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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 27 魔剣スティールソード 前編
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/04 11:00
幻想立志転生伝

27

***冒険者シナリオ9 魔剣スティールソード***

~金炎の雌獅子と勇者の遺産 前編~

《side カルマ》

輸入、輸出品を一時保管する為に建設された巨大な倉庫街、ポートサイド。

俺は今、冒険者としては久々の仕事を得る為にこの街を歩いている。


「なんだか今日は随分活気があるのであります」

「ま、ようやく戦争も終わってまともな商売が出来るようになったからだろうな」


お供は蟻ん娘一匹。


「ギルド出張所とは一体何処に在るでありますか?」

「この先だ。以前何度か荷を運んだ事がある」


現れたのは倉庫を改装して作られた冒険者ギルドの出張所。

その中はえらく沢山の冒険者達でごった返していた。

本来トレイディアのギルドがこんな状態で、この街のギルドは閑古鳥が鳴いてたはずだが、

トレイディア側が休業の為周辺の連中が残らず集まっているのだ。


……ただし、余りレベルの高い奴が居ないように思うのが難点と言える。

何せ腕の立つ連中はまだ、殆ど何処かの金持ちの護衛に雇われて居る筈だからな。


「よ、久しぶり。何か仕事あるか?」

「この状況下であると思います?一か月待ちですね」


あれ?てっきりBランク以下お断りとかの仕事だけ残ってるかと思ったんだが。

何せ、下級の連中じゃ請ける事も出来ない難易度だろうし。


「上級者向けの仕事も無いのか受付さん?」

「ええ。下級の連中でも数を頼りにごり押しさせてます」


成る程。これは所謂ワークシェアリングの一種だな。

一人じゃ難度高すぎで遂行不能な仕事でも10人とか数揃えればどうにかなると。

報酬は山分けで一人頭の取り分は少ないだろうが、仕事が無いよりはずっといい。


「……ここに居る連中全員に仕事割り振らなきゃならないしなぁ」

「そういう事です。申し訳無いですが今日の糧が必要な方達に譲ってあげてくれませんか?」


元々、民間からの依頼は戦時中ということもあり激減していたし、

他ならぬ俺が組織した警備隊によって街道筋の安全は確保されつつある。

その上、近くの魔物の巣はあらかた軍の訓練の為に潰されていた。


そう。冒険者達の仕事はただでさえ普段の半分以下しかない。

その上この出張所では規模が足りず、扱える案件の数はそれ程多くない。

よって、実際に冒険者達に斡旋される仕事は普段の三割ほど。

……その為、仕事の紹介待ちをする冒険者が溢れると言う異常事態が発生していた。


「しかも、食料品を初めとしてかなり値上がりしてますしね」

「……そうだな」


これは駄目だ。

俺が仕事を持っていっていい状況ではない。


「まあ、現状食うのには困らんし……皆に仕事は譲るさ」

「そう言ってくれるのはカルマさんだけです。助かりますよ」


……そう言って頭をかく受付。これは相当困り果てていたらしい。

その横の掲示板でも、普段なら沢山貼ってある筈の仕事の依頼が全く無くなっていて、

何か貼り出される度に、即座に誰かの手が伸びる有様だ。


「これはもう、仕事の奪い合いだ……ん?一枚だけ動かない奴があるな」

「ホントでありますね」

「ああ、これはランクA専用の任務。数が居てもどうにもならず、ずっとそのままになってます」


ら、ランクA専用任務!?

珍しい事もあるもんだな。


さて……冒険者のランクは戦闘・技能・実績の三つからなり、

それぞれがAからEまでの五段階で評価される。

総合ランクはその平均で算出されるのだ。


例えばこの俺、冒険者カルマだが、

戦闘評価 B
技能評価 B
実績評価 C

以上をもって総合Bランクを貰っている。


そして、各ランクをひと言で言い表すと、

ランクE……見習い、一応冒険者、才能無し、欠陥部分
ランクD……初級者、苦手部分
ランクC……一般的冒険者
ランクB……上級、得意分野
ランクA……達人、到達できるのはごく一部、たまに人外


と、なっている。


因みにAランクを貰う連中とはどういう連中かと言うと、

戦闘……オーガ(鬼)と一騎打ちで勝利できる。
技能……鍵開け、交渉、探索など技能所持多数。またはいかなる状況にも対応できるならA。
実績……任務難易度×回数によるポイントが一定以上。もしくはギルドに大金を供与する。

以下のようになっている。


三つの技能がAAA・BAA・ABB・AAC。大体これが総合Aランク。

多分に恣意的な評価に左右される部分もあるが、どう考えても一流でないとなる事は出来ない。

何せ、苦手分野でも一般冒険者並みには出来なければならないし、

最低でも三つ評価の内どれかはA級……最優秀で無ければならない。


つまり、Aランク専用任務というのは、

ある意味人外でもなければ達成し得ない超凶悪難度と言う事になる。

無論、動く金の額も尋常ではなく、

最低でも金貨がダース単位で転がっていく事となるのだ。


「動けるAランクは居ないのか?」

「お分かりでしょうが、Aランク冒険者は大抵すぐに仕官が決まって居なくなるんですよ」


まあ、それでも動く金のでかさに対し、冒険者自身に入る金は微々たる物。

そんな訳で冒険者ギルドに長くAランク冒険者が所属し続ける事はまず無い。


「ライオネルさんが本来のランクに戻ってくれたら是が非でもお願いするんですがね」

「へぇ。兄貴……アレが本来のランクじゃないのか。やっぱり」


兄貴は総合Dランクになっている(ランク詳細BEE)が、

どう考えても技能Eはおかしいし、依頼人を馬鹿にするような部分はあるが、

仕事自体はあれで結構真面目にこなす人だ。

村正みたく上から圧力かけられてる訳でも無いのに、

あんな低ランクでくすぶってる方がおかしいと思っていた所だ。


「じゃあ、本当はランクどの辺なんだ?」

「昔真面目にやってた頃は総合Aランク(詳細ACA)ですよ。ご存知ありませんでした?」


……やはりオーガ如き、本気ならどうにでもなるレベルだったか。

流石は兄貴。洒落にならねぇ。

しかし普段の手抜き具合が良くわかろうという物だな。


「と言うか、命の危機でも本気出さないのかあの兄貴は」

「本来の武器を使って無いらしいですしね。まあ……あ、そうだ。いい事思いつきました」


「ほう?」

「カルマさん。昇格試験を兼ねてこの仕事、請けてみません?」


なぬ?

俺がAランクの仕事をか?


「ええ。実はもう一週間ほったらかしになっていて……依頼人がお怒りなんですよ」

「へえ。それは大事だな……成功したら戦闘Aランクって事か」


俺と受付は同時にニヤリとした。

どうやら、当たりのようだな。


「その通りです。それと……万一失敗しても失敗数に入れません。いかがでしょう?」

「いいねいいね。で、報酬は?」


「何と金貨20枚です!」

「ま、そんなもんか。で、何をやればいいんだ?」


「依頼人と共に結界山脈の竜を一匹、打ち倒すことです」

「……竜?」


竜……ドラゴン?

所謂ファンタジー最強クラスの存在だな。

成る程、確かにAランクの仕事として相応しいと言える。が、


「いや、ちょっと待て。流石に竜が相手は辛く無いか?」

「いやあ請けて頂いて本当に助かります、まあ依頼人も一度殺されかかれば諦めるでしょう」


あれ?もう請けた事になってるのかよ!?


「おほほほほ!そうでも無いですわ……竜を殺せる武具に心当たりがありましてよ?」


……誰?

あ、受付が大口開けて固まってる。


「い、依頼人さん……いえ、今の台詞はそんな悪気があったわけでは」

「細かい事はいいんですわ!兎も角そこのお方が請けて下さった方ですわね?」


これが依頼人?……すげぇや。


ボリュームのある金髪を縦ロールにして、大量の宝石をあしらった黄金のドレスを着てる。

しかも顔立ちはこれでもかって位お嬢様然としてるけど、

首から下は凄い筋肉で、まるで細めの女子プロレスラーだ。

きっと、さぞや腹筋も割れておいでなのだろう。


「おーっほっほっほ!私の事はフレアとお呼びなさい?それで、実力は大丈夫なのかしら?」

「えーと、まあリザードロードとほぼ互角くらい、かな」


「ふぅん?まあいいですわ。私の援護が出来ればそれで構いませんから」

「……なんだろう。この異常な不安感は」


「おーっほっほっほ!心配なぞする必要はありませんわ?何せ、この私が居るのですから!」

「ぽかーん。であります」

「何と言う高慢……ではなく姉御肌なんだこの人」


ギルドの真ん中で高笑いを続けるその姿に回りも少しばかり引いている。

……何ていうか。こう、早まったかもしれない。

そう思っていた。少なくともこの時点では。


……。 


さて、その日の夜。ここは何時もの……首吊り亭。

依頼人のフレアさんと共に、今後の作戦を立てる事となっている。


「にいちゃ?あの人、結構お嬢様っぽいし……お店ここで良いのでありますか?」

「細かい事は気にしない、だとさ」


アリスと共にぼんやりとしていると突然ドアが開き、

明らかにこの場に不釣合いな女の子が現れた。


金髪に黄金ドレス……フレアさんだ。


「お待たせしましたわね」

「いえいえ。それで……竜退治だったか?」


「正確に言うと、とある竜の持つ宝物の一つが必要なのですわ」

「それはいいが……勝算はあるのか?」


正直依頼人が何を狙っているかなど、俺の不利益にならない限り関係ない。

この場合大事なのは先ほどの台詞のひとつにあった竜を殺せる武具の存在。

それをもって戦うと言う事ならば、どんな物か知っておく必要が出てくるだろう。


「ええ。かつて魔王と戦った勇者の武具が、ある場所に隠されているようなのですわ」

「……勇者の武具!?」


勇者の武具で思いつくのは傭兵王ビリーの魔槍キュー。

硬化した俺の腹をいとも容易く貫いてるし、成る程それならいけるかも知れない。


「先ずはそれを探すんだな?」

「その通りですわ。難しい事は判りませんが、ありかは知っておりますわ」


「ふむ。それでその武具は何処に?」

「カソと言う村にあるそうですわね。地図を見ても載って無いですし、明日から捜索ですわね」


ズデン、と鈍い音が店内に響く。

思わずずっこけた俺を誰が責められるだろう。


おいおい、よりによって俺の生まれ故郷かよ!?


「……どういう理由でテーブルとキスされたのかしら?」

「その、その場所、よぉぉぉぉく知ってるぞ……」


「おほほほほほ!それは幸先良いですわね!では明日にでも早速向かいますわ!」

「はぁ……」


頬に手を当てて再び高笑いするその姿に何故か異様な疲労感を感じる俺であった。


「あー、アリス?アリサと連絡取ってくれ。ちょっと頼みがあるんだが」

「どんと来いであります」


取りあえず、万一の時の用意だけしておいて、

明日はさっさと村に案内しますかね。

……まあ、ここからでも三日はかかる山の中なんだけどな。


……。


久々に訪れた故郷は何一つ変わっていなかった。

一年近くも誰も手を入れていないはずの農地と建物。

だが、俺にはまるで旅立つ前と変わらない様にすら見える。


「何も、変わって無いなぁ」

「……これで、でありますか?」

「これは見事なまでに廃村ですわね」


寒々しい風が吹きすさぶ。

村の跡地には家と呼ぶにもおこがましい小屋が立ち並び、

かつて畑だった場所には雑草が生い茂る。


……ああ、何も変わっていない。

最早畑を耕す者も、家畜の一匹も無い。

人の住まなくなった小屋を解体する余裕すらない。


本当に、何一つ変わって無いよ。


「さて、ご覧の通り滅んだ村だ。そんな大層な武具が残ってるとは思えんのだが」

「数年前……勇者の鎧兜が質流れしておりましたの。それを買い取らせて頂いたのですが」


「足りない物があった、と?」

「ええ、売りに来られた方は立派な剣を下げていらしたそうですわ。でも、それは売れないと」

「それがカソの人だった……でありますか」


ふむ。思い出深い代物だったのかね?

まあこの村で宝物を隠し持ってそうなのは村長ぐらいだろうし、先ずは村長の家に行ってみるか。


「じゃあ、取りあえず村長宅の地下室でも漁ってみるか」

「オホホホホ。そうですわね……しかし、全くありそうな気配がしないのが心配ですわ」

「……金目の物が残ってる内は夜逃げなんかしないような気がするであります」


俺もそう思うがこれも仕事だ。

アリスの心配を他所に俺達は村長宅へと向かった。

そして、地下に続く階段を下りようとして……断念した。


「く、臭いですわ!この先なんて行ける訳無いですわよ!?」

「……そうだった。この先はゴブリンの巣に続いてる筈だ」

「何でそんな事になってるでありますか!?」


ただ単に食料庫だったこの地下室に腹空かせたゴブリンどもが盗みに入ったってだけだ。


そう、あれは数年前の凶作の年。

生き残り皆で話し合って、残った食料をこの地下室に集めたんだ。

それを皆で少しづつ分け合ってその年の冬を乗り切る筈だったんだけどなぁ、


「まさか、その日の内に地下室がゴブリンの巣の拡張工事に引っかかっちまうとはな」

「どんだけ運が無いでありますか、この村の人達」

「……要するに、ここには無いと言う訳ですわね。次行きますわよ?」


とは言え、他に地下室とかある家あったっけ?

地下どころか床すら無い家ばかりだったような気もするが。

それに、普通に越して行った連中が、そんな大層な武器を置いてくとは考えづらいし……。


「そう言えば……あの小屋は比較的まともですわね」

「あー、あれは小屋じゃ無い。俺の家だ。確かに地下に開かずの扉があったけど」

「……えーと、にいちゃ?それ、ビンゴじゃないでありますか?」


え?俺の家の地下に伝説の武具が?

それなんてRPGだよ。

全く、そんな都合のいいことが早々あるとは思えん……あー!置いてくなよオイ!?


「ふう。取りあえずこれが開かずの扉だ。生前の両親双方から開けんなって言われてた」

「……どう考えてもビンゴであります」

「おーっほっほっほ!洒落にならないレベルの封印の匂いがしますわ!」


仕方ないので地下……というか床下の自然洞窟に案内してみた訳だ。。

その洞窟の奥に開かずの扉はある。

……確かに言われてみれば何か禍々しいオーラを感じる扉だよなぁ。

木で出来た隙間風の激しい家の割りに、何故か地下の扉は鋼鉄製だし。


俺としては赤ん坊の頃から見慣れてて別にどうとも思わなんだが。


「髑髏マークをあしらった分厚い鋼鉄の扉……これは当たりですわよね?」

「にいちゃ、これどうやって開けるの?」


「開け方は聞いてない」

「「……」」


……なんだよ二人とも。

凄い嫌な感じで睨んでくるなってば。


「おーっほっほっほ!でしたら力づくで打ち壊すのみですわ!」

「え?いや、ここ俺の家なんだけど」

「周囲も岩でありますし……開けるには破るしか無いでありますよ」


えーと。

いつの間にか実家の地下室が破壊されようとしている件について。


「それでは行きますわ!先ずは先日買い取ったばかりのミスリル銀の矛で砕きますわよ!」

「よーし、あたしもスコップでぶち抜くであります!」


そして俺が止める間も無く矛とスコップが鋼鉄の扉に突き刺さり


「アベレベレベレ」

「フゲゲゲゲゲゲ」


何か知らないけど、二人とも感電してます。

……えーと、どういう事だ?


「おーっほっほっほ!……罠ですわね」

「物理衝撃に対し、電撃を食らわすトラップがかかってるでありますよ……」


ふたりして、あっちへこっちへふーらふら。

おーい、大丈夫かー?


「お、おーっほっほっほ……細かい事はいいんですわ。次は魔法でぶち抜きますから」

「あ、あたしは暫くパスであります……きゅう」


ころんと転がったアリスを拾い上げ、フレアさんの魔法詠唱を眺めてみる。

……もう、ここまできたら上の家ごと壊されるのも覚悟しなけりゃならないだろうな。

もう、止むをえんからせめてこの瞬間の実家を覚えておこうかねぇ。

えーい、もうどうにでもなーれ♪なんつて。


『むかーしむかし、ある所に漁師の青年が海辺を歩いていると……』


お、水属性かな?この詠唱だと。

ふむふむ。印は軽く握った両の拳を上下にかさねる、と。


『……助けた亀に乗せられて……』


浦島か。太郎さんか。

今度は日本昔話かよ。相変わらず凄いラインナップの詠唱群だよな……。


『……鯛やヒラメの舞い踊り……』


ぴらっ……っていま鳴ったよな。

もしかして、今テキスト開かなかったかこの人?


『…箱を開けると煙が…』


ふと、魔力が高まるのを感じた。

もしや……ここからが本来の詠唱なのか?


『こうして彼は老人へとなってしまいましたとさ、めでたしめでたし……鈍足!(スローリー)』


……えーと。

何処から突っ込めばいいのか、訳わかめ。

どうするよ俺。

どうすればいいんだよ俺?


「何も、起こらないであります」

「……間違えましたわ」


やっぱりかよ!


鈍足って言ったよな確か。

それでどうやって扉を破るつもりだったんだ!?


「おーっほっほっほ!……細かい事は良いんですわ!次のでしたら問題ありませんことよ?」

「頼むよ本当に……」


『むかしむかし、おばあさんが狸を捕らえ鍋にしようとしていると……』


今度はカチカチ山か。

……あれ?そこはかとなく不安が。


『……何でカチカチ音がする?ここはカチカチ山だから……』

「今度は普通に攻撃魔法になりそうだよな。俺の不安は何処から……」


『……音がする?ここはボウボウ山だから!……火災!(フレイムディザスター)』


おお、正に火災の名の通り凄まじい火力が周囲を包み……包み……!


「熱ーーーーーーーっ!」

「焼け死ぬでありまーす!」

「おーほっほっほ……に、逃げますわよ!」


取りあえず、地上へ一時避難を余儀なくされましたとさ。

どっとはらい。……じゃねぇだろう!?


「何考えてるんだアンタは!?」

「細かい事は良いんですわ……」


だったら目ぇ逸らすな。


「うわーん!こ、怖かったであります!死ぬかと思ったであります!」

「俺は現在進行形で故郷が灰塵と化しつつあることに素で死にそうだよこん畜生!」


ああ、そういう事だ。

まさしく火災。まさしく大魔法。

……まさか村ごと燃え尽きるとはなぁ。

こりゃ予想外だ。あはははははは……


「おーっほっほっほっほっほっほ!……あの、その……も、申し訳ありませんわ」

「いや、捨てた故郷だし。良いんだけどね?」


背後で焼け落ちつつある我が故郷にほんの少し悲しみを覚えつつ、

取りあえず鎮火を待つ事にした。

とりあえずフレアさんの評価はBAKAに決定。

悪気皆無なだけに始末に終えないタイプかよ……。


……ククク。こうなった以上、何としても勇者の武具とやらは見つけ出さんと割に合わんな。

いいだろう。次は俺があの扉……何とかしてやる。


……。


さて、半日に渡り燃え続けた火事も鎮火し、

俺達は再び地下へ潜っていた。

……地上は焼け野原と化したが、憎たらしい事にこの地下と扉は何の変化も無く健在だ。

こりゃあ、長期戦も覚悟せにゃならんな……。


「さて、次は俺がやるが……たしか両親は普通に出入りしてたんだ」

「要するに、開ける方法はあるのでありますね」

「でしたら、最初からそちらにお任せすれば良かったですわね?」


やかましい。

アンタが有無を言わさなかっただけだろうが!


「ふむ。……確か両親の場合。そうだ、鍵で開けてた筈」

「おお!それで鍵はどうしたでありますか?」


「今さっき焼けて行き先が判らなくなった」

「ががーん。であります」

「お、お……おーっほっほっほ!おーっほっほっほ!」


誤魔化しやがった……。

まあ、どっちにしろ鍵を探す所から始めねばならなかったし、

焼け跡と共に消えてても大して変わらないかも知れんがな。


しかしどうした物か。

これじゃあお預け食らった犬じゃないか?


とりあえず適当な石とかぶつけてみるが、びくともしやしない。

そうこうしてる内に時間ばかりが過ぎ去り……お、アリスどうした?


「正攻法で行くであります!どんどーん。入ってますかー、であります」

「おいおいアリス。それで誰か出て来る訳が……」


≪はーい、どなたですか?……少し五月蝿いですよ。静かにして下さいね?≫


あ、扉が開いた。

んでもって、誰か出てきたんだけど?


……。


≪あら?もしかして……カルマちゃん?大きくなったわねー。もう18歳になったの?≫


出てきたのは三十台半ばほどの女性。

髪型と色は母そっくり。

表情や仕草も母そっくり。

ついでに服装も何処かで見た事がある。

……つーか、母さんだ。


脚、無いけど。

そんでもって、半透明だけど。


「母さん?化けて出た?」

≪そうよ?驚いたでしょ……本当は精神の欠片から作った複製だけどね≫


どう見ても幽霊です。

本当に有難う御座いました。

……いやいや、そういう問題じゃないだろう常識的に考えて!


……。


≪それにしてももう18歳なのね。それならもう一人前となったと言えるでしょう≫

「いや、まだ17歳だけど」


現在俺は正にオカルト最前線に居る。

どういう訳か幼い頃に無くなった筈の母親の幽霊と話などしていると言う異常な状況。

これは一体どういうことなんだろうか?

あー、いや、精神の欠片から作ったとか言ってたって事はむしろコピー?


≪……あの人、何してるのかしら。18歳になったら伝える事があるからって言っておいたのに≫

「親父?一年位前に死んだよ」


……あ、何か嫌な沈黙。

イメージ的には全員ヘタウマ絵になったような状態と言うか。


≪そ、そう。……と、ところで横の方たちはお友達?今、上でお茶を淹れるわね≫

「わ、わーい、お茶でありまーす」


そして母さんの幽霊は地上への階段をふわりと上へと進み、

……直ぐに戻ってきた。


≪さて、少し早いけどカルマちゃんも大人になったみたいだし、話の前に成人祝いをあげるわ≫


ですよねー。

母さんは無表情で降りてきたけど額に脂汗浮かんでるしなぁ。

ま、上は焼け野原だしお茶どころじゃないだろ。


て言うか、成人祝いって何?


「……判りましたわ!それこそが勇者の武具、スティールソードなんですわね!?」

「スティールソード?それが探してた武具の名か」


≪ええそうですよ。鋼の剣でスティールソード。カルマちゃんのお父さんが昔使ってた剣なの≫

「金も無いくせに、俺の成人祝い?あの親父め……無茶しやがって」


腐った芋で生活していた時の事を思い出してちょっと泣けた。

親父。金になるなら売り払っても良かったのに……。


「……て言うか……鋼の剣でありますか?」


しーん。と言う音が聞こえた。

余りに静かだと、静かさそのものが音として聞こえる。

そう、正にそんな感じだった。


≪そうね。トレイディアで30年前に銀貨20枚で買った剣だって言ってた≫

「えええええっ!?何で勇者の剣がそんな安値で……」

「違いますわ!それ以前に魔王を倒した勇者の武具がただの鋼の剣だなんて認めませんわ!」


≪でも……鋼の剣なのは事実だし。それに絶対に壊れないように強固な呪いがかかってるのよ?≫

「凄そうだけど装備したく無ぇえええっ!」

「呪い?祝福じゃなくて!?呪いなんですの!?」

「何と言う斜め上、であります」


母さんは困ったような顔をしているが、

……困ったのはこっちの方だっつーの!

スティール……スチールのソードで鋼の剣かよ!?


「何が悲しくて伝説の武器探しで呪われた鋼の剣なぞ見つけにゃならんのだーっ!?」

「キイイイイッ!騙されましたわ!鎧も兜も本当に素晴らしい逸品でしたのに!」


俺は血の涙を流し、フレアさんはハンカチを噛んでいる。

……アリスはポカーンとしてるし、あーもう、収拾付かん!


≪ううう。折角大きくなって、言葉も通じるようになったと思ったら……もう反抗期なのね≫

「母さん?……それ以前の問題だっつーの!」


母さんの幽霊は困ったような顔してるが、それどころじゃ無い。

……って頭撫でるなよ。幾つだと思ってるんだ!?


≪でもね?お父さんの気持ちも考えてあげて?せめて何か残してあげたかったのよ≫

「やかましい!そもそも幽霊として存在してられるなら何で俺にひと言無かったんだよ!?」


≪……だって、まだ未熟な内に思念体とかに関わりすぎると、自己を失っちゃうのよ?≫

「なんぞそれ!?」


≪幼い時あんまり長く幽霊と一緒に居るとね。心とかがくっ付いて離れなくなっちゃうの≫

「あ、聞いた事あるであります!人格が未熟だとジンカクユウゴウが起きるのでありますよね!」


≪そうね、おチビちゃん。二人分の魂を持つ一つの人格が出来上がる。けれど≫

「何か、問題があるのか?」


≪……常人に倍する魔力を持つけれど、酷く不安定な人間になってしまうのよ≫

「なるほど、それで俺から離れてたのか……」


ふと、幼少の頃を思い出す。

母親が死んでから、時折誰かに見守られているような気がしていた。

……と言うか、むしろある意味監視されていたような。


「あれは。たまに見守っててくれてたのは母さんだったのか」

≪え?私はずっとこの地下室に居たけど?≫


えーっと。何て言うか……、

何もかも台無しだよ母さん。

膝付いてガックリして良いよな?

別に構わないよな!?


「返せ……俺の感動を返せ……」

「にいちゃ?落ち着くであります!」


≪……にいちゃ?≫

「あ、にいちゃの妹でアリスであります!」


……あれ?何処かで雷が落ちたような。


≪い、もうと?……ちょっとお顔見せてね?≫

「うにゃー、ほっぺた引っ張らないで、でありますー」


ぶつぶつと、何か聞こえる。

六歳ぐらい?とか

何時の間に?とか

あの浮気者……とか。


あ、母さんの目が死んでる。

元から死んでるけど。


≪……さようなら。元気でねカルマちゃん……ちょっと天国のオトウサンの所に行くわ≫


おーい!ちょっと待てえええええっ!?

なんか……母さんの幽霊が凄まじい勢いで崩壊していくんだけど?

ショックだったのか!?……いや、それ母さんの勘違いだから!


あ、母さんが消えた。


……いや、昇天したのだと思いたい。思わせてください。

最後に部屋の片隅に何故か置かれていた、ドクロ印の禍々しい大鎌を手にしてたけど、

多分何かの間違いだよな?


と言うか、精神の欠片から作ったコピーとやらが本当に天国にいけるのか?

それ以前に天国とか実在するのかと言う俺の疑問に誰か答えてくれ。


「おーっほっほっほ!……ところで……あれは本当に昇天なんですの?」

「多分。……この世への未練より衝撃的な"何か"が勝ったっぽいでありますね」

「親父、殺されなきゃいいけど」


まあ、既に死んでるけど。

と言うか母さん。伝えたい事とやらを伝えずに消えて良いのかよ?

まあ、言い忘れる程度の重要度なら別に聞かなくて良いけどな。


「取りあえず……目的の剣は手に入れたが。どうする?」

「どちらにせよ私は使いませんからそちらに差し上げるつもりでしたの」


「え?良いのか?」

「おほほほ。それにお父様の形見を取り上げるような、そんなけちな真似はいたしませんわ」


フレアさん。ただの高慢娘かと思ってたが。

結構、思いやりとかある人なのかも知れない。


って、アリス。何ごそごそやってる?

言っとくけど母さんが勘違いしたの多分にお前のせいなんだぞ?


「デモンズアーマー(女物)はっけーん!直ちに装備するで……ぶかぶかであります!」

「これは……デュラハンの盾!……ああっ!呪われましたわ!?鼻毛が!?鼻毛があっ!?」

「うわああああっ!急いで解呪を教会に……駄目だ!邪教認定されて姿眩ましてるーっ!」


フレアさんに関し前言撤回……何も考えて無いだけかも知れない。


……。


さて、それから数日後。

何とか解呪を使える魔法使いを探し出し、フレアさんの呪いを解いた俺達は、

再びポートサイドに滞在していた。

そう、これから竜退治へと向かう事になるのだ。


まあ……当初の予定が狂ったせいで、策無しの突撃とも言えるがな。


「余り時間はかけたくありませんの。ここは一気にけりをつけるべきだと考えておりますわ」

「速攻か。まあ良いんじゃないか?何せ話からすると万年雪の中戦う事になるんだろ?」

「雪山の火竜ファイブレスでありますか。……確かに色々溜め込んでると聞いてるであります」


向かう先はここより北にある結界山脈。その七合目辺りにあると言う"火竜の巣"である。

この巣に住まう竜は火竜で名をファイブレス。

極稀にキャラバンを襲ってはその略奪品を自分の巣に飾り付ける事を好むと言われている。

そして、その中にこのお嬢様の望みの品があると言う訳だ。


「おーっほっほっほ!それでは参りましょうか?……総員、私に続きなさい」

「「「「おおっ!」」」」


うわっ!?

黒服集団がいきなりドアからゾロゾロと!


「私の私兵ですの。今回は竜と戦う。そう言ったら勝手に付いてきたんですわ」

「「「「お嬢様は我らが守り抜く!」」」」


大変だなぁ、護衛の人たちも。


「ま、最悪殺されないようにすれば御の字って事で……気楽に行こうぜ?」

「駄目ですわね……急がないと、あの子が危ないのですわ」


まあ、そうも言ってられないみたいだけどな。

なんか……切羽詰った事情がありそうでもあるし。


……。


眼下に広がる山の裾野には春の足音が聞こえてきているが、

山の中腹を過ぎた辺りから既に雪がちらつき始めていた。


そして、六合目を越えた辺りになると既に深い万年雪の中。

俺達はそんな雪山の中を進んでいる。


「くっ……ハーレィ!ディビット!ソーン!皆、無事ですの!?」

「「「は、はいぃっ」」」

「くそっ、予想以上に雪が深い!これじゃあ戦う以前に遭難しちまうぞ!?」

「あたしは平気でありますが」


防寒着や冬用ブーツまで用意して来たが……腰近くまで雪に埋もれてちゃ意味がありやしない。

……結界山脈の名、甘く見てたかもなぁ。

竜の巣への行き方は判っても、たどり着けないんじゃ意味が無い。


「うぐっ……お嬢様。私の事は放って先にお進みください……」

「ディビット!私の配下たるものそんな弱音は許しませんわ!」


っていきなり脱落者かよ!

あーもう、火球で暖を取らせてやるからこんな所で死ぬなってば!

よし、倒木を燃やしたから暖は取れたな。早く安全な所に行くぞ?


……どうしたフレアさん。


「おーっほっほっほ!これは少しばかり先走りすぎたかも知れませんわね!」

「見れば判るだろそんな事!」

「にいちゃ!確かこの先にかつて竜に挑んだヒトが使った洞穴が在るでありますよ!」


何!でかしたアリス。だったら一度そこへ逃げ込むぞ!


……。


さて、何とか洞穴に逃げ込めたが……吹雪いて来やがったよ。

太陽も沈んでいく。

今日はもう先に進むのは無理だろう。


「おーほっほっほ!危うく遭難する所でしたわ」

「いや、俺に言わせればこれはもう遭難だ」

「「「お嬢様。そこの遺体から携帯食が出て参りました」」」


やれやれ、かつて竜に挑んだ冒険者の成れの果てか。

……遺体がそのまま放置されてるって事は結局負けちまったんだろう。

まあ、そのお陰で竜の宝は現在でも健在なんだろうが。


「しかし、見てて楽しい物じゃないな。先輩冒険者の遺体って奴も」

「じゃあ埋めるであります」


そう言って、アリスが洞穴の奥に遺体を引きずっていく。

こういう時、人外であるのが有利になるよな。うん。


まあ取りあえず今は、明日の準備をする時だ。

気を取り直して行こうじゃないか。


「さて。取りあえず作戦会議だ。現状で進むか否か。そこから考えよう」

「戻るのは論外ですわね……勝敗は問う所ではありませんわ。敵に対しては見敵必殺を!」


やれやれ、無茶ばかり言うお嬢様だ。

……現状で本気でやれると思ってるのか?


「そもそも食料・水・燃料を一週間分も背負ってきてるんだ。本当は長期戦覚悟なんだろ?」

「お、お、おーっほっほっほ!そ、その通りですわ!?」

「「「本当はただ余裕を見ただけです」」」


OK判った。

つまり何も考えて無いと。


「いいだろう。取りあえず明日、挑んでみよう。但し駄目だと思ったらすぐ撤退だ」

「判りましたわ。では撤退のタイミングはプロの貴方にお任せしますが宜しいですわね?」


「了解だ」

「おーっほっほっほ!……頼みましたわよ」


まあ、今回は駄目でも失敗に入らないし。

最悪全員生きて帰れりゃ御の字だろう。

何はともあれ、このお嬢様に現実を見せて差し上げないと諦めもしないだろうし、

一度仕掛けてみるしかあるまい?


……。


翌日は、生憎軽く粉雪が舞い落ちる余り宜しくない気象条件だった。

俺達はそんな中を雪を掻き分け先へと進んでいる。

……アリスを洞窟に留守番として残して、だが。


「……見えたぞ。あれが火竜ファイブレスだろう」


火竜の巣はその名の通り火竜が住むに相応しい場所だった。

深い万年雪で覆われている筈の山肌に、突然すり鉢状に大地が露出した一帯が現れる。

……気温も一気に上昇し、その一帯だけ夏のような暑さだ。


そして、その中心部にそれは存在していた。


「大きい、ですわね」

「竜の成体だから当たり前か。もっと巨大な固体も存在するんだろうな……」



体長10mを優に超える巨体。

頭頂部には鋭く尖った角が一対。

強靭な尾がその巨体の周囲を取り囲み、

全身を覆う鱗は赤く光り、まるで鉱物のようだ。

静かに佇んでいるだけだと言うのに、

その存在感からして半端ではない。


ああ、成る程。

これがAランクの……最強格にのみ許される戦場って訳か。

そして、その戦場にて待つものこそ……。


「正に魔物の中の魔物……ドラゴンか」

『魔物などと一緒にされては困るな、人の子よ』


うわっ!喋った……と驚く必要が無いのがドラゴンのいい所だ。

別に喋ってもおかしくないと思わせるだけの物はあるし。


『竜よ、お初にお目にかかる。俺はカルマ……故あって貴方の宝物の一つを所望しに来た』

『人の子よ。我は竜。汝は我が宝物に相応しい対価を持つ者か?』


対価、か。まあそうなるわなぁ。

……いや、竜が人間相手にまともに話してくれてるだけめっけもんかもしれないが。


あれ?……めっけもんと言うか、

もしかして交渉で手に入る脈ありって事?


「何か、変な吼え方をしておりますわ、あの竜」

「いや……用件を聞いてるんだ。何しに来たとか」


そういえば、この人何を探してるんだろう?

それが判らないと話にもならないよな。

……もし要らない物ならただでくれるかも知れないし。


「なあ、今回は何を取りに来たんだっけ?」

「……万病に効くという薬ですわ。知り合いが一人不治の病で倒れたので……それでですわ」


「竜は人の言葉を解する者も多い。もし、手に入るなら幾らまで出せる?」

「交渉できるならそれに越した事は無いですわね……交渉可能なら金貨二百枚まで出せますわ」



成る程。お約束だが判り易い。

そして予算は日本円にしておよそ二億……金に糸目を付ける気は無いか。

……よし、交渉で手に入るか試す価値が出てきたな。


『竜よ。万病に効く薬と二百枚の金貨を交換してもらえないか?』

『人の子よ。我が持つ万能薬はただ一つだ。たったそれだけの対価では譲れぬな』


ふぅん。じゃあこれならどうだ?


『ならば……二万枚の銀貨ではどうだ』

「煌く銀の欠片を……二万だと?」


あ、やっぱり貨幣としての価値は意味無いんだ。

そりゃあドラゴンの世界に通貨は無いだろうしなぁ。

なら、数で勝負って訳だ。

こっちの腹の痛み具合は同じだし、向こうの欲しそうな形にするのは基本だよな?


「……もしかして、今私は凄い物を見ているのかも知れませんわ」

「「「もしかしなくても竜と話す人間なんて聞いた事無いですよ」」」


外野はとりあえず黙っててくれ。


『竜よ。困っている者が居るのだ……どうか譲ってくれないか?』

『うむむむむ……我が寝床を飾る銀は欲しいが、あれと引き換えにするのは惜しい』


よし、とりあえず物欲を刺激する事には成功しそうだ。

これならもう一押しで……あれ。

何か、立ち上がったぞあの竜?


『されば……二万の銀は力づくで手に入れる事にしようか』

『……あー、そういやキャラバンとか襲うような竜だったな、アンタ』


『力無き者に語る資格なし!我が宝が欲しいならそちらも力づくで来い、人の子よ!』


「ちっ!交渉不成立だ……来るぞっ!」

「おーっほっほっほ!そんな事だろうと思いましたわ!」

「「「最後、明らかに不穏でしたしね」」」


話し合いは失敗。

……やっぱり、戦うしかないのか!


「……細かい事は気にしませんの。……突撃しますわ!援護を!」

「ちょっ!あんたは最後まで生き残らにゃならん人でしょうが!?……くっ!俺も行く!」

「「「後ろから援護します!」」」


黒服三人組が後方で弓をつがえる。

俺は一番に突っ込んで行ったフレアさんの後ろを追うように竜目掛けて走っていく。

そして、先頭を行くフレアさんはというと。


「連撃突破!」


何やら技名を叫びながら、穂先が無数に見えるほどの連続突きで竜の脚を狙っていた!

ミスリル銀製の矛は曇り空から僅かに差し込み始めた太陽の光を反射し銀色に光り輝く。

そして、次の瞬間竜の脚……脛の部分に吸い込まれていく……!


「ぐううっ!刺さりもしませんわよ!?なんですのこの装甲は!?」

『中々の速度と腕力だが、竜の鱗を貫くには少々力不足だ』


そうかい、なら次は俺だ!


「だったら!これで、どうだっ!」

『むうっ!?』


狙いは鱗に覆われていない腹!

脚に気を取られた隙に俺の剣が竜の腹部に吸い込まれ、


『言っておくが、腹が柔らかいのは事実だ。しかし鱗に比べればの話でしかない』

「百も承知!最初にトカゲと戦った時、腹に剣が通らずそのまま負けた事もある!」


食い込んだものの刺さりもしない愛用の剣を足場にしてジャンプ!


「手の甲に……飛び乗りましたの!?」

「まだまだあっ!」


剣の柄を足場に竜の手の甲に飛び乗り、そのまま腕を駆け上がる!

そして、肩から再び飛び上がり、全身を躍動させて回し蹴りを放つ!

……目標、竜の顔!

目的は……脳震盪狙い!


「どうだああっ!?」

『ぐあああっ!?』


流石に脳味噌には筋肉も鱗も付いて無いわなぁ?

刃が通らなくとも衝撃は伝わるだろ?


そのまま竜の体を伝い地上に降りる。

そして地に落ちた剣を回収し上を見上げた俺が目にした物は、


『ぐおおおっ!き、貴様、中々やるではないか!』


ダメージこそ与えられたものの、まだまだ余裕が見える竜の姿。

……体格比が大きすぎたか?軽くふらついただけのようだ。


「だったら、もう一回衝撃を……!」

「待ちなさい!何か様子がおかしいですわ!?」


突然竜が後ろを向いた。

……まさか、あの程度で竜ともあろう者が逃げるのか!?


いや、それはあるまい。

だとすれば……。


「ああっ!側面防御!」

「え?え?なんですの」


次の瞬間、凄まじい衝撃が俺たちを襲う。

……竜は尾を振り回し、鞭のようにしならせてきたのだ!


「ぐああっ……がはっ!」

「う、うう……」


……辛うじて剣で防御できたが……畜生!愛用の剣が折れちまった!

フレアさんのほうは……駄目だ、気を失ってる!

いきなり側面防御とかいわれても判るわけ無いか……。


「黒服!フレアさん連れて逃げろ!」


良いんですかと聞かれたような気がしたので、

いいから連れてけと叫んでおく。

……どうせ連中の矢は効いて無い。

この際居ないほうが心配が少なくて済むという物だ。


『仲間を逃がしたか……殊勝だな』

『……ふん』


まあ、お陰で一人ぼっちだがね。


……こうなれば四の五の言ってる場合じゃない。

親父の形見とやらの力も借りねばならないだろう。

破壊されない呪いとやらが本当なら……ある種の勝機も残っているしな。


『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』

「むっ!?」


よって、全力で速攻をかける!

まずは食らえ!この爆炎を……!


『おいおい、我は火竜だぞ?』

『効いて無ぇっ!?』


爆炎の中から現れたのは無傷の火竜でした。


いや、流石に炎の竜とは言え爆発の衝撃にまで耐性があるとでも言うのか!?

生命体相手に全く無傷とかありえないんだけど!?


『竜とは魔力の結晶……炎の魔力は我を構成する物なり。効きはせん』

『ご高説ありがとよ!……なら、こうだ!』


つまり、火球も効かないって事だな?

いいだろう、ならばこちらも相応のものを持って応じさせてもらう!


『疾き事風の如く!……加速"クイックムーブ"!』


言葉が大気を駆け巡る間に、周囲の時間がゆっくりとなる。

粉雪が殆ど動きを見せなくなるほどの引き伸ばされた時間、

今の内に……逃げるには時間が足りない。

ならば、全力で前に出るのみ!


「鱗も腹も駄目!なら、ここだああああっ!」

『……うぐっ、あ、アグアアアアアアッ!』


狙い違わず鋼の剣が竜の足の先へ向かい、

爪と肉の間に深々と突き刺さる。

……ここばかりは鍛えようが無い。

ここはそんな場所のひとつだ。


竜の肉体に剣が突き刺さる。

最強の幻想種に傷を付けたせいだろうか、やけに気分が高揚している。

何と言うか、全身に力がみなぎってきたようだ。


流石に竜も痛みにのたうち回り……回っていない!?


『ぐっ……この程度の痛み如きで、まさか我を失うと思ったか!?その傲慢、償ってもらう!』


ごぉ、と大気の揺れる音。

……竜が大きく息を吸い込んでいる。

ああ、間違いない、これは!


『ガアアアアアアアッ!』

『炎のブレスか!』


咄嗟に強力を唱え、持ちうる全ての力で横っ飛び!

だが、竜の吐息はそれを上回る速度で俺に迫る……!


「あがああああああああっ!?」

『燃え尽きよ!愚か者がぁ!』


せめてもの抵抗に息を止め、

炎にまかれる被害を最小限に留めるべく目を閉じ耳を押さえ、うつぶせに倒れこむ!

……正しいのかは判らない。だが、何もしないよりはマシなはず!


……熱が、来たっ!


……。


燃え盛る炎の中、息も出来ずにあぶられ続ける事数秒。

足掻いた甲斐はあったようで、何とか致命傷は回避できたと思う。

だが、全身擦り傷と重度の火傷で酷い有様だ。

立ち上がれただけ幸運というものか。


『我が炎を一身に受け、立っているだけでも大したものだ』

「……」


もう、口を開く気力も無い。

魔力もすっからかんだ。

……次の一撃で、多分決着が付くだろう。

後は、俺の悪運を信じるほか無い。


『もう苦しむ必要は無い。砕けよ!』

「……それを待っていた」


竜が再びその強靭な尾を振るってきた。

だが、それこそ俺の唯一の"勝機"である。


「後一回だけ……保ってくれ俺の魔力!」


再度の強力により筋力を強化。

そして鋼の剣を迫り来る尻尾に向けて構える!


『守りで勝てると思うな!』

「いや……生きて帰れりゃ俺の勝ちだ」


『何!?』


切っ先を下にして縦に構えた鋼の剣。

柄を両手で持ち、切っ先近くの側面を脚で押さえる。

そして、迫り来る竜の尾を剣の腹で受け止め……。


『じゃあな、火竜ファイブレス!』


しなった剣をばねのように使い、敵の攻撃の威力を逆用し弾き飛ばされる。

そう、遥か彼方へと。


『何と……文字通り弾き飛ばされた。それを計算づくでだと!?』


眼下が土から万年雪に変わる。

それでも勢いは変わらず俺の体は空中を舞う。


……そして、最早竜も追うのを諦めるような距離に達した時、

立ち枯れた巨木に叩きつけられ、続いて地面に叩きつけられる。


「ぐはっ……」


全身の骨が折れただろうか。

恐らく内臓もイカレているだろう。


『わ、我が纏うは癒しの霞。永く我を癒し続けよ……再生(リジェネ)』


魔力すら尽き果て、睡魔に全身の自由を奪われつつある中、

気力を振り絞り再生の詠唱に声を振り絞る。

……枯渇した魔力の中での更なる魔力の使用に、意識が一気に薄れていく。


「にいちゃーーーっ!」


そして最後に聞いた頼もしい妹分の声を子守唄に俺の意識は飛んでいく。

アリスを置いていったのは……どうやら大当たりだったようだな。


しかし、まったく……割に合わないにも程がある……。

だが、何故かこの依頼は完遂しなければならない、そんな妙な勘が働いていた。

もっともそれが何かを考える時間も無く、俺の意識は途切れたわけであるが……。


続く




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