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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 34 伝説の教師
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/25 13:02
幻想立志転生伝

34

***魔法王国シナリオ5 伝説の教師***

~恣意的個人別指導、ハジマルヨ~

《side ルン》

久しぶりの登校、久しぶりの風景。

私の視界の先に学園の校舎が飛び込んできた。

……以前と変わらない筈なのに、何か違って見えるその姿。

それは私にとって常に変わらない恐怖の印でもある。

だと言うのに、どこか違うように見えるのは何故だろうか?


馬に乗っての登校だから?

それとも……先生の体に背中を埋めているから?

……だが、何にせよそのぬくもりは一時的なものに過ぎない。

学園……王立魔道学院の門を潜りぬけ校舎に入ったら、

流石に先生も付いて来る事は不可能だ。

そう考えるだけで体が硬くなる。


……なんでこうなっているのだろう。

そう。今朝目を覚まして朝食を口にしていると、突然先生から言われたのだ。


「ルン、流石に何日も学校に行ってないのは拙くないか?」

「……大丈夫」


嘘だ。本当は凄くまずい。

でも今更行けない。行きたく無い。

それにどうせ18歳になったら先生の物になるのだから行く意味も無いように思う。

……でも、皆の意見は違うようだった。


「駄目だ!娘よ……我が家の跡取りとして、最低限卒業はするのである」

「そうよ~?ルンちゃんはとっても優秀なのにここで辞めるのは勿体無いわ~」

「お嬢様、ご心痛お察し申し上げますが……私どもと致しましても、出来れば……」


お父様は子供の問題は子供で解決すべきと言うお考えのようだ。

そこの所、決して甘やかしてはくれない。

……実際今回の休みを許したのも体を壊したからと言う意味合いが大きい。


お母様は余り深く物事を考えていないように思う。

ただ、心配してくれている事は伝わるので無碍にもし辛い。


侍従の青山たちに至っては、こちらが逆に申し訳なく思ってしまう。

主君が落第者……。

……こんな状態の我が家に忠誠を尽くしてくれる彼等に対し、

これ以上の不名誉を与えていいものだろうか?


「先生……」

「心配するな。俺が付いてってやるから」


そう言って、先生は悩む私の体を抱き上げた。

それもお姫様抱っこ……抵抗できる訳も無い。


……。


そうして結局、私は数週間ぶりに学校の門へと送り出されてしまった。

馬は馬小屋に預けてしまったから今更帰りづらいし、つい今しがた、

先生も何か用件があるのか校舎と隣接する王立研究院に入っていってしまった。

……つまり、また、私は一人きりだ。

どうしよう、脚が動かない。

金縛りにあったかのように足が前に進んでくれない。

やけに唇が乾く。


ふと思って後ろに一歩。

こちらは動く。足が動く。妙なほど軽やかに動く。


……判っている。

これ以上後ろに下がったら、私はそのまま走り出してしまうだろう。

わざわざ先生が連れて来てくれたと言うのに、それだけは避けたい。

けれど、けれど……駄目!

先生、ごめんなさい……私、これ以上ここに居たくな


「あら、ルーンハイムさん。どうしましたの、いきなりぶつかってきたりして?」


……耐えられなくなって振り返ったそこに、黄金の輝き。

妙に弾力のある壁に弾き飛ばされたと思ったら、そこにはリンが居た。


「……リン」

「ようやく登校出来るようになったんですわね。随分心配しましたわ」


違う。もう無理なの。

だから、そこを退いて……。

と、思う間も無く手を掴まれていた。


「ここで逃げ出したら終わりですわよ?カルマさんから頼まれましたの、貴方が駄目なら」

「私が駄目なら?」


「力づくでも教室まで連れて行って欲しい……との事ですわ」

「……ぇ」


考えが纏まる前に私は腕を引っ張られるまま教室に連行されている。

……せんせぇ。酷いよ……。


判っては居る。こうでもしなければ私は二度とこの学園に足を踏み入れる事も出来ず、

そのまま退学の憂き目に遭っていたであろう事は。

けれど、私はそんなに強くなかった。

あの悪意の中に居続けられる程強くなんか無かった……なのに、何で……。


「そんなに泣きそうな顔をしないで頂きたいですわ……いざと言う時は私に頼るのですわ」

「……。」


「信じられないでしょうが……私こう見えましても卑怯な事は大嫌いですの」

「それは、知ってる」


「貴方が受けていた苦痛の何割かは私の責任らしいですわ……なら、それ分の保障はしますわよ」

「…………正直、あまり信用できない。ごめんなさい」


リンが曲がった事が嫌いなのは知っている。

先日仲直りをした事も記憶に新しい。

けれど、それだけに恐ろしいのだ。

……先日のアレが嘘ではないのかと。

本当は和解も嘘で、皆で私を罠にかけているのではないかと。


……あ、教室。

とうとう、着いてしまった。

……私の机、残ってるのかな……。


……。


勢い良く教室のドアが開く。

リンに手を引かれるまま、私はつんのめるように教室の敷居をまたぐ。

……あ、私の机……ぼろぼろ。

ナイフか何かで傷を付けられ、表面に焦げ目まで付いている私の机。


……冷静に、冷静にならなくては。

今までだって何回もあった事ではないか。

そう、今までと何も変わらない。表情一つ変えてはいけない。

……何故なら反応する毎に行為がエスカレートしていくのだから。

だから、悲しんでいる暇は無い。

教室の隅に転がされている机を早く元の位置に……あれ?


「ルーンハイムさんの机は今日からこれですわ」

「でも、それ……リンの」


一際立派に磨き上げられた机が私の席に置かれた。

そして、リンは。


「私はこちらで十分ですの。……この転がされている机で十分なのですわ」


リンが自分の机を私の席に置き、変わりに私の机を自分の席に持って行く。

……教室がにわかに騒がしくなった。

密談、驚愕、そして悲鳴まで。

誰もこの現状に付いて行けていないようだった。

それぐらい、この目の前の現状は私達にとってありえない事だったのだ。


「なんで……」

「この机、先日からずっとこうでしたの。……これが私の指示?ふざけないで頂きたいですわね」


「……だったら新しいのを用意すれば」

「私、貴方の痛みを感じたいと思いましたわ。……私の怠慢の結果を知りたかったんですの」


その為に、わざわざ今日まで何週間も放置して来たというのだろうか?

正直、馬鹿な話だ。馬鹿な話だが……体の震えが止まらない。


「何も気付かなかったら、私はきっと全てが手遅れになった時に後悔していたんでしょうね」

「気付く?」


「あの日、カルマさんに叱られましたわ。影響力ある者は知らぬでは済まされないと」

「先生が……」


「ですから、私は今日ここで皆に宣言しますわ。私達の和解をね!」


ざわり、と空気が歪む。


「もう私に気を遣う必要はありませんわ。……まさか、楽しくてやってた訳では無いでしょう?」


そして周囲から発せられる驚愕、忘我、そして恐怖。

教室じゅうに周囲から発せられる狂乱じみた声が響き渡る。

そして、そんな中から一人。いち早く精神の再構築を果たした一人が歩み出て来た。


「あのぉ……それってルーンハイムさんが謝ったの、かしらぁ?」

「違いますわレインフィールドさん。過去の不幸な行き違いを清算したまでですわよ」


「あは、あは、あははははは……それはぁ、お、おめでとう。よねぇ?」

「ええ、それともう一つありますわ」


「な、何かしらぁ?」

「皆さんには私の名前でルーンハイムさんにちょっかい出すのを今後辞めて頂きますわね」


今度は突然空気の凍りつく音。

教室中がリンの視線に釘付けになっていた。

私のほうからは見えないが……どんな表情をしているのだろうか?


「全く……我がリオンズフレアの名が穢れますわ。そんな卑怯な真似の片棒担いでるなんて」

「そ、そ、そうよねぇ……あ、あははははははははははぁ……」

「リオンズフレア様!そんなお顔なされないで下さいーっ!」

「あ、あ、あ、あの!私は、私だけは何もしてませんからね!?」

「お怒りを、お怒りを鎮めてくださーいーーーーっ!」


何故かリンを中心に空間が歪み、ゴゴゴゴゴゴゴと轟音が響いている。

……そして、一言。


「謝る人間を間違っていますわね?……まあいいですわ、新任の先生もいらっしゃいましたし」

「新任の講師?」


おかしい。こんな時期に新任教師など来るものだろうか。

新学期からは随分と離れているのだが。


「さ、こちらですわよ先生?存分に腕を振るわれると宜しいですわ」


その時、教室のドアが開いた。

……そして入って来たのは……。


「よお、ルン。今日から正式に先生だから」

「こんにちは、です」

「せん、せぇ?」


何で、ここに先生が居るの?

それにアリシアちゃんまで。


「ま、もう何も恐れる事は無いさ……ほれ、さっさと席に着け」

「ほーむるーむ、はじめる、です」

「え?あ、はいっ!?」


あまりの事に脳が上手く働かない。

……取りあえず、席に着かないと……。

笑う膝をなだめながら、よろよろと席に向かう。


「え?何あの先生……若過ぎない?」

「でも、学院長がわざわざスカウトしたって話よ?」

「古代語が専門らしいけど、メインは男子クラスの実技らしいよ」

「結構、カッコ良くない?」

「うーん。65点かな」

「私的には70点ちょい?」

「てかさ、ルーンハイムさんの反応、おかしくない?」

「あの鉄面皮が……明らかに顔赤いよね」

「突付けば面白い事が出てきそうじゃない」

「と言うか、リオンズフレア様とはどういう関係なのよ?目で語ってなかった!?」

「それ以前に何でちっちゃい子連れてるのよ!またこの人も幼女好み?」

「ああ、ルイス教授率いる変態教師陣にまた一人……」

「この学校の講師にまともな人格求めるほうがどうかしてるわ」


周りが何か言ってるけどまともに耳に入ってこない。

目が回る、顔中が熱を帯びていく……。

……せんせいが先生で、このクラスに来ていて……でもわたしのせんせぇで……。

あぅ……何が何だか判らない……。

顔が赤い、頬が緩む。

どうしよう。先生の前じゃ、もう氷の仮面は被れない。

本当に、どうしよう……。


……。


≪side カルマ≫

ルンが混乱してるようだがまあ仕方ない。

……そもそもルンのクラスの担任になれるか判らなかったからな。

まあ、幸い前日までの担任が"不幸な事故"で入院してくれたお陰でここに来れた訳だ。

これなら最初から話しておけばとも思うが、

万一失敗した時の事を考えるとそうもいかなかったんだよな。ぬか喜びさせたくは無いし。


……あ、フレアさんが満面の笑みで笑っている。

どうやら上手く行ったか、流石は国一番の名士。

軽い気持ちでちょっかい出していた連中をかなり懲らしめてくれたようだ。

いやあ、何事も言ってみるもんだ。

別件で訪問したついでに話を通した甲斐があったってもんだよな?


おっと、そろそろホームルームを始めないと。


「俺はカルマ。色々あってここの講師として暫く勤める事となった。非常勤だがよろしくな」

「しつもーん。先生は何処の人ですか?と言うか貴族らしく無いですけど……」


お、いきなり質問かよ。

……無位無官って言うのも今後の俺の目的を考えるとまずいな。

嘘をつく気は無いが……ああ、良い答え方があった。


「トレイディア国籍。一応、祖父は国王だったらしい……既に亡国では在るがな」

「へぇ、亡国の王族さんですかぁ?」


「ああ。まあそんな訳で幼い頃は貧乏暮らしだったけどな」

「じゃあ没落してるんだ、ふふふふ」


うん、嘘は言って無いぞ。王といっても魔王だけどな。

……並みの国家元首と比べても全く遜色無いと思うのは俺だけだろうか。

まあ、何にせよこれで多少は箔が付いただろ。


「続いて質問!ルーンハイムさんとはどんな関係?」

「ルンが留学中に魔法を教えていて先日から」
「夫婦」


……あ、教室内の空気が凍りついた。

と言うかルン。俺の台詞に被せてとんでもない事言うなよ。

ここ女子クラスだぞ?

周りの子達口を押させて顔真っ赤にしてるんだけど。


「ええええええっ!?本当に存在したんだルーンハイム家の婚約者って!」

「ふぅん……まぁ没落一家同士お似合いかもねぇ?」

「てっきり成り上がりのお金持ちとくっ付くかと思ってた!」


「いや、成り上がり者だし金は在るぞ今の俺は?ここの講師もボランティアみたいなもんだし」

「がくいんから、おかね、もらってないです」

「そう言えばカルーマ百貨店前で会ったわよねぇ……本職は何なのよぉ……」


……レン、だっけか。あの時はご愁傷様だったなぁ。

まあ、よく聞いてくれたと言う所か。本職を聞かれたらこう答えるつもりだったんだ。


「冒険者兼古代言語学者、と言ったところか」

「冒険先で古代文書を発掘する考古学者みたいなものですか?」

「冒険者ランクは幾つなのかしらぁ?まさか総合Dとか言わないでよねぇ」


あ、フレアさんが鼻でフッと笑った。

……まあ事実を知ってたらそうもなるか。


「一応実績ランクでBを貰ってる。翻訳は元からある文書を解読するのが主な仕事かな」


本当は総合Aだけど、そちらはもっと効果的な所でお披露目する予定。

……さて、このまま質問漬けも面白くないな。

そろそろ時計の針を進めるとしようか?


「……それと、俺は一つこの学院内において特権を有している」

「とくていせいとにたいし、とくべつたいぐう、できますです」


「……特定生徒へのぉ、特別待遇ぅ……?」

「それって、贔屓するって事じゃないですか!?それってずるいんじゃ」


頃合良し、作戦開始。

……殺気、開放。

全力全開で眼光を飛ばしてくれる!


「ひぃっ!?」
「きゃ!」
「あ、あう、あう……」

「細かい事はいいですけど、余りやりすぎないで欲しいですわ」

「……せんせぇ……はぅ……」


俺の殺気にあてられて、騒いでいた生徒達が固まった。

続いて、駄目押しとばかりに窓から別棟の近くを指差す。

……そこには。


「死体ーーーーーっ!?」
「いいえ、これはまだ生きてますわ」
「いやぁ……あれ、ラインフォールドのメンバーじゃないのぉ!」
「それって、レインフィールドさんと付き合いのあった不良グループの!?」
「おかしいよ?だって曲がってちゃいけない所から腕が曲がってる……」


うん。モブキャラ含めて高等部女子クラスの皆、的確な説明ありがとう。

えーと、着任の挨拶を職員方にした後なんだが、

中庭で見事にサボってる連中が居たので、

ちょうどいいやと思い、挑発を兼ねて煽ってみました。


「こら、お前等サボっちゃ駄目じゃないか?」


うん、非常に常識的な台詞だ。

誰に責められるいわれも無いよな?

……まあ、明らかに不良グループ相手に言って良い台詞じゃないがな?

まあ、実の所怒らせるのが目的だから関係ない。


「あー?ふざけんなよ?」
「殴り飛ばされたいのかお前ぇは!」
「新任教師の方ですか。帰って下さい、僕らを怒らす前に」
「お呼びじゃないんだよなぁ」


……その後、二言三言やり取りがあった後向こうから殴られた。計画どうりに。

そして、現在に至るという訳。

因みに何があったかは知らぬが花という物だ。

取りあえず拳で勝負したとだけ言っておく……硬化は使ったが。

お陰でこちらは無傷、向こうは詠唱の暇も無く哀れな姿を晒している。


「まあ、色々あって不幸な事になってしまった訳だな」

「ちょっとぉ!あんな事していいと思ってるのぉ!?」


ここで邪悪な笑みをニヤリと一つ。

……教師たるもの適当に恐れられておかないといけないと思うしな。


「……あれも一種の優遇だ。マイナスの、な?」

「そんなのアリなのぉ!?」


蟻だ。ではなくアリだ。

と言うか、別にこっちとしてはルンの問題さえ片付けばこんな学院何時出て行っても構わない。

厳重注意?知らんな。

減給?元から一銭も貰ってないけど?

首?出来るもんならやってみろ!


……うん。我ながら怖い物無しだな。

さて、本日の仕上げをやりますかね。

……うまく食いついてくれよ?


「因みに俺の女に危害を加えたら死んだ方がマシな目にあわせるからそのつもりで」

「いまだかつて、こんな挨拶をする教師が居たでしょうか?……いや無い」

「横暴だわぁ!ありえないわぁ!」

「暴力教師……汚らわしい!」

「父上にお話せねばなりませんね」

「何でこんな人が教育者に……」


「……先生ぇ……せんせぇ…………」

「ルンねえちゃ、なかなくていいです。これからは、あたしたちがついてる、です」

「私の事も忘れてもらっては困りますわ。これは細かい事ではありませんことよ?」


さてさて、初日の撒き餌はこんな所か。

ここまでやれば、明日か今晩にでも最初の馬鹿がやってくる筈だ。

……ふふふふふふふ、腕が鳴るぜ。


ああ、そうだ。

この語に及んでまだ直接ルンに攻撃仕掛けるような阿呆が居たら……。


『アリシア?アリサに連絡。ルンに直接仇なす奴はその場で潰せ。手段は問わん』

『あいあいさー、です。』


……。


さて、朝礼後は男子中等部の実技指導だ。

まあ流石にそれぐらいは真面目にやっておくかと思い、

ルンの世話にアリシアを置いて移動した訳だが。


「……何でほぼ全員臨戦態勢なんだよ」

「うるせー!ラインフォールドを馬鹿にして生きて帰れると思うな?」
「馬で蹴り殺すぞ!」
「まさか全員倒せるとは思ってないよな?」
「家の親父は伯爵様だぞ!?」


見事にクラスの八割が臨戦態勢で待ってるんだけど?

どうやらさっき叩き潰した連中はラインフォールドとか言うグループに所属してるようだが、

こいつ等はそこの末端構成員と言うわけか。

……馬で云々を聞くに、多分珍走団に近い性格を持っているのかも知れないな。

おーおー。剣に槍、弓まで持ってる奴もいるか。

一部は既に詠唱開始してやがるし、これは本気かよ?


……小人閑居をして不善を成す、か。

暇に任せて色々馬鹿やってるんだろうなぁ。

全く、暇を持て余した連中は始末におえない。


「へへへへへ、小生意気な教師一人、父様に頼めば」

「やかましい」


妙にいやな音がして、

ポケットに手を突っ込んだまま凄んで来たリーダー格らしき少年が倒れた。

と言うか俺が倒した。


顔面に拳を叩き込んだだけだが、どうやら鼻の骨が潰れたらしい。

床をゴロゴロ転がって、やがて泡吹いて倒れたので取りあえず軽く治癒をかけてやっておく。


「……言いたい事はそれだけか?親の権威なんか俺には役に立たないぞ」

「手前ぇ!」
「消えたまえ、見苦しい!」
「詠唱終わった奴からぶっ放せ!」


おいおい、仲間の無残な姿を見てまだ抗うのかこいつ等は。

別にこいつ等を潰しに来た訳じゃないんだけどな?

……まあいいか。


『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』
『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』
『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』
『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』
『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』
『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』
『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』


「「「「ええええええええっ!?」」」」


久々の火球連射により窓側の壁の一部が弾け飛ぶ。

哀れな事に詠唱が最終段階に入っていた連中よりも俺の一撃の方が早い。

そして哀れな生贄たちが窓を突き破り中庭に吹き飛ばされていく中、

部屋の隅でお祈りしながらガタガタ震える善良な一般生徒達に、

挨拶すらそこそこに指示を出しておく。


「心配しなくて良いからな?取りあえず落ち着いたら授業始めるから着替えて中庭に集合」

「「「「さ、サーイエッサー!」」」」


そして火事になっていない事を確認すると、俺自身は破れた壁からそのまま表に出た。

さて、消し炭が本当に炭になる前に軽く回復してやらないとな。

一応教え子と言う事になるし。


……。


「さて、君たちは先ほどまさに己の目で魔道の真髄を目撃した訳だが……」

「「「「はい、先生!」」」」


「最終的には君たちにも先ほど見た、火球の詠唱短縮を覚えてもらおうと思う」

「「「「よろしくお願いします!」」」」


「だが先ずは、健康な体を作るのが先だな。校舎の周りを……取りあえず三周するぞ」

「「「「わかりました!」」」」



さて、中庭まで出てきたわけだが……不気味だ。

さっきまで汚物を見るような目をしていた連中が、

掌を反したように大人しい。

しかも、恐怖で大人しいというより尊敬の篭った視線すら感じるんだけど何でだ?


「しかし流石に先生って言うだけあるよな……あんな連射見た事無いよ」

「ああ、暗記ばかりさせてる教授陣よりよほど面白くなりそうだな」

「つーかさ。詠唱何時してた?」

「……話聞けよお前は。短縮って言ってたろ」


走り出した連中の話し声に耳を傾けてくるとそんな台詞が聞こえたが……。

まさか魔法王国だけに魔力の強ささえ見せ付ければそれだけで尊敬されるとでも言うのか?

ありえなくも無いのが恐ろしい話だが……今回はそれだけではないようだ。


「ふう、たまには体を動かすのも良いな」

「何時も教室に押し込められてちゃ気が滅入るよ、本当に」

「ふぅ、ふぅ……いきが、苦しい……」

「丸暗記するだけなら学院なんて要らないってな」

「そうそう。後は糞長いありがたーいお話、とやらばかりだもんなぁ」


一日中魔法の丸暗記かよ。

いくら基本的に魔法一つにつき本一冊分の丸暗記が必要とは言え、

そんなやり方じゃあ効率が良いはずも無い。

そして合間には無駄にくそ長い話か……ああ、駄目だこりゃ。

明らかに別に教える事があるんじゃないのか?仮にも学校だろうに。

……暗記と説教だけで人が育つと本気で思ってるんだろうかここの連中?


しかし間違いなくストレスが半端無い事になってる奴が大勢良そうだ。

そりゃあ不良化してサボったり暴れたりもするわな。

これはもう今日の所は生徒のストレス発散に当てた方が良いんじゃないのか?


……しかし、本当に魔法しか教えないんだなこの学院は。

はっきり言って、この現状では教育を各家庭に任せて解散した方が良いような気がする。


まあいいか。

今日の所は取りあえず実技の名の下に、基礎体力づくりといくかな。

短縮詠唱を教えるのはもっと先でも良いと思う……出来れば出し惜しみしたい。

と言うか、ラン公女が上の窓際からこっちを向いてうんうんと頷いている。

……まさか俺を呼んだ理由には、こういう事も含まれてるのか?


まあいい。俺は俺のやり方しか出来ないからな。


「ほら、走れ走れーっ!」

「先生早すぎ!」
「俺等が一周する間にもう後ろから追いつかれた……」
「周回遅れですね、判ります」
「だが、それがいい」
「ふう、ふう、しかし、今日は良い天気だ……」


こうして、俺の教師初日は各クラスへの顔見せ程度で終わったのである。

……そして。


……。


「路地裏までのわざわざのお招きありがたく……とでも言えば良いのか?」


「ふん!我が息子をコケにしてくれたそうだな?」

「へへっ家の親父は伯爵様って言った筈だぜ!」

「「「小物は消毒だぁっ!」」」


早速馬鹿が網にかかりました。

……夕刻辺り、ルンを家までエスコートした後で俺は街をぶらついていた。

理由?釣りに決まっている。

そして歩く事十分も経たずして、お目当ての腐った尊い血とやらが網にかかった訳だ。


「いくら貴様がBランク冒険者と言えど、同格5人を相手には戦えまい?」

「「「俺達全員総合Bランク!」」」


ふぅん。向こうは冒険者を雇ったか。

目には目を?甘いな。


「そうか。実績Bランク、総合Aランクのカルマだ」

「「「え?……本物?」」」


「では、お互い恨みっこ無しで……殺し合おうか?」

「「「激しく遠慮します」」」

「何を言っておるんだ貴様等は!?」


名乗っただけでこの威力。

いやあ、肩書きって偉大だ。


「高い金を出して雇ったんだ、奴を何とかしろ!」

「無理!あの弓兵殺し相手に何しろって言うんだ!?」
「最近竜殺しにクラスチェンジしたって聞いた」
「つーか、死にたく無い。仕事キャンセルする」
「本当の化け物キタコレ」


そして、一気に背中を向けて逃げようとする冒険者一向に対し、

俺は二言ばかり発しておく。


「おい。仕事を途中で投げ出すなよ……」

「「「お疲れ様です!」」」


『疾き事風の如く!……加速"クイックムーブ"!』

「「「……え?」」」


そして、次の瞬間5人分の頭にそれぞれ巨大なたんこぶが出来上がる。

当然ぶっ倒れて気絶状態の冒険者5人が出来上がりだ。


「さて?どうするんだ伯爵さん」

「お、親父!親父いいいいっ!」

「……全ては家の息子の責任だ」


そう言って伯爵とやらもまた部下同様反転してUターン、

見事なまでの尻尾切りである。


「ちょっと待てよ……親父!俺はどうなるんだ!?」

「知らん知らん!わしは帰るぞ!」


ワタワタと帰って行く伯爵様とやら。

……路地裏の上のほう、近くの建物の屋根からアリスが手を振って合図してきた。

どうやらあの伯爵の弱みをもう見つけたらしい。

放っておけばいずれ意趣返しが来るだろうし、ここは完全に潰しておくべきだろう。

……まあ、向こうは蟻ん娘達に任せておけばいい。問題はこっちだ。


「さて、どうする?」

「うわあああああああっ!」


詠唱も何も無くただ殴りかかってくる。

魔法王国の貴族ともあろう者が情け無い話だが、この場合コレが正しい回答だと思う。

ただし、三番目に……だがな。


「所詮は温室育ち。実戦はおろか喧嘩もまともにした事ないだろ……隙だらけだ!」

「ぎゃん!」


どうせ勝ち目は無いんだ。最良の手段は交渉で、譲歩を引き出すべきだった。

そうでなければ一目散に逃げ出すべきだったな。

……少なくとも、硬化も無しでまともに食らってもたいして効かない拳しか持っていないなら。


「さて……報復に来て逆に報復されていれば世話無いわな」

「ひ、ひいいいいいっ!」


拳の骨をボキボキと鳴らしてみると、笑える位に相手は怯えていた。

……とは言え、コイツにかけられる時間はここまでのようだが。


「これは先生、偶然です。おかしな所でお会いしますね?」

「ああっ!助けてくれよっ!」

「……後ろに傭兵引き連れて偶然も何もあるのかよ……」


今度は50人は居るか?

……まあ、相手するのは精々その内20人程度だろうが。


「よぉ。いつぞやの戦場で会ったな?」

「「「ああっ!アンタはっ!?」」」


さてさて、今日は果たして眠れるのかね?

……ま、大掃除だと思って頑張るけどな。


……。


≪side ルン≫

朝。アリシアちゃんが差し入れてくれた卵をメインに朝食を作った。

モカがパンを焼いている間に、ココアが野菜を洗って切り刻む。

青山はお茶の為にお湯を沸かし、私はスクランブルエッグを作った。

最近お決まりの役割分担。料理の味は両親や皆にも好評なので何よりだと思う。


料理は良い。お店で買うより安く済むし、特にお菓子作りなどは趣味としても優秀。

何より食べてくれる人たちがおいしそうにしているのを見ると心が和む。


……先生の顔に食べかすを見つけた。

既に行動体制だったアリサちゃんには悪いけれど、これを取る役目だけは譲れない。

ごめんなさい、次は譲るから今日は勘弁して欲しい。


「はもはも。で、ルン姉ちゃ?今日はきちんと学校行くよね?」

「ん」


迷う事無く答えられる。何て素晴らしい事だろうか。

少し眠そうな先生の為にお茶を煎れながら、私は笑って首を縦に振る。


「そうか。体調も戻ったようで何よりである」

「良かったわ~。私もどうにかしないとって思ってたのよ~?」

「お嬢様、良かった。本当に良かった……」

「「と言うか、お嬢様笑ってる……」」


家族達には本当に心配をかけてしまった。

けれど、これからはもう安心だと思う。


「それじゃあ、また俺が馬を出すから乗ってけ。逃亡はさせんぞ、ルン」

「というかむしろ、ばっちこい、だとおもう、です」

「あたしはまだ調べ物があるから別行動するであります」

「それじゃあ、あたしは仕事あるしそろそろ国に戻るね。ルン姉ちゃ?兄ちゃを宜しくー」


正直言って人とは思えない速度で部屋から出て行くアリサちゃんを横目で見ながら、

私は今と言う時間を想う。


……気持ちを凍らせて、氷の壁の中で必死に守りを固めていた日々は終わった。

幼少の頃よりの確執は消えた。

そして驚くべき事にお母様の放蕩癖がほんの、ほんの少しだけだが治まって、

しかもお父様の投資事業で初めて黒字が出た。

使用人達にもまともにお給金を出してあげられるようになった。


……先生と出会ってから、全てが良い方向に回っている。

何故かは判らないけど、そういう風に確信している。

本当に、会えて良かった。

生まれとか育ちとか……そんな事はもう関係ない。

私はあの人を。誰よりも大事なあの人を絶対に必要としている。

それだけは、間違いない。


……。


昨日よりは格段に気楽に。

でも周囲への警戒は怠らないよう気を張りながら教室のドアに手をかける。

……私を見て顔を引きつらせる者や露骨に顔をゆがめる者は居るが、

それでも直接攻撃が来ないのはありがたい。今日は平和だ。


「る、ルーンハイムさん?おはよぉ……」

「あら、ルーンハイムさん、お早うございますわ」


「お、おはようございます!」
「お肩お揉みしましょうか?それともお茶?」
「命ばかりは!弟の無礼はお許しを!」


一部態度が色々な意味でおかしい人達も居るが、害にならない以上問題にもならない。

……それに今日はやけに登校している人数が少ないような。

まあ、大した話ではない。

そんな事より先生はまだだろうか。

……廊下を覗き込んでもまだ来ない。

ため息を一つばかりついてから、今度は教員室でもある研究院を観察する。

あ、先生だ。こっちに向かっている……。


「……ここのところのルーンハイムさん、いい玩具になりそうなのに残念だわぁ」

「恋する乙女は無敵ですわね……少し羨ましいですわね」

「氷の優等生が小動物に化けたよね」
「あの先生を見つめる目の光が少し真摯過ぎて怖いけどね」
「まー、何考えてるか判らないより良いと思う」
「ともかく無視無視。手を出したら殺されるわよ」
「え?何それ?」
「マナ様より厄介かもよあの先生……」
「実は今日出席して無い子達は、はっ!いえ、何でもありませんのよ、オホホ」


足音が聞こえる。

そして、入室を笑顔で迎えた私の頭を先生が撫でてくれる。

……嬉しい。


「おはよう。早速だが学院長に談判して一部授業内容の変更をした」

「はぁ?何言ってるのこの人はぁ」

「興味深いですわ。何をするんですの?」


先生が腰に手を当てて、ハァとため息をついた。

一体何が不服なんだろう。何にせよ私は付いて行くだけだが。


「いや、どれだけの事を学んでるのかと教授連中に聞いてみたんだ」

「そうしたら?」


「まさか……その歳で二桁の掛け算が出来ないとは思わなかったぞお前等……」

「そんなの、なんの役に立つのよぉ」


「事務仕事とかで使う可能性がある。この際だから四則計算の基礎ぐらいは覚えて貰おうと思う」

「なんですのそれは?」

「そも、計算なんて使用人達にやらせておけば良いでしょうに」


先生の呆れ顔が更に酷くなった。

横を見ると一部研究者系の家系の子が目を輝かせだしている。

そう言えば、あの子達は頭は回るけど魔法は殆ど使えない。

自分たちの得意分野だと意気込んでいるのだろう。


「……先ずは九九からだな。しかし、まさかこれすら無かったとは思わなかったが……」


そうして先生は壁に深緑の巨大な板を取り付け、小さな白いスティックで文字を書き始めた。

書き間違えるごとに布で拭き消しているのが印象的だと思う。

さて、出来上がったのは何かの詠唱にも見える数字の多い文章だった。

これを暗記すると、とても計算が速くなる。

と言うか、これ無しで複雑な計算など出来ないと先生は言う。

……研究者系の家系の子達が呆然としつつ、その文面を猛烈な勢いで羊皮紙に書き写し始めた。

きっと価値のある物なのだろう。


そして、次の時間には男子クラスで最近売り出された幾つかの文学作品の朗読を始めたと言う。

……だが、私を含めたクラス全員が腰を抜かしたのはその次の授業。


「よぉし、じゃあちょっと気合入れて今度は理科と行こうか?」

「きのう、よなべして、つくったです」


教壇に置かれた水の入った桶。

そして、二本の針金がのびる、ハンドルつきの謎の箱。


「えーと、じゃあ手作りモーターを逆回転させて電気を発生させるぞ」

「はりがねは、おみずのりょうはじに、いれておくです。それと、しおをすこし、いれるです」


……よく、判らない。

でも先生のやる事に意味が無いとも思えず、ちょっと針金に触ってみ


「ルン、ストップ!」

「きゃっ!?」


痺れた。今針金を触ったとたんに電撃が走った。

……あのハンドル付きの箱は電撃を発生させるものらしい。

興味が沸いたのか、さぼり癖のあった数名が面白がって針金に触っている。


「ほらほら退いてろ。……なあ皆、泡が出てきたのが判るか?」

「はりがねのまわり、ちゅうもく、です」


……本当だ。段々と泡が出てきている。

けれどそれがどうしたと言うのだろう。


「で、だ。ここに一本のロウソクがある。……これを泡に近づけると」

「ぼおっ、て。ひがおおきく、なりますです」


そして、ロウソクの炎が泡に近づいた時……。


「きゃ!?」
「破裂した!」
「び、びっくりしたわぁ……」


「しまった、逆だった……」

「けほけほ。さんそじゃなくて、すいそ、です」


……どっちにしろ、凄かったと思う。

リンに至っては目を輝かせて問題の"逆側"に火を近づけ、燃え上がる炎に目を輝かせていた。

でも、破裂した部分が痛かったのだろう、当の先生は額に皺を寄せて手をパタパタと振っている。

……申し訳ないのだけれど、私はそれを見て思わず笑ってしまった。


「……先生、面白かった」

「そうですわね。こう言う授業なら大歓迎ですわ」

「ま、本来学ぶって事は面白い物らしいぞ?ただ、義務と競争があるから面白く無いだけでな」


そうなのだろうか。

私達にとって学ぶとは一つでも多くの詠唱を頭に叩き込む事。

そしてそれは地位を維持する為の最低条件なのだが。


「暇を持て余してる阿呆が多いみたいだからな。せいぜい愉快な先生になってやるさ」

「……むしろぉ、不愉快だわぁ」
「怖いのは確かだよね。でも刺激があって楽しいかも」
「ボン、ボン……それ、ビリビリーっ」


何だかんだで気に入ったのか、皆実験用具を玩具のように扱っている。

実に楽しそうだ。


……ふと、今日は私に対して何の嫌がらせも無い事に気付いた。

もしかして、先生はこの為にわざわざ……。

じっと先生を見ていると、軽く耳打ちされた。


「お前にちょっかい出してる暇なんか与えないからな?」

「せんせぃ……」


私の横ではアリシアちゃんが朗らかな笑顔を見せていた。

……私は、幸せものだと思う。


……。


それから暫く経つが、今も穏やかな日々が続いている。

何だかんだで先生もこの学院に馴染んできている。

けれど、様々な意味で伝説は増える一方。

ただ、それはまた別な話だ。


……今日は曇り。

どこかどんよりと暗い空の下、私はレンに呼び出されていた。


「あんまりぃ、調子に乗らないでよねぇ?」

「……乗ってない」


「ふぅん。まあいいけどぉ……何か変な事が起こってからじゃ遅いのよぉ?」

「覚えておく」


もう、何を感じる訳でもない。

私を虐める人は先生がすべて排除してくれている。

レンも何度か痛い目に遭っているらしいとリンが言っていた。


ラインフォールドは解散した。……もう、レンには取り巻きも居ない。

そして一対一なら恐れる理由がそもそも無い。


「……決闘でも、する?」

「じ、冗談じゃないわぁ。ふん、優等生様に敵う訳無いじゃないのよぉ」


「やってみないとわからない。それに頑張らないと今のままじゃレンは……」

「ふん。判ってるわよぉ。今じゃ私がクラスの爪弾きよぉ?最初から判ってるわぁ……」


「私はもうそんなに怨んでいない。仲良くする気は、無い?」

「うるさいわねぇ!最初から優秀なアンタにぃ!私の気持ちなんか判らないわよぉ!」


吐き棄てるようにそれだけ言って、レンは行ってしまった。

最近のレンは落ち目だ。取り巻きを失い周囲から浮き始めている。


元から成績は良くない。詠唱は覚えられないし魔力量も平均以下だ。

周りへの根回しや上への追従は上手かったが、先生相手には通じない。

根回しと家の権力を上手く使って便宜を図っていたあの子の取り巻きは、

それが通じない人間が現れた途端に蜘蛛の子を散らすように居なくなっていた。

聞けば物言いが悪く、最初から余り人から好かれていた訳ではなかったらしい。

そう考えると、もしかしたら一人になりたくなくて色々やっていたのかも知れないと思った。


……しかも、今まで魔力不足などで落ちこぼれと言われていた人の中には、

先生の新しく新設した幾つかの教科で優秀な成績を残せるようになった。

だというのに、レンはどの教科でも底辺の成績しか残せておらず……。

総合では最下位という順位に甘んじる事になってしまっている。


……今のレンはまるで暫く前の私だ。

追い詰められた心境に心を削り取られつつある。

ふと気が付けば逆転していた立場に驚きを覚えるが、

私もようやく這い上がった現状を棄てる気は無かった。


「けど、このままじゃ駄目」


そう。それでも何とかしないと思いつめてしまう。とは思うのだが、正直取り付く島も無い。

それに、正直言って今までの事を考えると余り積極的に助ける気にもなれなかった。

例のヌイグルミの件も先生が調べてみると、

レンがお母様からの伝言を伝えなかったのはわざとだったらしい事が明らかになったのだ。

ちょっとした意地悪。けれどそれで私がどんな目にあったと……。


……。


結論から言えば、あの時点で何らかの動きをしておくべきだったのだ。

……それから一週間たったある日の事。

朝から先生たちの様子がおかしいのに気が付いた。


「アリス……それはどういう事だ?」

「わかんないであります!アリサもわかんないって……」


「先生?」


「ルン……アリシアを見なかったか?」

「そんな事あるわけ無いのに!何処にも居ないのであります!」


アリシアちゃんなら……確か。


「昨日、レンからお菓子を貰ってた」

「それは知ってる。ようやくあの子についても片が付いたのかと思っていたんだがな」

「昨日の夕方から定時連絡が無いのでありますよ!」


だったら、レンに聞いてみればいい。

先生は良く判らないけど凄い情報網を持っている。

隠したって無駄だろうと思う。


「そうだな……アリス、アリサに連絡してレインフィールド家の偵察を!」

「そうでありますね。寝てたりしてたら流石に同族に対する接続も無いでありますし」


「お、お、お……お嬢様あああアッ!」

「……青山?」


「た、た、大変で御座います!一大事で御座います!アリシア様が、アリシア様が!」

「どうしたの!?」
「居たのか!?」
「でも、連絡が無いでありますよ!?」


……そして、私達はアリシアちゃんに再会した。

物言わぬ、骸と化した、アリシアちゃんと。


「綺麗なお顔をなされていますが……心臓が、停止しております……」
「朝、ほうき持って門の前に行ったら、アリシアちゃんが、転がってたんです!」
「なんで?何でこんなちっちゃい子が!?」


「綺麗な顔。乱暴とか無かったみたいでありますけど……なんで?なんで!?」

「……だれだよ……誰だよこんな事したのは!?くそっ、クソッ……畜生!」


ワタシニハ、ココロアタリガアッタ。

オイツメラレタニンゲンガ、ナニヲスルカワカラナイ、ソノコトヲ、シッテイタハズダ。

……コノ、ケツマツヲ、ナゼ、ソウゾウデキナカッタ?


「レン……どうしてそこまで……」


私の意識が持ったのはそこまでだった。


あの子が狙われたのは先生と一緒に学院で行動していたからに違い無い。

だとしたら、だとしたらあの子がこんな目にあったのは、間違いなく私のせい……。

私は、私はどうやって先生に詫びたら良いんだろう。

判らない。何も判らない……!


「ルン!?」

「ルンねえちゃ!?」

「お、お嬢様!?」


……皆の声がやけに遠くに聞こえる。

私は……罪悪感を抱いたまま、そのまま意識を手放していた。

それは、逃げだろうか?それとも不幸中の幸いだったのだろうか?

ただ、意識が消えるその直前に……当のアリシアちゃんの声で、


「あたしはここにいるです。だからしんぱいは、いらない、です」


そんな声が床下から聞こえたような、そんな気がした。


***魔法王国シナリオ5 完***

続く


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