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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 21 聖俗戦争 その2
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/11 17:56
幻想立志転生伝

21

***冒険者シナリオ8 聖俗戦争 その2***

~戦評定と拠点構築~

《side カルマ》

あの防衛戦から二ヵ月半が経過した。

宣戦布告こそ行われたものの、

聖堂騎士団は兵站。トレイディアは兵数。

双方共に戦争継続の為にどうしても必要な物が足りておらず、

長い膠着状態が続いていた。

但し、双方共に大規模攻勢の準備もまた静かに進んでいるわけだが。


……トレイディア側での最も大きな変化は、疎開だ。

比較的資金に余裕のある富裕層が別荘や親戚の家に一時避難を開始したのだ。

これはやはり、城門が破られ被害も出ている事が大きいだろう。


そして、もう一つ。


「カルマ様。警備隊への志願者が増え、スラム街出身者を中心に総勢千名を越えました」

「こちらとしては嬉しい話なんだがなぁ……素直に喜べん」


軍や我がカルーマ商会警備隊、そしてブラッド司祭の組織した志願兵部隊への、

志願者の急激な増加である。


……ヒロイズムに燃える者あり、仕事と家を失って他に行く所の無い者あり、

名を上げんとする者あり、周りに流される者あり、

そして、家族や友人の仇を討たんとする者あり、だ。


良し悪しはあるものの、様々な理由でトレイディアの兵数は膨れ上がっていた。

ただし、それに傭兵を足したとしても……それでも敵兵数は我が方の五割り増し。

更に錬度は比べようも無く低い。


……。


そして、泣きっ面に蜂と言わんばかりに俺達に突きつけられた現実がある。

……と言うか、主に俺に。


防衛戦からおよそ一週間。

戦いから暫くの間、俺はカルーマとして奔走せざるを得なくなっていた。

予想外に早まった戦闘開始で、予期せぬ出費と死者が出た事も大きい。


防衛戦終結から一週間ほどの間、

ルンがかなり切羽詰った様子で俺を探し回ってたのは知っていたさ。

でもその時は、まあ何時も通り一段落付いたら……とか思っていた。


「……せん、せぇ」


で、気が付いた時にはルンの留学期限が切れて、マナリアに帰ってしまっていたと。

いや……忙しくて会う暇も無かったがその結果がこれかよ!?

更に、


(最近何か二人の距離縮まってたよな?きっとまた来る時もあるよな)


なんて思っていた所に、

アリサ経由で脳味噌がぶっ飛ぶような情報発覚。


「ルン姉ちゃにね、婚約者居るみたいだよ。……名前も知らないみたいだけど」

「な、なんだってー」


「しかも高等部卒業と一緒に結婚するのが公爵家のしきたりみたい」

「……まじで?」


まあ、お貴族様の約束とは言え……滅茶苦茶凹むぞこれは。

よりによって人の気持ちを鷲掴みにした途端に消えなくともいいだろうが……。


「でも兄ちゃ?会いたがってたルン姉ちゃの事、事実上避けてたよねー」

「……仕方ない、と言い続けて来た報いとでも言うか?」


いやアリサ。責めるような視線はやめろ。

他人に知られると危険だから複眼を外気に晒すな。

……それと、


気持ちがまた折れそうだから適当な慰めを頼む。


「甘えんなー。判ってるくせに」

「確かに全部俺のせいだよな……」


泣きたい。だが確かにそれも甘えでしかない。

自分からフラグを叩き折っていたんだからな。


しかし引き篭もってた前世を含めて初めていい感じになった女の子だというのに、

この結果は無いんじゃないか?


「……なあ、結婚式乱入で花嫁強奪とかどうだ?好感度足りてるか?」

「足りてるけど……その言い方で言うと、必須イベント逃してるっぽい」


「それは一体?」

「お母さんが無茶ばかりして回りに迷惑かけたから、ルン姉ちゃはしきたり死守派なの」


つまり、己を殺してでもしきたりは守ろうとすると。そう言う事か?

そんでもって、その価値観をぶっ壊せなかった為にエンディングに行けない訳だな?


ソレナンテ・エ・ロゲ?


……次に会った時にルンが人妻になってたりしたら衝動のままに崖から飛び降りかねんぞ俺。

まあそんな訳でかなり欝だ。もしくは何かに八つ当たりしたい気分?


100%自業自得だけどな!


……。


そしてそれが最大の問題なのだが更に、更にだ。

それに追加注文で俺を凹ませる事件があった。


「応、カルマ!暫く留守にするからな。負けるんじゃねぇぞ!?」

「兄貴!?ちょ!カムバーック!」


兄貴が疎開する金持ちの護衛に引き抜かれていったんだけど?

何これ?よりによってここから先、兄貴の援護なし?


……と言うか、冒険者の腕利きの殆どは護衛任務でトレイディアを離れている。

しかも、何らかの形で戦争に目処が付くまで護衛し続ける依頼が多いらしい。

要するに、腕利きの兵が更に手に入りづらくなった訳だな。


……。


まだ有るぞ?

これは防衛戦から一ヶ月ほどして、アリサからとある提案があった時の話だ。


「兄ちゃ?あのブラッド司祭の事だけどさ……こんな時こそ新聞使うべし」

「無理だ」


「何ゆえ?今回はある事ある事書いてけばいいだけじゃないのー?」

「……まだだ。まだ無理なんだよ」


そう、まだ無理なのだ。

新聞と言うメディアが世に出てから未だ僅かな時しか流れていない。

ここで偏向報道でもした日には誰も信じず、逆に新聞と言う文化自体が潰されかねない。

例えそれが真実でも、な。

何せ、人は自分の信じたい事を信じたがるものだ。


よってマスメディアによる人心操作には、

そのメディアが無条件で信用できると刷り込まれていなければならない。

……要するに、まだ新聞と言う存在自体の信頼度が足りない。


よって、今出来る事はブラッド司祭関連の記事を疑われない程度で出来るだけ扱わない事のみ。

歯がゆい事この上無いが、慌てる乞食は貰いが少ないと言う諺もある。


「さあ斬れ!異端者を斬れ!斬れ斬れ斬れ斬れキレキレェッ!」

「し、司祭さま!幾らなんでもこれは酷すぎます!皆息も絶え絶えですぞ?」


「フィヘヘヘ……それであなた方が生き延びれるなら私は鬼にでもなりますよフクククク!」

「……そ、そこまで我らの事を。感激です」


よって、今は志願兵に訓練、と言う名の虐待を加え続けるあの司祭を放って置くしかない。

あ、一人気絶した。でも目を覚まして返ってきた返事は有難う、だと。

……排除は折を見てにせねばならんだろうな。


と言うか、上手く不安をかわしながら虐待行為を正当化してる辺り、

実はあの男本当は狂ってなんか居ないんじゃないか、なんて思ったりもしてる所だ。


あー、一応味方なだけに一気に切り殺せないのがイラつくなぁ。


そして、気が付けば教団志願兵部隊は2000名の大部隊に変貌してる罠。

こいつ等は純粋な味方とは言えない。爆弾抱えてるようなもんだ。

やり辛い事この上ない。


……。


以上が、ここ二ヵ月半の動きだ。

正直良いニュースより悪いニュースのほうが多すぎるんだが?


なあ、俺が何かしたか?

……色々してるか。

あははははは、これが報いか。これが報いなのかよ!?

もう笑うっきゃねぇぞ!?


て言うか、確か俺……金持ちになる辺りが人生の目標だった筈なんだけど!?

何でこんな所で眠る間も無く駆けずり回ってるんだ?


まあ、いいけどな。

……もう、止まれない所まで来ちまったみたいだし。

せいぜい足掻かせて貰うとするさ。


……。


そんな訳で、俺とハピ、そしてアリサはせめて情報だけでも完全に近いものを、

と考え、トレイディア領主館の会議を盗聴、いや傍受している訳だ。

……泣きたい気持ちは取りあえず我慢。

と言うか俺が泣く資格はそもそも無い訳だが。

え?防衛戦時のアレ?

流石にアレはノーカンでお願いします。つーか、自分でも何で泣いてたかわからんし。

……まあ、それって精神的にヤバく無いか?と思わなくも無いが。


さ、さて、そんな事より小蟻からの情報はどうなってるかな?

アリサ、腹話術で実況中継よろしく。


「息子よ。……戦況はどうだ?」

「父上、我が軍の編成は順調に進んでいるで御座る。但し錬度には期待するだけ無駄に御座るな」

「資金の問題は御座いません。ですが、傭兵は既にあらかたどちらかの陣営に雇われた後」


やっぱりそうなるか。

……これは傭兵王も大儲けでウハウハだろうな。


「バイヤーよ。つまり傭兵はこれ以上雇えぬと?」

「はい、その通りで御座います。領主様」

「……兵数も錬度も負けで御座るか。せめて装備では勝たねばいかんで御座るな」


ふむ。トレイディア領主、コジュー=ロウ=カタ=クゥラ大公。

そしてその息子村正ことカタ=クゥラ子爵

さらに……商人ギルド長のバイヤーさんまでいる。と言うか、役割が執事だなこれ。

……しかも、アリサに調べさせたところによると、商人ギルドって領主の直接の配下なんだと。

商人ギルド自体が領主の犬か。笑えない話だと思う。


「それと、カルーマ商会ですが……やはりボン様を焚き付けたのはあの者達のようで」

「……ふむ。我が館を訪ねて来た時間からするとバイヤーよ、お前に言ったのはハッタリか」


「左様ですな。ですが、いつの間にかそれが真実になっておりました。恐ろしい男ですよ」

「……警戒はしておかぬといかんな。無論向こうには気取られぬよう」


ありゃ、ばれてーら。

と言うか、領主の直接の部下にあんなブラフかましちまったのか。

……主君から聞いて無い話で、さぞあの時の商談では驚いたろうなぁ。

警戒しているみたいだが、まあ、それに即座に気付かれてる時点で……な。

もっとも、警戒だけならされててもいいんだけど。


「なってしまった物は仕方ないで御座る。今は最善を尽くし最良の結果を得るで御座る」

「うむ。息子よお前の言うとおりだ。……この機会をもって、我が領土を広げようぞ!」


流石にただでは転ばないか。大したもんだよ、まったく。

俺は味方側に出た被害で精神的均衡を欠きかけたってのに。


「して、カタ様、領主様。次の動きはどうしましょうか?」

「基本方針は、攻めだ……これ以上守りに回っては勝利できん」

「ですが、攻めには敵以上の戦力が必要で御座るが?」


「……敵数は我が方の五割り増しと聞いたが」

「はい領主様。ですが、長期侵攻能力は無い模様ですな」

「向こうの兵站は厳しいようで御座る」


そう、あの防衛戦の日より騎士団領では相次いで臨時徴税が行われ続けているという。

それだけ向こうの物資が困窮してるって事だな。……民の怨み節は天を突く勢いだとか。

防衛戦時のゲリラ戦での"副産物"は良い感じに機能してるようだ。

このまま内乱にでもなってくれればとも思うが相手は宗教。まあ流石にそれは無理だろう。


「領主様、ですが戦争があまり長引くのも我が国としては容認できかねます」

「うむ。経済が冷え切ってしまうからな」

「……逃げていった者全員が戻る訳でも無いで御座るしな」


要するに……双方共に長い戦いは望んで無いだろうって事か。

向こうは物資量で長期戦は出来ず、こちらは戦後を考えて。

とすると。とりあえずの訓練が終了する半月後が本格的な激突の時か?


「ですが父上。野戦では向こうに一日の長があるで御座る」

「……うむ。それに新兵どもの足では向こうまで5日はかかろう。その後で戦えると思うか?」

「何処かに拠点が必要になりますな、カタ様、領主様」


拠点ねぇ。

確かにあれば楽になるが……要害の地を敵が放って置かないだろ?

だったら……はて、そんな故事をどこかで聞いたような?


「城の一つでもあればいいのだがな」

「領主様。敵領域内にどうやって城を用意するおつもりですか」

「砦の守将ごと引き抜くなら……いや、今回に限りそれは無理で御座ろうな」


まあ、確かに城に篭れば数に劣る方でも十分に戦えるがな。


あれ?

いい事思いついた。と言うか思い出したんだけど。

……これは、次の軍儀ででも提案してみるかな。


……。


《side カルーマ》

さて、先日の盗み聞きから数日後、「第三回トレイディア防衛の為の特別会議」が召集された。

これは先日から続く戦争に勝利する為トレイディアに組する勢力の長達が集い、

今後の戦いの方針を決定する大事な会議なのだ。

そして俺もまた、カルーマ商会の長としてこの会議に参加している。


「では、始めよう……息子よ」

「はい父上。お歴々の皆様方、先ずは忙しい中良く集まって頂けたと御礼申し上げる」


部屋の一段高い場所に居るのは議長。当然総大将のトレイディア大公だ。

進行役は脇の村正が勤めるようだな。その横にはバイヤーさんも付いているか。

そして、その下座のテーブルにブラッド司祭や俺達が座る形になっている。


さて、先ずは……現在の兵力の報告からか。


「おほん……では先ず我がトレイディア軍だが、正規兵、千五百の招集が終了しておる」

「領主様。領土各地より引き抜けた兵は三千五百名ほどでした」

「その他、傭兵国家より傭兵二千を雇い入れているで御座る」

「クク。教会には異端者を討つべく志願者が集っております、二千ほどね。クフフフフフ……」

「俺達カルーマ商会も街道警備の為の部隊を拡充。千人ほどの部隊が出来上がりつつある」


ふむ。うちの警備隊入れて一万人くらいか。

随分集まったもんだなぁ。

ただまあ、トレイディア上層部としちゃ信用できるのは直属と傭兵だけだろうがな。

その傭兵も出身が傭兵国家となれば、俺としてはそちらも信用できないと思うが。


「では、僭越ながら私バイヤーが敵、聖堂騎士団側の戦力についてご報告をば致します」

「うむ。頼むぞバイヤー」


「まず、敵主力の騎士団本体はおよそ五千。更に民間からの志願兵が七千ほどおります」

「確か……相手方の雇った傭兵は三千だったか」


「はい領主様。よって、敵の総数は一万五千になりまして、我が方の五割り増しです」

「厄介な事だな。一見すると守りぬけぬ戦力差では無いように見えるが、正直言って辛いな」


まあ、確かにそうだ。攻められっ放しじゃ士気に関わるし、

現状でさえ国境沿いの幾つかの集落が占領されている状態だ。

しかも小競り合いをする度に、同数では勝てない事が証明されつつある。

このまま座していれば全てが終わった時焼け野原しか残って無いかもしれないし、

それだけは避けたいだろう。


「けど……今の話で光明も見えてきたと思うがな?」

「ほぉ。カルーマ総帥……それはいかなる光明なのか」


「総兵力では確かに五割り増しだ。だが、戦い慣れた兵士の比率ではどうだ?」

「要するに、職業軍人や傭兵の数……おお、これは」


「一応その計算なら七千対八千になるぞ?」

「……そう言う考えも有るで御座るか」


実際の所は、トレイディア側の正規兵・衛兵と聖堂教会の騎士とでは基本的な能力差が有る。

それに街の警備やゴブリン討伐程度しかした事の無い衛兵を、戦い慣れたと言えるかは不明だ。

そう考えるとやはり戦力差は大きいが……。


相手に飲まれていちゃ勝てるもんも勝てなくなってしまう。

……これは前世での苦い教訓だがな?

気持ちで負けてしまえば勝利は何処までも遠のいて行ってしまうからな。

だから弱さに蓋をするんだ。どんな方法でもいい、たとえ嘘でもいいから。

まあ、俺みたいに先に肉体のほうを鍛え上げるって言う方法もあるけど。


っと、また思考が脱線する所だった。

呆けてると思われん内に急いで話に戻るか。


「要するに、精鋭同士をぶつければ勝機もあると言う事か」

「いや、領主殿?むしろ精鋭は雑兵を蹴散らしてもらう」

「……どういう事で御座るか?」


理解できなかったのだろうか、村正が身を乗り出してきた。

……あ、領主殿は気付いたっぽいが。


「こちらの精鋭と相手の精鋭がぶつかったらどうなる?」

「……負けるで御座るな。恐らく」


「じゃあ、こちらの精鋭と向こうの雑兵では?」

「流石に勝てるで御座るよ!トレイディア兵を舐めないで頂きたい!」


「では……双方の精鋭が双方の雑兵と戦ったら?」

「当然、双方共に精鋭が勝つで御座る。多少の兵力差など関係あるまい」


「じゃあこっちの雑兵と向こうの雑兵が数はそのままにぶつかったら?」

「……兵力差でこちらが負けるで御座ろうな。残念ながら」


さて、ここまで情報を与えたんだ。

問題を出すから次期領主として相応しい答えを見せてくれよ村正。


「それを踏まえて考えてくれ。どう言う兵力のぶつけ方ならこちらの損害が最小限になる?」

「……当方が勝てる組み合わせで御座るな?」


「精鋭同士戦ったらどうなった?雑兵同士戦った場合は?」

「つまり、雑兵を囮に敵の雑兵を潰す、が正解だと?」


そういう事だ。


「そうすれば、戦闘後には彼我兵力比は7対8になっているだろう?」

「ははは!やるものだなカルーマ総帥。一万対一万五千が、七千対八千になれば勝機も見えるか」

「父上……みすみす兵を見捨てるような事を仰せになるでござるか!?」

「フ、フ、フ……それはまた面白そう、いえ雑兵達が凄惨な事になりそうですな。ククク」


まあ、確かにここまでの話だけだとそう見えるわな。

けど……俺の策の肝はここから先だ。


「で、だ。敵主力は俺と警備隊が引き受ける。その間に敵の志願兵どもを叩いてくれ」

「……き、貴殿!?」


「うちの警備隊も戦い慣れちゃ居ないが、多分敵主力を僅かな期間引き付けとく位は出来るぞ」

「己の手勢を犠牲にすると!?」


「少し考えてくれ、敵の雑兵を蹴散らした後こっちがほぼ無傷で残っていたら?」

「それは……一万、いや九千対八千に兵力が逆転するで御座る、が」


「そうだ。それならもっと出来うる手が増えるだろ?」

「机上の空論で御座る。どうやって雑兵千名で敵主力を釘付けにしておくと?」


「無論手は有る。ただ……俺の戦いにはちょっとばかり先立つ物が要るんだが」

「金か?まあ、敵主力五千か、せめて傭兵三千だけでも足止めできるなら多少は考えるが」


うん、流石商売の国のトップだ。領主様の財布の紐、マジで固い。

まあ出して貰わなくても困りはしないけど、実際ただ働きは嫌だし。

……なんて、この期に及んで思っていたりする俺が居たりするのでな。


「相手が釣られるまで俺の手持ち千名だけで保たせてみせる……粘れば主力も出てくるだろ?」

「ふむ。その言い方から察するに、長期戦用の備えと言うわけか」


まあ、あながち間違っちゃ居ない。

錬度の低い小勢で大軍を迎え撃つ為の備えなのは間違い無いし。


「ああ、金貨千枚もあればいいんだが」

「そんな物でいいのか?おいバイヤー。用意してやれ」

「はい領主様。……カルーマ殿、これが軍資金になります」


うを!?……少々吹っかけすぎたと思ったら想定内どころか、

思ったより安い、って言わんばかりのリアクションなんだけど!?

まあいいか、儲かったし。


「じゃあ早速この金で支度を始めるから先に行くぞ?……投資された分は働くから安心してくれ」

「……期待しておこう」


それだけ言って俺は会議場を後にした。

……ふう、これで危険な戦場に俺の部隊が回される事はないな。

因みに俺の今言った"危険な戦場"とは俺が自由に引っ掻き回せない戦場の事なんだがな?


さて、それじゃあ商館に戻ったらまた盗聴……ではなく傍受と洒落込みますか。

まあその前に仕込みの準備をしてからだがな?


……。


商館に戻るとアリサがパタパタと手を振ってお出迎えである。

逆にアリシア達は首吊り亭の連中に顔が割れているので地底からこっそりと入館。

……蟻ん娘ども三匹大集合である。


「アリサ。判ってると思うが、俺の部隊は明日にでも敵陣内部に侵入する」

「もう既に、"例の物"の部品は出来上がってるよ。向こうで組み上げとくからねー」


「アリシア……お前はいざと言う時の為に、逃げ場の用意をしてくれ」

「じゃあ、レキに、いきますです」


「アリスは戦場で俺……いやカルマと共に戦って貰うからな」

「にいちゃと一緒に頑張るであります!……でもあたしは裏方、でありますよね?」


うーん、実に頼りになる妹達だ。


前回の防衛戦での失敗も有るしな。慎重に慎重を重ねても足りる事は無い。

よって、アリシアにはいざと言う時隠れ住む為の隠れ家の建設を命じてあるし、

アリスには他人が居て小蟻通信網が使えない時の為に付いて来て貰う事にした。

アリサには今回の作戦の鍵となる物の作成を一任してるし、

……感謝してもし足りないなこいつ等には。


「ところでにいちゃ。会議の方で動きがあったようでありますよ?」

「よし!良く教えてくれた。……早速執務室で聞くか」


……。


さて、そんな訳で再び俺は傍受モードに入っている。

俺が退出して一時間程度は経っているが、今までは余り進展が無かったようだな?

業を煮やした村正が偉い剣幕でまくし立ててるぞ。


「ブラッド司祭!それでは貴殿は我らの命令に従えないと言っているのと同じ事で御座る!」

「フョフュフュ!私の元に集ったのはあくまで善良な一般市民ですから。フヘヘヘヘヘ」


「カタ様落ち着いて!ブラッド司祭も、もう少し柔軟なお考えにはならないのでしょうか?」

「嫌ですね!クヘヘヘ。第一、あのカルーマ総帥だって指揮下に入ってないも同然でしょう?」


う、それを指摘するな!

あーあ、折角なし崩しに指揮下に入らないように動いてたんだが、これでそうも行かないか?


「ああ、あの男は何か怪しいからな。使い潰しと真意を探る為に放っておいてるだけだ」

「ヒョ!流石は領主様ですね。私今の台詞でちょっとファンになりそうですよンフフフフフ!」


そうですか。使いつぶしですか。

まあ、確かにそう言われても仕方ないような状況だけどね?

何せ、ボンクラ焚きつけて戦争始めたのって俺だし。


「して、ブラッド司祭はどう動かれるつもりか?」

「クックックック……敵の一番弱い部分を叩きます。要するに辺境の集落を。次々、次々、次々!」


あ、村正が明らかに引いてる。


「へ、辺境の集落?一般人を襲うと申すか貴殿は!?」

「心配しなくても軽くデスよ軽く。蛸頭の頭に血が上るようにですね。クフフフフフフ」


「なるほど。おびき寄せて各個撃破するわけか」

「フヘ?違いますよ領主殿!やってくる頃には逃げます。勝てませんしねアハハハハハハ」


「だとすれば……そうか、疲労させる気なのだな?」

「イィーエエエース!徹底的に無駄骨掴ませてやります!ああその時が楽しみですねウフフフ!」


頭痛ぇ。

この時代的にはかなりトチ狂った考え方だが極めて合理的じゃないか。

厄介な事この上無いなこの司祭。


「フフフ、それでは皆様私も訓練!の続きがあるのでこれで失礼します。それではアハハハハ!」


司祭が出て行った会議室で、残った三人が一斉に深いため息をついた。

まあ、仕方ないだろうな。俺も含めて味方が問題児ばかりだし。


「まったく……ろくでもない連中ばかりだ」

「左様で御座るな。拙者達の友軍は業突く張りと頭の糸が一本切れた狂人で御座るからな」

「ですが領主様、忌々しい事に非常に有能な連中でもあります。」


業突く張り=俺で狂人=ブラッド司祭な?

うん。いい感じに警戒されてるな。


「うむ。あの防衛戦の後、即座にスラムの者どもに施しを与え暴動を防いだカルーマ商会」

「そして一足先に敵の異端認定を行い、民に正当性をアピールした異端審問会で御座るか」

「お陰で国内の不満を持つ者達はかなり押さえ込まれておりますが……」


あ、気付いてたんだ。我がカルーマ商会が防衛戦の当日夜から炊き出し開始してたの。

確かにあのまま放置しておいたら暴動になってた可能性は高いんだよな。

まあ、人気取りと国内安定のためだから結局の所自分のためでしかない偽善なんだけどな。


「……まあいい。奴らへの対応は戦争が終結してからだ」

「それが宜しいでしょうな領主様」


「それより、確か先日の戦闘で、城門前の被害が大きかったらしいな」

「左様で御座る。城門は修理中、城門前のスラムの建物に至っては壊滅状態で御座るよ」


「ふむ、これは丁度いいな。長年の懸案が一気に解消できる」

「父上。懸案と申されますと?」


「息子よ。城門の前に物見台や防御柵を作れ。それと……この際スラムは全て撤去するのだ」

「なっ!?スラムとは言え万単位の人間が暮らしておるで御座る。それに現在共に戦う者にも!」


「今すぐではない、戦争終結後だ。……我が街にあんな薄汚い景観は不要だ」

「納める税は無し。もしくは僅かですし犯罪の温床にもなっておりますからなぁ」

「……騎士団の次にスラムの者どもと一戦交えるおつもりで御座るか」


「うむ。まあ戦争に勝てた状態なら連中如き、返す刃で十分だろう」

「それに別段排斥する訳ではありませんよ。ただ不法に建設された小屋を撤去するのみ」

「そんな事をしたら向こうから歯向かって来るでござろう?」


「その場合は反逆罪で斬り捨てるのみだな」

「確かに……それは確かにそうで御座ろうが……」


……。


会議が終わったようだ。部屋から人が消えたと報告が入る。

俺はアリスを執務室の机上に座らせて、自分は椅子の上で頭を抱えていた。


「なんか、偉い事になってるでありますね、にいちゃ?」

「アリス。アリサに連絡だ……スラム街連中の受け入れ場所を用意しておけ、と」


これを放置しておいたら戦後にトレイディアを二分する内乱に発展しかねんぞ?

しかも、スラム出身の兵の八割は俺の警備隊に入っている。

つまり何かあったら絶対に巻き込まれると言う事だ。

要するにスラムと一緒にカルーマ商会も潰すという意思表示なんだろうな、これは。


「ま、簡単には潰されないぞ、ってな?」

「アリサから連絡であります。まかせとけー、との事であります」


「流石はアリサだ。向こうが圧力かけて暴走促すって言うなら」

「こっちは先にガス抜き準備をしておくであります!」


そういう事だ。

行き先さえあれば、誰が好き好んでスラムなんぞに住みたがるもんか。

まあ、それでもと言う奴は放って置くしかないが、

多分、まともな家を用意しておけば向こうから望んで引越しに応じるだろうさ。


「じゃ、明日も速いし今日は寝るぞ?」

「了解であります。警備隊の皆のうち訓練の終わった五百人に出撃を伝えておくであります」


「ああ。因みに明日から俺は、部隊長の冒険者カルマとして行動するから」

「商会の事はホルス達に任せると伝えとくであります。それと今日は一緒に寝るであります」


「はいはい」

「よっしゃー、であります!」


……。


朝、目が覚めるとそこはカオスだった。


「あ、にいちゃ。たまご、かえったです」


人の枕の横に座ってポコポコと産卵、及び孵化作業を行っている、

アリシア、及び生まれたばかりの幼虫小蟻ども。


「い、痛いであります」


誰に蹴飛ばされたか床に転がっているアリス。


「あ、兄ちゃ聞いて!うちの勢力が拡大したから、女王蜂の女王も兼務する事になったんだ」

「それでお前の周りにスズメバチが飛び回ってる訳か……」


そして人の布団の上に陣取り、さり気なくとんでもない事を口走るアリサ。

幾ら蟻とスズメバチが似てる種族だからって……いや待て、一体何なんだコレは?


「よいしょ。っと、です」


あー、それとアリシア?

流石にキモイから幼虫を俺のデコに乗せて遊ぶな。

それと自分の卵でお手玉するな。


「で、何で今日は全員俺のベッドに集結してるんだ?」

「応援だよー!」

「がんばれ、です」

「あたしは昨日一緒に寝たからであります!」


ふう、要するに心配してくれてる訳な。


「おうよ。負けはしないから心配するな」

「あ、因みに例のものは完成したけど……あのままじゃ意味無いよ?」

「……それは、どうする、ですか?」


「まあ、今回はその為の出撃だ。まあアリスを通じて見ておけ」

「「あいあいさー」」


さて、それじゃあ出発するかね?


……。


《side カルマ》

久々に冒険者としての格好に身を包み、

俺は今、急ピッチで修復中のトレイディア西門前に居る。


「俺が今回指揮を取る事になった冒険者のカルマだ。一応総帥とは親戚筋に当たる」


眼前には五百名の警備隊。いや、本戦争中の正式名称で言う所の"カルーマ商会私設兵団"だ。

他にまだ半分居るが、そちらの訓練期間はまだ後一週間残っている。

よって、コレが俺の現在動かせる全戦力となる。


なお、今回カルマとして指揮を取るにあたり、

正式なカルーマ商会の一員で総帥の親族であると言う形を取らせてもらった。

まあ、実の所親族どころか100%同じ人物な訳だが。


……コレにはもう一つ訳があり、

万が一似てると指摘された時"親戚っすから"で済ますための下準備でもある。


「おおっ!防衛戦線で見た顔だ!」

「鉄面皮!弓兵殺しのカルマか!?こりゃ結構な大物じゃねぇか」

「つーかアイツ、商会関係者だったのかよ」

「いや待て。横の女の子は何だ?スコップ持ってるが」

「んな事はどうでもいい。殺された女房の仇さえ討てりゃな」


な、何か恥ずかしい二つ名が付いてるんだけど、何それ?

確かに並の矢は無効化しながら突撃するが……。

まあいい。居るだけで味方の士気が高まるなら無意味では無いだろ。


「さて、今回の俺たちの目的は……とある場所まで辿り付く事にある」

「敵に攻撃はしねぇのか?」


「いや?小規模部隊が居たら叩き潰して行くさ。但しこちらに被害が出ないようにな」

「無理はしないって事ですか?有り難い」


「と言うより、無理は出来ん。……五百人の内四百人は大荷物持って森を進んでもらうからな」

「「「ええ!?」」」


「要するに、敵に見つからないよう物資を運んでもらう。残り百人は敵の注意を引いてもらう」

「囮って奴ですか」


その通り。

今回の任務は正確に言うと、目的地にたどり着く、だけだからな。

そのついでに敵にダメージ与えられたら御の字と言う事で。


……城門の脇にはアリサに用意させた物の一つ。背負いカバンほどの木箱が四百箱並んでいる。

これを運んで行って貰うわけだ。

いやあ、予想より軽く出来て良かった。最初の案の通りだと重くてやってられなかったろうし。


「じゃ、背負った奴はこのルートで森を突っ切ってくれ。いざと言う時はこの書を開くんだ」

「了解しました。それじゃあお先に」


それだけ言うと、別働隊の隊長は部下達に木箱を背負わせ、

俺の手から命令書を受け取って森の中に消えていく。


「残りは街道沿いに進む。敵勢力圏内に入ったら俺の後ろを静かについて来る事、いいな?」

「「「はいっ!」」」


さて、それじゃあ行くとしますかね?


……。


四日後。……結局、俺が直接率いた百人ほどの部隊は敵と直接接触する事もなく、

三日ほどかけて目的の場所にたどり着いた。

……唖然とする部隊連中を予め決めておいた"配置"に付けた後、

俺はアリス他数名のみを連れて残り四百人の元へ向かっている。


「で、上手く食いついたか?」

「大物が釣れたでありますよ」


うんうん、いいねいいね。

お、味方が来たな。四百人全員揃ってるっぽいな?いい事だ。


「カルマ隊長!よ、傭兵どもに荷物を奪われちまった!すまねぇ!」

「いや、構わん。命令書にもいざと言う時は荷物を餌に逃げろと書いてたろ?」


「た、確かにそうですけど!貴重な物資を!」

「いいから合流しろ。追いつかれる前に目的地に逃げ込むぞ?」


……。


さて、目的地は聖堂騎士団領と傭兵国家を繋ぐ街道沿いの少し森に入った所にある。

街道近くには川が流れており防御効果の高い地形だ。

で、そこの街道から見ると、川の先に森があり……、

その森の奥に何か出っ張った部分がある事が判るだろう。

因みに、その出っ張りは昨日までは無かった物だ。


まあ、その正体は物見矢倉な訳だが。


おーい、皆……何時まで固まってるんだ?

敵が来る前に入城して、早い所防備固めるんだよ!


「いえ、何と言うか……なんでこんな所に砦が?」

「作ったに決まってるだろ常識的に考えて」


「いや、非常識にも程があるような」

「だったらお前達は暗い森の中で敵の前に寒さや雨と戦いたいのか?」


……そこまで言うと全員狐につままれた様な面持ちで今朝出来たばかりの砦に入っていく。

俺は全員が入城した所で空掘にかかっていた橋代わりの丸太を外して敵に備え、皆の元へ向かう。


そして、敵の襲来までにまだ時間がある事を確認した後、

二階の仮眠室を兼ねる大広間に一度全員を集合させて挨拶を行った。


「ようこそ、出来たて城砦スノマタに。俺は守将のカルマだ」

「いや、隊長!そういう問題なんですかコレ!?」

「一体何時の間にこんな物を……」


まあ、そう思うよな普通。

ここは地上三階、地下一階建て、最大収容人数二千名のスノマタ城。

深く広い空掘と、そこから掻き出した土を盛ったこれまた重厚な土塁を持つこの城。

アクセスは街道より森の中へ徒歩10分になります。なんつて。


まあつい数日前までは森の中で火事が起きた焼け跡にしか過ぎなかったんだがな。

うん。アリ達が一晩でやってくれました。所謂一夜城だなこれは。

部品は予め地下で用意しておき、プレハブ方式で一気に組み立てたと言うわけ。


いやあ、知恵を持った巨大アリって凄いなぁ、等と言ってみるテスト。


因みにその建築系の知識は何処で得たかと言うと……あの亡霊が出ると言われた洋館。

あの地下書庫からだったり。


魔法が書いてないかなと何冊か持って来させてペラペラめくってたら、

魔法は書いてなかったけど建築関係のテキストである事に気が付いた訳。

よって、全部回収しました。

今では全ての本が地下の蟻ん娘王国図書館所蔵。

……今後は魔法書だけでなく、普通に書物としての価値も考え直さんとならんと思う。

まあ、読めるのは今の所俺だけだけどな。


さて、閑話休題。


「敵がここに気付くのにはまだ一日位は時間があるだろう、それまでに迎撃準備しておいてくれ」

「「は、はいっ!」」


部下連中に仕事を与えて、取りあえずこの城に関する疑問を先送りにさせる。

まあ、いざとなったら某太閤のやったとされるモデルの城のやり方を説明するだけだがね。


そして俺は三階に上り、更にその上に建つ物見矢倉でアリスから報告を受ける事にした。


「で、釣れた敵はどうなった?」

「箱開ける、蜂飛び出る、大パニック、被害甚大、であります」


そう、今朝アリサが蜂の女王を兼務する事になったとか言い出したので、

本当は毒入り食料を詰め込む予定だった木箱に大量に潜んでもらった訳。

今頃釣られた傭兵どもはスズメバチの大群に刺されてえらい事になってるはずだ。


「で、味方の被害は?」

「三万匹中50匹が叩き落されたけど、それ以外は無事逃げたであります」


ああ、瞼を閉じればその場の阿鼻叫喚が目に浮かぶようだ。

傭兵諸君、無駄骨お疲れさんだな。


「冥福を祈ろう。で、敵は?」

「三千人中二百人がショック死。まあいい結果だと思うであります」


よしよし、戦い慣れた傭兵を一気に200人減らしたか。

いい傾向だ。


「で、傭兵王は?」

「かなーり痛がってるであります」


「どれ位だ?」

「悶絶、七転八倒!であります」


はっ!他国に派遣した傭兵から情報を得ようなんて考えるからだ。

二千人雇われたんで数人多く送り込んで、そいつ等から得た情報なら信義に反しないとか、

本気で思ってるんだろうかあの人?


まあ、そのお陰で作戦が立て易かったけどな。

なにせ、向こうの動きをこっちの動きである程度コントロールできるし。

それに本人が直々に出て来てくれたから直接攻撃も出来たしな。


「とりあえず、スズメバチ入り木箱プレゼント作戦は大成功であります」

「OK。じゃあ早速俺達も迎撃準備だ……連中が来る前に準備を終わらせるぞ!」


さて、これで向こうは怒り心頭。

怒涛の勢いで攻め込んで来る筈だな。

ま、力まず油断せず……凌ぎきる事にしますかね?

続く


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