今日……王都中央に向かって進軍を開始した。

そう、進軍を開始したのだが。


「リオンズフレア公!敵スケルトンは今も数を増やしつつ王都内を闊歩しております!」

「判りましたわ。先ずは粉砕しなさい……民の救出も忘れないようにするのですわ!」


「お嬢様、大通りも敵で埋め尽くされております」

「爺、魔道騎兵は距離を取りつつ火球で攻撃……取り付かれたら、駄目」


「市街地で騎兵にそれを求められましても限界が」

「……ならせめて、敵から距離を」


何故か我が軍は王都を占拠している謎の骨兵団との全面対決に入っていた。

まさか逃げ遅れた人々を見捨ててもいられない。


だが……不幸中の幸い。

これなら王都で勝手に兵士を動かしても反乱になる恐れは無いだろう。

それは良いのだが、相手の数が多すぎる。

早く王宮までたどり着かないと、被害がとんでもない事になりそうだった。


「……でも一体、何が」


私の呟きは、恐らく各家の残存兵を吸収して膨れ上がった全軍三千五百。

その全将兵の心の叫びだったのではないかと思う。

……祖国はどうなってしまうのか。多分、皆がそれを心配している。

けれど今は進むしかない。

骨の兵団は一見無秩序に動いているように見えるが、

その実、王宮を中心に動いているようだ。

……きっと、王宮まで行けば真相がわかる。

何となくだが、そんな気がするのだ。


「ねえちゃ?はなして、です……あたしは、へいき、です」

「……もう少し我慢して。今はここが一番安全」


……先生はアリシアちゃんが生きている事を知らないはず。

何としても、無事に再会させなければならない。


そう、無事に再会させてあげないと。

生き別れのまま離れ離れなんて、悲しすぎるし申し訳なさ過ぎる。

だからこの子は守り抜く。それだけは、絶対に……譲れない……!


……。


≪side とあるマナリア近衛隊員≫

……宰相様の魔力により、また一人仲間が消し飛んだ。

だが、我々の中にそれでおののく者はただの一人も居ない。


……殿下より直々に宰相排除を命ぜられた時は驚いたものだ。

なにせマナリアの宮廷闘争とは宰相と王に続く第三位の実力者を決める戦いだった。

絶対不可侵とされてきた宰相様を廃すると言うのは前代未聞だ。


だが、もし成功すれば参加した我々の立身出世は確実。

……最初の動機はそんな不純なものだった筈。

だが、玉座を担いで突進してくる王の狂った姿と、

周囲を埋め尽くす骸骨の群れをその目で見た者は考えを変えざるを得ないだろう。


……こんなものが栄光あるマナリアなのか?


答えは否。断じて否。

こんなものが我が祖国であろう筈も無い。

ルーンハイム公も仰っておられたが、どうやら宰相様は長く生き過ぎたご様子。

私は昔の王を知っている。

即位して、多少周囲の意見に流されすぎる向きはあるが大分落ち着いて来たと思っていたが、

……自国の王を操り人形にして良い道理などあるはずが無い!

15年ぶりに帰還されたライオネル将軍の剣が王の胴体を薙ぎ払う。

本来ならば打ち首ものなのだが既にそれを言及するものは無い。

寸断され、それでもまだなお歩き続ける下半身を見て正気で居られるものか!


「おのれ。自国の王に対して何と言う事を。貴様等に忠孝は無いのかのう」


残念ながら貴方にそれを言う権利はありませんよ宰相様。

……貴方が宰相に即位して数百年が経過しております。

既に貴方にとっては当然なのかもしれませんが……やりすぎです。

マナリアは貴方の私物ではないのです。

それを出来るのは……まさに建国の父ロンバルティア一世陛下くらいのものでしょう。


「くたばれ干物おおおおおおっ!」

「ライオネル!貴様を生かしておったがわしの不覚!足しにはならずとも砕いておくべきだった」


「うるせええええええっ!」

「はっ、鎧無しでどこまでいける?所詮は人間、体の硬さには限界があるのは判っておろう?」


「だからって、諦める訳が無いだろうがっ!」

「……もう良い。魔力が削れて敵わん。……妻の所に行け、ライオネル」


20年ほど前か?当時の王位継承権第一位ロンバルティア19世殿下が起こした反乱騒ぎ。

あの騒ぎでは国が割れ、国土を二分する事態に陥ったものの、

眼前のライオネル将軍が敵陣に突入、あの長々剣を用いて力ずくで制圧と言う事があった。

……あの剣は本当に我々魔法使いにとっては鬼門なのだ。

何せ最大の利点である距離の優位が消え、弱点である詠唱の隙を最大限に利用されてしまう。

15年前の追放もそれに対する恐怖が大きかったろう。私も正直あの時はほっとした。


さて、そんな訳で王位を剥奪され存在を抹消された19世……ティア王女殿下だが、

今思えば、もしかしたらあの方はこの事に気付いてしまったのかも知れない。


宰相に気に入られねば自我を消されてしまうなど、到底耐えられるものでは無い。

その為に先んじて行動を起こした。

そう考えれば辻褄が合うような気がするのだ。


……何にせよ、既に宰相様は暴走していると言っても良い。

自分の思うとおりに行かないからと国ごと滅ぼしかねない行動を取るとは、

国家の重鎮としてあるまじき姿だからだ。

故に、国家の体面もあるのでこのまま狂人として消えて頂くほかは無い。


……いや、言葉を飾るのは止めよう。

我々は既に宰相様を排除する方向で動いている。

これをしくじる事は即ち身の破滅。

簡潔に言えば、我々の為に消えて頂きたい……それだけの事なのだ。


「我に続け!魔力さえ失えば相手はただの屍でしか無いのである!」

「事実ではあるがのう……お前もやはり早めに切っておくべきだったか」


しかし、余裕だ。

流石は我が国の宰相を数百年単位で勤め上げたお方。

……だが、こちらとて負けてはいない。


『我は聖印の住まう場所。これなるは一子相伝たる魔道が一つ……不可視の衝撃よ敵を砕け!』

「判っておろうに愚かな事を。……暴食の腕よ、食らえぃ」


『……衝撃!(インパクトウェーブ)』

「ふむ、相変わらず上質な魔力よのう。それ故に惜しい」


「俺をを忘れてもらっちゃあ困るぜ!」

「魔法に気を取られた隙に斬りかかるか。良い戦術だがそれ故に気に食わぬな」


『反射(リフレクト)』

「おうっ!?うわあああっ!?」


今だ!

魔力を食い尽くす"暴食の腕"と腕力を弾き返す"反射"の魔法。

宰相様の最強の"盾"の両方が向こうを向いた隙に、例の物を!

……突き刺せっ!


「……ほう、確かに反射の隙を突けば剣も当たるが、肉体の傷など永久治癒術ですぐに治るぞ?」

「だと、いいけどなぁ?」


あれだけの守りの上に半永久的に術者の身を癒し続ける永久治癒術(エターナルヒール)の魔法。

それがあるが故に、今まで誰も宰相様に逆らおうなどとは思わなかった。

……だが、今回は違う。


「……ぬ、傷が治らぬ!?この剣は……儀礼用竜殺しだと!?」

「へっ!トレイディアで二束三文で凄ぇ数が売られてたから買い込んで来たのよ!」

「竜殺しは魔力を吸収拡散させる……これは量産品だから持ち主の力にはならないがね」


そう、ライ将軍が帰還時に偶然この国に持ち込んでいた大量のドラゴンキラー。

これが我々の切り札だ。

つまり……別に魔力切れを狙わなくても倒す算段は付いていたという事だな。


宰相様の体は魔力で維持されている……つまり竜と似たような状態になっているのだ。

故に竜殺しが突き刺さりさえすれば、体内の魔力を急速に失う事になる。

恐らく物の価値が判らぬ輩……賊か傭兵が手に入れて、安値で売り捌いたのだろう。

これがありえない安値で売られていた事を神に感謝せねばなるまい。


だが、ドラゴンキラーの魔力拡散の力もまた魔法の賜物であり、

普段であれば暴食の腕に魔力を食らわれていただろう。

更に儀礼用ゆえ切れ味など無に等しく、

宰相の体に傷を付けるには反射の来ないタイミングで、隙の多い刺突を行う必要があった。

……その為に宰相派の兵の隙を見てルーンハイム公と連絡を取り合い、

何とか連携を取る為の情報交換が出来たところで行動を開始したという訳だ。


出来ればマナ様にもご尽力頂きたかったが、殿下と公、それにライ将軍のお三方揃って、

秘密を守れないからよせと釘を刺されてしまった。

まあ、何にせよ我々は賭けに勝ったのだ。


……これで、我々の正義が証明される。

私には莫大な恩賞が与えられその名は後世まで語り継がれ、


「まさか、これを使う羽目になろうとは……」

「応!やばいぜ、俺の野生のカンが、ここから離れろと叫んでやがる!」

「くっ……無念であるが足がもう動かぬ」


……おかしい、体が、凍る?



『……永遠力暴風雪!(エターナルフォースブリザード)』




……我々は、死ぬ?


……。


≪side 宰相フレイムベルト≫

……玉座の間に、わし以外に動くものは無い。

ロンバルティア陛下から"痛いから"と使用を控えるよう命ぜられていた最強術を、

とうとう使う羽目になってしまった。

しかし魔力使用量こそ絶大であったものの、別に肉体に痛みが走る事は無かったのう。

心配はありがたい事ではあるものの、

これなら別に多用しても問題は無かったようにも思える。


まあ、危ない所ではあったか。


完全に虚を突かれ、満足な迎撃も出来ず危うく魔力切れに陥るところであった。

竜殺しの効果で魔力が抜け落ち続ける今は、傷を癒す事に集中せざるを得ず、

もはや反射を使う余力もありはしない。


……体内から凍りついたルーンハイムの馬鹿者から残存魔力を吸い上げる。

ふん。もう殆ど残っていないでは無いか。


だがまあ、もうどうでも良いことだ。

ここまで育ててきた恩を忘れ、わしに噛み付くような国にもう用は無い。

マナの脳内に仕込んでいた術式を起動し、地下に赴くように命を下そうではないか。


そこでマナの魔力を全て使い、

王都地下全域に張り巡らされている魔力吸収魔方陣をもって

王都全域より魔力を集め、

ロンバルティア様復活用魔法の作成に取り掛かるとしようではないか。


……王が数百年ぶりに目を覚ました時に国が滅んでいれば嘆かれるであろうが、

そこでわしも若い肉体に宿りそのお心をお慰めしようではないか。


ふふふふふ、夢が広がるわ。

……では、マナに命を下してと。


20年前のティア姫の反乱の際はどうしようかと思った。

まさか王の寄り代を嫌がるとはな。

まあ、女子ゆえ元々王の寄り代にはできなかったがのう。


取り合えず魔力はまさに絶大であった故、そのまま砕こうかとも思ったが、

見栄えも良いし……わしの新しい入れ物にする事を思いついた時は天に上るかと思った。

王妃などと贅沢は言わぬ。王の姉か妹にでもなれたらと思うと心が弾むのじゃ。

その為に、わざわざ姫の体を凍らせてある。

乗り移る日が楽しみじゃて。


その際、王の子孫達が周囲を囲んでいてくれるのが理想であったが。

……忠孝を知らぬ者どもなどもう知らぬ。王の復活の生贄となってしまえ。

さあ、妄想はこの辺にしてわしも地下に行こうかのう。


む、ティア姫で思い出したが、あの乱を鎮めたのはライオネルであったな。

じゃが、あ奴……上手い事回避して逃げよったではないか。

あのままにしておくのは少しばかり心配……まあ良いわ。

どうせ魔力も扱えぬ脳筋一人で何が出来る。

奴もまた王都全域魔方陣で国ごと砕いてやる、わ?


……わしの、頭が、砕け、た?

ドラゴンキラーが、飛んできた、だと!?


「えーと、僕も一本持ち歩いてたんだけど……」


あれは、窓の枠外から弓をつがえるあの娘は?

そうだ。あのカルマと言う名の小僧と一緒に居た……


「別に、倒しちゃっても構わなかったんだ……よね?」


竜殺しを矢に見立てて撃ち放ちよったか、あの娘め!

良い訳が無かろう!?

わしが居らずして、どうやって……陛下あっ!?

魔力が尽きる!体が、維持できぬ!?


「あ、体が砕けた……ま、いっか」


……もう、手遅れか。

わしが、消える……。


***魔法王国シナリオ7 完***

続く


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