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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 25
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/25 10:45
幻想立志転生伝

25


《side カルマ》

戦いは終わった。数ヶ月間に及んだこの戦争は"聖俗戦争"の名を与えられ、

トレイディアは新しい領土を得て勝利に沸き立っている。

また、援軍を寄越したマナリアもまた莫大な謝礼を受け取ったことにより、

大いに潤う事となった。

幸い戦争特需と復興特需が経済を突き動かす程のレベルになり、

幸か不幸か現在のトレイディア、マナリアは空前の好景気となっている。

かつての賑わいを取り戻すのはそう遠い事では無いだろう。


カルーマ商会も、約束どおりトレイディアの新しい占領地での商売で優遇される事が決まり、

俺自身も冒険者カルマとしておよそ百枚の金貨を手に入れていた。


ただし問題も無い訳ではない。

……大聖堂以南、旧聖堂騎士団領の三分の一。

それを占拠し続けるサンドールとトレイディアの関係が多少ギクシャクしだしたのだ。


失った物が多かっただけに領土は最大限増やしたいと願うトレイディアと、

緑ある大地をようやく手にした砂漠の国サンドール。

お互いの主張の溝は埋まらないまま、なし崩しに国境線は曖昧なままとなっている。


それに、傭兵国家も人的被害は多かったとは言え今回の戦争でかなり儲かったはずだ。

今後強大化する恐れも在り、情報収集をおろそかに出来ない状態である。


「だが……キャラバンの、交易の安全は確保された。まずは目的達成だな」

「そだね兄ちゃ……一応うちは儲かったもんね」


うん、実はそうなのだ。

アリの餌に備蓄していた食糧の一部を、"状況としては安価"で売り払ったり、

逆にいち早く危険を察知した連中から不動産とかを捨て値で大量に買い取ったり。

開戦時期がもう少し予定通りならもう一つ二つ儲ける手段もあったが……まあ上出来だろう。


商会としての目的は一応果たした格好の上、神聖教団も事実上半壊させた。

とりあえず、目標達成と言う事で今回の謀は成功と言っていいだろうと思う。


そんな訳で、今日は仲間内での打ち上げ会と言うわけだ。

参加者は俺、蟻ん娘三匹、ホルス、ハピ……要するに商会の中心メンバー。

以上のメンバーで、サンドール地下にある蟻と蜂の王国の一角で飲んでいるのである。


お、アリサどうした?

人の袖口引っ張ったりして。

あーあー全く、口の周りにスープが付いてるぞ?


ほれ、ふきふき。


「ぷはぁ。そういえばさ兄ちゃ」

「何だアリサ?」


「教会も一応潰したしさー。もう身の上で嘘付く必要ないんじゃない?」

「……まだ、駄目だな。いや、もう一生嘘を突き通すしかないかも知れん」


「何故でしょうか主殿。そもそもカルーマとは教会を欺く為の仮の名でしかないでしょう」

「……ホルス。既にな?カルーマってのは人の名じゃないんだなこれが」


そう、最初は教会の情報網から逃れる為のただの偽名でしかなかったカルーマ=ニーチャは、

既に日の出の勢いのまま突っ走る新興商会の屋号であり、

更にサンドール下層階級から見れば成り上がりの象徴。希望の名なのである。

もう今更真実など……言える訳が無い。


「今更、正体は他国の人間でした。何て言えないだろ?常識的に」

「確かに。……私どもの最大の支援者はサンドールの下層階級ですしね」


「可愛さ余って憎さ百倍と言う言葉もある。カルーマは……砂漠に輝く星で無ければならない」

「思慮の足りない物言い、大変申し訳ありません主殿」


いや、良いんだホルス。なにせ実際の所は敵を作りたくないだけなんだし。

……ん?今度はハピか。何か言いたい事があるのか?


「ならば……いっそカルーマになってしまえば宜しいのではないでしょうか」

「それは一体?」


「……僭越ながら。カルマ様としてのご自身を捨ててカルーマ商会の総帥として生きられては?」

「成る程な。冒険者一人なら突然失踪してもおかしくない、か」


「私としても、総帥が総帥としてのみ行動していただければ余計な心配をしなくて済みます」

「ハピ。主殿に失礼過ぎるのではないですか?」


「父よ、貴方には申し訳ありませんが……これは事情を知る者全員の切なる希望なのです」

「確かに兄ちゃが居なくちゃ、あたし達路頭に迷うもんね」

「それについてはアリサ様達と同意見です。本人のご意思はさておき主殿こそ私達の中心ですから」


皆の言い分も判らなくは無い。

確かに今更カルーマを消す訳には行かない。

ならばいっそ、冒険者カルマを止めて商会総帥として生きて欲しい、と。


それは確かに悪く無い話だ。

既に商会は軌道に乗った。

後は軽く新商売の案を出し続けるだけでやっていける。


……俺の最初の目的は、金持ちになることだったように思う。

それを考えれば、既にただ総帥の椅子に座り続ければ後は勝手に金が転がり込んで来る現状。

それはもう、目的は果たし終えたような物である。


けれど。それだと俺が……消えてしまう。

17年間生きてきた、この俺は。いつの間にか世界から消えてしまう。


「……これは俺の我が侭だが。俺はカルマも止めない」

「なら、今までどおり二重生活続けるの?」


「ああ。それしかない……それともいっそ誰かに総帥の座を譲るか?」


……って何でいきなり全員土下座!?

俺、何かしたか!?


「主殿!ご機嫌を損ねたのはお詫びいたします!」

「総帥が居なかったら私達は路頭に迷うと今さっき言ったばかりでは無いですか……」

「「「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」」」


あー、辞める事は出来ないみたいだな……まあここで辞めるのは流石に無責任だが。

……とりあえず俺が悪かった。冗談だから全員顔上げてくれ。


「それはさておき、このままで行くなら俺……カルマの立ち位置をどうするか決めないといけない」

「ふぇ?総帥の親戚ってなってるし、適当でいいよねー?」


「いいわけ無いだろアリサ。まだ……この世の何処かで大司教は健在なんだ」

「あ、そっか」

「あたし達の警戒網に引っかからない以上、居るのはまともな場所では無いであります!」

「でも、したい、あがってない。だから、けいかいつづける、です」


そう、大聖堂から忽然と姿を消した大司教。

未だ昏睡状態のはずでもあるし、誰かに連れ出されたはずだ。

……だが、その姿は北のブラッド司祭の元にも無い。

と言うかあの男は自分の派閥作りで忙しいようだ。

むしろあの男の下に連れて行かれていたのなら逆に手間が省けていたかも知れない。


そして聖堂騎士団残党に張り付いている蟻からの情報で、そちら側にも居ない事が判っている。

……要するに完全に足取りが途絶えていた。


こんな恐ろしい事があるだろうか。

俺を心底危険視している男。起きた時には怨み骨髄に染みるであろう男の行方が判らないのだ。

故に、警戒を解くわけにも行かない。


「前線指揮官の不足の為、俺と商会に繋がりを作ってしまった。次は商会も狙われるだろう」

「なら大司教が目覚めるまでの……残り二年半の内に強固な体制を作り上げないとね!」

「今更繋がりの痕跡を消すわけにもいきませんしね。主殿」

「そんな事をしては私達に後ろめたい事があると白状しているような物です」


本当は訓練が終わるまでに優秀な指揮官を探して雇い入れる予定だったが、

あの予想外の速攻に、色々と予定を狂わされてしまった。


……ああ、白状するさ。

もうこうなったら俺自身でやるしか無いと勢いでやっちまった。

お陰で商会設立当初の予定、俺と関わり無いように見える勢力の構築は破綻してしまったさ。


既に俺……冒険者カルマとカルーマ商会はグルである事など子供でも知ってるだろう。


「だが、今回の一件で教会の勢力と影響力は四散。つまり当初の目的は果たしたとも言える」

「そゆこと。だから大丈夫だと思うよー」

「それに、私達は既に一個の勢力として世間に認知されています……今更潰させはしません」


そもそも商会を作ろうと思い立ったのは、考えてみれば神聖教会と言う強大な敵に対し、

一個人でしかない俺がどうやって立ち向かうか、と言う命題から生まれた物だ。

……あの荒野での一戦で死んだ二十人の弔い合戦と言う意味もあるだろう。

だが、実の所は自分を脅かす敵に対し手段を選ばなかったと言うだけ。


そして、その敵は手酷い被害を受け分裂。既に俺に構う余裕は無いと思われる。

要するに……既に秘密にする必要は無いとすら言える状態なのだ。


「だから後は俺の意思一つなんだよな」


「冒険者としての活動はご自由です。が、総帥としての仕事はしてくださいね?」

「それぐらい兄ちゃが決めればいーよ。誰も文句言わないから」

「その通りです主殿。ですが商会を放り投げるのだけは勘弁して下さい」


一度整理してみようか。


カルーマは商会の為にも失くす事の出来ない名である。

俺は冒険者カルマとしての自分を捨てるのも嫌だ。

当初の目的は一応達成。

サンドール等での今後の為、同一人物と名乗り出るのはマズイ。

敵はまだ居る。

商会に勤める人間も既に多数=ここまで従ってくれた者達のためにも商会は保全されるべき。


以上の事から導き出される結果はと言うと。


「……うん、やっぱり現状維持するしかないな」


「と言うかさ兄ちゃ。今更カルマが消えた!ってなったらさ?」

「村正、とか、リチャード殿下、とか。さがしまわる、と、おもうです」

「ルンねえちゃもきっと泣くでありますよ……」


……えーと。もしかして名前売れすぎたか?


「主殿。既にトレイディア軍より正式に仕官の打電が来ております」

「カルマ様宛てに傭兵国家より引き抜きの書状が。ふふ……どうしますか総帥?」

「マナリアからも何かお仕事の依頼が来てるよー」


うーむ、有名になるのはいいが何か物騒な話ばかりのような。

これがもしや噂の有名税、か?


「まあ、主殿が我らが主君である事は今でも秘中の秘です」

「だね!それにカルーマとカルマを同一に見せない為のストーリーも考えてるよ?」


「ほぉ?アリサ、言ってみろ」

「あいよ。じゃあ心して聞け兄ちゃ!」


……ふむふむ。

成る程、血縁云々は一応あると言えん事も無いと言うレベルの話にしておくと。

そして……急な戦争で指揮官を探してたカルーマ商会が、

遠い血縁者に使えそうな駒を見つけて、言葉巧みに取り込んだことにする、と。


「そんで、戦争後には非道にもお役御免って事になるわけだね!」

「ん?そうなると俺は……首か?」


「冒険者カルマはそうなる。何せ業突く張りの被害者になって貰わないといけないし」

「……成る程な。用済みにされて追い出された形にするわけか」


「これなら今後も兄ちゃはカルマとしてなら自由に動けるよ?」

「一応退社時も、俺から辞めた形を整える必要はあるだろうがな」


そうでもしないと、商会の悪名が高まりかねんし。

まあ、勤め人には向いてなかったとでも言えばいいか。


裏向きに掴ませる情報としては……、

戦争終結後、改善されなくなった待遇に不満を抱いた、辺りか。

うん、悪く無いかも。


「成る程。……ですが、一度辞めた形にすると」

「ハピ?どうしたのー?」


「もしまた何かあった場合、総帥にご出馬願うのは難しくなりますね」

「あー、出戻る理由に説得力持たすのが難しくなるか……」

「カルーマにいちゃとして、たたかったら、どう、です?」

「アリシア。あの底上げ靴で戦えると本気で思ってるでありますか?」


いや、総帥の戦闘能力が高かったらそれこそバレるだろアリシア。

そもそも、今回直接指揮取らなかったのは何故だって事になるしな?


つまりその案を採用すればカルマとしての俺は後腐れなく商会と縁を切り、

ただの冒険者に戻れるが、その後の危機に駆けつけ辛くなる。と言うわけか。


「……確かにリスクはあるよ?でもさ、兄ちゃを商会だけに貼り付けるのには反対だよー」

「アリサ様?それは一体どういう事でしょうか」


「だってさ、兄ちゃは何処までも自由人。自分のエゴを通す人だから!」

「アリサ?それはどういう意味だ」


「救うも滅ぼすもその時の心次第。前世の僻みとこの世で得た力が作り出した歪な人格」

「アリサ様それは一体?……いえ、知る必要は無いのでしょうね」


「そんな兄ちゃだけど大好きなんだ。だから自由にさせてあげたいと思う」

「……総帥の、望みのままに。……ですか」


俺の望み?

金が欲しい、幸せになりたい、出来ればエロい事の出来る相手がいればなお良い。

俺の望みなんかその程度だが。


「それに兄ちゃは多分ちっぽけな願いしか持って無いと思う。けど……その結果どうなった?」

「……えーと、アリサ。話が見えないんだけど」

「私は判った気がします」

「父と同じく、私も理解しました」

「くさった、おいもから……ごはん、うまー、です」

「にいちゃも今や総帥でありますからね」


なんか、皆して勝手に理解してるんだけど。

……どういう事だ、これ。


「ともかく!兄ちゃには自由にしてて貰うのが一番だとあたしは考える!異論はある?」

「このホルス。異論は在りません」

「私も無いですね。後は総帥のお心次第」


いや、なんだか良く判らないうちに俺の今後を決定しなけりゃならない感じになってるんだけど。

……まあいいや。なんだか良く判らんが今後の事を考えるに、

どっちにせよ俺、つまりカルマがどうするかは決めておかねばならん事だ。


「じゃあ……悪いが俺は。冒険者カルマは商会から手を引かせてもらう」

「了解だよー。あ、でもカルーマとしてはきちんと続けてくれなきゃ困るからねー」


それは勿論だ。俺の作った組織にそこまで無責任にはなれない。

そして、そういう事なら……冒険者としての俺は再び自由に生きる道を選ぶ。

商人カルーマは、今後も利益と商会の拡大と保全の為に動く事になる。

……ならばもう一人の俺としては自由な生き方をしたい。それに、


「それにさ、金持ちになったら周りの態度が変わったとか……嫌じゃないか?」

「だね。兄ちゃ、そう言うの余り好きそうじゃないし」


宝くじ当たったのはいいが、その後身を持ち崩したなんて話はそれこそ何処にでも転がってる。

……実は既にこの世界にも。

大金って奴は魔物だからな。俺個人としては必要時以外は関わりたくないようにも思う訳だ。

大変身勝手ではあるがな。


「……では、主殿の新しい旅路に乾杯を」

「定期的にお戻りになられる事を期待します、総帥……いえ、カルマ様」

「こまかいこと、まかせるです。いざというときだけ、たよるですから」

「では、気を取り直して宴会の続きをするでありますよー!」


「「「「「では、かんぱーい」」」」」


ガラスを打ち付ける音が、地下世界に響いた。

そして何回目かの乾杯の音頭と共に、グラスの中身が消えていく。


……気が付けば背負っていた荷物は重く汚れきっていて、俺の背に重石をつける。

だが、それを一緒に背負ってくれる仲間達が出来た。


「そういや故郷を旅立って、まだ一年も経ってないんだよな……」

「そうなのですか主殿。私はてっきり長く旅をされている物かとばかり」


「……冒険者として成功するのが最初の目標だったんだけどな」

「予定とは違いますが、十分に成功したのでは無いでしょうか、総帥?」


気が付けば家族と呼べるものも出来ていた。


「兄ちゃ!それで次はどうするの?」

「そうだな、取りあえず……やりたい事がある」


「それは、なに、ですか?」

「聞かせて下さいであります!」


国に匹敵する相手と戦って、汚い謀略も色々やって。

……随分遠回りをしたような気もするが、そろそろ原点に立ち戻っても良い頃じゃないかと思う。

だから。


「取りあえず、久しぶりに宿に戻って……何か依頼でも受けるさ」


今日、この日の饗宴が終わったら。

この戦争の後片付けが一段楽したら。

久々に、謀略も何も絡まない。

ただの冒険に出てみようと思ったんだ。


……。


翌日。俺は久々に古巣の冒険者の宿、首吊り亭に舞い戻っていた。

……とは言え、活気があるとは言えない状況のようだな。

まあ、兄貴もルンも居ないし、村正も今頃色んな雑事で忙しいだろう。

首吊り亭の冒険者は俺達だけではないが、

それでも俺にとって主要なメンバーがかなりの割合で姿を見せていないのは寂しい限りだと思う。


「ま、それでも誰か居るだろ……よぉ、久しぶり」

「おお、カルマか。出世したと聞いとるよ。元気じゃったか?」


先の戦争でドアは傷ついていたが、店の中は変わり無いようだった。

そして、変わり無い顔も一つ見つけた。


「ガルガンさん。アンタも無事だったか」

「まあな。とは言え、逃げ惑っていただけじゃが」


冒険者仲間では最古参のガルガンさんがカウンターの後ろでカップの手入れをしている。


「ところで、一部隊の隊長さんともあろう方がこんな寂れた酒場に何用じゃい?」

「ははは、色々合わなくて結局辞めちまったよ……冒険してるほうが性に会ってるみたいだ」


「そうか。……ラム酒でも飲むかの?」

「ああ、貰おうか」


ああ、そうだ。何人か頭数が足りないがそれだけだ。

致命的なおかしい所なんか無いじゃないか。


「ほれ。……美味いか」

「……美味いけど、美味くない」


「そうかの。まあ、暫くは仕方ないのう」

「そうか。まあ慣れて無いだろうしな」


「……何も、聞かんのだな」

「止めてくれよガルガンさん。俺、最近ナーバスなんだから」


「例えば……何でわしがカウンターの裏に居る?とか。居るはずの人の姿が見えない。とか」

「いや興味無いな。それより何か仕事無いか?」


「……わしみたいな新米マスターにはな、まだ仕事を斡旋する許可が下りんのじゃよ」

「おかしいだろ。おかしいだろそれ。だって俺、何時もこの店で仕事貰ってるんだぜ?」


「この店の冒険者の殆どは街を離れておる。この宿で今回で死んだのは……たった一人」

「いい加減にしてくれガルガンさんよ!……いい加減マスターが何処に行ったか教えてくれ!」


……。


「判るじゃろ?……もう、会えんよ。この世におらんからな」


なんて言うか。脳天に冷や水ぶちまけられた気分だ。

ああ、そうだ。判ってたはずだ。知り合い全員助かる保障なんて在りはしないと。


「……先日、敵が街に侵入した際じゃ。わしは村正の頼みで街の見回りをしておった……」


話の内容は、ある意味ありふれた物だった。


警備の途中で敵の奇襲を受けた老冒険者。

辛うじて逃げ出したものの追っ手にかかり、行きつけの店に逃げ込んだ。

……そして、店の中での大乱闘。


「気が付いた時にはもう……致命傷じゃったよ」


戦闘に巻き込まれた酒場のマスターは、

それでも懸命に戦いガルガンさんを助けたものの致命傷を受けてしまう。


「巻き込んだ事を泣いて詫びるわしにな?マスターは諭すように言ったんじゃ」


マスターはガルガンさんに言ったと言う。

詫びる気があるなら、店を守って欲しいと。

……ここに来るヒヨッコどもを、

その長い経験で支えてやって欲しいと。


「わしは普通の冒険者じゃった。大した力は無い……誇れるのは経験だけなんじゃよ」

「でもマスターは、その経験が必要と言った……と」


腹部を剣で刺し貫かれ息も絶え絶えの中。

マスターはガルガンさんに後を託すと、眠るように息を引き取ったと言う。


ふと見ると、入店時から笑顔だったガルガンさんの顔に、暗い影がさしている。

……やっぱり、営業スマイルだったか。

絞り出すような声の疲れ切った老人、それが現在のガルガンさんの真実なのだ。


「だからわしは、こうやってここで恥と罪を晒しておる。……軽蔑してくれて、構わんよ?」

「そんな事、言えるわけ無いだろうが……!」


長く世話になった恩人を戦争に巻き込んで殺してしまった。そうガルガンさんは言った。

だが、俺にそれを責める資格などあろう筈も無い。

直接の原因は確かに逃げ込んだガルガンさん。なんだろうが、な。


「責められるべきは……こんな戦争おっぱじめた馬鹿だろ、常識的に」

「ははは。慰めてくれる必要は無いぞい。それに戦争なんて人の手に負えるものじゃないしの」


罪をさらけ出し続けるガルガンさん。

そして隠し続ける俺。

どちらが潔いかなど言うまでも無い。


「……とりあえず、ラム酒。美味かったよ。御代はここに置いておく」

「お主が余り気に病む必要は無いぞ?マスターは常々言っておった。逃げ出さない奴が馬鹿だと」


まあ、結局のところ危険を察知しながら逃げない方が悪いと言う論理か。

何せ戦争になって二ヶ月以上経過してる訳だしな。

だが……何故そんな危険な状況下でマスターがこの店に残っていたかを考えると……、

泣きたくなってくるな、これは。


「じゃ、行くよ……暫く仕事はギルドから直接貰う」

「ああ、もう少しでわしも仕事を回せるようになると思う。それまでは不便じゃがそれで頼む」


ゆっくりと立ち上がり、ドアへと向かう。

そして、店から出た瞬間。

俺は思わず走り出していた。


「あ、待てカルマよ。ちょっと……わしの話を聞いて……」


……だが、もう涙は流さない。

根源的な加害者である俺が……マスターの死に涙する資格は、既に無い。

真実を語れないが故詫びる事も許されない以上、それは俺の中に溜め込んでおく他無いのだ。

いや、ここで偽善者っぽく傷ついている事すらおこがましいのかも知れない。


「要するに、やらかした事の意味を良く考えろ、そして忘れるな……ってか?」


……そう思った瞬間、動揺が何故かいきなり治まった。

良く判らないが……慣れてしまったのだろうか?

それとも、開き直った?


まあ、どちらでもいい。

きっと。今後も幾度と無く通る道なんだろうから。

……慣れたんなら、それでいいじゃないか。そう思う。


……。


だが、冒険者ギルド前まで走りこんだ俺は、再び目を疑うこととなる。

人気の無い周囲と焦げ付いた扉に貼り出された一枚の紙。


―――告知

本トレイディア冒険者ギルドは先立っての聖堂騎士団襲撃に際し、

認定試験用に捕らえていた魔物数十体を強奪、街中に解放されました。

現在ギルドの総力を持って逃げ出した魔物の捕縛に当たっていますが、

凶悪なオーガを初めとして未だ捕まっていない個体が多々存在します。


現在ギルドマスター含め職員総出で再捕獲に当たっておりますが、

オーク以上の個体の再捕獲に成功するまで事業存続は困難と判断し一時休業とさせて頂きます。

再開予定の目処は立っておりません。

善良な一般市民の方々にはお手数ですが、

仕事のご依頼の際は隣街ポートサイドのギルド出張所までお越し下さる様お願い申し上げます。


追伸:冒険者諸君に告ぐ

以上の事情により暫く仕事の斡旋及びランク再認定試験は不可能となる。

各自、個人的裁量で仕事を受けるのは許可するので再開まで頑張って生き抜いて貰いたい。

もしどうしても斡旋が必要な場合は東のポートサイド倉庫街かその先にあるシーサイド港まで。


トレイディア冒険者ギルド長、兼試験官・マッシブ


……以上である。

要するに、本土決戦の際に領主館を襲っていたのはこのギルドから逃げ出した連中だったわけか。

それで、その逃げ出した魔物たちを再度捕らえるべくギルド総出で外出中と。

当然休業もする。で、俺達冒険者は現在仕事を回してもらえないと。

……ガルガンさんが最後に呼び止めたのはこのせいかよ。


「つまり、仕事が欲しけりゃ隣町まで行けって事か」


何度か配達にも言った事のある東の隣町の名をポートサイドというが、

その名の通り、更に少し東に行くと大陸の東端……シーサイド港がある。


この大陸において、唯一の貿易港だ。

因みに北は凍結するし波が荒い。南と西は海の魔物が多すぎる。

よって大きな港は存在していない。


さて、この港からあがった他大陸からの舶来品はポートサイドの倉庫街に蓄えられ、

その後トレイディアで売買されて大陸全土に拡散されていく訳、なのだが。

その為の街道と東部穀倉地帯を押さえているのがトレイディア最大の強みだったりする。


なお、俺にとって色々と思い出深い"忘れられた灯台"は、このシーサイド港の為の物で、

老朽化によって新しい灯台が作られた後、放置されていた物である。

まあ、そう言う訳で何時の間にやら地下に怪しい連中が集まり秘密のバザーの温床にもなった訳だ。

因みに俺がぶっ潰してからのバザーは、普通に港の地下で行われているらしいが……。


「そういや……あの灯台、今はどうなってるかな」

「騎士団残党が集まってるであります」


うをっ?……ってアリスか。

何時の間に背中に張り付いてたんだコイツは?


……いや待て、それ以前に今ちょっと聞き捨てならない事言わなかったか?


「ちょっと待った。騎士団の連中が集まってるだと?」

「はいです。かずは……300にんくらい、です」


……もう一匹張り付いてやがった。

軽すぎるんだよこいつ等は……。


まあ可愛いから許す。

それよりも、敵の残党をどうにかした方が良いかも知れん。

さて、チビ助どもを背中から前に移してと。


「抱っこであります♪」

「それはいいから敵の現状を教えろ糸目姉妹」


「……どうせ近くに行くんだから直接聞けば良いで在ります」

「それもそうか」


そして、俺達は秘密地下通路に移動した。

この道は大陸東端のシーサイド港まで通じている。

彼の貿易港は便利な所が在り、荷の総量さえ余り違わなければ問題にならない。

例えば食料品が鉱物に変わっていたとしてもあまり不審がられる様子が無いのだ。


恐らく普段から地下バザーなどへの横流しが横行してるためであろうが便利は便利なので、

普段は蟻達の餌である食料品や盗まれたらマズイ貴重品をこの港から地下王国に降ろしている。

そう、俺達にとって生命線の一つである大切な通路なのだ。


アリサが生まれた時に先代女王配下の生き残りがやって来た時の通路でもあるため、

当然灯台地下へも続いている。

そんな訳で、俺達は敵の直ぐ脇。

石壁一枚隔てた部分まで何の警戒もされる事無く近づく事が出来たのだ。


……3m級兵隊蟻の背中に乗り、高速移動する事丸半日。

俺は石壁に耳を寄せて敵の会話を盗み聞きしていた。

え?もしばれたらどうするのかって?

さあなぁ。まあ兵隊蟻五百匹位居るし、その場合はそのまま殲滅しても良いかも知れん。

ま、今回は偵察だしそんな危険な事にはならないと思うけどな。


……。


「団長、お加減はいかがですか?死にますか?」

「おお、副長か。斬られた所が痛い。死んでしまう」


お、聞こえる聞こえる。

それに石の隙間から向こうの姿が見えない事も無いか。

しかし副長?始めて見る顔が居るな。


「じゃあ死んで下さいハゲ」

「あんまりな言い方だな副長よ……わし、悲しいぞ?」


「そもそも。何であそこで一騎討ちなんかしますかね、この太鼓腹は?」

「いや、まあ……ノリ?」


あー、そういや調子に乗りやすい性格だと報告されてたな。この人。


「やっぱ死んだ方がいいですね。上手いのは陣形構築と退却、賄賂の使い方しかない団長は」

「いやもう大航海。ではなく大後悔したから。許せぃ」


「「「「「無理だと思います。お調子者」」」」」

「そこまで言い切る事は無いだろうお前達……」


涙ぐむなオッサン。


それと俺は言い切られて当然なような気がするぞブルジョアスキー。

あそこで無理しなかったら、多分この時点で質は兎も角二千の兵は確保できてたと思うしな。


「だがな?あそこでわしが頑張らなかったら、お前ら撤退させる算段つかなんだし、仕方なかろ?」

「むしろ、そのすっからかんのヘチマ脳があの時の襲撃を考え付いた経緯が知りたいですが」


「いや、もう大軍を養える兵糧無かったし。それに敵本拠地ががら空きで大逆転の目もあったし」

「まあそれは妥当かと思われますが」


逃亡中にせよ、勝利を諦めない気風は学ぶべき所も多いように思う。

なにせ、本拠地を取られて資金を奪われれば窮地に陥るのはこっちだった訳だし。

……思えば予想以上に薄氷を踏むような勝利だったんだよなぁ。


「そんな事より、今後どうなさるのですかタコ団長」

「うむ。副長はどうするべきだと思う?」


「私に振らないで下さい。まあ、妥当な線では異端審問官の馬鹿どもに頭を下げるのが第一案」

「……大司教様の行方が判らんからまだ奴には従えん。と、わしは考えるが」


「ならば残る勢力で近隣の村々を制圧し、根拠地を得るべきでしょうか」

「それも良いが、商都軍が本気で出張って来ない程度にしとかんと」


「その場合、勢力を盛り返すのが遅れすぎますね。……で、腹案くらいあるんでしょう?」

「ある。と言うか今書状を送っとる。返事待ちだな」


あ、殴られた。

いいのかよ、仮にも上官だろうに。


「もう動いてる=方針決まってる。ならこっちで考える必要ないでしょうタコ」

「イタタタタ……もし駄目だった場合の保険に決まっておるだろう」


驚いたな。既に盛り返す準備にかかってたのかよ。

……こりゃここで潰しといた方が良さそう……誰か来た?


「お?おお?……よ、良くぞ参られた!新しい主君となるお方」

「いや……団長、これは。何と言うか……頭、正気ですか?」


「ふむぅ。我輩の部下になりたいと言う殊勝な輩はお主であーるか?」


ええええええっ!?ボンクラ、じゃなくてボン=クゥラ男爵!?

ボンクラの上にボンボンのあんたが何でここに!?


「我輩こそトレイディアにこの人誰と言われたボン男爵であーる。偉いのであーる」

「こ、これはこれは。てっきり返事は手紙で来るかと思っておりましたが」


「ついでだから出張ってきてやったのである。ありがたく思うのであーる」

「……ブルジョアスキーと申します。で、ここに来られた以上願いは聞き届けて頂けると?」


「いや、何を書いてるのか良く理解出来ないのである。説明するのであーる」

「え、と。団長?……本気でこの馬鹿、じゃなくてこの方に付いて行く気ですか……」


うん、顔に縦線入れてる騎士団副長さん。

偶然だが俺も同じ感想を持ったよ。

後、ボン男爵。折角の密書をぴらぴらとさせるな。威厳が足り無すぎるから。


「えー、要するにわしらを庇護して頂きたい。さすればきっとお役に立てるかと」

「……どんな役に立つのであるか?」

「それが判らないのですか?騎士団ですよ私達」


「うむ……騎士団とは何が出来るのであるか?」


あ、場が静まり返った。

しかも副長がブルジョアスキーになにやら耳打ち始めた。

……気持ちは痛いほど判るが。


「団長、私絶句したんですが。このボンクラ男爵、本当に大丈夫なので?」

「黙っとれ。ええ、男爵様?戦の時や街の治安の維持等、荒事はお任せ下さい」


それが理解できない当たり、終わってるよなこの人。

まあ、騎士団連中を試す、という意味なら格好も付くが。

基本的に相手が誰なのかすら理解してるかどうか怪しい所のようだし、期待できそうも無い。


「ふむ判った。新しい領地も貰った事であるし我輩の配下に加わるが良いのであーる」

「は、ははっ!?……あ、ありがたき幸せ」

「……何度も聞きますが……このタコ、本気ですか?正気ですか?生きてますか本当に?」


即答かよ。


後……何と言うか。

勝者に擦り寄るのは生き残りの常とは言え、はべる相手間違えてるよブルジョアスキー。

前言撤回。こいつ等ほっといて良いや。……絶対勝手に自滅するぞこれ。


「お言葉、ありがたく頂戴します。で、つきましては移動に僅かばかり資金がかかります」

「良く判らんが良きに計らうのであーる」


「現在、数も不足しております。団員の新規募集をかけたいのですが」

「任せるのであーる」


「領内の治安についてはお任せを。わしらで上手くやってご覧に入れます」

「うむ!」


「そうですな。領内を見回りついでに徴税もやっておきましょう。税は倉に納めれば良いですな?」

「そうであーる。面倒なのでそれも頼むのであーる」


……え?


「ならばこの際、蔵の鍵もこちらで保管いたしましょう。絶対に守り抜きますぞ」

「うむうむ。ブルジョアスキーよ。その忠心、ありがたいのであーる」

「え?何?何が起こってるんですか?……団長?」


何が起こってる、か。

俺もそう思う。……おーい、頭よ働けー。


「ついでに、政もこちらでやろうではないか。男爵様は休んでいて頂くだけで良い」

「おお!何と気の利く男なのであるか。我輩感動したのであーる」

「え?それ、本当に良いの?それとも私の感覚がおかしい?」


「ならばその信に応えねば。他勢力との折衝もわしらに一任されよ、悪いようにはせぬ」

「それはありがたい。我輩、外交だけはどうにも苦手であるからして。頼むのであーる」

「団長……段々と口調が素に……」


と言うか……苦手なの外交だけだったっけか?


「ああ、そうそう。普段は商都に居れば良い。報告書はまぁ……一年に一度は寄越す」

「うむ。それは良い。万事良きに計らうが良いのであーる」


「そうだ。この際だしな……全権委任状を用意してくれぬか?」

「それがあればどうなるのであるか?」


「大事を決める時、男爵に報告しなくても良くなる……面倒が減るという事だな」

「よし、帰ったら早速作らせるのであーる。面倒は嫌いであーる」

「……私は今、有り得ない物を見ている。催眠術?そんなチャチな物じゃ……」


穴倉や 気分は正に ぽるなれふ


じゃねぇ!俳句作ってる場合じゃないだろ俺?しかも季語すらないし!

いやちょっと待て、落ち着け俺。素数を数えるんだ!


「そう言えば、書類の決済には正式な印鑑が要るな」

「ほれ。預けるので大事に使うのであーる」

「他人事ながら……それを預けちゃ拙いんじゃ」


「ところで、我が神聖教会が邪教認定されたと聞き及んで居るのだが」

「ん?おぬし等教会の信者なのであるか?」


……名前の時点で気づいて無かったのかよ。

いや、あの男爵の事だし深く考えちゃいないのだろうが。


「……う、うむ。実はそうなのだが」

「団長!?すいませんが名目上でもこれが上役って嫌なんですが。……おい聞いてるのかハゲ!」


あ、無視してら。

残念だが副長さんの言葉は届いてない、もしくは黙殺されたっぽいぞ?


「で、何がしたいのであるか?」

「今一度の布教許可を」


ちょ!?流石にそれは無いだろ常識的に!

それ許したら、商都的に戦争の意味が半分くらい無くならないか!?


「流石に駄目なのであーる。兄上やカタが五月蝿いのであーる」

「さて、ここに取り出したるは舶来品で極上の酒だが」


「よーし。我輩の領内だけなら許可するであーる」


おいおいおいおいおーいっ!?ちょっと待てーーーっ!


それは最後の一線を軽く踏み越えてないか流石に!

いや、当の昔に床板ごと踏み抜いてる気もするが!


「では、我輩は港で買い物があるからここでお別れであーる。後は万事任せるのであーる」

「判った。まあわしらに任せておいてくれ……はぁ」

「ため息で済む団長がうらやましいです……ああもう何がなんだか」


……本当に行っちまったけど。

大丈夫なのかよこれで?

と言うか、この大事を買い物のついでで済ますなと小一時間。


「って団長!?本気ですか?アレに付いて行ったら絶対自爆しますよ!?」

「副長……その質問は織り込み済みだ。けど、なぁ……」


「まあ、何をしたかったかは判りますよ。ハゲにしては上出来だと思います」

「うむ。一年くらいかけて地道に権力を奪い取るつもりだったんだが……てへ♪」


「てへ、じゃ無いですよ歳考えろボケ。で、団長はどうなされるので?」

「取りあえず任地へ向かう。……わしらの新たなる支配地となる土地に、な」


あ、やっぱり乗っ取り目的か。

ありがちだけど……まさか相手から殆ど勝手に実権渡すとは思わんよな普通。


なんかもう、どうにでもなーれ♪って気分だ。


「野望を内に秘めた雌伏の時、とかなら格好も付いたんですけどね」

「まさかひと言で全権力渡してくるとは思わんよなぁ。実際」


「頭悪いんですかねあの男爵?」

「噂以上の愚かさだったが……まあわしらには幸運だったからいいんじゃね?」


「じゃあ運を使い切ったよな?ここで消えとけ」

「「……え?」」


ここで満を持して俺、登場。

さあ数に頼ってかかって来い。返り討ちにしてやるから。


あ、さび付いた人形のようにギギギと首が回って、と。


「出たあああああっ!」

「だ、団長がわき目も振らずに逃げやがった!……私も逃げます!」

「「「「置いてくな首脳陣!」」」」


その速さ正に疾風の如く。

魔法一つ使ってないと言うのに常識を超えたスピードで地上への出入り口へ殺到している。


「って……三百対一だろが!何で逃げる!?」


「もう嫌だ!痛いのはこりごりじゃーーーーっ!」

「この地を嗅ぎ付けられた時点で勝ち目無いと判断!私も撤退します!」


待てコラ!

って速っ!もう地上に出てる上、馬に乗って走り出してる!?


「「「「待って下さいー」」」」


そしてそれに必死に続く徒歩組。

……置いてくなよ。

あーあーあー。土煙上げはるか西へ進む一団はもう肉眼では捕らえ難い所まで移動済みかよ。

何と言う凄まじい逃げ足なんだこいつらは。


「ははははは!我が騎士団の訓練は。一に駆け足、二に退却!」

「三、四が無くて、五に陣形!……と言う訳です、ごきげんようさようなら!」

「「「おたっしゃでー」」」


あ、視界から消えた。……土煙残して。


「……何か、毒気抜かれたでありますね」

「そだな。……取りあえず、当初の目的どおりポートサイド行くか」

「はいです。おばかはほっとく、です」


まあ、なんと言うか主従共にどこか憎みづらいと言うか何と言うか。

取りあえず、もう名目的には敵じゃないみたいだし放っておく事にする。


……しかし連中。

あのボンクラ男爵に新しく与えられた土地がどんな所なのか知ってるのかねぇ?

もっとも、元は連中の土地だし知らんとは思えんが。


「ゲンカ、イシュー、ラークの三村落……煮ても焼いても食えないから男爵に回されたんだよな」

「はいです。あじのない、けいろく(鶏肋)、です」

「以前のカソに匹敵する寂れ具合だと聞いたであります」


現在のカソに匹敵していたら本気でまずいと思うぞ?

まあ……哀れな主従に幸あれ、だな。

さて、俺はポートサイドのギルド出張所とやらに向かうとしますかね……。


続く


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