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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 29 魔剣スティールソード 後編
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/05 02:00
幻想立志転生伝

29

***冒険者シナリオ9 魔剣スティールソード***

~金炎の雌獅子と勇者の遺産 後編~

《side アルシェ》

不安だ。今僕達は結界山脈の中腹辺りを登山している。

目的は竜退治。

お給料もいいし、竜殺しの名は傭兵として箔も付くよね。

それに優良な雇い主だって言われたから人を集めてやってきたけどさ……。


「あのさ、リオンズフレア様?本当に、戦う気?」

「ええ。数さえ揃えれば勝てますわ。……それが何か?」


うわーん。

この人本気だよ。本気で竜に挑みかかる気だ。


確かに昔から竜退治の逸話は多いよ?

けどさ。それだってお話の中でさえ人が竜に打ち勝つには数々の策を弄する必要があるんだよね。

当然実際の戦いではそれに倍する作戦が立てられてた筈なんだと思う。


「……それじゃあ、この辺でもう一度作戦を確認するけど」

「おーっほっほ!見敵必殺、数で押し切りますわよ!?」


駄目だよこの人……早く何とかしないと。

え、どうしたの皆?

妙に疲れたような顔なんかしてさ。


「アルシェ隊長。自分らもう逃げたいんですけど」

「右に同じ」「左にも」


あー、気持ちは判るよ。僕も逃げたい。

けどね。傭兵にとって信用はとっても大事なんだ。

今は良くても次に雇って貰えるか否かは先方の信頼で決まる。

だから、最低限の義務は果たさないといけないんだよね。


……多分、伝わらないと思うけど取り合えず言っとこうかな。


「今は駄目だ。依頼人が逃げるか竜と一戦交えるまでに逃げたら評判下がるよ」

「まあ、それはそうですけどね」

「えー、死んだら何にもならなぇぜ?」


うん、流石に長年生き残ってる人は理解してるみたい。

ただ、傭兵になって間もない人はそうでもないか。


僕だって伊達に子供の頃から戦場を巡って来た訳じゃない。

年齢10代で傭兵隊長なんかやってるのがその証拠。

確かに傭兵にとって生き残るのは最優先事項だけど。

……次のお仕事にありつくためには、不誠実すぎる対応なんか許されない。

横暴な雇われ者なんて、二度と雇って貰えるもんか。


「まあ、上手くやれたら士官の口もあるかもしれないし、頑張ろうよ」

「……はいはい、判りやしたよ」

「それもそっかもな!よっしゃ、なら一丁やってやるさ」


はぁ、隊長ってのもめんどくさいよね。

折角集めた頭数を、移動中に失くさない為色々気を使わないといけない。

古参は我が強いし、若いのはちょっとした事で逃げちゃうし。


……まあ僕自身、現在ここに居る内で最年少組の一人な訳だけどさ、

傭兵暦は七年目で経験は積んでるんだ。こう見えても。

何度も負けたし敵の捕虜になった事もあるけど、それでも何とか生き延びてきた。

いやあ、こう言う時ばかりは女で最近まで子供だった言う身の上に感謝するね。

他と比べて扱いはマシだし命までとられた事も無いしさ。


生きてればきっといい事あると思って生き延びてきて、

ようやく隊長なんて言われる身の上にもなったんだ。

確かに無茶な依頼主だけど、ここで逃げても居られないんだよね。

いつかカルマ君みたいに軍の司令官に呼ばれるような名声を手にして、、

気に食わなければ直ぐに辞めてしまえるような、いい身分にもなりたいしね。


……そう言えばカルマ君、戦場食なのにいい物食べてたっけ。

それに武器はともかく防具は買い換えたばかりっぽいし、妹さんもお肌がつやつやしてたよね。

カルマ君の家も貧乏だったはずなのに、何時の間にのし上がったんだろ?


そうだ。今度ご飯奢って貰いに行こうかなぁ……。


「アルシェ隊長……どうしましたの、上の空で」

「現実逃避、かな」


はぁ、もう現実に引き戻されちゃったか。

さてさて、とりあえず勝てないまでも負けない手段を考えないといけないよね?

取り合えず、先の戦争後褒美として貰ったこの武器が効いてくれればいいんだけど。

背負ってるとすっごい重いし、効かなかったらこのまま山に棄てて帰ってやるけどね!


……。


その日の夕暮れ時。

僕らはかつて竜に挑んだ人達が用意したらしい洞穴前でキャンプを張っている。

残念だけど、洞穴には百人を越える人間を収容するスペースは無いんだよね。

まあ、そうなると普通は依頼人とか隊長格とかのお偉いさん方が使うのが普通なんだけど。


「おーっほっほっほ!交代で寝る方が使えば良いのではありませんこと!?」

「いいの!?本気で!?」


うん、依頼人さんの一声で交代で寝床として使わせてもらえる事になった。

……ここ最近普通じゃないお偉いさん方と付き合ってばかり。僕の常識壊れちゃいそうだよ。

勿論それはもう、ありがたい事だとは思うけどね。


「眠るときに寒くては寝られないでしょう?そう考えれば当然の事ですわ!」


それを当然と思えるリオンズフレア様。

あなた自身、それが貴族として当然の行為だと思ってるのだとしたら、

正直、普通じゃないと思うよ。


「皆、公爵様がここまでしてくれてるんだ。明日は頑張らないと駄目だよ?」


「ああ。珍しいお貴族様も居たもんだ」

「あのお嬢の為なら多少の無茶もかまわねぇよ」

「ま、何とか生きて帰らせたいと思わす程度の手腕はあるわけか……」

「踏んで欲しい」

「偽善だが、それがいい」


取り合えず、不平不満を溜め込んだ部下を宥める手間が省けるのは助かるよね。

……僕としても、正直生きて帰らせてあげたいと思うタイプの依頼人だしもっと頑張ろうかな?


「じゃあ外でただ待ってるのも何だし、ちょっと手が開いてる人は斧持ってこっち来て」

「ああ、薪か」

「飯の配給増やすならやる」

「木こり時代が懐かしいなぁ」


はいはい判ったよ、これも功績に加えておくから安心して。

作るのは薪じゃないけどね。

明日の朝までに何本くらい用意できるかが勝負だから頑張ってね?


……。


翌朝。天気は快晴、丁度いい決戦日和。

僕は指揮下の傭兵達の内、洞穴内で休ませた三十名を引き連れて、

リオンズフレア公の後を追っている。


「おーっほっほっほ!竜の巣はこの先ですわ、ご褒美は弾みますから皆さん気張るのですわ!」

「「「おーっ」」」


うん、やる気を出させる方法は理解してるみたいだね。

策を練る気が無いのは指揮官としてはどうかと思うけど、

まあ先頭に立つだけそこいらの阿呆とは違うって事かな?


「……見えてきましたわよ。火竜の巣ですわ」

「うわぁ、この大雪の中で地面が見えてるよ」


今まで腰まで雪につかりながらの行軍だっただけに歩き易くてありがたいと思う反面、

それだけの力を持った相手だって事にへこみそうになる。

……あ、もしかしてあの中心にある小さめの山は……。


「火竜ファイブレスですわね。相変わらず悠々としたものですわ」

「おっきいなぁ。あんなのと戦わなきゃいけないのか」


軽く言ってるけど、正直怖いです。はっきりいってお漏らししそう。

でもね、でもね。

隊長さんはあくまで余裕を崩しちゃいけないんだよ。

味方に不安を与えないためにね。

リオンズフレアさんもそこの所はよく理解してるっぽい。


「おーっほっほっほ!腕が鳴りますわ!」


あー違う、違うやこの人。ミスリルの槍を振り回して本当に嬉しそう。

これは本当に楽しんでる顔だよね。

根本的に考え方が違うのかも。とても付いていけないや。


「それじゃあ、僕らはここから攻撃するから後ろで見てて下さいね」

「ええ、その背中の物にも期待させて頂きますわよ。」


まあ、馬鹿正直に正面から戦う事は無いよね。

取り合えず、今は攻撃準備の時間だよ。

本格的な攻勢は、残りが合流してからにするつもりだから。

そんな訳で今朝がた雇い主に策を一つ提案。

簡単に受理されたんで僕の案のまま実行される事になったんだ。


「じゃあ、皆例の物を降ろすよ。竜の巣を中心に全員散開、包囲せよ!」

「「「「「了解!」」」」」


そう言って三人ごとに纏まったグループを作り、巣の周囲に等間隔に並ぶ。

そして、僕を含め10人が背中に背負って持ってきた切り札を組み立て始める。

幸い竜はこっちを気にもしていない。

でもそこに付け込む隙があるんだよ?


「量産試作型バリスタ、一号機組み立て完了だね!」

「二号機、三号機……八号機まで組み立て完了したみたいですぜ!」


先日の戦争で猛威を振るった巨大弓バリスタ。

聖堂騎士団側の領域奥深くに秘密裏に建造されていた砦に配備されていたそれの威力は物凄く、

トレイディア側についていた僕の調べた限りだと、守りに付いてたのは訓練不足の五百名だけ。

それで逆に歴戦の傭兵三千を逆に壊滅させたって話だから凄いよね。

しかも攻撃側の大将はうちのチーフ、傭兵王ビリーだって言うのだからこれもまた驚き。

その上守備側の大将は何とあのカルマ君だって話だし。


……ねえカルマ君。君って一体何者なの?


まあ、それはさておき。

辛うじて砦を落としたものの、

砦自体が大規模な罠だったせいでチーフは撤退を余儀なくされた訳だけどさ。

その際に砦の屋上に放置されてた壊れた巨大弓を回収したと言う訳。

無事な物は回収されてたけど、壊れたのは忘れられてたみたいだね。

でも、傭兵国家側としては正直残骸一つでも喉から手が出るほど欲しい代物だった訳で。

必死に復元を続けてようやく量産の目処が立ったんだ。

これを他国に売りつけて一儲けしたいと上は考えてるみたい。


それで、量産の為の試作品が何台も作られたんだけど、

その内10台が僕の手に渡った訳だね。

因みに幾つかある型の一つで、小さめになる代わりに三つに分解して、

背中に背負って移動できるようにした野戦用だって話だよ。

僕としては正直言ってこんなの戦争以外で使う用途が見出せなかったんだけど、

相手が竜だって言うなら話は別だね。


「設置場所は……うん、言いつけどおり地面が露出してる場所には立ち入ってないよね」

「相手の領域外から狙い撃ちできるのがコイツの最大の利点でしょう?判ってますぜ隊長」


と言う訳で僕の作戦は単純明快。

今休憩中の皆が合流したら、とにかく死なないように竜の足を止めてもらう。

その時僕らは四方八方からバリスタをぶっ放すって訳だね。

……バリスタの矢が通らなかったらもう逃げ決定。

本当は槍を用意したかったけど、それだと大赤字になる可能性があったので却下。

そんな訳で昨日は木の切り出しをして長い杭を大量に用意した訳だね。


うん、お金が無い傭兵って結構使ってるんだよこれ。

木を切り出して、先を尖らせるだけで最低限の武器として使えるから。

僕も昔は良くお世話になったからね……まさかこんな所で役立つとは思わなかったけどね。


「さて、そろそろ残りの皆も、あー、来た来た」

「そうなんですの?遠すぎてよく見えませんわ」


ふふん、こう見えても遠目には自信が有るんだ。

子供だった頃は見張り位しか任せて貰えなかったからね。必死だったんだ。

でもお陰で"鷹の目"なんて呼ばれるレベルになったんだから、

何が幸いするかなんか知れた物じゃないけどさ。


「隊長、全員到着っ!」

「よおし、じゃあ始めようか。勝てば竜殺しの称号が手に入るよ!」

「特別ボーナスも期待してくれて構いませんわ!」


一箇所に固まると火竜の炎で焼かれちゃうからね。

全員散開して接近、その後出来る限り敵の足を止める事に終始する事。

それを守れればきっと勝機もある。と思うよ。


「それと、もしバリスタの矢が完全に弾かれるようなら逃げてもいいからね」

「そうですわね。その場合はすぐに撤退して構いませんわよ」


さて、どうなりますか。

ちょっと不安だけど現状で出来る最善は尽くしたと思う……あれ?


あ、ちょっとリオンズフレア様?

何処行くの?


「私も前線に立つと申し上げたはずですけど」

「本気だったの!?それ!?えーと、取り合えず今は止めてほしいな」


取り合えず、竜を倒せても依頼人が死んじゃったら無意味どころか手配書ものだから。

暫く後ろに居てくれないと……。

さ、皆は竜の巣を取り囲んでね。多分もう気付かれてると思うから。


……。


少しして、全員が配置に付いたと言う印の狼煙が上がった。

……そして、それを合図に火竜の巣の周囲から数名ごとに分かれて皆が竜の元に向かってる。


「ガアアアアアアアアッ!」


竜が立ち上がった!

雄叫びを上げつつ一番自分に近い数名の方に歩き出している。


「よおし!試作型バリスタ一号機、攻撃開始だよ!」

「あいよっ、矢の用意できてますぜ」

「放たれると同時に弓を引くぞ!」


この量産試作型は三人で運び、三人で運用できるように考えられている。

一人が発射角度を調整、もう一人がハンドルを回し弦を引く。

そして残り一人は矢の準備をするんだ。


「角度は、こんなものかな?」

「隊長の攻撃を合図に皆動くんだから急いでくれよ!」


はいはい、判ってるって。

でもさ。正直外したく無いと思わないかな?

……とりあえずこれで当たると思うけど!


「では発射!」

「よし行った!」

「あー、これなら当たるぞ!」


僕の号令の元、最初の一発が飛んでいく。

尾羽も無いただの杭だから命中精度とかは最初から期待して無い。

けどね。あの巨体を外すのは僕の矜持が許さないんだよね。


アルシェって、弓兵って意味なんだ。

子供の時から狩りの為に森を駆け回ってた弓の申し子、それが僕。

たった一つ人に自慢できる物を……外せる訳無いよね!?


「命中!他の皆も攻撃開始したね」

「でも、あんまり効いて無さそう」

「けどちょっとよろめいたよな今」


最初の一撃は見事相手の肩に命中!

そのまま杭は硬い鱗に弾き返されたけど……うん。聞いてない訳じゃなさそう!

ちょっとよろめいたし、全く効いてない訳じゃないよ!


「よおし!このまま押し切っちゃえ!」

「「おおっ!」」


……あれ?どうしたのリオンズフレア様?

何か、難しい顔して。


「いえ、ただの気のせいですわ」

「何が?」


人の感覚と言う奴は意外と馬鹿に出来ないんだよね。

特に直感に従って生きてる人間のカンはさ。


「何と言うか、あの杭が当たった時……あの竜笑ったような気がしましたの」

「何それ?」


竜が笑った?

うーん、それって「この程度か」とかそう言うの?

それならこのまま削り続けてその笑い顔を消し飛ばせば良いだけなんだけど。


……。


「第16射、いっけーっ!」


竜との戦いを開始してからどれ位たったんだろう。

相変わらず矢は面白いように当たってるし、相手はその度に僅かによろめいても居る。

けどね。なんか、何か良くわからないけどおかしいと感じるんだ。


竜が爪を振るう。

誰かが血飛沫あげて大地に転がった。

……でもまだ大丈夫。まだ前衛だけで半数以上残ってる。

なのに何でだろう。妙な感じが拭えないよ。


「……やられましたわね」

「え?何が?」


「今に判りますわ……もう手遅れですもの」

「それって、一体?」


依頼人に何が理解できたのかは判らない。

けど、確かに押し続けている筈の僕達が、

実の所は追い詰められていると言う事には薄々感づいていた。


「それで、何が手遅れなのかな?」

「……くっ、来るっ!」


えっ、と思った時には全てが終わっていた。


「グアアアアアアアアッ!」

「「「「……!?」」」」


竜が大きく息を吸い込み炎を吐く。

だが皆には竜が息を吸い込んだら一度退避するように言ってある。

実際、今まで被害は少なかったんだ。


けど、今回は違った。


「炎を吐いたまま……回転!?」

「どうやら、遊ばれてたようですわね……」


正面の皆が退避してる内に背後の皆で一斉攻撃、これが基本戦術だった。

けど、炎が出てる中いきなり振り返られちゃ堪らないよ!


「みんな、みんな燃えちゃう!?」

「おかしいと思った理由が判りましたわ。背後への反撃に尻尾を使いませんでしたもの」


……成る程ね。遊ばれてた、か。

要するにさ。向こうにとって僕らは体の良いおもちゃだった訳だね。


「何それ?それならいっそ一思いに……」

「それは違いますわ、遊んでいたのもきっと意味があるような気がするのですわ」


意味!?

そんなもの考えてる暇は無いよ。

もうこうなった以上、僕のすべき事は出来るだけ多くの皆を生きてこの山から帰してあげる事。


「依頼人さん。残念だけどここまで。撤退するよ!」

「そうですわね……と言いたいですけど、逃げられるかどうか」


妙に自信なさげな言葉。

その意味は直ぐに判った。


「皆逃げるよ!」

「了解!」


急いで退却用の狼煙を上げる。

これ以上被害を増やさないようにバリスタで援護を……あれ?竜は何処?


「「「うわああああっ!?」」」


悲鳴、轟音。そして大量の雪が舞う。

バリスタ三号機が、砕け散っている?

……これは、まさか。


「突進を食らったようですわ。これが竜の本気、と言う事ですわね」

「……一瞬で距離を詰めたって言うの!?」


雪煙の中から竜の巨体が顔を出す。

駄目だ。あそこの三人が生きてるとは到底思えない。

これは、バリスタ隊にも撤収を指示しないと……いや、勝手に逃げるよねこれなら。


……あれ?


「皆何してるの?」

「何って、撤退準備だが!?」

「急いでバリスタ解体しないと!」


そんな事やってる場合じゃないよ?

ほら、四号、五号と次々破壊されてるし。

って、他の場所でも解体作業してるよ!?


「だってよ隊長、これ一つに幾らかかってるか知ってるだろ!?」

「そうそう、金の代わりに渡されたんだ。後で売っぱらわないと益が無ぇ!」


馬鹿だな皆。これは傭兵国家としての次期最有力輸出品なんだよ?

横流しなんかしたら傭兵続けてなんか居られないどころか消されちゃうよ?


……ああ、もう駄目だよ。

六号が壊されて七号は……あ、何とか逃げ出して。

無理だよ。背負ってたら逃げ切れな、ああっ!言わんこっちゃ無い!


みんな、馬鹿だ。

命の賭け時を間違いすぎだよ……!


「た、隊長!」

「あ、中央に展開してた皆!?無事だったんだ!」


竜の足止めをしてたみんなの内10人くらいがここまで帰り付いたみたい。

どうやら、竜が息を吸ったとき正面に居た退避組だけが生き残ったようだね。

なんていう皮肉なんだろう。正面戦闘をしてた人だけ生き残るなんてさ。

それにしても皆へとへと……ああっ、もしかして竜の狙いはそれ!?


「とにかくここは退却!装備は後で手に入れ直せばいいからとにかく急いで!」

「「「はいっ!」」」


ふと横を見ると、僕と一緒にバリスタを撃っていた二人がようやく解体を終わらせた所だった。

……これだけ残ってても仕方ないんだけどね。まあ、欲に目が眩んでるようじゃ仕方ないや。


「追いつかれたらやっかいだから、それは置いてく事」

「嫌だね!どうせこの仕事失敗なんだし、せめてコイツは好きにさせてもらう!」


ああ、そう。

ならもう知らない。


「じゃあ好きにしてよ。僕はもう行くよ……依頼人さんも急いで!」

「くっ……もう時間がありませんのに!」


それでも不利は理解できるのだろうね。

リオンズフレアさんも走り出してくれたよ。


当然僕も逃げ出した。

腰まである雪の中だけど、今まで百人で行軍してただけにヒト一人通る道はある。

その道を辿り転がるように僕達は下っていく。

……途中、背中に大荷物背負ったお馬鹿さんが一人、また一人と脱落してく。


「た、隊長……置いてくなぁ!」

「だから背中の荷物の方を置いてけって言ったよね僕!」


でも、もう気にしてる余裕は無い。

背後から迫る巨体の重圧は予想以上に大きいんだ!


「アルシェ隊長!」

「何!?」


「竜が、帰って行きますわよ!?」

「た、助かった、の?」


あれからどれだけ逃げ続けたのだろうか。

雪もいつの間にかくるぶし程度の厚さになっている。

……随分と下ってきたんだなぁ。


そんな僕らの視線の先で、竜が一度振り返って……あ、今絶対ニヤリとした!

くっそー、馬鹿にして……でも、正直助かった。

このまま追いかけられ続けてたら僕ら、

街まで竜を連れてきたって事でどんな目に遭うか判んないしね。


……。


「そういえば、どれだけ生き残ったの?」

「合流したのは結局十数名のみだな、隊長さんよ」

「……私のミスですわね」


あれから数時間くらい経ったと思う。

怪我人も多いし皆疲れてる。

何とか火を起こして今日はここで野宿するしかないや。


……皆、表情は暗い。

当然だよね。アレだけ数揃えたにも拘らず敵さんには相手にされてないわ、

折角貰った最新装備も失うわ。

任務失敗だったからお給料の方も渋くなるのは間違いないし。

あー、もう踏んだり蹴ったりだよ。


「こんな時は勇者か英雄でも現れてカッコよく助けてくれたりしたら嬉しいんだけどね」

「そこまで世の中都合良く出来てませんわよ?自分の持つ物だけで勝負するしかないのですわ」


まあ、そんな事言われなくても判ってるけどさ。

ここまで派手にやられちゃ気分も沈むよ普通。


「んで、あるものだけで勝負した結果がこれかい、依頼人さん」

「まあ、そうですわね。……責任は全て私にありますわ」


「……ふーん。そうかい」


ぞくっ、と背筋に寒気が走る。

嫌な雰囲気。

……この手の悪寒が走った時、大抵録でも無い事が起きるんだよね。


「なあ。俺達は皆命がけで戦ったんだ。それなりのご褒美貰ってもいいと思わないか?」

「いいですわ。生き延びた者達一人頭銀貨50枚、帰り着き次第払いますわよ」


「いいや、違うね!俺は、俺達は今ここで欲しいんだよ!」

「……ここで?ですけど大した手持ちはありませんわ」


いや、違う、違うよ。

……これはまずいな。出来る限り考えさせないようにしてたけど、

命の危機に瀕したせいで性的な欲求が高まってる。


「なあ、一晩俺たちの為に一肌脱いでくれないか?文字通り」

「「「……お、おおおっ」」」


あー、もう馬鹿が火を付けたせいで性欲が飛び火しちゃってる!

これじゃ、もう言葉では止まらないかも。


「「「お、俺も……」」」


ゆらりと焚き火の炎に照らされるその姿。

まるで幽鬼の様だけど、目だけはギラギラと暗く輝いてる。

……最悪だ、皆この異様な雰囲気に酔っ払っちゃってるよ。

しかも明らかに僕も狙いの内に入ってるし!


「ちょ!僕は兎も角依頼人に手を出したら後でただじゃすまないよ!?」

「……どうせ、一山幾らの命なんですよ。どうせ死ぬなら、極上物を味わってから」


いけない!

リオンズフレアさんに最初の一人の手が掛かって……


「おーっほっほっほ!舐めるな下郎!」

「ふげええええっ!?」


槍の一撃で吹き飛ばされた。


「この私を好きにしたい?馬鹿も休み休み仰りなさい!」

「……か弱いとかとは無縁なんだね、リオンズフレア様は」


どうやら心配する必要も無かったっぽいね。

これなら逆に返り討ち……あれ?


「なあ。元々俺らはアンタの無茶な命令でここに来たんだ……労いどころか吹っ飛ばすのかよ?」

「酷ぇなぁ。ここまで文句一つ言わずに来たってのにさ」

「あんたのせいで何人死んだと思う?なあ、何人死んだと思うんだ?」


「……確かに。私のせいではありますわね。けどそれとこれとは話が別では」


くっ、なまじ経験があるだけに厄介な事を!

普通の貴族なら一笑に付されるような話だけど、この人責任感じてるっぽいし。

あっ、いつの間にか囲まれてる!?


「貴様等!お嬢様を慰み者にする気か!?」


彼女の取り巻き。三人居たうち一人だけ付いてきた人が立ちはだかった。

けど、それは逆効果だよ!


「うるせぇっ!」

「うわっ!」

「そ、ソーン?大丈夫ですの!?」


取り巻きさんがドンと突き飛ばされ転がされる。

ここで命までとらないのがずる賢い所だよね。

何故って、もしこれで命までとったら罪悪感より怒りが上回るのが間違いないから。

それを無意識にやってのける辺り……慣れてるんだと、思う。


「なあ、お嬢様。アンタの短慮で死んだ連中の弔いみたいなもんさ」

「心配すんなって。野良犬に噛まれたようなもんだよ」

「これ見てくれよ、俺の腕もげちまったんだぞ?」

「痛ぇよぉ……潰れた右目が疼くんだよぉ」

「俺等を哀れと思うんなら、少しぐらい、な?」


「わ、私は……」


駄目!受け入れちゃ駄目だよ!?

その後の展開をどう考えても僕等二人生きて帰れないから!


「駄目だよ。どうせ楽しむだけ楽しんだら命まで奪って戦闘で死んだ事にするに決まってるんだ」

「そんな事は無いぜ隊長さん」

「そうそう、それにやってみれば意外と楽しいかも知れないぜ!?」


駄目だ。所詮は今回限りの付き合い、か。

傭兵隊長なんて言っても、やる事は寄せ集めの荒くれ者を逃げ出さないように監督するだけの事。

一度たがが外れたらこんなものか。

せっかく純潔だけは守り抜いてきたけど……ここまでかな。

こうなったら命だけでも助かる方向で動かないと……


「ふぉげ?」

「ひでぶ!」

「うげっ」


次の瞬間、僕等に手を伸ばそうとしていた三人の首が飛んだ。

いや、力任せに薙ぎ払われた?


「よ。何か気に入らない展開になってるじゃねぇか?」

「か、カルマ君!?」


突然僕の目の前に現れたカルマ君。

その右手には随分頑丈そうな剣が一振り。

って、え?何この展開!?


「もしかして、助けに来てくれたの!?」

「ああ、気付いてて見逃すのも後味悪いからな」

「カルマさん……その手に持っているものはもしや」


ふと横を見ると、リオンズフレア様が呆然とカルマ君の手にした物を見ていた。

右手は剣。そして左手には……酒瓶?


「まさか、万能の薬が酒とは思わなかったぞフレアさん?」

「い、一体どうやってそれを手に入れたんですの?」


「いや、竜が巣を離れた時にこっそりと拝借した」

「空き巣狙い!?そんなのアリなのカルマ君!?」


ニヤニヤしながらカルマ君は酒瓶をリオンズフレア様に渡した。

あ、横に居る妹さんは戦場でスコップ振り回してたあの子……。


「ほれ、"魔王の蜂蜜酒"だ。これを持って帰るといい」

「まだ栓の抜かれてないのがあったとは驚きであります。大事に使って欲しいであります!」

「あ。ありが、とう……ございますわ」


魔王の蜂蜜酒?聞いたことがある。

確か、かつて世界を荒らした魔王の愛飲していたお酒で、

魔力回復や病魔退散に凄い効果があるんだって。

魔法使いや酒豪、大貴族にとっては所有してるだけで箔が付くといわれてる代物。

しかも味は絶品で、とろけるような味わいと芳醇な香りが瓶の外まで漂ってくるとか何とか。

その為取っておいた酒が無性に飲みたくなり、今では開栓前の物は殆ど残って無いらしいね。


……かつて大陸中に生息してた巨大なミツバチの魔物が作るらしいけど、

そのお酒のためにミツバチの巣はあらかた襲われ今では大陸中何処に行っても見る事は無い。

以上の事情のお陰で今では幻の美酒として凄い値段が付いてるんだ。


「まあ、取り合えず仕事は完了だな……後はこいつ等に制裁加えるだけか」

「う、うるせぇ!いいところで邪魔しやが、グハッ!」


あ、派手に蹴り上げた。

凄いなカルマ君は。一応今蹴り飛ばされたの、傭兵としては実力派で知られる男だよ?


「嫌がる女に手を出すとか何考えてるんだ?」

「いい子ぶるな!お前だって同じ立場ならそうするだろ!?」


「いや、俺にそんな度胸は無いな」

「え?度胸?そういう話なのか?」


……あ、皆固まった。

ついでに僕も。


「俺にはそんな事する度胸は無い。よってお前等にもそれを強要させてもらう。悔しいから」

「……兄ちゃん、そこは格好付けてか弱い物は守るとか言うべきとこだろ……」


「やかましい!俺だって健全な成人男子。飛びつきたくなる事もある。だがそんな度胸は無い」

「だからって、俺たちのやることを邪魔する権利なんか無いだろ!?」


いや、そもそもそんな事する権利自体が無いと僕は思うけど?

でもカルマ君の答えは僕の想像の斜め上を行った。


「俺が出来ないのに他の奴がやるなんて不公平だと思わないか?」

「何その論理?」


「いいから死んでろ」

「ぐはぁっ!」


そんな訳の判らない論理で切り殺されてく生き残りの皆。

まあ、襲われかかった身の上としてはもう死のうが生きようがどうでもいいけど。


「「「す、スイマセンっす!もうしません!」」」


半数ほど首を飛ばされてようやく皆大人しくなる。

総員青ざめた顔で土下座してるね。

ま、なんだかよく判らないけど、取り合えず危機は去ったって事で良いのかな?


「とりあえず、ありがとねカルマ君」

「……私は……私は」


あれ、依頼人さん?どうしたの暗い顔して。

まさか、あの連中の戯言本気にしてる訳じゃないよね?

そもそも傭兵なんて死んで何ぼ、殺して何ぼの存在なんだし。

別に気に病む必要なんか無いんだけどね?


「私のやった事は結局無意味だったのですわね」

「そうでもないぞ?あんた等の戦いで竜が巣を空けたから俺も酒を盗み出せた訳だし」


「……でしたら、別に私のせいでは無いと?」

「まあ、無茶な計画だったのは間違いないが……それであんな目に会う必要は無いだろ」


そう、カルマ君の言う通り。

そもそも今回のような事件は結構多発してると思うけど、

それを認めてしまえば傭兵と言う職業自体が廃れてしまうだろう。

それはそれ、これはこれ、だと僕は思うよ。


「おーっほっほっほ!良かったですわ、私は間違っていませんでしたのね!」

「……いや、出来ればもう少し死人の出ない方法を考えて欲しいよ」

「全くだ。アルシェも大変だったなぁ」



判ってくれるの?カルマ君は優しいな。

……もう一度、ありがとう。と言わせてもらうね。


あ、そうだ。

それどころじゃないか。


「でもさ、目的の品がある以上ここから早く移動しないと」

「何故ですの?」


「だって、宝物取られて竜が追いかけてきたらどうするの?」

「それは無いであります」


「アリスちゃん?どうして無いと言い切れるの?」

「だって……」

「竜なら殺したぞ?」


ぐしゃ、ってね。

生き残り全員がずっこけたよ。勿論僕も。

だって、しょうがないと思わない?


「ど、ど、どどどどどうやって!?」

「あの竜をどんな方法で葬ったのか、教えていただけますわね?」


僕等は当然詰め寄ったよ。

そしたら、カルマ君は面倒くさそうに語り始めたんだ。

その竜の最後とカルマ君の戦いをね。


……。


≪side カルマ≫

走る、走る、走る。長い坂道を巨大なアリが走る。

俺はその背に乗って、長い地下道を駆け上がっていた。


「アリス!追いつけると思うか?」

「わかんないであります!とにかく急ぐで……あ、駄目であります」


ぴたりと歩みを止めたアリス。

俺も一度立ち止まりアリスの方へ向かう。


「駄目とはどういう意味だ?」

「出入り口が塞がれてるでありますよ!」


「なんだって!?」


さて、置いて行かれた事に気付いた俺はアリサ達に命じて作らせていた万一の備え、

その片割れであるこの地下通路を抜けて追い付くつもりで居た。

本来は撤収する時の為の物だったが役に立つなら使い方はどうでもいいと思う。

だが、その出入り口に問題が発生した。


「出入り口付近で寝てる人が居るでありますよ。それも沢山」

「……兵の休憩所にされたか。この洞穴」


出入り口は壁に偽装され、見つかるとも思えないがこちらから開くなら話は別だ。

しかも相手は傭兵の上、雇い主は他ならぬフレアさん。

口封じが出来ない以上、無理をする事は出来ないな。


「全員が出て行くまでこっちも出入り出来ないであります」

「他の場所に出入り口を開けないか?」


アリスはうーんと考え込んだ。

そして、アホ毛型触覚をピコピコさせてアリサと通信開始。


「了解であります。丁度いい出口を思いついたので今から掘るでありますよ?」

「よし、頼む」


善は急げだ。

俺は一度山の中腹辺りの地下に用意した休憩所に移動、仮眠を取る事にした。

新しい出入り口は一眠りしてる内に出来ると言う話だったので一休み出来ると踏んだのだ。


そして……。


「にいちゃ?にいちゃ!起きろであります!」

「んー?どうしたアリス?」


「もうお昼でありますよ?」

「なんだってーーーーっ!」


俺は見事に寝過ごしたのである。

既に随分前に戦闘が始まってしまったと言う。

俺はアリに飛び乗ると、急ぎ新しい出入り口とやらに向かった……。


「そういや、もう前の出入り口使えるんじゃないか?」

「そっちより近いから無問題であります」


頭上から僅かに振動が聞こえる。

これは激戦だな……。

出来れば戦闘開始前に合流したかったがそうも言っていられない。

そして、出入り口から顔を出した俺が見た物は……火竜の巣。それもど真ん中だった。


オイオイこんな所に入り口作っちゃったのか?

とは思う物の、何か様子がおかしい。


「あれ?竜が居ないぞ」

「あ、追いかけられてるでありますね」


何、と思って地下道から這い出ると、はるか視界の先に赤い物が蠢いている。

多分竜の背中だ。


「もう、負けたのか」


既に味方は撤退中。

これでは勝ち目も無いだろうな、と思った俺の背中に声がかかる。


「にいちゃ!にいちゃ!お宝どっさりであります!」

「おお、これは……」


竜の寝所と思わしき巣中央の盛り上がった大地。

その周囲を沢山の光り物や珍しい宝物が飾り付けていた。


「そういや、別に倒して持ってく必要は無いんだよな」

「で、ありますね」


……ふと遠くを見ると、竜は楽しそうに何かを追いかけている。

うん、やるなら今だな。と、そういう風に思った。


「よし、どれが薬か判らんし……片っ端から持って行け」

「あいあいさー、皆、根こそぎ持ってくであります!」


ごごごごご、と穴から蟻が這い出し、

バケツリレー方式で次々と周囲の金目の物全てを掻っ攫っていく。

……まあ、どれが薬かは判らんが全部持ってけば当たりが入ってるだろ。

そんな風に考えていた訳だ。


……。


「なあ、まだ終わらないのか?」

「予想以上に量が多いでありますね」


さて、あれから暫くして……蟻達の総力を持ってしても未だに全ての宝を運び出せずにいる。

輸送力はあっても急造の地下道は狭く、余り効果的に宝物を運べていないし、

そもそも薬がどれだかわからない為、壊さないようゆっくり丁寧に運ばせているからだ。


……しかも、さっきから山の下の方を監視してるが、段々と赤い点が大きくなって来てやがるな。


「おい、竜が帰ってくるぞ?」

「むむむ。まだ暫くかかるでありますね」


そうか。

ここで切り上げると言う選択肢もあるが、

万一これで薬を運び損ねていたとしたら……もう二度と手に入れるチャンスは無いような気がする。

かといって、運び出してる最中を見つかりでもしたらと思うと気が気でない。


「……足止めしてくる、か」

「それしか無いでありますね」


既に竜は己の領域近くまで戻っている。

兎に角少しでも長く竜の足を止めておかねばならないな。


「アリス。ここは一般蟻に任せ例の物の準備をしろ」

「あいあいさー。にいちゃはどうするでありますか」


「……竜の足止めに決まってるだろ」



さて、凶暴な火竜との足止め。

という名の決戦と参りますかね?


……。


『竜よ、何処に行っていた?再戦の申し込みをしに来たんだが』

『人の子よ……残念だがお前の仲間は追い散らしたぞ?』


未だ腰までの雪の残るエリア。

その雪を口から吹きつけた炎で溶かしながら進む火竜ファイブレス。

その脇から俺は竜に声をかけた。

……万一帰還する方向からやってきた場合、何かしたのではないかと勘ぐられた時に困る為だ。


『みたいだな。だが俺は今回単独で来たんだ。竜よ、お前に挑む為にな』

『あれだけやられてまだ懲りぬか。愚かしい事よ。だが、こちらとしては退屈が紛れて良いがな』


ニヤリと竜が笑う。

俺もニヤリと口元を歪めてやった。


『負ける気は無い。あの時俺達の提案を受け入れなかった事、後悔してもらうぞ!』

『その言葉そっくり返す。繋がった命を粗末にした報いを受けてもらおうか』


その言葉に被せるように、竜の尻尾が鞭のようにしなる。

予め強力で強化された脚力から繰り出されるバックステップで辛うじて回避に成功。

だが、判りきった話では在るが当たっていたら無事では済まなかっただろう。

なぎ倒され、暫く宙を舞っていた樹木を見ると改めてそう思う。


『早いな。人とは思えぬ』

『ありがとよ、お褒めに預かり光栄、だ!』


全速力で彼我の距離を詰め、親父の形見だと言う剣を抜き放つ。

さて、呪われてるという話だけど材質は鋼、今までの量産品の鉄の剣よりは切れ味もいいだろ?

その腹、もう一度切り付けさせて貰おうか?


ファイター、振りかぶって第一撃……斬りました!

ドスッ……って、何この音。


『ぐっ!?……むむ、その剣の刃。潰れておらぬか?』

『え、嘘……本当だーっ!』


全体重をこめた渾身の一撃だが相手の腹の皮を突き抜ける事は相変わらず無かった。

それは仕方無いとして……刃が潰されてる?何それ?

普通の相手ならいいけど、これだけ装甲の厚い相手だと刃が通らないと思うんだが。

親父、何考えてやがる!?

しかも、今気付いたけど柄を持ってるだけで何か少しばかり脱力感漂うと言うか。

……もしかして生命力吸われてないかこれ!?

スチール製のスティール(吸収)な剣なのかよまさか!?


『……何故剣を鞘に収める?』

『えーと、次は魔法でお相手する』


そんな馬鹿な代物使ってられるか!

ええい、ならば魔法だ。魔道書内より新たに覚えた新魔法でも食らっておけ!


『コラーッ!何やっとるんじゃお前等ーッ……召雷!(サンダーボルト)』

『むうっ!?』


俺の叫びに合わせるかのように、突如黒雲が頭上に集まり、そこからイカヅチが降り注ぐ!

雷とカミナリをかけたと思われるこの一撃ならどうだ!?


『……甘露甘露』

『効いてねぇ!と言うかさっきより鱗の輝きが増してるような!?』


雷撃でも駄目か!?

一体なんだったら効くって言うんだ!


『ふむ。どうやら知らぬようだな。……竜とは魔力の塊。魔法など効かぬ』

『え?例えば苦手そうな氷とか水とかでも?』


『当然だな。我が皮膚や鱗は触れた魔力を己の取り込みやすい形に変換する。故に効かぬのだ』

『ジーザス!なんてこった!?』


あはははは、これは参った。

自分の属性だけでなくそれ以外だろうが魔法であれば効果無しな訳だな?

と言うか、それってあの硬い鱗を纏った巨大生物を倒すには、

物理的な力で何とかするしか無いって事じゃないのか!?


『ふふふ、大体考えている事は判るぞ?その通り、竜を殺したくば力で上回らねばならん』

『種族的に一番得意そうな分野だと思うんだがね?』


やりきれないな。それに洒落にならん。

これが最強の最強たる所以か。


『ふはははは!そういう事だ人の子よ。貴様の勝つ見込みなど万に一つしか無い』

『お、一万分の一で勝てるのか、それはありがたい』


まあ、諦めるつもりは無いぞ?

俺は再び剣を抜くと竜の正面に立ちはだかり、構えを取った。


『我に正面から挑むか。その意気たるは良し!だが、愚かなり!』

『かかって来いやああっ!』


襲ってきたのは太い竜の尻尾。

だが、今度は逃がさんとばかり俺の側面で跳ね、頭上から振り下ろされる!


『うぐっ!?』

『は、ははっ……どうやら刺すのには使えるみたいだな』


竜の尾から血が迸る。

俺の剣は尻尾に根元まで深々と突き刺さっていた。

どうやって?

それはもう、振り下ろされる尻尾に対し垂直に合わせて突き上げたに決まってる。

竜は己の力で尖った鉄塊に尻尾を振り下ろした、そういう事だ。


ん?何か違和感が。

何と言うか全身に力がみなぎるような。


『ぐ、ぐぉおおおっ!やりおったな貴様!』

『って、おおっ、おおおおっ!?』


再び竜が動き始める前に剣を抜いた俺に対し、

今度は竜の爪が襲い掛かる!

再び剣を垂直に立て、今度は竜の掌を俺の剣が貫いた。

が、竜は笑っている!?


『ふん。この程度の痛みが何だと言うのだ……このまま握りつぶしてくれる!』

『う、うわあああっ!?……あれ?』


掌に剣を突き刺した俺は当然竜の手に挟まれる形になっている。

ファイブレスの狙いは例え剣を突き立てられても、そのまま俺を捕まえられればそれでいい、

そういう事だと思ったんだが。


『随分ソフトタッチだな』

『ち、力が入らぬだと!?』


竜の指は俺を確かに掴みあげようと蠢くものの、全く力が入っていない。

片手で指を開き、剣を抜いて竜の手から脱出した俺は、

今この戦闘で起こっている異常事態について思いを馳せていた。


『どうした、竜よ?随分余裕だが』

『う、うるさい……少々力が入らなくなっただけだ』


竜がにじり寄る。

だが、俺は気付いてしまった。

竜の足元、その指が一本満足に動いていない事に。


『その脚の指、どうかしたのか?』

『貴様に刺されてから調子が悪いだけだ。後数日もすれば元通りになる』


ああ、そうか。

そう言う事か。

成る程、これは確かに魔剣というに相応しい。

剣は俺の命を吸っている。

それに何時もに比べ魔力の回復速度も遅い。


けど、竜の体に剣が食い込んだ時、確かに俺は体力が回復する感覚を得た。

こいつは……竜の命を吸い取ったんだ!

更に、良く刀身を見ると明らかに刃が研ぎ澄まされている。

淡い光が刀身の外側に力場の刃を形成しているのがわかるが、

その淡い光の出所は……恐らく竜の魔力そのもの。


他者の命を吸わねば使用者の命を削る魔剣。

だが、一度敵の命を吸えば刀身はどんどん研ぎ澄まされ、

さらに敵から強奪した命を使用者の命に加えるというオマケつき。

……一度鞘から解き放たれたら最後、誰彼構わず命を吸い続ける。

これが魔剣と言わずして何なのだろう。

親父、前言撤回だ。最高だよアンタ。凄ぇもの残してくれたじゃないか!

それに、それにだ。


『竜って奴は……魔力の塊だって言ってたよなファイブレス?』

『ぬう、体が、体の自由が利かぬ!』


僅かに鈍った動きに乗じて、剣が腹に吸い込まれる。

その後引き抜かれた剣が片膝を砕く。これで満足に動けまい?


『だったら、竜の全てである魔力を奪われたら……体も動かなくなるわな?』

『何!?……まさかそれは……魔王の宝剣が一振り、ヴァンパイヤーズエッジの眷属か!?』


続いて脚の付け根、更にふくらはぎを切り裂いた。

そして再度腹に一撃、但し今度の攻撃は腹を切り裂き内臓まで届く損傷を与えたはずだ。


『いや?うちの母親はスティールソードとか言ってたっけ』

『やはりな……かの者の離反に際し持ち出され勇者ゴウの手に渡ったあの呪われし剣か!』


おー、元は魔王の持ち物なのかこれ。

いやあ、RPGではお約束だけどね。ラスボスの城に最強の武器があるってさ。

まあ、なんにせよ強力な武具みたいだし嬉しいね、これは。

だが巡り巡って行き着いた先がとある兵士崩れの農夫の家とは、魔剣もさぞ嘆いていた事だろう。


そらっ、今度は首だ!


『全ての竜殺しの剣(ドラゴンキラー)が始祖!おぞましき魔剣!ようやく見つけたぞ!?』

『と言いつつ、あんたは既に追い詰められている訳だが』


既に今までの攻撃で剣の放つ光はかなり強くなっていた。

もしやと思い弁慶の泣き所を斬りつけてみると、上手い具合に骨ごと真っ二つ。

立って居られなくなった竜は無様に地に伏せる羽目となった。


『ぬぐっ……そ、それを破壊すべくこの地で探し続けていた……まさか目の前にして!』

『成る程、道理で火竜が火山でもないこの雪山に住み着いてた訳だ』


そんな事を言いつつ今度は倒れた竜の脳天目掛けて剣を振り下ろし、

……まだ無事だった片腕に防がれた。


『流石は竜。もう殆ど身動き取れないだろうによくもまあ』

『うぐ、ウアアアアアッ!?腕の、腕の感覚が消えた!我が腕は何処だ!?』


恐らく今まで殆ど見た物など居ないであろう、地をのた打ち回る竜の姿。

先日あれだけボロボロにされた相手を逆に蹂躙する感覚に思わず凄惨な笑みが浮かぶ。


『もういいだろ?そろそろ観念しとけよ』

『う、う、うわああああああっ!』


既に攻守は逆転していた。

竜は最後の力を振り絞り、己のテリトリーに向けて残った片足を叩きつけ、地を蹴った。

……速い!まるで山が飛んでいるかのようだぞ!?


って黙ってる場合じゃない。追いかけないと。

くっ、加速を使ってもじわじわ離されるだとっ!?


『ぐ、寝所に帰り着けば"魔王の蜂蜜種"がある。魔力さえ回復すれば貴様など……!』

『まさか、例の薬か!?』


『ん?ああ、そうだな、万能の薬でもある……貴様などにやってたまるか!飲み干してくれる』

『くそっ!ここまで来て……!』


ここで回復されたら再逆転されてしまう可能性は大いにありえる。

しかも、探しに来た薬を使われちまったら何の為に来たのか判りやしない!


だが、俺の心配は杞憂に終わった。

竜は己の寝所で呆然と立ち尽くし、そして力尽き、倒れた。


『わ、わが宝が……何も無い!?』

『えーと……ご愁傷様、だな。』


どうやら蟻達は運び出しを終了したらしい。

既に火竜の巣中央、竜の寝所はただの盛り上がった大地でしかない。

そこを飾っていた数多の宝物は、既に俺の懐の中だ。


『おおっ……ああっ……何故、何故だっ!?』

『知る必要は無い。お前は今日ここで消える』


初撃こそ転がって回避されたものの、お陰でむき出しになった腹を蹴り、

胸元の中央、心臓目掛けて剣を突き刺した……!


『な、なんだと……』

『本当に、魔力の塊なんだな』


心臓を破壊した、その瞬間竜の肉体が崩壊を始める。

そして俺の手にはいつの間にかソフトボールほどもある巨大な宝石が握られていた。


『何だこれ?』

『我が核……心臓だ。……それが実体化したという事は我が命運は尽きたという事か』


崩れかけた竜の肉体は急速に生命らしさを失い、ただの土塊と化していく。

だが、心臓を失う前に剥がれ落ちた鱗はそのままだ。

そして俺の手にある巨大な宝石……竜の核。何かの魔力媒体か?


『今少し話がしたいのでな。肉体の維持を止め核を失った分を補っておるのだ』


成る程、体を構成していた魔力を意識の維持に回し始めたか。


『竜とはそもそも偽りの命。……主君の命ではなく、自由に生きたかった。我等の願いはそれだけ』

『竜ってのは魔力の塊……魔法そのものだったのか』


もう助からないと思い、達観したのだろうか。

火竜は予想以上に静かに語り始めた。


『そも、我等は魔王と共に作られし魔法の制限者』

『我が製造者の望みは魔法を乱用する物を探し出し、排除する事』

『かつての轍を踏まぬ為、我等は創造された』


『だが、製造者を含む魔法文明もまた、過去の例に漏れず滅んだ』

『そして我等はその後の事に付いて話し合った』

『結果、我等は主君の死を契機に自由に振舞う事とし』

『魔王はかつての主君の命を忠実に守り、魔力を濫用する者が現れた際には処置を続けた』


『だが、均衡は破られる』

『二十八年前。遂に魔王は敗北し、魔を制限する機構は崩れ去った』

『我等は魔王の眷族とされ、人は我等を狩り始めた』

『我等が心臓は強大な力の源。それを巡って絶対に争いが起きるであろう』

『そして、争いは更なる力を欲し、更なる力はそれを上回る力を人に欲しさせる』


『今、世界は滅びに向かっている。さあ、貴様はそれを知ってどうする?』


うーん。長い話だったな。

要するにだ、この宝石は竜の心臓であり、強力な魔力媒体な訳だな?

それこそ国とかが欲しがるようなレベルの。

んで、それを手にした俺は当然国とかから狙われると。そういう事だろ?


しかも、それに対抗し続けてると敵も新しい力を用意してきて最終的に世界が滅ぶぞと。

他人にくれてやっても争いの元になるのは変わらないだろうしな。

まあ、この竜の意図としては『お前の軽率な行動が世界の滅びを呼ぶけどどうすんだ?』

と言う所だろうな。まあ一種の意趣返しだ。

これを聞いて深刻になる俺が居ればザマアミロと言う所なんだろう。


『さあ、どうするかな人の子よ?』

『いや、どうもしない……滅ぶなら滅ぶだろ』


『……は?』

『いや、だからどうもしない』


それにさ、かつての世界が滅んだのも多分幾つかの派閥に分かれて


「世界滅ぶから節制しよう。君のとこのあれも止めてね」

「嫌だ。むしろ君のとこのアレを……」


そんな感じで進んでいって挙句戦争で滅んだとかそういうのだろ?

そんな風に聞いてみたら竜は目を見開いてた。

……どうやら当たりだな。


『だったらほっとけ。何、責任擦り付ける相手がいなくなったら勝手に対策立て始めるさ』


それが出来なきゃ本当に滅ぶだけだし、

そのために俺の人生無駄に使う気なんかさらさら無い。


『だが、我が心臓を持つ限り争いからは逃れられんぞ?』

『じゃあこうするさ』


俺は竜の寝所の傍に心臓を置いた。

ついでに倒した証拠が必要だろうと無事に残っている竜の頭から角を切り出し

それだけじゃ何なので、ファイブレスに断りを入れ、片目を貰っていく事にした。


『誰かが何時かそれを拾う事だろう。問題の先送りだな』

『だろうな。と言う訳でアリス!やれ!』


その俺の言葉に反応するかのように、山頂当たりで轟音が轟く。

……アリスと配下の蟻達が山頂の雪を派手に崩した音だ。


「じゃあな!ファイブレス!」


そして俺は走り去った。

……その数分後、火竜の巣周辺には大規模な雪崩が押し寄せ、

竜の体を砕きながら山の裾野にまで突き進んでいったのである……。


……。


「と言うわけだ」

「じ、じゃあそんな凄い竜の心臓って言う宝石は、もう雪崩の下なの!?」

「勿体無い、ですわ」


以上を幾つか俺にとって不都合な部分を改竄しつつアルシェやフレアさんに伝えてみた。

具体的には俺の剣は本当に竜殺しの魔剣であり竜を圧倒した事。

けれど、念のためにアリスに起こさせておいた雪崩のせいで、

竜の心臓は落としてしまった事にしておいたのだ。


本当は蟻に回収させたけどね。


「それにしても、竜を圧倒って……話半分でも洒落にならないよ?」

「でも、この瞳。一度博物館で見た竜の瞳そのものですわよ?」

「まあどっちでもいいだろ?目的の品は手に入ったし」


それに、この剣と竜と言う種族の相性が良かっただけだ。

最初に傷一つつけないと性能を発揮しない剣な訳で、相性の悪い敵も数多居ると思われる。

……やっぱり普通の武器も必要だよな。


「「「「り、竜殺し……竜殺しを敵に回していたのか」」」」


哀れな馬鹿どもがガクブルしているな。

まあ俺の目の前で気に入らないような事するからだ。

それでも命までとらなかったのはこれで俺もAランクの冒険者になる事が決定したから。

気分がいいから恩赦だぜ!なんて偉そうな事言ってみたり。


「と、取り合えず帰りましょうか?私も帰国準備したいと思いますし」

「そうだな。あ、俺もマナリア行くんで出来れば連れてってくれないかフレアさん」


「え?ああ、判りましたわ。貴方でしたら喜んで同行させて頂きますわよ」

「助かる。ちょっと野暮用があるんでね」

「野暮用で国境越える人、僕始めて見たよ」


うん、でも人一人の命がかかってるんでね。

弟子の事なんで文字通り他人事じゃないのさ。


「……時にアルシェ隊長?」

「はい?なんですかリオンズフレア様」


「此度の部下の狼藉、一体どうやって責任を取って頂けるんですの?」

「ええっ!?そこで僕に振るの!?」


何か知らないけど突然フレアさんがとんでもない事言い出したぞ?

いや、確かに責任問題としては隊長のアルシェの責任になるんだろうけど、

一緒に襲われてた訳だし許してやって欲しいとこだが。


「ですので引き続き、私が帰国するまでの警護を引き受けなさい?給金はお支払いしますわよ」

「そ、それで済むなら喜んで!……で、あいつ等の方は」


「とりあえず牢に放り込みますわ」

「「「「「ががーん!」」」」」


いや、仮にも一国の公爵家当主。しかも雇い主を襲ったんだぞ?

首が繋がってるだけ凄い温情だと思うが。

おや、この期に及んでまだ文句言いたげな奴が居るぞ。


「な、なんで俺達がそんな事されなきゃならないんだ!?」


「あー。よりによって君、首謀者じゃない?僕、正直殺意が沸いてるんだけど」

「しかも思い出せばこの方、一人で"俺達"なんて騒いでましたわよね」


生き残ってたのか首謀者!

しかし薮蛇だな。二人の表情が洒落になって無いぞ?

まあ、この二人が許しても余罪有りそうだし俺が潰すが。


……あ、その必要が無くなった。


……。


まあ、そんな訳で翌日。

俺は新しい冒険者総合Aランク(詳細ABB)を引っさげマナリアへと旅立ったのである。


「さあ、馬車を飛ばしますわよ!?多分半月もあれば着きますわ!」

「ええっ!?普通一ヶ月かかるはずじゃあ!?」

「多分、馬車馬を使い潰す気だな」


「まさか、街ごとで馬車を乗り換えるんですわ。潰れる前に交代させれば良いだけですもの!」

「「「お嬢様ですがそれでは馬代がかかり過ぎます」」」


「おーっほっほ!細かい事は良いんですわ!今は時間との勝負、多少の出費は構いませんことよ!」

「「「ははあっ!」」」


「すごいね、お金持ちって」

「いや、必要があればやってもおかしく無いだろ?」


「え、そうかな?」

「その通りですわ!お金は使い時を間違え無い事が大事なのですわよアルシェさん?」


どうにも騒がしい同行者一行と共に。


正直蟻の地下通路が後数日で出来上がるので、それを待って直行した方が早いのだが、

不法入国を怪しまれる訳にも行かない。

よって一度は正規の入国をしておかないといけないのだ。

これを考慮した上で、身元の確認でこれ以上無い連中と共に移動する事にした訳だ。


「さ、いきましょう。急がなければいけませんわ」

「ああ、その通りだ。急ごう」


……ルン、待ってろよ。今行くからな。

辛いだろうがもう少しだけ我慢してろよ?


***冒険者シナリオ9 完***

続く


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