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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 22 聖俗戦争 その3
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/13 19:40
幻想立志転生伝

22

***冒険者シナリオ8 聖俗戦争 その3***

~凶悪!スノマタ城傭兵苛めの陣~

《side カルマ》

文字通り一夜にして築かれたスノマタ城に篭って三日ほど。

初めは驚いてばかりだった配下連中もどうにかこうにかここに慣れて来たようだ。

そんな時、アリスがバタバタと俺の部屋に飛び込んできた。


「敵さんの再編成が終わったようであります。侵攻は明日の朝であります」

「そうか……皆に伝えとけ」


アリスからの連絡によれば敵傭兵部隊のうち、

比較的軽症の二千五百名ほどが再編成されこちらに向かっているそうだ。

そして重傷者三百名は暫く復帰は不可能らしく、傭兵国家に撤退した。

よって死亡した二百名を含め、こちらの現在での戦果は敵五百名となる。

……空になった木箱は既に回収。今夜にでも再度スズメバチに入って貰う事になっている。

木箱には最初から側面に穴を開けて自力で出入りできるようになっていた。

今回は飛び出す穴を増やした上で倉庫に放り込んであるので、それでまた敵を減らせるはずだ。


「倉庫の罠はそれで良いとして……何日篭れる?」

「食料は一週間分、水は二週間分用意できてるであります」


戦闘中に地下や地上一階を占拠された場合地下からの補給は使えなくなる。

味方を含めて感づかれるリスクを考えれば今後は出所の判らない補給は慎むべきだろう。

……そうなると、継戦限界は食料の尽きる一週間後か。


「武器なんかはどうなってる?」

「弓が三百に矢が十万本、医薬品や包帯なんかも一週間分は余裕であります!」


「その他、用意した物は?」

「例の物は両方問題無し。槍の予備は二百本で有りますね……油は大壷3杯分であります」


ふむ。まあ、多少少なめだが何とかなるかな?

何ともならなかったら逃げ出すだけだし。


「それで、味方の状況は?」

「私兵団の残り五百人は、訓練が終了したんで街の守りに付かせてるであります」


「それでいい。トレイディアの城門は修復されればかなり強固だ。前線に出るよりは安全だな」

「で、教団志願兵が二日前から移動開始してたけど……最初の村を焼いたであります」


「……本当に襲ったのか。……って焼いた!?」

「うん、焼き討ち。"異端者は消毒だー"とか言いながらでありますね」


まじかよ?

そんな事して後々大変な事になるとは思わんのか?狂ってやがる。


「それに怒り狂った騎士団は精鋭の内三千名を動かして現在も追撃中であります」

「追いつけそう……いや、追いつかれそうか?」


敵のほうが正義っぽい行動様式なのでどうしてもこう言う聞き方になっちまうが、

まあ止むを得まい。と言うか、俺も分類的に悪党以外の何物でも無いし。


「追撃に合わせ、ブラッド司祭は部隊を百名ごとの20の部隊に分けたであります」

「それなら全軍が補足される事は無いか……いや待て、それで統率取れるのか?」


教団の志願兵は元々一般市民。

二ヶ月程度の訓練でそこまでバラバラに動かせるほどの錬度が得られたとは思わんが?


「命令が単純明快"各自の担当の集落を焼け"でありますから」

「なるほどな。百人ごとで別な場所をそれぞれ焼き討ち……待て」


それって、つまり片っ端から焼き払っていくって事じゃないか?

大丈夫なのかよ、そんな事して。

人事とは言え、信者が根こそぎ居なくなる様な気もするが。


「しかも、焼き討ちした集落の倉庫を襲い、物資の略奪を行ってるであります」

「……戦術的には正しいな。うん、正しいけど宗教家がそれやっちゃマズイだろ常考」


前言撤回、奴はやっぱり狂ってる。

だが狂っては居るがやる事に隙が無い。

全く、洒落にならん事この上無いな。


「……で、本陣は動いたか?」

「トレイディア軍は五千名が昨日の朝に街を発ったであります……敵勢力圏侵入は明後日の予定」


流石は正規の兵隊だ。

騎士団もそうだが俺たちが五日間かかる行軍を三日で済ますか。

錬度って奴は本当に大事だなと切に思う。


「要するに……こっちで傭兵全部を引き付け、志願兵が騎士団の内三千を引っ掻き回してる、か」

「騎士団側も商都軍本体が動いてるのには気付いてるであります。残留騎士団二千で迎撃予定」


「何、精鋭騎士団で迎撃するのか?」

「どうやら向こうの志願兵はまだ実戦に耐えないみたいでありますね」


それは予定外。

てっきり騎士団を温存して数に勝る志願兵をぶつけてくるかと思っていたがな。

もしくは残留全軍九千全部でかかってくるか。

……因みに全軍で正規軍を迎え撃つ場合、俺が砦を捨てて敵本部を急襲する予定だったが、

七千名も残られちゃそれも出来ないか。


「……まあ、それでも五千対二千か。何とかなるよな?」

「それはあたしには判らないで有ります。ただこれで負けるならそもそも勝ち目無いであります」


違いない。

双方共に精鋭部隊。錬度にまだ差が有るとは言え二倍以上で正面切って戦いそれでも負けるなら、

兵の質の差があまりにも大きい事になる。


「まあ、そこはトレイディア大公の采配に期待しよう。人を統率するのには慣れてる筈だしな」

「取りあえず、一晩で決着は付かないと思うし先ずは様子見であります」


「ん?長期戦になりそうなのか」

「騎士団側は武器食料を多く持って陣地構築中。地の利をもって戦うみたいであります」


成る程な。馬防柵や空掘があるだけで防衛力は相当に高まる。

数が半分以下の騎士団側としては数の差を埋める為の必須の策だろう。

……まあ、俺も似たような事をしてる訳だ。敵がやってこないわけが無いわな?


「騎士団側は密集して円になってるで有りますね」

「会戦の場所は比較的広い平原地帯のようだな。恐らくトレイディアは包囲狙いか?」


「多分。アリサもそうだと思う、って言ってるであります」

「そうか。まあ向こうは任すしかないし自分の敵を相手にすることを考えるか」


確かに向こうが勝ってくれないとこっちもヤバイ。

だが、それ以前にこちらが勝たねば意味が無いのだ。

……さて、敵が来るまでまだ時間も有るし、罠をもう少し増やしておきますかね?


……。


翌日早朝。

物見矢倉の上から、見張りが手元の鐘を叩く音がする。

……敵襲だ。


「敵総数は?」

「恐らく二千五百程度ですね」


三階の広間に移動、集まった主要メンバーと共に見張りからの報告を聞いてみる。

……うん、まあ敵兵数は予想通りか。


「先日の罠で五百は減らせたわけだな」

「ですが、それでもこちらの5倍の兵数です」


五百名の敵離脱を知っているのは、この場では俺とアリスのみ。

よって他の連中にはこうやって直接口で伝える必要が有るのだ。

わずらわしいとも思うが、味方にも言えない事情があるのだから仕方ない。


「それがどうした?攻城兵器も無い敵さんがそんなに恐ろしいか?」

「……余裕ですねぇ」


いや、そんなに余裕があるわけ無いだろ常識的に。

ただね。こう言う時指揮官が慌てるわけにはいかんのさ。


「どっちにしろ、いずれは倒さねばならん敵だ。砦に篭れる分有り難いと思ってくれ」

「「「「はい!」」」」


士気を崩壊させない為には安心感を与えにゃならんからなぁ。

……まあ、精々タフな男を演じてやるよ。


「総員、先日指示された配置に付け。先ずは尖った矢でお出迎えだ!」

「「「「おおっ!」」」」


……。


さて、俺自身は三階の屋上に陣取っていた。

横ではアリスが私設兵団の旗を持って微動だにしないで居る。


「……まだ敵は有効射程に入らないか」

「弓矢の射程に入るという事は既に城門まで僅かな距離と言う事でありますよ」


「ああ。要するに油断すんなって事だろ?」

「はいであります。アリサからもそう言われてるであります」


……そっと横を見るとあまり大きくない穴が屋根に開いている。

そろそろ良いかと思い、俺はそこから下……三階に居る部下に声をかけた。


「おーい。そろそろ油を寄越せ」

「はい!良く煮だってますよ!」


ツボに並々と入った煮えたぎった油。

それを兵士の一人が持って屋上に上がってくる。

そして、壷を俺の傍に置きまた降りていく。

暫くすると再び壷が俺の脇に置かれる。

置かれる、置かれる、置かれる……。


「……にいちゃ。そろそろ敵さんが射程内に入るであります!」

「ああ。そうだな」


実際の所、言われるまでも無く怒号が森全体に響いて居やがる。

……とっくの昔に鳥達は逃げ出していた。

そして砦の周りの焼け跡に、森の中からちらほら……そして怒涛の如く人間が飛び出して来た!


「今だああああああっ!火矢を射ろおおおおおっ!」

「「「「おおおおおおおぉっ!!」」」」


初撃は火矢である。それを敵ではなく森に向けて放つ!

実は鳥が逃げ出していたのは敵が来たからではなく、

先日の内に俺達が油を撒き散らかしていたからなのだ。

……流石に近くまで来れば油の匂いには気付かれたろうが、それでも逃げるという手はとるまい。

兵力差を持って薙ぎ払えると思っているだろうが、そうは問屋が卸さんぜ?


「火が付きましたっー!」

「よし!この周囲は既に一度焼けた後だ。こっちまで火は来ないから安心して射続けろ!」


一度全てが焼け落ちた森の中の十円ハゲとでも言うべきこの周囲一帯。

まあ、そう言う事を考えて焼け野原の上にこの砦を作った訳だ。

さて、ここでどれだけ減らせるかで今後が変わってくるな……。


「隊長!」


っ!?……いきなり怒鳴り声?

一体どうした!?


「敵の一部が板を持って突っ込んできますよ隊長!」

「板?……空掘を越えるつもりだな?いいだろう!俺がどうにかする」


三階から見下ろせば、一部の敵が確かに長く丈夫そうな板を持って突撃してきている。

今朝早くに敵の斥候がこの城を目撃していた筈だし、それで落とせると思ったか?

……攻城戦を想定してた筈は無いから間に合わせだろうが、

それでも有り合わせで的確な手を打って来やがる。が、それにやられてやる義理は無い!


「先ずは兵士を排除する!油、撒けーっ!」


空掘に長い板を乗せ、その上を渡ろうとする傭兵に対し油壺から煮えたぎった油が投下される。

その熱量は熱湯の比ではない……悶絶し、そのまま堀の中に落っこちていく。


「悪いがその空掘、深さ10mはあるからな?落ちたらただじゃ済まないぜ!」

「隊長!次々とやってくる敵が……今度は板を斜めに立てかけています!」


再び投下される煮えた油に、二人目の挑戦者が地の底に叩き落される。

だが、堀にかかった橋と二階に立てかけられた板はそのままだ。

次なる者が勢いをつけて急な坂道と化した板を登り、遂に二階に手がとど


「届かせる訳無いだろう!」


ここでアリサに作らせていたモノ、第二段の登場の時間。

そこに現れたのは大鉄球。しかも、とてもとても長いチェーン付きだ。

まあ、作らせたというより鍛冶屋に製作を依頼させていただけだが。


「橋ごと落ちろっ!」

「うがあああああっ!?」


ともかく地上三階から投げ落とされた鉄球、その大きさは巨大なスイカの如し。

一階の攻略をショートカットしようとした不埒者の脳天を貫いたのみに飽き足らず、

その足場たる板をも粉砕し、それらを地下に叩き落していく。


「しかも。引き上げれば再攻撃可能なリーズナブルな一品だったり」

「一抱えも有る鉄塊に潰されたら、人間なんかひとたまりも無いであります!」


長期戦になる事を考慮して用意した代物だが余りに重すぎて、

強力をかけた俺の他、力自慢数名しか扱えない欠陥品になってしまったが。

それでもこの戦いでは役に立つだろう。


要するにだ。……そらそらそら、回れ回れ回れーーーーっ!


「名づけて超重量級大鉄球"たまちゃん"なり!因みに命名はアリシア!」

「ただ今、にいちゃが斜めにぶん回して物見矢倉ごと敵十数名を吹き飛ばしたであります!」


チェーン、長すぎたかな?ちょっと扱いずらいような。

まあ、威力は折り紙付き。勢いさえ付けば半径25m以内に入った奴は弾き飛ばされる!

それだけだ!


「にいちゃが北の敵は一人で押さえてくれるであります!皆はそのほかの三方向であります!」

「矢が尽きんばかりに射ちまくれー!」

「敵を一人も城に入れるなーーーっ!」


いや、きちんと狙えよ。

十万本の矢なんて、三百の弓で射続けたら三百回位で無くなっちまうから。

……物資は有限なんだぞ?


とは言っても仕方ない。

実戦経験無しにも拘らずこんな最前線で戦ってくれてるだけ有り難い話だからな。


「気合だけは負けるなよーーーッ!」

「にいちゃ!いい加減、鉄球の鎖から物見矢倉の残骸は取り除くでありますよ!?」


いや、別にいい。

攻撃範囲が増えまくってるから。


「仕方ない。にいちゃの"たまちゃん"に当たらないよう、皆必死で避けるでありますよ!」

「あ、問題はそっちか」


確かにそうだな。味方に当てるわけにはいかん。

でも今更回転を止められないから皆、全力で避けるように。


……。


さて、戦闘開始から三十分程が経過した。

……周囲の森はいい感じで燃えている。

傭兵達は焼死を防ぐ為に結構な人数を消化に回さざるを得なくなり、

結果的にその戦力を集中できずに居るようだ。


そして現在俺は鉄球を振り回し続けパンパンに張ってしまった筋肉を休めるべく、

三階内部で水に両腕を漬けている。


「……五十人は弾き飛ばしたかな?」

「敵の被害は大体百人ぐらい。味方には10人の重傷者が出てるであります。」


戦争ともなればかすり傷など傷の内に入らない。

重症とまで言われる以上、暫く戦える状態ではないのだろう。


「腕を冷やし終えたら治癒をかけに行く。その旨伝えといてくれ」

「了解であります」


幸い、城砦の防御機構は今でも最外郭部分が機能し続けてくれている。

まあ、空掘を突破されるまでは安心だろう。

だが土塁は土の為、弓矢には強いが直接崩されたら脆さを露呈するだろう。

内部に侵入されるまでにどれだけ削れるか……。


「敵本陣がアレの射程内に入ってくれればいいがな」


現在はまだこの部屋の隅に置かれたままの"アレ"を見て思う。

……コイツの出番までに突破されるんじゃないぞ、と。

それに、内部の仕掛けを使う為には森の火が消えていて欲しい所だ。

必要だから付けた火だけど……勝手ながらそれまでには消えてて欲しいもんだな。


……。


さて、篭城二日目の朝だ。

流石に夜間攻撃は難しいらしく、敵は日が暮れる頃には撤退していった。

……アリサからの連絡では敵の損耗具合は死者百名、再起不能三百名、重症六百名。

再起不能者はその場で殺され、重傷者は傭兵国家に撤退して行ったと言う。

この損耗ぶりは、やはり攻城兵器無しで城攻めをしている故だろう。

既に敵伝令が騎士団領に走り出した。

となれば……そう遠くない内に攻城兵器がやってくるに違いない。


対してこちらは死者こそ出ていない物の、重症者が二百人近い。

弓の数に対してまだ残存兵力が上回っているのでまだ防衛力の低下は見られないが、

本日だけで矢の三分の一を消費している上に、

味方の治療をしていて気付いたが、重傷者を搬送する為にはそれ以上の健康な味方が要る。

要するに、これでは逃げられたもんじゃない。

……重傷者の内30人は何とか治癒で戦線復帰させたが、俺の魔力ではこの辺が限界。

しかも火球一つ使う魔力の余裕も無くなってしまう始末だ。


「マズイよな。思ったより防衛戦の指揮って難しいぞ?」

「想定外が多いのは仕方ないでありますが……このままでは三日目で矢玉が尽きるであります」


「それ以前に一日で治癒しきれない重傷者が百五十人以上……三日で戦える奴が居なくなるな」

「……継戦限界を三日に下方修正。あたしは一階の怪我人を二階に運ぶで有ります」


「ちょっと早いが仕方ないか。よろしく頼む、それと物資は全て三階に上げろ」

「あいあいさー。であります」


自室でアリスと頭を突き合わせているが、どうにも良い案が出てこない。

さて、どうしたものか?


「隊長!敵がまた攻めてきました」

「ちっ……取りあえず目の前の敵を片付けるのが先か!」


敵出現の報告を受け、おれはまた三階屋上に駆け上がる。

……不安そうな部下連中の顔が並んでいるな。


「おい!俺が来たからには傭兵如きに好きにさせはしないぞ。俺に続けっ!」

「「「お、おおおっ!」」」


景気付けに叫ぶと雄雄しい掛け声が次々と上がる。

よし、まだ士気は高いな。コレならまだいける!

更に勢いをつけるべく、俺は弓を手に取り強力を詠唱。

そして輪ゴムでも引っ張るかのように次々と矢をつがえ、放っていった!


「凄ぇな隊長……10連射かよ!」

「敵の先頭に吸い込まれてった……次々倒れてく!コレならいけるぞ!」

「よぉし!俺もいっちょ隊長に続くぜ!」

「俺は折角だからこの赤い弓を選ぶぜ!」

「……いや、それ仲間の血……まあいいけどな」


よし、自信が付いたよな?

ならいい、迎撃だ!


……。


二日目、戦闘開始から二時間が経過した。

太陽が脳天を刺激しだした頃……敵陣に大きな動きがあった。


「あ、あれは……傭兵王ビリー!」

「敵本陣が出て来たであります!」


要塞正面の森をかきわけ、明らかに精鋭と思しき集団が整然と現れた。

但し、その配置は昨日出来たばかりの焼け跡でありこちらの弓の射程からは遥かに遠い。

だがしかし、その五百名ほどの部隊の高い士気と錬度は遠目でも判る。


……それは正に軍隊。

傭兵としての屈強さに軍人としての行動様式を備えた精鋭中の精鋭。

それを目にしたこちらの雑兵が竦み上がるのが見えた。


「……前回は連れて来なかったが、相手がお前ぇじゃ仕方ねえ」


その中心に位置するは不死身と呼ばれる勇者の一人。


「ククククク!コレが俺様の近衛隊よぉっ!」

「傭兵王ビリー=ヤード。アンタか!」


いや、直接率いてたのは知ってたが……まさか二日目で出てくるとはな。

……ヤバっ。味方がかなり怯えてやがる。流石に伝説の勇者様は居るだけで違うか!


いや、まあ良いんだけどね。


「と言う訳で、いつぞやの借りを返させてもらうぜ?」

「だが断る」


あっさりと言葉をかえした俺が背後を振り返ると既にアリスが蟻の怪力を利用し、

"アリサに頼んでいた物第三弾"を三階から引っ張り出して来た所だった。

……万一破壊される事を恐れて中にしまっていたが、

こんなに早く敵本陣を射程に収める事が出来るとはな。


「はい、にいちゃ……矢、と言うか槍」

「ようし!……アリス、残りの三基も持って来るんだ!」


保護用の布を取り去り組み上げられたその姿はまさに巨大な弓。

攻城兵器にして防衛兵器でも有る据え置き式の大型クロスボウ。

その名をバリスタと言う。


今回の戦いに合わせ、洋館地下より発見された書物を元に作成した物である。

幸いこの世界にはこの手の"兵器"的な発想は無く、

弓矢も、人の手で運べる程度の大きさに収まっていた。

俺はそれを知った時、しかるべきタイミングで使用できれば強力な戦力になり得ると判断し、

秘密裏に試作品を作らせていたのだ。

……この四基はその中でも使用に耐えうると判断された物である。

特に俺専用として製作された一番機は、強力をかけて運用する事を前提に作ってあり、

強靭な弦を直接引き絞る方式を採用。

手持ちにするには巨大過ぎる弓から放たれる威力と射程はそのままに、

バリスタ・クロスボウ双方の弱点である速射性能を補う形となっている。


それ以外の三基はてこを使い、常人の腕力でも運用できる通常型だ。

以上四基のバリスタが本防衛戦の目玉である。


「そらっ!遥か彼方から襲い掛かる槍の恐怖に涙しろっ!」


全力で綱ほども有る太い弦を引き絞り、矢の代わりに槍をセット。

そしておもむろに弾き飛ばす!


「や、槍を矢のように飛ばしただと!?」

「何なんだあの化け物弓は!?」


眼下の一般傭兵どもが何やら言ってるが気にしない。

と言うか、技術レベル的にはとっくに有ってもおかしくない筈なんだがな。

まあ、恐らく魔法と言う便利な物が技術の発展を遅らせてるんだろうなと思いつつ、


おもむろに第二射を放つ!


……最初の槍は敵本陣を飛び越え、僅かにだが森の中に飛び込んでいった。

続いての槍は少し弱めに弾いたが……敵本陣中央の右よりに着弾。

咄嗟に大盾を構えた傭兵の胴体を盾ごと貫いて物言わぬ骸に変える。

……やはり普通の直槍であるせいか?やはり命中率とかにはまだまだ難があるようだな。

本当は傭兵王自身を狙ったんだが。


「凄い!凄いよ隊長!」

「洒落になって無いぞコレ!?」


部下の士気は回復したようだ。これだけでもこの場に出した意味はあっただろう。

眼下の傭兵達も動揺してるな。

……だが、唯一狙われた張本人達。即ち傭兵王の近衛隊だけは全く動揺した様子が無い。

これは流石と言うべきか。


「二番機お待たせであります!」

「よし、使い方を軽くレクチャーする。当てなくてもいいからとにかくぶっ放せ!」

「「「おお!」」」


続いて運び込まれたバリスタ二番機を屋上にセットし、近くに居た射手に使い方を教える。

そして、今度は二機による反撃を開始した。


「凄い!凄いっす!矢が、と言うか槍が物凄い飛んでく!」

「でも少しは狙うであります!」


さて、じゃあ俺はもう一度放つか!……ビンゴ!


「傭兵王!討ち取ったり!」


俺の視線の先で傭兵王ビリーの脳天に見事に槍が突き刺さり、

側近の手により森の中へと消えていく。

とは言え、本陣は全く動揺する気配が無い。

……案の定暫くすると右側面側の森からビリーがまた走り出て、

また本陣中央に居座ったようだ。


「……普通なら大将が射殺された時点で軍自体が崩壊すると思うんだが」

「と言うか、何で森の死体はそのままに次の本人が現れるのかが不思議であります」


「まあ、あの傭兵王で勇者だしなぁ」

「勇者じゃ仕方ないで有ります」


それにしても厄介な事この上無い。

本陣に直接攻撃したら本人はともかく回りが崩れると思ったんだが、

動揺するのは前線に居る連中ばかり。

本陣が動揺しないから、それも直ぐに士気回復してしまう。


「……死なない大将がこれほど厄介だとはな」

「アリサ曰く、その言葉自体が異常な事に気づけ兄ちゃ、との事であります」


違いないが、しかし本当に厄介だ。

相手側の士気が崩壊しない以上、直接敵兵を殲滅するしかないだろう。

だが、現状はともかく数日後には矢が尽きる。

それに空掘も何時まで持つか判らん。

……これは、最後の切り札の使用も考慮に入れねばならんか。


「まあ、今は出来うる限り敵を迎撃し続けるしかないか」

「そうでありますね……にいちゃ!」


な、なんだアリス。

いきなり大声上げて……ん?何を指差してるんだ。


「何か、大荷物背負った集団がこっちに来るでありますよ!?」

「……武器も持たず何を……せ、戦死者の遺体かあれは!?」


不気味な光景だった。

傭兵達がいきなり先日の戦死者の遺体を背負い、武器も持たずに城門前に殺到している。

弓矢は仲間の遺体で防御し、とにかく先へ進む事だけを考えているようだ。


「一体、何を!?」

「あ、空掘に……死体を投げ入れたであります!」


仲間の死体を、投げ捨てたのか!?

一体何のため……あっ。


「急いで止めろ!近づけさせるな!」

「ど、どうしたでありますか?」

「隊長!一体あの行動に何の意味が!?」


最悪だ。敵は空掘に死体を投げ入れては逃げ帰っているが、その投下場所は一点集中。

俺はそれにある一つの意図を感じ取らざるを得なかった。


「連中……堀を埋める気だ!」

「「「ええっ」」」

「にいちゃ!今度はガラクタとか大きなゴミを背負った連中が接近中であります!」


一応、敵は他の三方向からの攻勢も続けている。

よって、こちらは三方を空にすることも出来ない。


「仕方ない!手の開いてる者は全員城門前に」

「無理です!既に怪我人が多すぎて弓が余ってる状態なんです!」


ちっ!

判ってはいたが今日は昨日に比べても損耗が激しいか。

幾つかの弓は壊れてしまっているが、それでも余るほどに人の損耗が激しくなっている。

長時間の戦闘で……錬度の差が如実に出てしまってるんだ。

これじゃあ、明日には戦闘続行不可能になりかねんぞ!?


「にいちゃ大変!お堀の底が見えてきたであります!」

「た、隊長!指示を下さいっす!」


いや、先ずは今日生き残るのが先か。

どんな惨状になってるかは判らんが、取りあえずそれは生き延びてこそ。


「判った!正面は俺が受け持つ!アリス、たまちゃん持ってこい!」

「あいあいさー!であります!急いで持ってくるでありますよ!」


バリスタ一号機は使える奴がいないから一応片付けさせておく。

……壊されたりしたら士気に関わるからな。

そして、本当は敵に城門突破される事も想定していたが、

万一怪我人の居る二階に進入された時の事を考え、作戦を変更する事にした。


「おい!何人かアリスと一緒に倉庫に走れ。……中の箱を持って来るんだ」

「……は、はい」


「良いか、絶対に乱暴に扱うなよ。そして二階の窓から投げ落とせ」

(矛盾してる気がするけど……まあ隊長の言う事だから何か意味があるんだろう)


「にいちゃ!たまちゃん持ってきたであります!」

「よし、アリス!……少し予想外だがここで蜂に頑張ってもらうぞ」


『……委細承知。あ、今アリサからの許可も下りたであります』

「よし!じゃあ頼んだ。俺はここを死守する!」


アリスから武器を受け取り、城門前に殺到する敵を見据える。

そして俺は、大鉄球を手にして敵の群れに投げつけた……!


……。


二日目、夜。

俺達は辛うじて城門を守りきっていた。

敵は夜半まで攻勢を続けていたものの、流石に諦めて一時撤退をしている。


「く、腕が、腕が上がらねぇ……」

「無茶するからでありますよ、大丈夫でありますか?」


だが、ありったけの戦力をぶつけてしまったため、既に明日を戦い抜く戦力は残っていない。

俺自身、鉄球を振り回しすぎて腕が殆ど動かなくなってしまっていた。


「……アリス、装備はどれだけ残ってる?」

「弓は二百五十あるけど矢が殆ど空っぽ。蜂達も流石にこれ以上使ったら怪しまれるであります」


まあ、仕方ない。

元々森の中で蜂に一度襲われた連中を今度は密閉されたエリアで襲って、

トラウマを抉ろうと言うえげつない作戦だったのだ。

箱も壊れてしまい表に転がってるし、指示が出来る事を知られる訳にも行かないしな。


「槍は……バリスタは?」

「二号機に火矢が直撃して壊されたであります。槍はもう予備が無いであります」


玉切れ、か。止むを得ないとは言え難しい問題ではある。

油壺はまだ余裕があるけど、それだけで守れるもんじゃないからなぁ。

これは、詰んだか?

……せめて怪我人が居なければ三階に用意した仕掛けが使えるんだが。


「そうだ。被害は……人的被害はどうだ」

「重傷者が三百五十人越えてるであります。それと……直撃で15人死んじゃったであります」


……!


判っていた事ではある。

判っていた事では有ったが、正直、こたえる。


「死者が、出ちまったか」

「うん。でも、にいちゃは頑張ってる。最善に近い結果だと思うでありますよ?」


軽く体が揺らぐような感覚。

……だが次の瞬間、何故か先の防衛戦時にルンに抱しめられた事を思い出すと意識が戻ってきた。

今のは一体?


「……あー、そうか。そう言う事か。……意外と俺も蚤の心臓なんだな」

「にいちゃ?大丈夫でありますか。お顔真っ青であります!」


アリスが血相変えているが、まあ仕方ない。

……気付いてしまったのは仕方ないのだ。


「いや、ただ気付いただけだ」

「何をでありますか?」


「元が引き篭もりの俺に、そうそう簡単に度胸なんか付いてた訳じゃないんだって事をだ」


そう、今現在の戦力はどうあれ、

俺の基礎となったのは引き篭もった挙句自ら死を選んだ脆弱極まりない現代人のそれ。

……そうである以上、そんな簡単に強くなっている訳が無かった。


そう、俺はただ強がっていただけの弱虫でしかなかったんだ。


無意識に被った、非常に徹する事の出来るタフガイの仮面。

個人でやっている内はそれ程酷い破綻をきたす事は無かった。

何せ、襲ってくる奴らは敵だから。と言う非常に簡単な論理が働いていたから。


だが……今回はどう考えても俺が全面的に悪い。

だから俺が脆弱な俺自身を騙し切れなくなっていた。

ただそれだけの事だったんだ。


「自分でも気づかない内に、随分精神的に無理がかかってたって事だな」

「……大丈夫なんでありますか」


あー、心配するな。

己の心の内を理解した以上、無理に気付かないなんて事は無いから。

ただ……この仮面は一生被り続けなければならなくない、

それを理解しただけだから。


「何にせよ、敵にまで手を差し伸べる余裕は無いし、味方は出来る限り守るって事は変わらんさ」

「にいちゃ!」


「……覚悟は決めた。揺らぐ事はあっても、もう折れたりはしない」

「アリサが、"多分"を付けとけー。って言ってるでありますよ?」


ふぅ。アイツには敵わんな。

……確かに自分の脆弱さを理解しただけで弱さが克服できるなら世話は無いわな。

まあ、俺は俺なりにやって行くさ。今までどおりに。


「……アリス。明日の策は決まった。スノマタ城最終機構、発動させる!」

「え?でも動けない皆はどうするでありますか?にいちゃが見捨てるとは思えないであります」


そう、傷ついた味方がいる以上この城に付けた最後の機能は使えない。

だが……それをどうにかできる術、無い訳ではない。


「……皆を大広間に集めろ。一人残らずだ」

「は、はいであります!」


……。


さて、俺は野戦病棟と化していた二階大広間にこの城に居る全員を集めていた。

そして、今後の予定を皆に説明していく。


「この城の三階には緊急脱出用の布製滑り台がある。これで今夜じゅうに全員脱出する」

「無理っすよ隊長?怪我人のほうが多いっすから」


そう、敵を避けて逃げ出すには怪我人の搬送がネックとして大きすぎた。

だが……それについては問題を無くす事は可能だ。


「それについては考えがある……広範囲回復用の魔法があるんだ」

「成る程!流石は隊長。抜け目が無い」


……問題も抜けもあるけどな。

まあ、それを言ってがっかりさせる必要は無いから黙ってるけど。


「まあ、それはさておき脱出後は散開しつつ森の中を抜け、指定された場所に移動せよ」

「指定箇所には食べ物とかこっそり用意して置いてあるであります」


実際はこれから用意するんだけどな。

まあ、こいつらがたどり着くまでには用意し終わり蟻の痕跡も残していないだろう。


「全て、作戦通り……と言う訳ですな隊長?」

「凄ぇ、本当に凄ぇ人だな隊長は」


いや、実際は違う。齟齬どころの話じゃないんだなコレが。

それでも、指揮官としての責任として無理にでも重々しく頷いておく。


「さて、ここまで先の事を話したのには訳がある。俺はこの先暫く指揮を取れない」

「「「「えええええええっ!?」」」」


大広間じゅうに大声が響き渡るがこの際仕方ない。

これはもう、どうしようもない決定事項なんだ。


「……今から使用する魔法は消費魔力が大きすぎて確実に俺は気絶する」

「多分……一週間は目を覚まさないのであります」


チートの書に載っていた魔法の一つ。その名は"癒光"(ヒールライト)

術者から発した光に照らされた全ての者の傷を一瞬にして癒す高度な魔法であるが、

さっきも言ったように極めて魔力消費が高い。魔力全快でも気絶してしまうほどだ。

前回は三日。今回は疲労痕倍しているので一週間と見込んでいる。

その間は当然指揮を取る事など出来ない。が、人任せで全滅でもされたら元も子もない。

よって、自分の部隊は森の中に隠す事にした訳だ。


「そう言う訳で俺の目が覚めるまでは敵に見つからないように隠れていてくれ」

「十分な物資は提供するから大人しくしてて下さいであります」


「「「「は、はい!」」」」



それが聞ければ安心だった。

俺は丹田に力を込め動かない両手を叱咤すると、気合を入れて両腕で髪をかき上げた。


『家の親父はハゲ頭』


その詠唱と共に、俺の額が光を帯びる。


『隣の親父もハゲ頭』


続いてその光が収束、拡大、眩いばかりの閃光と化す。


『ハゲとハゲとが喧嘩して』


光に暖かな熱が篭る。……既に一部の者には治癒の兆候が見え始めていた。


『皆、けが無く良かったね!……癒光(ヒールライト)』


最後の詠唱が終わると共に、俺の意識は急速に失われていく。

倒れそうになる俺をアリスが必死に受け止めようとする中、

俺は自分の両腕を含めて周囲の連中の傷が消え去り、

それに対し驚きの声を上げるのを確認し、

少しばかりの安心と多大な不安と共に、意識を手放したのである。


……。


「ん?……ここは、森か?」

「にいちゃ!目を覚ましたでありますか!」

「隊長、大丈夫っすか!?」

「流石は隊長!あ、俺達一人も欠けずにここまで逃げれましたぜ」


目を覚ますとそこは森だった。

そして、周囲には見覚えのある顔がキャンプしているのがわかる。


「……どうやら、脱出は成功だったようだな」

「ういうい。敵さんが攻めて来た時には既にもぬけの空であります」


ふう、どうやらこっちが逃げる事は想定していなかったらしいな。

警戒は自分たちの陣の方のみか。

だが、逃げ出せただけではトレイディアとの約束は果たせない。


「……で、最終機構の方は上手く作動したのか?」

「洒落にならない位上手く行った。……敵さん総崩れで国まで逃げ帰ったであります」

「こっそり森の中から見てたっすが、まさか城丸ごとが罠だとはねぇ」

「恐ろしいお方ですな」


そう言う事。スノマタ城はその物が巨大な罠だったのである。

具体的に言うと、

ちょっと細工をするだけで二階と一階の床が残らず抜けて、地下一階まで叩き落される。

しかも地下一階の高さは空堀以上の20mもあり、しかも床には大量の突起物を用意。

無事なのは三階に居る奴だけと言う大惨事を招く事が出来るのだ。

……ノリはドリフだけどな。


「本当は蜂の大群でパニックになった所で使う予定だったんだけどな」

「結果オーライ。完全占領された次の日の夜中に発動させた甲斐があったであります」


酷ぇなそれは。寝てたらいきなり空中に放り出されるとか、どんだけだよ。

まあ、敵だから良いと言う事にしておく。


「で、傭兵部隊は壊滅、もしくは撤退で良いんだな」

「うん。"もう義理は果たした!"とか言って傭兵国家に帰って行ったであります」


うん、それなら十分だ。

五百の兵で三千を壊滅させたなら戦果としては十分だろう。

それに敵に傭兵部隊が居ないなら、戦争の行く末もかなり楽になろうってもんだ。

……まあ、俺も明日くらいまではゆっくり休んで、本隊と合流でもするか。


ん?どうした皆。

何か言いたい事でもあるのか?


「それでね。ちょっと困った事になってるであります」

「隊長の眠っていた一週間の間にとんでも無い事になってるんですよ」


ほうほう、それは一体?


「……本隊五千が、敗北しました」

「えええええええっ!?」


残念ながらまだ、楽をさせては貰えないらしい。

俺は急ぎ部隊を纏めると、本隊の残存部隊に合流すべく動き出したのである。

続く


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