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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 30 魔道の王国
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/06 10:03
幻想立志転生伝

30

***魔法王国シナリオ1 魔道の王国***

~世界一はた迷惑な勇者様~

《side ハピ》

それは何時もと変わらない日常の朝。

今日もまた何時も通り、商売に明け暮れる一日が始まります。

ですが、その事がどれだけ嬉しいか。

私の気持ちを共有できる人間は殆ど居はしないでしょうね。


「さあ、皆さん。今日も一日頑張って下さい」


私の声に従い、十名を越えるスタッフが忙しそうに動き始めました。

ここはカルーマ商会のマナリア商館。

そして、直接小売も行うカルーマ商会のマナリア支店でもあるのです。


私は総帥からの要請を受けて、この支店の運営を任されています。

建物はこの為にわざわざ新築し、地上五階の威容を誇ります。

……その代わり敷地は余り広くありませんが。

ですがここが私どもの、この国における大事な拠点である訳です。


「支店長!海産物の荷が届きました!」

「判りました。マナリアも山岳地帯で海産物には飢えています。よって前面に押し出しなさい」

「はいっ!」


「支店長。書物のコーナーが昨日売れに売れ、随分寂しくなってますが?」

「入荷は明日以降です。今日はコーナーの縮小で対応しましょう?商品再陳列、急いで下さい」

「了解です!」


毎日忙しく、休みを取る所では無いめまぐるしい毎日。

ですがかつてサンドール王宮で文官の名の下に雑用係としていいようにこき使われていた頃とは、

比べ物にならないほど充実した日々を送っております。

さあ、今日もいい天気ですし……総帥と私どもの未来の為、今日も頑張るとしましょうか。


「カルーマ商会、本日も開店です!」


ドアの鍵を開けると、黒山の人だかりが押し寄せてきました。

今日も沢山のお客様が我先にと詰め掛けてくれていますね。ありがたい事です。

……さて、問題はあの方。今日はいらっしゃられますかね?


ああ、居ました。今日も居ましたよあの方……。

昨日仕入れたばかりのスカーフを穴が開くように見つめていらっしゃる。

全く、困った物ですね。


「あら~。店長さんこれ、頂けないかしら~」

「流石お目が高い。そのスカーフは高級絹織物でして銀貨5枚になります」


「う~ん。ちょっと手持ちが足りないわ~。後でお金は使用人に持って来させますね~」


はぁ、やっぱりですか。

全く、これだから勇者と言うものは始末に終えない。


「お客様困ります。本店は代金直払いでのみ商品をお渡ししておりまして」

「ぶ~。そんな意地悪言わないで欲しいです~、店長さん意地悪~」


全く。ルンさんはあれだけまともな思考の持ち主だというのに、

その母親がこれだとは……世の中は不思議で一杯ですね、本当に。

容姿は生き写しなだけにその差異が嫌と言うほど引き立ってしまいますよ?

しかし、まあ能天気そうでうらやましい限りですね。


「再度申し上げさせて頂きますが、本店は代金引換のみ、例外は認められません」

「む~。判りました~だったら~こんな物要らないです~!」


あ、これは拙い。

癇癪起こす前兆ですね。

止めなくては商品が台無しになってしまいます。


「ルーンハイム公爵夫人?大人げ無い事はしないで頂きたいですね?子供ではないのですよ?」

「え?な、何言ってるんです~?私スカーフ間違って破こうとか考えてませんよ~♪」


それは絶対に嘘です。

本当なら人の目を見て話をして頂きたい。

と言うか、何も言って無いのに勝手に白状しましたねこの人。


本当に、まるで子供。

思い通りに行かないと直ぐに癇癪を起こしますし、

しかも実力的に常に凶器を持ち歩いているようなもので始末が悪過ぎです。


「あ~!こっちのウサギさんも可愛い~」

「あ、ちょ、こちらの商品はどうするので……行ってしまいましたか」


散々手で捏ね繰り返したせいですっかり皺になってしまったスカーフ。

それをポイと手放して、今度はウサギのヌイグルミに目を輝かせる女性が一人。

考えたくもありませんが彼女こそルーンハイム公癪夫人、マナ様。

かつて五大勇者最年少であった勇者マナ……の成れの果てですね。


「ん~♪この果物おいしそう!いただきま~す」

「お!お客様?食べるのは代金を払ってからにして下さいよ!?」


何時も暇をもてあまし、盗賊退治や魔物退治の日々。

それでも暇が潰しきれない時は、こうして商店街を荒らし……いえ、遊びに来るのです。

アレで全く悪意が無いというのだから困ったもの。

それに自発的に魔物退治などを続けている上、現王の妹と言う立場もあります。

実の所、今でも名声は意外なほど高いのですよね。

そんな訳で誰もあの方に意見も出来ず、

子供の精神のまま30歳を越えてしまった不幸な方が出来上がってしまったと言う訳です。


ですが、少々度が過ぎるのではないでしょうか。

我がカルーマ商会は一応サンドールを本拠地とする商会。

よって国外勢としての利点を生かしきり、あの方の猛攻から被害が出ないよう奮戦しております。

しかし、国内の小売業は悲惨のひと言。

気に入った物は勝手に持って行ってしまう上、代金の払い込み忘れもしばしば。

先日も……おや、今目の前を通りかかったのはルーンハイム家の侍従、青山さん。

今日も主君の尻拭いとはご苦労な事ですね。

行き先は、近くの雑貨屋さんですか?


「申し訳ない。奥様が持って行かれた置物、結局お気に召さなかったようですのでお返しします」

「……頭が欠けてるじゃないか!全く……ま、金払えとは言わないよ、どうせ持って無いだろ?」


「お察しの通りです。大変申し訳無い」

「……とにかく帰ってくれ。あんたらの顔なんて見たくも無いんだ」


「まあ!それは一体どういう意味~!?」


よりによって一番聞こえてはいけない方に聞こえている!?

……皆さん、一時閉店準備、急いで!


『ど~の~魔法にしよ~かな~。神~様~の言うと~り~』

「うっ!マナ様!?いえ、別に他意は無いんです!本当です!信じて下さい!?」

「お、奥様!魔力をお鎮め下さい!通りが吹き飛んでしまいますぞ!?」


これは拙い!

我が商会含め周囲全ての店舗が雨戸、と言うか鉄板を急いで降ろします。

こうでもしなければ生き残れない。

それがこの街の法らしいです。恐ろしい事に。


がたがたと一斉に商店街の露店も撤収していきます。

買い物客も慣れた風に物陰に隠れていますし、これがこの街の日常なんですよね。

……正直、ありえないと思うのですが。


「駄目なの~?む~、皆で私の事虐める~…………あ、この髪飾り可愛い~」

「え?あ、あのそれは……」


「頂戴~?」

「え、ええ……ええ、判りました……ど、どうぞ」


「わ~い!ありがとうね~」

「いけません奥様。彼等にも生活があるのですよ?勝手に商品を持ち出されては」


「でも家の金蔵にお金はもう無いのよね~。あ、お兄様から頂いてきましょう~♪」

「いけません!それだけはいけません奥様!?」

「さ、差し上げます!それ差し上げますからどうかそれだけはご勘弁下さい!?」


……もう見ていられない。商売に戻ろう。

あの雑貨屋さんも気の毒な事だ。

黙っていれば持って行かれるし、金払えといえば国庫から持ち出される。

……しかも国庫からの資金の場合、後で国王の兵が回収に来るし、

手間をかけさせるなと逆に店主が責められてしまう始末。

全く持って度し難い風習だと思いますね。


「くそっ!疫病神め……帰れ。帰れよ!もう来るな!マナ様が寄って来るじゃないか!」

「は、はいっ、申し訳ない。申し訳ありませんっ!」


「青山~?そろそろ帰りましょうか~」

「あ、はい奥様!寄り道せずに帰りましょう、わき目も振らずに。お願いで御座います!」


勇者マナが新しい髪飾りを満足げに眺めている時、使用人は店主に頭を下げ続けています。

しかも、店側、使用人側共に当の勇者様には絶対判らないようにして。


何故か誰も当の勇者本人に文句を言う人は居ません。


「もしかしたら、この国の最大の問題点はそこなのかも知れませんね」

「何がですか支店長?」


「いいえ、何でもありませんよ……それより再開店を急いで下さい」

「はい、承知しました」


それに、それを利用して勢力を広げ続ける私どもが言えた義理ではありませんしね。

あの髪飾りは雑貨屋が商うにしては高価なミスリル製の様子。

恐らくあれを持っていかれては雑貨屋さんも限界でしょう。

……そろそろこちらからの提案に乗って頂けるかも知れませんね。


「ああ、そこのバイト君?申し訳ありませんがあの雑貨屋さんにこのお手紙届けて下さい」

「はいっ!承知しましたっす!」


さて、勇者からの盗難……いえ、おねだりを国内唯一防ぎ続けている我が商会。

実際は今日もまた、スカーフ一枚を駄目にしてしまいましたが、

この場合取られていないと言う事実が大きいのです。


そんな私どもの傘下に入る事をあの雑貨屋さんも承知してくれると良いのですが。


……それにしても、我が総帥には驚かされてばかりですね。

ルンさんの現状を知って怒るだけでなく、こうして新たなビジネスを考案する。

その商魂は凄まじいばかりだと感じます。

こうして傘下の店を増やしこの建物に集め、百貨店なる総合的万能店舗を目指す。

初めて聞いた時はそのメリットが全く理解できかねたものです。

ですが、国内に派閥を持つという意味でこの意味は大きいし、

ここに来れば何でも手に入ると言うのは来客者にとって大きな魅力となるようです。

既にこの建物内には商会直営店の他に傘下の十数店舗。そしてレストランが数店、

それに芝居小屋が入っていますが、この短期間でこれだけ勢力を伸ばせたのには理由があります。


傘下店舗には"対勇者保障"と言う勇者から受けた損害を商会が肩代わりする契約を結びました。

お陰で勢力拡大が非常、と言うか異常なくらい楽に進んでいるのです。

ですがそれを維持するには勇者の強襲から商品を守り切れる切れ者が必要。

その為の白羽の矢が立ったのがこの私だった。と言う訳です。


ええ、大変ですよ?

世界最大級の戦力を持つ子供みたいな大人の相手は神経を使う仕事です。

根が善人である事が唯一の救いではありますが、それでも我が侭に変わりはありません。

ですけど、総帥からの信頼に応え続けるのは私の喜びでもあります。

何としてもこの店を守りきってみせますよ。


そういえば、来週総帥がこの国にいらっしゃる筈ですね。

ああ、今はカルマ様でしたか。

何にせよ、この店を見れば喜んで頂けるでしょう。


……その時が、とても楽しみです。


……。


《side カルマ》

馬を代え、馬車を乗り継ぎ二週間。

俺達はようやくマナリア王国の首都マナリアまでの長い旅路を終えるところだった。

正直皆疲労の色が濃い。

そりゃあ昼夜問わず馬に揺られ続けりゃそうもなるか。

それでもマナリアの城門前まで通常の半分、二週間でたどり着いた。

そんな訳で正直全員ほっと息を撫で下ろしている所なのである。


「入国手続きが終わり次第ルーンハイムさんのお屋敷に参りますわ。アルシェさん付いていらして」

「うん。了解したよ」

「ああ、ちょっと待った。俺も行く」


っと、どうせ目的地は一緒だ。

連れて行って貰った方がいいだろ。


「え?ですが関係者でもなければ入れて貰えませんわよ。痩せても枯れても公爵邸なのですわよ」

「いざとなったら力づくで……嘘だよ、大丈夫。話は通ってるはずだ」

「あ、判った。以前ルーンハイム公と一緒に戦ってるからその関係でしょ?」


アルシェ、それは違うぞ。

と言うか、そういやアルシェは俺とルンが師弟関係なのは知らなかったっけ?


「いや、ルン……ルーンハイム13世と俺は一応師弟関係にある」

「そう言えば公爵様がそんな事言ってたよね。敬愛が何とか、だっけ?」


そう言う事。それにアリシアから話が行ってる筈だしな。


「まあいいですわ。……いえ、良くありませんわよ!?貴方がカルマ師だったんですの!?」

「カルマ、師?カルマ君、何それ?」

「いや、俺にも何がなんだか。ああ、ルーンハイム公がそんな事を言ってたような」


「……そう言えば魔法を使い続けていた割りに、詠唱が殆どありませんでしたわね」

「ああ、そう言えばルンが短縮詠唱について論文書いたとか言ってたな……それでか」


うわっ!?

なんだ、いきなりフレアさんが両肩掴んできたぞ!?

つーか痛ぇ!凄い馬鹿力だ!


「……ルーンハイムさんのお見舞いが終わったら少しお話がありますわ、後で私の屋敷にいらして」

「あ、ああ、判った、判ったから手を離してくれ!マジで骨折れる!」


目がかなり怖かったぞあの人!?

なんて言うか……獲物を捕らえた肉食獣と言うか……。

まあいい。どうせ技術を渡せとかそういう話だろうし……適当にあしらってお断りすればいいか。


「取り合えず急ごう。ルンの容態が心配だ」

「そう、ですわね。そちらが最優先ですわ。急ぎましょう」


「……ねえアリスちゃん。僕ら話から置いてけぼり食らってるよね」

「居ても余り変わらない。同感であります……まあ、オチを見て一緒に笑うでありますよ?」


さて、ここから先もまた馬車か。

……おいアリス、それにアルシェも。立ち話してると置いてかれるぞ?


……。


さて、十人乗りという大型馬車に乗り込み、俺達はルーンハイム邸まで暫しの道のりを、

フレアさんガイドによるマナリア観光に費やしていた。


「ここが大通り、マナリア王都で一番活気ある場所ですわ」

「石畳が綺麗だね。トレイディアでもここまで綺麗に敷いてないよ」

「……あの柱は……まさか街灯!?一体どうやって……」

「あ、にいちゃ!あれ!あれ!あれがカルーマ百貨店でありますよ!」


ほぉ、流石は地上五階建て。他より一つ頭飛びぬけてる。

どうやら客の入りも良いようだし、ハピに任せたのは正解だったようだな。


「後で行ってみないとな、アリス」

「はいであります!」

「……お買い物なら僕も一緒に連れてって欲しいな。駄目?」


別に駄目じゃないぞ?

まあ、年頃の女性の意見も聞きたいし、服の一着も買ってやれば喜ぶかね?

なら行く時はアルシェも誘ってみるか。


「それにしても、随分と整った町並みだな。まるで碁盤の目のようだ。計画都市って奴か?」

「ゴバンと言うのが何か判りませんわね。ですけど計画都市というのは当たりですわ」


ほう。この時代に計画的に作られた街があるというのか?

そりゃ凄い。


「現在も宰相を勤めるフレイムベルト卿が建国時に提唱した都市計画に基づいているそうですわ」

「……建国時?その人何歳でありますか?」


「さあ、私の家も元を辿ればあの方の血筋ですし……まあ、ある意味化け物ですわ」

「流石魔法王国。何でもありだな」

「僕の常識……僕の常識……」


アルシェも頭を抱えてるが俺も少しばかり頭が痛い。

ルンが13世って事は少なくともこの国二百年以上は続いてる筈だ。

それで建国時から生きてる宰相とか……やっぱり魔法か。万能すぎるだろ常考。


「でも、広いし綺麗な町並みだよね。あ、あれ何?水が吹き出てるけど」

「噴水か……綺麗なもんだな。と言うかトレイディアには無かったなそういえば」

「おーほっほっほ!我がマナリアが誇る魔法技術の集大成ですわ!」


「どうやって動いてるのでありますか?」

「細かい事は良いんですわ。と言うか、私も詳しくは存じませんの」


まあ、それはそうだ。車の運転が出来るからって車を作れるとは限らない。

使用者に詳しい情報なんで必要ないからな。

それでも技術レベルが高いのは理解できる……いや、それもまた魔法の賜物なのかね?

どういうシステムなのか……後で蟻に偵察させてみるか。


「あ、右手を御覧なさい。あの巨大な建物が王宮ですわ」

「街の中央にあるんだね。白亜のお城かぁ。綺麗だな……」

「無駄に装飾が凝ってるな。いや、けなしたつもりは無いんだが」

「でも周囲を深い堀が囲んでるし、結構あれで防衛力は高そうでありますね」


そして、その周囲を広い敷地のお屋敷郡が囲んでいると。

成る程ね。王宮の周りに各諸侯の屋敷を配することで、

いざと言う時、王宮を守る壁にする訳か。

例え王宮を守る気は無くても、自分の屋敷は出来るだけ守りたいだろうしな。

逃げ出す気なら周囲全部が一気に敵だし、えがつないが強力な防御機構だ。

さて、ルンの家はどれかな?


「私たち四大公爵の屋敷は逆に郊外にありますの。王都の四隅を守る格好になっているのですわ」

「へえ、という事はこのまま街を突っ切る事になるのか?」

「それはいいけど、流石は貴族様の家だね。庭で牧場が出来るくらい広いんだけど……」


ああ、アルシェ。

それは俺も同感だ。土地も肥えてるようだしさぞやいい野菜が取れるだろうな。

牛の放牧とかやってもいい感じかもしれない。

いや、流石に牛飼うには狭いか。やっぱりやるなら鶏かな?

ってちょっと待て俺。それは流石に無いだろう。


「いかん。カソで農民してた頃の癖が……」

「僕もだよ。思わず丸々としたお芋の収穫光景が目に浮かんじゃった」

「二人とも貧乏性でありますね」

「おーっほっほ!まあ間違っていませんわ。馬を飼う為の馬場は牧場みたいな物ですわよ」


いや、大いに違うだろ。

それはあくまで軍用場とか乗馬用だろ?

俺達の脳裏に浮かんだのは食用とか農耕用だからな……根本的な意味が違う。

まあ、言うべき事でも無いか。


「さて、そろそろルーンハイムさんのお屋敷が見えてくる頃ですわね」

「え?さっき中央付近から離れたばかりだが」

「か、カルマ君……あれ、もしかして」


アルシェがちょっとばかり青ざめているので指差した方角を見てみると。


「なんだありゃ!?」

「ルーンハイム公爵邸。ルーンハイム家最後の領土、ですわよ」


なんて言うか……広すぎるぞ!?

さっきの諸侯屋敷も凄かったがこれは桁が違うんだけど!?


「建国時からの決まりで手放せない場所ですわ。彼の家はここ以外の全てを手放していますの」

「いや、町一つ入りそうな勢いなんだけど、ここ」

「流石にそこまで大きくは……いや、それぐらい出来てもおかしくないような気もするであります」


うん、明らかに前世でのレベルの学校が4つくらいスッポリ入りそうな広大な敷地だ。

正直、公爵家を舐めてたな。話のスケールが違いすぎる。

それにこれで没落してるとか……全盛期はどれだけ凄かったんだ!?


「そう、見えますの?……よく御覧なさい。見えてくる物がありませんこと?」

「ん?言われてみれば随分雑草が生い茂ってるような」

「もしかして……手入れ、されて無いのかな?」

「馬小屋も三つあるうち二つは廃墟でありますね」


遠目では随分立派に見えたルーンハイム邸だが、近づけば近づくほどその現状が目に付き始めた。

周囲と敷地を隔てている丈夫そうな石壁は色が変色し、一部ひびが入ったまま。

それにツタが絡み付いているのは良いが伸びるがまま放置されている。

挙句、壁に穴の開いた部分を木製の柵で補っている始末だ。


「……お屋敷自体は立派だけど……修繕が雑過ぎない?それに離れが廃墟化してるよ?」

「まあ、使用人三人じゃ母屋を維持するのも一杯一杯なんでありますよ」

「最低限以外の所は荒れるがままなのか……」

「かつては数十人の使用人が働く活気に溢れたお屋敷でしたのよ……あれでも」


「馬も痩せてるね……」

「公爵の乗ってた奴は良い馬だったと思うがそれでも線は細かったな。こっちも最低限、か」

「……もしかしてそこの荒地、元はお花畑?割れた植木鉢が幾つも転がってるであります」


無用心にも鍵も掛かっていない敷地入り口のさび付いた門を開け、敷地内を馬車が進む。

屋敷に向かう道だけは何とか草むしりもしてあるようだが、

それを少しでも外れると荒れるがままの草むらばかり。


それでも、こうなったのはそんなに昔ではないのだろう。

あちらこちらに往時の繁栄の跡という奴が見て取れた。

……ただ、それもこの現状を引き立てるだけの物でしかなかったが。


「しかし、なんだな。見ると荒れ始めたのはそんな昔じゃ無さそうだな」

「ええ。そうですわ、当代のルーンハイム公の代になって急速に落ちぶれたのですわ」


フレアさんの顔に僅かに蔑みと哀れみの色が見える。

はて、ルーンハイム公はそんなに悪い人物にも見えなかったが。

何か大きな失敗でもしでかしたのだろうか?


「あの方と関わった事がおありなら、良くその言動を思い起こしてみると宜しいですわ」


その後に、「悪い方では無いのですけど……」と続けてフレアさんは黙ってしまった。

ふむ。どうやら問題があるのは父親も同じなのか……少し調べさせるかな?

以前、あの荒野でルーンハイム直属魔道騎兵とか言う連中と出会った事もあったが、

これじゃあ実態はどんな物か知れたもんじゃないしな。

もし、領地からの徴兵でなく金で雇ってるんなら財産食いつぶしててもおかしくない。

そういや、投資が失敗とか言う話も聞いた事がある。

……実はあの人のほうもかなりの問題抱えてる可能性があるのか。


なんて考えてる内にどうやら到着したみたいだな。

つくりは立派な屋敷入り口だが……やはりどこか薄汚れている。

ああ。これじゃあ馬鹿にもされると言うもんだ。

いや、今はそんな事を気にしてる場合じゃないか。


「あ、到着したみたいだよ、皆?」

「……ハーレィ、青山さんをお呼びしなさい?」

「ははっ」


御者をしていた私兵の一人が走り出した。

……さて、ルンが無事だと良いが。

まあ、アリシアからの連絡も無いし問題は無いのだろうが。

なんにせよ心配ではあるな。


……。


暫くすると屋敷から一人の男が走り出てきた。

この人が侍従の青山さんか。

何か、幸薄そうな顔してるなぁ。


「おお、これはリオンズフレア公。ようこそお出で下さいました」

「ルーンハイムさんのお見舞いですわ。最近の調子はどうですの?」


「ええ。一時はどうなるかと思いましたが持ち直しまして、今はお元気そのものです」

「……え?」


何と言うか、嫌ーな感じの沈黙が周囲を包み込む。

詳しく言うと、空間にひびが入るような感覚と言うか空気が凍りつく感覚と言うか。


「えーと。もう一度仰って?」

「はい。お嬢様は持ち直されました。今はすこぶるお元気で、グブッ!?」


あ、ちょ!フレアさん!?その人他人の家の使用人だぞ!?

首絞めて持ち上げたりしたら拙くないか!?

あー!あー!顔青い、青山さんの顔青い!


「あーおーやーまーさーん!?貴方不治の病とか仰りませんでした事!?」

「うぐぐ……手に負えないとだけしか申し上げておりません……それに特効薬が届いたようでして」


ボタッ、と音がして青山さんが地面に落ちた。

で、フレアさんのほうは……夜叉が、夜叉が居る!

闇のオーラを背負った夜叉が居るんだけど!?

逆立った髪がまるで獅子の鬣だ、これは洒落にならないぞ!?


「特効薬!?借金の利息も払えないような家が高価な薬買ってる余裕なんかあったんですの!?」

「いえ!他所から頂いたようなのです。それに病も気持ち的なものだったようでして」


「……つまり。私がやってきた事は、無駄骨、と言う事、ですの?」

「ま、まだ完治はしておりません!今日辺り本格的な薬が届くとの一点張りでして!」


青山さんは詳しい事を何も知らされていないのだろう。

フレアさんの怒りを逸らす事も出来ずにガクブルしている。

哀れすぎるが、下手に間に入るとこっちにまでとばっちりが来そうで動けないんだけど。

と言うか、アリシアの奴まだここに居るようだし、もしかして俺等が来る日を伝えてたのか?


「……本格的な薬が今日届く、ですって?」

「は、はい。お嬢様ご自身が先日届いたお手紙を見てそう仰られておりますゆえ」


まあ、間違い無さそうだ。

正確にはその後、アリシアが吹き込んだんだろうがな。

とりあえず、これで助け舟も出せるか。


「あ、多分その手紙俺からだ」

「カルマさんから?ああ、私達が今日戻る事を先に伝えていましたのね。理解しましたわ」

「と言う訳で急いでルンねえちゃの所まで連れてくであります!」

「承知しましたアリシア様……アリシア様、じゃない!?」


まあ、細かい事は気にするな。

……やれやれ、一時はどうなる事かと思ったが、何とか上手く纏まりそうだな。

それにしても、まさか薬が届く頃にはもう治ってるとは予想外だよ全く。

はぁ。何か疲れた。

取り合えず、早いとこルンの所に連れてってくれよ……。


……。


そして俺達はルンの部屋の前に立っている。

色々在ったがまあ、取り合えずここがゴールと言う事になるか。

……青山さんがドアをノックした。


「お嬢様、リオンズフレア公がお見舞いにいらっしゃいました」

「……帰らせて」


あ、青山さんが宙を舞ってる。

ついでにドアが弾け飛んだ。

擬音的にはドッカーン!って所か。


「ルーンハイムさん!?いきなりそれは無いでしょう!?」

「気分が悪い」


何と言うか何もかも台無しだ。

ルンはベッドに横になってフレアさんの逆側を向いている。

……話をする気すら無し、か。


視界の端ではアリシアが積み木で遊んでやがる。少しは反応しろ蟻ん娘。

そして逆の端では青山さんが車田落ちを披露している。が、それは頭から外しておこう。

さて、それにしてもどうすりゃいいんだコレ?


「おーっほっほっほ!せっかく薬を持ってきてあげたのにその態度は何ですの?」

「別に頼んでない。それにもっといいのが届く」


「もし、私がその薬を持ってきた、と言ったら?」

「……何処!?」


あ、ガバッと上半身起き上がった。

ルン、何処までも元気そうじゃないか?

本当に病気だったのかよ!?


「コレですわ。"魔王の蜂蜜酒"聞いた事はありますわよね?」

「……いらない」


あ、フレアさんがこけた。


「そ、そう来ますのルーンハイムさん!?」

「リンに頼る事なんか何一つ無い」


「ふん、自分の失策を認めないのは子供の頃から変わりませんのね?」

「……それはこっちの台詞」


うわ、何か他人が入り込めないような雰囲気になってきて無いか?

空気が何か重いぞ?


「相変わらずですわね……私のぬいぐるみを勝手に持ち出しておいて謝りもしない」

「それはリンが私のドレスを持ってくから。……それに置いてったのはそっち」


「あれは死んだ母に父が買ってあげたと言う形見で思い出の品。置き忘れる訳がありませんわ!」

「嘘つき」


「何ですって!それは侮辱ですわ!決闘を申し込みますわよ!?」

「私は病人……卑怯者」


これはヤバイ。

このままじゃいずれどちらかが実力行使に出るぞ!?

何とか止めないと……駄目だ、外野全員腰が引けてやがる!


……ええい、ままよ!

部屋内に前進、戦闘に割り込む!


「ルン、いい加減にしろ」

「……先生?」


ルンは子供の頃からの経験でフレアさんを信じられなくなってるだけだと思う。

だから俺の言葉で少しは考えを変えてくれれば良いんだが……。


「フレアさんはルンの為に命がけで竜と戦ってくれたんだぞ?少しは感謝しないと……ルン?」

「……せん、せい」


ルンがベッドから這い出してきた。

足元のスリッパも無視してヨタヨタと俺のほうに歩いてくる。

途中、ドアが壊されたせいで転がっていたドアノブを踏んづけて転んだ。

けど、またよろよろと起き上がる。

そして足を引きずりながらも俺の所までやってきた。


「おい、ルン……何泣いてるんだ?」

「先生……本物ぉ……」


腰の辺りに腕が回され、丁度鳩尾の辺りにルンの顔が埋もれている。

……ルンが深呼吸を始めた。

ゆっくりと、まるで味わうかのような深い呼吸。

おーい、ルン。何やってるんだ?


「寂しかった」

「ああ、済まん。忙しくて帰国時期なのも知らなかったな……話もしてやれなくてゴメンな?」


じわりと鳩尾に湿気を感じた。

そんなに泣かなくてもいいだろうに……。

ああ、くそっ!全部俺が悪いのか!?


「ああ、悪かった、俺が悪かったから余り泣くな、この甘えん坊め」

「そう、寂しがらせた先生が悪い。……だから、もっと甘える」


顔が左右にすりすりと擦り付けられていく。

まるで匂い付けをしているかのようだ。


「先生」

「なんだルン?」


「……好き」

「俺も好きだぞ?」


「……」

「どうした?」


ルンが顔を上げた。

何と言うか。

満面の笑み、って奴だった。


そしてルンの全身に生気が戻ってきている。

俺はそんな風に感じた。


「……嬉しい」

「そっか……まあ、元気になったようで何よりだ」


しかし、体力は落ちてるっぽいよな。

まあ無理して竜と戦った意味はあったんだろうと思う。


……さて、ここいらでいい加減ルンとフレアさんを仲直りさせてやらんと。

って、どうしたフレアさん!?そして使用人の皆さん!?

具体的に言うと、


「何固まってるんだよ皆して!?」


そんな感じだった。

フレアさんはベッドの横に立ち尽くしたまま呆然としてるし、

青山さんは頭から血を流して転がっている。

いつの間にか部屋の前にメイドさん二人が現れて両手を口に当てて顔真っ赤にしているし、

アルシェはどういう訳か笑顔のまま石化していた。

普段どおりなのは蟻ん娘二匹だけだ。

一体どうなってるんだよ、これ。


「おーい、フレアさん?」

「は、はひっ!?な、なんですの?と言うかそこに居るのは本当にルーンハイムさん!?」


本物、と言うよりは素のルンだな。

まあ慣れるしかないから諦めてくれフレアさん。

きっとすぐに慣れるから。


さて、ルンの最悪なこの現状、変えてやらないとな。

これが、その第一歩だ!


「ほら、ルン。きちんとお礼を言っておけ……さっきも言ったろ?心配してくれてたんだぞ?」

「先生が、そう言うなら……」


ペチン、とおでこを引っぱたいておく。

それじゃあ駄目だろルン?

はぁ、取り合えず……やっぱり過去のわだかまりを消してやる所から始めないと駄目か。

一応アリサに調べさせて大体の予想は立っているんだが、

……さて、どうやって切り出す?


「ルンねえちゃ。ちょっと、いい、です?」

「……アリシアちゃん?」


「おはなしきいてて。おかしいと、おもったこと、あるです」

「何?」


「むかしのこと。なんか、ふたりとも、はなし、ばらばら、です」


お、以心伝心。

アリシアが三言でやってくれました。

さて、では俺も尻馬に乗っからせてもらうとするか?


「そうだな。何か、二人とも逆の事を主張してるように思うんだが」

「……リン、嘘付いてる」

「いい加減にして欲しいですわ。嘘つきはルーンハイムさんの方ですわよ!」


うん、やっぱり二人だけだと感情的になって話が先に進まないな。

こりゃあ拗れる訳だ。


「俺は二人とも嘘を付くような奴じゃないと思ってる」

「だから、ここで、そのときのこと、はなしてください、です」


要するに、実際どうだったのか思い出してもらう訳だな。

行き違いとか色々あるだろうさ。言葉って奴は曖昧なもんだし。


……で、結果的にどうなったかと言うとだ。


「要するに、お互い共に使用人から告げられた訳だな?」

「そうですわ!ルーンハイムさんが気に入ってヌイグルミを持って行ったって!」

「青山が言ってた。リンの家にプレゼントされたって!」


「ほぉ。で青山さん?その時どうだったんだ?」

「はい。奥様よりリオンズフレア様が御気に召されたのでドレスを差し上げる事にしたと……」


やっぱりかよ!

あー、コレはもう殆ど間違い無いな。


「あー、フレアさん。どんな小さな事でもいい、関係ありそうな事は無かったか?」

「え?……そう言えば前日のパーティーでルーンハイムさんが例のドレスを着ていましたわね」


ふんふん。

成る程成る程。


「それを褒めたりしなかったか?」

「え?そうですわね……社交辞令で可愛いドレスですわね、と言ったかも」


「ルン、お前の方はどうだ?ヌイグルミに関わった記憶は無いか?」

「褒めては居ない」


「つまり何か言ったんだな?何て言った?」

「パーティーまで持ち込んでたから……大事な物なの?って聞いた」

「私も、勿論ですわ。と答えた様な気がしますわね……」


うん、思い出深い事項なだけに詳細も結構頭に残っててくれたか。

これなら話がつながりそうだな。


「では、それを双方の関係者、ご両親で聞いてた人はいるか?具体的にはルンのお母さんとか」


青山さんからの話でドレスを持ち出したのはほぼ間違いなくルンの母親……マナさんだ。

そうなると、当然容疑者は彼女と言う事になる。


む、アリシアとアリスが居ない。

もう動いたのか?早いな。


「お母様?私の横に居た……あ」

「そうですわね。ニコニコしながらやりとりを……聞いて、ました、わね?」


気付いたな?

この話のからくり、二人とも気付いたな?


「あら~、どうしたのかしらアリシアちゃん~?おばさん引っ張らないで~」

「ようぎしゃ、かくほ、です」

「ちょっとこちらまで来て欲しいであります!」


お、丁度いい所に来たな?

流石だ蟻ん娘ども。本当に頼りになる。


さて、アリシアとアリスに手を引かれ現れたのは他ならぬ勇者マナ。

って……うわっ!?

スゲェ。ルンと生き写しだ。と言うかルンが生き写しなのか。

しかしほんわかオーラで騙されかねんが、こう見えても歴戦の勇者なんだよなぁ。

見た目は全くそうは見えないんだけどな。


で、ルンとの見た目の違いは目元がつり気味かたれ気味かの違い程度か?

親子なのに全然年齢差を感じさせない辺り洒落になって無いな。

ああ、けどマナさんは躁タイプ。ルンは鬱タイプと言う違いがあるか。

雰囲気は全然違うし近しい人なら間違う事はないだろうな。

まあ、それはさておき。


「始めましてマナ様。俺はカルマだ。冒険者をやってる」

「あら~、ギルティちゃんの息子さんね、おひさ~♪」


凄い気さくな人だな。

但し、この場合無遠慮と言うマイナス面が前面に出かねないという恐ろしさもあるが。

と言うかおひさ?何処かで会った事あったかな?


「実は、10年くらい前のドレス交換の話なんだが……」

「うーん。そんな昔の事、覚えて無いわ~」


あんたが忘れててどうするんだ!?

いや、この人にとっては大した事の無い話だったんだろうな……まあ仕方ない。

それに、こちらには当時の事を知る人も居るんだ。


「青山さん……頼みます」

「はい、奥様あの時で御座います。ほら、あの王子が暗殺されかけたパーティーの際……」


……暫くして、ようやく思い出したのかマナさんが真相を語ってくれた。

ただ、言葉が間延びしてるので、俺の脳内で話をまとめてみようと思う。


……。


まず、何かのパーティーの時にルンが問題のドレスを着て出席した。

同時にフレアさんは大事なヌイグルミを会場に持ち込んでいたと。

で、偶然会った時、お互い何の気無しに話してた内容を聞いてこの人が思い付いてしまったと。


「だって~、大事な物同士の交換って~友情を深めそうじゃない~♪」


むしろ友情が音を立ててぶっ壊れましたけど。

まあ百歩譲って、やってしまったとしても普通フォローくらいはしても良いんじゃないか?


「え~、したわよ~?レンちゃんに持って行ったのは私よって伝えといて~って言ったわよ~」

「レインフィールドさんからは特に何の話も無かったですわよ?」

「……レンは忘れっぽい」


「そうですわね。彼女は四大公爵の後継者で、唯一全教科平均以下と言う出来の悪い方ですし」

「頼りにするほうが間違い」


「町の不良と付き合いもあるようですし授業もまともに聞いておりませんわ」

「……努力しないから仕方ない」


成る程、そういう人に頼んだ時点で既にアウトだな。

と言うか、何時までも話が拗れてるようならもう少し動けと言いたいが……。

……さて、どうしたもんか?


「御免なさいね~。まさかそこまで深刻な話だと思わなかったの~」


あ、ルンもフレアさんも頭抱えてる。

何て言うか……、


「私達の今までの諍いって……一体何だったんですの……」

「…………」←口の中でブツブツ言ってる


特にルンが深刻だな。目は死んでるし背中に暗雲背負ってやがるよ。

まあ、学生生活、と言うか今までの半生を台無しにしてきた問題が、

こんな下らない真相だったと言うのは正直堪えるのだろう。


おや、フレアさんが再起動した。

流石に細かい事を気にしない人は立ち直りも早いな。


「ルーンハイムさん。何にせよ、これで真相がハッキリした訳ですわ」

「……ごめんなさい」


「何を謝っていますの?貴方のせいではないでしょうに」

「でも、お母様のせい」


うん。そう言う事になるな。

どちらに非があるかと言えばどうしてもルーンハイム側という事になる。

それをルンが判ってくれて良かった。俺、本当にほっとした。

これでまだ意地を張るようならどうしようかって……本気で心配してた。


だがな……ルン、良かったな?

幸いな事にフレアさんは余り気にして無いみたいだぞ?


「細かい事は良いんですわ!大事なのはこれから。……私も大人げありませんでしたしね」

「……リン?」


フレアさん側からそっと手が差し伸べられる。

ルンもまたその手をおずおずと取り、握り返した。


「仲直りですわ。……大人気なくて御免なさいね」

「……私も、ごめんなさい」


ふう、取りあえず最大の懸案はこれで片付いたって事になるな。

蟻ん娘どももお疲れさん。

いやあ、今回は本当にいい仕事をしたな。


「さて、これで安心してトレイディアに帰れるってもんだ」

「…………」


え?ルン?どうしてそんな絶望的な顔してるんだ?

呆然としたまま縋るように袖口掴まれても、俺どうしたら良いか判らないんだが。

と言うか瞳孔が開きっぱなしだぞ、大丈夫か?


「にいちゃ……もうすこし、ルンねえちゃのそば、いてあげてほしい、です」 

「薄情もんであります!アレだけ好かれてて、置いてくのは反則でありますよ?」


そういうもんかね?

特にアリス、その言い方じゃまるでルンが俺に惚れてる様に聞こえるぞ?

俺のほうが好きになるんなら兎も角、

元引き篭もりの俺を本気で好きになるような娘が居る訳無いじゃないか。

アイツは甘えん坊だから師匠の俺に甘えてるだけだろうしな。


……それに何処かに婚約者も居るんだろ?


家を守るのはルンの願いでもあるはずだ。

それに公爵令嬢ともなれば結婚が自分の意志で動かないなんて当然だと思ってる筈だ。

そう考えると俺に惚れるとか……実際ありえないだろう?


以前花嫁強奪とか本気で考えたこともあるけどさ。

相手は他ならぬルンだ。出来る限りルンの意思を尊重してやりたいと思う。

ルンが望まない事をしてまで自分の我を通すのもなんか違うだろ。

それにもし本気で大切な相手なら……、

自分の事なんか置いておいて、相手の事を考えてやるべきだと思うしな。


まあ、俺を本当に好きになってくれた奴が居るなら、

こっちもそいつを全力で好きになるのはやぶさかでは無いけどな。

正直、俺みたいなのに好意を寄せてくれるだけでありがたいし。


ははっ、俺にも何処かから婚約者の一人でも湧き出して来ないもんかな?

……何考えてるんだ俺。そんな事あるわけ無いじゃないか。


あー、もう今日は考えるの止めだ!

考えてると嫌な気分になるだけだし。


「判ったよ、取りあえず今週は滞在する。それでいいか?」

「……ん♪」


そう、取りあえずルンに笑顔が戻った。

今日はそれで良しとしようじゃないか。

明日の事は明日考える事にしよう。


「じゃあ、早速宿を取るか……」

「家に泊まって」


「良いのか?」

「……お願い」


ふむ、どうやらルンが泊めてくれるらしい。

宿代が浮くのはありがたいな。


「あら、でしたらついでに私達も泊まって行って宜しいかしら?」

「……好きにすればいい」


「ふぅん……じゃあアルシェさん?きょうはここにお世話になりますわよ」

「……はっ!……え?僕も?て言うかなんでここに泊まる事になってるの!?」


アルシェ……今までずっと石化してたのかよ。

まあ諦めろ、世の中理不尽な事ばかりだからな。

それに屋敷自体は大きいし、いい経験になると思うぞ?


「さて、それではハーレィに家へ連絡入れさせるとして……アルシェさん、お願いがありますの」

「はい?……何かな?」


「今からディナーの食材を購入して頂きたいのですわ。どうせまともな食材、無いですわよね?」

「……無い」


ルンがまた泣きそうだ。

そうか。急な来客に対応出来ないくらい酷い状況なんだな?


「丁度いい。別な用事もあるし俺が今日の食材代は持とうかね……アリシア、続け」

「はーい、です」

「えーっと、僕も行くよ!こんな大きなお屋敷に一人残しておかないでよ!?」


OK判った、じゃあ三人で行こうか。

確かに公爵級の屋敷に一般ピープルひとりは辛いかもしれない。

使用人連中にとってはお客様だしな。


「じゃ、ちょっと行ってくる」

「ルーンハイムさんの様子はこちらで見ておきますわ。……素晴らしい料理を期待しますわよ?」

「先生のごはん?……あの洋館……先生は料理の上手い娘が好き……」

「ついでにおやつ買ってきて欲しいであります!」


さて、どうやら暫くはこの国に滞在するしかないみたいだな。

まあそれもいいだろう。

……さて、取りあえずはハピの様子でも見に行きますかね……。


***魔法王国シナリオ1 完***

続く


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