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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 31 可愛いあの娘は俺の嫁
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/07/27 10:53
幻想立志転生伝

31

***魔法王国シナリオ2 可愛いあの娘は俺の嫁***

~前回フラグに気付かなかったせいでとんでもない事になっちまったよスペシャル~

《side アルシェ》

例えば、何か望んだ事があったとしてさ。

その時、選択肢を間違ったり動けなかったりしたんだったら自分のせいだよね。

それなら何らかの形で諦めも付くと思わないかな?


でもさ、それが始まった時には既に終わってた場合って、

どうやって自分の気持ちに折り合いを付ければいいんだろう。


……ねえ、誰か教えてよ……。


……。


生まれて初めて乗った大きな馬車に揺られて連れて行かれた大きなお屋敷。

そして僕等の前に現れたのは、ちょっと暗めのお嬢様だったんだ。


「お嬢様、リオンズフレア公がお見舞いにいらっしゃいました」

「……帰らせて」


第一声は取り付く島も無い明確な拒絶。

でもまあ、僕はこの時点でただの偏屈なんだって思ってたよ。

けどね、違ったんだ。


「ルン、いい加減にしろ」

「……先生?」


カルマ君が現れた途端に彼女は変わった。

声色に明らかに混じる親愛の情が、放つ雰囲気すら変えてしまってた。

ただそこまでならカルマ君が言うように甘えん坊のお弟子さん、で済んだと思う。

でも、それは違った。


「ああ、悪かった、俺が悪かったから余り泣くな、この甘えん坊め」

「そう、寂しがらせた先生が悪い。……だから、もっと甘える」


何か違う。あれは甘えるとかそういうのじゃ……違うか。

ある意味甘えているのには変わり無いんだよね?

ただ、妹が兄に、生徒が先生に甘えるのとは心の向いてる方向が違ってただけでさ。


「……好き」

「俺も好きだぞ?」


その好きは、多分カルマ君が思っている物とは違うと思うよ。

……何だろう、心音が妙に耳を突く。

どうにも気持ちが落ち着かないよ。何コレ?何かなこれ?


「……嬉しい」

「そっか……まあ、元気になったようで何よりだ」


ふと、彼女が顔を上げた。

思わず横から覗き込んでしまった事を、もしかしたら僕は一生後悔するのかもしれない。

だって、それはまさしく恋する乙女の笑顔だったから。

想いを受け入れられたと言う完全な満足感と充足感が表情にありありと浮かんでたから。


そしてそれを見た僕の抱いた最初の感想は……「ずるい」だった。

勿論なんでそんな感想がいの一番に浮かんだのか、判るはずが無かったよ。

顔にこそ出さなかったと思うけど、僕は狼狽して、混乱してたんだ。

そして、探してた。僕の気持ちに説明が付く理由を。


……本当はさ、最初から気付かない振りしてただけなんだけどね?


……。


必死になって頭を働かせてさ。何か現状を理解させてくれる言葉を捜してた。

一番ぴったり来る言葉は頭の一番真ん中に鎮座してたけど、それをあえて無視してね。

……だってさ、惨めじゃない?


僕にとって、カルマ君は小さな頃の初恋の相手だった。

何を言ってるのか判んなかったけどさ、良く見てると子供の頃から凄く頭のいい男の子だったんだ。

川から水を汲んで来るのは子供の仕事だったんだけど、

僕等が遊ぶ時間欲しさに桶を持って息を切らしてるその頃、

カルマ君は車を付けた板に逆U字の取っ手を取り付けて、すいすいと押して運んでた。

結構水はこぼれてたから皆笑い飛ばしてたけど、

僕としては一度に桶4つを運べる上、二往復してもまだ僕等より余裕があったのを見て、

カルマ君は凄いな。って思ってたんだ。

良く聞き取れなかったけど、ダイシャとかダイハチグルマとか言ってたっけ、あれ。


他にも色んな物を作っていたよ。

特に玩具関係は凄かったと思う。

僕ら家族が街に出た時に結局入れてもらえなくてスラムの片隅で震えてた時、

カルマ君が昔作って遊んでたタケトンボってものを見よう見まねで作って売って歩いた時もある。

何故って?だって街にもそんな物無かったからね。

勿論僕のは出来が悪くてあんまり売れはしなかったけどさ。それでも幾つかは売れた。

……お陰で僕は売り飛ばされずに済んだんだ。


その後も大変だったっけ。

親が僕を見る視線がおかしい事に気付いて逃げ出して……そのまま傭兵団に拾われてさ。

囮として武器も持たされずに敵陣に放り出されて。

そうそう、その時もカルマ君に、カルマ君との思い出に助けてもらったっけ。


カルマ君がお父さんに稽古付けて貰ってた時、

ボロボロになったカルマ君が何を思ったのか自分の武器の長棒の先を削りだしてさ。

横から見てて何武器を短くしてるんだろと思ってたら、その先に尖った石を蔦で括り付けたんだ。

カルマ君のお父さんが感心してたよ。石の穂先でも、付いている以上は槍になるって。

まあ、お陰で稽古が一段階きつくなってたっぽいけどね。


だから僕も近くを探して、棒と石を蔓草で括り付けて槍に見立てたんだ。

勿論使い物にならないような代物だよ?

何せ本当に穂先を棒の先に括り付けただけの代物だったし。


実際は、なまじ武器を持たないほうが敵から襲われないって言う配慮だったんだけどね、

ただ僕さ、よりによって敵じゃなく野犬に襲われちゃったんだ。

飢えた野犬って実は凶暴な分コボルトなんかよりも危険なんだよ。


もし、武器が無かったらと思うとぞっとするね。

だって、無我夢中で槍を振り回したら偶然当たって追い払えただけで、、

僕は腰が抜けてその時へたり込んでいたんだから。

まあそのお陰で、野犬に勝てるレベルならって事で正式に傭兵団に加われたんだから、

人生何が幸いするか判らないんだけどね。


……そして、何年かぶりに再開した時。

カルマ君はひとかどの人物になって僕の前に現れた。

命を切り売りする僕らとは違う、一つの部隊の隊長さん。

それも五百の新兵で三千の傭兵を押し返したって言う、鳴り物入りの新鋭指揮官としてね。


正直笑ったね。余りに生きてる世界が違いすぎるからさ。

それに敵陣に躊躇無く突っ込んで蹴散らし続けるその姿には正直見惚れてしまってた。

その上更に、敵陣を一撃で壊滅させた凶悪な魔法を使ったりして。

……いつの間にかカルマ君はずっと遠くに行ってしまってたんだ。

正直さ、そんな風に感じてたんだ。

寂しいけど仕方ないよ。もう違う世界の人なんだから、ってね。


でも、それで終われれば……それはそれで良かったんだけど。

あの後、また僕はカルマ君に命を助けられた。


「嘘、だ。こんな、ところで?」

「危ないアルシェ!」


僕を狙う矢の数、およそ20本。

その向きから最低10本は食らうしかない状況下、僕を庇ってカルマ君はその矢を背に受けた。

押し倒されたその腕の中で僕は……僕は……。


ああ、そっか。あの時既に火種が燻ってた訳か。

カルマ君に並みの矢は効かないのは知っていた。

けど、嬉しかったのは変わらないんだよね。


……そして先日。


「こんな時は勇者か英雄でも現れてカッコよく助けてくれたりしたら嬉しいんだけどね」

「そこまで世の中都合良く出来てませんわよ?自分の持つ物だけで勝負するしかないのですわ」


そう、そんな奇跡は起こる訳が無い。

そんな訳は無いのに……。


「嫌がる女に手を出すとか何考えてるんだ?」


僕の英雄は、僕のピンチを助けにやって来てくれたんだ。

あの時は色々一杯一杯だったけどね、後で思い出して噴出したもんだよ。

これは一体何処の英雄譚なんだろうってね。


きっと、もうこの時には既に……かなり心の奥深くまでやられちゃってたんだと思う。


……だから、僕は、抱き合う二人の姿に冷静でいられなかった。

ざわつく心を押し留めるのもやっとだったんだ。

うん、やっぱり認めるよ。認めるしかない。


僕は……カルマ君のことが、大好きです。

ルーンハイムさんが彼を見る目が師弟のそれでは無いような気もするけど、それでも好きです。

多分、好意が恋になったのは最近だと思うけど……その気持ちは本物だよ。


だけど、だからこそあんまりだと思うんだよね。

自分の気持ちを理解した時、既に相手には好きな人が居ましたとか。

戦争では、始まった時に既に勝敗が確定してる戦いもあるけどね、

始まった時に既に終わってる恋って……酷くないかな?


だから、彼が屋敷から……ううん、彼女から離れると気づいた時、

僕は思わず連れて行って欲しいと懇願していたんだ。

カルマ君に、カルマ君の気持ちを聞いてみたい。

もしそれで入り込む余地が無ければ。……きっぱりと諦めようと思うんだ。

……でも、もし小指の入る隙間でもあるのなら、その時は……。


……。


≪side カルマ≫

アルシェとアリシアを連れ、一路商会の拠点、カルーマ百貨店に向かう。

目的はハピと合流し、現状の報告を受けることだ。

それに今晩のおかずも用意していかないといけない。


……後、何だかアルシェの元気が無いので何とかしたいしな。

まあ長旅の後にあのドタバタに巻き込まれちゃ疲れもするだろう。

この際なので何かプレゼントでも贈ってみようと思う。


「到着。うん、予想以上に良い出来の建物だな」

「はいです」

「えーと……夕食の食材の買出し、だよね」


まあ、そうだな。

名目上の買い物から始めるか……いや、同時進行しないと時間が足りんかも知れん。

ここは一度二手に分かれるとしよう。


『アリシア。俺はハピと一度合流する。お前はアルシェと一緒に居て自己判断で動いてくれ』

「はいです。ところで、ごはんのだいきん、ください、です」

「え?アリシアちゃん。カルマ君今何て言ったの?……よくアレを聞き取れるよね」


アルシェに聞かれては拙い事なので子供の頃から使ってた元の世界の言葉、所謂古代語を使う。

アルシェも解読は出来なくとも俺が子供時代からこういう話し方をするのは知っているので、

変な疑いを持たれないのは有り難い事だ。


まあ、何にせよ二人にはこれから買い物してて貰う必要があるので、

財布から適当に金貨を三枚ほど取り出してアリシアに渡しておく。

相手は公爵級、とは言え流石にそれ分あれば足りるだろう?


って、アルシェが固まったぞ。


「……アルシェ、どうかしたか?」

「ううん。何でもないよ。……ちょっと財布から金貨が出てきたから驚いただけ」


うん?そう言えばそうか。

多少銀貨も入れておかないとおかしいよな、やっぱり。


「まあ、相手が相手だしな。取りあえず別な用事もあるから食料品の買出しは頼む」

「判ったよ。終わったらどうすればいいかな?」

「ごかいに、おしょくじできるとこ、あるです。そこでおちゃ、してればいい、です」


そうだな、じゃあそうするか。


「じゃあ終わり次第五階のレストランに集合だ。こっちは少し時間かかるからゆっくりしてくれ」

「うん。それじゃあ二人で食材選んでくるね。でも、何処に行けばいいのかな?」

「かんばん、かかってます。それと、しょくりょうひんは、いっかい、です」


アリシアがアルシェを引っ張って行く。

さて、それじゃあ俺はハピを探して、と。

いや、探すまでも無く、すでにすぐ傍まで来ていたか。


「カルマ様、ようこそいらっしゃいました。……さあ、こちらです」

「ああ、判った」


そして俺が通されたのは地下にある個室であった。

勿論その地下は蟻の滑り台でトレイディアからサンドールまで繋がっている。

ここからトレイディアまでは数時間、サンドールまで行っても二日もあれば余裕で到着可能な、

現在世界最高速の交通手段であり、当然商会のトップシークレットだ。


「さて、総帥。いかがでしたかこの店は?」

「ああ、予想以上に順調みたいだな。流石と言っておく」


ハピが嬉しそうにしているな。

だが実際ホルスかハピでなければこうは上手く行かなかったろう。

ホルスを動かすわけにいかない以上、頼れるのがハピだけなのは事実だ。

正直安心して任せられる数少ない人材なんだよな。


「さて、それじゃあ報告を聞こうか?」

「はい、今月の売り上げについてですが……」


ふんふん、結構利益は出ているみたいだな?

いい事だ……が、予想はしていたが勇者対策が結構痛いな。


「流石にマナさんの相手は辛いか?」

「最近は気の逸らし方も覚えて参りました。……予算は数ヶ月以内にゼロにしてご覧に入れます」


ほぉ、流石だな。

まあ相手が子供っぽい以上、子供の気を引くような方法が使えるんだろう。

ここは任せて置けば安心だな。


「この店が軌道に乗れば新しく試してみたい商売もある。……頼んだぞ」

「はい、総帥。この私にお任せを」


さて、順調なのがわかれば問題無しだな。

そろそろ買い物も終わる頃だし向こうに合流するか。


「あ、総帥。そう言えばひとつ気になる事があります」

「何だ?」


「マナ様の件なのですが……実は行動を自粛して頂け無いか、王宮に掛け合ってみたのですが」

「おいおい、いきなり危険な事するな……」


相手は王族で公爵夫人。

不敬罪でも適応されたら大変だぞ?


「いえ、それが……王宮もあの方の扱いに困っている、との返答でしたが」

「何か、裏があるとでも言いたいのか?」


「はい。……どうやらあの方を叱れるはずの方達までもが放置されている様なのですよ」

「被害が大きいと聞いているが、それでもか?」


ハピが首を縦に振る。

ふむ。そうなるとおかしいような気がする。


「ですので、あの方の行動は、マナリア上層部としては想定内の可能性があります」

「……それはまた、きな臭いな」


「マナリア上層部はもしや、あの方を生贄の羊にしているのかも知れませんね」

「ふん、何処のお偉方も同じってことか?まあいい、引き続き情報収集も頼む」


それだけ言って、俺は五階のレストランに向かう。


成る程、あの性格は他人から誘導された計算された代物、か?

国にとって害にしかならないが、排除するにも影響が多すぎる人物だ。

居ても居なくても問題にしかならないなんて、魔王の呪い恐るべしといった所か。

それを受けて、だったらせめて自分達には益になって貰おうというつもりなのだろう。


魔法王国であるこのマナリアでは、

魔力の高さがそのまま社会的地位に直結している部分がある。

故に国民はマナさんを恐れ苛立っているが、同時に尊敬もしているのだとか。


逆説的に、あの人が居る限りその他の部分まで批判が回らないと言う事にもなるか。

調べればきっと禄でもない話がゴロゴロ出てくるんだろうなぁ。


また、面倒くさい事になって来たもんだ……。


……。


さて、五階まで階段を上りレストランまでやってきた。

いやあ流石に五階分も階段上ると疲れるんだろうな。お年寄りが階段に腰掛けて休んでいる。

……エレベータか何かを作らないといけないだろうな、これは。


さて、それで俺の待ち人は……居た。

紅茶とビスケットでモグモグやってる二人組みが。


「あ、にいちゃ、おかえりです」

「あははは、あんまり美味しいんでついお代わりまでしちゃったよ」


ま、かなり甘めの味付けの筈だ。

軍用携帯食としてのビスケットと一緒にしてもらっちゃあ困る。

上には生クリームまで乗っけてるし。

ハピには女性受けするようにと言ってあったから当然だ。


因みに料金はかなり高めの設定だがそれには訳がある。

……学園が有るとか聞いてたんでね、ここがデートスポットにでもなれば、

野郎どもが大量の金を落としていく羽目となるだろ、ざまあみろ。

とか思ってセッティングしてみた訳だが……。

うん。見事に暇そうな金持ち学生諸君の溜まり場と化してるな。

確かに金を落としてくれるが……連中のあまりの気楽そうな生き様に何か、殺意が沸くなこれ。

いや、別に連中個人が悪い訳じゃないのは判るんだけど。


「小人閑居をして不善を成す、か」

「なにそれ?」

「それよりにいちゃ、おかしかって、です」


暇な連中が多いってのは社会がそういう特権階級を支えられるだけの余力があるって事なんだが、

……あーあー、目が死んでる連中ばかりだ。

暇に任せて変な事しなけりゃ良いんだけど。


「にいちゃ、おやつ」

「はいはい、判った判った。それとアリシア、余り人前で人の頭に登るな」

「ふふふ。本当に仲がいいんだね……」


まあ、ある意味血を分けてるしな。こいつ等とは。

取りあえず現状の確認も終わったし、アリス達へのお土産でも買うとしますか。

さてさて、菓子屋に移動だ。


「ろーるけーき。びすけっと。あ、ぽてち、です」

「何だか珍しいお菓子が一杯だね、このお店」


まあな、特にポテトチップなんかは今までこの世界に無かったしなぁ。

芋は貧乏人の主食と言うイメージがあったっぽいし、まさかそれからおやつが出来るとは思うまい。

今は塩味だけだが……ふふふ、真似したくばするがいいさ。もう直ぐコンソメ味も発売予定だ。

どんどん新しい味付けを増やしていってやるから追いつけると思うなよ?

あー、醤油の製法書いた本とかどっかに転がって無いもんかね……バター醤油も美味いんだが。


「あ、アルシェもなんか食うか?奢るぞ」

「え、ホント?じゃあ、じゃあ……これ!」

「ちょこれいとー♪」


ほぉ、チョコレートとはまた渋い選択だな。

美味いのはいいが見た目が地味すぎてまだ売り上げが著しくないらしい。

まあ、味が知られればおいおい売れるようにもなるだろ。

わざわざ大陸の外から輸入されたカカオ豆を買い込んだんだ。

ただでさえ値が張る訳で、当然赤字のままにはしておけないからな。


「美味いか?」

「うん、見た目と違って甘いよねこれ」


うーん、そうなんだよなぁ。

ホワイトチョコとかにする方法を知らないのが残念すぎる。

どうにかして売り上げを伸ばしたい……といえばイベントか。

俺の前世でのチョコ関連イベントと言えばアレだが。


「ははは、特定の日に渡せば愛の告白にもなるって代物だ。味わって食べてくれ」

「……え"」


……アルシェ、正直すまんかった。

後生だから顔をトマトみたいに真っ赤にして固まるのは止めてくれ。ほんの冗談だから!

くそっ、バレンタインはやっぱり俺にとって鬼門だよ、ど畜生!


……。


さて、さっきからアルシェの様子がおかしい。

やっぱりからかい過ぎたのだろうか?


お菓子売り場で大量の菓子を仕入れたアリシアは一階にあるカウンターまで行き、

ここのオープンと共に始めた荷物宅配サービスを使って、

ルンの家まで買い込んだ大量の荷物を届けるよう手配している最中な訳だが、

その間、俺達は適当に店を見て歩いている訳だ。


だが一緒に歩いてるアルシェはどうにもあっちにふらふらこっちにふらふら。

何か安定して無いんだよなこれが。


「アルシェ、さっきからなんかおかしいぞ?」

「え?いや、何でもないよカルマ君!?」


「いや、何でも無い訳無いだろ?」

「え?えーと、いやほら、ここって色んな物売ってるし、ちょっと目移りしちゃってさアハハハハ」


ふむ、そうだったのか。


そう言えばアルシェも子供の頃から傭兵暮らし。

こう言うぷらぷらとしながらの買い物は初めてな訳だな。

……そう言えば前世で子供の頃デパートに行った時とか、

色んな物があって随分はしゃいでた記憶がある。


判る、判るぞその気持ち!


成る程、それなら素晴らしい思い出にしてやりたいな。

……しかし、女の子が喜ぶような台詞は知らんし、

年頃の異性をどう扱っていいかもさっぱりだ。

うーむ。いきなり褒めだすのもなんか違うような気がするし……、

よし、ここはひとつプレゼント作戦と行こうではないか!


幸い近くに武器と防具の店があるようだな。

色気は無いがまあアルシェなら喜んでくれるだろう。


「アルシェ、そう言えば装備とかは新調しないのか?」

「はう……え?何?装備?えーっと、新しい弓が欲しいとは思ってるけど高くてね」


ほう、欲しいのは弓だな?


「じゃあ、遅くなったけど再開を祝してひとつ買ってやるよ」

「本当に!?言っとくけど弓も質の良い物は結構するんだよ?」


それは当然だ。

俺も先日まで量産品の鉄の剣を愛用していたが、アレは切れ味なんか無いようなもんだった。

力任せに使っていたけど、武器の質の悪さで攻撃が効かなかった事は一度や二度ではない。

まあそれを承知で手入れの必要が無い、と言うか手入れの意味が無い安物を使ってたんだけどな。


「店の親父さん、弓を見せてくれ。出来るだけ良い物を」

「……ほぉ、で?俺の腕に幾ら出すんだ?」


うわっ、職人気質かよ。

だが、この場合その方が良いのかもな?

質の良い武具が置いてありそうだ。


「OK、金に糸目はつけない。一番良い奴を頼む、昔馴染みの命がかかってるんでな」

「え?カルマ君!?」

「……そうだな。コレがうちで一番高い代物だ。銀貨250枚だぜ」


それは素晴らしい装飾の施された弓だった。

弦も銀色に輝き、あちこちを宝石で飾り立てられてもいる。

艶のある白に塗られたその姿は正に芸術品だ。


「だが却下!実用性皆無だろコレ!?」

「こんなの戦場に持って行ったら後ろから刺されるよ間違い無く!」


「ほぉ、判るのか?」


それぐらい判る!伊達に修羅場潜っちゃ居ないぞ?

それに、そもそもこれ、大広間に飾ってある方が似合ってるんじゃないのか?

あ、ニヤついてやがるこのオッサン。

俺たちを試しやがったなこの男……。


「ははは、済まねぇな。そんじょそこらのおぼっちゃんならコレで満足するんだけどよ」

「本職の冒険者と傭兵だぞこっちは?まともな物は無いのか?」


「無い。と言うかこの国じゃ弓は余り好まれない」

「何でだよ?弓はいい武器だぞ。戦場で一番人を殺してる武器の一つだ」


そう言ったらおっさんは重々しく頷き、その後苦虫を噛み潰したような顔をした。

なんか、理由がありそうだな。


「この国は魔法使いの国だ、戦士に求められるのは壁としての能力。弓は魔法使いの天敵でな?」

「当然上から嫌われるし、当たり前だが売れもしない、か」

「え?ルーンハイム公なんか投げ斧で戦ってたけど?」


「ああ、最近の若い方は結構そういうお方も居るさ。ご老体方は邪道だとか言うらしいがな」

「伝統と格式って奴か。魔法使いは後ろでドンと構えてるのが昔ながらの戦術みたいだしな」

「色々在るんだねお偉いさん方ってのもさ。……で、取りあえずまともな弓は無いって事だよね」


あからさまにがっかりするアルシェ。

気持ちは判る、それは無いだろというのは俺も同じだ。


「じゃあさ、防具にしよう。盾役が必要なこの国なら防具はきっと良い物があるさ」

「……嬉しいけど、僕、軽戦士だから余り重いの着たく無いんだよね」

「それに嬢ちゃんの装備、見た目はともかく実用性としては最高ランクだな。良い皮使ってるよ」


つまり、これ以上の物は無いと言う訳だな?

えーと、だったら装飾品か?


「あ、いいよ?別に無理しなくても。気持ちだけで十分嬉しかったからさ」

「そんなお約束な事を言われても野郎のプライドのため認める訳にはいかない!」


プレゼントを買ってやると豪語して店に入って、

結局何も買ってあげられませんでした。とか、

はっきり言って情け無いとかそういうレベルじゃ無いんだけど!?

ええい、何か無いのか何か!?


「金に糸目はつけないとか、言ってたなアンタ」

「ああ、言った」


何かあるのかオッサン。

俺の矜持の為にも何かいい物があるなら教えてくれ。


「……こいつならどうだ?皮鎧の外側に着込める紅の外套だ」

「ただのレッドコートじゃ無さそうだな?」


「ああ、強い衝撃を受けると一瞬硬質化する魔法がかかってる。まあ、それでも限界はあるが」

「それはいいな。で、幾らだ?」


並みの装備だと貫かれもしない、要するに俺の硬化と似たようなものか。

ま、話からすると衝撃はそのまま伝わるんだろうが、

刺突や斬撃に対しては強そうだ。

小型武器に対する備えとしてはこれ以上のものも無いんじゃないか?


「金貨10枚……払えるか兄ちゃん?」

「即金で構わないか?」

「ええええええええええっ!?金貨10枚を即金って何!?」


うん。正直なところ、やらかした感もあるな。

一日でどんだけ散財してるんだか。

だが安心が金で買えるなら安いもんだと思うし、

まあ気にせず受け取ってくれアルシェ。


「き、金貨、金貨10枚のこ、コート……」


あ、コートを手にしながらガタガタ震えてる。

こりゃあ戻って来るまでに暫くかかるかな?


「しかし……流石に魔剣持ちは違うな、よくあれだけの金を持ち歩いてるもんだ」

「お、スティールソードに気付いたか?」


「そりゃあな、魔王の武器の眷属でオリジナルを超える唯一の品だ」

「結構有名なのかこれ?」


「まあ、勇者の武器だしな。それに色々と曰くつきでな」

「丁度良いや、連れが戻ってくるまでその話とやら聞かせてくれよ」


…………ふむ、成る程。


要はこれ、魔王の娘が家出した際に持ち出された物の一つで、旅の最中で落っことしたと。

その後勇者ゴウが手に入れて、魔王の娘と遭遇。盗まれたと勘違いされて激闘の末愛が芽生えた?

……その後魔王軍から正式に離反したその娘が魔王軍主力を陽動してる内に、

五大勇者が魔王を倒したと言う訳か。

その魔王の娘の事が余り話題にならないのは、

やっぱり英雄を人間側から出したかったんだろうねぇ。


うーん、何と言う王道。


「しかしどんだけ奇跡が連続したんだそれ?」

「さあなぁ。まあその後30年近く行方が知れなかったが……まさか再びこの目で見れるとはな」


「再びって、見た事あるのか?」

「ああ、昔は宮廷に仕える鍛冶屋だった」


あの白亜の王宮にか。

それはまた凄い良い生活してたんだろうな。

道理であんな法外な防具とか持ってた訳だ。


「しかしそれがなんでまた、町の鍛冶屋なんかに」

「15年前にある事件で魔法原理主義がまた台頭し初めてな。居づらくなったんだよ」


「……魔法、原理主義?」

「ああ、魔法使いは魔法を使う事だけ考えて居れば良いと言う考え方さ。武器は残酷なんだと」


やれやれ、また厄介事を起こしそうな固有名詞が出てきたな。

まあ、魔法王国らしい話だとは思うが。


「ところで、だ。彼女さん達がずっと黙って待ってるぞ。なんか言ってやったらどうだ?」

「え?」


後ろを向くと……アルシェがちょっと目を伏せていた。

今までの傭兵としての全身皮装備の上にさっき手に入れた赤いコートを羽織っている。

背中には弓と矢束、腰の辺りには妙に高級そうな剣が一振りと厚手のナイフが下がっている。

コートの前を留めているせいか、襟が口元を隠していて少し今までと雰囲気が違ってみえるな。

それに恥ずかしそうに指を組んでる所在無さげにしてる所とか……結構、可愛くないか?


「似合ってると思うぞアルシェ?」

「そう、かな。ありがとうカルマ君」


「ははは、お似合いだよお二人さん……さ、もう仕事の邪魔だ。さっさと行け。幸せにな」


え?何それ?

幸せにな、って普通カップルとかに使う言葉じゃないかオッサン?

それにお二人さん?俺、何も買ってないけど?


って、何だ?足元に痛みが。

……うわ、蟻ん娘が脚に噛み付いてら。


「にいちゃ!さっきからよんでるのに、きづけ、です」

「ああ悪いアリシア、それじゃあ帰るか二人とも?」

「う、うん。行こっか、カルマ君」


やっぱり今日のアルシェはおかしい。

だがまあ、今はなんか嬉しそうだし。まあいいか。


おや、ハピが向こうからやってきたが……。

どうかしたのか?


「お戻りですよねカルマ様?表に馬車を用意しておきました」

「おお、気が効くな」


先にアルシェ達を行かせてちょっとばかり立ち話をする。

こいつが意味も無く出張ってくるとも思えないしな。


「脚の速い馬を見繕いました、この時間帯では辻馬車を探すのも一苦労ですから」

「そういや皆帰る時間帯か。ハピ、ありがとな」


「いえいえ、お礼が頂けるのでしたら後で私にも何かプレゼントして頂くと言う事で」

「判った判った、ハピはしっかりしてるよ本当に」


どうやら一部始終見られていたらしいな。

クスクス笑いながら洋服店を見ている。自分用のか?


「まさか。むしろ私としてはルンさんに似合いそうな服を見繕っているんですよ」

「何故ルン?」


「ふふふ、すぐに判りますよ……ヒント、アルシェさん」


そう言ってハピは行ってしまった。

……うん。最後のひと言でわかったよ。

ルンもきっと何か買って欲しがるというんだな?

まあ、あのルンがそんな直接的なおねだりをするとも思えんが、

もっと甘えるとか言ってたし、有り得ない話ではない。

……取りあえず、もう少し金を用意しておくかな。


……。


帰りの馬車の中。

俺達は終始何処か心地よい沈黙の中に居た。


そして、ルーンハイム邸に戻った俺たちを迎えたのは……。


「食材は届いてるな?じゃあ青山さん達に伝えて」

「……任せて」


エプロン姿のルンだった。

随分気合が入ってるが……えーと、お前が作るのか?


「先生は、料理の上手い娘が好き」

「ああ、あの洋館での話だな……上達はしたのか?」


お、満面の笑み。

これは期待していいんだな?


「帰国後のお嬢様はお料理が趣味になられまして、既に私どもより美味しいお料理を作られます」

「まあ、私たち自身が人並み程度の腕前な訳ですが……」

「昔は専属の料理人も居たそうですけどね」


あ、もういい。

それ以上切ない裏事情話さなくても良いんで。


さっさと皆の居る所に移動するかね。

これ以上悲しくなるような話を聞かされても敵わない。

何せこればかりは、俺にだってどうもしてやれないからな。


……。


通された客間は広々としていたが、

明らかに調度品が取り払われた跡が幾つかあった。

壁の色が四角く変わってる所にも、多分昔は絵とか飾ってあったんだろう。

本当に落ちぶれたという言葉がやけにしっくりと来る屋敷だよまったく。


「それでは、お嬢様の料理が出来上がるまでしばしご歓談下さい」


「了解。それにしてもルンの奴、結局普通に動けるのか」

「いいえ、結構無理をしていますわね」


フレアさんだ。

年代物のソファーに家の持ち主よりよほど主人らしく腰掛けている。


「無理してる?だったら何で料理させたりしたんだ……」

「おーっほっほっほ!それが判らない鈍い方には教えて差し上げませんわ!」

「そう言わないであげて欲しいであります。にいちゃはそっち方面の経験ゼロでありますから」

「ちがう。けいけんち、いち、です」


さり気なく全員酷いこと言って無いか?

幾ら俺が元引き篭もりとは言え経験地ゼロは流石に……流石に……。

あ、そうだ。さっきのアルシェとの買い物、アレがきっと俺の人生初デートなんだよきっと。

ほら、あの武器屋のオッサンからもカップル扱いされたし!


やめよう……自分で言ってて空しくなってくる。


「まあ、俺の為に頑張ってくれてるのは判る。だがルンの病気がぶり返すのは勘弁だな」

「ある意味手遅れですわ。私も何の病気か知っていれば薬探そうなんて思いませんわよ」

「おいしゃさまでも、くさつのゆでも、ぜったい、なおせない、です」

「それに特効薬のにいちゃは届いてるでありますから心配するだけ無駄であります」

「いいなぁ、ああ言う真っ直ぐなの。僕ももう少し勇気があれば……」


なんだろう、このいたたまれない気持ちは。

後アリス。俺が特効薬ってどういう事だよ?


「にいちゃ、にぶちん、です」

「ルンねえちゃが可哀想でありますね」

「おいおい、それじゃあまるでルンが俺に惚れてるみたいじゃないか」


な、何だ?

突然空気が凍ったぞ?駄目か、駄目なのか?

冗談でも俺がもてちゃいかんというのか!?


何か、全員の目が据わってなさるんですけど!?


「おーっほっほっほ。予想以上の鈍感男ですわ」

「戦場では凄く頭回るのでありますがね……まあ、仕方ないであります」

「……これは、僕にもチャンスがあるって事かな?」

「ちょっとは、じしんもつ、です」


おいおい、まさか本気……なのか?

まあ確かにもしかして脈在り?なんて思った事も一度や二度じゃないが……。


「ほら、不細工がちょっと親切にされるとすぐに勘違いするとか……よく言うじゃないか」

「おーっほっほっほ!むしろ世話してる方がなに寝言ほざいてるんですの?」

「たらうま?めしうま?……ちがう、とらうま、です」

「にいちゃ、モテ期来た!モテ期来たんでありますよ!」


マジで!?

マジでモテ期来たのか俺に!?


いや待て、落ち着けクールになれ。

俺なんかに惚れる女など居る訳無いだろ?

前世で嫌と言うほど思い知ったじゃないか!

きっとからかわれてるんだ。

これで調子に乗ったら後々ネタバレされて、

何調子に乗ってんのキモっ、とか言われるに違いない!

騙されんぞ。騙されないぞ俺は!


「でも……ルーンハイムさん婚約者居るんだよね?」

「アルシェねえちゃ!?何口走ってるでありますか!?」

「……なんか、とおいめ、してるです」

「婚約者?そんなもの無視してしまえば良いんですわ。でも、あの子も頑固なんですわよね……」

「ほれみろ、やっぱりじゃないか!」


ふふふふふふふふふ、だよなぁ。

例えルンが俺の事をどう思ってくれていようが、

ルンは他人の物になる運命なんだよな。

やっぱり落ちが付きやがったよ、嫌になるよなこんな人生。

おお……さらばだ俺のモテ期よ。お前の事は忘れない……。


「どうなさいましたか皆さん」

「あら青山さん。お食事、出来ましたの?」


あ、取りあえず今日の晩飯が来た。

嫌な事は忘れてルンの料理の上達具合でも楽しもう。

……現実逃避と笑わば笑え。


「自信作、完成」

「サラダにかかってるこのソース。見たことも無いや……もしかしてお手製?」

「おー、これ魚のスープでありますか?美味しそうであります!」

「肉料理は鳥ですの?ふぅん……まあまあの出来ですわね」


「くんくんくん……むこうから、おかしのにおいがする、です」

「……デザートは後で」


何か、本格的なのが出てきたんだけど?

凄いな、たった数ヶ月でここまで上達したのか。

最初はスープとは名ばかりの代物しか作れなかったのに。

手先は器用だと思っていたがまさかここまでやるとは……。


「先生」

「ん。どうした?」


「……まずはこれから」

「お、これは以前レシピを渡したリンゴの甘煮!?」


取りあえずひと齧り。

うん、美味ぇ。

凄い美味ぇ。

……美味すぎて泣けてくる。


「美味い、な」

「……♪」


その答えにとても嬉しそうに微笑んだルンを見てると、多少自惚れたくもなる。

俺に一欠けらの悪意も無い笑顔を向けてくれるルンは、既に俺にとって特別な存在だ。

何より頼りにされているという感覚が心地よい。


けど、既にこの笑顔は誰か別な奴に売約済みなんだ。

……いっそ、そいつを消してやろうか。

そんな危険な感情が脳裏によぎったりもした。

だが、それが果たしてルンの為になるのだろうか。

結局、それ以下の奴の嫁にでもなる羽目になったりしたら、俺は俺をけして許せないだろう。


……結局、見守る事しか出来ないのかよ……。

拳や剣を交える時には滅多に感じなくなった無力感が全身を包む。


「あら~、おいしそうねルンちゃん~」

「ふむ、良く来た。娘の料理はこれで中々の物、楽しんで行ってくれたまえ」

「……お父様、お母様。こちらです」


とは言え、ルンのご両親もやってきたからには何時までも暗い顔もしていられないな。

さてスマイルスマイル、と。


……。


……客間のテーブルは元々10人は座れそうなほど広い。

何の措置も要らず全員並んで座れていた。

ルンの料理は実際美味かった。今は皆楽しそうに談笑しながら食事している最中だ。

因みに俺の席はルンとアルシェの横。さっきからしきりに飲み物を勧めてきたり、

ナプキンで口を拭いてきたりと色々世話を焼いてくれている。


「話は聞いている。リオンズフレア公と関係修復が叶ったらしいな、娘よ。おめでとう」

「……全ては先生のお陰です、お父様」

「細かい事を気にし過ぎていましたの。本当に申し訳なく思っておりますわ、公」


ふう、これを見ているとこの国に来た甲斐があったって思う。

これでルンの虐め問題は解決した……んだったらいいなぁ。

まあ、もし何かあってもすぐに駆けつけられる体制は整えたし、

今後はそんなに心配する必要も無くなるだろう。


「あの~、私を見るルンちゃんとリンちゃんの目が何か怖いの~」

「……お母様。胸に手を当てて考えて」

「マナ様に悪意の無い事は承知しましたわ。ですが感情は別問題ですわね」


あー、何と言うか……自業自得だと思うが。

マナさんの行動でこいつ等の受けた損害は洒落になって無いしな。


「う~、カルマちゃん?皆が私を虐めるの~」

「何で俺に振るんだよ……」


正直勘弁してください。

もう勇者に関わるのはこりごりなんだよ……。


ん、ルーンハイム公、どうかしたのか?

俺のほうなんか見て。


「いや、カルマ君の横にいるお嬢さんはアルシェ隊長ではないか?見違えたのだが」

「お久しぶりですね、公爵様。今はリオンズフレア様の護衛をしてるんだけど……」

「ああ、俺じゃなくてアルシェを見てたのか」


「いや、君にも用はある。どうかね。以前仕事の依頼をしたが……請けて貰えるか?」

「うーん。今回は申し訳ないがパスさせてくれ。宮仕えは気を使いそうでな」


以前商会経由でマナリアからの仕事の依頼の話があったが、

内容的に俺にとって損が多かったので無視していたのだ。

まさか、まだ返事を待っていたとは思わなかったが。


「そうか、我はてっきり請けてくれるからこの国に来たのかと思っていた」

「何処を見ればそう思うんだ公爵様……」


「うん?いやてっきり妻子同伴かと思ったのだ、済まぬな」

「妻子……って誰だ?」


「いや、てっきりアルシェ隊長が君の妻なのかと思ったのだが……違ったようだな」

「ええええっ!?いえ、そう言うのも別に僕は嫌じゃないけど……って何口走ってるの僕!?」


……思考が停止した。

えーと、二人とも……ナニイッテルノ?


「ははは、成る程。恋人同士という奴か。君も中々隅に置けんな、カルマ君」

「えーと、実際の所今まで彼女はおろかまともに女の子と手を繋いだ事も無いのですが……」

「あたしらはノーカンでありますか?」

「アリス。たぶん、いもうとはべつばら、です」


悪かったな蟻ん娘ども。

はっ。どうせ俺は寂しい一人身ですよ。


「ふぅん。そっか。じゃあ、僕が立候補……しちゃおうかな」

「はい?」


いつの間にか周囲から時折響いていた食器同士の触れる音(下層階級限定)や、

雑談の一切が消えていた。

え?何この展開?一体何が起こってるんだ?


「これは予想外の展開ですわね」

「あら~、カルマちゃんもてるのね~。ちょっとお母さん困っちゃうんだけど~」


予想外なのは俺も同じだ。

おい、蟻ん娘ども。

コレは一体どういうドッキリだ?


「今まで全然気付かなかったのでありますか?」

「ていうか、みてみぬふり、だめ、です」


うん、いやね、判ってるよ。判ってるさ。

……体の半分だけ異常に寒いのも、その理由もな。


「……先生は、私の」

「うん。多分そう言うと思ってたんだルーンハイムさんは」


何かルンが怒ってるーーーーっ!?

俺宛じゃないのが唯一の救いだけど視線からして既に絶対零度だ!?

おいアルシェ?冗談はそこそこにしとかないと……コイツ思いつめるタイプだぞ!?


「返して。私の先生返して!」

「返してって……そもそも婚約者居るんだよね?それなのにカルマ君縛っておくのはどうなの?」


「……!」

「先生だって言うなら、別に彼女持ちだって良くない?祝福するのが正しい生徒だと思うな」


「でも……」

「決まりごと破るのは嫌なんだよね。だったら大人しく身を引いたほうが良いよね?」


「……せめて、三年だけでも……」

「いいの?未来の旦那様の為に自分を大事にするのがお嬢様のお仕事じゃないのかな?」


言外に恵まれてる環境なんだからそれぐらいするべきだと言う強いメッセージを載せて、

アルシェの言葉は続いていく。

一言一句は結構丁寧なんだけど、その言葉に含まれる毒は洒落になって無いぞ!?


「……一応片側の父親がここに居る訳なのだが……我の事は無視か?」

「でもね~パパ。この諍いはパパの不用意なひと言のせいなのよ~?」

「マナ様はそのお言葉を自分の胸に刻むべきですわ……」


モテ期が帰ってきたのはいいが……こんな殺伐としたモテ期はいらん様な気がしないでも無い。

えーと、誰かこの状況下の収束方法を教えてくれ。

敵なら切り殺せばいいんだけど、こういう場合の対処法を俺は知らんのだが。


「ねえ~、カルマちゃん?」

「あ、何ですかマナさん」


「何であのアルシェって子はルンちゃんを婚約者の事で責めてるのかしら~」

「……俺に聞かないで欲しいんだが……」

「と言うかカルマ君?我の娘に何をしたのだ。怒らないから言ってくれ、今すぐに」


いや、別に父親に知られて困るような事はして無いぞ?

地下洞窟の閉鎖空間の中で出会って一緒に冒険して、

洋館のひとつ屋根の下、同じ部屋で一週間過ごして、

戦場でルンの胸に顔埋めて泣いて……。

あれ?もしかして言ったら拙い話が多くないかこれ?


「何故黙っているのだ?もしや人に言えないようなマネを!?もしそうなら命で購って貰うが」

「パパ~。余り困らせちゃ駄目よ~。それにいざと言う時は責任とって貰えば良いだけだし~」


勇者様、問題発言一つ入りまーす。

と言うか、それを認めてしまえば婚約と言うシステム自体が崩壊しかねないと思うのは俺だけか?


「いや、マナよ。お前と陛下しか知らぬ娘の婚約者はどうなるのだ?」

「確かにカルマさんに責任取らせたらその婚約者の面目は丸つぶれですわね。というか誰ですの?」


あ、それは俺も興味あるかも。

父親にまで内緒の婚約者って一体何者なんだか凄く気になる。

と言うか、ルンに手を出したら貰って良いって聞こえるんだが。

いいのかよ?


「婚約者?そこのカルマちゃんよ~。血統も魔王の孫!ね、バッチリでしょ~♪」


……はい?


「ちょっと待つのだマナよ!今色々と聞き捨てならない台詞が!」

「魔王の孫ですの!?カルマさん?本当でしたらとんでもない事ですわよ!?」

「いや、それ以前に俺も初耳なんだけど!」


そんな大事な事がなんで俺の耳にも入って無いんだよ!?

……あ、もしかして母さんの幽霊が本当に伝えるつもりだったのはこの事か?

家の地下にあった装備とかも何処までも禍々しかったし!


「カルマちゃん~、地下のギルティちゃんから何も聴いて無いの~?」

「むしろ、変な疑惑を持たれそれどころじゃ無くなった、と言うかあの母さんを知ってたのかよ」


「……おかしいわね~?いざと言う時はリンちゃんのパパさんが伝えてくれる筈なのに~」

「ち、父の居所をご存知で?マナ様、何処に居るのか教えて欲しいですわ!」


何か、カオスな事になってるな。

しかし、二つの連絡法で伝える予定だったはずの事項が何で俺の所にまで伝わっていないんだ?


「あ、そうか、18の誕生日に伝える気だったんだろうからな……まだ時間があるからか?」


しかしそうか。俺には嫁が居たのか。

母さんグッジョブ。

だが出来ればもう少し早く教えてくれてたら、こんな無駄な劣等感を抱かずとも済んだ物を。

そこだけちょっとマイナス点だな。


「どうでも良いけど、もし出会ってなかったらと思うとぞっとするでありますよ?」

「何でだよアリス」


「いや、何も知らされずにいきなり魔王の孫と結婚とか言われたらどうなると思うでありますか?」

「ふつうのひとなら、くびつり、です」


確かに。

と言うか、今のルンでも大丈夫か判らんのでは無いのか?


「問題ない」

「うわっ、ルン!?いきなりどうした?」


いきなり背後に立つな。

心臓に悪い。


「逆転勝利」

「……何その展開。あはは、あは……燃え尽きたよ、真っ白に燃え尽きちゃったよ……」

「何かアルシェが燃え尽きてるんだが……」


「今日は最高の日」

「あ、カルマ君が魔王でも何でも、今更僕の気持ちは変わらないからね?そこは安心していいよ」

「と言うか背後でとある夫婦がドンパチしてるのでありますが……」


ああ、外野は無視。

正直俺も俺の事だけで一杯一杯だ。


「と言うかルン。本当に俺でいいのか?」

「別に構わない」


おや、ルンの袖をアルシェが掴んでる。

何か言いたそうだが?


「ちょっ……ルンちゃん?ひと言アドバイスが……」

「何。アルシェ?」


「カルマ君に回りくどい言い方は逆効果だよ。本気なら正面からぶつからないと」

「……判った。ありがとう」


何か、君たち友情芽生えてないか?

いや悪い事じゃない筈なんだが、背筋に寒々しい物が走るのは何故なんだろう?


……っと、ルンが上目遣いで俺のほうを見つめている。

その瞳は真剣そのものだ。

OK、今なら婚約破棄も受け付ける。魔王の孫なんかお断りといわれても仕方ないしな。

ありもしない奇跡に頼ろうとは思わない。期待なんかしなければ傷つく事も無いんだ!

さあ、心の準備は良し、来るなら来い!


「……ふつつかものですが、よろしく」

「……えーと、それは」


「もう、離さない」


軽く床を蹴り、ルンが首に飛びついてきた。

細い腕に存在するであろう全力を持って俺の首にしがみ付いている。


「貴方じゃなきゃ、嫌」


吐息が首にかかる。暖かい。

これは……これはまさか、本当に?


「カルマ君?女の子にここまでさせたんだし。応えてあげる気があるなら何か言わなきゃ駄目だよ」

「アルシェ……」


「おめでとう。……僕はちょっと表の空気吸ってくるね」


アルシェはそれだけ言い残して部屋から出て行く。

その笑顔に陰りは無い、と思う。

……もしかしたらアルシェは煮え切らない俺の為に一肌脱いでくれたのかも知れない。

ただ、もしルンの事が無くてアルシェからの告白を受けていたとしたら……。

俺は間違いなくアルシェに転んでいただろう。それだけは判った。


さて、それはともかく確かにアルシェの言う通りだ。

ありえないからと切り捨てていた可能性、それが目の前に転がっているんだとしたら……。

俺もそろそろ色々と覚悟を決めねばなるまい?


「なあルン、本当に俺なんかでいいのか?」

「せんせぇが、いいの」


「魔王の血族らしいけど……?」

「せんせぇなら、平気」


何故だか涙がこぼれた。

俺みたいな奴を心から慕ってくれる娘が居る。

その事実が何より嬉しい。


……取りあえず、暫くここから離れられそうにも無いな。

コイツの為に、こいつの周りに蠢く全ての敵をぶっ潰そうと今決めた。

最悪さえ脱すればいいなんてけちな事はもう言わない。思わない。


俺は思わずルンを抱きしめていた。

ルンの方も、首根っこから離れようともせず抱きつき続けている。


「これからは、俺が絶対守ってやるからな」

「……ん♪」


幸せとはこうやってかみ締めるものなんだなぁ、

そんな風に感じて、

……いた俺の肩をゴツい手が掴みあげた。


「すまんがカルマ君。……ちょっと表に来い」


「えーと、おとうさんですか?いや、何と言うか、もう」

「……いってらっしゃい、あなた」


……結局その日は一晩中肉体言語で語り合う羽目となった。

だが、最後まで顔がにやけていた俺を誰が責められよう。


「我が責める!文句は認めぬ!」

「い、今殺す気で来なかったか!?」


「あら~、二人とも仲良しね~」


取りあえず、多分今日のこの日が己の人生のターニングポイントだったのではないか。

きっと未来の俺はそう言うんだろうな……と思うよ。


……。


≪side アリス≫

大騒ぎの客間を抜け出し玄関を潜ると、そこではアルシェねえちゃが月を見ていたであります。

あたしは正直、アルシェねえちゃがにいちゃを本気で好きだったんじゃないかと思った。

だからこうして追いかけてきたのであります。


「アルシェねえちゃ……良かったのでありますか?」

「アリスちゃんか。うん、きっとこれでいいんだよ」


……あんまり寂しそうじゃ無いでありますね。

その気持ちはその程度のものだったのでありますか?


「魔王の孫とか……色々あったけど、ルンちゃんの気持ちは揺らがなかった……勝てないよ」

「アルシェねえちゃはどうでありますか?魔王の血は怖いでありますか?」


「やだなぁ、そんな事で怖がる訳無いよ。ただ、正規のお相手に譲っただけ」

「その割りに平気そうですわね。私にはもっと必死そうな感じに見えましたわよ?」


あ、フレアねえちゃであります。

お父さんの居所聞き出せなくて残念でありましたね。


「……うん。まあね、でももう良いんだ」

「諦めますの?」


「そうだね。二号さんで我慢するよ」

「はい?」


とりあえず……転がっておくであります。

こう言うのを人間の言葉で様式美とか言うのでありますよ。

ところで、にごうさんって一体なんでありますかね?


「私が認めた」

「ルーンハイムさん?カルマさんはどうしましたの?」


「先生?お父様と語り合ってる」

「……まあ、公の気持ちは判らんでも無いですわ」


そうでありますね。

あたしもびっくりだけどあのおじちゃんもきっと凄くびっくりしたと思うであります。

多分、にいちゃの財産の額を知ったらもっとびっくりするでありますが。


「ところで。その二号さんとか言う話はどういう意味ですの?」

「ああ。後ろでマナ様が色々暴露してた時ルンちゃんと話し合って決めたんだ」

「……アルシェの気持ちは本物だから」


何と言うか。ルンねえちゃ、余裕でありますね。

その後は皆でおしゃべりしてたでありますが、あたしは子供なのでよく判らなかったであります。

ただ一つ、にいちゃの出自は隠す事で一致したのは理解したでありますよ?

あたし等はその後ベッドに案内された訳でありますけど、

にいちゃは何故か一晩中おじちゃんと戦い続けてたでありますね……。


……。


ふぁ……あ、朝日でありますよ。

今日もいい天気であります。

さて、アリサも起き出した頃でありますし早速報告であります。


『ルンねえちゃはにいちゃの嫁』


……アリサが全然驚いてなかったのが印象的でありました。

もしかして、アリサは全部知ってたのでありますかね?


***魔法王国シナリオ2 完***

続く


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