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No.6980の一覧
[0] 幻想立志転生伝(転生モノ) 完結[BA-2](2010/08/09 20:41)
[1] 01[BA-2](2009/03/01 16:10)
[2] 02[BA-2](2009/05/14 18:18)
[3] 03[BA-2](2009/03/01 16:16)
[4] 04[BA-2](2009/03/01 16:32)
[5] 05 初めての冒険[BA-2](2009/03/01 16:59)
[6] 06忘れられた灯台[BA-2](2009/03/01 22:13)
[7] 07討伐依頼[BA-2](2009/03/03 12:52)
[8] 08[BA-2](2009/03/04 22:28)
[9] 09 女王蟻の女王 前編[BA-2](2009/03/07 17:31)
[10] 10 女王蟻の女王 中篇[BA-2](2009/03/11 21:12)
[11] 11 女王蟻の女王 後編[BA-2](2009/04/05 02:57)
[12] 12 突発戦闘[BA-2](2009/03/15 22:45)
[13] 13 商会発足とその経緯[BA-2](2009/06/10 11:27)
[14] 14 砂漠の国[BA-2](2009/03/26 14:37)
[15] 15 洋館の亡霊[BA-2](2009/03/27 19:47)
[16] 16 森の迷い子達 前編[BA-2](2009/03/30 00:14)
[17] 17 森の迷い子達 後編[BA-2](2009/04/01 19:57)
[18] 18 超汎用級戦略物資[BA-2](2009/04/02 20:54)
[19] 19 契約の日[BA-2](2009/04/07 23:00)
[20] 20 聖俗戦争 その1[BA-2](2009/04/07 23:28)
[21] 21 聖俗戦争 その2[BA-2](2009/04/11 17:56)
[22] 22 聖俗戦争 その3[BA-2](2009/04/13 19:40)
[23] 23 聖俗戦争 その4[BA-2](2009/04/15 23:56)
[24] 24 聖俗戦争 その5[BA-2](2009/06/10 11:36)
[25] 25[BA-2](2009/04/25 10:45)
[26] 26 閑話です。鬱話のため耐性無い方はスルーした方がいいかも[BA-2](2009/05/04 10:59)
[27] 27 魔剣スティールソード 前編[BA-2](2009/05/04 11:00)
[28] 28 魔剣スティールソード 中編[BA-2](2009/05/04 11:03)
[29] 29 魔剣スティールソード 後編[BA-2](2009/05/05 02:00)
[30] 30 魔道の王国[BA-2](2009/05/06 10:03)
[31] 31 可愛いあの娘は俺の嫁[BA-2](2009/07/27 10:53)
[32] 32 大黒柱のお仕事[BA-2](2009/05/14 18:21)
[33] 33 北方異民族討伐戦[BA-2](2009/05/20 17:43)
[34] 34 伝説の教師[BA-2](2009/05/25 13:02)
[35] 35 暴挙 前編[BA-2](2009/05/29 18:27)
[36] 36 暴挙 後編[BA-2](2009/06/10 11:39)
[37] 37 聖印公の落日 前編[BA-2](2009/06/10 11:24)
[38] 38 聖印公の落日 後編[BA-2](2009/06/11 18:06)
[39] 39 祭の終わり[BA-2](2009/06/20 17:05)
[40] 40 大混乱後始末記[BA-2](2009/06/23 18:55)
[41] 41 カルマは荒野に消える[BA-2](2009/07/03 12:08)
[42] 42 荒野の街[BA-2](2009/07/06 13:55)
[43] 43 レキ大公国の誕生[BA-2](2009/07/10 00:14)
[44] 44 群雄達[BA-2](2009/07/14 16:46)
[45] 45 平穏[BA-2](2009/07/30 20:17)
[46] 46 魔王な姫君[BA-2](2009/07/30 20:19)
[47] 47 大公出陣[BA-2](2009/07/30 21:10)
[48] 48 夢と現 注:前半鬱話注意[BA-2](2009/07/30 23:41)
[49] 49 冒険者カルマ最後の伝説 前編[BA-2](2009/08/11 20:20)
[50] 50 冒険者カルマ最後の伝説 中編[BA-2](2009/08/11 20:21)
[51] 51 冒険者カルマ最後の伝説 後編[BA-2](2009/08/11 20:43)
[52] 52 嵐の前の静けさ[BA-2](2009/08/17 23:51)
[53] 53 悪意の大迷路放浪記[BA-2](2009/08/20 18:42)
[54] 54 発酵した水と死の奉公[BA-2](2009/08/25 23:00)
[55] 55 苦い勝利[BA-2](2009/09/05 12:14)
[56] 56 論功行賞[BA-2](2009/09/09 00:15)
[57] 57 王国の始まり[BA-2](2009/09/12 18:08)
[58] 58 新体制[BA-2](2009/09/12 18:12)
[59] 59[BA-2](2009/09/19 20:58)
[60] 60[BA-2](2009/09/24 11:10)
[61] 61[BA-2](2009/09/29 21:00)
[62] 62[BA-2](2009/10/04 18:05)
[63] 63 商道に終わり無し[BA-2](2009/10/08 10:17)
[64] 64 連合軍猛攻[BA-2](2009/10/12 23:52)
[65] 65 帝国よりの使者[BA-2](2009/10/18 08:24)
[66] 66 罪と自覚[BA-2](2009/10/22 21:41)
[67] 67 常闇世界の暗闘[BA-2](2009/10/30 11:57)
[68] 68 開戦に向けて[BA-2](2009/10/29 11:18)
[69] 69 決戦開幕[BA-2](2009/11/02 23:05)
[70] 70 死神達の祭り[BA-2](2009/11/11 12:41)
[71] 71 ある皇帝の不本意な最期[BA-2](2009/11/13 23:07)
[72] 72 ある英雄の絶望 前編[BA-2](2009/11/20 14:10)
[73] 73 ある英雄の絶望 後編[BA-2](2009/12/04 10:34)
[74] 74 世界崩壊の序曲[BA-2](2009/12/13 17:52)
[75] 75 北へ[BA-2](2009/12/13 17:41)
[76] 76 魔王が娘ギルティの復活[BA-2](2009/12/16 19:00)
[77] 77 我知らぬ世界の救済[BA-2](2009/12/24 00:19)
[78] 78 家出娘を連れ戻せ![BA-2](2009/12/29 13:47)
[79] 79 背を押す者達[BA-2](2010/01/07 00:01)
[80] 80 一つの時代の終わり[BA-2](2010/01/14 23:47)
[81] 外伝 ショートケーキ狂想曲[BA-2](2010/02/14 15:06)
[82] 外伝 技術革新は一日にして成る[BA-2](2010/02/28 20:20)
[83] 外伝 遊園地に行こう[BA-2](2010/04/01 03:03)
[84] 蛇足的エピローグと彼らのその後[BA-2](2010/08/10 14:03)
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[6980] 10 女王蟻の女王 中篇
Name: BA-2◆63d709cc ID:515c5899 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/11 21:12
幻想立志転生伝

10

***冒険者シナリオ4 女王蟻の女王***

~いろんな意味で運命と出会った日 中篇~

《side カルマ》

蟻の洞窟で囚われ、何とか開放されたものの現在位置がわからなくなってから半日が経過している。

全身の傷は何とか全快したものの、二度に渡って火に炙られた装備の劣化と紛失が激しい。

皮の胸当ては修理不可能だし、食料を全部蟻が持っていってしまったようだな。

水筒は残っているが中身は半分程度。このままでは後2~3日で飢えと乾きにやられてしまうだろう。


幸いなのは、俺の剣が無事だった事か。

運よく俺が囚われていた近くの床にうち捨てられていた。運ぶ際に落っこちたのをそのままにしておいたのか?

意外な迂闊さだがこちらとしては非常に助かるってもんだ。

松明はもう手元にないが、幸いにも奥から僅かな明かりが漏れてきている。

時折人間の話し声も聴こえるし、近くに冒険者のキャンプでもあるのだろうか?

何にせよ、この状態じゃ合流する以外の選択肢は無いだろ多分。

まあ最低限の警戒は忘れないようにしないとまずいとは思うが。


……。


さっきの女王蟻の間よりも更に巨大な大広間。

中心に大きな焚き火。そして部屋の隅にも何箇所か小さめの焚き火。

そしてその周囲には装備どころか国籍まで違うであろう冒険者が100人ほども存在する。

広間の端には僅かながら水の湧き出す所があり、それ故に人はここに集まってきたのだろう。


けど。それとなく合流して周囲の連中に話を聞いていた俺は正直失望を隠せなかった。


「それじゃあ何か?ここの連中は全員捕虜?」


「似たようなもんだな、ケッケッケ。気付いたら戻る道がなくなってたのさ」

「穴から落ちたら元の階に戻る道が無かった何ていう例もあるぜ」

「そして、連中は孤立した奴を狙って時々とっ捕まえに来るのよ」

「ご丁寧に時々食料まで置いてあるわ。」


……つまり牧場かよここは?

そんでもって皆でここに集まっているのは出来るだけ寄り集まって浚われるのを防ぐため?

しかも最初に捕まった奴から数えて10年以上機能してるとかどんだけ?


もちろん逃げ出そうとはしてるんだよな?


「逃げるというか、この迷宮の全体像をまだ把握できてない」

「だから交代で探索してるって訳。もしかしたら抜け道があるかもしれない」

「ほら、噂をすればまた1グループ帰ってきた」


振り向くと、6人パーティーが一組広間に戻ってきている。

そして広間中央にマントを敷物のように広げ胡坐をかいた妙に偉そうな男に報告を始めた。


「そういう訳でして、死者3名を発見し僅かながら食料も発見しました。こちらが地図になります」

「うむ、ご苦労。それでは貴様等には中央のベッドで休む許可を与える。それと食料の半分は貴様等の取り分だ」


見ると、中央のひときわ大きな焚き火の傍には、

死者から剥ぎ取ったであろうマントなどから粗末な寝床が用意されている。

6人は探索の戦利品を男に渡し、寝床に荷物を置いた。

そして全員で1つずつコップを持つとリーダー格の男が偉そうな男に向き直る。


「有難うございます……カーヴァーさま。それと水を頂きたいのですが」

「宜しい。10数える間汲んでも構わん。ひとーつ、ふたーつ」


慌てて水場に走り出すパーティー。そしてボロボロのコップに水を汲みだした。


「ここのーつ、とお!……オイ、そこの」

「え?ああっ!?」


六人の内一人だけがカウントが終わっても水を汲み続けていた。

と言うか足が遅くて出遅れていたのだが。


カーヴァーとかいう男が手を突き出した。

何をするつもりだ?


「俺の水源を勝手にするとは太い奴。切れ」

「あ、嫌、嫌だあああああっ!」


男がその指に嵌めていた指輪をコツコツと軽く地面で叩くと

水場の周囲に座っていた男の一人が無表情に立ち上がる。そして、


「申し訳無いですが主人の命令です」


と一言喋ったその瞬間、男の首が胴体から離れていた。

周囲の連中は目を逸らしたり眉をひそめたりしているが直接抗議する声は聞こえない。

そう。残ったパーティーの5人でさえも。


「新入り、覚えときな。あれがカーヴァー。ここの取りまとめ役さ」

「見ての通り水場を牛耳ってるんで誰も逆らえんのさ」


成る程。しかも屈強な護衛を従えてるな。腕前は相当なもんだろう。

それとあの指輪。以前見た事があるぞ?

……そう、あの忘れられた灯台地下。確か奴隷を隷属させるためのものだ。

という事は護衛は奴隷であり、当然裏切らないから非常に安心と。


「ああやって切られた奴はもう何人になるか」

「軽く口答えしただけで水の一滴もくれなくなるしな」

「まあ、賢く生きてりゃ少しは長生きできるってもんよ」

「それに、聞いてるかも知れんがもう直ぐここに連合軍の総攻撃が来る」

「何とか生き延びれば助かるって訳だ」


成る程。水を支配してお山の大将気取ってるわけか。

だがまあ悪く無い手だ。

従わなけりゃ乾きと飢えに苦しむ上に共同体から放逐されて蟻の餌と。

そして従う奴が増えればその従う人数自体が力の源泉になるわな。

んでもって何時しかこの小さな世界の王様になったと。


まー、俺には関係ないか。

適当に従った振りしてれば総攻撃の時に助かるだろ。


……って言えれば楽なんだがなぁ。

なあ、この小さな家畜小屋の住人諸君。

お前等わかってるのか?

もし連合軍が攻め込んできたとする。

そうなったらどうなるか、最悪の想像した事があるのか?

亡国の際、攻め入った国の捕虜を生かしておく奴が居ると本当にそう思うのかよ。


取り合えず。あのカーヴァーってのはだめだ。

目先の事に目がくらんで後の事をまるで考えてないんじゃないかと思う。


……思わず見えもしない天を仰いだ。


実は、この場からの脱出に関しては心当たりがある。

だがあの男が居る限りそれが実現する事など無いだろう。

せっかくのシモベを逃がそう何て思わないはずだ。

既にここから出るつもりが残ってるかどうかすら怪しい。


奴は気付いているのだろうか?

ここを荒らさないのが蟻にとって都合が良いからだと言うことを。

気付こうとしているだろうか?

人を奴隷としてこき使う今の自分が蟻の奴隷でしかないという事実を。


そして……判ってるのかよ?

敵の捕虜を亡国の時に生かしておくはずが無いって事。

つまり連合軍の総攻撃が自分たちの命日である可能性の高さを。


まあ取り合えず、暫くは様子見だ。

この所、前準備を怠って失敗するケースが増えてきているからな。

面従腹背で隙を探すべきだろ常識的に。


……。


あれから一週間経過していた。

状況は最悪に近い。考えれば考えるほど宜しくない状況だ。

まず水を得る為にはあのカーヴァーという男の言う事を聞かなければならないのだが、

その為には広間を出て周囲を探索し、行き倒れた同類の冒険者や蟻が置いていく食料を持っていかなければならない。

そしてその食料と僅かな水を交換してあの男はこの小さな、かつ絶対的な権力を手にしている訳だが、

その集めた水と食料を腕に覚えのある連中に渡して自分の派閥を形成している。


「おい貴様!今日は食料の土産ひとつ無いのか?」

「あ、申し訳ないっす!」


「では当然、水抜きだ」

「そ、そんな。せめて一口!」


「逆らうのかこのカーヴァーに。ホルス!こいつを切り捨てろ」

「はい。偉大なる旦那様。……申し訳ありません」


力のある奴等が集まるわけだから、

当然更に力を増していくその集団はそれ以外のものに対して酷く高圧的になってきている。

俺自身は腕に覚えのある人間に見えたのか、直ぐに権力側に迎え入れられたがな……。

まあなんと言うか、人としてどうよ?と思うような連中が多い事多い事。


勿論俺もそれなりに雰囲気に"合わせた"言動をするように心がけているが、

敵対されたならともかく、

こちらから嫌われてやるような行動がどんなに馬鹿な事か判ってないんだよなコイツ等。

はぁ。まー俺のキャラじゃないが多少は忠告しておくか。


「ふん。このカーヴァー様に逆らうからだ。コイツを片付けておけ」

「あー、カーヴァー様。無碍に命まで奪うのはどうかと?」


「なんだカルマ?……だったか。お前も俺に意見するのか」

「いいえいいえ。ただ向こうの連中も怖がってるみたいですし」


「そんな訳は無い!なあ皆?」

「「「「あ、あー。はい、そ、その通りでございます!」」」」


「そうだろうそうだろう!見たか。貴様は心配しすぎだ。ここでカーヴァー様に逆らえる奴などいない!」

「……はっ」


あーあ。見ろよ、広間の隅に居る大多数の連中の顔。

内心どんだけ恨まれてるか判らないぞ?

あー、こう言う人間同士の内紛を煽る様な事を蟻がやってるかと思うと洒落にならんな。

……え?本当にそこまで考えてるのかって?

そりゃそうさ。近くの壁に親指ほどの小さな蟻が一匹居るんだけどよ。

あれ、何時も同じ位置にいるんだよ。しかも何時もこっち見てる。監視の可能性が高い。

こうやって人間を管理してるんだろな。そして群れから離れた奴をパクリ!と言うわけだ。


さて、現在囚われの人間たちは三つの派閥に分かれている。


先ずはカーヴァー派。

俺も一応所属するグループだ。人数は現在80人ほど居る。

カーヴァーと言う戦士を中心にしてその奴隷の剣闘士ホルスと、

俺のようにスカウトされた腕の立つ連中で構成されている支配層。

そしてその命令に従って僅かな水を得る為に動き回る被支配層に分かれている。

人数は多いが、結束は皆無だな。

リーダーは脳筋で快楽主義者。正直山賊の頭だと言われても違和感が無い。

奴の奴隷であるホルスは恐ろしく腕が立ち、水源を確保しているのは実質彼だと言っても良い。

非常に誠実な人柄で、カーヴァーが上手くやっているのはホルスがいるからだと断言出来る。

因みにコイツは直接戦闘なら俺より上だ。

つまり持ち主ごと叩き切って解決するには俺自身の能力が足りない。

まあ総括すれば既に外に出る事よりここで楽しく暮らす事が目的になってる連中とその犬だ。

……おめでたい話だよ全く。


そして反カーヴァー派。

名前の通りカーヴァーの圧制と言うか我侭に対し反旗を翻した奴等だ。

人数は殺されたり補充されたりで安定しないがまあ常時15~16人くらい。

少し離れた場所にある広間を根拠地にしている。

水源を巡って時折襲撃を仕掛けてくるのだが、

その体力を脱出に使えと声を大にして言いたい。


そして中立派。

どちらに付くでもなく自力での探索と脱出手段の捜索を行っているまともなグループ。

と言うか個人達だ。名目上グループとして分けた。

自分で水と食料を確保できる連中であり、人格者も多い。

信用できる連中は殆どこのグループだが、同時に一番蟻にやられやすい連中でもある。


カーヴァー派と反カーヴァー派は直接争っている。

それだけなら良いが、その双方が自分達に付かないと言う理由で中立派に対し圧力をかけてる状態だ。

因みに中立派は中立派で前述の両派を「語るに値しない連中」と無視を決め込んでいる有様。

ったく、蟻どもの思い通りじゃないかよ。


まあ、要するにだ。

俺はこの地下奴隷集落の階層問題をどうにかしなけりゃならない訳だ。

やらなきゃ来月末……後一ヶ月位で蟻の餌だからな。

それに気付いてるのが俺ともう一人だけみたいだし、たった二人でどうにかしなきゃならんのよ。

そしてそれから更に脱出か、あるいは女王打倒の算段を付けないとならない。

正直気が重いどころじゃ無いぞこれ。

出来なかったら?十中八九死ぬ。俺含めて全員。

そういう訳で俺が助かるためにも何とかせなならん訳。


……。


そんなこんなでまた数日が経過している。進展は余り無いが何もしない訳にはいかない。

さて、そういう訳で今日も行動開始だ。

本日の俺の割り当て分であるコップ一杯の水を持って、と。


「カーヴァー様、ちょっくら女漁って来ます」

「うむ、ゆっくりして来い」


そっけなく断りを入れ広間から出て行く俺。

そしてそんな俺の持つコップ一杯の水に群がろうとする人々。

ある者は宝石の付いた指輪を差し出し、

ある者は己の半身であったろう使い込まれた剣を見せ付ける。

そしてある者はしなを作って露骨に誘ってきた。


あー、なんか嫌だ。昔カソの村で腐った芋食って生き永らえていた頃を思い出す。

……人間窮するとこんなもんだよな。

恐ろしい事だと思うが、この場所ではコップ一杯の水で大抵のものは手に入る。

無論ここにあるものならと注は付くが。


……また新顔が増えている。今日だけで五人は増えたか。

急がないと、まずいかも知れない。

取り合えず差し出される手にこっそり水を分けてやり、空のコップを持って奥へと向かう。


……。


広間から出て暗い通路を進む。

単独行動は蟻の餌食になれと言わんばかりだが、

信用できそうな人間が居ないのだからしょうがない。


「悪い。遅くなったな、ルン?」

「構わない」


30分ほど歩いた所にある小さな広間に待ち人は居た。

以前助けられた女魔法使いルーンハイム。

あの広間にたどり着いてから数日後に彼女……ルンと再会した俺は、

何か礼がしたいと思っていたので水を持って行ったのだが別に必要ないとの事だった。


それで代わりに頼まれたのが情報収集。


中立派と言うかあそこに近づきたくないと言うルンの為に一肌脱ぐ事になったのである。

別に危険な事ではない。その日あった事を話して聞かせるだけだ。

それに現状の危険さを理解できる人間は貴重だ。存在してくれているだけで精神的に助かる。


「それで現状は」

「まあ最悪だな。人口は増える一方だが水の量は以前のままだ」


そう。人が増えるのは良いがこの場所にある水は新規の連中が持ってくる分と、

あの広間の頼りない湧き水だけだ。


人の流入量が増えた理由はわかっている。

軍の総攻撃の前にと焦った連中が次々に囚われているのだ。

数日前に比べ行方不明……蟻に食われる人数も増えたがそれ以上に増えるスピードが速すぎる。

無論食料も足りている筈が無い。

一ヵ月後の総攻撃の前に餓死者続出と言う結果になる可能性は高い。

それどころか数に物を言わせた暴動にでもなったら?


……別によく知らん連中がどうなろうが構わない。

ただ、あの人数から逃れた上で蟻の大群と戦う自信は無い。

そうなる前に何とかしないと、と俺は考える。


「早くしないと沢山犠牲が出る。それは阻止したい」


ルンはそう考えているようだ。

ご立派な事で。とも思うがそれに助けられたのが俺である。

出来る事なら何とかしてやりたいよな?


それともう1つ何とかせねばと思う事がある。


「それじゃあ次は三日後に」

「あー、待てよルン?」


ポケットからビスケットを取り出す。

昨日、被支配層の奴からコップ一杯分の水と交換で貰ったもんだ。

……交換した奴には泣いて感謝されたよ。あー胸糞悪い。

なんで水とビスケットの交換で感謝されねばならんのだ。

なんだかムカつくがどうしようもない。

無力だよな。支配層に喧嘩売って勝つにはいかんせん戦力が足りない。


まあ、それはともかく時折こうやって食い物を持ってきている訳だ。


「ほれ食え。いらないなら今ここで俺が食う」

「……ぁ」


何でかって?だってコイツ蟻が置いて行く食料見つけても口を付けないんだよ。

まあ、腐りかけた犬の肉とかだしな。

出自が良いとこ出身みたいだし、プライドが許さないのか……もしくは怖いのか。

まあそういう訳で腹空かしてふらふらしてる事が増えたんで、一度心配して持って来た訳だ。

そんでもって、今持って来ているのは……まあ趣味だな。


「ほれほれ、それじゃあ交換にしよう。何時も通り雨を呼んでくれ」

「ん」


しかもただで貰うのは許せないらしい。

生真面目と言うか健気と言うか。まあ難儀な性格なのは間違い無いので

俺を助けた時使った"降雨(レインコール)"で水を用意してもらって、

代わりに食料を提供すると言う形態にした。


ただ、それで俺が物を得るのは気に入らないようで、

この場で飲んでいく事を条件にされている。


『~~♪……降雨(レインコール)』

(子供の頃聞いた歌か。相変わらずこの詠唱は望郷を誘うね。……歌詞?気にするな)



実はルンの奴、でっかいマントで印を隠して魔法を使うのでまだ俺は降雨の魔法を覚えられないで居る。

なんでも魔法使いにとって自家に伝わる魔法を真似されるのは盗まれるのと同様らしい。

まあそれはさておき。


「それじゃあ飲んでくぞ」

「いただきます」


うん、一見すると無口無表情系だと勘違いするような無表情が一気に緩んだ。

つり眼だと思ってたが、それも一気にたれ眼気味に変化してるし。

小さな口で今日もまた幸せそうに"はもはも"と。これはなんと言う小動物だ?


最初は干し肉だったっけ。

殊更無感動にありがとう、とだけ言われたが口にした途端一気に表情が崩れて。

そんで一瞬後、はっとしたように無表情に戻るとか。

……どんだけ無表情装ってるんだか。なんて思ったもんだ。


そして興味本位で何度か同じ事を繰り返し、俺は確信に至ったのである。

この子はヤマアラシか何かだと。

……可愛げが足りんな。ハリネズミにしておく。……大して変わらんかも知れんが。


まあ要するに他人を過剰に警戒してるんだな。


そう思ったらなんと言えば良いか……なんだか他人とは思えなくてな。

頼まれた情報を持って来つつ、餌付け用のお菓子とかを毎回持って来るようになったと。

うん、段々警戒感が無くなって時々笑顔とか見せるようになって行くのが楽しくて、

最近は自分の食うべき分まで渡したりとかしてます。

凄ぇ楽しい。つーか面白い……と言うより何か嬉しい、なのかねこれは?


「ごちそうさま」


しまった、考え事してる内に本日のハムスタータイム終了。

眺めそこなったよ畜生。


そんな馬鹿な事を考えていたためか。

俺は彼女が予想以上に焦っている事に気付かないで居た。


「……状況は悪くなる一方」

「そうだな。このままだと蟻の前に人間同士の戦いでやられちまう」


「何とかしないと」

「そうだな。……あのカーヴァーさえ何とかできればいいんだがなー」


その何とかが難しい訳だが。


兎に角あのホルスを何とか無力化するか、

カーヴァーを孤立させて倒す必要がある。

俺とホルスを除いても戦闘能力Bランク級の側近が10人は居るし、せめてそいつ等をどうにかしないと。


……気付けば一人になっていた。

ルンは何時の間に出て行ったんだろう。


まああの広間でそこのボスを倒す算段を考えるのも神経を使う。

もう少しここでゆっくり考えていくか。


……何か良い手は無いか?


1、反対派と協調してカーヴァーを倒す

危険。そもそも接触した時点で疑われるし、向こうも話を聞く気が無さそう。


2、広間は無視して俺も中立化し探索に入る

リスクが大。今後安全に休める場所を確保する事が困難になる。

長期化する可能性を考えるとまだその手は取れない。

……月末三日前まで解決しない場合に採用。


3、被支配層を扇動してプチクーデター

無理。戦力差が大きいし既に諦めてる人間が多い。


4、新規組を結集して新派閥結成

無意味。今更集めても時間が足らん。対立関係を複雑化するだけだ。

そもそも新規組を俺に従わす事が出来るか不明。


ふぅむ。

考えてみても即効性のある方策なんて出てこないもんだな。

……実はホルス対策は既に考えてある。

ただ、その為には全員の意識を俺から数秒で良いから引き離さなきゃならないんだよな……。


あー、あんまり遅くてもおかしいかもな。

さっさと戻るか。あの家畜小屋に。


……。


そして広間に戻った俺は唖然としている。

勿論周囲のみんなの視線も中央に釘付けだ。


「うむ。君の言いたい事は良く判った。だが俺のやり方に口を挟むのは気に入らないな」

「それでも考慮して欲しい」


ルンよ。お前何やってんだ。

独裁者に直談判とか非常識にも程があるんだが?


「無理だ。脱出の為に全力を注ぐのはもっともだが、今は反対派との戦争中なのだよ」

「ここから出られれば反対派も無い。みんなの為」


そりゃ、そりゃ正論だ。

だが相手はもう"出たがってない"んだぞ?

そんな説得が効くのかよ?


「みんな?なんで俺がこいつ等のために何かしてやらねばならんのか理解に苦しむな」

「蟻の家畜のままで構わない?」


あ、馬鹿。それは禁句だ。


「ほぉ?俺が奴隷?奴隷だと言いたいのか?」


周囲の空気が一気に冷え込んだんだが。

そろそろと広間を逃げ出す奴まで現れたぞ?

それにしてもせっかくあの独裁者が話を聞いてくれてたってのにみすみす無駄にしちまったか。

実は千載一遇のチャンスだったのかもしれなかったんだが。機嫌的に。


「……ホルス!この馬鹿な子供を叩き切れぃ!」

「は、はい。偉大なる旦那様」


いきなりホルスを出しやがった!

駄目だ、殺されるぞ!?


「貴方の考え自体は賛同したいのですが、もう少しカーヴァー様の性格をお考え……今更ですね。お覚悟を」

「もう準備は出来てる」


ルンが軽く後ろに二度三度と飛んで、広間の壁を背にした。

背後からの奇襲を防いだつもりなのか?

だが、相手は相当の猛者だ。純魔法使いの運動能力で詠唱完了まで避けきれるのか?


……ルンの詠唱が始まる。

残念ながらささやくような小さな声のためここまで声が届かないし、

マントに隠して印を切っている為に何の魔法を使おうとしているか判らない。


いや、多分わざとだ。こうやって相手から己の手札を隠しているのだろう。

だが遅すぎる!既にホルスの槍が眼前に来てるじゃ


……弾いた!

眼に見えない、言わば不可視の壁のようなものがホルスの槍を本人毎弾き返した!

二撃目、三撃目……幾度と無くホルスは槍を振るうがまるで届かない。

傍目にはホルスのパントマイムのようにも見えるが、これは一体?


『……風精の舞踏(エアリアル・ロンド)』

「くっ!?」


術名は聴こえた。風精の舞踏、か。

その名の通り風を操る術のようだ。

ルンの両腕が交差し、その広げられた両手から大量の風が吹き出している。


「くっ!うっ!……押し戻される!」

「ええい、ホルス!何をもたもたしているのだ?」


しかもそれだけではない。

大量の風で相手を押し戻すのみではなく、小さな風の刃を大量に発生させているようだ。

ホルスの体に細かい無数の傷が刻み込まれていく。どころか後方の連中がとばっちりを食らって切り刻まれてやがる。

暴風吹き荒れる中、前方から大量のカミソリが飛んで切るような状況なんて、正直想像もしたくない。


「くっ、風はともかく、なんなのですかあの見えない壁は!?」

「祖国マナリアが秘術、防壁(ガードウォール)」


防壁?

そう言えばルンに魔法使いが一人で戦えるのか?

と聞いた事があったが、その回答が確かそんな名前の術だったような。


各家で口伝される、とか言ってたな。

それで安全地帯を作って詠唱時間を稼ぐ、だったか?。


術者を中心に、破壊されるまであらゆる攻撃を弾き返し続けるその防壁さえあれば、

魔法使いでも前衛無しで戦えるらしい。


詠唱に特別時間がかかると言う話だったが……、

なるほど、直前にあらかじめ唱えておけば戦闘の邪魔にならないか。

考えたもんだ。


「魔法王国の方でしたか。ですがあの"防壁"ならば叩き続ければ何時か破壊できるはず!」

「その前に貴方が倒れるのが先」


風が止むと共に再び剣闘士ホルスが突っ込んでいく。

槍が薙ぐ、突く、振り回される!


……確かに少しづつ壁が後退してる。

さっきまで不可視の壁だった場所にじわじわと穂先が突き刺さりつつある。

やはりじわじわとダメージを受けているようだ。

だが、ルンの次なる詠唱もまた進んでいるぞ?


不可視の防壁が砕かれると同時に次なる魔法が完成した。


『氷壁(アイスウォール)』


不可視の壁の次は氷の壁か!

ホルスの眼前に巨大な氷の塊が落ちてくる!せり上がる!

なんとか回避したようだが、今度は残った氷塊が壁となって立ちふさがっている。


「これは、近づくのに苦労しそうですね!」


周囲を包む氷の壁を槍で削っていくホルスだが、見事に足止めされているな。

分厚い氷の壁を突破するのに3分くらいかかりそうだ。

勿論極めて分厚い氷柱の様な氷壁を、一気にカキ氷に出来る体力と技量は尋常ではないが。


だがやはりと言うか、ルンの第三撃が詠唱開始されてるぞ?

……次で決める気だなこれは。

詠唱が長いし、ここまで内容が聞こえて来る。


『……最後にお好みでシロップを乗せれば出来上がり。これこそが"氷菓子の揚げ物"(フライドアイス)』


ちょっと待てぃ!


なんでいきなりどこぞの三分間クッキングなんだよ!?

しかも何がフライドアイスだ?

それは"アイスクリームの天麩羅"って言うんだ普通は!

で?威力は?強いんだよな?当然強いんだよなぁ!?


「ぐあああああああっ!」

「ほ、ホルスーーーッ!?」



……本当に、強ええええええええぇぇぇぇっ!



敵の関節を氷結させて動きを封じ、

そこに炎と爆発をぶつけるとか、どんだけ鬼畜なんだこれ?

しかも爆発前に全身に何処からか可燃性と思われる液体が付着する演出付き。

……焚き付けか?焚きつけなのか?


今一度プロセスを整理すると、

1、関節を凍らせて動きを止める(アイスの仕込み)
2、全身に油が付着(衣を付ける)
3、大爆発&炎上(揚げる)


ちょっと違う気もするが、まさしく生きながらアイスの天麩羅にされるわけか。

非道過ぎる。まさしく鬼畜、なんと言う必殺技。


……で、だ。


「まさか、ここまで一方的にしてやられるとは思いませんでした」

「嘘」


そこまでやって相手が生き延びたらどうするつもりなんだ?

しかも嘘、とかつまりこの先は無いのか?


「でももう動けない筈」

「ええ。確かにまともに歩けませんし、片手も満足に動きませんね」


「……なら距離を」

「取らせませんよ!」


ルンが意外なほど軽いステップで壁伝いに逃げを打つが、ホルスは槍の投擲で対抗する気だ。

片腕が残って無ければこれで積みだったんだろうがな。惜しい。

だが、片腕の力だけで何処までやれるか……あ、外れた?

いや違う!


「うぐっ!?」

「狙い通り。これでもう魔法は使えませんね?」


ルンの手のひらが壁に縫い付けられた!

あれじゃあ印を組むどころか逃げる事も出来ない。

凄い腕前……って言ってる場合じゃない!


……。


《side ホルス》

今まで、奴隷剣闘士として生きてきました。主のためにさまざまな事をしてきました。

今までにもこのような事態に陥った事が何度もあります。

そんな時、主の行動は決まっていました。

……彼女の容姿は優れています。

なればこそ、この後起こるであろう狂宴は容易に想像できると言うもの。


「さて、ルンさんでしたか。貴方には二つの選択肢があります」

「ふた、つ?」


「はい、このまま私に討たれる道と、主の下へ生きたまま連れて行かれる道です」

「降伏か、死」


「主の下で屈辱の生を送るか、今ここで誇りある死を選ぶか。どちらかです」


とは言え、私に出来るのはこれぐらいです。

生きて泥に塗れるか、誇りと共に死を選ぶか。せめてそれぐらいは本人に選ばせてあげたいと思います。


「いや!その答えは俺が決める。ここにつれて来い。お前たちにも良いものを見せてやるぞ」


……残念ですが時間切れのようですね。

私は奴隷。主に仕える物であり主の命令は絶対。

例えどんなに許しがたい行いばかりする主でも、主は主。

どんな命令でも従わなければなりません。


彼女には可哀想ですが、時間切れまで決められないのもひとつの選択。

主の下へ連れて行かねばなりません。

全身に力を込めて全身を覆う氷を粉砕し、彼女の腕を掴みました。

痛そうですがそこは我慢して頂かないといけません。


「ふあーっはっはっは!俺に逆らうとどうなるか、じっくり理解して貰わねばならんな皆!」


どうして私はこんな主に買われてしまったのか。

そう思うだけ無駄な事なのですが、時折そう考えてしまう事があります。

……おや?


「そう!俺こそカーヴァー!この町の支配者!俺こそが法!秩序!そして俺こそが」

「蟻の奴隷の山賊親分!」


主の片腕が、飛んで、行く?


……。


《side カルマ》

やけに盛り上がってる馬鹿に向かって剣を振り下ろす。

狙いは腕、まだ命はとらない。


「蟻の奴隷の山賊親分!」


振り上げた拳がそのままの勢いで宙を飛ぶ。

俺はそれを受け止め、指輪を外した上で丁重にお返ししてやった。


「ホルス!今日からお前の主は俺だ!」


それだけ叫んでルン達の下へ行く。

……準備は不足。根回しもまだ。

だが千載一遇のチャンスではあった。

最大の問題である最初の一歩がどうにかできるなら危険を冒す価値は十分にある。

それにルンは命の恩人。見捨てるのも気分が悪いんでな。


それじゃあ、一世一代の大舞台。

格好付けて行ってみますか!


……。


「悪いなカーヴァー。お前の切り札、奪わせて貰ったぜ?」

「き、貴様!俺の王国を横取りする気だな?」


「はっ!誰がこんな家畜小屋を欲しがるかよ」

「何だと?良い度胸だ。おいお前等、こいつを殺ったらどんな望みでも叶えてやるぞ!」


おーおー来る来る、雑魚が一杯。

いやー、さっきまで人間に見えてた奴等が急に"別な何か"に見えてきた。

良い傾向だ。これなら幾ら切り倒しても良心が痛まん。

この状況で襲いかかってくるのは山賊だ。

山賊なんてもんは人間じゃない。ただのクズだ。クズならどんだけ処分しても良い。


「ホルス」

「あ、は、はい……主、殿?」


「傷はどうだ?動けるか?」

「え?傷?傷ですか?……まだ動けます。そもそもサンドールの民は熱の変化に強いものですし」


「ならいい。お前に今求める事は1つ。ルンを守れ、以上だ」

「……はい!」


いい返事だ。さっきまで敵だった俺の言葉に戸惑っていたようだが、

任務内容を聞いた途端に喜色が顔に浮かんでいる。


この男は善人だ。ここに来てから今までよく観察したが、

あの男のやり方には全く賛同してなかったようだしな。

これなら奴隷云々抜きでも後ろを任せられる。


「さあて、来いよ。特別に一撃食らってやる」

「舐めるなああっ!」


被支配層の軽戦士か。結構な古株らしいが……あー、切りかかられた時点でもう人に見えないな。

特別恩がある訳でもないし。


「……嘘だろ。俺の剣が、ガードも無しに弾かれた?」

「剣も錆び付きだが腕も錆付いたか?」


残念だが既に"硬化"済みだ。錆びたサーベルなんか通す訳が無い。

……最初が肝心だと言う事もあるので胴をなぎ払って真っ二つにしておく。


「うわあああああっ!」


今度も被支配層の……あー、日々の水にも困ってたオッサンだ。

そう言えばこの間のビスケットはこの人と交換したっけな。

よし、生存承認。なんてな?


「ふぎゃああああっ!」

「こないだのビスケット、結構美味かったみたいだから生かしとくわ!」


鉄拳で吹き飛ばす。

生存とか言っておきながらかなり派手にぶっ飛ばしたが……まあ気にするな。

結構しぶとい人だからこれでも多分生き残るだろ。


「どっせーい!」

「今度は二人一緒じゃい!」


えーと、遂に支配層来ました。太っちょとのっぽの二人組み。

こいつ等も冒険者ランクBらしいけどとてもそうは見えん。

まー、取り合えずさっくりと行っとくか。


「うぎゃあああ!?」

「攻撃効かないなんて反則だあああっ!」


「やかましい!お前等の攻撃が力不足なだけだ!」


……。


それから10分もすると、俺の足元には屍がゴロゴロと転がっていた。

既に自分からかかって来る奴は居ない。


「し、信じられん……あれだけの猛攻を無傷でだと?」

「ヴァーカー?もういい加減にあきらめたらどうだ。試合終了だぞ?」


「カーヴァーだ!……絶対に許さん!皆、弓を取れ。針鼠にしてくれる!」


おっと、遂に総攻撃か。

思ったより速いがまあ硬化はまだ解けてない。弓で来るなら……折れるな。


「ば、馬鹿な!?弓を弾くだと?」

「これで終わりか?」


今まで褒美目当てで眼の色変わっていた敵どもの雰囲気が変わった。

それは恐怖。そして畏怖。

有り得ない事態に恐慌をきたしかけている奴もいる。

……よぉし、ここからが勝負だな。

こいつ等を全滅させても俺の利益にはならんし、どうにかしなきゃならんからな!


「まだ、続けるのか?」

「まだだ、まだ終わってなど居ない!」


「お前には聞いて無ぇ!」

「何だと!?」


俺は広間を見渡す。


「聞け。お前等はこのままだと連合軍が助けてくれると思っているかも知れんが、それは間違いだ!」


本当は助けてくれるかもしれない。

だが、助けてくれないかも知れない以上、

待つと言う選択肢は取れない。

故に俺はあえて助けて貰える可能性を無視した。


「連合軍が攻め込んだその日、自分が蟻の立場だったらと想像してみろ。俺たちを生かしておくと思うか?」


今まで自分が蟻の立場になったら、等と考える奴はいなかっただろう。

だが、頭を冷やして考えてみればわかる筈だ。現状の危険さが。


「だが、俺たちは派閥争いをするだけで問題を解決しようとはして来なかった!今こそここから出る時だ!」

「無理を言うな!それにここで生き延びていればきっと助けは来る!騙されるな!」


「言っておくが。カーヴァー、アンタは終わりだ」

「そんな筈はない!」


まだ気付いていないのか?

すっと俺が指差した方角には反カーヴァー派の斥候が居た。

それを見て慌てて逃げていったがこの混乱に乗じて反カーヴァー派が勢いづいて乗り込んで来るのは間違いない。

さて、半減した戦力でその襲撃を乗り越えれるのかねぇ?


まあ奴等への生贄としてここまで生かしておいたんだけどな。カーヴァーさんよ?

反カーヴァー派が俺達にまで矛先向けて来たらたまったもんじゃないし。


「き、貴様謀ったな!?」

「いや?実に順当な原因と結果だ。……さて決めて貰おうか、ここに残るか。俺と共に出て行くか」


周囲が一気にざわめいた。

当然だな。

こいつ等は全員、俺がこの広間と水源を乗っ取るつもりだと思っていた筈だ。


「な、何を言っている?水無しでこの先どう過ごすと言うのか?」

「水ならそこのルンが用意できる。それに俺に着いて来れば、こういう特典がある」


俺はルンの手を取る。

白魚のようなという形容がしっくり来る筈のその手は、

今や槍で貫かれた跡から骨まで覗くような状態だった。


『痛みは失われ再生の時を迎えん事を祈る。砕けた肉体よ再び元へ。発動せよ治癒の力』


治癒の魔力により急速に傷が塞がって行く。

……この場に神官は居ない。

俺自身ここの連中の前で魔法を使ったのは初めてだ。

それだけにインパクトはでかいだろう。


「……神官?」

「いいや、ただの冒険者だ」


眼をぱちくりさせるルンは取り合えず置いておいて、広間の連中の説得を続ける。


「見たか?傷を受ければ癒してやろう。そして……俺には出口の心当たりがある」

「嘘を言うな!ここにはもう10年も閉じ込められている奴だっている。出口など無い!」


馬鹿な事を。入り口があるならそこが出口なんだよ。

まあカーヴァーは放っておくさ。何人かは理解してくれたみたいだしな。

……おーおー、焦ってる焦ってる。

自分の王国の崩壊は、流石に見ておれんわな?


「貴様等!そこの馬鹿に騙されるな!もし付いて行くと言うなら俺が」

『我が指先に炎を生み出せ、偉大なるフレイア!火球(ファイアーボール)!』


火球を発生させ、叫ぶカーヴァーに叩きつける。

熱さに耐えかね水場に逃げ込むもその小さな水源ではなかなか火は消えず、無様に転がり回るのみ。


「見ろ。水源なんて言ってもこんなもんだ。まあ、俺は行くが気が向いたら来な。……手遅れになる前に」


それだけ言えば判る奴はわかるだろう。

まだ痛がっているルンを背負い、ホルスと最初の説得で付いてきた連中に後に続けと言ってその場を後にする。

……暫くするとまた何人か追いかけてきた。

また暫くするともう何人か。

そして、もう暫くすると随分遠くなった広間から悲鳴と怒号が響いてくるようになった。


「反対派の総攻撃か。カーヴァーも終わりだな。……ホルス、悪いが暫く付き合って貰うぞ」

「指輪の持ち主が私の主。お付き合い致します」


横目で後ろを見ると合計二十名ほどが続いていた。

これなら何とかいけるかも知れん。


ある程度は想像したとおりの人数が集まってくれた事に感謝しつつ暗い通路を行く。

そして俺達は、俺があらかじめ目星を付けておいた場所に向かったのである。


……。


「ここだ」

「ここは……落とし穴の真下ですか?」


そう、ここは落とし穴の真下。

ここから数日置きに何人かの冒険者たちが落っこちてくる。

……けど、それってつまりここから上に上がれるって事だ。


高さがある?何のためにこれだけ人数集めたと思ってるんだ。


「そういう訳で組体操だ。体格の良い奴を下にする形で足場を組み、上に上がった奴がロープで下の連中を引っ張り上げる」


周りから「あー、成る程」とか「それぐらい俺でも考え付いた」とか聞こえて来る。

うんうん、そりゃそうだ。でもな?それを一番に考え付くのが凄いのさ。

いわゆるコロンブスの卵って奴だな。


それに、ここから先を考えるとどうしても人数が居るんだ。

ここから出た事を蟻たちが知ったら絶対に攻撃を仕掛けてくる筈。

それを振り切って脱出する方法を、俺は結局1つしか思い付いていないのだ。


あのゲームがまだ続いている事が前提だが……女王に一撃を食らわす。

恐らくそれだけが無事に外に出る唯一の方法。

だがその為にはこちらもある程度数を集める必要があった。


幸い、この辺から落ちてきたお陰で周囲の地形が判る奴がいるようだ。

ここに居る全員分の作った地図を足せば、もう一度女王の下にたどり着ける筈。

……さて、リベンジと行きますか!

続く


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