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No.6875の一覧
[0] とある武具職人のVRMMO[クラム・チャウダー](2009/02/25 20:47)
[1] 第二話 彼の目指すもの[クラム・チャウダー](2009/02/25 21:03)
[2] 第三話 彼女の戦い方[クラム・チャウダー](2009/05/15 02:51)
[3] 第四話 彼らの流儀 その1[クラム・チャウダー](2009/05/15 02:50)
[4] 第四話 彼らの流儀 その2[クラム・チャウダー](2009/05/15 02:49)
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[6875] 第三話 彼女の戦い方
Name: クラム・チャウダー◆cd275989 ID:62b9700a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/15 02:51
待ち合わせに遅刻した。
会社で私の担当している新人のフォローをしていたら帰宅が遅くなってしまった。
などと言い訳はできない。
何故なら家に辿り着いたときはまだなんとか間に合う時間だったからだ。
遅刻の理由は私の手配ミスだ。前もって誰かに護衛を頼んでおくか、アルバートあたりに一緒に連れて行ってもらうのを忘れていた。

実は私のプレイヤーLVはアルバートよりも若干上だ。
戦闘せずとも素材の加工や武器の生産をすれば作成アイテムのランクに応じた経験値が手に入る。
特に生産職特有の二次スキル『大量生産』を使うと大変効率が良い。
一つあたりの経験値と質や成功率が少し下がるかわりに一度にたくさん作れるため、時間をかけずに稼げる。そのかわりスキルの上昇量は微々たる物だが。
だから、いつのまにかアルバートよりも上のレベルになっていたときはびっくりした。
この方法にも難点はある。
特にスキルレベルが低いときに行うと失敗作や劣悪品が大量に出来てしまい、返って損をする。何より金がかかる。

私がLVがアルバートより高いにも関わらず漆黒の回廊まで一人で行けないのは、ステ振りにある。
DEX>LUC>STR
このように私のステータスは恐ろしく偏っている。
まず一番高いステータスがDEXの時点で戦闘には向かないことがわかっていただけると思う。
生産スキルの多くはその成功率をスキルレベルとDEXの値で求める。
さらに高品質品やユニークの発生率にはLUCが関わっているという噂がある。
そして荷物の持ち運びに少しばかりのSTRが必要なのでこのようなステータスになった。
おかげで防御力は皆無だ。STRもさほど高くないので装備品も限られる。
ステータスも装備も微妙。戦闘スキルも無い。
そんな有様なのでいつも遠出するときは誰かしらに護衛を頼むのだが、今回はそのことを完全に失念していた。
何がプロだ。こんな当たり前のことを忘れるなんて。
結局、私はアルバートへ迎えに来てもらえるようにメールを送った。
ニヤニヤしながら私に向かってくる彼の顔を見つけたときはあまりの不甲斐なさに死にたくなった。


道すがら遅れた理由を説明させられていたら、なぜか仕事の話になった。
アルバートは商品企画の人間で私は営業の人間だが、商品を売り込む人間がその商品を知らないのでは話にならないので彼とは顔を合わす機会が多い。
その縁でクレナシオンに誘われたわけだが、最近は彼も私も新人の担当になったことでよく話をしていた。
互いに初めて新人の面倒を見る立場となったので通じるところがあると言うかなんというか。
要するに新人に対する愚痴なのだが。
やれ敬語が出来ない奴が多いだの、あいつが自分の担当じゃなくて良かっただの、イエスばっかりで主体性がないだの、安請負しすぎて自分の仕事が終わらず残業している新人を見ていられずに、手伝って残業してしまっただの。
そんな内容が主だ。
ここまで全てアルバートの発言である。酷いことを言いつつもなんだかんだ面倒見が良い奴だ。
「お前はなんかないの?」
「私の担当の子は優秀だからなぁ」
オークソルジャーに追いかけられながら返す。
幸いなことに私の担当している新人は一人だけで非常に真面目だった。
「強いて言えば真面目すぎて断られるたびに落ち込むことくらいかな。それも最近は少なくなってきたし」
新人のうちはクレームや断られるストレスをうまく処理できずに悩むことが多いものだ。
なのだが、彼女はその解決方法も最近見つけたようだった。
本当に優秀すぎて私のやることが無い。
「でも今日は新人のフォローしてて遅れたんだろ?」
話しながら自慢のハルバードで群がるオーク共を吹き飛ばしている。
たった一払いで吹き飛んだオーク全てが消滅した。
「そんなにたいしたことじゃないよ」
オークの棍棒を巨匠のハンマーで弾き返しながら答える。腕が痺れた。豚はなおもしつこく迫ってくる。なんだこの差は。
「いや、でもお前が約束に遅れるなんて珍しいじゃないか」
のんびりとドロップ品を拾い集めながら聞いてくるアルバート。
「まぁ、なっ! ふんっ」
オークの棍棒を転がり避ける。耳元を掠める風切り音が心臓に悪い。

――基本的に優秀な彼女だが唯一クロージングが苦手だ。焦ってしまい、それで契約を断られることも多かった。
今日もそのことで営業先から逆に彼女を心配するメールを頂いたのだ。
その営業先には私がお礼のメールを送り、後日彼女自身にお礼のメールと菓子折りを持たせるつもりだ。
その営業先は彼女のことを気に入ってくれたようなので次に営業をかけるときも彼女が担当してもらうことになるだろう。おそらくだが次は上手くいくだろう。
ともかく彼女を呼び出し、何か仕事に関して悩みは無いかと話を聞いた。
「焦ってしまって……」と言い出したのでメールのことを話した。
契約も大事だが相手に好感を持ってもらうことのほうが重要だ。もっと自信を持って行こう、などと言っていたら待ち合わせギリギリになってしまったのだ。
彼女は真剣な顔で頷いていたので何の心配も無い。というか、余計なおせっかいだったかもしれない。
「先輩してるねぇ」
「お前ほどじゃないさ。それより早くこいつをなんとかしてくれ。あいにく豚は趣味じゃないんだ」
私に飛びかかろうとしたオークが「ほいさ」という言葉と共に消し飛んだ。

そうこう話しながらモンスターを蹴散らし(主にアルバートが)、逃げ回っている(主に私が)と漆黒の回廊についた。奴はピンピン。私はボロボロ。これが格差社会か。



さて。
漆黒の回廊は私が拠点にしているダーレスの城下町から東へ行き、ワルツ草原とキモモの森を抜けたところにある。
漆黒の回廊は黒い石柱が並ぶ一本道のダンジョンだ。ここを進むとバールン寺社というダンジョンへと行ける。
ここまでの道のりで私が一人で出歩けるのは草原だけといえば私の戦闘力の無さが(以下略

回廊の入り口にはすでにメンバーが集まっていた。
何度かあったことのある夕暮れのメンバーが二人に奇妙な格好のプレイヤーが一人。
「遅れて申し訳ありません。入用のときは格安で承りますので」
私はまず遅れてしまったことを詫びた。こういうとき生産職は便利だと思う。
「ホント!? やった~♪」
わざわざ♪のエモーション付きで返してくれたのは夕暮れの後衛補助担当ミカンさん。
とんがり帽子に箒といかにも魔女といった感じの格好ながら、なぜか光属性魔法やパーティのステータス補助魔法を唱える人だ。
明るくフランクな人なのでチームのムードメイカーでもある、とはアルバートの評価。
私にとってはお得意様の一人である。
後衛魔法職の彼女が私のお得意様というのは不思議に思われるかもしれないが、私は最高の武器を作るために宝石細工や魔術刻印のスキルを上げてある。そのため補助効果の高いアクセサリーなどをたまに依頼されるのだ。
「いいってギルさん。仕事だろ? しかたないさ。リアルで忙しいのにゲームでまで急かすようなことはしないよ。でも値引きはよろしく」
のんびりとした口調でこたえてくれたのはスーダラさん。心の中でお気遣いの紳士と呼ばせてもらっている。本人には内緒で。
基本的にのんびりとした人なのだが目聡い人なので頼りになるらしい。夕暮れの副ギルマスである。
その大柄な体をイグニシウム製プレートメイルに包み込み、ミスリルとプラチナの合金製ツヴァイハンダーを担いだ男だ。
その巨体から繰り出される両手剣の一撃は豪快の一言。
ちなみに彼のツヴァイハンダーは他人の作品である。
スーダラさんも私のお得意様の一人ではあるが、お得意様が私の武器ばかり使ってくれると限らないのも事実なわけで。
敵にあわせて複数の獲物を持つのは一般的だからなんの不思議もない。
全部私のところで揃えて欲しいと思わなくもないが。

「で、だ。彼女がウチの期待の若手ナンバーワンホープだ」
若手も何も彼女以外新メンバーなんて居ないだろうに。
「トリス・マックスウェルです」
姓まで名乗ってくれたその人は白いワンピースに肉球スリッパ、アイアンガントレット、そしてヘッドギアにモノクル、さらには豚鼻(アクセサリーの一種)というなんともちぐはぐな格好をしていた。
腰には確かにアイアンソードを佩いている。
「私は」
「あのときはありがとうございました!」
「えっと……?」
「ミナギル・アットマークさんですよね!?」
彼女が小首をかしげながら口にした名前は確かに私のキャラクターネームだ。
あらかじめ教えていたのかという意味を込めて隣のアルバートを見たが、彼は戸惑った様子で首を横に振った。他の二人も同様だった。
「……失礼ですが、どこかでお会いしましたっけ?」
ゆえに私の名前を、しかも姓まで知っているということは私が彼女に自己紹介したことがあるか、私から武器を買ってくれた客の一人ということになる。
しかし私はトリスという名前にも、こんな珍妙な格好の客にも覚えがなかった。
これほど脱力感を誘う格好の人を忘れるわけが無いと思うのだが。
首を捻っていると彼女が「えっと、これに書いてあったので」と言いながら腰のアイアンソードを外して、鞘から少し抜いて見せてくれた。
……そんなことをせずとも彼女の装備欄を見ればわかるのだが。
確かに彼女のアイアンソードの刀身には小さく私の名前が刻まれていた。
私が作ったアイアンソードを持っている女性なんて一人しか知らない。一月ほど前に出会った初心者の女性だ。
あんなに初々しく礼儀正しかった女性がこんな一人チンドンヤと同一人物だというのか。
――しかしながら現実はいつも非情である。たとえVRであっても。
「……あぁ、その節はどうも」
怖くて服装に触れられなかった私は間違っていないと思う。
間違ってないとは思うのだけど間違いなく臆病者だ。
私に「ハイっ! あの時は本当にありがとうございましたっ」なんて元気にお辞儀する彼女が眩しい。例え豚鼻でも。
あの印象的なえくぼも記憶と一致したが、今は豚鼻とモノクルのインパクトに負けてしまっている。貴女に何があった。
なんだかやるせない気分になっていると、横でアルバートがしたり顔で頷いた。
「なんだ、お前だったのか。道理で長持ちするわけだ」
「いやいや、その考えはおかしい」
作り手としては嬉しい言葉だがいくらなんでも私のアイアンソードはそこまで凄いものじゃない。
どれだけ高品質でも元の1,3倍程度。1~2ランク上の武器に並ぶくらいだ。30まで使い続けていられる代物じゃない。
「なんだか愛着が沸いちゃって……」と彼女もこれまた嬉しいことを言ってくれるが、愛着だけでこんなところに持ってこれるものではないはずだ。
「ねーマスター。ギルさん来たし、もう始めよー?」
ミカンさんの提案にアルバートは頷いた。ギルさんというのは私のニックネームらしい。
「よし、それじゃあ行こうか」そう言って歩き出すパーティ。
……パーティ?
『なぁアルバート。歓迎会でプレゼントすると言っていたが、彼女には秘密なのか?』
件の彼女、トリスに聴こえないようにウィスパーチャットを使用してアルバートに話しかける。
『そのつもりだけど?』
『だとしたら私がここにいるのは不味いんじゃないか? 狩に来ているのに戦闘に参加しない奴が居たら不思議に思われるだろ』
『それなら大丈夫だ。お前はスーダラの武器を作るために、彼の動きを観察しに来てることにしてあるから』
「マスター、ギルさーん? 置いてっちゃうよー」
「おぉ、今行くぜ」
アルバートが軽く返事して三人を追いかける。私もそれに続いて暗闇の中へ足を踏み入れた。
『見てろよ? 彼女の戦い方には度胆を抜かれるぜ』





しばらく進むとモンスターに出くわした。

腐りかけた体に赤い鎧兜を纏うゾンビ系モンスター『落ち武者』が2体。
半透明の体を点滅させながら襲い掛かってくるゴースト系モンスター『忍び寄る者』が2体。
筋骨隆々。その背丈は私の2倍はあるであろう鬼のような悪魔系モンスター『人喰鬼』が1体。
まだこちらには気付いた様子は無い。
「先手必勝だ、ミカン頼んだ」
「あいさ~。『祝福の吐息』っと」
私達全員の体の回りを光の粒子が取り囲んだ。STRとVITの上昇効果だ。
普段、戦闘なんてしないのでこのまとわり付く光に違和感を覚えてしまう。
ただ、それは私だけでなくトリスさんも同じようだった。
物珍しそうに腕を振ったりしている。
と、ここで敵さんも私達に気が付いた。うめき声を上げながらこちらへ向かってくる。
「こんなもんかな。じゃあ打ち込むよー。『光の飛礫』!」
ミカンさんが叫ぶと彼女の周りにこぶし大の光球が出現し、敵後方の忍び寄る者に向かって飛んでいった。
同時にアルバートとスーダラさんが武器を構えてそれぞれ落ち武者に切りかかった。
あとには観戦気分の私とおろおろしているトリスさん。そして人喰鬼が残った。
「あ、トリスは鬼ね」
アルバートが忘れていたとばかりに首だけ振り向いてトリスさんに指示した。
落ち武者と切り結びながら。余裕だな。
流石にオークのように一撃とはいかないが、彼らのレベルならまず負けるわけが無いからな。何気に手を抜いているようだし。
ただ、私は彼らほど余裕で居られなかった。自身の弱さだけでなく、彼女の実力が未知数だからだ。
人喰鬼はこのダンジョンで近接キラーの異名を持つモンスターだ。私なんてまともに戦ったら一撃で昇天できる。
「トリスさん、一人で平気?」
「な、なんとかしてみせます」
自信なさげに自信満々の台詞を吐かれても、頼っていいのかわからない。
だから、いざとなったら囮ぐらいはやろう。そう思っていた、このときは。

「……嘘だろ」
目の前の戦闘が信じられなくてなんども目をこすった。
あれはもはや別のゲームだ。私達とは次元が違う。
そういう戦い方を彼女はした。

敵の金棒や膝を足場にして頭上を飛び越える。
切りつけざまに敵の股座を潜り抜ける。
石柱を蹴り飛ばして移動する。
一時たりとも立ち止まらず、その動き全てに斬撃が伴う。
そのトリッキーな動きに、鬼は付いていけずなんどもターゲットを見失って見当違いの場所を攻撃する。そのたびに体を斬りつけられる。

決して彼女の動きが特別素早いわけではない。
離れてみている私からすれば何故、鬼は彼女を獲られえられないのか不思議なくらいだ。
推測はできる。彼女の戦い方は想定外の動きなのだろう。

このゲームの戦闘は地に足をつけた二次元的発想に基づいている。
彼女のような三次元の動きにはついていけないのだろう。
VITを上げれば防御力が増え、AGIを上げれば回避率が上昇する。
だからAGI型もVIT型も武器や盾で立ち止まっての殴り合いになるのが普通だ。
いちいち体を動かして敵の攻撃を避けるより、そちらのほうが楽だから。
モンスターの攻撃はプレイヤーの体をすり抜ける仕様だ。
リアルで言うホログラムのようなもの。HPの数値が減るだけ。
迫力はあるので初心者は目を瞑ったりするが、一度食らえばそれがなんともないことに気付く。
私のように防御も回避も出来ない人間だけが、転がって避けるなんて無様な動きをするのだ。
彼女のように張り付いて戦う人間は想定の埒外なのではないだろうか。
というか、あんな戦い方どうすれば思いつくのか。
きっと彼女には鬼が木偶にみえているのだろう。
ゲームシステムに喧嘩を売るような戦い方に合わせた武器なんて私に作れるのか?
まったく思い浮かばないのだが。

「どうだ、凄いだろ」
いつのまにか隣に来ていたアルバートが声をかけてきた。
どうやら呆気にとられていたようだ。他の戦闘も終わったようでミカンさんとダーレスさんもすぐ傍で彼女の戦いを見物していた。
「なんど見ても信じられないよなぁ」
「ほんと、トリスちゃん凄いよねー」
凄いなんてものじゃない。チートだと疑われても仕方が無いくらいだ。
「で、どうだ。作れそうか?」
「余計に難しくなった。正直に言って私の手には負えない依頼だ」
「そうか……。だが、俺はお前以上に適任者は居ないと思うんだがな」
「なんでだ?」
「まず、お前以上の武器職人を俺は知らん」
「それは買いかぶりすぎだろう。シド・マークとかいるじゃないか」
「いや奴は有名だがギル専だろう。それに俺は面識ない。なにより、お前が奴に劣っているとは思わん」
チーム戦3連続優勝、そして個人戦1位のプレイヤーがいる巨大ギルドのギル専と同レベルか。しかも奴は前回の品評会で優勝していた。
「さすがにそれは買いかぶりすぎだろう」
「そうか? お前と奴と何が違う。スキルは極めたんだろう? あいつにあってお前に無いのは知名度だけじゃないか」
アルバートはわかっていない。確かにシステム的にはスキルを極めた私だが、以前、奴の作った武器を見てその差を思い知された。
呪文刻印や武器の形状、素材選び。その組み合わせ方、そして完成形の発想力。
どれもが私より上だった。これが頂点なのだな、と納得もしてしまうほどに。
「なんか、やけに誉めてるけど、お前、最高の武器を作るんだろ?」
「そうだが」
「なら、お前しかいないだろ。最高ってことはシドを超えるってことだし。それにその様子じゃシドの武器は最高の武器じゃなかっただろ?」
「……む」
確かに彼の武器はすばらしかった。このゲームを始めてから彼の作品以上の武器を見たことが無い。性能、見た目、独創性。すべてがぬきんでていた。
けれど、なぜかそれが最高だとは思わなかった。
「まぁ、やるだけやってみてくれよ。どんなにへぼくたって、アイアンソードよりはマシだし」
アルバートがそういったのと同時に鬼の姿が粒子になって弾け飛んだ。
かなり疲れた様子でこちらに向かってくるトリスさん。
確かにアイアンソードでは辛そうだ。自分より強い敵を倒せてもあれでは長く持たない。
そう思いながらミカンさんとスーダラさんに賞賛されて照れた彼女を眺めていたら、アルバートの呟きを耳に入った。
「それに彼女もお前が作ったのが嬉しいだろうしな」
どういうことだ?と問いただしたが彼は「気にするな」と肩をすくめて三人の方へいってしまった。


結局その後も休憩を挟みながら数回戦闘を行った。
そのあいだ私は彼女の観察を続けた。
それなりに武器作りのきっかけになりそうなものをいくつか見つけたが、どうにも不安である。
狩が終わると彼女のレベルは32になっていた。
わずかにだが30よりも選択の幅が広がったのは助かる。
別れ際にとても良い笑顔で「これからよろしくお願いします」と言ってくれた。
アイテム分配も終えて町へ帰還すると私はさっそく在庫を確認しにいった。
あれこれと考えているが、素材がないのでは話にならない。
大体30LVで扱える素材は全てそろっていた。在庫も結構ある。あとは想像力を働かせるだけだ。
その日、ログアウトしてからも私の頭はそのことで一杯だった。
気付けば不安はなくなっていた。





本日の売り上げ

Priceless


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