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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 32 大黒柱のお仕事
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/14 18:21
幻想立志転生伝

32

***魔法王国シナリオ3 大黒柱のお仕事***

~働かざる物食うべからず 但し例外あり~

《side アリサ》

今朝方アリスから勢い込んで報告が来た。

昨日も夜中まで頑張ってたんですっごく眠いけど、

あんまり慌ててるから取りあえず真面目に聞いてみる。


『ルンねえちゃはにいちゃの嫁』


何、当たり前の事言ってるんだろ?

兄ちゃのお嫁さんがルン姉ちゃ以外に居るとでも言うの?

もし居たとすれば、あたしびっくり。


……そもそも、兄ちゃは自分じゃ知らないけどあの勇者ゴウの息子なんだけど?

しかも母親は魔王の作り出した最強の戦闘用魔法生命体、罪のギルティ。

もしあのギルティが魔王軍から離れなければ勇者なんかに勝ち目は無かったんだよー。

もしそんな事実を突きつけられた上で、

まだ後ろを付いて来よう。なんて物好きが、

精神的にどん底から助けてもらったルン姉ちゃ以外に居るとでも言うの?


『それと……アルシェねえちゃはにいちゃの二号さんであります』

『ぬなーっ!?何ぞそれーッ!?』


これはびっくら。

物好きって探せば居るんだねー。

わざわざ勇者的特徴、要するに強運と悪運を併せ持つ兄ちゃの下に、

わざわざ嫁いで来ようなんて言うなんて……これは買いだね。

ルン姉ちゃと違って特に面倒な親類も居ないだろうし、後で陰謀仲間に引き込んじゃえ。


むがー……それにしても兄ちゃにずいぶん会って無いよー?

幾ら量産作業の真っ最中とは言え、そろそろ深刻な兄ちゃ分不足が起きてもおかしくない!

お仕事ひと段落着いたら遊びに行こうっと。

あ、そんな訳でアリシア。あたしのお部屋用意しておく事。いい?


『はいです。もう、ルンねえちゃのおうちのちかに、いりぐち、よういできてる、です』


じゃあ、今のお仕事終わったら行くからねー。

と言う訳で早速急いでお仕事を終わらせないと。


まあ、あたしが居ないと駄目な仕事も多いし。

種族二つも従える大いなる一族の支柱ってのも大変だと思うよねー?


「そうですね、アリサ様。それではこちらが本日目を通して頂く書類になります」

「え、ホルス?この書類の山、なんぞや?」


因みにここはサンドールのカルーマ商会本部二階。

今日のあたしは総帥代理としてここで書類を読んでハンコを押すお仕事をしてます。

あたし、偉い。

特にきちんと書類を読んでいる所が偉い。


でもね、そうやって真面目にやっていられる量には限界があると思わない?

何でホルスは毎日毎日そんな大量に持ってこれるの?


「はい。本日中に決済して頂く必要のある書類で御座います」

「まじで?……兄ちゃに半分回しておいて」


「既に倍の量の書類を、地下道経由で主殿に送っております」

「むがー!でもこれじゃあ何時まで経っても遊びにいけないよー?」


泣いてもいいよね?

あたしお子様だから。子供だから泣いてもいいよね?

幾らなんでも何処かの辞典よりも厚そうな書類の束は無いんじゃない?


「私は毎日その五倍を処理しておりますアリサ様。いえ蟻の女王陛下?」

「ごめんなさい。あたしが悪かったです」


むがぁ……。

そう言われたら何も言えない。

仕方ないから真面目にやるさー。


「時にアリサ様。レキの第二期工事が完成いたしました」

「こっちも地下水道が外壁内側のエリア全域で、上下共に完成してる」


ふむう。第二期工事完成って事は、城壁とかは出来たんだよね?

こっちも水利関係の設備は大体完成済み。

生活インフラは大分出来上がってきたし、後は最低限の仕事場の提供かな?


「じゃあ、集めた肥料を撒いて土地を肥やしておくねー」

「ではこちらはそろそろ本格的に移住を開始させようと思いますが」


「一応あたしらの裏事情を知らない連中だから、辿り付く前までには蟻達は引き上げさせるよ」

「はい。主殿も蟻達については秘匿せよとのお達しでした」


兄ちゃ曰く、

人は異質な物、未知の物を恐れるんだって。

余りに大きな力を持つ違う存在は、どんな形であれ何とかして排除しようとする。

だからあたし等は人前に出るな。

人を支配するのではなく、甘い蜜で釣ってこっそりと利用し尽くしてやれ。

人間に信用できる奴は中々居ない。だからお前達が地下から人の世界を操れ。

そしてみんなが幸せになるような世界にしろ。

ただし絶対に気付かれるな。


これが兄ちゃからの教えだったり。

まー、兄ちゃの言う事だしあたし等は従うだけ。

取りあえず蟻的には、食う寝る増えるが人生なのさ!

そんな今の生活に不満なんてあるわけ無い。

本当、人間って面倒だよねー?


「そだね。じゃあ農場と牧場の整備は後半月を目処に終わらせとく」

「お願い致しますアリサ様」


委細承知。全てあたしに任しとき?

さて、働き蟻に肥料の運び出しさせますかー。


……ふー。しかし忙しいよねー。


おかーさんだってもっとのんびり暮らしてたと思うよー?

まあ、お腹すかせて惨めに生きるなんて選択肢はもう選ぶ余地無いけどね。

それに億を遥かに越える我が眷属どもの為にも、最低でも現状維持はしておかないと。

はぁ、気楽なお姫様とか一度でいいからやってみたかったなー……。


……。


≪side カルマ≫

……昨日、義理の父となる事が決まったルーンハイム公と拳で語り合い、

ふと目を覚ましたら二人で仲良く庭で寝ていたりする俺なのではあるが、

ふと目を覚ました時、顔の横に大量の書類が置かれていた。


……ふふふふふふ、そうか。

魔法王国までやってきてなお、書類仕事からは逃れられんのだな?

ホルスの事だから本当に最低限以外はアイツが肩代わりしてくれてるだろうが、

同時にこれは俺が何としてもやらねばならない仕事と言うことだ。


既に設立当初の目的は果たし終えたカルーマ商会ではあるが、

今まで付いてきてくれた奴等とその家族の為、今まで以上に頑張らねばならない。

今更潰す訳にはいかんのだ。何せとんでもない人数が路頭に迷う羽目になてしまう。

怨まれたくは無いよな常識的に。


……そんな訳でルンの屋敷の一室を借りて書類を片付けてる訳だ。


『んー、これはまだいい。こいつは急がせるか……決済、と』

「先生、お茶」


ルンが持ってきてくれたお茶を飲みつつ、書類の山と格闘中だ。

うーん、書類との格闘で疲れ果てた心にお茶の香りが染み渡るな……。


因みに俺の担当書類は機密保持を兼ねて古代語で書かれている。

お陰で横に誰が居ようが問題無く出来る訳だ。


「……先生。それ、何の魔法?」

「いや、これは古代語で書かれた重要文書だ。今解読中なんだよ、ルン」


「歴史的遺物……素敵」

「まあ、いずれはそうなるのかも知れないが、な」


うん。何一つ嘘は言って居ないぞ?

古代語で書いてるし重要だし解読しないと決済できないからな。


目を閉じてほんわかと遥か古代のロマンに浸ってるルンには悪いが……、

まあ、この書類はもっと下世話でえげつない代物なのさ。


けどまあ、ルンの場合嘘とか上手くつけないだろうし、

最悪の事態を考えると嫁だろうが何だろうが真実を知られる訳にもいかないんだよな。

それに排除はしたくないとなると、

万一の際は地下に一生閉じ込めてしまわねばならん。

流石にそれは可哀想だし、

そこまでやって好きで居てくれる人間がいるとはとても思えんな。

……とはいえ、こっそり隠れて処理して逆に怪しまれたら本末転倒。


そんな訳で適度に誤魔化しているという訳だ。


さて、次の書類は、と。

あー、貸し金業務のせいで商都の銀行と仲が悪くなってるのか。

さて、どうするか。あの銀行には商会設立以前の俺の財産を預けてあるんだよな。


……取りあえず個人向けの金融からは手を引いて、銀行に任せるか?

最悪、新規事業への投資さえ続けられればこちら側に立つ人間を増やす事は出来るだろう。

それに個人向け融資はどうしても返済を迫る羽目になり評判を落とすのが判ってきたからな。

利鞘は悪く無いが……望んだのは向こうだ。ここは商都の銀行に泥を被ってもらうか。

俺達は悪評を避けられ向こうは利益を得る。お互い得するのが良い取引ってもんだからな。


と言う訳で俺の意見を付けて、決済印をペタリと。

じゃあ次だ……はぁ、終わりやしない……。


「……先生?古代文書に落書きして、いいの?」

「ん?まあ注釈みたいな物だから。それにこれを今日中に商会に届ける約束があるからな」


ひょいと背中側からルンが書類を覗き込んでいる。

うん、背中に慎ましやかな幸せがくっ付いていい気分だ。


「カルーマ商会からの、お仕事?」

「そういう事。一日これぐらいの量をこなして……まあ月に金貨百枚か」


因みにカルーマ総帥としてはこの他に毎月自由に出来る資金を、

この三倍くらいプールして貰ってたりする。

いやあ、今更貧乏暮らしも嫌だし古代語翻訳の仕事のふりして仕送りさせていたりするんだ。

とは言え、この書類で毎日大金が動いてる訳で、

決して働いていない訳じゃないのがミソだ。


ルン、お前の旦那はきちんと働いてるから今後の生活は心配しないでいいからな?

ってルン?どうした固まったりして。


「金貨……百枚を……毎月?」

「どうした?瞳孔開きっぱなしだぞ」


「……きゅう」

「倒れたーっ!?一体何事だーっ!?」


とまあ、色々ハプニングはあったもののどうにか昼前には書類の山を排除する事に成功。

ハピ辺りに書類を渡さないといかんし、気分転換兼ねて出かけるとしますかね?


……。


「お疲れさん、ハピ。例の書類目を通しといたぞ?」

「お疲れであります」

「おつ、です」

「はい、カルマ様。では本日分の書類は預からせて頂きます」


そうして百貨店までやってきた俺達は、早速ハピの元へ向かう。

古代語の翻訳を同行させたアリシア達に任せる事にしている。

よって蟻ん娘とはここで一度お別れだ。

とは言え、晩飯までには戻ってくるだろうが。


……それに、俺にはやらねばなら無い事がある。


「ちょ、マナさん!?勝手に商品弄っちゃ駄目だって!?」

「え~、ちょっとぐらい良いでしょ~?」

「良い訳無いでありますよ!?」


このスチャラカな義理の母親(予定)の暴挙を止める!

畜生、何時の間に付いて来てやがったんだ?


「あら~カルマ君~?どうして私の行く所に付いて来るの~?」

「そう言う事か!行き先同じなんてついて無ぇ!」

「ガード!ガード!であります!」


わたわたと宝石類に手を伸ばさんとする歳だけ大人なお子様の腕を掴み、

アリスには片足を押さえさせる。

しかも気付けば多数のギャラリーが無責任に周囲を取り囲んで歓声上げてるし……。

えーい、見世物じゃないんだ!見物人ども退いてくれ!

ああ!もういっそ強力でも使って腕力で押し切ってやろうか……!


……あれ?いきなり力が抜けたぞ。


「ちょっと待ってね~?表が騒がしいわ~」

「え?そういや何か表にも人だかりが……」

「表で誰か揉めてるであります」


事件か?物騒だな。だがこれはチャンスだ。

これ幸いとマナさんの背中を押し、店から押し出す。

そして人だかりの方に歩き出すと、マナさんも釣られて……いや、自発的に歩き出した。

どうやら既に商品の事は忘れ、人だかりの方に興味が移ったようだ。

……さて、何の話か判らんが、取りあえずそっちもチェックしておくか?


「ねぇ?それ私のお金なんだけどぉ……どう言うつもりぃ?」

「「「「おうおうおう!レンの姉さんの持ち物に手ぇだすとはいい度胸だな坊主?」」」」

「う、うう、ごめんなさい。でもどうしても母さんの薬代が居るんだ。見逃しておくれよ」


人だかりの中心に不良を引き連れた金持ちそうな女とみすぼらしい少年が居る。

どうやら、家族の薬代の為にスリを働いたようだ。


しかし相手が悪かったみたいだな?

どう考えても相手は貴族階級、しかも街のチンピラ引き連れてやがる。

本人もちょいとばかり"遊んでる"女子高生風で金と暇を持て余してると言わんばかりだ。

まあ、傍目から見ても暇に任せて馬鹿なことしそうなタイプに見える。


だがな少年。相手が余裕ありそうだとは言え、盗みはいけない事だぞ?

とは言え情状酌量の余地は大いに有りそうだがな?……さて、どうしたものかね……。


「お金は何時か必ず返すから、今は見逃しておくれよ」

「そぉ言われてもぉ、泥棒なんかにかける情けは無いわよぉ?」

「「「「その通りだぜ!へっへっへっ」」」」


うん。正論を言ってる方が悪党に見えるこの状況下は一体何なんだろうな?

周囲の同情は少年に集まりつつあるが、

実際の所盗みに手を出した時点で情けをかける必要は半減している。

……俺としては態度も考慮した上で、どっちもどっちといった所だと思うな。


「……ごめん!」

「あ、逃げないでよぉ!この盗人ぉっ!」

「「「「待てやコラ!」」」」


しかし言葉とは裏腹に少年は慣れた足取りで追跡する手から逃れ……。

……ドン、と音がして少年が何かにぶつかった。

あれ?いつの間にか居るべき人がいないが……ああっ!?


「ま~、泥棒はいけないのよ~?」

「ひ、ひぃいいいいいいいっ!?」

「げげっ!マナ様ぁ?何でこんな所にぃ!?」

「「「人生終わった!」」」


いつの間にか犯人の所まで歩いていってたマナさんに捕まった。

さっきまでの威勢は何処へやら、少年は腰を抜かして後ずさるのみだ。

……どんだけ恐れられてるんだあの人?


「もう~困った子ね~?次やったらお仕置きだって、以前言ったわよね~」

「うわああああっ、許して!許しておくれよいおおおおっ!?」


あ、マナさんがワラッタ。

と言うかあの少年、前科持ちかよ!


「泥棒は駄目よ~?」

「ぎょぇえええええええっ!」

「マナ様ぁ!?何する気なのぉ!?」


あら?いつの間にかチンピラ連中が居なくなってるぞ?

しかも野次馬連中も次々逃げ出して行くし!?

……あ、絶叫響く中詠唱が始まったぞ!



『今日も元気~♪』



⑨が出たああああっ!

しかも旦那と違って異様に似合ってやがる!


「あひゃ、あひゃ、あひゃ」

「マナ様ぁ!お気を確かにぃ!?ショッピングがぁ出来なくなっちゃうぅ!」


いやいやいや、そういやそうだ。

あの軍隊を相手に出来る大魔法をこの街中でぶっ飛ばされちゃ何人死ぬか判らないぞ!?

しかもこそ泥一匹への罰、しかもお仕置きレベルと言うには少し過激過ぎないか?!


「やり過ぎだマナさん!せめて街を破壊しないレベルに押さえてくれえええっ!」

「誰か知らないけどぉ!その通りよぉ!?マナ様落ちついてぇっ!」


あ、ぴたっと止まった。

……届いたぞ?俺達の言葉届いたぞアンタ……えっと、名前はレンだっけ?


「そうね~、じゃあ怪我しない奴に変えるわ~?」

「えぇっ?マナ様が人の言葉聞いてくれるなんてぇありえないわぁ!?」

「と言うか、そんなのあるなら先に使えと小一時間」


全く、いきなり街全滅のお知らせが流れるところだったぞ?

怪我人の出ない奴があるなら今度からはそっちを先に使って貰いたいもんだな。


『虫垂炎、小腸・大腸の閉塞、ヘルニア嵌頓、消化性潰瘍、胃・腸管の穿孔・破裂……』

「何その詠唱……」

「あれぇ?何処かで聞いた感じの詠唱よねぇ。でも思い出せないわぁ」


いや、良くないってば。

そもそもこれ、一体何の詠唱なのさ?


知らない国の音楽みたく、

意味は判らないけど音として覚えてるとかそういうのかも知れないが、

それでも発動する所を見たことあるんだろ?


『憩室炎とくにメッケル憩室炎、炎症性腸疾患、マロリーワイス症候群、特発性食道破裂……』

「あ、思い出したわぁ。……逃げるわよぉ!?」

「なに?良く判らんが、だったら俺も逃げる!」


何処かで聞いたような名前の子があたふたとしだした。

つまりあの魔法もやばい訳ね?


身の危険を感じ俺も撤退にかかる。

強力で脚力をブーストし一気に大通りを駆け抜け、

先ほど逃げ出した街の人たちを追い越し、


……追い越した時にそれは起こった。


『胃炎・腸炎、急性胃炎、結腸垂捻転……腹内崩壊!(コンディションクラッシュ)』


その言葉が鼓膜を振るわせた刹那、時が止まった。

そして時は動き出す。


……主に腹の中からゴロゴロと。


「な、何だこれ?腹痛ぇ!?」

「きゃああああっ!?無理やりお腹痛くする魔法よこれぇ!?」


何だって!?

つまり腹が急に下り始めたのはそのせいなのか!?

あー、腹がゴロゴロ鳴ってる!苦しくて死にそうだ、というか漏れそうだ!

と、トイレは何処にある!?


「嫌ぁ!もうあんな恥かきたく無いぃ!」

「お母さーーーーーん」

「手遅れだあああ……アッ!?」

「またかよ!?」

「駄目だ、公衆トイレが一杯だあああああっ!」


周囲の阿鼻叫喚を尻目に俺はカルーマ百貨店、それもスタッフルームに駆け込む。

そして従業員用トイレの個室に飛び込む事により、一応人としての尊厳を死守する事に成功した。

こう言う時は目先の近さより確実に使える所に入るのがコツだと思うな。うん。


……しかしまだ腹が痛ぇ。マナさん、怨むぞこん畜生。

これで義理の母となる人じゃなかったらこのまま首でも絞めてやる所だ。


あ、ハピが手洗い用のフィンガーボウルを持ってきてくれてる。

いやあ……助かるなホントに。


「ご無事ですか総帥」

「うん、ハピは無事なのか?」


「幸い効果範囲は聞こえた者のみ。騒ぎを聞きつけ慌てて地下に潜りましたので実害は無しです」

「そうか……いやまて、まさかこんな事が何回もあったのか?」


あ、目が遠くなった。


「ええ、私どもがやってきてから……これで三回目ですね」

「そうか。道理でこの時代に公衆トイレなんて物が存在してる訳だ……」


恐るべし勇者。

肉体ではなく精神に致命傷を与える極悪魔法とか、笑えないぞ?

まあ本人は血も出ない優しい魔法だと勘違いしてるみたいだが。


さて取りあえずハピに礼を言い、表に出てマナさんの方に向かう。

……ああ、街の空気が淀んでる。

そして絶望の吐息と共にへたり込む老若男女がひいふうみい……数え切れない。

余りに哀れでその姿を直視できないんだけど……。


「うあああぁん!これだからルーンハイムの人間は嫌いよぉっ!」


さっきのレンって子も号泣中……ご愁傷様だ。

ただ、母親はともかく娘は良い子だから余り怨まないで……無理か。

まあここは知らぬ存ぜぬで進むだけだな。

何せ、マナさんがこの魔法に切り替えたのって俺のせいだよな、この場合。

よって下手な藪を突付いて蛇を出すようなマネは避けたいのだ。


が、どうやら俺に用があるのは向こうの方らしい。

何せ真っ青な顔でこっちを睨みつけてるからな。


「ああっ!そこのアンタァ?なんでアンタだけ無事なのよぉ!?不公平よぉ!」

「いや、幸いトイレに飛び込むのが間に合ったからで」


「ムカつくぅ!何時かギャフンと言わせてやるから覚悟しなさいよぉ!」

「はいはいはいはい」


「ムカっ!けど今日は見逃すわよぉ……ううう、もう嫌ぁ。お腹が割れちゃうわぁ」


とりあえず適当に無視する。

何せ年頃の少女には余りに辛い試練だ。多少の八つ当たりは大目に見ておこうと思う。

……と言うか涙目過ぎて何と声をかけて良いものやら判らん。

取りあえずトイレは満員御礼。最悪の事態に至る前に速やかな帰宅を勧めるぞ?


さて、取りあえずマナさんを探して屋敷に連れ戻そう。

もうあの人の被害者をこれ以上出す訳にも行かないし。


「あら~?カルマ君大丈夫だった~?」

「お陰様で、な」


おいおい、あんな阿鼻叫喚地獄絵図作り出しておいて言いたいのはそれだけかよ?

……思わず滝のような汗が流れるが、内心の動揺を隠して笑顔を見せておく。

何せ相手は大きなお子様だ。社会的立場も向こうが上なだけに強硬手段は採れない。


と言うか、正直言って何故か正面戦闘では勝てる気がしない。

よって取りあえず声をかけてみる事にした。


「取りあえず悪は滅んだみたいだし。そろそろ戻ろうぜ?」

「そうね~?あの子もこれで懲りて人のお金に手を出すなんて辞めれば良いんだけど~」


あんたがそれを言うか?

しかもあの子供、白目を剥いた状態で口から泡吹きながら道端に転がってるんだけど……。


だが、話が拗れるのでこの場でそれを指摘はしないでおく。

実際俺も前世のゲームで、取らないでくれとNPCに言われた宝箱を、

ペナルティが特に無かった為に根こそぎ持っていった記憶がある。

マナさんにとって、この暴挙はそれと大して変わらないのかも知れない。

まあ、だからと言って許せるかと言うと無理だと思うのだが。


「今日も良い事したわ~♪前は地下のネズミ退治したのよ~」

「へぇ、その後どうなったんで?」


「死んじゃったネズミさん達が~、川を埋め尽くすぐらい一杯流れて行ったわよ~」

「えっと……それって匂いとか酷くなかったか?」


「そうね~。川から死体が無くなる一週間ぐらいまでは鼻が曲がりそうだったわ~」

「なんてこったい」


すごかったわよ~、と自慢げに語られる内容のあまりの凄惨さに思わず冷や汗をかく。

川を埋め尽くすほどのネズミの死骸を放置?正気だとは思えん。

万一、伝染病でも流行しだしたら一体どうするつもりなんだろう。

……これが呪いか。これが呪いの効果なのか。恐ろしすぎる。


結論としては、屋敷で日向ぼっこでもしててもらうのが一番と言う事か。

さあさあ、おうちに帰りましょうねぇ……はぁ。


……。


そして翌日。

この家の経済状況をある程度知っている身としては、

流石に何日もただで世話になるのは気が引けていた。

そんな訳で使用人三人を探して宿泊料をこっそり支払う事に、


「んじゃ、これが俺達の食事代だ。公には言わなくて良いからな?……誇りを傷つけると拙い」

「おおおおおお……有難う御座います若様……」


したのだが、それだけで何故か若様扱いされるようになったんだけど?

……どんだけヤバかったんだこの家の収支?


「おいおい、そんなに感動してどうするんだよ青山さん……そんなに拙い状況なのか?」


「それはもう。何せ借金の返済の為に新たな借金を重ねる始末でして」

「お嬢様に何とかして頂くまでお給金も半年ぐらい滞ってましたよ?」

「毎年、王家から手当てとして毎年金貨三千枚も貰ってるんですけどね……」


金貨三千枚?

決して安い金額ではないな。と言うか遊んで暮らせるだろどう考えても。

むしろ、そのレベルだと軍隊一つくらいは養えるような気がする。

そんだけ貰ってて、なんでこんなに貧乏なんだよ?


「まあ、直属魔道騎兵の維持費に殆ど消えてしまいます……」

「私達使用人や兵士たちのお給金の支払いもありますからね」

「それを引くと残りは大体金貨百枚くらいですか?」


その金は本当に軍の維持費だった訳だ。

生活に使えるのは精々金貨百枚程度か……いやまて、親子三人なら十分どころじゃないぞ?

下層住民だとひと家族が年間金貨一枚で暮らしてるなんてザラなんだけど!?

それともあれか。公爵の地位に見合った生活をせねばならんとかそう言う事か。


「だったら、魔道騎兵解散すれば良いんじゃ……領地も無しで兵を養える訳無いだろう?」

「いえ、実はそうもいかない事情がありまして」


……話を聞いてみると、ちょっと眩暈がしてきた。

王家からの手当ては要するに危険手当。と言うか魔道騎兵に対する予算らしい。

それをこの家の生活費にも流用してると言う訳だ。


「良いのかよ、そんな事して……」

「まあ一応、公の私兵という立場でありますので」



成る程。ある程度の裁量は公にあるという事か。

……公爵家の私兵でありながら正規軍の予算で運営されていると言う微妙な立場。

それが許されているのはルーンハイム公自身が国随一の指揮官であり、

他ならぬ王の妹……マナさんの伴侶であると言う特殊な事情を持つ故である。


そして、金を出して貰っている以上ルーンハイム公爵家の当主は軍務に付く義務を負う事となる。

今日も荒れ果てた庭先に百人ほどの部隊を集め、行軍訓練を施しているようだ。

そして、もし万一の事があれば即座に対応すると言う役目を担っているらしい。


先日も北方から侵入した部族と戦って追い払ったと言う。

後は盗賊団を討伐したり、大量発生した魔物と戦ったりしてるんだとか。


「なあ、青山さん……それって、もしかして」

「恐らく、若様がお考えの通りかと」


要するにだ。魔道騎兵を解体してしまうと手当ても打ち切られる。

つまり生活費の当ても無くなってしまうという訳。

まともな領土が残って居る内はそれでいいのだろうが、

この家に現在まともな領地は残っていない。

要するに戦うのを止めたら命運も尽きる訳だ。


しかも、さっきの予算内から生活費を捻出できるのは余裕があるときだけだろう。

軍隊と言う物は当然消耗するもの。

戦死者が出たりしたら、見舞金や兵員補充など別口の出費が出て来るはずだ。

徴兵する場所が無いのなら、当然金を出して人を集める事になるだろうし……。

当然赤字が出る事は必至だ。

そうなった場合どうするつもりなのだろう?


いや、もしかしたら既に何度も大赤字を出しているのかも知れない。

……屋敷の現状を鑑みるにそんな予感がする。


「赤字ですか?そりゃもう毎年のようにですよ」

「せめて、公爵様の投資事業が上手く行って頂ければいいのですが……」

「赤字が膨らむばかりですもんね」


「流石に現状じゃ拙いのは理解してるんだな?……でも、儲からないと」


投資ねぇ。まあ一番無難な金の使い方だ。

資金を注入する相手さえ間違えなければ寝ているだけで金が転がり込んでくる。

ただし、失敗した時のダメージも笑えない物があるけどな。


……恐らくこの家が没落した最大の理由はこれなんじゃないのか?


勿論安全牌、そして危険だが美味しい案件を巧みに使い分け、

致命的なダメージを受けないようにする必要があるわけだが……あの人にそれが出来るだろうか?

何か、思い起こせば分の悪い賭けを好みそうな言動がチラホラしていたんだが……。


これは一度付いていく必要があるだろう。

そう感じ、俺は窓から飛び降りると行軍訓練中の一団に近づく。

そしてルーンハイム公に仕事時に連れて行ってくれるよう話を持ちかけたのである。


「ふむ。いいだろう、丁度今晩マナリア商業組合で会合がある。付いてくるが良い」

「組合の会合……そこで投資の話があるのか?」


「ああそうだ。我はパトロンとして長年組合の会合に出席してきたのだ」

「じゃあ同席させてもらう。今後の為に勉強させてくれ」


まあ、実の所はお手並み拝見と言った所なんだがな。

さてさて……果たしてこの人に商才はあるのかね?


……。


そして、その晩。

俺はマナリア商業組合の会合に出席していた。

名目はルーンハイム公の荷物持ちだ。


「それでは今月の会合を始めます。まず先月の収支ですが……」


組合の建物の中にある大きな広間に三百人以上の人間が集まっているな。

ただ、商人は思ったより少なくて100人ほど。

残りは、資産家や貴族のようだ。

どうやら資金に余裕のまだ無い商人たちがここでプレゼンを行い、パトロンを探す事になるらしい。

そうして、新しい商売に資金を出してもらい、儲けが出たら倍返し。

これがこの国における投資と言う訳だ。


「それでは、次。新しい商売の案がある方は挙手願います」

「はい、私に一つ新しい案がありまして……パトロンを探しております」


商人の一人が立ち上がり、

部屋の中央部、一段高くなった部分に上がって声を張り上げ始めた。


「……よって、サンドールのように我が国でも鮮魚を取り扱いたいと存じます!」


ふむ、このマナリアは高原地帯。

川魚はともかく海産物は非常に出回る量が少ない。

それを鑑み、臨海部からの定期的な海産物輸送ルートを確立したい訳ね?


……残念ながら、周囲が静まり返っている。

それが答えだよ……駆け出しっぽい商人君。


「魚だったら無理に海の物にこだわる必要は無いな……少なくとも我が国に川はある」

「それに……投資金額金貨五百枚は少し問題があるぞ?」

「そうだな。軽い気持ちで出せるレベルではないが、その試みを成功させるには少なすぎだ」

「仕入れ、販売、広告、商品警護……恐らく三倍の資金が必要になるだろう」

「それに新鮮さを保たせる為生きたまま持って来ると言っていたが……」

「水ごと運ぶと言う事か?坂道を馬車が走れる重量で済む方策は考えているのか?」

「余り細かく運んでも利益は出ぬが……」


そら来た……怒涛の駄目出し。

細かい事から致命的な計画の不備まで滝が流れるかのように吐き出される。

あ、笑顔のまま凍りついてしまったぞ……大丈夫なのか彼。

けど。これが正しい姿なんだよなぁ。金出す者としては。


あ、ルーンハイム公が立ち上がったぞ?

何を言うつもりだこの人。


「……皆の言いたい事は判る。だが、縮こまっていては壁を打破すること叶わぬと思わんか?」


え、その出だしからして危なくないか?

まさか……これに金を出す気なのか!?


「誰も成そうとも思わぬ斬新な意見、それにもし成功すれば利益は莫大……」

「しかし、公よ。成算は百に一つではないか?」

「そうだ。しかも……」


「ええい!先ずは黙って聞いてくれ!」


周囲の反対も公の耳には届かないようだ。

何か、演説が更にヒートアップしてきたんだけど?


「分の悪い賭けではあるが、それ故に心燃える、そうは思わんか!」

「思わねぇよ!それに成功率はゼロだ、ゼロ!」


あー、思わず突っ込んじまった。

実際は最後近くまではだんまりしておく予定だったんだが……。

けど……仕方ないよな。結論は既に出ている。


ルーンハイム公は……ギャンブラーだ!

成算を無視してハイリスク・ハイリターンのみ求めるやり方で上手くなんか行くわけ無いだろ!?

これ以上あの家の財産を減らしてやる訳には行かんぞ?もう他人事じゃないし!


「そうかも知れんなカルマ君。だが……針の穴を通って成功するかも知れん」

「通らないから。それに万一成功しても利益は無いに等しい」


「何故そう言い切れる!?」


あー、言ってしまって良いのかね?

何て言うか……手に入れたと言うより自分で作り出した情報なんだが。


「実は、カルーマ商会がもうじき大々的に鮮魚を売り出す事になっているんだけど……」


「わしも聞いたぞ。生のまま口に出来るほど新鮮な物を用意しておると」

「こちらも聞いています。しかも値段は川魚とほぼ同等にすると……」

「こちらの手飼いからも報告が来ておる。と言うか既に一部は売りに出されているな」


「なんだと……我は知らなかったぞそんな事!」


駄目じゃん。

しかもこの情報は別に秘密にしてる訳じゃない。

宣伝も兼ねてあちこちに情報を流している為、

ちょっと調べれば直ぐに手に入るレベルの情報だ。


現に他の出席者の七割程度は何らかの形で情報を掴んでいたようだ。

それを知らないルーンハイム公の商才なんて高が知れてしまうし、

そんな状況下であんな提案をする駆け出し君の計画が上手く行く訳が無い。

はっきり言わせて貰うと、うちの値段に対抗しようとすると輸送費だけで足が出ます。確実に。

そんな事も計算できない商売人に大事な金を預けられるかよ……。

まあ、チートじみた手段で法外な利益をむさぼり続ける俺等が言えた義理じゃないけどね。

でもこれ以上値を下げると他の業者が根こそぎ潰れかねんがな。


「と言う訳で商人さん。アンタの案は実現しない」

「ウソダドンドコドーン!」


それだけ言って部屋から走り出す駆け出し商人。

まあ商人Aは逃げ出した、って所か。

ただ、今回駄目だっただけだから次はもっと将来性のある提案を持ってきて欲しいと思う。

それなら俺自身が金出す事もやぶさかでは無いしな。

取りあえず馬鹿な事に大金出す前に止められて良かったと思うよ本当に。


「……我は無意味な提案に大金を出す所だったのか、また」


……ほら、ルーンハイム公も少し元気出してくれよ。

取りあえず最後の聞き捨てならない単語は聞こえなかった事にしておくから。


「えー、それでは次の案をお持ちの方は」

「うむ。それでは私から説明させて頂こう」


今度は軍関係者かな?

どこぞの騎士王を髣髴とさせる装甲ドレスのご令嬢が現れたぞ。


「実はつい先日、南方の結界山脈、商都側において火竜が退治されたと報告が入って来た」


ざわざわと周囲がざわめく。

今回は情報を持っている奴が殆ど居ないな。

まあ、それも当然と言えば当然か。

何せ当の本人が倒した脚でそのままこの国に向かってきたのだ。

情報が伝わる暇すらなかっただろう。


で、それがどういう儲け話になるんだ?


「我がマナリア王立魔法学院ではこの際失われたと言う秘宝"竜の心臓"を求めている!」

「ふむ、ラン殿……お父上か?それとも宰相の方か?それを探しているのは」


「公の仰せの通り、これは宰相閣下からの依頼である。それを手に入れ、真贋を見定めよ、と」

「成る程な。本物ならば我が国にとってかけがえの無い力となるか……」


ふむ、成る程。

要するに強力な魔力媒体である竜の心臓を捜してくればお礼は弾みますぜ旦那、って訳か。

でもなぁ、それこそさっきの話より実現不能だぞ?

だって……俺本当は回収してるし。

要するにありもしない物を探せといってる訳だ、この人は。


「もし見つけ出したのならば、私の父……ランドグリフ公爵より金貨五百枚を進呈する」

「ラン殿。幾らなんでも謝礼が安すぎるのではないか?彼の宝石は我等にとって値千金であるぞ」


「うむ、魔法使いにとってあれほど有用な宝物も無い。よって国からも報奨を出す」

「ふむ。爵位でも渡すのか?」


ガタン、と音がしてラン公女が背中に背負っていた大剣を床に突き刺した。

そしてそれに両手を乗せ厳かに宣言する。


「問おう。この中に男爵の地位と領地を望む者は居るか?」

「「「「ここに居るぞ!」」」」


うわあっ!?凄い勢いで何人も立ち上がったんだけど!?

しかも全員目の色が違う!

爵位か、領地か……どちらにせよこの国では特に大きな価値を持つものなんだろうな。


「これは我が失地を回復する、またと無い機会であるぞ!」


……当然、ルーンハイム公も乗り気だ。


ただ、俺としては流石に竜の心臓を譲ってやる気にはなれない。

何せ商才と言う物が全く感じられないんだこの公爵様からは。

ここで助け舟を出しても数ヶ月以内にまた領地を失ってそうな気がする。


……それに、だ。

王国自身がそこまで欲しがるような代物なら、くれてやる訳には行かなくなった。

一体どんな力があるのか、調べ上げて自身の為に使いたい所だな。


さて、つまりここはルーンハイム公を抑えるべきなのでは在るが……。

そう言えば、あの話のどこら辺が"投資"なんだ?


「なお、報奨は全て成功報酬とする。探索に国が関わる事は無いのでそのつもりで」


要するに、見つける所まではお前等でやれ。

国は知らない。

だが、万一お宝見つけてこれたらご褒美やるよ、って事か。

ズル臭い話だなぁ。


まあ、それなら心配する必要も無いか。

何せ、使用人の給料にひぃひぃ言ってるような家だ。

雪山の探索代金なんて出せる訳も無い。


「うむむむむ……長く国を空ける訳にもいかん……無念なり」

「まあ、そういう事もあるさルーンハイム公」


そして、お仕事的に国を空ける訳にも行かない、か。

残念だろうけど、お宝は絶対見つからない事を考えるとこれでいいんだよ、公爵様。


……さて、今日はここまでかな?

さっきまで一杯居た連中が今は一人も居ない。

きっと、心臓捜索の準備に取り掛かったんだろう。

今やここに居るのはラン公女とルーンハイム公、そして俺だけだ。


「公には残念でしたな。私としてはルーンハイム家が復興してくれる事を祈っているのですが」

「ラン殿……ならば我に失地回復の機会を頂けるよう殿下にお取り成し頂きたいのであるが」


「無理ですな。そも宰相に嫌われているでしょう貴方自身が」

「むむむ、我の何が気に入らぬと仰せなのだろうか宰相は……」


何か、仲良いみたいだなこの二人。

妙な絆的な物を感じるんだが。


「それは貴方が考案された新戦術のせいだな。宰相は生粋の魔法原理主義者ゆえ」

「ええい!魔力が尽きた時や詠唱が間に合わぬ時、武器で戦って何が悪いと言うのだ」


「宰相閣下は魔法使いは魔道を極める事のみに邁進して欲しいのだよ」

「それ以外の時間は無駄だ、と言うのは間違いであると我は感じるのであるがな?」


「ふっ、結局己の意志を曲げなかった公が言える立場なのか?」

「違いない。が、その後の世代で我が戦術を使う者は多い。決して間違いでは無いと思うのだ」


ふぅん。

何だか良く判らないが、ルーンハイム家が没落した原因の一端を知ってしまった気分だ。

と言うか、宰相に嫌われてるってある意味最低の状況なんじゃ?


「時に公。そこの十年前はきっと可愛らしかったであろう少年は何者だ?」

「どうやら娘の婚約者らしい。マナの旧友の息子らしいな。……まあ、能力は一級品だな」

「あー、カルマだ。冒険者をしている」


「そうか。私はマナリア王立学院長、ランドグリフだ。気軽にランと呼ぶが良い」

「ラン殿はランドグリフ公爵家の一人娘。そして軍の重鎮で殿下の婚約者でもある」


へぇ。遂に四大公爵最後の一家がお出ましか。

年の頃はルンやフレアさん辺りより何歳か上……二十歳ぐらいか?

それで学園長の上、軍の重鎮とは……。

いや待て、殿下?リチャードさんの婚約者なのかこの人。


おや、何だか視線が値踏みするような感じになっているんだが。

俺、何かしたか?


「カルマ……ああ、ルンの論文にあった男だな?稀代の魔法学者と言う話だったが」

「何だ、知っていたのか?」


「ああ、それにマナ様から聞いたぞ。竜殺しだと」

「リオンズフレア公からその話が出た時は驚いた物だがな……」


どうしたんだルーンハイム公。

いきなり苦虫噛み潰したような顔して。


「マナめ、早速言いふらしているのか。まだ証拠も無い与太話だというのに」

「うん。マナ様自身ホントかは知らないと仰せだったよ。とは言え無視も出来んのでな」

「まあ、確かにそうだなぁ……じゃあはい、竜の鱗」


まあ、確かにデマだったら洒落にならんよな。

ましてや未来の息子と言う事になってしまっている訳だし。


だが、何かむかつく話だ。

こう見えて俺自身何度も死に掛けて戦ったのに嘘呼ばわりは許せんな。

と言う訳で、証拠オープン。


……あれ?周囲の時が止まった。

と言うか公爵家二つの代表者が双方共に固まってる。


「こ、これは本物なのか?」

「間違い、無い。昔見た竜の鱗がこんな感じだった……」

「ああ、これが本物。本物の竜の鱗だ」


どうやらこれだけでも最低限の証明にはなるらしい。

てっきり戦場で拾った物だろと突っ込み受けると思ったんだけどな。


けど、見せたのは失敗だったか知れない。

何か明らかにラン公女の目の色が違うんだけど。


「マナ様のお言葉は真実だったか!これで国としての調査団も出せる!」

「え?何それ」


「決まっているだろう冒険者カルマ!竜の心臓を探す、国公認のプロジェクトだ」

「でもさっき、そこに居た皆に……あれ、そう言えばメインの謝礼はランドグリフ家から……」


良く考えるとおかしいな。

だって、宰相からの依頼とか言う事は国家プロジェクトなんだろ?

それなのに主な報奨を出すのが何で……。

しかも、成功報酬とか言っちゃっているし。


「君の疑問は判る。要するに、あやふやな物に国家予算は付けられないのだよ」


つまり、今俺が竜が倒された証拠を出してしまった為に、

今まさに、国家予算をドブに棄てる事確定の哀れなプロジェクトがスタートしちゃった訳か?


「たまにはマナ様に感謝する事態も起こりうるのだな。新鮮な喜びだよ」

「そう言ってくれるな、ラン殿。あれも悪気がある訳ではないのだ」


そりゃそうだ。あれで悪気があったら許せんのだが。

……ただ、ふと思うんだ。

始まったのは埋まっても居ない宝を探す不毛な宝探し。

何人か首吊る人が出なけりゃ良いけどな、って。


「時に公、明日は北から侵入したシバレリア族の討伐だったな?」

「うむ。正規軍千名をお借りしている。我も魔道騎兵二百名と共に向かう手はずだ」


「その際、彼も連れて行くのか?」

「そうだな……それは良い考えだラン殿」


え?何それ。


「カルマ殿。聞いての通り、明日我は討伐に赴く。君にも同行してもらうぞ」

「私も同行する。稀代の術者の力、この目で確かめたい」

「……何だか知らないが、断れる雰囲気じゃないな」


取りあえず、国境紛争に巻き込まれたのだけは判るが……また戦争かよ?

しかも片方は明らかに俺を値踏みする気満々だし。

はぁ、まあ仕方ない……ストレス発散を兼ね、精々暴れてやるさ!


***魔法王国シナリオ3 完***

続く


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