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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 19 契約の日
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/07 23:00
幻想立志転生伝

19

***商人シナリオ4 契約の日***

~最狂魔法お目見え~

《side カルーマ》

二ヶ月ぶりに踏む古巣の匂い。

……だが、その懐かしさを顔に出す訳に行かないのが俺の現状である。


「兄ちゃ?それじゃあ行くけど準備はいい?」

「ああ待て、ちょっと格好を確認する」


さて、万が一にばれちまったら……相手が誰であれ消さねばならんからな。

仲の良い連中を潰さずにすむよう、変装は念入りに行わないと。


まず頭には、かつらとターバン。

続いて顔は、色付きメガネ(度無し)と顔半分を隠す付け髭。

格好は白を基調としたローブの腰をベルトで止め、大福帳と曲刀を腰に下げる。

そして、ゆったりとした金の縁取りの付いた上着を纏い、

身長を誤魔化すシークレットブーツを履いて完成だ。

おっと……念の為手袋もはめておかねば。


「うん、これで良い」

「あたしはどうだ!お嬢様に見える?」


アリサは……銀のカチューシャを頭に載せ、黒のゴスロリ風ドレスを着込んでいる。

生意気にも足元はハイヒールだ。

そして何を勘違いしたのかピンクの日傘を手にしている。


「うん、これなら確かにお嬢様に見えるぞ」

「いえーい、兄ちゃに褒められた!」


正確に言うとボンボン的お馬鹿お嬢様だけどな。

まあ、相手を油断させるには良い。


さて、それでは早速入国するとしますか。


……。


かっぽかっぽとチャーターした馬車で進んでいく。

うーん。普段何事も無く歩いていた道も、馬車から見ると新鮮だな。


「おー、ここがトレイディアかー!」


部下はともかく自分ではこの街を見た事の無いアリサもはしゃいでるし、

それだけでもここに連れて来た甲斐があったと思う。

……ん?アリサが馬車の窓を閉めた。一体どうしたんだ?

え?窓の外をそっと見てみろって?

ああ、誰かが近くをうろついてるが……別に敵意は感じられんぞ?


「……先生の気配」


って、ルンかよ!?

しかも俺の気配って何!?

さっきからこの馬車の後ろ辺りをウロウロしてる。

……これは怖いな。よくよく注意しないといかん。


「もしかしてと思って用意してきて良かったよ?これ使って、兄ちゃ」

「有り難い!と言うか何これ」


アリサが取り出した物は、

見た感じ、小さな陶器製の小瓶だった。


「ん?超匂いのキツイ香水だよ」

「気配と言うのは匂いなのか?」


「厳密に言うと違うけど、かく乱は出来る」

「ならば使う!」


アリサも流石は蟻。フェロモンとかそう言うのは得意分野というわけか。

……おー、確かにルンが追跡出来なくなってるぞ。

スマンなルン。今日ばかりはお前に萌えてる場合じゃないのだ。


「この匂いはルン姉ちゃの好みの逆。嫌いな匂いだから無意識に避けてくんだよ」

「末恐ろしい小娘だよな、お前って」


まあ味方だから良しとしよう。

先ず目指すべきはトレイディア商人ギルド。

……名目上の交渉は、さっさと終わらせてしまいたいしな。


……。


「ようこそカルーマ殿。私ども商人ギルドへの加入をご希望とか」

「その通り。我が商会も少しばかり大きくなった故、この商都で商売をしたい」


トレイディアの商人ギルドで応対に出たのは、バイヤーと名乗るボロ服の小男だった。

一見すると、ギルドが一見さんを舐めてかかって小者を出してる様にしか見えないだろう。

……何回かアポを入れる手紙を出し、ようやくギルドとの交渉の席に着いた連中が、

応対に出て来たこいつを見ると大抵怒り出すようだな。

だが、そこがコイツの付け目。無礼な奴はここで一気に交渉の主導権を持っていかれるのだ。


「いえいえ、高名なギルドマスター自らのお出迎えに感謝する」


と言う事で、こちらもカードを一枚オープン。

いきなり事実突きつけて先制攻撃加えてやるさ。


「それに、お忙しいようだな?仕事着のまま応対とは。頭が下がる」

「いやいや、カルーマ殿もお若いのに中々やり手と聞いておりますよ」


いやあ、もし知らないでギルドのトップに暴言吐いたら、

それ以降は相手の思うが侭だよな普通。

恐ろしいなぁ海千山千の猛者どもは。


「さて、早速だが用件に入らせてもらう。商売の許可と商館の設置許可が欲しい」

「ははは。確かに早速ですな」


まあそうかも知れないが、もたもたしてる時間は無いんでね。


「ですがカルーマ殿。こちらもただでとは行きません」

「何が望みだ?」


おっと、思ったより早く本題を切り出してきたな。

まあ何を言ってくるか、昨日の時点で判明してるんだけどな?


「貴方の商会が我がギルドに所属する事で、どんなメリットがありますか?」

「……商人らしく"利"を示せと言うわけか」


重々しく言ってるけど、既にその質問は織り込み済みだぜ。

……アリサ、例の物を。


「これ見ておじちゃん!」

「旗、ですかな?」


そう、これは旗だ。

正確に言えばこれ自身はただの旗でしかない。

だが、相手の顔色は変わった。

ここは流石と言うべきだろうな。……これの意味を理解できているって事なのだから。


「警備部隊を我が商会で編成し、街道を行き来する旅人の安全を守ろうと思う」

「分かってるとは思うけどさ!これはその部隊の旗だよ」

「なるほど。街の警備隊に頼らない……護衛用の私兵を用意すると?」


お、そこまで気付いたか。

傭兵を雇うと普通は思うところだろうが……流石だな、良く判ってる。


実のところ、自前で動ける武装勢力が欲しいと思ったんでね。

まあ……街道警備は良い訓練になるだろうさ。

これなら俺には損は無いし、トレイディアの利益は大きいぞ?


「しかし……一介の商売人が過度の武装をするのを、果たして領主は認めましょうか?」

「認めるさ」


おおっ!その質問は有り難いぞ。

正直どうやってこの話に持っていこうか迷ってた所だ。

話に乗っからせてもらうか。


「……実は極秘情報なんだが、トレイディアと神聖教会で戦端が開かれる可能性があるらしい」

「教団と、マナリア、の間違いでは?」


「知ってるだろ?マナリアと教団は不戦条約を結んでる。そっちは取りあえず大丈夫だ」

「……」


表情が変わらないけど……バイヤーさん、笑顔が張り付いたぜ?


……実の所、トレイディアと教会の間に緊張なんて存在しない。今の所は。

ただ、どうしてもそのガセ情報を掴んで貰わないといかん。

なぁに、調べれば直ぐにガセだと判る。


だからちょっと密偵を教団に送り込めばいいのさ。

……今頃、聖堂騎士団に捕まって税金を払ってる商会の手の者が、

向こうにも同じような事吹き込んでる頃だから。


そして、向こうの信者が情報を調べ始める頃には……。

この俺が"トレイディアのために"大々的に警備隊を募集するって訳だ。

……さて、向こうはどう思うかね?


まあ何も思わなくてもいいけどさ。

そん時は警備の一環で、不当な税を取り立てる連中と一悶着起こすだけだ。

それに……多分その頃には、トレイディアは傭兵を大々的に集め始めるはずだしね。

主にこれから行う俺の闇工作のせいで。


「まさか……それは無いでしょう?ふざけないで下さいよ!?」

「おいおい、可能性って言ってもそんなに高い可能性じゃない。落ち着いて」


そうでなくとも、トレイディア側からのキャラバンも何度か騎士団から搾取されてる訳で。

まあ、流石に落ち着いちゃ居られんわな?

要するに、既に教会側は疑われる素養がある訳だな。


……まあ、聖堂教会のトップの性格と異端審問官のトップの関係を調べれば調べるほど、

税でも何でも取り立てねばならん向こうの都合も見えてきたわけだが。


「だが、聖堂騎士団長ブルジョアスキーが資金を強引に集め始めているのは知っているだろう?」

「ええ。異端審問官の長、ブラッド司祭と折り合いが悪いとか」


そういう事だ。神聖教会は今まで魔王殺しの英雄、大司教クロスの元で纏まっていた。

だが、その重石が無くなり三年間の権力的空白が生まれた。

そこで事実上のトップとなったのが異端審問会と聖堂騎士団。

……当然仲は悪くなる。

しかも、この二つの組織……元から滅茶苦茶仲が悪かったんだなこれが。


「教会への寄付……資金を抑える異端審問会。そして教団の戦力中枢たる聖堂騎士団」

「仲良くなど出来るわけも無い、ですな」


「審問会は騎士団への資金供給を渋り始め、騎士団は武力を背景に審問会への恫喝を始めてる」

「……騎士団が我々から搾取を始めたのはそのせいでしょうな」


そう、実は俺が何するでもなく教団は空中分解寸前なのだ。

騎士団が独自で資金確保を始めたのが何よりの証拠。

……けど、それだと勝った方が教団の実権を握るだけ。

大司教の後継と言う形になる以上、どちらが勝っても俺に対する姿勢は変わるまい。

よって、第三者に一人勝ちして貰う事にしたわけだ。


「そう、そしてそんな教会に対し……トレイディアで異議を唱えようとしているお方が居る」

「それは一体!?」


「……それは企業秘密だ。だが、これから傭兵の仕事が増えるだろうな」

「そうですか。……傭兵ですか」


「ああ、それに騎士団側も兵力の増強を始めたようだしな」

「それは、まさか……」


ここまで言っておけば何が起きるのか大体予想が付いただろう。

すなわち、商都と騎士団の双方で戦争準備をしていると言う事だ。


まあ……兵力増強も、異議を唱えるお方も"今の所"存在しないんだけどな。


……バイヤーさんに付いている蟻からの報告によれば、

先ほどテーブルの下で指を何回か打ちつけたらしい。

そしてその合図に合わせ、隣の部屋に待機していたと言う執事風の男が配下に何か命を下したと。

よしよし、上手く踊ってくれよ?


……横のアリサがこくりと頷く。

これで偵察に出た密偵が戻る事は無い。恐らく森の中で屍すら残さず消え去る事になる。

そしてそれは不審を疑念に変えるのに十分な物のはずだ。


「まあ、そんな訳で物騒な世の中、キャラバンの護衛を商都の為に始めようかと」

「……そう、ですか。判りました……商売の許可は出します、が」


「が?」

「この商都での塩の販売は差し控えていただく。塩は専売制なのです」


……そう来たか。

とは言え、まあ……ギリギリ予想内の要求ではある。


「……そうか。まあ、仕方ないか」

「しゃーない。特別に条件飲んでやるよー」

「そう言って頂けると助かります。それ以外なら好きにして下さって結構ですから」


助かります、そう言ったギルド長バイヤーさんの目は真剣そのもので安堵すら浮かんでいた。

ああ、よっぽどそれが恐ろしかったんだなぁ。

実は塩って、地味に見えてかなり重要な物資だし、家の商会の塩は安いしな。


まあ……ここで行う商売は別だ。

最初から塩をこの国で売れるとは思ってないからいいけどね。


さて、アリサ?


「それじゃー指切りしよ?」

「指切り、ですか?」


「知らんの、おじちゃん?」

「申し訳ありませんが存じませんよお穣ちゃん」


アリサはにっこりしている。

バイヤーさんも戸惑いながらもにこやかにしてるな。

……内心、なんでこんな大事な商談に子供を連れて来るのかとイラついてるだろうに。


「こうやってね、指と指をからめてー、声を揃えて言うの。約束する時に」

「ほうほう。それはまた可愛らしい風習ですなお穣ちゃん」


とは言え本当の所はどう考えてるか判らない。

だが、取りあえず商談相手に合わせようとするのは流石商売人という所だ。

アリサの指切りに合わせてやっている。


「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲~ます、指切った!」
「ゆびきりげんまん?嘘ついたら針千本のます、ゆびきった?」
『指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲~ます、指切った!……契約(エンゲージ)』


……ガチャン、と何処からともなく鍵のかかるような音がする。


……。



「あの、ですね……今の音は何で、セバスチャン!セバスチャンはおるか!」

「はい、旦那様」


突然部屋内に響き渡った音に呆然としていたバイヤーさんだったが、

いきなり隣室から執事を呼び出した。


「……はぁ、最初から約束守る気無かったわけな?」

「それは一体どう言う?……セバスチャン!針を、針を千本用意しなさい!って私は何を!?」

「うんとね?契約の魔法は嘘つきすると、針を飲みたくてたまんなくなるの」


以前、冒険者ギルドのランク再認定前に手に入れた"魔道書"の中に書かれていた魔法の一つだ。

約束をした相手と小指を絡め合い、詠唱すると両者にかかる最狂の魔法だ。


この魔法が一度かかったら最後、約束を破ろうとした途端に無性に針を飲み込みたくなる。

……しかも、千本飲めば終わりだと思ったら大間違い!

約束を守るよう考え直すまで、何度でも針千本を飲みたくなるのだ。

更にその拘束力は麻薬の禁断症状より酷い……。


「だ、旦那様!?」

「たのむ、頼むセバスチャン……は、針を……針を持ってきてくれぃ」


おっと、執事さんがかわいそうだな。


「バイヤーさん。約束を破ろうとしている内はその呪いは解けないぜ?」

「呪い!?呪いなのですかこれは!?……ああ!怖いのに針が飲みたい!」

「……約束破りは死んじゃえばいいよ」

「そんな、旦那様ーーーーっ!」


アリサ、トドメをさすな(笑)

にしても……この内容で守る気が無いとはどういうことだ?


「ほらおじちゃん?約束守らないとお腹がトゲトゲで一杯になってしんじゃうよ?」

「あ、ああああ……わ、判りました!守ります、守りますから!」


あ、今にも手元から飲み込みそうだった針数十本を落としたぞ。

どうやら改心したっぽいな?


と言うか執事さんよ?幾ら命令でも本当に針を持ってくるのはどうなんだ……。


「はぁ、はぁ……何と言う恐ろしい技なんですか」

「で?あれだけの約束すら守る気が無いってのはどういう事なんだ?」


ちょっと凄んでみるが、あんまり堪えたような気配は無いな。

でもバイヤーさん。今度は心からの笑顔を浮かべてるようなんだが?


「あっはっはっは。まさかこんな手段があるとは、私もまだまだですなぁ」

「で、どう言う事なんだ?」


「いえ、口約束では"禁止事項以外は好きにしていい"と誰にでも言いますけど」

「あー、本当に自由にさせる事は無いか」


「ええ。無論当たり前の商売を邪魔したりはしませんがね」

「よーするに、やり過ぎちゃった?」


「いえ……契約内容を反故にしようとした罰です。受け入れますよ」


おや、意外と物分りがいい。

俺達はこれから一悶着あるかと身構えてたんだが。


「ですが……素晴らしいお力ですな、ニーチャさん?」

「成る程。で、誰に"契約"をかければいいんだ?」


流石だ。流石は商人ギルドマスター。

転んでもただでは済まさないか。


「話が早くて助かります。実は借りた資金を返さず……ごにょごにょ」

「ほうほうほう……で、幾ら出す?」


「この位でいかがですか?」

「乗った!」


……。


結果的に商人ギルドとの交渉は予想以上に上手く行った。

ついでに定期的に"お仕事"を依頼される事になった上、

バイヤーさんからは「貴方は神!」とまで言われてしまった。

……社交辞令でも嬉しいものは嬉しいもんだ。


そして、ちょっとした仕事も済ませた俺は商人ギルドを後にする。

これで表向きの仕事は終わったと言う形になるな。


「次は……領主館か」

「OKだよ。でも、どうやって入る気?」


まあ、そこは当てがある。


「村正は駄目だよ?あの人身分を隠して冒険者してるし」

「そりゃそうだ。俺はアイツの身分を知らない事になってるからな」


いやあ、しかしまさかあの村正がこのトレイディア領主の一人息子とはな。

あの妖刀も金だけじゃ手に入らない業物だし、確かに普通の冒険者じゃなかったよな。

怪しい雰囲気なのは世間知らずゆえなのか……それは判らないが。

まあ……首吊り亭には異常な連中ばかり集まってるから目立たなかったけど。


そして奴の実績ランクが低いのは、止めさせたい父親から圧力がかかってるせいだったり。

奴が奴である以上、冒険者として大成は出来ないと、何時か教えてやれる日は来るのか……。

余りに可哀想なんで俺の口からはどっちにしろ言えんけどな。


「で、じゃあどうすんの?コネが無いと入れないよ」

「アポ取ってるから大丈夫」


「アポって……どうやって取ったの?一介の商人に会ってくれる訳無いよ?」

「別に領主に会うわけじゃない。俺……カルマからの紹介って言ったら一発さ」


「なにゆえ!?」


はっはっは、あまり驚くな。俺にだってコネが無いわけじゃないんだ。

誰って?まあ、それはそれ……会ってみてからのお楽しみだよアリサ。

とりあえず、お土産のお菓子はきちんと持ったよな?


……。


そして、俺達は領主舘に通された。

……正確に言うならその一室、周囲の使用人から"脳無しの部屋"と蔑まれるその一室に。


「カルマさんより紹介のあった商人。ニーチャ様がおいでです」

「うむ!入りたまえであーる」


メイドが声をかけると、のほほんとした声が響く。

無駄に豪華な扉を開けて部屋に入ると……そこは正にニートの部屋だった。

いや、21世紀的な奴ではなく本当の意味でのだ。


散らかった本と菓子の欠片。

昼間っから転がっていたのだろう、布団の中央にしわの寄ったベッド

そして、洋間にも関わらず絨毯の上に寝そべるトドのような巨体。


「我輩がボン=クゥラ男爵。トレイディア領主の弟。カソの領主であーる」

「おひ、お初にお目にかかる。サンドール・カルーマ商会総帥。ニーチャだ」

「え、えと……お土産のお菓子、だよ?」


アリサ、気持ちは判るが余りどもるな。

俺も人の事は言えないが、余りに挙動不審すぎるぞ?


「おほ、おほ、おほ!お菓子か。ありがたいのであーる」

「えーと、開けてみてみれ?」


菓子箱を乱暴に開けるボン男爵。

名前自体は随分前から出ているこのお方だが、

中身はまあ、名前の通りこんな人なのである。


さて、中身を見てどう出るか?


「おほっ!?これニーチャ総帥。この菓子は食えんぞ?」

「いや!それ山吹色のお菓子!と言うか金だから!まさか気付いてないのかよ!?」


……じっと目の前の箱の中身を見つめる男爵。

歯型がついた他はピカピカの金色。


「本当である。金であーる!見事であーる!」


本当に気づいて無かったよこの人!?

マジで?マジでなのか!……いや、マジだろうなこの人だと。

何せ自分の領土を滅ぼすような阿呆だし。


『ボンクラってレベルじゃないよ兄ちゃ!?』

『だから組し易いんだ!それにカルマの名で呼び出せるのはコイツ一人なんでな』


アリサの動揺は良く判る。

これが大将じゃあ勝てる戦いも勝てないだろう。

……だがまあ、それ以外の選択よりはリスクが少ないんでな、我慢しろ。


「さて……早速だが用件に入らせてもらおう」

「えー、めんどくさいのであーる」


ヲイヲイヲイ!

流石に聞いて貰えないのは困るんだが!


「あー、ところでご存知ですか?貴方の御領地が滅んでいる事を」

「え?そうなのか?我輩知らなかったで……えええええええっ!」


あ、あれから半年だぞ!?

未だ気付いて無かったのかこの人!?


「そ、そんな!そうしたら我輩の今後のお小遣いは誰が用意するのであるか!?」

「そういう問題じゃないだろうが!」


……そうか、俺達が必死になって収め続けてた税金、

アンタにとっちゃお小遣いだったのか。

俺達が、腐った芋で……食い繋いでた、文字通りの血税を……畜生。


まあいい。その借りは返してもらうぞ?俺の思い通りに動いてもらう事でな。


「まあいい、カルマから聞いたがそれは聖堂騎士団の仕業だ!」

「なんだってー」


「しかも奴らは最近トレイディアのキャラバンを無差別に襲い、税と称して積荷を奪っている」

「あー、それは我輩とは関係ないから別にどうでもいいのであーる」


……本気かこの男。

あー、アリサ?大丈夫、兄ちゃがこの馬鹿でも勝てるように動くから。

だから泣きそうな目で見るな。それはお前のキャラじゃないし。


「それで我が商会も、騎士団の横暴で大きな被害を受けている。そこまで言えば判るか?」

「いや、全然わからんであーる」


「要するに、金銭面でサポートするから奴らを叩き潰さないかって事なんだが……」

「おほう……だが、騎士団と戦うと我輩、何か得するのか?」


ここまでいって判らんのかボンクラ!?

と言うか、自分の領地が滅ぼされたのが奴らのせいって言ったら何はともあれ報復するだろ!?

いや、そこまで抜けてるからこそ、そんな大嘘に騙されてくれるのだから良し悪しか。

まあいい、ならば何処までも判りやすく行くだけだ。


「いいか?このままじゃアンタ近いうちに破産だぞ?」

「何故であるか……あ、領地が無いとお小遣いを納める者が居ないであるからか!」


男爵。その閃きで誇らしげにせんでくれ。

元領民として泣けてくるから。

……いや、慣れよう。先ずは気を取り直すことが先決だ。


「そうだ。その敵討ちをしたく無いか?」

「ほふぅ……確かに悔しいかも知れんのであーる」


「しかもだ。勝てば騎士団領が手に入るぞ?」

「……それは美味いのであるか?」


「食い物じゃねぇ!新しい領地だ!」

「おお!それでそこは領民が一杯居るのであるか!?」


駄目だこりゃ……操り易そうだが根本的に駄目すぎる。

当初の計画ではコイツに騎士団領を略奪させ教会の力を削ぐつもりだったが……。

計画を変更したほうがいいのだろうか?


「えーと、で、その豊かな領地をアンタが手に入れる手伝いをしたいと我が商会は考えてる」

「それはありがたいのである。早速取り掛かるのであーる!」


「あー、そこは普通"ふむ、それで見返りは何が望みだ"とか言う所じゃないか?」

「それもそうである。見返りは何が望みなのであるか?」


「アンタが新しい領土を手に入れたら、そこでの商売を我が商会に仕切らせて欲しい」

「良く判らんが構わんのである!約束である」

「じゃあ指きりだよ……はぁ」


アリサが呆れかえっているが、俺も同じ気持ちだ。

……計画に少し修正を加えておくから安心しろ。


「それじゃあ、全部俺達に任してくれ。実戦まではここで吉報を待っててくれればいい」

「うむ。任せたのである!」


契約内容確認。……術式機動だ。

ああ、勝たせてやるさボンクラ男爵。

だから……名前だけ貸してくれ。


『指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲~ます、指切った!……契約(エンゲージ)』


まあ取りあえず、男爵と"契約"を交わし、俺達の謀略は第二段階に入ったのである。

……総大将に多大な心配を残したままで、だが。


……。


さて、続いてやって来たのは何処かと言うと……傭兵国家運営の傭兵ギルド。

古今東西のツワモノどもが集まる戦闘ジャンキーどもの巣である。

冒険者との違いは、戦いのみを生業とすること。

俺達は、そこにボン=クゥラ男爵の使いとして現れたわけだ。


「ほぉ?傭兵を雇いたいと?」

「ああ。領地を亡くした男爵は聖堂騎士団領を奪い取るつもりらしいぜ?」


じゃらりと金貨をカウンターに転がす。

……俺達が必死になって貯めた金ではあるが、金は必要な時に使わねば意味が無い。

それに、未来の安全への投資だと思えば惜しくは無いしな。


「ヒュー!こりゃあのボンクラ……本気だな?」

「ああ。今回は大義もあるし、ど派手にやらかすみたいだ」


「大義?あの徴税か?だが、今まで領内通過する商人を見逃してた方がおかしいと思うが」

「今まで無かった物がいきなりだからな。不当にも見えるだろ」


「……なるほどねぇ。まあ仕事内容は判った。傭兵五千人か……集めるだけで大仕事だぜ」

「頼む。期限は半年以内だ」


ニヤニヤしてるなぁ。

まあ当然か。聖堂教会、そして異端審問官達に流せばいい稼ぎになる情報だしな。

それに……傭兵は仕事中は裏切らないものだ。

例えトップと敵対していたとしても契約中は依頼人に従うのが傭兵のマナー。

それが無くなったら次の雇用は無いからな。

金さえ続けばある意味これ以上信じられる物は無い。


さて、これで商人ギルドに喋った事が真実となったわけだ。

……ここから先はボールが坂道を転げ落ちるような物だ。

俺が何かしなくても、勝手に敵対が進んでくだろう。


そして……情報を掴めば恐らく聖堂騎士団も傭兵を雇おうとするだろうな。

そうすれば傭兵同士で戦い……傭兵国家へのダメージも期待できるってもんさ。

更にもう一つ、副産物的な効果が期待できるが……これは上手くいった時のお楽しみだな。


じゃあ、こんどこそ俺の私兵を集めに行くとしますか?


……。


商都トレイディアは大陸中から富と珍しい品物、そして人が集まる一大都市国家だ。

だがトレイディアの城壁の外。

そこにはもう一つの商都の現実が広がっている。


「右や左の、旦那様~」


物乞いが道に溢れ、


「あ、あの……お花を買って下さいっ!」


泣きそうな花売りが行き交う街道沿い。


「畜生……弟がやられちまった」

「葬式出す金も無いよ」


始まりは、街の中に入れなかった一人の旅人が雨避けに作った小さなバラック。

それが何時しか街道沿いに細長い集落を形成した。

そして遂にそれは一つの街として地図に記載されるに至る。


そう、そこは煌びやかな街の中に入れても貰えなかった者達の溜まり場。

人呼んでトレイディア外周貧民街。即ちスラムである。


サンドール行きの地下道入り口を隠すため、俺もこのスラムの隅に小屋を持っているが、

ここの連中は希望を持ってやって来て、その夢破れ、しかも帰る場所の無い連中だ。

人々はここで一筋の希望を胸に必死に生き延び、そして何時しか諦めて腐っていく。

ここはそんな場所だ。


……ただ、今日ばかりは少し様子が違う。

夜の内に貼られた一枚の張り紙の周りに人々が群がっていた。


「……街道警備の仕事か」

「求人数……何人でも!?」

「お給金が一日銀貨一枚!?凄いぞ!(日本円換算1万円)」

「俺!応募するぞ!」

「便所掃除はもう飽きた」

「そうだ!一日働いて銅貨10枚なんてやってられるか」

「でも、危険じゃないの?」

「ここで死んで無いだけの生活よりは安全だろ?」

「……田舎のお袋に、仕送りできるかな?」

「仕事があるだけで有り難いと最近の若者は何故判らん」

「で、何処に行けばいい?」

「ここで良いみたいだが、そろそろ時間だよな?」

「……今更嘘とかは認めんぞ!」


ワイワイとやっているが、うん。昨日貼っておいた求人広告。

眼を皿のようにして見てるな。いい事だ。

こいつ等は世間から捨てられた連中。……優しく出来ればきっと素晴らしい戦力になってくれる。

それに、兵隊にしては給料安くて済みそうだしな。


「よお。ここに居るのは全員我が商会の警備隊募集に応募するメンバーと考えていいのか?」

「本当にきたーっ!」
「旦那がカルーマ商会の!?」
「仕事プリーズ!」


たった一枚の紙切れに群がるは100名以上の人だかり。

……横目でアリサに合図をして早速面接、と言うか仕事内容の説明会だ。


「皆。俺がカルーマ=ニーチャ。サンドールの商人だ、今日は来てくれてありがたく思う」

「そんな事より仕事の話だ!」


「おう。張り紙を見ての通り街道のキャラバンを護衛する仕事だ」

「山賊連中から積荷を守ればいいのですか?」


「積荷だけではなく商人達も守る所まで仕事だな」

「……もし、守れなかったらどうなるんですか」


あー、それは確かに心配か。

うーむ。余り厳しくしても人が集まらんし甘すぎると付け上がるしな。どう応えるか。


「失敗ごとに安全だが実入りの少ないルートに回す。何度も失敗した場合は……雑用だ」

「そ、そうですか」
「まあ、当然だな」
「ちょっと怖いなぁ」


「但し、警備中の戦闘で怪我をした場合、回復するまで給金を払い続けるので勇敢にやってくれ」

「本気か!?」


「ああ。但しズルをしようものならただでは済まさんがな?」


蟻の監視網からは逃れられんからね。

だからこそこう言う事が言える訳でもあるが。


ああ、そうそう……一番大事な給料の事を言っておかんと。


「書いてある通り一日銀貨一枚支払う。そして手柄があった者には臨時手当を支給する」

「臨時手当!?賊を倒せばもらえるのか?」


「正確に言えば積荷と商人を守った時だ。敵の強さに応じて金を支払う事になる」


周囲がざわめく。

恐らく多少目端の利くものが、やり方如何によっては普通より多くの金を掴める事に気付いたか。


「そうなると……危険な街道を警備すれば一月銀貨30枚どころか50枚とかいけると?」

「場合によっては、な」


さて、そろそろいいか。


「じゃあ決めてくれ!俺の元に来るか否か」


「お、俺はあんたに付いてくぜ!」
「無職脱出だー」
「娘に花売りなんかさせないで済ますためなら何でもする!」
「このままここで朽ち果てるくらいなら……」
「ここから抜け出せるかもしれないな。俺もやらせてくれ」


おっ、結構好感触じゃないか?


……。


……そうして、第一期募集では50名ほどの警備隊が集まったわけだ。

それから二週間。彼らはトレイディアから少し東に行った所にある草原で簡単な訓練をしている。


「おらあっ!並べっ!走れーーーーッ!」

「精が出るな、あ……ライオネルさん」


「応!ニーチャか!まあ任せな?こう見えても15年くらい前は兵士だったんだぜ?」

「ははは、よろしく頼むよ」


ああ、そうなんだ。

冒険者ギルドに訓練教官頼んだら、よりによって出てきたのがライオネルの兄貴だったわけ。

しかし、兄貴……昔は兵士だったのか。

そういえば村に居た時も既に二十代後半だったしなぁ。

いい年こいて何遊んでるんだと思ったが……きっと色々あったんだろう。


「基本は素振りだっ!基礎さえ出来てりゃ応用は後から付いて来やがるから安心しろっ!」

「「「「はいっ!」」」」


何にせよ、軍隊式の訓練をして貰えて助かる。

……何時までも、街道警備やらせてる訳じゃないからな。


「飯のためならー」
「何のそのー」
「これで金になるならー」
「きつくは無いぜー」


訓練でも仕事は仕事。

……払い続ける賃金が、段々と彼らの忠誠心となって来ているとアリサから報告があった。

そして、第二次募集で今度は100人ほどの応募があったとも。


「順調だな」

「何がだニーチャ?」


「いや、訓練がさ」

「はっ。まだまだだ!体が出来上がるまで二ヶ月はかからぁ。それまでは待ってくれよ?」


「勿論だ。あに……アンタの判断に任せるからな」

「応、話が判る依頼人で助かるぜ?まあ見てな、直ぐに精鋭部隊を用意してやらぁ」


……ははは、頼もしい兄貴だ。

しかし、俺に全く気付かないのはどうかとも思うけどな。


「じゃあ、俺は商館に戻る。訓練をよろしく」

「応!任されたぜ!」


さて、それじゃあ戻るか。

新しい我が家へさ。

そろそろ開店準備も整ってると思うしな。


……。


「「「お帰りなさいませ」」」


上流階級が多く集まる領主館前の大通り。

その一角に我がカルーマ商会の新商館はある。

先日ようやく中核スタッフがサンドールから到着し、

この二週間で雇った連中と共に開店準備に追われている。


この商館にもある総帥用執務室で随分と立派な椅子に座ると、

一人の女性が部屋に入ってきた。

年頃は俺より少し上ぐらい、知的な雰囲気のお姉さんだ。


「成る程。ここの責任者はパピ君になるのか」

「ハピです」


彼女はハピ。

ホルスからの強い要請で雇った女の子だ。

腕力は無いが性格は極めて真面目で信用できる。

女ホルスと言ってもいい、メガネの似合う優秀な秘書だ。

腹心たるホルスはサンドールから離れられない。

その為にここに送り込まれたのが彼女。

なお、数少ない"秘密"の共有者でもある。


何でも元は奴隷の子として生まれたものの、

その優秀さに王家が目を付け宮廷で文官をしていたらしい。

けど、仕えていた人が権力闘争に負けてとばっちりを食らい投獄。

そして資金を得たホルスが保釈に奔走したと言う訳。


「なんにせよ、俺は席を外す事が多いから基本的に店は任せる事になると思う。頼むぞ」

「はい。全ては総帥の御意のままに」


「取りあえず、金貸しって怨まれやすい仕事だから気を付けろよ?」

「問題ありません。総帥のご指示通り"返せない者には貸さない"を徹底いたします」


「無茶はしなくていいからな、ハピ君?」

「はい。ですがアリサ様の手の者まで動員して失敗する訳には行きません」


まあ、そういう事だ。

我がカルーマ商会は金融業をはじめる事にした訳だ。

借り手を極限まで制限し、返せない奴には貸さない代わりに良心的な利子設定が謳い文句。

……そして借り逃げはさせないのがモットーだ。

借りに来る奴は調べ上げまくって、自分から返しに来る奴のみ貸してやろうって寸法な?


「うん。それと……新聞の方はどうだ?」

「ご指示通り、見出しと概要のみを書いた物を広場に張っておきました」


「で、反応はどうだ?」

「僅かですが詳しい事に興味のある方々が購読の申し込みをしに来ております」


「いや、張ってある方への反応」

「え?ああ、沢山の人が群がっていますが?」


「なら良し」


ふむ。新聞は儲けが目的じゃないからな。

わざわざ活版印刷用の手回し式印刷機まで見よう見まねで作ったのも、

全ては情報を制するためなのだ。


「あの貼ってある新聞はな、有料の詳しい記事を読ませるための餌じゃないんだ」

「では、本命は無料で読めるあの新聞のほうですか」


「そう。俺達の書いた記事なら俺達の不利な事は出来る限り排除できる」

「確か思想統制、と仰られましたか」


「そうだ。一般大衆向けとは即ち大多数向け。そして人は持っている情報から結論を出す」

「即ち、他者の持つ情報を制御する事である程度なら人の意思をも操る事が出来る、ですね」


「マスメディア……情報を制したものが勝つんだよ。これで正義は俺が決められる」

「はい。ご慧眼に感服いたします」


アリ達の活躍を見てて思いついたのがこの新聞屋なのだが、

まあ我ながらえげつな過ぎて泣けてくる。

だがまあ、相手は長い歴史のある宗教と国家だしなぁ、

仕方ないよなぁ?

……言っとくけど記事自体は嘘言わないよ?

ただ、俺にとって不都合な事は出来る限り書かないだけでさ。


「さて、今日の報告を聞きたいんだけど……アリサは?」

「アリサ様でしたらサンドールに戻られています。変わりにアリス様がお出でですよ」


「呼ばれたようなので来たであります!」


バタンとドアを乱暴に開け、赤い蟻ん娘頭にバケツ付きが堂々の登場である。

まあ、アリサと感覚を共有するコイツならアリサからの報告と変わらない。

殆ど電話だな。俺限定で便利な世の中になったものだ。


「んじゃ、早速報告1であります!」

「うん、頼む」


「カルーマジャンボ第一回の発表が行われたであります。儲けは金貨1500枚」

「そんなもんか?」

「総帥、そんなもんかって……当選者へ賞金を支払った後ですから十分な利益ですよ?」


っと、総帥状態が長すぎたようだ。

随分感覚が麻痺してるな?速い所カルマに戻りたいもんだ。

確かに日本円にして15億円とか異常な額だよな普通は。

サンドールで、しかも試しでこれなら……次はこのトレイディアでも売り出すか。


因みにカルーマジャンボは一等前後賞あわせて金貨100枚の宝くじ。

サンドールで試しに売り出したらあっという間に売り切れていたりする。

……いやー、儲かるとは知ってたけど本当に儲かるなこれ。

宝くじって売れさえすれば確実に儲かる仕組みになってるし、

売り出す方としては素晴らしすぎる商品だぜ。ぼろ過ぎだ。


「にいちゃ?次の報告に行くでありますよ?」

「ああ、そうだな頼む」


「えーとね。倉庫に忍び込んで商会の秘密を探ろうとしたお馬鹿が出たであります」

「どうなった?」


「運悪く地下の入り口を見つけられたであります。今後はもう少し工夫するであります」

「勿論情報を持ち帰られていないよな?」


「手を下すまでもなかった。海水を蒸発させる装置に触って勝手に自爆したであります」

「……被害額は?」


「装置の修理に三日かかったであります。在庫はあるから売り上げには影響無しであります!」

「なら良し。対策は?」


「アリサの命令で侵入者用の罠を設置する事にした。お馬鹿には溶岩流し込んでやるであります」

「……そうか」


通路を封鎖された挙句溶岩の中に飲み込まれる侵入者の末路が容易に想像できるな。

まあ、今後は馬鹿が現れないことを祈るか。


「最後に国際情勢であります。……カタ=クゥラ子爵が動いたでありますよ?」

「誰だっけ?」

「村正さんですよ総帥。子爵が叔父の挙兵に合わせ、領地の兵を招集し始めたとか」


「あの人も、森では酷い目にあったから。意趣返しの意味もあるのだそうでありますよ!」

「そうか。思ったとおり勝手に状況が動き始めたな」

「はい。聖堂騎士団も傭兵を雇いだしたようです」


そうか。思ったとおりだな。

……とはいえ、思う所が無いわけではない。


「なぁ。二人とも……俺、酷い奴だよな」

「はい。ですがそもそもこれは教会側が仕掛けてきた戦い。仕方ないのでは?」

「別に酷く無いであります。敵に手心を加える余裕は我が方には未だ無いでありますから」


それでも、俺の行動で戦争が起きようとしているのだ。

いや、俺は今も戦争を起こすべく暗躍している。

……かつては考えもしなかったような事だが、

俺のせいで罪無き人が何人死ぬか判ったもんではない。


「気にしても仕方ないよ、ってアリサが言ってるであります。ハピもそう思うであります?」

「ええ。私も同意見です。総帥の行為は己と私どもを守るためのもの。堂々として下さい」

「ふぅ。アリス、ハピ。そしてアリサも。皆ありがとな?」


そうだ。他人の不幸なんか気にしてどうする。

俺は身勝手に生きるんだ。もう他人の顔色を伺って暮らすのは止めだと決めた。

……もう、部屋の中に引きこもりビクビクして生きているかつての俺じゃない。

俺はカルマ。そしてカルーマ……自称大陸有数の謀略家なんだからな。

俺の為に誰かが不幸になったとしても、それがどうした!?

誰かの為に俺が不幸になるよりはずっといいんだ!

……俺は守るべきものしか守らない。守れない。


「よし、それじゃあ次の火種を蒔きに行くぞ。アリス、付いて来い」

「あいあいさー、であります」

「総帥、ご武運を」


金縁の上着を脱ぎ捨て、上げ底の靴を履き替え、俺はまた冒険者カルマに戻る。

だが、それもまた今回の謀略の一環だ。


「では、カルーマ商会トレイディア商館長ハピさん。仕事の内容を説明してくれ?」

「ふふっ。承知しましたカルマ様?では、ご存知でしょうが説明しますね」


とんだ茶番ではあるが、作戦の説明を受けてみる。

……サンドール行きのキャラバンの護衛が今回の任務。

だが、真の目的は聖堂騎士団に対する挑発である。


「了解、なんてね。じゃあ行って来る」

「お待ち下さい。契約がまだですよ」


「ははは。そこまで本格的にやらなくても……って本気かハピ?」

「はい。私との契約内容はただ一つ。死なないで下さい」


ふう、そうまで言われちゃ断れないな?

そっとお互いの指を出し合い、軽く絡み合わせる。


『指切りげんまん、嘘ついたら、針千本飲~ます、指切った!……契約(エンゲージ)』


響き渡る錠前の音。

これで俺は死ねなくなったわけだ、なんつって。

ん?ハピ、何か言いたい事があるのか?


「いいですか。既に貴方の肩には商会の関係者全員とその家族の運命がかかっています」

「そうか……当たり前だけど、そうだよな」


「私達を残して勝手に逝かないで下さい。私も父も……カルマ様をお慕いしておりますから」

「んー、判った。まあ死ぬ気は無いから安心していいぞ?」

「あたしがいる限りにいちゃは死なないであります!」


ああ、そうだ。こんな所で死ねるか。

俺はもっと幸せに生きるんだ。その為には他人の不幸なんぞ気にしてられない。

まー、それも気分次第で他人も幸福にしたいと思うこともあるけどね。


それに、生き延びてればその内……こいつらにも報いることが出来るだろうし。

そう。俺の我が侭に付き合って命までかけてくれるこいつ等に、な。

今日交わした契約は、そんな仲間達に対する俺の責任なのかもしれない。


だがまあ、今はこの謀略を完遂するのみ。

……教団の連中、ただでは済まさんよ?見てろ……。


***商人シナリオ4 完***

続く


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