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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 18 超汎用級戦略物資
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/04/02 20:54
幻想立志転生伝

18

***商人シナリオ3 超汎用級戦略物資***

~物珍しいだけが良い物ではない~

《side カルーマ》

冒険者カルマ改め商人カルーマ、砂漠の国サンドールにただいま帰還した。

なんつって。


俺発案で地下に作られた超高速弾丸滑り台によって、

トレイディア=サンドール間が2週間から1日に短縮されたのはいいが、

到着時の衝撃で全身が痛い。つーか骨が折れた、物理的に。

早く衝撃吸収用のおわん型エリアを整備させねばならん。


さて……あいも変わらず朝っぱらから蜃気楼が見えるような異常な暑さ。

夜でも暑い異常なサンドールだが昼間は更に暑い。

……嫌がらせか全く。


さて、今回やってきたのは水商売……エロい意味ではない。の現状報告を受けるため。

そして先日から作らせていた、とある商品の開発状況の確認だな。

何せ、これから家の目玉商品になる予定だし。


さて、では早速状況確認をしてみるか。


何時もの変装の上、剣も砂漠仕様の曲刀に持ち変える。

先日の変装では足りないような気もするので、

付け髭も少し大きくして顔の下半分を覆う物に変更し、更にかつらで髪形を変える。

……コレで良しと。


では早速視察としゃれ込むか。


……。


地下に繋がる倉庫から表に出ると、屋敷の庭はすっかり市場になっていた。

中央に競りに使う大きな台があり、その上でホルスが雇ったであろう売り子達が声を上げている。

……と言うか、以前この屋敷を占拠してた逃亡奴隷の姿もあるんだが。


「では、水入り巨大壷三つはアブドォラ家が落札されました!」

「よぉし、さっそく持ち帰る!急がんとご当主に叱られるぞ!?」


「続いて大壷!はい、アヌヴィス商会の方……金貨10枚ですね?」

「まだだ、我がアヌ一家は金貨12枚出す!」

「金貨13枚と銀貨50枚!」


おや、客層が変わってるな。


当日は個人に小さな壷で売ってたが、今ここに群がってるのはどれも名家や商会の使い。

要するに業者だ。

そして取引される水の量も桁が違う。

使いの連中は荷車を用意しそれにドラム缶程もある大きな壷、というか水瓶を載せて行く。


「何時の間に、うちは問屋になったんだ?」

「気が付いたら自然にこうなっていました。お帰りなさいませ、主殿」


おや、ホルスがお出迎えか。

実質的な商会No,2なんだから表まで迎えに来なくてもいいものを。

相変わらず律儀な男だ。


しかし、問屋ね。

業者はここで買い込んだ冷水を、自分とこの店で売り出すんだろう。

余り考えていなかったが、既存の業者と対立するよりはずっといい話だと思う。

まあ、少し割高になるが……サンドール王都は広い。

ここは西地区に当たるが、別な地区からわざわざ買いに来るにはここは遠い。

それなら多少割高で温めでも、近くで買える方が良いと考える人も居るだろう。

逆に何としても刺すような冷たさを求める者も。


「まあ、住み分けが出来て良い事か」

「私もそう思います。一般人向けはアリサお嬢様がやっておられる方式で正解でしたし」


ん?アリサのやり方?

と、思った瞬間後ろをチョコチョコ付いてきていた赤青の蟻ん娘のアホ毛が何かに反応。

クルリと反転し即座に走り出した。

そしてそれと入れ替わるかのように突っ込んでくる人影が一つ。


「その通り!あたしのアイディアは世界二位ーっ!」

「やかましい」


突撃してくるアリサにデコピン一発。

うん、俺達はやっぱこうで無いと。


「はうっ!痛いぞ兄ちゃ!」

「人様が一杯居るだろうが。少しは自重しろ」


「だが断る」

「やかましい!」


デコピン二発目。

取りあえずこのボケナス妹を何とかせんと話が進まんからな。


「で、一体どうしたんだ?」

「おお!そうだった。兄ちゃ、見て見て!あたしのお店だよ?」


「ほぉ?……オープンカフェの喫茶店か」

「おーよ。日除けにヤシ科の植物の葉を使って、この辺では珍しいグラスで飲み物出してる」


へぇ。ガラス製のコップでか。

そりゃあお洒落だな。

何せトレイディアでもコップは木製だし。


でも高かったんじゃないか?

ガラスなんて使ってるのはそれこそ王侯諸侯くらいのもの。

だがこの時代なら価値は高い。

美しさも十分だし話題性もあるだろう。

そう考えればそうそう高い買い物でもないのかも。


現に会計してるアリシアの前には長蛇の列が出来てるし、

水壷や酒瓶を倉庫から持ってきてるアリスは休む間もない様子だ。


「で、儲かってるのか?」

「ちょこっと。……これはむしろ周辺住民へのサービスサービスぅ、だし」


二回言うな、ずぼらに見えるから。


だが、中々考えているもんだ。

周りが敵だらけでは身動き取れないしな。

味方につけておいて損は無い。


「それにさ、わざわざ王都のはじっこから飲みに来てくれるんだよ?」

「……それが高けりゃひんしゅくも買うか」


『更に、コレにより周囲の水屋は別地区に移った。独占成功だよ』

『追い出したのかよ……』


『うんにゃ?勝手に出て行った。まあ、こちらのお水を毎日買いに来るけどね』

『えげつねぇなお前も』


『大丈夫、ご近所の業者さんには少し安値で売ってあげてるからむしろ感謝されてる』

『更にえげつねぇ』


突然言葉を変えて来て何を言うかと思えばとんでもないな。

商売敵追い出して恩まで着せるかこのチビ助は。


「積もる話もあるでしょうが、ここは暑いです。そろそろ中に入りませんか?」

「それもそうだな」

「お水にお砂糖入れて持ってくねー」


まあ、何にしてもこちらは上手く行ってるって事だな。

それは何よりだ。


……。


「それで、問題はあるのか?」

「水を入れる水瓶や壷が足りていません。職人に急がせていますが多少割高になりますね」


取りあえず屋敷の中でくつろいで、太陽が沈んだ頃にトップを集めて会議を行う事にした。

トップと言っても今のところ俺とホルス。そしてアリサ達三匹だけだが。


まあ、報告を聞く限りおおむね順調だが、問題も無い訳でも無いらしい。

その一つがこの入れ物の不足だ。


「まあ、売れまくってるって事だから悪い事ではないが……慢性的だとマズイか」

「そうですね主殿。壷職人達が今後も値上げを続ける可能性があります」


ふぅむ。と悩んでみるテスト。

……実際それに関してはどうにでも出来る良い案があるし。


「じゃあ、使用後の壷を買い取れ。もしくは下取りしろ。……それでどうだ」

「成る程、流石は主殿です。ではそのように取り計らいます」

「おー、流石は兄ちゃ。あっさり解決」
「かいけつ、なのです」
「一撃で解決であります!」


実は昔のビール瓶とかコーラのビンとかを酒屋なんかで再利用してたのを真似ただけだがな。

でも、限りある資源を大切にするのは大事なんだぞ、と言ってみる。

この時代でそんな事気にしてる奴は居ないだろうがな。


「で、他には?」

「うんとねー、トレイディアからの輸入品のキャラバンが襲われた」


おいおい、それは洒落にならんぞ?

結構高価な代物も運んでるし、アブドォラ家との約束もあるんだ。

荷物が無いじゃあ済まされない。


「誰にだよ?盗賊なら返り討ちだ。場所が判ってるなら取り返しに行くぞ?」

「それが……聖堂騎士団なんです」


はぁ?なんで教団が商会の荷物を狙うんだよ?

あ、いや……まさか!


「……まさか!俺のことがばれたのか!?」

「それならまだ対応の取りようもあるんですが」


「ばれても居ないのに、か?」

「……馬車3台分の荷物の内1台分を持っていかれました」

「騎士団領通行の際にね。今度から通行税を取るんだって」


おいおい、そんなの初耳だぞ?

と言うかトレイディア=サンドール間を行き来する場合、

傭兵国家か教会……聖堂騎士団の支配地域をどうしても通らねばならない。

傭兵国家はそもそも山賊まがいの事を平気でするのでそっちを通る選択肢は無し。

これで教会側が税金強化だと?

せっかく法律の隙間潜り抜けたのに意味無いじゃないか!


「……と言うか、他の商人はどうしているんだ?」

「困惑してるよー。キャラバンを中止した所も多いって話だね」

「ですが当商会は他家との約束により中止できません」


しかも税率は三分の一か。こりゃあ厄介だな。

まあ仕方ないから値上げだな。それで要らないなら売らないだけだし。

まあ、今は従う他無いだろうが長い目で見れば何か策を巡らせないと拙かろう。


他のルートはどうだ?

但し、地上の取引が無いと怪しまれるからこればかりは地下通路は使えない。

何とかまともな道を見つけ出さないと。


……。


さて、ここで周辺の位置を確認してみよう。


街道は商都から西へ進み傭兵国家へ通じる。

そこから北上してまた街道沿いに東へ進めばマナリアだ。実は商都のすぐ北の高原にある。

但し結界山脈と呼ばれる高山地帯に阻まれて、トレイディアから直接向かう事は出来ないが。


逆に傭兵国家から南下して行くと、この砂の王国に辿り着く。


商都から南西に進むとそこが教会の領域たる騎士団領。

そのまま南西に進み続けると、これまたサンドールに辿り付く。

要するに西と南西のルートが潰されてる訳だ。


だったら……南ルートか。

森を突っ切って……あれ、その先はどうなってたっけ。


「なあ、南へ直進して……騎士団領を迂回できるか?」

「商都の南の森を抜けるとさ?今度は段々荒野になるよ兄ちゃ」

「そこから更に南下すると、レキと呼ばれる不毛地帯です」


あー、確かそこは最南端で"新商品"を作ってる場所だな。

人が来ない所って言った時にアリサがそこを指名したっけ。

……余りに人が住むのに適さないからって。


「通り抜けられるか?」

「水が全然確保できないから無理だよー」

「レキも有る意味砂漠地帯です。移動にかかる3週間分の水と食料を持って行かねばなりません」


まさしくレキ砂漠(礫砂漠)って事か。

しかも、日程が一週間多くかかる、と。


「さぞや荒れ果ててるんだろうな」

「荒れてるなんてレベルじゃないよ?まじで土と礫しかないもん」

「後は岩山がぽつぽつとある程度で目印になる物がまるで無いのです」


そりゃひどい。と地図を見ると確かに何処の国にも属していない。

砂砂漠のサンドールにさえ王国があるというのに、

そこには広大な土地が書かれているものの、街どころか集落の名さえ無い。


「オアシスすら無いのが致命的だよね」

「なにせ盗賊どころか世捨て人すら住まないと言う大陸一の不毛地帯ですから」


OK判った。

つまりこういう事だな?


「要するに、オアシスと目印を用意できれば通行可能ってことだな?」

「主殿。何処をどう聞けばそんな結論に達するんですか?」

「兄ちゃに常識を当てはめるだけ無意味だよねホルス」


おいおい、俺達に有力な穴掘り部隊があるのを忘れたか?

地下水脈でも見つけて井戸掘りすりゃいいじゃないか。


「え?でも怪しくない?」

「そうですよ。無意味に死の砂漠に立ち入って井戸掘りするとか……非常識すぎます」


う、そう言えばそうか。

何も無い砂漠に立ち入って井戸掘りするとか非常識すぎて普通に怪しまれるか。

それに、砂漠地帯での井戸の掘削って、素人が手を出すような物じゃないよなぁ。

誰がやったのかとか聞かれちゃ答えに詰まるだろうし。


……いや待て。俺達は新たな交易ルートを探しに行くんだぞ。

それを理由に出来ないか?


「確かにそれは一理有りますが……やはり無理でしょう」

「なにゆえ?」


「ここサンドールでは、井戸掘り出来る者が居ないのです。井戸を掘ると言う発想すら無い」

「そりゃまた尋常じゃないな?」


「それと言うのも井戸を掘っても、燃える水しか出てこないのですよ」

「燃える水とな!?」


石油?石油なのか?

こ、コレは勝つる!

まだ重要視されて無いうちに独占してしまえば遥か未来で大儲けじゃないか!


「あ、それ違うよ兄ちゃ。油じゃない」
「ちがうのです」
「訂正するであります!」


ほぉ?じゃあ一体なんだと言うのだ。蟻ん娘どもよ。


「「「溶岩」」」

「えええええっ!?」


これは驚いた。


蟻ん娘どもが言うにはこのサンドールは砂漠である上、

巨大な噴火口の上にあるような物らしい。

……今でも地中でそれほど深くない所にマグマ溜りがあるのだとか。


「実は王都の西にピラミディオン山って言う活火山があってね」

「その地下から来た溶岩がサンドール地下、浅い所ほぼ全域を覆ってるのであります」

「だから、よるでも、あったかい、です」


あったかいってレベルじゃねぇよアリシア。

と言うかどうやったらそんな悪い意味で奇跡のような地形が出来上がるんだ?

……道理でここいらの地下通路は随分地下深くに張り巡らされてると思ったよ。

水も随分地下深くから運んでたしな。

……と言うかあの暑さは上からだけじゃなくて下からの暑さでもあったのか?


「いやあ、溶岩が無い所探すの大変だったよ兄ちゃ」

「……むだに、おおきな、ろうりょく、でした」

「地下掘削時に殉職した全てのアリたちに黙祷!」


死人?まで出ていたのか。

……俺の勝手に付き合わせた見返りはきっと用意する。

仲間のアリ達は安心して暮らせるようにしてやるよ。


まあ、現状はそれどころじゃないのだが。


「お嬢様の言葉でお分かりでしょうが、地下を掘るような職人はこの国に居ません」

「ならばトレイディアから連れて来れば!」

「うーん。でもね?向こうからするとこっちの市場って"おいしくない"らしいよ?」


……それはわからんでも無い。

この国、奴隷以外に売れる物が無いからなぁ。

トレイディアで奴隷販売は禁止されてるし、片道貿易じゃ旨味が少ないよなぁ。

その為にわざわざ死ぬかもしれない所に職人を派遣するかと言うと……無理だな。


「あ、そうだ。湧き水のように見せかけてオアシス発見した事にすればいい」

「おお!それなら技術者なんかいらないよね兄ちゃ!」

「……ですがその場合別な不都合がありますね」


えー、折角いい案だと思ったんだがなぁ。

それでホルス。その問題点とは何ぞや?


「湧き水が出れば土地に利用価値が出て来ます。何処かの国が占領に来るかも知れません」

「それ、駄目だよ?せっかく造った"アレ"も占拠されちゃう!」


それはマズイな。と言うか井戸にした理由を忘れる所だった。

それは即ち、井戸であれば個人での所有権を主張出来ると言う利点。


何処かに占領されたら無意味、と言うか位置的に来るのは教会側じゃないか!?

奴らを肥え太らせる?駄目だ駄目だ!却下だ!

その上"あれ"を奪われるのはもっての外だ。

……かといって、一介の商人にあれだけの土地を所有する事なんか許される訳も無い。


前世で"もし、異世界召喚された時の為"と思ってふざけながらではあるが、

内政系の知識を無駄に蓄えてたけど……その集大成の一つを奪われるのは我慢ならん。

……あれは守り抜く。


そうなると、トレイディア辺りにレキを占拠してもらえるように動くか?

……いや、駄目だ。あそこは商人の国。儲かりそうな物をそっとしておくものか。

やはり、誰にも知られるわけには行かん。

あー、俺の思い通りに動く国でもあればなぁ。


まあそんな物あるわけ無いけどね。


「さて、妄想はここまでにしておくか。明日は朝一で"あれ"を見に行くからな」

「OK、あたしが案内するから覚悟しろ兄ちゃ!」

「アリシアは、おるすばんです」

「あたしもであります!」

「私も残らねばなりません。後でどうなったかお教え下さい」


やはり、教団や傭兵国家の勢力を削ぐのが一番か。

……その為には金が要るな。それもとてつもない大金が。


「さて、それじゃあ金の卵を産む鶏一号の顔でも拝みに行くかね」

「兄ちゃ。生き物じゃないよ?」


「分かってるって。ところでアリサ、出来はどうなんだ?」

「出来上がりはサラサラだよ」


そうか、ならいいんだ。

じゃあ明日の為に寝るとしますか。


そういや……屋敷のベットはふっかふかなんだよな。そのままで寝れるのか?

俺、こっちの世界に来てから重度の貧乏性にかかってるんだが。


……。


翌日、俺はアリサを膝に抱いて滑り台を滑り続けていた。

行き先はサンドールから遥かに東。レキ砂漠中央の最南端にある海岸沿い。

そこに、商人になろうと思い立った時から構想していたとある設備が出来上がっているはず。


「ところでアリサ、一つ聞きたい」

「なんじゃら?」


「やっぱりここも、出口は……」

「あたしは平気」


うん、そうか。

やっぱり壁にぶつかって止まるんだな?

早く、安全に止まれる形にしなくてはならないか。

……正直、身が持たねぇよ。


……。


更に翌日。

俺は硬化により鉄と化した俺のぶつかった跡を見ていた。

地底超特急の最後が石の壁なのは今だけだ、

そんな確信と共に。


「きゅう」

「全然平気じゃないだろうがこの馬鹿たれ!」


何故かって?

女王蟻が耐えられないような地下通路は欠陥品だから。

これならきっと、早期の改善が見込めるだろう。


「さて、それはともかく行ってみるか」

「きゅう」


俺はボケナス妹を背負って地下通路を上がっていく。

そして、太陽の光のその先にその姿はあったのだ。


「これはまた、想像以上だな」

「地上での作業は時間が掛かるからね!数で勝負だよ」


何時の間にやら復活したアリサが説明する"それ"は、

海岸沿いに沢山並んだ粘土作りの土手。

中では海水が、照りつける太陽と吹き付ける風でじわじわと干上がろうとしている。

うん、正に絶景だな。


「お塩は順調に出来て来てるよ?」

「おいおい、ここでは高濃度の塩水を作るだけだろ?」


「大して変わんないよ。とりあえず塩田はこれでいいかな?」

「ああ、必要分作れればいい。足りなくなる頃には枝条架(しじょうか)が出来てるだろ」


入浜式塩田、ここは前世でそう呼ばれていた施設である。

簡単に言えば塩の満ち引きを利用して土手の中に海水を溜め込み、

蒸発させて塩を作るための設備だ。

正確に言うとここで濃度を上げた塩水を煮詰めて結晶化させるのだがね。


この辺りで塩と言えば岩塩を指す。

地面から文字通り掘り出されるのだ。

……実はそのやり方は余り食用に適さないのだが、伝統だから仕方ない。

だが汚れたままの岩塩が普通に取引され、

高級品とは汚れた外側を取り払った物と言う現状を見て思いついたのだ。


俺の考えるような海水を元にした塩はほんの一部でしか作られていないし、

作り方が適当で砂が混じって汚い。


直ぐ使える上に見栄えの良い白い砂のようなこの塩は、

きっと飛ぶように売れるだろうと思う。


「そだね。きっと売れるよ?だって」

「値段は岩塩の市場価格の9割を目安にするからな」


安くて質が良いなら売れない訳が無い。

しかも煮詰める時に燃料代がかかるだろうと心配してたけど、

アリサが一つ計画に改良を加えてくれていた。


地下水路を通してサンドールまで持って行き、地下の溶岩を利用して熱する。

それなら燃料代もプライスレス!

そう、蟻達の食費以外金はかからないんだなこれが。


……あ、入れ物の壷代があるか。


「ふっふっふ、それでもこの策に穴は無い!」

「あ、いや大問題が一つあるよ」


何ですと?

ちょっと待てアリサ、それは聞いてない。


「一体その問題とは何だ?」

「日干しにしてる内に乾いちゃう時があるよ」


あー、……砂漠地帯だしなぁ。

雨の多い地方のやり方をするまでも無かったのか。


まあ、そん時はそのまま収穫だな。

天日塩田と言う、ただ海水を乾かすだけの技法もあるしなぁ。

むしろその方が手っ取り早いか。


「それは無問題。むしろ大歓迎だ」

「あいよ。その時はそのまま収穫ね」


要するにだ。計画は非常に順調って事だな。

……海岸で働く巨大な蟻の群れと言うシュールな光景を尻目に俺達は行く。

これはもしかして、何時か農業とかも出来るんじゃないのか……とか思いつつ。


次に地下を見て回る。

広大な地下倉庫には世界中から買い集めたアリたちの餌がぎっしり詰まっていた。

予想外に乾いてしまった塩もここに貯蔵されてるようだな。

後でもう少し広げさせて、天日乾燥分の正式な置き場でも作らせるか。


「むふふふふ。これだけ蓄えてると感無量だよー」

「何年分あるんだよこれ」


しかもその隅には包装もされずに転がされる魚の干物や海草の山。

……どうやら海岸に流れ着いた奴を回収してるらしい。


「魚か。拾い物とは言え随分あるなぁ。……意地汚くないか?」

「海に危険な魔物が一杯居て海に入れない。だから貴重品!大事な蛋白源だよー」


成る程ね。

だが、その魔物の多さゆえこの辺を通る船が無い。

お陰でこんな海岸沿いで勝手に塩田なんぞ大々的に作れてる訳だが。


「しかし魚か。……生のは全然食ってないな。あー、刺身食いたい」


しまった。つい前世の事を思い出してしまった。

……思い出せば食いたくなると言うのに。


だが思い出してしまった以上は刺身が食いたいと思う。

醤油があればなお良いがな。

しかし現状では夢のまた夢か。


……待てよ。


「アリサ。新鮮な魚食いたく無いか?」

「新鮮なお魚!?食べてみたい!」


あ、そうか。

コイツ生まれて間も無く砂漠の国に来て、まともな海産物食べた事が無いのか。

焼き魚とか、煮物とか……美味いんだけどなぁ。

これは何とかして食わしてやりたいな。


「と言う訳で……ゴニョゴニョ」

「……なーるほど。やってみる、と言うかやってやる!全てはおいしいご飯の為に!」


さて、そっちは意外と早く出来上がりそうだな。

何せ当のアリサが乗り気なんだ。

もう少ししたら塩もふくめて、一度サンドールで売りに出してみるかね。


……。


それから一か月余り。俺はサンドールで水と輸入品の商売をしていた。

実際のところ、俺に商人としての経験なんかある訳が無い。

幸いホルスは以前の主から財布を任されていたらしく、

会計に明るかったので全権を与えていたが大正解だったと思う。


そんな訳で俺は大人しく、総帥用の執務室で書類でも片付けてるさ。

……まさか小学生レベルの筆算がこんなに役に立つ日が来ようとは思わなんだがな。

それと九九とかさ。……算盤が出来ないのが痛すぎるけどね。


「総帥。トレイディアからの荷物が届きましたと連絡が」

「分かった。えーとパピ君だっけ?」


「ハピです」

「す、スマン。それじゃあ二番の蔵に入れておいて。……言っとくが」


「ええ、地下への穴に気付かれたりはしませんよ。ご安心を」

「頼むぞ」


気が付けばカルーマ商会は30人近い従業員を抱え、

三つのキャラバンと提携すると言う結構な規模になっていた。

それでも、秘密を共有できるような奴はあまり多くなかったが。


だがまあ、数ヶ月前に結成したばかりの成り上がり者だししょうがない事だろう。

それに秘密を知る者は少なければ少ないほど良いしな。


などと思っているとドアが乱暴に開き、蟻ん娘が突っ込んできた。


「にいちゃ♪にいちゃ♪……しお、たまったです」

「地下海水路も出来たとアリサが言ってたであります!」


お、赤青コンビが伝言役か。

塩の貯蔵量が予定を達成したか。予想よりも速いのは有り難い。

それにどうやら次の商品が完成したようだな。


「じゃあ……輸送が終わり次第売り出すか」

「はいです。アリサに、つたえておくです」

「輸送完了は三日後の予定であります!」


ふむ、まだ時間はあるわけだな?

なら……不良在庫から捌いとくか。


「じゃあ、もう要らないだろうから例の拾い物の干物、余ってる分を先に送ってくれ」

「なんで、ですか、にいちゃ?」


「宣伝代わりに海産物を端くれでも売っておくのさ。本物は一気に出してインパクト上げるがな」

「了解であります!屑干物と海藻類を最優先で持ってくるよう伝えるであります!」


関係各部署に伝える為にチビどもがぱたぱたと部屋から出て行った。

きっと、明日には干物くらいは届いてるだろう。

……じゃあ、俺は下を見に行きますかね?


……。


サンドール、カルーマ商会本部地下深く。

俺はむっとするような暑い階層を抜け、地底らしい冷たさを持つ階層まで降りてきている。

そして、更に暫く進むと……ボケナス妹が釣竿を垂れていた。


「おお兄ちゃ!出来たよ!釣れてるよ!」

「分かったからそんなに騒ぐなアリサ」


そこには巨大な地下空洞が広がっている。

……一応、機能を確認しておくか。


「アリサ、少し"開けろ"」

「ん?分かったよー」


アリサは全てのアリ達と繋がっている。

……今この瞬間にもアリサの意を受けた力自慢の巨大アリ達が、

海抜ゼロメートル地点に設置した岩の水門を開いている事だろう。


「あ、そろそろ来るよ」

「そうか……来たッ!」


暫しの沈黙。

段々心配になってきた頃、地下空洞上部に開いた穴より大量の海水が流れ込んできた。

そして、海水と共に大量の魚達も。


「もういいぞ、止めろ」

「もう止めるよう言ってる」


そうしてまた暫くすると変化が起きる。

岩の水門がまた閉じたのだろう。

水の流入もまた止まり、地底湖に静寂が戻る。

うん、これはまた幻想的だな。

……ただ、少し気になる事が一つ。


「なあ、アリサ。少し大規模すぎないか?」

「これより上だと溶岩の熱で茹で上がる」


サンドール地方の地下の浅い所には近くの火山から溶岩が流れ込み、対流しているらしい。

何せ、井戸の掘削で湧き上がるほどだ。不意に噴出す事すらあるらしい。

お陰でこんなに暑い地方が出来上がったようだが、

その為にそれより地下でないと安心して掘削できないと蟻は言う。

……本来の蟻の生態から言うと異常なんだが、まあそこが知恵を持った者の違いなんだろう。


ただ、野球場より広い地底湖まで作らなくても良かったんじゃないか?

俺は地底に釣堀を作れと言ったのだが。

まあいい。さて、何でこんな地底湖を作ったかというと……、

要するに食う魚はその場で手に入れたいな、とか思ったからだ。

その為の方法としては少々?手が込んでるように思うが。


「まあいいか。それで何が釣れたんだ?」

「色々つれたよ」


「兄ちゃも一匹食べたいなー?」

「全部食べた後だよー」


……横を見るとまだ暖かい七輪。そして大量の魚の尾。

そうか、骨ごと食ったのかお前は。しかも一匹も残さずに。


「ならば俺も釣る、いやむしろ飛び込んで捕まえてやる。海水浴兼ねて!」

「兄ちゃ、止めとけー」


「止めるなアリサ!俺も息抜きするんだ!」

「サメが居るよ?」


次の瞬間本当にサメが水面から飛び出してきました。

……何このコント?


「ぐぎゃあああっ!胴体が、胴体が裂けるっ!?」

「え?ああっ!?硬化かけてないの兄ちゃ!?い、今助けるよー!?」


因みにそのサメは宣伝を兼ねて、生きたままサンドール王宮に献上しておきました。

すぐに死んでしまったそうだが王様は大喜びしたらしい。


まあ、終わり良ければ全て良しと言う事で。


……。


翌日から売りに出した干物や海藻類は飛ぶように売れた。

元が海岸に流れ着いた物と言う事もあり極めて安価で売りさばいた事も大きいだろう。

川すらないこの国では、魚は干物ですら高価な代物なのだ。


だが、俺達カルーマ商会がその流れを変える。


地底湖……と言うか地底釣堀完成から三日後。

その日も安価な干物や塩漬けを並べた途端に売り切れる始末だった。

だが、そこで満足して帰ってしまった連中は哀れな事になる。


「さあさあ、我が商会の新商品が入荷したぞ!」


太陽が皆の脳天に突き刺さるような正午過ぎ、

塩の入った壷が姿を現した。


「随分真っ白な塩だなぁ?」

「綺麗……」

「でも、ちょっと高いよなぁ」


あれ?予想より反応が薄いが……まあ、そうだろうな。


砂漠の国ではあるが、サンドールの西と南の端には海がある。

俺も先日知ったばかりだが、塩田のような大規模な物こそ無いものの、

この国の人間は海で水を汲んで帰れば塩になる事を知っていると言う。


危険な動物や魔物が多くて人が長居出来る環境じゃないらしいけどね。


そして、その海水を地面に撒いて塩を作るらしい。

帰り道や乾燥過程でどうしても砂が入るらしくちょっと黄色いけどな。

あんまり気にする人が居ないからそのまま売られてるようだ。

因みに昔国外に売り出そうとした事があったらしいが、

汚いし運ぶ距離が長すぎて高すぎるしで全然売れなかったらしい。


……やっぱ、煮詰める方式で正解だったんだ。

天日乾燥だとどうしても砂とかが混じる恐れがあるからなぁ。

ここで塩を売る時のセールスポイントは"混じりっけ無し"で行こうと思う。


要するにこの国の連中にとって塩漬けなんかは、

高価では有るがよく見る物に過ぎない。

そうなると正直なところインパクトは薄いよな?


それに、国全体が貧しいこのサンドールでは、

綺麗である事より量が多いほうが喜ばれる。


「ほっほっほ!これは質の良い塩じゃな。値段も思ったより安価じゃ。買うぞ」

「旦那様、我が方はどうします?……はい、ではこちらも買い求めさせて頂きます」

「これを見れば砂まみれの塩など使っていられませんな」


確かに飛ぶように売れてはいるが、上流階級向けのイメージが付きそうだ。

……まあ、この国ではそれでいい。

商いの実績を積むほうが先だ。

この塩は元々別な所に売り込むためのものだし。


今回の真打は、こいつ等だ!


「そろそろか。アリサ!例の物をプールに叩き込めっ!」


「あいあいさー!アリシアちゃん、アリスちゃん、お魚を放り込め!」

「はーい」

「了解でありまーす!」


地底湖から上がったばかりの魚達だ。

回遊魚はすぐに死んでしまうだろうが、その前に売り切れる自信がある。

壷に入れられていたそれを、アリサ達が次々とプールに叩き込んでいく。


前日中に枯れていたプールに海水をなみなみと張っておいた。

その中に一気に魚達を放り込む!

そもそも生きている魚を見た事ある奴は稀なお国柄。

インパクトと言う意味ではこれ以上のものはあるまい?


「「「「…………」」」」


……誰も声を上げない。

いや、何が起こっているのか理解していないのだ。

ふふふふふ、では更に度肝を抜いてやろうか。


ホルス、予定道理に叫ぶんだ!


「皆様!本日より我がカルーマ商会は、鮮魚の販売を開始いたします!」

「どのお魚さんも獲れたばかりですよー。おいしいよー」

「さあ、どれでも好きなのを選んでくれ!今日は全部が銀貨1枚!早い者勝ちだ!」


……歓声、と言うか怒号か悲鳴のような叫び声が上がった。


続いて誰とも無くプールに飛び込む音がする。

あれ?上から覗き込んで選ばせるつもりだったんだけど?


「うわああっ!塩辛い!」

「くそっ!こいつめ!こいつめ!」

「貴様ぁ!そこのは俺が狙ってたんだぞ!?」


何と言う芋洗い場。何と言うカオス。

そこは殆ど、と言うかあらゆる意味でバーゲン会場と化していた。

魚に掴みかかり逆に跳ね飛ばされる者や魚そっちのけで水遊びに興じる物。

……もしかして、やり過ぎたか?


「いえ、これはこれでいいと思います」

「ホルス?」


「見て下さい。皆これ以上も無く楽しそうでしょう?」

「え?あー、まあそうだな」


ホルスの指摘通り、どいつもこいつも楽しそうにしている。

……そう言えばこの国には川一つ無い。

その上海は遠いし危険だ。

水遊びなんか贅沢すぎて、やった事すら無いだろう。


「……主殿。どちらにせよ、今日は鮮魚で儲ける気は無いのでしょう?でしたらこのままに」

「皆まで言うなホルス。お前の言いたい事は分かった」

「でも、お魚獲った人からはお金取るよ。誰がどれだけ持ってったか覚えとくから」


まあ、たまには良いかもしれないな?

この地に根付く以上周りの連中と仲良くしないといかんだろうし。


「……ただ、この売り方は駄目だな」

「は、はい。確かにそうですね」

「お魚バラバラー!?ああっ!まただよー!?」


とりあえず、今日閉店したらプール掃除だな……。

次から鮮魚は水瓶に入れたまま売ろうと心に決めたよ。


……。


それからまた一ヶ月ほどの時が流れた。

大体サンドールでの地盤固めは終わったので、一度トレイディアに移動する事にした。

……金銭的には当初の予定を大幅に上回る額が集まってきている。

そろそろ、行動に移す時だろう。


「では主殿。商都での"商談"をよろしくお願いします」

「まあ任せとけ。相手の腹は分かってるんだ」

「あたしが居るからには怖い事なんか何一つ無いよ?ホントだよ?」


よそ行きの為に買ったドレスを背負ったアリサが鼻息も荒く宣言している。

そう、今回は冒険者カルマの帰還ではなく、

「サンドール・ニーチャ家の当主、カルーマ」として入国する事になるのだ。

……身長を誤魔化す為に作ったシークレットブーツのせいで世界が少し違って見える。

いや、むしろカルーマとしてトレイディアに行くのは初めてだからかも知れない。


「何にせよ、商都に商館を持てれば一人前の交易商人とみなされますね」

「ああ、でも商人ギルドの爺さん達と交渉するのは面倒だ」

「まーどんな無理難題言われても、正体ばれなかったら無問題でしょ?」


「まあな。その点は気楽だ、何せカルーマ商会にとって商都は通過点でしか無いし」

「むしろ大事なのは別な方の案件ですか」

「大事だけど心配はして無いよ?だって、絶対話に乗ってくると思うし」


……まあ、そういう事だな。

商売の話に行くと見せかけ謀略を仕掛けに行くのが今回のトレイディア行きの肝なのだ。

本当は俺自身が行くのは避けたかったが、ホルスをここから動かすなんて出来ないし仕方ない。


それに、謀略の相手は単純だがそれだけに代理を寄越すなんて事をして、

ご機嫌を損ねたら元も子もない。

……見てろよ神聖教会。お前らの顔に泥が塗りたくられるのはそう遠い日じゃ無いぜ?


「じゃあ、そういう事で……行って来る」

「行って来まーす!」

「主殿、お嬢様……ご武運を」


ホルスに地上で挨拶をし、屋敷の地下から地下通路に入る。


「にいちゃ、アリサ、……がんばるです」

「作戦の成功を祈るであります!」


そして、赤青コンビから激励を受け出発した。

……懐かしい商都へ、俺では無い俺として。


……。


《side 名も無き旅人》

サンドールまで来るのは久しぶりだ。町並みも随分と変わってしまったと思う。

だが変わらない物もあるはずだ。

例えば、私がこの国を訪れる時に必ず立ち寄る店の一杯の酒のように。

……と、思っていたのだが、


「……潰れた、だと」

「ああそうさ。この店……店主が死んでそのまま無くなったよ」


変わらない物など無いと言う事か。

だが、この喉の渇きどうしてくれよう?


「へへっ、もしかして喉渇いてるの?」

「まあな」


潰れた店の前にたむろしていたこの子供は悪戯っぽく笑う。

……まあ、古今東西こういう時の対処法は一つだけ。

銅貨を一枚取り出し指で弾く。


「へへっ、有難さん!……この先にカルーマ商会って店がある。そこでいい物が飲めるぜ?」


それだけ言って子供は行ってしまった。

……聞いた事の無い名だ。だがまあ行って見る価値はあるか。

もし話と違うなら、あの子供を草の根分けても探し出し制裁を加えるだけだしな。


……。


着いてみると、……正直言って面食らった。

一見すると普通の上流階級の暮らすような屋敷なのだが、

驚いた事にその庭が小さな市場と化している。

恐らくこの商会のものだと思われる一際大きな台の上では、

何か大きな壷のような物が取引されていた。


そしてその周囲には場所を借りているらしい小さな露天が幾つか並んでいる。

更に先に進むと……話にあったのは、あれか。

少女と呼ぶのもはばかられるような幼子が二人、忙しそうに飲み物を売っている。

まあ、この国では珍しい事じゃない。


……しかし、注がれるのは透明なグラスか。

これはいい趣味をしている。

成る程、他人に勧めるだけの価値はありそうだ。


「すまんが、酒を一杯」

「……え?た、たくさんですか?」


これはまた、困ったもんだ。

一杯といっぱいを勘違いされたか。


「お手柔らかに頼むよ。グラス一つ分でいいんだ」

「えっと、ですね。わかりました」


その危なっかしい言葉遣いとは裏腹に、

何やら倉庫からテキパキと酒を持ってきたようだな。

……この色、あの泡……麦酒か。

まあ酔えれば何でもいいが。


「お、おまたせ、しました」

「ありがとう」


トレイに乗せられた麦酒を手に取る……冷たい!?


「きょうも、あついので、ひやしてます」

「そ、そうなのか」


まさか、この炎天下……しかもここは夜なお暑いサンドールだと言うのにこの冷たさ。

時代は変わったと言う事なのだろうか?

……見ると、この店には客が絶えない。

成る程な。アレが目当てでやって来ていてもおかしい事など何も無い。

さっきの店も店主が死んだから潰れたかも知れんが、

生きてても同じだったかも知れん。

この国でこれだけ酒を冷やすには、恐らく途方も無い手間がかかっている事だろう。

生き残るには安価な物を出して値段で勝負するか、

徹底的に高級な酒を用意するかのどちらかだろう。


そんな事を考えながら、酒を喉に流し込む。

……よく冷えたその酒はとても美味いと感じた。


大したもんだと思う。そう思って横の男に話しかけた。


「なぁ、アンタ。このカルーマ商会はどんな奴がやってるんだ?」

「あ?それを知らんとはアンタ、この国の人間じゃないな?」


ほお、そんなに有名なのか。


「ニーチャの旦那はな、東の高級住宅街の使用人だったらしいんだがな」

「ほお、元はただの使用人か」


「ああ、それが一山当ててよ?その金でこんな立派なお屋敷を買ったんだぜ?ヒック」

「そりゃまた凄いな。どうやって一山当てたんだ?」


「水だよ!どうやってかは知らねぇけど冷てぇ水を運んできたのさ。それを元手に商売してる」

「……これか」


手元の酒を見る。これも冷たい。

確かにこの国で冷たい飲み物は最高の贅沢になるだろう。

一財産作れて当然だな。


ふとグラスを透かしたその先に、大きなプールが見えた。

だが、泳いでいる人数が半端じゃない。


「な、なんだあの人だかりは?」

「ああ、ニーチャの旦那の道楽でな。誰でもただで水遊び出来る。水の持ち出しは禁止だけどな」


こ、この国では一杯の水が貴重品だぞ?

それをプールいっぱい放出して、しかも誰とも知れない連中に使わせるだと!?


「一体、何者なんだ!?」

「さあね。最近急成長した商会の長で今じゃ国でも有数の大商人って事しかわからねぇ、が」


「が?」

「俺達にとって有り難いお人だって事は間違い無ぇよ」


男はニヤリと笑った。

まあ、気持ちは判らんでも無い。


「確かに普通、生まれながらの金持ちが、自分のプールを他人に使わせるとは思えんな」

「まあな。俺の息子も毎日のようにあそこで遊んでる。ニーチャの旦那には頭が上がらんぜ」


……気が付くとグラスの中身はなくなっていた。

俺は会計を済ませ、今日の宿を取るべく街へ向かった。


「ニーチャの旦那、ね」


ま、確かに凄い奴らしい。売り物は水と塩、そして海産物か。

一見すると全く関係ないように見えるこの三つには、実は隠された共通点がある。


……何処にでもあるように見えるけど、無くなったら致命的なもの。

水と食料そして塩を断たれたら、例え国でも揺らぐ事になる。

そういう物を確か……戦略物資とか言うらしいが、

何にせよ、それを抑えたこの商会はまだまだ伸びるだろう。


……俺の長年のカンが言っている。嵐が来るぞと。


長年の流れ者生活で、気付いた事がある。

こう言う才気溢れんばかりの奴が世の中に出る時は、決まって何か大きなうねりがある。

まあ、はぐれ者のカンでしか無いが、

マナリアと神聖教会の関係がギクシャクしてるなんて噂も有るし、もしかしたら……。


「はっ、馬鹿らしい……幾らなんでもそりゃ無いだろう」


有無を言わさず妄想を打ち消す。

もし"何か"あるとしても、未だ先の話だろうしな。


それに……もし、そのニーチャとか言う奴が何か企んでても俺みたいな一般人には関係無い。

どうせ雲の上の連中は暗闘しかしないんだ。上の連中同士で潰しあってくれ。


……ん?誰かに今、見られていたような。


……。


《side アリス》

ん?アリシア。どうしたでありますか?

ふむふむ、勘の鋭い輩が居ると?

……了解であります。街から出たのを見計らって適当に処分するで、


あー、そうでありますか。

サソリの毒を寝てる内に?

了解であります。死亡確認をしておくであります。


え?報告?


アリサだけにしておくであります。

にいちゃに心配かけるような案件でも無いし、ホルスならきっと悲しむであります。

……必要なら我らが女王が話されるでありますから心配無いでありますよアリシア。

あたしらはただ女王陛下、そしてにいちゃの為に働くのみ。


ほら、そんな事よりお店を開く準備であります!

お客がもう表に並んでるのでありますよ!?


***商人シナリオ3 完***

続く


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