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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 13 商会発足とその経緯
Name: BA-2◆63d709cc ID:5bab2a17 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/10 11:27
幻想立志転生伝

13

***商人シナリオ1 商会発足とその経緯***

~いもうとができますた~

《side カルマ》

あの荒野の戦いから一ヶ月が経過していた。

この間、俺は色々と考え事をしながらたまに仕事をするぐらいで、

一見するとのんべんだらりと過ごしている。


ルンが魔法を教わりにやってきたので"爆炎"と"治癒"を教えてやったりもしている。

威力の割りに詠唱が極めて短い(と言う事になっている)爆炎の威力と、

教会の秘伝とされてきた治癒の魔法。

これらを伝授してやるとこれでもかと言うくらい喜んでくれた。

具体的に言うと勢い良く振られる尻尾が幻視できるぐらい。


……ただし、詠唱の意味は判って無いだろうと思う。

どういう訳か、古代語(日本語)と現代語は言語としての相性が極めて悪く、

どうやってもルンに言葉の意味を理解してもらう事が出来なかった。

ただし多分誰でもそれは同じなのでは無いかと思う。

とにかく文法から何から全然違う言語なのだ。

もしかしたら現代語は古代語=魔法を制限する為に作られた物なのかも知れない。


故にひと言程度の文字数と言う事もあるので、

詠唱の全てを長いひとつの単語として覚えてもらった。

……と言うかこの世界の魔法使いはあのくそ長い一冊の本=一つの魔法を、

文字通り丸暗記しているらしい。

まあ言葉の意味も全く判ってないようだし、仕方ないのだろう。


「先生?」

「あー、どうしたルン」


おっと、考え事してる内に話しかけられていたようだ。


現在俺はルンに魔法を教えている最中である。

今日はトレイディア郊外の森の中で第7回目の授業の真っ最中といったところ。


因みに……最近ルンは俺のことを先生と呼ぶようになっている。

この間、治癒のスペルをルンが暗記した日に


「じゃあ、次来る時までに新しい魔法作っとくから」


なんて言ってからだな確か。

その時の顔は面白かったっけ。

頭の上に?マークが数十個浮かんでるような、そんな感じで。

まあそんな訳であの戦いから今まで、

冒険者と言うより教師の真似事のような事をして過ごす事が多くなっているわけだ。


「新しい魔法」

「おう、出来てるぞ!」


"人の身は脆く、守りの殻を所望する。我が皮よ鉄と化せ。硬化(ハードスキン)!"

この硬化の魔法をベースにして作成した新たなるアレンジ魔法だ。

自信作だぞ見て驚け!


「人の身は弱く、強き力を所望する。我が筋繊維よ鉄と化せ。強力(パワーブースト)!」


詠唱の完了と同時に俺の全身の筋肉が硬さとしなやかさを両立する謎の物質へと変化した。

……ただし、傍目には何がどう変わったのか全く理解できないだろう。

ルンも無表情で小首をかしげている。


「じゃあ行くぞ!」


軽く数回跳ねた後、しゃがみ込んで勢いを付け……ジャーーーーンプ!


俺の体は一気に森の木々を抜け、天空へと駆け上がっていく。

遠くにトレイディアを囲む城壁が見える。

そしてその奥の、町の人々が俺の目に飛び込むようになり、

……っと、ここまでか。

段々と今度は逆に地上が近づいてくる。

そして、俺はまた地上に帰りつく。


「続いて腕力!」


言うや否や近くの木に歩み寄り……チョーップ!


「嘘」

「ところが本当なんだなこれが」


ミシミシと音を立て、俺の胴体ほどの太さがある樹木が倒れこむ。

手刀だけで木を一本切り倒した事にルンも目を丸くしていた。


「と言うわけで筋力を強化する魔法だ。見た事無いだろ?」

「無い」


「凄かろう?」

「すごい」


「と言うわけで今日はコイツを覚えてもらう。さあ俺の後に続いて読んで見ろ」


こくこく

うん。一言も発して無いけどいい返事だ。


『人の身は弱く、強き力を所望する。我が筋繊維よ鉄と化せ。強化(パワーブースト)!』

「ヒトノミハヨワク トゥヨキティタラホソモフトゥル アガインエンヒロ……フェフト、ホセ?」


何か違うぞルン。

それと一回で判らないのは仕方ないから自信無い所でいちいち小首を傾げるな。

後、じっと俺のほうを上目遣いで見るな。俺が萌え死ぬから。


……。


「じゃあ、今日はこの辺でお終いにしようか」

「ヒトノミハヨワフ ツオキチカラフォ……ん」


段々日も暮れて来たので終了を告げると、ルンはぺこりと頭を下げて帰っていく。

まあ、この分だと今回も後二回も付いててやれば完全に覚えていくだろ。

喉がカラカラなのか水筒の水を飲みながら森に消えていくルンを見送る。


……。


帰ったな。さて?それじゃあ今日も……俺の戦いを開始しますか。


「それにしても、毎日毎日飽きないんだな、シスター?」

「うふふふふ。やっぱりばれてました?」


叫ぶが何の反応も無い……いや、森の奥から僅かに木の葉の落ちる音。

そして暫くすると、がさがさと茂みをかき分けシスターが現れた。


……この人、俺が商都に戻った時から時々尾行してやがるんだよな。

教会からの監視か俺の金目当てか……それともその両方か。

何にせよ油断は出来ないのである。


まあ、魔法の授業中はルンが周囲を異様に警戒してるから近くに寄れないみたいだけどな。

そういう訳でルンが帰った後に現れる事が多い訳だ。


「そりゃね。あんたの事だ……目当ては金か?」

「はい、勿論です。それと監視の強化が決定したのでその対応ですね」


相変わらず悪びれない人だ。

だが、残念だったな。手元に金は無いぞ。

全部ホルスに持たせて、とある場所に持って行かせたからな?

え?そこからばれないかって?

それは無い。何せトレイディアに戻る直前から別行動させてる。

要するにシスターとホルスには面識が無いのだ。

そんでもって、依頼のついでに金をこっそり受け渡した。

殆どドラマの身代金受け渡しのノリだったなアレは。

え?何故って……そりゃ俺の目の前に居る人への対策に決まってる。


「と言うわけで金は無いぞ」

「何が、と言うわけなのか判りませんが、寄付のお願いを……お金が無い?」


「ああ。ちょっと全額投資に回してるんで」

「ちょっとぐらいはこっちに回して下さいよ。身寄りの無い子供達の為です」


「俺も一応身寄りの無い子供のような」

「17歳が何言ってるんですか?でもまあ、今回は諦めますか」


「今日は随分物分りがいいな」

「まあ、確かにあんまり預金も残ってないみたいですしね」


……なんで俺の預金額を知ってるんだこの人は。

相変わらず侮れねぇ。

いや、情報屋に常識を求めるのは酷だな。


「ご理解頂けたらさっさと帰れ」

「最近冷たく無いですか?カルマさん」


「アレだけやられちゃ冷たくもなる」

「お金無いなら体で寄付してもらおうと思っただけなんですよ?」


向こうは笑って言ってるが、俺は笑えねぇよ。

しかもいつも私は最悪とか言ってる割にこの言動と行動はどうなんだ。

この人もしかして本当は罪悪感とか感じてないんじゃないのか?

まあ、なんにせよ何とかしてお帰り願わんとならんのだが。


「それより大司教様が貴方を危険人物扱いされてます。懺悔に行ったほうがいいです」

「アレに懺悔するくらいなら裸で町を練り歩くほうがまだマシだ」


「……聞かなかった事にしておいてあげます。いいですか、普通吐いた唾は飲めないんですよ」

「残念だが、あの荒野の一件以来無神論者になったんでね。遠慮する」


流石に不快感が微妙に表情からにじみ出てきたか。

……あまり刺激するのも危険、か。


「判ったシスター、アンタの顔に免じて今度お祈りに教会まで出向く。それでいいか?」

「仕方ありませんね。カルマさんが何時か神の言葉に耳を傾ける日が来るのを祈っていますよ」


それだけ言うとシスター・フローレンスが町外れの教会に戻っていく。

彼女とは……最近少しづつピリピリとした関係になってきたように思う。


そう。とは言え、昔……よくカソの村に、

そして親父の下に時折現れるあのお姉さんとの思い出はまだ俺の中にある。

それが有る限り、俺は永遠に彼女に勝てないのではないか。

そして万一の時にはそれが原因で負けるのではないか。

そう言う不安が俺にはあった。


セピア色の思い出が赤い絵の具で染め上げられて襲い掛かってくるか。

これは一体何ていう悪夢なんだろうな?


……。


《side ルン》

先生から魔法を習い始めて一ヶ月と少し。

私はこの僅かな期間に2つの魔法を己の物としている。

これは通常では考えられない事。

期せずして、魔法使いとして大きな成果を挙げてしまったので、

今日は学園に戻った時に留学の成果を報告する為の論文を纏めようと思う。

さて、それでは少し考えを纏めてみる。


―――まずは"治癒"の事。

これは本来教会の神官団のみ使用出来ると言われていた神聖魔法である。

だがそれは誤りであった。神聖魔法もまた魔法の一種でしかない事が証明されたのだ。


重症を負った場合、今までは教会に走り神官を呼んで来なければならなかった。

しかも何時来るかは神官の都合次第であり我々魔法使いは極めて不利な立場を強いられていた。

この関係は今後少しづつ変わっていく事になるだろう。


しかも、先生の使う"治癒"は本家のものより詠唱がかなり短縮されている。

曰く「普通の魔法は詠唱に無駄が多すぎる」のだとか。

我がマナリアの魔法もそうなのだろうか?興味深い話だと言える。


―――次は"爆炎"について。

"爆炎"は"火球"をより強力にしたような魔法だった。魔力を一気に持っていかれるが、

その威力たるや各公爵家などに伝わる口伝魔法に匹敵する。

更に詠唱も極めて短いものであり、これも口伝の特徴と一致する。

……口伝とは各家の嫡子にのみ一子相伝で伝えられる秘術中の秘術である。

極めて強力でありながらその詠唱が短いのがその特徴であり、それ故に模倣され易い。

よって、各術者は本当に必要な時以外は使用を控え、更に詠唱と印を隠して使用する必要がある。


そして"爆炎"にはもう一つ大きな特徴がある。これは"火球"と似たような部分が多い魔法だが、

先生によればそもそも"火球"を基にして作成した魔法だというのだ。

……確かに我がルーンハイムの書庫にもこのような魔法は存在していなかった。

もし先生の言が本当であれば、今後の魔法開発は古代文書の発掘の他に、、

既存魔法の改良と言う新しい段階に入る可能性があると言えよう。

しかも私が現在習得中の魔法もまた、他の魔法の改良品だという。

今後が期待できる画期的な技術が生まれたと私は結論付ける。


―――そして、先生本人について。

五千の大軍と僅かな戦力でまともに渡り合った戦士と言う一面がまず一番に来る。

先生が居なければ今頃私も生きては居まい。

だが、我が国としては稀代の魔法技術者と言う一面を忘れてはならないと思う。

既存魔法の詠唱短縮。そして新魔法の構築。

いずれも今まで誰も試そうとすらしてこなかった分野である。先生は凄い。


更に先生は古代語の完全解読はおろか、翻訳まで出来るようだ。

しかも古代後の内容を理解できれば短縮も構築もかなり容易く出来るという。

私は古代語も習おうとしているが全く理解できないで居る。

多分学園の講師陣でも難しいのではないか。

先生がどうやって覚えたのかは不明だが、世界史に残る偉業であろう。


きっと偉人として歴史の教科書に載るのだと思う。

私もそんな人物に教えを受けた者として鼻が高い。

本当に先生は凄い。

本当に先生は偉い。

先生は私をいじめない。

先生に褒められたい。

せんせいに笑いかけてもらいたい。

せんせいに頭撫でてもらいたい。

せんせいに、甘えたい。


……。


「また発作」


……思わず声が出る。最近この発作が激しい。

きっと先生とのスキンシップと言うものが足りないのだろう。


「でも授業終わってる」


しかしこの発作を抑えねば満足に眠る事も出来ない。


そうだ。先生にご飯をおごって貰いに行こう。

教え子の頼みを無碍にする人ではない筈だ。

そうすれば今日中にもう一回会える。

ぽかぽかと暖かい気持ちになれる。

「首吊り亭」に急ごう。先生の居る場所だ。

まだこの時間なら晩御飯は終わっていない、かも。

善は急ぐべし。だから急がないと。


……。


「先生、何処?」

「ん、嬢ちゃん……カルマの奴を探してんのか?」


大きくて獰猛そうな肉食獣のような人がいた。

ライオネルさんと言うらしい。

先生のお兄さんだから信用できると思う。


「何処」

「居ないぞ」


え?


「カルマなら配達に行ったぜ?」

「嘘」


せんせい、居ない?


「心配すんな。アイツの配達は早ぇから明日の昼には帰るって」


融けていた心が凍りつく。

心どころか体まで凍り付いてしまいそう。


「おい。そんなにがっかりしなくてもいいだろが?」

「……せんせい」


世界からまた色が消える。

先生が居れば私を守ってくれる。

けど、今先生は居ない。


「おいガルガン!嬢ちゃんが急に無表情になっちまったぞ。何とか出来ねぇか」

「そう言われてものう」


ホテルに帰ろう。

先生が居ないなら用は無い。


「帰っちまったぞ?何しに来たんだあの嬢ちゃん」

「ちっとは察してやらんかお主も」


今日はもう寝よう。

明日から"強力(パワーブースト)"の復習をしないといけない。

それが終わる頃なら、

先生……帰って来てる?


……。


《side カルマ》

ルンやシスターを見送った後、俺は予め受けていた手紙の配達の為隣町へと向かった。

今は丁度その帰りだ。

だが、俺の歩く方向は隣町から更に先……トレイディアからは更に遠ざかっている。

実は今から少しばかり人目を避ける必要がある。

俺には教会からの監視が付いていた。

それから逃れなければいけないのだが、派手に撒くのもマズイ。

あからさまに姿を隠したんじゃ何か企んでるのが見え見えだからな?

よって、依頼でカモフラージュって訳だ。


向かう先はかつて秘密のバザーだった場所「忘れられた灯台」である。

……そこに俺の金を隠してあるのだ。


……。


「主殿、ご無事で」

「辺鄙なところに押し込めて済まんなホルス」


「いいえ、きちんとした寝床と十分な水と食料を与えられて文句など言えません」

「そう言って貰うのはありがたいが、同時に心苦しいな。すまないホルス」


地下が焼けて以来、この灯台は崩れ落ちかけて来ている。

その為本当に人が寄り付かなくなった。

そんな言う話に目をつけて、おれはここを臨時の隠れ家にする事を思いついた。


かつて奴隷などを売り物にしていた焦げ付いた地下室には、

幾枚かの金貨を持たせてホルスに買い漁らせた水と食料の山がある。

これなら暫くここで隠れて過ごせるだろう。


「うん、予想以上に上手くやってくれたな」

「お褒めに預かり光栄です」


うん、ホルスは本当に良くやってくれたと思う。

それに奴隷に分け前は不要と女王蟻の賞金を受け取らなかったしな。

……そろそろ褒美があってしかるべきだろ、常識的に考えて。


「この働きに免じて一つ褒美をやろう」

「はっ」


「自由だ。受け取れ」

「……え?」


かつてカーヴァーが、ホルスの前の主が嵌めていた奴隷を隷属させる為の指輪。

それが俺の手の中で砕け散った。

これでホルスの心を縛っていた鎖は解けたはずだ。


「これは一体どういう事でしょうか?」

「もうお前は奴隷じゃなくて良いって事だ」


正直この真面目で誠実な男をこれ以上の面倒に巻き込むのはどうかと思う。

なにせ、今からやろうとしてるのは人類に対する反逆以外の何物でも無いからな。

汚いやり方、非道な決断……それもやらねばならないだろう。

だが、ホルスにそれをさせるのは酷だ。

それにこれから起こる事は絶対に秘密にせねばならない。

それが破られた際、俺は知りすぎた奴を消さねばならないだろう。

そう。例えそれが底抜けの善人だったとしても。


更に言えば、今の俺に必要なのは決して裏切らない味方である。

ホルスなら十分すぎるのだが……正直に言おう。

指輪一つで裏切るような連中を使う事は出来ないのだ。


「もういいんだぞ?自分の為に生きてもよ?ここに金貨50枚ある。これで自由に生きるんだ」

「わ、私は……」


だからここで離れたほうがいい。

俺がコイツに頼り切ってしまう前に、な。


そんな風に考えていたんで、


「私は主殿に付いて行きたいと思います!」


そう叫んで土下座したホルスの気持ちがどうしても判らないんだ。

どうしてお前……折角得た自由への権利を簡単に手放すような真似をするんだよ?


……。


《side ホルス》


「奴隷と言う生き様は貴方が思うより、ずっと過酷なのです」


と、私のほうを呆然と見下ろす主殿に進言する。

……確かに私を縛っていたものは消えてなくなっていた。

何と言っても、奴隷が主の決定に異議を唱えられているのだから。


「で、でもな?俺に付いて来るって事は、世界を敵に回すようなもんなんだ」

「望むところです」


前主の非道に心を痛めつつ、従う以外の選択肢がなかった私の人生。


「何人も不幸にする事になる。知られたら命を奪わねばならない秘密も持つ事になる」

「ならば私が切り捨てましょう。善良な者の口も封じましょう」


闇の中、ゆっくりと腐るしかなかった病んだ空気の中、貴方は現れた。

強い力と英知。そして無限の可能性を持って。


「それは、お前の望みではないはずじゃないのか?」

「たしかにそうです。ですが有る意味望んだ事でもあります」


私はその先を見てみたい。

そして、私に自由をくれた貴方こそを主としたいのです。


「私が自由であるのなら、私は私の意志で……私の自由を捨てましょう」


もしかしたら、私が小さな時望んだ世界。

生まれだけで全てが決まるのでは無い世界。

それは主殿と行く世界にあるのかも知れないと、そう思えるのです。

故に、ここで離れるという選択肢は無いのです!


「私は剣闘士ホルス!我が全ては主カルマの為に!……我が生涯を主殿に捧げん!」


主殿は……その言葉を聞いて暫し迷っていたようです。

ですが、何時しか私の元に歩み寄り、その手を取りました。


「いいだろう。お前の命、俺が預かる。……ありがとうな」

「いえ、何か大きな事をやるのでしょう?微力ながら私の力もお使い下さい」


「そうだな。では俺の無二なる側近よ、今後の事について説明するぞ」

「はい、主殿」


何か、お互いの距離が近づいたような瞬間でした。

この日より私は主殿の為に生きる事になります。

話の通り、幾人もの人間を不幸にする事になるのかも知れません。

ですが既にそれは私が決めた道。主の非道を言い訳には出来ません。いえ、しません。


主殿のしようとしている事は多少なりとも心当たりがあります。

あの日、蟻の巣から共に逃げ出した20人の仲間達の復讐。

そしてあの大司教に鉄槌を下す事。

それは私情で動くと言う事ですが構いはしません。

主殿の意思に従うのは、それ自身が私の意志なのですから。


「ではホルス。まずはもう一人仲間を紹介しよう」

「仲間ですか?」


「これは俺からお前への絶対の信頼の証だ」


そう言うと、主殿は上半身の衣服を脱ぎ捨てました。

一体、何を?


「さあ、居るんだろ?出て来いよ……女王蟻の女王!」

「なっ!?」


女王蟻の女王?

あれは私達の目の前で自決したではないですか。

主殿は一体何を!?


……足音が聞こえます。無数の足音が。

はっとする間もあればこそ。

地下室の隙間と言う隙間から、まさしく無数の蟻が這い出してきています。

そして、壁が倒れそこからは巨体の兵隊アリ達が。


「ふん。随分生き延びてたんだな……道理で無事に帰してくれた訳だ」

「主殿!」


「うろたえるなホルス!さあ、出て来いよ」

「あいよー、兄ちゃ!」


今の声は、一体?


……。


《side カルマ》

あの日、女王蟻は妙に潔く自らの命を絶った。

それは美しい亡国の姿ではあったが、俺は少しばかりおかしいと感じていた。

……人間でもあるまいし、

一国どころか1種族の命運を背負った女王がそんな簡単に諦めるのか?


そして、捕らえられていた時の俺の待遇。

簡単に言えば丁重過ぎ、そして厳重過ぎだったと思う。

何せ、俺以外にあんな粘膜のベッドに入れられていた人間は居なかったからだ。


……体の異変に気付いたのは半月前。


……。


体全体が重い。そしてだるい。

まるで生命力を何かに吸い取られているかのように。

そして、その原因を考えていて気付いたのだ。

……今度のお約束に。


「居るんだろ」

「……」


「居るんだろ。クイーンアント」

「ちーがーう!クイーンアント・クイーンだよ兄ちゃ!」


それが俺の左脇腹に宿る寄生虫……女王蟻の女王(幼体)との出会いだった。

未だ雌伏する女王蟻。

殺すのは容易かったろう。だが、何故だかそれはためらわれた。

そして先日、そろそろ生まれたいと言われたその時、


俺の脳裏に天恵が降りたのだ。


それ以来俺はコイツが安全に、

人間に気取られないように生まれてくる為の場所とタイミングを計っていたわけだ。


……。


これから起こる事に対応する為、"再生"を使用する。

それを確認したかのように左脇腹に内側から極めて強力な圧迫感。

……続いて一瞬刺すような痛みと共に肉と皮膚が破れ、その内側から一本のしわだらけの腕。

続いて現れたのはこれまたしわだらけの頭。

だがその複眼だけには非常に強力な生命力が感じられる。

そして遂に全身が姿を現す。


「老いた……赤ん坊ですか?」

「胎児だな。目は複眼だし、キモイな」

「やかましい!兄ちゃの体に負担かけないように大きくならないようにしてたからだもん!」


まあ、不気味なクリーチャーが何言っても説得力は無い。

そんな訳で説得力を持たせる意味でもさっさと産湯に浸からせてやる事にする。


「ほれ、お前のリクエストどおり砂糖と塩を溶かした清水だ」

「よっしゃー!じゃあ一丁、一気に育ってきまーす」


しわしわの胎児を砂糖水と塩水の混合物に叩き込む。

たるの中でクリーチャーはしばらく不器用に泳ぎまわっていたが、

30分も経つ頃には変化が現れ始めた。


しわだらけだった肌は張りを持ち始め、

でかいオニギリ位だった大きさも6歳児ほどの身長に急成長。

それはまさに孵化。

さなぎから出たばかりの蝶がその羽を乾かすかのような光景。

そして、まるで人間そっくりの容姿を得た"それ"は、

樽一つ分の水溶液を飲み干し、地上に降り立ったのである。


「と言うわけで。あたし、誕生!」

「やかましい!」


取りあえずデコピン。

おー、デコ押さえて転がる転がる。


「何と言う横暴な兄ちゃ?名無しの女王蟻に何と言う暴挙!」

「というか本当にお前マジであの女王の子か?」


「それ以外になんに見える?」

「複眼持ちのガキ」


「むがぁ!記憶はおかーさんの物を継いでて、兄ちゃの記憶から知識は得てても」

「中身は子供ってことか?」


「その通り!」

「偉そうにふんぞり返って言うな馬鹿たれ……」


まあ、色々言いたい事はあるがつまりこういう事だ。

俺があの蟻の巣で捕らえられた時、既に俺の体には卵が産み付けられてたって訳だ。

そしてコイツは俺の中で俺の記憶から情報を吸い上げながらすくすく育っていた。

女王が妙にあっさり逝ったのもこいつを逃がすためだった訳だ。


あ、兵隊蟻の一匹が俺の荷物からエプロンドレスを持ってくぞ?

勿論目の前のコイツが欲しがっていた物を買い付けた物だがな。


「おし、着替え完了」

「しかし、目以外は本当に人間そっくりだな」


母親が上半身人間で下半身蟻だったのとは大違いだ。

コイツの場合、アホ毛2本付きの黒髪幼女としか言いようの無い容姿なんだよな。

ただ、目が複眼な事だけがコイツが人で無い事を示している。


「うむ!これが適応ってやつなの!」

「そうか。まあいい。ところで」


「兄ちゃの記憶は読んでるから説明は不要。既におかーさんの部下の生き残りに作業させてる」

「早っ!?」


「あ、あの!?一体何の話なのですか!?それとこの状況は一体!?」


あ、ホルスの事忘れてた。

こっちにはきちんと説明してやらないとな。


……。


「つまり、寄生されていた蟻の女王を利用して事業を起こすと!?」

「そういう事だ。人間大の蟻の力って奴は凄まじい労働力になるだろうと思ったのさ」

「んでもってあたしらは、それで得たお金でご飯を買うの!」


冒険者に元奴隷、そして人型のクリーチャーと言う凄まじい三人組が、

灯台地下で大量の巨大蟻に囲まれながら焚き火を囲んでいると言う凄まじい光景。

その中央で俺達の話は続いていた。


「既に俺の頭の中で考えてた第一期工事は始まってるみたいだしな」

「後一ヶ月くらいで終わるよ!凄いでしょ!」

「それで……一体何を商うので?」


意外な事だがホルスはこの異常事態にうろたえながらも付いて来ている。

暫くすれば慣れるとまで言い張っているのは少々予想外だ。


「取りあえず、サンドール王国にただで手に入る物を売りつけようと考えている」

「既に集めてるよ!もう少し工事が進めばもっと楽に手に入るよ!」

「判りました。何にせよ私は主殿の決定に従います。それが私の意志ですから」


それでも、一緒にやってくれると言うのはありがたい。

今後は一層頼りにさせてもらうぜホルス?

そして。


「じゃあ早速サンドールに向かう。……途中で山賊とかを潰しながらな」

「追っ手は任せれ。全ての蟻が兄ちゃの味方!むしろ向こうの事を筒抜けにしてやるから」


お前のほうも頼りにさせてもらうぞ、新しい妹よ。

この商売人としての一歩が、強大極まりない俺達の敵をぶっ潰す、

その一歩になるんだからな?


「それで主殿。貴方が商売をするならきっと協会側からの横槍があると思うのですが?」

「えっへん!そこのところも考えてるよ!」

「……カルーマ商会総帥、カルーマ=ニーチャ。商人としての俺はそう呼べ」


そう言って、髪の毛から作った付け髭を口元に当てる。

そしてターバンを頭に巻き、普段の皮鎧の上から白い厚手のローブを羽織った。

ついでに外側から腰の部分をベルトで止め、大福帳と手製の算盤をそこから下げる。

……うん、これで冒険者には見えないぞ。


この瞬間から暫く俺はカルマでは無い。

今の俺はカルーマ。

カルーマ商会総帥、カルーマ=ニーチャだ。


そして今日から俺たち三人は"カルーマ商会"を名乗る。

それは理不尽な権力と戦う為の組織の仮の名。

そして恐らく……その名は数年以内に世界を席巻する事となるだろう。


***商人シナリオ1 完***

続く


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