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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 24 聖俗戦争 その5
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/10 11:36
幻想立志転生伝

24

***冒険者シナリオ8 聖俗戦争 その5***

~聖俗戦争・決着~

《side カルマ》

側面から傭兵部隊に攻められ続けるマナリアからの援軍を救援すべく、

トレイディア側の傭兵五百と共に駆けつけた俺達を出迎えたのは実にナイスミドルな壮年の男。


「うむ!良くぞ来てくれた。我こそがルーンハイム12世。ルーンハイム公爵家の当主である!」


……あ、ルンのお父さんでしたか。

マナリアの公爵級は代々嫡子が男女共に同じ名を継ぐと言う話だからまあ間違い無いだろう。


「お会いできて光栄だ。俺はカルマ、冒険者で今回救援部隊を任されてる」

「うむ。我は殿下より預かりし三千の兵を率いて参陣したが側面を狙われこのざまだ」


救援に感謝するぞ、そう言ってルーンハイム公は頭を下げた。

……何処の馬の骨とも知れん男に頭を下げられる辺り、ただの貴族様じゃないようだな。


「さて、救援部隊と言ったが見ると傭兵のようだな……戦えるのか?」

「心配ご無用!僕らもプロだから戦う敵に一切の私情は挟まないからね」


アルシェがそう言ってくれると安心するな。

まあ、公の疑問ももっともだ、何せ俺自身がそう思ったし。


「まあ、任せておいて欲しい。前線はこっちで支えるから魔法王国らしく敵を蹴散らしてくれ」

「ならば……切り札の一つを使う。超広範囲に氷の飛弾をばら撒く我が家の家伝の一つである」

「おー、何か凄そうだね兄ちゃ!」


ほぉ?ルンの家の家伝ならさぞや凄いものを見せてくれるんだろうな。

期待させてもらうか。

って……ルーンハイム公、何か気にしてるな。何してるんだ?


「……この娘達は?」

「あたしはアリサ!こっちはアリス!」

「アリスであります!」

「あー、こいつ等は俺の妹達。あまり気にしなくて結構だ」


あ、ヤバ。戦場に子供は拙かったか?

これで機嫌損ねなけりゃいいけど。


「うむ!まあ君たちも見ていなさい。我の大魔法を見せてあげよう」

「わーい。お願いしマウスーなんつてー」

「ちうちう、でありまーす」


「はっはっはっは。任せておきなさい」


……逆に上機嫌だな。まあ子供好きな人でよかったが。

後、蟻ん娘ども。お前らちょっと調子乗りすぎ。少しは自重を。


「さて、期待されているようであるし。楽師隊、演奏用意!」

「はっ?」


ちょっと待てい。

何で魔法詠唱に演奏が居る?

と言うか、家伝ともなれば詠唱も短いはずじゃ。


「うむ。家伝ではあるが例外的に詠唱が長い事もあり、歌として伝わっておる」

「……つまり、その歌が終わるまで本陣を守ればいいんだな?」


「済まんがその通りだ。だが威力は折り紙付きであるぞ。あの程度の数一撃で……!」

「OK判った。必ず守り抜く」


ふと前線を見ると流石に苦戦してる。

相手は傭兵の総大将。しかもマナリア軍の援護も有るとは言え数の差も大きい。

……こちらの前線で戦える数と向こうの数が今の所拮抗してるんでまだ持っているが、

いずれ食い破られるのは間違いないな。


「……俺達は前線で食い止める。アルシェ、悪いけど先に前線に行っててくれ」

「了解したよ隊長さん?ただ、相手が相手だし何時までも戦えるとは思わないで欲しいな」


「俺も直ぐいく。先ずは連中にも指揮官が要るだろう?」

「んー、判ったよ。でも本当にすぐ来てよ?僕だけじゃ多分そんなに長く保たないからね」


そんな事判ってるさ。

正直現在戦い続けてくれてる事がまずありがたいと思ってるくらいだ。

……最悪戦闘開始直後に裏切られる可能性も捨ててなかったからな。


「じゃあ行ってくる!」

「武運長久を祈る。……こちらも始める、演奏を開始せよ!……カルマ君。何を転んでいる?」


いや、今の伴奏聞いたら普通こけるって。


なんで東方?

しかもなんでおてんば?

と言うかよりによってなんで⑨?


しかも印が腕を上下にって……それ別な人だと思うんだが?

いや、それ以前にフルコーラスバージョンやる必要があるのか!?

いや、内容知らずにやってるのは知ってるけどさ?


因みに……詠唱、つまり歌い始めたら当然アンタ……野太い声で歌うんだよな?

よりによってアレを。あのオーケストラの元で。

しかもそれをその髭面で?正気なの?マジなの?


……いや、判ってるんだ。突っ込むだけ無駄だって。

ただ、今回ばかりは何もかも突っ込みどころ満載で、

驚愕が遂に耐性を上回っちまったよ。どうしてくれる。


「無心だ。無心になれカルマ……カルマ、行きます!」

「うむ、慣れない内は戦場で無様を晒す事は良くある。精進せよ……では、詠唱開始だ!」


……♪


カルマです。ただ今敵陣に単騎突入し、無心で敵兵を叩き切ってます。

……後ろからいろんな意味で壊滅的な何かが聞こえてきてるけど絶対無視。

あれ?いつの間にかアルシェを追い抜いてら。


「カルマ君!?そんなとこに居たら敵の集中攻撃……あちゃあ、遅かったか」


「寝る前の歯磨きくらい俺もしてる!」

「え?何処をどうやったらそんな答えが!?」


何時もの弓兵がなにやら矢を放ってきてますが当然俺は硬化かけてるから弾き飛ばすばかり。

取りあえず視界に入った敵は皆殺しだ!斬って、斬って、また斬って!


「ば、化け物!」

「その台詞も……馬鹿の一つ覚え!」


次々と敵を膾にしながら背後からの雑音は一切シャットアウト。

ナニモキコエナイナニモキコエナイナニモ……


「ええい!散兵隊、投擲準備だ!弾幕を張れ!」

「だったらこっちは火球で弾幕張ってやる!少なくとも俺は負けねぇぞ!?」

「ちょ!兄ちゃ!?もちついて!?」

「アリサも落ち着くであります!あ、キルマーク一つゲット♪であります!」


『あたしは馬鹿じゃない!……氷滝!(アイシクルフォール・Easy)』


あえて言おう、馬鹿であると!

……いや、実際声に出したりはしないけどさ?

野太い声でやられるとマジでダメージでかいんですが。しかも音外れてるし!

と言うかよりによってイージーかよ!?


「凍りつくが良い!」


あー、確かに凄い数の氷が敵陣目掛けて殺到してる。

威力はまさしく折り紙付きだな。……ただし目の前がお留守なのはお約束だが。

……つーか、大きい子供がいるような親父が歌って良い歌詞じゃないよ絶対。

まあ、威厳を感じてないのはこの場で俺一人かも知れんがね。フヒヒヒヒヒ!


「凄いねカルマ君!公爵様の魔法で敵が半分ぐらい吹っ飛んだよ!」

「スゴイネー。アタッタヤツ、バーラバラ!スゴイネー」

「兄ちゃー!?帰ってきてよ兄ちゃー!」

「取りあえず、スコップの柄で叩いて正気に戻すであります」


……ゴツン!?

あ、俺は今まで何を?


「……君は一体何がしたいのだ?」

「うわ、流石にムカつく」

「いや、兄ちゃ。理解できたのが兄ちゃだけだからどうしようもないよ多分?」


何か、俺をここまで追い詰めた人物に可哀想な奴扱いされてるんだけど。


……なんかムカつくんでどうにか度胆抜いてやる方法を考えてみる事にする。

ただし、ルンの父親である事を考慮して、怪我だけはさせない方向で。


あ、良い事考え付いた。


「俺も歌えばいいんだ」

「ほぇ?兄ちゃ?どうしたの?」

「にいちゃが本格的に壊れたであります!」


と言う訳で背後の味方が呆然とする中、楽師隊にアンコールかけてもらい、

俺も歌っております。全身全霊を持って。


……但し別アレンジのほうをな!


要するに、最後にぎゅっと目を閉じる方だ。

戦場を駆け回り、腕を振り振り敵を殲滅していく俺の姿は、他所から見ればどう見えるだろうか?

もうどうでも良いけどな!

脳内に腕振り回して走り回るAAが無限ループしてるし。


……この際なので魔法名もレベルが上の奴に変えてしまえ!


『……完・全・凍・結!(パーフェクトフリーズ・Hard)』


そらっ!さっきの奴より……前面かなり弾幕厚いぞ!俺、何やってんの!?


「「「「「やなかんじー」」」」」


おー、飛ぶ飛ぶ。

ふはははは、敵がゴミのようだ!


「馬鹿な。我が一撃を上回る威力、しかも敵を氷付けにした上で弾き飛ばすだと?」

「て言うかさ、むしろ凍らされたまま砕かれたカエルっぽいよね」

「ていうかアルシェ姉ちゃ?兄ちゃが何処かおかしくない?」

「混乱してるっぽいから、取りあえず暫くは放っておくであります」


あははははははは!あーここまで馬鹿やると逆にスッキリするぜ?

おー、これは強いな。敵の残り半数どころか背後の森林地帯まで文字通り吹っ飛びやがった!

もう既に敵の姿は無いぞこん畜生!


……ってあれ?皆どうした?

皆、顔面蒼白なんだけど。


……。


何て言うか。場が静まり返っております。

さっきまでの喧騒は何処へ行った?風の音がよく聞こえるんだけど。


「「「「…………」」」」


……ちょ、お前ら全員してそこまで引く事は無いだろうに。一応戦友だろ?

そんな呼吸を求める金魚みたいな真似をせんでもいいだろ。


「我が家の家伝を一度見ただけでモノにしてしまうとは……君は一体!?」

「違うであります!にいちゃの使った魔法は既に威力と精度的に別物でありますよ!」

「兄ちゃ……アレンジとかそういうレベルを飛び越えてない?」

「カルマ君、実は本当に凄い人だったんだね……僕もちょっと濡れちゃったけどね」


「と言うかよ?二千の兵士をたった数分で持ってかれちゃ、こっちはお飯の食い上げなんだが」

「あ、チーフ。一戦交えた後で言うのもなんですが、契約だし仕方ないですよね」


……ヲイ、ビリーさんよ?何でアンタがここに居る。


「文字通り全滅させられたらもう笑うしかねぇだろ?俺様としても!ククククク!」

「……話聞いてよチーフ、一応僕らの総大将でしょ?」


「お、アルシェ隊長か?まあ俺様たちは雇い主からの信用第一だからな。別に気にして無ぇな」

「じゃ、僕らの特別ボーナスの為に死んでください」


「え、ちょ!待てコラ!?」

「どうせ直ぐに生き返るんだし。けちけちしないで下さいよチーフ!」


あ、グサリっていった。

……取りあえず傭兵王倒したわけだし、アルシェにはボーナスだな。

と言うかこんな所まで出張ってくるなよ敵大将。


「いやいや、そうじゃなくて。皆どうした?ハトが豆鉄砲食らったような顔して?」

「いや、兄ちゃ?今自分がした事の凄さ判ってる?」


アリサが冷や汗かいてるようだが、何がおかしいか判らん。

ただ、詠唱しながら敵陣を走り回って戦い続け、

そのまま大魔法?を発動させて敵数百人を纏めて吹き飛ばしただけじゃないか。


「別に、魔法のアレンジなんて何時もやってる事じゃないか……たまたま一発で成功しただけで」

「待ちたまえ!君は新たなる魔法を生み出せると言うのか!?まるで娘の師匠では無いか!」


いや待て。ちょっと待てルーンハイム公。

それを知ってて俺が判らないのは問題じゃないか?


「いや、その師匠が俺なんですが?」

「なんと!君がルンの話にあったカルマ師か。世界最強の大魔術師だそうだな?」


……ルン。どんだけ俺を過大評価してるんだお前は。

正直なところ無茶苦茶恥ずかしいんだけど?


「いや、それでも敗北ばかり重ねてるさ」

「謙遜する必要は無いぞ。我は殿下より直接話をされた事も有る。殿下からの評価も高いぞ」


あー、リチャードさんね。

以前、大司教と一戦交えた時の戦いで随分気に入られたみたいだしな。

話の一つもあり得るか。


「先日帰国した娘から色々話は聞いている。一度話してみたいと思っていたが……」

「ま、トレイディア本体と合流するほうが先か」


「無論である。そもそも我らは援軍。救援に来て救援されただけで帰る訳には行かぬ」

「……言っとくけど、楽な戦いにはなりそうも無いぞ?」


さて、続いては本隊の救援……彼らマナリア軍の当初の任務だ。

但し側面奇襲などでその数は減り、戦闘可能なのは連れてきた半数の一千五百名ほど。

俺の連れてきた傭兵隊は……死者、重傷者、逃亡者、全部抜かして三百名ほど残存か。

いきなり厳しいなこれは。


「ふっ、不利な戦いほど燃えるのだ。判るだろう若人よ」

「違いない……だとしたらすぐに向かうか?」


「当然だ。賭け時を間違ってはならぬ」

「よし、疲れてる所悪いが再度道を戻る。俺に続け!」


俺が率いてきた傭兵隊をそのまま道案内にし、南西にあるトレイディア軍本隊の元へ向かう。

……移動時間を考慮すると、戻る頃には日が暮れかかるな。

ま、仕方ないが。


……。


「どうやら無事だったようで御座るな」

「済まぬカタ子爵。予定外の戦闘で半数の兵しか連れてこられなんだ」

「こっちの傭兵隊も三百しか残らなかった。だが、流石にもう敵に増援は無いだろう」


さて、日が暮れて夜の帳が降りかけた頃、

俺達はトレイディア軍の本陣と合流し村正と今後の作戦を打ち合わせていた。


現在のトレイディア側の総戦力は以下の通りである。

先ずは本陣。トレイディア正規軍千名が所属している。

そして前衛主力部隊。所属するのはトレイディア衛兵隊二千五百名。

最前線に位置しているのは傭兵隊だ。

本日小競り合いがあったらしく、アルシェ隊を加えても五百名ほどしか残っていない。

最後に、援軍としてやってきたマナリア軍千五百の配置は衛兵隊の横となった。

総勢五千五百か。正直言って敵との兵力差は明らかだ。


だが、敵も悲惨さでは負けていない。


敵聖堂騎士団は総勢一万五千、だった。

だが、今日の小競り合いに訓練前の志願者五千の部隊をぶつけてきた為大損害を出している。

しかも、彼らは本拠地を奪われ兵糧も不足する中で現在名ばかりの野営中だ。

野営といってもテントどころか毛布一つ無い様子で兵の負担はかなり重いように感じる。

……既に新兵は五千から二千にその数を減らしているようだ。

倒された者も多いが、大半は東のほうに逃げ出したと報告が入っている。


さて、と言う事を踏まえて敵の現状だが、

先ず、陣の中央に騎士団三千を集めている。

その周りに円を描くように志願兵七千を配置。

更にその外側に志願者(新兵)残存二千名を小分けにして配置。

……見た感じはまるで花火か水面の波紋のようで、何かものの哀れすら感じさせる。

だが、その総勢は未だ一万二千。こちらの倍以上だ。

明日以降の戦い如何によってはどう転がるかわかりやしない。


そして、最後に……南からやって来て、

勝手に敵本拠地"大聖堂"を占拠してしまったサンドール軍について。

その数は一万。しかも全てが正規軍だと言う。

問題なのは、既にうちの商会からの援軍依頼とかどうでも良いように振舞っていると言う事実。

要するにあいつ等……まともに戦う気がありやしない。

蟻達からの報告で、サンドール軍総大将セト将軍が配下に命じ、

大聖堂の宝物や資金を残らず運び出そうとしている事が明らかになっている。

しかも、あいつ等幽閉状態の旧主流派を残らずぶっ殺しやがった!

あまつさえ、大司教の体も何処に行ったか判らないと言う。

と言うか、サンドール軍が踏み込んだ時には既に大司教のベッドには誰も居なかったんだとか。


……挙句、大聖堂一帯をサンドール領とすべく周囲の村々を回って制圧し続けてる。

要するにこいつ等は援軍ではなく第三軍と考えたほうがいいだろう。


幸いな事にサンドール軍と俺達の間には敵騎士団が存在している。

直接接触する可能性はきわめて低いだろうし、

少なくとも騎士団との戦争中は関わらないほうが吉だと言えた。


……。


「さて、拙者達は敵に対し半数以下。これでどう戦うか、皆忌憚無いご意見を頂きたく存ずる」

「幸いこちらには対陣用装備も在るゆえ持久戦に持ち込めば良いのではないのかカタ子爵」


「左様ですが、ルーンハイム公。余り隙を見せると南の連中がどう動くか」

「サンドールか。確かに敵から拠点を奪ってくれたのは有り難い事であるが……」


現在村正とルーンハイム公、そして俺とアルシェ、ついでにアリサがこの天幕の中に居る。

兵達は慌しく柵や空掘、土塁の準備に取り掛かっているようだ。

……さて、ここは一つこの戦力差を埋める方法でも提案してみるかな。


「なあ、奇襲でも仕掛けて見ないか?」

「カルマ君、それはいいけどどうやって?敵も絶対警戒をしてるはずだよ」

「敵の新兵達が交代で見回りをしてるで御座る。それを掻い潜るのは難しいで御座るな」

「だが当たれば大きい。危険な賭けだが我は嫌いではないな、そのあり方は」


うん。確かにそうだ。

だけど、多分まともに当たったら数の差で押し切られる。

残念ながら敵は精鋭部隊だけで三千も居る。そこを少しでも削り取っておかない事には

勝利などおぼつかないだろう。


「思うんだが、この戦い双方共に失った物が多すぎる」

「それは……そうで御座るな」


「だから、ここいらで敵に再起不能なダメージを与えて決着を付けるべきだと俺は思う」

「……しかし、これ以上戦力を削られる危険を冒すわけには」


……戦争の直接の原因が何偉そうな事言ってるんだかな。

ま、今回の提案はその罪滅ぼしも兼ねている。

流石にここまで戦火が広がるとは思わなかったんでな。ここで決着をつけてやるよ。


「心配無用だ。……この奇襲はカルーマ商会のみで行う」

「総帥は説き伏せられたで御座るか」


俺は、勿論だ。とだけ答え、アリサを連れて天幕を後にする。


「……兄ちゃだけで行くの?」

「ああ」


余計な連中が付いてこられちゃ敵わない。

……これ以上の重荷は御免だ。


「補給が聞かないよ。……魔力が尽きたら、死ぬけど?」

「じゃあ、他に何か手があるか?」


「……思いつかない、けど」

「だろ?だから最強の駒だけで行くしか無いさ」


「だったらあたしらも連れてくであります!」


ふと気が付くと、アリスが横に来ていた。

スコップの先は研ぎ澄まされ、鎧代わりなのか体の前後に鍋を括り付けていた。

そして、もう一人。


「主殿。ならば私もお供いたします」

「……ホルス!?」


剣闘士ホルス。今となっては無二の忠臣となった男がそこに居た。

だが、何故ここに?


「ホルス、お前はサンドールの取りまとめを任せてただろ?」

「主殿に何かあったらカルーマ商会は終わりです。私も今更他の人間に従う気は無いですから」


そう言うと背中の槍を手にし、軽く振り回した。

相変わらず凄い早業だと思う。


「それに……久しぶりに主殿と共に戦いたいと思いました。これは私の我が侭です」

「仕方無いな。いいだろう、地獄の底まで付いてくればいい」


「「「「はっ!」」」」


え?何この数?

数十人はいるけど?


「決死隊です……ある条件付でならこの死戦に参加します」

「条件?」


「私の時のように、彼らに自由をお与え下さい。自分の先を選ぶ自由を!」

「奴隷なのか、全員?」


「奴隷剣闘士仲間を買い上げました。それも……何かの理由で子を持つ者達ばかり」

「確か……優秀な奴隷なら繁殖に回される、だったか」


サンドールの法では奴隷は"家畜"扱いである。

よって、持ち主の考え一つで"繁殖"に回される事もある。

当然生まれた子は生まれながらにして奴隷。


だが……我が子が可愛く無い親が居るのだろうか?

居たとしても少数派では無いだろうか?


「つまり、我が子の為に奴隷階級から抜け出す決意をした連中か」

「はい。ご許可が下り次第アリシア様が準備されている街へ子供らを移動させたいのですが」


あー、戦争に負けた時の為に隠れ家作れって言ってたっけ。

そこに住まわせる訳だな?


「いいだろう。俺しか居ない屋敷なぞ空しいだけだ。お前らの家族は任せておけ」


おお、と言う沢山の深いため息に空気が震える。

……俺はホルスが差し出して来た隷属の指輪を残らず破壊した。


「さあ、これでお前らは自由だ。もし、約束を守りたいと言うなら俺に付いて来い!」

「主殿へ続くのです!ここにあるは我らが救い主。我らが子や孫の為に!」

「「「「おおおおっ!」」」」


男達は誰一人、欠ける事は無かった。


「アリサ。お前には守るべき者があるだろう?……万一の時は自分の事だけ考えろ、いいな?」

「了、解。でも兄ちゃ、死んじゃ嫌だよ?……アリス、兄ちゃをお願い」

「承知致しましたアリサ。にいちゃの事はアリスに万事お任せ下さいであります」


俺の背後にはアリスが付き、その脇をホルスが固める。

そしてその後ろを数十名の元奴隷達が続いた。


「先ずは装備を整える。襲撃は明日未明だ」

「了解です、主殿」


……本当は、俺一人で行くつもりだった。

けど、もう俺は一人じゃないんだと、一人じゃいられないんだと実感した。

俺が死ねば路頭に迷う人間がこんなに居るんだ。

無責任に死んでも居られないじゃないか。


「お偉いさんってのは、楽な生き方だと思ってたこともあったけど。そうでも無いんだな」

「それは下々の者の事を考えていない施政者ですよ主殿。それに」


それに、そういう輩でも己の地位を守るのには忙しい物です。

ホルスはそう言って軽く笑った。


……。


翌日未明。朝日が未だ東の山々から顔を出そうともしない頃、

騎士団の三重円陣の傍まで、誰にも気付かれずに侵入してきた一団があった。


「お疲れ様です、騎士様。見回り異常ありません」

「ははは、私は二ヶ月前に志願したばかりの志願兵だよ新兵君。……血は?」


「狂う」

「宜しい。敵の動きはあるかね?」


「はっ!在りました、敵の一部が動き出したようです」

「何だと!?それで敵は何処に居るん」


その瞬間口を塞がれ、胴体には深々と突き刺さる剣。

志願兵部隊の男は状況を理解する間も無く倒れこんだ。


「ここに居るぞ、なんてな……報告が矛盾してる事くらい気づけよな?」

「しかし、簡単に騙されるものですね主殿」


「所詮全軍の顔を覚えてる奴なんて居ないのさ。合言葉を過信してるってのもあるようだし」

「仕方ないでしょう。何せ一日ごとに変えている暗号が全て筒抜けなど、誰も思いません」


俺達は今、敵陣の中を中央に向けて進んでいる。

表向きは騎士団新兵の警邏部隊として。

装備と暗号は蟻達に盗ませた。俺達が敵だとわかる証拠など在りはしない。


「まあ、新兵が大量に入ったばかりだから出来る裏技だな……騎士団中枢を騙せると思うなよ」

「はっ。しかし主殿、そこまでたどり着ければ良いのでしょう?」


まあな。

あ、敵さんの死体は気付かれる前に片付けとけよ。


……。


「そろそろか?」

「そうでしょうね」


そして、朝日が昇る頃……俺達は配置移動された部隊と偽って敵騎士団の傍に立っていた。

合言葉は朝方変更されたばかりの本物だ。

特に疑われる事も無く、今は大人しく配置に付いている。


「……最前線で戦闘が始まったな?」

「はい、喧騒はここまで届きませんが、蟻が耳を這い回っています」


今頃、騎士団側のあちこちに潜んだ決死隊の耳でも蟻が歩き回り始めた事だろう。

……そう、今回の作戦に当たり俺は各自三匹づつ小蟻を通信機代わりに張り付かせていた。

こうして蟻が耳を這い回ると戦闘開始の合図である。


そしてもう一つ。作戦発動の際には耳たぶをかじる事になっている。

それまではこのまま敵として待機となる。


そう、皆にはそういう風に訓練したのだ。とだけ言ってあるが、

……俺は小蟻を通信機代わりに使っているのだ。

但し決死隊の皆の場合、今回渡す情報は戦闘開始・作戦発動・撤退指令の三つだけだが。


この時代、情報伝達を一瞬で行うのは強力なんて生易しい物ではない。

伝書鳩が普通に使われてるような世界なのだ。手紙が届くにも何日もかかるほど。

それが一瞬で遠隔地に情報が伝わる。それがどれだけ恐ろしい事か。


ただしどこまでも信頼できる者のみ、それもかなり実態を歪めて使わせる他は無いがな。

万一外部に実態を知られたら洒落にならない。

幸い耳は兜で見えないので他の者に知られる可能性は低いが、警戒するに越した事は無いだろう。


……今回の戦いはこの時点で俺の部隊における新戦術の実験場と化した。

思う所は色々在るが、利用出来る物は幾らでも利用するべきだろう。

それにもし、上手く行くなら……これは俺にとって最大のアドバンテージとなるしな。


「主殿……まだでしょうか」

「アリス、どうだ?」

「もう少し待つであります。乱戦になったときがチャンスでありますから」


恐ろしい話だが、アリスが着られるサイズの装備も騎士団側には存在していた。

……見ると結構な数の少年兵、いや幼年兵の姿もある。

目立たないのは良い事だが……なんと言えばいいのか判らん。


「……っ!合図だ」

「承知しました。主殿、ご武運を!」


耳に刺すような痛み。……作戦開始の合図だ!

……よし、手はずどおり行くぞ?ホルス、アリス!


「反乱だ!反乱だ!」

「ブラッド司祭万歳!」

「刺客であります!」


振り向きざまに横に立っていた兵士の首を剣で薙ぎ払う。

そして、他の兵を配置した方角に向けて矢を放った!


「「「中央後ろ寄りの部隊が裏切ったぞー!」」」


それに呼応して射掛けられた方角から声がする。

そう、そこに潜ませておいた決死隊だ!


俺達はお互いの声のした方角に向かって走る。

そしてすれ違いざまに剣と剣とぶつけ、先に進んでまだ混乱の中に居る敵に剣を向けた。


「異端者め!騎士団長を裏切るとは何事だ!?」

「ならば切り捨てるのみです!」


「ま、待て!?何かの間違いだ!」

「「問答無用!」」


そして敵を切り捨てながら前進する。

……そっと顔を左右に振ると、陣地のあちこちで同じような混乱が始まっていた。

合図を頼りに俺達が一斉に動いた、その結果がこれなのだ。


「ま、ここいらが寄せ集めの悲しさだな……信じていいのか判らんのさ」

「中央の騎士団三千だけは動じていないようですが?」


「そりゃ連中は訓練期間も長いし実戦も経験してるだろう。誰が味方かも熟知してるだろうさ」

「では、狙いは?」


「敵志願兵七千を崩す。そうすりゃ外側の訓練前の連中は勝手に崩れ去る」

「承知しました!」


その後は陣後方を中心に暴れまわり、特に連絡網……伝令を斬り捨てる事を目的に暴れまわった。

内側から陣形を崩され浮き足立つ騎士団。

……それでも普段なら暫くすれば統率を取り戻しただろう。

実際、騎士団本体三千名と近い場所に配された部隊では一部平静を取り戻しつつある、

と、アリスから連絡が入った。


「だが遅い。そして多少落ち着いたところでもう無意味だ」

「主殿!敵前線、崩れます!」

「にいちゃ!後方よりサンドール軍、突進してくるであります!」


よぉし!この戦、勝ったぞ!

前後から攻められちゃ、流石にどうも出来まい?


「アリス!全員に撤退指令を打電しろ。敗残兵に紛れて脱出だ!」

「了解であります。小蟻達に耳の裏側に移動するよう伝えるであります!」


因みに耳の裏側に回りこむ=撤退指令である。

……前後から挟まれた事により、特に錬度の低い部隊から順に脱走が始まっている。

いや、既に総崩れと言っても良い。


俺たちの仕事も終わり。

さあ、サンドール軍が来る前に脱出だ!


……。


そして、俺達は戦場の西側……深い森の中に移動。

段々と決死隊の生き残りも集まってきているようだ。

……被害は大きくないようだな?流石は元剣闘士。


さて、報告を聞こうか。


「主殿。騎士団本陣も脱出を開始したようです」

「一番包囲の濃い東側に向けて突撃を開始したであります!」

「流石だな、あえて包囲の濃い部分を突破するつもりか」


でも自軍の強さに自信が無いと出来ない戦術だよなこれ。

包囲の薄い箇所には罠がある可能性が高い。それならいっそ一番敵の多い部分をぶち抜く。

簡単に言ってはいるが普通考え付くものじゃない。


「だが、それだけで防御陣地を騎士団……騎兵で突破できると思っているのか!?」

「……思って無かったみたいであります」


「と言うと、どういう事だアリス?」

「騎士団は持ち出していた金品をばら撒き出したであります」


……流石、保身の鬼。

金の使いどころ、心得てるじゃないか。


「と言う事は……雑兵は金を拾うのに忙しい、か」

「はいであります。あ、残念だけど一部陣地が突破されたであります!」

「……相手は騎兵。追いつく事など出来ないでしょうね」


まあ、仕方ない。

倍の敵を敗走に追い込んだだけでも良しとするか


「敵将ブルジョアスキーは三百ほどの兵と共に脱出したであります……」

「逆に言えば大半の敵は討ち取れたと言うわけですが、主殿はどうお考えで?」

「……ま、上出来だろ。兵を失った上に味方の大半を見捨てて逃げたんだ、それで終わりだろ」


陣が崩れた時点で勝機を失った事を感じ取り、即座に逃げ出した手腕は流石だ。

だが、傍から見ていれば味方の第一陣が崩れただけで逃げ出したようにも取れる。

うちの新聞でもそのように大きく取り上げるつもりだ。


……そんな無様な騎士団に誰が従うだろう。


それに食料も無い、軍資金も失った軍隊に何が出来る?

資金を手に入れる方法は色々在るが……寄る辺無い軍隊に出来る事は限られてくる。

いずれ山賊にでも落ちるのが関の山さ。


「要するに、勝負ありだよ」

「成る程!あ、皆集まったでありますね!」

「……何人か、二度と戻らぬ者も居るようです。せめてその家族には寛大な処置をお願いします」


そうか。

……判ったホルス。この戦いで死んだ連中の家族には一生不自由なく暮らせるようにしてやるさ。

そうすれば、きっと死んだ決死隊の連中も浮かばれるんだろ?

そうだよな?


……。


「おお、カルマ殿。危険な任務ご苦労様で御座った」

「凄まじい活躍だったようだな。我の陣地からでも暴れぶりが見えたほどだぞ!」


「いや。決死隊の皆のお陰だ。俺の力じゃない」


トレイディアの陣地に帰った俺達は生き延びた味方たちから大歓迎を受けた。

だが、その中にホルスと決死隊の姿は無い。

蟻の穴を越えてきた事も在り……ここに居ちゃまずい連中なのだ。

よって、俺とアリス以外は全員討ち死にした事になってたりする。


「倒れた英霊達に、黙祷を捧げるで御座る」

「我も捧げよう。見事であったぞカルマ君」


「有難うよ。これで死んでいった皆も浮かばれるってものだ」


服の裾を引っ張られる感覚。

見るとアリスが俺の裾を掴み頭を摺り寄せていた。


「褒めれ?撫でれ?であります」

「はいはい。そりゃそりゃ……」


妹分からの可愛いおねだりに対し、頭をくしゃくしゃにする事で応じておく。


「ははははは。仲が良い兄妹であるな!」

「あれでアリス殿は中々に強力な戦士。公、馬鹿にしてはいかんで御座るよ?」


周囲に軽く笑い声が響いた。

それを聞き……ああ、ようやく終わったか。そういう風に感じた。


「アリス。なんにせよもうこれで、教会から無理難題言われることも無いだろうな」

「そうでありますね。にいちゃに関わってる余裕はもう無いでありましょう」


そもそも、今回の戦争は教団の俺に対する理不尽な扱いに端を発する。

根絶やしにする事は元々出来なかっただろうし、既に教団は分裂状態。

今後は各地に残った教会は独立し、ブラッド司祭の一派は北の地で教団の建て直しだ。


「そうですな。これで拙者の信仰する龍の神ももう少し肩身が広くなると良いので御座るが」

「そういえばシスターに異教徒って言われてたな。……もしかしてその龍神、片目か?」


カタ=クゥラだけに、なんちゃってな。


「な、何故その事を!?」

「……マジかよ。ついでに、名前は正宗とか言わないよな?」


「き、貴殿もまさか独眼の龍を信仰するものなので御座るか!?」

「いや、残念ながら無心論者だ」


「残念で御座る……」


どんだけー!?

とか思いつつ、俺たちの夜は更けて行く。

結局その日一日、

トレイディア軍の陣地では騒がしい笑い声が尽きる事は無かったのだ。

そう、誰も彼も皆、ようやく訪れた平和に酔いしれていた。


その苦しみを与えた戦争を起こした事に、俺のなけなしの良心は今も痛む。

だが、これはもう変える事の出来ない事。一生付き合わねばならない罪なのだ。

だから、仕方ないとは言えない。受け入れなければならないんだと思う。


……そして数日後、俺達はトレイディアへと凱旋した。


……。


「お、トレイディアの城門が見えてきた。どうやら直ったみたいだな」

「ううう。拙者の愛しき故郷よ……まさか生きて帰れるとはおもわなんだ」

「何か騒がしいな?まあ、我が軍も含め勝者の凱旋だ。民もはしゃごうと言うもの」


……けど、何かおかしいような。

何ていうか、こう、英雄たちを迎えるような熱狂ではないと言うか。


「なんか、おかしくね?」

「ふぁあ……にいちゃ、おはようであります」


おう、ねぼすけアリスか。

お疲れとは言えもう昼近いぞ?


「と言うか、良く馬車の中で熟睡できるよな」

「子供のあたし達にはここの所の激務は辛いでありますよ」


「……マジ済まん、本当に済まん」


取りあえず土下座を慣行。

思えばこいつ等実年齢的には赤ん坊なんだよな。

……幼児虐待もいいところだよな、本当に。


「まあ、それはそれとして……なあ、何かおかしくないか?」

『ふえ?あー、アリサに聞いてみるであります……駄目でありますね、アリサも寝てる』


そうか。まああいつも忙しいだろうし、仕方ないか。


『あたし達三人が揃って寝てると蟻の警戒網も機能しないでありますよ……状況不明であります』

『そうか。何とかしなけりゃならんな』


『ああ、アリサはその事良く判ってるであります。対策はもう直ぐ出来るでありますから』

「流石はアリサ、相変わらずやる事にそつが無い」


世界中の蟻と感覚を共にし、世界中をリアルタイムで知るのはアリサの特権だ。

いざと言う時はアリシア・アリスでも代役が出来るが、

逆に言えば三匹とも何らかの事情で動けない場合、即座に連絡網が破綻する事を意味する。

まあ、既に対策の目処が立ってるらしいし特に問題にするべき事じゃない。


さて、それはいいが……要するに今回は直接見てみないと判らないわけだな?

まだ眠そうなアリスを再び馬車の荷台に寝かしつけて村正達の元に向かう。


「よう。何か判ったか村正?」

「カルマ殿か。いや……何か街の中が騒がしいと言う事しか判らんで御座る」


「……僕らが偵察してくる?」

「いや、アルシェ殿も折角生き延びたのだ。最後まで従ってくれた諸君には特別手当も出すゆえ」


「無駄に命を捨てるな?ありがたいけど僕らもそれでご飯食べてるの。仕事の種は逃がさないよ」

「仕事熱心まことに結構である。我としても偵察を出すのには賛成だな……確かにきな臭い」


街に近づけば近づくほどおかしさが鼻に付く。

……何と言うか、活気が無い。

いや、これはむしろ……魔物の気配?


「おいおいおい、なんでオークの匂いがこんな所にまでしてるんだよ!?」

「だ、だがその割りに城門は綺麗なもので御座るよ?」

「逆の門が破られたか?我が軍は警戒態勢に入る」


「……トレイディア全軍も警戒するで御座る。アルシェ殿?」


「はいはい!お仕事だよね?街の中見てくればいいんでしょ」

「アルシェ、俺も行く……何か嫌な予感がする」

「左様か。……拙者も一足先に行くで御座る。軍はこの場で一時待機!」

「「「え?ちょ!?カタ様ご乱心!?」」」


「……面白い。我も共に行こうではないか」

「「ええっ!?公爵様まで!?」」


……。


さて、ここは通い慣れたはずのトレイディア城門。

だが、誰も居ない。警備に付いてる筈の商会私設部隊も居ない。

俺達はそんな城門前に来ていた。


「城門、施錠されてないよ?こんな無防備な門、僕始めて見るよ」

「普段はそんな事は無いはずで御座るが……あけてくれで御座る」


……巨大な城門は嫌にあっさりと開いた。

そしてその先には……誰も居ない。


「な、何故大通りに人っ子一人居ないので御座る!?」

「トレイディアには何度か来た事があるが……こんな事態は初めてであるな」


その異常さに村正は妖刀を抜き放ち、

ルーンハイム公はマントで全身を覆い、何やらブツブツと唱えだした。


『……防壁!(ガードウォール)』


数分後、その言葉と共にルーンハイム公の周囲を不可視の防壁が覆う。

……俺も硬化をかけておこうかね。


……。


「さて、さっきからじわじわと先に進んでるわけだが……本当に誰も居ないように見えるな?」

「うむ。気配はするで御座る。まるで皆、息を潜めているかのようで御座るな」

「息を潜める、か。カルマ君、カタ子爵共に良いカンをしている」

「え?公爵様それってどういう意味?」


『我は聖印の住まう場所。これなるは一子相伝たる魔道が一つ……不可視の衝撃よ敵を砕け!』


突然の詠唱、そしてルーンハイム公はとある民家の屋根にその右手を差し出した。


『……衝撃!(インパクトウェーブ)』


文字通り不可視の衝撃波が右腕の指し示す方角に向けて飛び出していく。

そして屋根と共に何人かの吹き飛んだ……聖堂騎士団志願兵だと!?


「心せよ!敵が城壁内に入り込んでおるぞ!」

「そ、そんな!?何故で御座る!?」

「……ま、内部で手引きした馬鹿が居たんだろうね」

「んな事より迎撃だ!」


奇襲するつもりだったのだろうか、周囲から数十名の志願兵部隊が沸いて出る。

……そういえば、連中は最初から東側……トレイディア方面に向けて逃げていたよな。

志願兵も騎士団も。

もしかして……はめられたのか?最後の最後で!?


「連中、まさかこっちの本拠地をピンポイントで狙うか!?」

「見るで御座る!屋敷の周りで激しい戦闘が!」


……ああ、本当だ。トレイディア領主館に敵が攻めて来てやがる。

だが、安心もしたな。あそこで頑張ってるのは俺の仲間たちだ。

って、なんかオークとかが攻め込んでるけど何処から持ってきたんだ連中は!?


「どうやら、全戦力を館に集結させたみたいだな」

「元々領主館は市民たちが有事に逃げ込む為の場所でもあり申す」

「ふむ、民を大切にするトレイディア領主だからこそ、この大都市のような繁栄があるのだろうな」

「はぁ、はぁ。何で皆喋りながら、戦える、の!?」


文字通り周囲から沸いて出るかのような敵の猛攻。

まあ当たり前か。考えてみればこの四人、トレイディア側の各部隊の指揮官ばかり。

万一全滅したら軍が崩壊しかねん。


「だが!この場に雑兵如きに蹴散らされる雑魚は居なかったり!」

「我が名は村正!拙者の首、安くは無いで御座るぞ!」

「たまには、体を使うのも良い物であるな!」

「いや、だから!なんで皆そんなに余裕なの!?それとも僕がおかしいの?」


アルシェの疑問も最もだが……どう考えても俺ら修羅場潜りまくってるしなぁ。

あ、修羅場といっても個人戦のな。


……ってそりゃ!また一人切り殺したぞ!

おっと、向こうから肉片が飛んできたが……誰だよ危ないな。


「アルシェ君もたまには魔物を狩り歩くといいのであるぞ。鍛えられる!」

「貧乏傭兵にそんな暇無いですよ公爵様ー!?」


おや、ルーンハイム公。何時の間に手斧なんか取り出したんだ?

ってうわっ!?腰の周りに10本近くぶら下げてる!なんで!?


「……逃がさん!」

「ぐひゃあ!?」


あ、ぶん投げる為にか!?

民家の屋上の弓兵、投げ斧で脳天叩き割りやがった!凄ぇ!


「さあ、来るが良い。我が妖刀の錆にしてくれるわ」

「何人の血を吸ってるのその剣……」


俺のを含め少なくとも百人は固いな。


「カルマ君もどうして弓矢を避けもしないのさ!死にたいの!?」

「いや、死なないし」


思えばただの傭兵隊長にはキツイ状況かもな。

矢に当たったら怪我するだろうし勇者の縁者でも無いし伝説の武器も持って無いし。


ってアルシェが弱いと見たのか!?

敵弓兵がアルシェを集中的に狙ってる!


「嘘、だ。こんな、ところで?」

「危ないアルシェ!」


アルシェに向けられた弓矢の数、15以上。

絶対に避けきれる数じゃない。

だから、俺はアルシェを押し倒し、俺の体を盾にする。


「カルマ君!?」

「平気だ。何の問題も無い。……そんな事よりやって欲しい事がある」


そう、このまま指揮官全員がこんな所でくすぶってる訳には行かないだろう。

誰かが軍を動かしに行かねば。


「指揮官全員が軍を離れたのは拙かった。村正と公爵を連れて軍の所に戻るんだ」

「え?でもカルマ君は!?」


「ここで敵を抑える。出来るのは多分俺だけだ」

「そんな!?カルマ君死んじゃうよ!?」


とは言え、現状ではそれが一番ベストなんだよなぁ。


「……カルマ殿。頼めるで御座るか?」

「カタ子爵。それなら我も残ろう。何、個人戦闘にも自信はある」


「いや、公爵はマナリア軍を動かしてもらわないと。それに、何かあったらルンが泣くだろ」

「む……ならば君も一緒に」


「駄目だ。幸いこの通りは四方からの道が交わる所。後方の敵を押し留めるには丁度良い」


ここは十字路のど真ん中。

敵を集結させない為にはここで踏ん張るしかないんだよな。

それに、俺ならそれぐらい出来るだろう、と自惚れさせて貰いたいもんだ。


「だから、出来るだけ早く軍を連れてきてくれ」


「……判ったよ。カルマ君、死なないでね」

「友よ。この場は任せるで御座る。武運長久を祈る!」

「流石、娘が敬愛すると言い放つだけの事はある。死ぬなよ?若人よ」


そして三人は元来た方角……西門へ向かい走り出した。


……。


……行ったか。


「さて、そろそろ出てきても良いんじゃないか?騎士団長殿?」

「ふふん。どうやら気づかれてしまったようだなぁ?」


近くの民家から数名の騎士が現れる。

その中心に居た人物こそ……聖堂騎士団長ブルジョアスキー。


「不思議だな。あそこで全員揃ってるうちに倒しときゃ、それで勝ってただろうに」

「いいや?慌てる乞食は何とやら。わしはそこまで自信家では無いな」


「ほぉ。じゃあ誰かが残るのを待ってたか」

「いいや、ここまで来た以上わしの狙いは大司教様を昏睡させた原因……貴様のみだ」


「仇討ち、か」

「その通り。残るなら貴様だと思っておったよ」


一人になった所で襲う段取りか。

……早まったかな?


「兎も角……今回の戦、元を辿れば貴様に行き着く。今後の教団の為にも……消えてもらうぞ」

「へぇ?残りは精々志願兵百人と騎士十人。たったそれだけで俺を潰せるのか!?」


嘘だ。正直この数はキツイ。

しかもブルジョアスキー自体、加速をかけた俺の渾身の一撃を凌ぎきった男。

けして弱弱しい指揮官ではない。


「総員、包囲!その後死守円陣構築!」

「くっ!早い!?」


だが、志願兵は騎士団長の望む速度が出ていないようだ。

前回と違い、まだ抜けられる余地はある!


「包囲に失敗しました!」

「ならば波状陣!矢の雨を降らせてやれぃ!」


野郎、ミスりやがった!

よし、矢を弾いた所で逆撃に転じて……なんだこの感覚?


グサッ……だと?

俺の鉄の皮膚を矢が貫くだと!?


「ふふふ、クロスボウ部隊!再度射撃準備だ。流石に石弓ならその装甲も抜けるか!」

「ぐっ!?しまった……」


そういや、コイツには防衛戦時、俺に弓が効かない所見られてたっけ。

……いきなり対策取られてどうするよ俺?


『我が纏うは癒しの霞。永く我を癒し続けよ、再生(リジェネ)!』

「こ、この男……矢が刺さってもお構い無しだと!?」


答えは……怪我で死ぬ前に回復し続ける。

射殺される前に全滅させてやるさ!


「ひ、ひぃ……幾ら傷つけても倒れもしない!?どういう事だ!」

「俺は死なない!死ぬのはお前らだ!」


「わ、わしを守れ、騎士団の精鋭達よ!円形防壁、急げぃ!」

「幾ら守りを固めても無駄だ!」


前方で盾を構える兵士を掴み上げ、強力をかけた上でその首を引っこ抜く。

更にそのまま前進し両隣の兵士の顔を掴んで顔同士を叩きつける!

そしてそのまま構わず前進し、次の列の兵士を……


「だ、駄目だ!陣形変更、前方波状陣!わしの元にたどり着かせるなぁ!」

「随分と臆病だな?個人戦にも自信はあるんだろう!?」


「万一わしが死んだら神聖教会はどうなる!?わ、わしは死なんぞ、死にたく無いぞ!」

「殺してる以上殺されもし得るさ。出来るのはただ、その瞬間が来ないよう努力するだけ」


「努力しておるさ!だからこうして危険な男を排除しようとしておる!ああっ!来るな!」

「遅ぇよ!」


遂に盾を持つ兵士の列を抜けた!

後は恐れおののく弓兵どもを駆逐し、大将首を頂くのみ!


「おらおらおらおらっ!」

「わ、わしの軍が……わしの陣形が……何故だ、抜けられる道理など何処にある!?」


「強いて言うなら……俺を道理に当てはめようとした事だブルジョアスキー!覚悟!」

「……舐めるな若造!」


遂に聖堂騎士団長ブルジョアスキーがその剣に手をかけた。

抜き放った細身の剣とその構え、まさしくフェンシング。

……ぽっこりお腹とキラキラ頭部が無ければさぞ格好よかったろうに……残念だ。


「まさか、剣を抜かねばならんとはな」

「良い面構えになったじゃないか……それがアンタの、剣士……騎士としての顔か」


すっとブルジョアスキーが手を上げる。

……すると全ての兵が騎士団長後方に整列した。

邪魔するなってことだろう。


しかし、精悍な顔だな。面構えすら変わってやがる。

剣を構えると、違う一面が出てくるって訳か?


「……いいだろう。一騎打ちだ。それと、ここから先はわしも一人の騎士としてお相手する」

「今まで配下使ってこっちの体力削ぎ落としておいて、今更かよ」


「誇りなぞ……勝利の前では小さなものだ」

「へぇ。珍しく気が合うじゃないか」


俺も剣にこびり付いた血糊を振るって落とす。

……いいだろう、こっちもいい加減にしたいと思ってた所だ。


「「……勝負!」」


掛け声と共に両者相手の間合いに踏み込んだ!


「突!」

「受け止めてやる!」


目にも留まらぬ突きに対し、俺は一度受け止め、

更に一歩踏み込んで斬りつけようと試みるが……駄目だ!

……腹に、穴が開いた!


「続いて斬り裂くぞ!」

「今度こそ受けきる!」


鋭い切っ先が迫る!

だがその軽い細身の剣が災いし、騎士団長の斬撃は俺の剣に前進を阻まれた!


「今度は俺の番だ!全力で振り下ろす!」

「受けとめてみせるぞ!わしとて騎士団を率いる身だぁ!」


団長の剣と俺の剣が激しくぶつかり合う。

……だが、全体重をかけた一撃は受け止めた力を凌駕し、ブルジョアスキーの鎧に食い込んだ!


「あぐっ……痛い、痛い……だが負けられぬ!我が突きを食らえぃ!」

「その程度……軌道をずらしてやればどうとでもなる!」


全力の刺突を受け止めるのは愚の骨頂だった。

俺は剣で薙ぎ払い、その勢いで突撃してくる切っ先を逸らすことに成功。


……相手が剣を取り落とし、大きく体制を崩した。今がチャンスだ!


「おらあ!切り裂けぇえええええっ!」

「ひ、よけ、避けねば、避けねばぁああああっ!」


意外なほど軽いフットワークで俺の切っ先から逃れようと体をひねるブルジョアスキー。

だが、残念だったな?全力で振り下ろしたとかなら別だが、それぐらいの回避、

剣の軌道を変えてやればいいだけだ!


……狙うは鎧の隙間……どうだっ!

俺の両腕に返り血がほとばしる。効いて居ない訳が無いだろこれなら!


「トドメだ。突き殺す!」

「ひぃ!?に、逃げろおおおっ!」


無様に転がって逃げようとするブルジョアスキーを追い、その体に剣を突き刺す!

……くっ、浅いか!


「もう駄目だ!総員撤退だ!わしを守るのだー!」


その言葉と共に、しっかり背後で用意されていた石弓が射掛けられる。

そして俺が剣でそれを弾いている内にブルジョアスキーは馬に乗り……逃げ出していた。

配下の兵も、それに続いて脱兎の如く走り出す。


後には俺と、ブルジョアスキーの細剣だけが残されていた。

……背後から見知った顔が駆け込んでくる。

そして、次々と撤退して、もしくは捕らえられ、殺されていく騎士団員達。

色々在ったが、この時を持って勝敗が決したのだと思う。


「カルマ君!大丈夫だった!?」

「アルシェ?そっちも大丈夫だったか?」


「うん。僕は大丈夫……何せ久しぶりの大仕事だったから。お給料で買い物するまで死ねないよ」

「そうか……終わったんだよな、戦争」


そう、正式名称として「聖俗戦争」の名を与えられたこの騒乱は、

この日をもって、ようやく終わりを迎えたのであった。


終わらなかった問題、新しく増えた問題など課題は山積みだが……、

今はただ、休みたいと。そう思う。


***冒険者シナリオ8 完***

続く




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