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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 23 聖俗戦争 その4
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/15 23:56
幻想立志転生伝

23

***冒険者シナリオ8 聖俗戦争 その4***

~撤退から決戦へ~

《side カルマ》

カルーマ商会私設兵団、総員弐百名が森の中をひた走る。

行き先は本隊残存部隊が落ち延びたという小さな村。


「それで、つまり……商都軍本隊は鶴翼の中央を破られて、領主は意識不明だと?」

「そういう事みたいであります。それで左右に軍を分断されて、左翼がボロボロでありますよ」


さて、俺が一週間寝込んでいる間に起こった最大の出来事、

トレイディア正規軍の敗北についてここで一度纏めておこう。

二日ほど前に行われたこの戦い。

トレイディア軍五千に対し、騎士団は僅かに二千。

局地的とは言えトレイディアが数的優位を手に入れた形ではあるが、その結果は散々な物だった。


まず、戦闘開始時の状況だが、

西側の小高い丘に陣地を築いて篭る騎士団に対し、

東に位置するトレイディア軍はいわゆる鶴翼の陣形を敷き包囲を試みた。


……と言うか、この時点でトレイディア大公はブルジョアスキーの罠にかかっていたのだ。


両翼の包囲が完了したと思った瞬間硬く閉じられた陣地の正面が開き、

騎士団の精鋭千五百が陣形中央……翼の付け根目掛けて突進を開始した。


迎え撃つトレイディア軍本陣は三千五百。

本来ならば、数の差で守り抜く内に両翼からの圧力で騎士団側の戦列が崩れ去る、筈だった。

だが、この三千五百と言う数字が曲者だったのである。

……ここに配されていたのは各地より引き抜かれた衛兵達。

右翼は傭兵部隊より千名、

左翼は正規軍より五百名で固めていた。

そう、トレイディア側の最大の弱点こそ、数こそ多いが比較的錬度の低い衛兵だったのである。


左右の翼が効果的に動く為には錬度の高い兵士を配するしかなかった。

よって、守りだけと考えられた中央に数の多い衛兵隊が配置されたのも仕方ない事かもしれない。

だがそれを見越してかそうでないかは不明だが、敵はその柔らかい腹に食い付いてしまった。


ただ、この時点なら逆転の策はあったはずなのだ。

だが……突然トレイディア大公が倒れる。側近の騎士の一人が突然主に刃を向けたのだ。

そう、トレイディア軍にも騎士団側の密偵は存在していた。

彼は異端審問官より、自らを騎士に叙勲した騎士団長を信じたのだ。


余談ではあるが、この世界における騎士とは"神聖魔法を使う戦士"であり、

その叙勲は現在、神聖教会のみが行えるとされている。

だが、叙勲された後はそれぞれの主君に忠誠を誓う事になっている筈なのだ。

だがその実態はと言うと……。

20年忠実に仕えていた家臣に裏切られ、倒れ臥す時の大公の無念はいかばかりか。


そして……後はもう、崩壊を待つのみとなる。


陣地の騎士団五百名が左右から攻められ壊滅しかかる頃には既に本陣が食い破られていた。

そして戦場に響くトレイディア大公討ち死にの声。

実際は騎士団側の謀略でしかなかったが、大公本人が意識不明の重体となっており、

否定する事もままならず、まず本陣が崩れだしたのである。


「待って!待って下さい!領主様は未だご健在なのですぞ!」


従軍していたギルド長バイヤーが必死に声を張り上げるものの、

他人から警戒感を解く、普段は彼の力である筈のみすぼらしい容姿が災いした。

……兵士達はかえって不信感を感じ、隊長格ですら戦線離脱を始める。

その内本陣には人が居なくなり、バイヤーは止む無く意識の無い領主を背負って脱出した。

ここにトレイディア軍本陣は戦闘開始から僅か一時間で壊滅。


……そして胴体を失った翼の受難が始まる。


「ええい!本陣は何をしているので御座るか!?」


左翼の正規軍五百名を率いていたのは村正……カタ=クゥラ子爵。

だが彼の目にも本陣の混乱、そして崩壊は否応無く飛び込んでくる。

幸いだったのは、彼自身がトレイディア次期領主であり兵たちの忠誠の対象だった事だろう。

……幸運にも彼の率いていた兵達は逃亡に移ったりはしなかった。

だが、そうでない方は?


「カタ様!右翼の傭兵部隊、隊列が崩壊!次々と逃亡を開始しました!」

「……所詮傭兵。所詮は金で雇われた兵。信には値せなんだ、それだけで御座るよ」


村正が吐き捨てるように言うが、それは違うかも知れない。

彼らは本陣崩壊までは真面目にやっていた。そして金の分は戦ったと判断したのだ。


大将と本陣がやられたと見て取った傭兵部隊はバラバラになり戦場からの離脱を始める。

そう、傭兵達にとってこの戦いは既に終わっていた。

無論、勝ち戦なら最後まで付き合ったであろう事は容易に想像できるがそれは詮無き事。


中央と右翼が一気に崩れ、気が付けばトレイディアの兵は村正率いる五百名のみ。


「まだ、まだ昼にもなっておらぬのに……この体たらくで御座るか!」


思わず叫ぶ村正に、更なる現実が襲い掛かる。

……本陣を壊滅させた騎士団主力が引き返してきたのだ。


「我が方は五百。敵は……まだ千二百は残っているで御座るな。……ここが拙者の墓となるか」


覚悟を決めた村正は妖刀を抜き放つと敵陣に突入、

自らも敵兵二十名を斬り倒し、大いに士気をあげる。


だが、村正の頑張りもそこまでだった。

村正の精強さを見て取ると、騎士団は味方の被害も構わず矢の雨を降らす。

更に魔法使い部隊が大規模な魔法攻撃を撃ち込みはじめるに至り、村正自身も直撃を受け気絶。

それを見て取った側近の一人が指揮を引き継ぎ、

怪我の軽い者百名ほどを護衛に付け、戦場から主君を脱出させる事に成功したのである。

その後、残った兵達は正に獅子奮迅の活躍を見せたものの衆寡敵せず。

……自らの倍近い敵を道連れに、一人残らず壮絶な討ち死にを遂げたのである。


結果として、トレイディア側は死者千人(衛兵六百・正規兵四百)、戦線離脱千人(傭兵)

商都に逃げ戻ったのは衛兵が二千九百人だが、その内四百人は重症であり、

再編成可能数は二千五百人に過ぎなかった。

……更に今でも百人弱の正規軍が次期領主ごと敵領内に取り残されている。


逆に騎士団側も、最終的に二千名居た兵の内千五百名を失う大損害を被っている。

だが、逆に言えば数で倍する敵を二千四百名ほど戦闘不能に追い込んでも、

自軍の被害は千五百名に押さえたとも取れる。


残念ながら、どう考えてもこの戦い……トレイディアの負けだった。

特に……分断された左翼は帰り道を失い敵勢力圏を逃げ回る事となる。


……。


「でも、逃げたと言っても商都への帰り道は敵が塞いでるで有ります」

「……結局、村正の奴は敵陣奥深くに分け入る羽目になった、か」


そう、つまり村正は百名に満たない兵に守られる形で、

土地勘の無い敵陣を放浪する羽目になったのだ。

今は何故か人の居なくなった廃村を見つけ、そこに陣を構えているらしいが、

見つかるのは時間の問題だろう。


「位置的に助けられるのは俺達だけ、か。まあやるしか無いだろうな」

「ええ。トレイディアの次期領主を助けたら俺達英雄ッすね!」


配下の連中には悪いがそれだけじゃないんだな。

もしここで村正が死んだりしたら、トレイディアの上層部に俺たちの味方が居なくなっちまう。

それに、ここで助ける事が出来たら後々色々楽になるだろうという思惑もあったりする。

……アイツが俺の数少ない友人である事もまあ、多少は考慮に入っているが。


「何にせよ、急ぐべきだろ常識的に!」

「あ、にいちゃ!トレイディアの旗、見えたであります!」


「アリス!私兵団の団旗を掲げろ!矢でも射掛けられたらたまらん!」

「了解であります!」


味方である証拠の旗を掲げ、村に近づくと崩れかけた教会から何人かの兵士が這い出て来た。

……こりゃ、急いできて正解だったな。満足な治療も受けて無いじゃないか。


「カルーマ商会私設兵団長、カルマだ!カタ子爵はご無事か!?」

「あ、ああカルマ殿……貴殿が来てくれたのか……」


俺の言葉に反応したか、村正が建物から歩み出て来た。

自慢の刀を杖代わりにヨロヨロと歩み出るその姿に酷い罪悪感を感じるが、

それを表面上はおくびにも出さず、そっと治癒を試みる。


「おお、流石で御座るな。折れた腕がもうくっ付いたで御座る!」

「ま、無事で何よりだ村正。救援が遅れて本当に。……済まないな」


「ははは。救援に来てくれたのは貴殿だけで御座る。感謝こそすれ恨みになど思う訳が無い」

「そうか、とりあえず薬と包帯、それと水食料を持ってきた。使ってくれ」


「か……重ね重ね、申し訳無いで御座る」

「いや、止めてくれ村正、頼むから」


とりあえず感涙状態の村正の傍を後にして、持ってきた支援物資を正規軍連中に配っておく。

今後も辛い戦いが続きそうだし、早い所元気になって貰わんと。


「そうで御座る。これから作戦会議で御座るが貴殿も出席して下され」

「いいけど、取りあえず一つだけ言わせてくれ」


「何で御座るか」

「無人の村に見せかけるなら、トレイディアの旗は隠しとけよ常識的に」


……。


さて、教団の武力である聖堂騎士団と戦う俺達が廃村の教会に潜んでいるという皮肉を感じつつ、

俺は正規軍の生き残り百名弱と今後の打ち合わせに入ろうとしていた。

因みにこちらの配下弐百名は廃村の各家に分散して隠れさせている。

たった三百名では万一敵に捕捉された場合一網打尽にされてしまう。

それを考えるとむやみに姿を晒すわけにも行かないのだ。


「まあ、そんな訳でこの村は捨てられてから間も無いで御座るが、防御に使えるかと言うと」

「難しいだろうな。だが東へ……トレイディアへ向かう街道は恐らく全て封鎖されてる」


「左様。一戦交えるにはこちらが疲弊し過ぎているで御座る」

「しかし隠れるには少々目立ちすぎるし、早く戻らないと……お前の親父さんが」


そう、現在トレイディアは領主が意識不明で次期当主が敵陣に孤立と言う状態なのだ。

状況を打破するには何とかして村正が帰還する必要があった。


あれ?でも待てよ……現在の敵兵数って確か。


「取りあえず、敵の陣容確認してみないか?」

「……それはどういう意味で御座ろう」


……。


二時間ほどが経過し、放たれた偵察兵が敵の状況を説明し始めた。


「朗報です。トレイディアへの道を塞いでいる敵騎士団は僅かに五百名しかおりません」

「やっぱりか!敵は千五百名失ったと聞いてたけど、今なら正規兵は五百人しか居ない!」


そう、ブラッド司祭の追撃に出た騎士団三千が帰還したという話は未だ聞かない。

ならば、今俺たちの道を塞いでいるのは僅か五百名のみ。

その数ならやり方次第で突破も出来るんじゃないかと思う訳だ。


「それに、俺の手勢の一部をトレイディアに向かわせた。この村の位置は商都に伝わる」

「何と!」


そう、前回の戦いの被害で微妙な兵数になった事もあり、

俺は幾らかの兵を連絡役を兼ねてここに来る前に切り離し、トレイディアに帰還させている。

そいつらには正規軍残存部隊の居場所を伝えるように言ってあるのでいずれ援軍も来よう。


「そろそろ向こうにたどり着いてる頃だと思うんだが……こちらも努力すべきだろう?」

「左様で御座るな。……こちらの物資も長くは持たぬ。余力のある内に帰還するべきか」


その後、喧々囂々とひと悶着はあったものの、

全力を持って敵陣を突破、帰還する事が決定した。


……これは俺とアリスしか知らない事だが、

既に村正の無事を知ったトレイディア上層部は救出部隊の編成を開始した。

その数傭兵隊千名と正規軍千名。即ち精鋭部隊全軍である。

首都の守りを先日脆さを露呈したばかりの衛兵隊に任せる形にはなるが、

現状で出来る最善だと俺は思う。

ならば……脱出経路を潰すべく広範囲に散らばっている敵陣を突破し、

後は全力で撤退を続ければ被害を最小限に抑えられるはずだ。

それに、時間をかけて後方の志願兵部隊七千が出張ってきたらどうしようも無くなるだろう。

以上が敵陣突破を俺が推奨した理由である。


結果、装備も含め疲弊した正規軍を後詰として後方に置き、

我が私兵団弐百で一点突破を仕掛ける事となったのである。


……。


「アリス、敵はどうだ?」

「この先の街道には20人位しか居ないでありますね」

「だが、時間を僅かでもかければ次々と敵が駆けつけて来よう」


それはそうだ。確かに敵は同数の上分散している。

だが倍以上の敵を打ち破った事で士気は高いし、

あの激戦を生き延びたこいつ等は間違いなく精鋭だと言える。

舐めてかかっちゃ足元を掬われる筈だ。


「……敵の警邏部隊は……まだ居るな。もう少し森の中に行くまで待つか」


因みに、本当は森の中を進みたかったが、残念ながら敵さんは森の中も警戒中。

むしろ道路事情の良い街道沿いを突き抜けるほうが生存確率が高いと踏んでいる。

よって現在は街道沿いの森に潜み、

敵の警邏網を抜けて警戒線を何時食い破るか時を待っている状態である。


しかし、ただ逃げ帰るだけじゃ割に合わないしな。

……逆に罠を仕掛けてやるかと行動中だったりして。


「と言う訳で、そろそろ行動開始だが……アリス、味方は配置に付いたか?」

「委細合切大丈夫であります」


OK、それならいい。


「ならばこの20人を一気に蹴散らし駆け抜ければ被害ゼロだな」

「幾らなんでもそれは無茶では無いのか?戦とは被害が出る物で御座るよ」


おっと、もう少し後ろに居るはずの村正がここまで出て来ているとはな。

……何かあったのだろうか?


「怪訝そうで御座るな。だが拙者とて焦りもあるので御座るよ」

「……まあ確かにここで村正に何かあったら一大事どころじゃないしな」


「冒険とは違った、嫌な重圧で御座るよ。拙者の生き死にが国の命運をも分ける」

「まあ、集団の長には多かれ少なかれそういう物が付いて回るもんだ」


「違いない。……カルマ殿も今回の件で理解したのではないで御座るか?」

「逃げ出せるなら逃げ出したいが……それで被害が大きくなったらと思うともう逃げも出来ん」


それが、自分の身から出た錆だからなおさら、な。


……まあ、要するに村正も不安だって事だ。

不安に任せて前線まで来てみれば前線指揮官が無茶を言ってると来た。

そりゃあ当然声も出るか。


「まあ、こんな所で仲間を失うのは嫌なんでな。……誰も死なさんさ」

「意気は良し、で御座るな?期待させてもらうで御座るよ」


まあ、今回の策があれば不可能では無いさ。

いや、と言うか策でも無いんだけど。


「にいちゃ、敵街道封鎖部隊が孤立したであります。暫く敵は来れないでありますよ?」

『我が炎に爆発を生み出させよ、偉大なるはフレイア!爆炎(フレア・ボム)!』


返事代わりに敵集団に向けて魔法爆弾をぶん投げる。

……うん、そういう事だ。ついでに、ここで一句。


詰んだなら、無理をも通せ、エンパイヤーズ。


「要するに!策も何もこの数なら俺一人でどうにでもなるって訳だ!」

「それはまた斬新過ぎる発想……だが確かに効果的で御座るな!」

「流石はにいちゃ、無茶この上ない事をやってのける。そこに痺れる憧れる、であります!」


「「「いや、それを普通に受け止めるあんたらも十分異常だ!」」」


兵士三百名からのツッコミを背に受けつつ、俺達は街道をひた走る。

二十人ばかりの街道封鎖要員が何だって言うんだ!?

俺はここの所疲れてるんだ、一週間寝てたとは言え、自分的には全然休まって無いし!

だから、ここは考えもくそも無く突撃と言うわけだな。

考える事がもしあるとすればそれは、


「にいちゃ!後ろから敵の騎兵が迫ってるであります」

「くっ!こちらは徒歩。街道で騎馬に勝てる訳が……だが今更森に入っても無意味で御座る」


「うん、来るのは判ってた。……で、アリス。配置は?」

「もう付いてるで有りますよ!そろそろ勝手に動くはずであります!」


次の瞬間、俺たちの背後で一本のロープが勢い良く張られた。

……丁度膝くらいか。人間なら避けられない訳が無い程度のブービートラップ。

だが、相手は勢いに乗った騎馬隊だ。

止める事も出来ず引っかかったロープに脚を取られ無残に落馬していく。

だけでなく、後ろから後ろから次々と騎馬隊が仲間の体に遮られ一気に団子状態と化し、

その上側面から射掛けられる矢に貫かれる有様。


「よぉし!撤退に加われ!」

「皆、ロープ待ちご苦労様であります!」


さて、スノマタ城の攻防で俺達が失った兵士は十五名。

そして村正を迎えに行ったのは二百名。

トレイディアへの連絡は数人居れば十分だ。


で、残りはこうして撤退援護に回してたわけだ。

頭使うならやっぱ、敵の被害を拡大させる事を考えるべきだよな。


因みに追撃が騎馬ならこうして木と木の間にロープを張って落馬させ、

弓で追撃されていたら木を切り出して作った大盾を背負って俺たちの後ろに続かせる。

そして相手が歩兵なら、街道両脇から矢を射掛けさせてから独自に撤退させるつもりであった。


「あばよ、とっつあーん」

「逃げるでありまーす」

「きちんと罠は仕掛けていたので御座るか。抜け目無いで御座るな!」


ついでに後ろ走りしながら、適当に矢を食らわせとく。

馬と人間が不気味なオブジェと化しているが……まあ、直ぐに助けが来るだろうし。

出来れば全滅させておきたいが、欲をかいて良い事なんかある訳が無いからなあ。


そして、全力で走り続け太陽が西の空に沈む頃。

俺達はどうにか救出部隊へ合流する事が出来たのである。


……。


それから更に数日後。再編成が終わった俺達は第四回防衛会議に出席していた。

……但し、カルーマ商会の代表の椅子には俺が総帥代行として座っている。


「さて、カルーマ総帥は急用にて出席できぬと連絡が来たで御座る」

「総帥の代わりはこの俺、カルマが務める」


下座のほうから、やれ"逃げた"だの"何でただの部隊長が"だの色んな野次が聞こえる。

連中、後でしめる。とは言わない。

気持ちは痛いほど判るから。

なにせ、行方不明のブラッド司祭を除いてトレイディア側でほぼ無事なのはうちだけだしな。

腹立たしくもなろうってもんだ。

……まあ、だからこそ前線に出たカルマとしてここに来たわけだが。


「皆、静かにするで御座る」


村正のひと言で場が一気に静まり返る。

冒険者と言ってふらふらしてる放蕩息子と思われていた今まででは有り得なかった事だ。


……トレイディア大公が相変わらず生死の狭間を彷徨っているのに軍は未だ崩れない。

その理由こそ今のコイツ。次期当主として急速に認められた村正の存在なのである。


圧倒的な劣勢において粘り強く戦い続け、

孤立状態から救出部隊が駆けつけるより先に敵陣突破して無事帰還。

そんな英雄譚真っ青な大活躍は、敗戦の傷を出来るだけ小さくしたい軍の意向もあり、

ここ数日、相当大々的に宣伝されていた。


無論カルーマ商会も新聞を使って協力したよ?大儲けだったね、うん。

え?俺の手柄?やだなぁ、ただの救援部隊の隊長にそんな栄誉が与えられる訳無いじゃん?

強いて言うなら、トレイディア軍の態度が一気に仲間に対するそれになった位か。

いや、これでもかと言うくらいに大きい事だけどね?


まあ、つまり村正の評価がうなぎのぼりで凄い事になってるわけ。

……ここまで来れば、カルーマとして胡散臭がられるより俺として出たほうが良いと踏んだ訳だ。

何せ冒険者仲間でもあるし。


「カルマ殿は当初より多数の武勲を立て、この場に居る事に何の問題も無いで御座る」

「それに彼は冒険者として驚異的な依頼達成率を誇る上、カタ様が友と呼ぶお方にございます」


空気が変わる。……どうやら俺がここに居るのは認められたか。

いやあ、カルーマを胡散臭そうに見てたバイヤーさんが、

俺に関しては親愛の笑みまで見せてくれてますよ?

流石に主君を助ける為に敵陣まで突っ込んで行ったと言うのはインパクトが大きいか。


……いや何と言うかもう、ごめんなさいとしか言えないんだけど。

しかも俺の暗躍の結果だし。そんな訳で声に出すわけにも行かないのが辛いな。


「では、再編成の結果を報告して欲しいで御座る」


「正規軍は残存千名です。余りの端数は衛兵隊の指揮官として運用します」

「正規軍扱いだった衛兵隊は独立した部隊の扱いとなります。残存数は二千五百名」

「カルーマ商会私設兵団は現在八百名動かせるぞ」

「傭兵部隊は半数の千名が現在も手元に残っております」


うちの兵力が少なめなのは、防衛戦などで特に疲労の激しかった奴らを休ませたからである。

……精神的な疲労は馬鹿に出来ないし、

目の前で死なれるよりは戦力に入れないほうがお互いの為だと思うのだ。


さて、そう言う訳でトレイディア軍の現在の残存兵力は五千三百名か。

司祭の部隊が戻って来ないが、もし無事なら二千の兵士がこれに加わる事になる。

二週間前の第三回会議時点での兵力が一万も居た事を考えると、

僅かな時間で随分疲弊してしまった物だと思う。

まあ、準備不足で始まった三ヶ月前の防衛戦時は、戦える味方が三百しか居なかった。

それを思うと贅沢でしかないのだが。


「それで、敵はいかほどで御座るか?」

「はい、カタ様。傭兵隊はカルマ殿のご活躍で傭兵国家に撤退しております」


あ、周囲から何かため息が漏れたぞ?

いや、城に篭っての結果だからあんまり気にしても仕方ないと思うが。


「騎士団は……前回の、あの戦いで千五百名ほど被害を出したようで御座るが」

「残念ながら別働隊の内二千五百名が帰還しているため、およそ三千残っております」


ほぉ、ブラッド司祭も真面目に仕事してるな?

何だかんだで五百名の格上の相手を倒したんだからな。

……何か企んでるような気もするが、今は置いておこう。


「志願兵部隊は……無傷の七千名の訓練がとうとう完了したようで御座る」

「しかも、その後も志願兵は増え続けその他に訓練が完了していない兵が五千もあるのだとか」


な、何か根こそぎ徴兵でもしないと出てこないような数値だな。

確か騎士団領の人口は数万人程度のはずだがよく志願兵でそこまで集めたもんだ。

……本当に志願兵なのかは怖くて聞く事が出来ないけどな?


「つまり、騎士団三千と志願兵一万二千……戦闘前と数は変わらないので御座るか」

「まあ、その内五千名は訓練もまだなんだろ?脅威に値しないさ」


ちょっと周囲が塞ぎこみそうなので軽口叩いておく。


「それでも敵は一万。しかもその内七千は無傷で御座る。」

「でも、負ける気は無いんだろ?」


「無論で御座る。実はルーンハイム殿が帰国なされる際に父上の名で親書を託して居たで御座る」

「ルンに?何の?」


「援軍の依頼で御座るよ」

「いや、マナリアと教団は不可侵条約結んでるだろ」


あ、何か村正がニヤリとしたぞ。

……何考えてるんだか。


「そもそも、現在の聖堂騎士団は異端……つまり教団から弾かれた者達で御座る」

「だが、それだけだと何かあった時に揚げ足取られかねん。マナリアが動くとは思えんが?」


「ふふふ、約定の内容を貴殿は聞いていた筈ではなかったか?」

「……あ、そう言えば兵力の増強は無しとか言ってたような」


成る程な。聖堂騎士団……教会側が約束破ってるんだから問題無い訳か。

いや、むしろ問題あっても教団が消滅すれば関係ないとも言える。

そして、その話を公式な場で出したと言う事は、つまり。


「色よい返事、貰えたのか?」

「第三回会議時点で既にリチャード殿から"ルーンハイムと軍を遣わす"と連絡があったで御座る」


ほぉ。親書の返礼もルンにやらすかリチャードさん?

まあ、なんにせよ援軍があるならかなり楽になるな。


「と言う事で御座る。援軍は既に半月前にマナリアを出立している」

「街道沿いにカタ様直卒の軍が行進、援軍と合流し一気に敵領内になだれ込む、が作戦骨子です」


成る程。

このまま援軍到着まで後半月待つより、こちらも出発して向こうで合流することを選ぶか。

……敵の新兵五千の訓練期間を与えないのは良い判断だと思う。


そうだ。そう言う事情なら俺の部隊を前線から遠ざけられるかも知れないな。

流石に手勢を失うのは未だ慣れないでいる。

長い戦闘や森での潜伏に疲れきってる奴もいるしな。出来れば街の守備に回してやりたい。


あ、良い事思いついた。


「村正。だったら俺をお前の部隊に加えてくれないか?」

「何と?それは一体どういう風の吹き回しで御座るか」


「いや、俺はやっぱり前線で剣を振り回してるほうが性格に合ってるんでな」

「……部下はどうするで御座るか?」


「あいつらには悪いが街の守りでもさせてるさ」

「承知した。実の所こちらから頼みたい所だったで御座るが……勝手に決めて良いで御座るか?」


「ああ、総帥は俺が説き伏せる。被害が出ないと言えばきっと納得するさ」

「ならば是非お願いしたい!きっと部下達も喜ぶで御座る」


確かにそうかも知れないな。

何せあの城壁の上での戦いからこっち、軍の連中からの覚えはめでたくなるばかりだ。

まあ、こちらとしては人の命預かるより自分の命だけ預かってるほうが気楽だしな。

じゃあ、そういう事でよろしくという事で。


……結局その後は特に目立った事も無く、出撃する部隊を決定し会議は終了した。

正規軍と傭兵は全軍。衛兵隊も最低限残しただけのまさしく全軍が出撃する事が決まった。

その総兵力、およそ四千五百名。


因みにマナリアからの援軍はおよそ三千名だと言う。

合わせても僅か七千五百。これで敵軍一万、最悪では一万五千と戦う事になる。


防御は殆ど俺の部隊だけだ。大丈夫なのかよと思わないでもないが、

村正は笑ってこう言ったのである。


「カルマ殿の兵なら大丈夫で御座ろう!」


くっ、これじゃあ何としても期待に応えたくなっちまうじゃないか。

……アリサ達と相談して勝率上げる策でも練るとしますか。


……。


「アリサ、来てたのか?」

「兄ちゃが悩んでるようなので勝手に駆けつけてきたよー」


……商会まで戻って少し考えてみたが、自分の私兵を逃がしたのは良いとして

俺は正直この戦いの勝率が高く無い事を気にし始めていた。


「いや、何と言うか……普通に敵の数が倍じゃないか」

「そだね。しかも味方は連携した事も無い」


そういう事だ。何時分裂してもおかしくない。

これで勝てるとは思えないのだ。

……ってアリサ。何をふんぞり返ってる?


「えへん!兄ちゃはあたしに感謝しなさい!」

「……ほぉ。この状況下を変えうる策でもあるか?」


「策は無い!」

「カエレ」


「策は無いけど兵はある!」

「なんだって?」


聞いてみるとアリサはこっそり俺名義でサンドール王に援軍の依頼をしていたと言う。

名目?聖堂教会が取り出した通行税はサンドール経済に多大なダメージ与えましたが何か?

そんな訳でホルスを通じて金を国王に握らせて軍を動かしたらしい。

流石はアリサだ。やっぱり頼りになる。


「既に一万ものサンドール兵が北上してる。戦闘直前に合流させるね」

「……いや、戦闘中に背後を突かせろ。奇襲してやるんだ」


「了解!じゃあタイミング見計らって指示出せるようにしておくね」

「ああ、頼むぞアリサ」


なら、安心だな。

そう思い、俺は翌日の出撃に備えて眠ったわけだ。

……何か、最悪のイレギュラーを忘れてるような気もしていたがな。


……。


さて、会議の翌日にトレイディアを発った決戦部隊四千五百名は街道を進み、

一週間後には敵本拠地である"大聖堂"の北に陣地を構えていた。

後は南下してくるマナリアからの援軍三千と合流し、敵本陣一万と決着をつけるのみ。

更に暫くすれば更に南からサンドール軍一万が敵の背後を突く手筈になっている。

これならばたやすく負けはすまい、そう思っていた。


だが、これが中々上手く行かないものだ。

……俺は余りに予想外の展開に頭を抱える羽目になっていた。


「……何故サンドール軍が大聖堂を襲っているで御座るか?」

「俺が知るかよ村正……アリサ?」

「えーとね。サンドール人は基本貧乏だから……略奪止められなかったみたいだね!」


滝のような汗をかきながら誤魔化すなアリサ。

哀れな事に聖堂騎士団一万五千は本拠地を急襲され、押し出されるように北に陣を敷いている。


「それに、マナリア軍は何をやっているんだ!?」

「えっとね。蛸頭が傭兵王を"再度"雇ったらしくて……側面攻撃食らって壊乱中だよー」

「傭兵王は二千の兵を率いてるようであります!」


……逃げ帰った連中が居るからってそいつらを再雇用するとか。ブルジョアスキー侮れねぇ。

もしサンドール軍が居なかったらただでさえ数が少ない中好きにされてたんだろうなぁ。


「あ、因みにブラッド司祭の居所がようやく掴めたよー?」


「それを早く言えヴァカタレ」

「何処に居るで御座るかあの不気味な男は?」

「「「あの腐れに天罰を!」」」


何か村正の側近集が熱くなってるが、奴はどっちかと言うと天罰与えるほう……まあいいか。

取りあえず何処にいる?変な所で出てこられちゃ怖くて敵わんのだが。


「ういうい。ずっと北の都市国家を占領してる」

「「「何やってるんだあいつは!?」」」


いや、待て……それって?


「アリサ。もしかしてあの男、新しい本拠地を得るつもりか?」

「みたいだね。今回の略奪で得たお金と連れてきた人達で一国家でっち上げるみたい」


「出汁(だし)か。拙者達全員出汁で御座ったか!?」

「でも悲しい事に、会議でやると言った事はきっちりやり終えてるね」

「「「野郎……城門の時の恨み、何時か晴らす、何時か泣かす!」」」


は、は、は……根こそぎ略奪した金で新しい根拠地でっちあげかよ。

有り得ねぇ、本当にとんでもないウルトラC(死語)をやってのけやがった。

だが、まあ


「要するに邪魔はしないんだろ?」

「それは間違い無い。今も大司教の縁者を枢機卿に据えて新体制作ってるみたいだし」

「……なら良いで御座る。邪魔さえしなければそれで」

「「「同意見です!閣下!」」」


これが俺たちの偽らざる本音だったり。

それに、敵の新本拠地は傭兵国家の更に北。国境が接して無い分安心だからなぁ。


あれ、待てよ?

そうすると現在騎士団本拠はサンドールが占領してるんだよな?

なら、やるべき事は一つだろう。


「アリサ。油と焚きつけ用意しとけ」

「あいよ。で、何燃やすの?」


『大司教』

『委細承知』


取りあえず、諸悪の根源が諸悪の根源を叩き潰す。と言う事で。

まあ要するに。チャーンス、と言う訳だな。


……。


さて、大体の現状は以上だが、位置関係がわかり辛いと思うので、

ここはひとつ周辺の様子を整理してみようか。


まずトレイディア軍四千五百がある。

その南に聖堂騎士団一万五千の陣があり、

更に南には大聖堂を占拠するサンドール軍一万が居る。


そしてトレイディア軍の北西ではマナリア軍三千と傭兵国家二千が戦闘中。

因みに更に北ではブラッド司祭率いる部隊が無名の都市国家を国ごと強奪中である。


「何と言うか押す」

「何と言うカオス、じゃなくて?」


いや、本当にカオス過ぎて頭の回転が止まってたよアリサ。

……まあ、ここは取りあえずトレイディアに勝たせる事だけ考えようか。


「って言ってる場合じゃねぇ!」

「何事で御座るかカルマ殿!?」


何事、どころじゃないだろ村正!?


「マナリア軍が奇襲受けてやばいんじゃないのか!?」

「そういえばそうで御座った!」

「援軍を見捨てたらそれはそれでまずいで有ります!」


糞!欲出して手勢を置いてきたのがそもそもの間違いだった。

しかもトレイディア・マナリア間の文書には"ルーンハイムと軍を遣わす"との文面もある。

……見捨てる訳には行かないだろ常識的に!


「……カルマ殿、行って貰えぬか?」

「村正!?」


「幸いサンドールは商会が呼んだ味方なので御座ろう?少しの兵力を裂く余裕はあるで御座る」

「済まない」


「何、済まなく思うのはこちらの方。折角来てくれた援軍で御座る、よろしく頼むで御座るよ」

「ああ」


村正は傭兵部隊の半分、五百名を俺に預けてくれた。


「ふっ、傭兵には傭兵をぶつけてやるで御座るよ」

「ま、精々寝首かかれないようにするさ。……感謝する」


そして俺は走り出す。

お供は五百の兵と蟻ん娘二匹。

ふと振り返ると既に決戦は始まろうとしているようだった。


夕刻まで走り続け、悲鳴と怒号、そして土煙が見えてきた頃、

俺ははやる気持ちを抑えながら部隊に小休止を取らせていた。


「……焦って突っ込んでも、疲れきった兵じゃ意味が無い」


マナリアの兵たちはその三分の二が魔法兵のようだ。

そして、前衛の兵の錬度はけして高くない。

……次々と騎馬傭兵達に突破され、詠唱中の無防備な所を狙われ、倒されていく。


「防壁とか使えるのはごく一部のエリートだけみたいでありますね」

「しかも前衛が弱くちゃ折角の火力を生かせないか。騎馬隊との相性は良くないようだな」


それでも戦列が崩れる様子は無い辺り、相当優秀な指揮官なのだろう。

……これで無能な指揮官だったら、何はともあれ突っ込まねばならなかっただろうし、

ありがたい事ではあるが。


「さて……疲れは取れたよな。突っ込むぞ?」

「僕らもプロだからね。このアルシェ隊、お金の分はきちんと働くんだよ?」


「信じていいんだよな。相手はお前らの総大将だが?」

「あはは。幼馴染を見捨てるほど落ちちゃ居ないよ。ギルティさんちのカルマ君?」


はて?母親の名前まで知ってるコイツは誰だっけ?

確かにどこかで会った事があるような。


「いや待て!六つの時に夜逃げしたお隣さんの息子か!?」

「娘だよ!と言うかそっちじゃなくて10歳の時に引っ越した逆の家だよ?」


なんと。俺にも幼馴染の女の子が居たとは。

……ここで再開したのも何かの縁か?


「いやあ、カソから逃げ出しても仕事が無くてさ。気付いたら傭兵暮らしだよ」

「苦労してるなお前も。と言うか他の連中は」


なんで目を逸らすんだアルシェ。

いや、大体わかるけどさ。


「三割は傭兵として潰し合い。四割は飢餓や病気とかで亡くなったよ」

「残り三割は……?」


「山賊、かな?それとも盗賊か」

「は、まあ仕方ないわな?何の策も無く街に入れる訳じゃないし」


ふう、カソの村を思い出すのは久しぶりだが、よくよく考えてみればいい奴ばかりだったと思う。

村八分となっていたのは確かだが、俺も言葉も満足に話せないおかしな奴だったしな。

……今なら判る。向こうもどう接していいのかわからなかったんだと。

まあ、別に苛められてたわけじゃないし、それがどうしたって感じだが。


「しっかし、カルマ君も出世したよね。聞いたよ?大きな商会で大きな仕事してるって」

「まあ、縁故採用の雑用係だけどな」


「それでも凄いよ?……僕が村から去る頃までは、言葉も満足に喋れなかったのに」

「ああ。だから外から来たお客さんには適当に相槌打ってたりもしたな」


あの頃は苦労していたなぁ。

話せない=日常生活に困る程度の知能しかないと勝手に決め付けられてた。

哀れむような視線が癪だったんで、村の外の人間には適当に合わせてた事も有る。


「うんうん覚えてる。ギルティさんの昔のお友達が遊びに来た時の事覚えてる?」

「えーと、なんだっけ?」


「ほら、ライオネル叔父さんに遊んで貰ってた時に赤ちゃん連れた女の人が来て……」

「あー、あの人か。赤ん坊に妙になつかれてた記憶しかないが」


うん、確か三歳か四歳位の時だな。

母親と話しこんでる間に赤ん坊の世話を任されて、遊んでやってたらやたら懐かれてた記憶が。

……その後その赤ん坊の母親にやたらと話しかけられて困り果てていた記憶もある。


「あの時さ、その女の人が何て言ってたか知ってる?」

「いや?いろんな意味で知るわけ無いだろ」


「ギルティさんは優秀な近衛隊員でしたから、貴方もきっと立派な大人になるんでしょうね~」

「あの時、そんな事を言われてたのかよ」


と言うか俺の母親、元は何処かの近衛隊かよ。

なんでうだつのあがらない農夫のとこなんぞに嫁に来たんだ?

世界は不思議に満ちてるなぁ……と思う。


「でも、本当に立派になったよカルマ君。ちょっと僕の好みかも」

「はいはいわろすわろす」


む。どうしたアリサ?おずおずと俺の袖など掴んだりして。


「あー。楽しそうな所悪いけど。兄ちゃ……苦戦してるよ?」

「あああっ!忘れてた!突撃だ、突撃!」

「やばっ!話し込んじゃった!お給料減らされちゃうよ!?アルシェ隊、急げっ!」


ふと正気に戻ると眼前の戦況は悪化の一途を辿っていたりする。

……このタイミングで幼馴染と再会とか。どんだけ間が悪いんだ!?

神様は俺が嫌いなのかよ!?


……そりゃあ嫌われるか。


「取りあえず、よく休憩取れただろ!?」

「「「おおおっ!」」」


「……手柄立てた奴には特別ボーナス出すから期待しとけ」

「「「「「「おおおおっ!み・な・ぎ・って・き・た!」」」」」」


取りあえず、救援が遅れた分を取り戻す為兵士にカンフル剤を投与。

士気爆発を起こした所で傭兵隊とマナリア軍の間に割って入る!


「今回救援隊を預かっているカルマだ!マナリアの指揮官殿は何処か!?」

「うむ!良くぞ来てくれた。我こそがルーンハイム12世。ルーンハイム公爵家の当主である!」


……あ、お父さんでしたか。


続く


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