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No.6875の一覧
[0] とある武具職人のVRMMO[クラム・チャウダー](2009/02/25 20:47)
[1] 第二話 彼の目指すもの[クラム・チャウダー](2009/02/25 21:03)
[2] 第三話 彼女の戦い方[クラム・チャウダー](2009/05/15 02:51)
[3] 第四話 彼らの流儀 その1[クラム・チャウダー](2009/05/15 02:50)
[4] 第四話 彼らの流儀 その2[クラム・チャウダー](2009/05/15 02:49)
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[6875] 第二話 彼の目指すもの
Name: クラム・チャウダー◆cd275989 ID:62b9700a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/25 21:03
ギルドに誘われた。
そのとき、私はいつもの場所で露店を開いていたわけだが、彼は並べた自信作達には目もくれず、私の隣に座り込んできた。
そこでギルドに入らないかと切り出してきたのだ。彼の名はアルバートと言う。

私は武具職人として幸いなことにいくつかのお得意様を抱えているのだが、今回勧誘してきた相手もその中の一人である。彼のギルドは8人と言う少人数にも関わらずこのクレナシオンではかなり有名だ。
その理由はクレナシオンで月に一度、大規模な大会が開かれることにある。

戦闘職向けに開かれる三種類の大闘技会。
生産職向けに開かれる品評会。

この二つが月ごとに交互に行われ、彼のギルドはこのうちの大闘技会のチーム戦において常に優勝候補に名前があがる。
何故、そんな超実力派チームにしがない職人の私が勧誘されているのかと言われれば、ギルドマスターの彼とリアルで友人だからと言うほかない。
というか、私をクレナシオンに引っ張り込んだのが会社の同僚である彼だ。
最初のお得意様も彼で、実はこれまでも何度かギルドに誘われている。
いつも断っていたので最近は誘われなかったのだがどうしたのだろうか。
ともかく今回の返事もいつもどおりだった。
「ありがたい申し出だけど遠慮しとく。何度も誘ってもらって悪いけど」
「なぁ、別にリア友だからってわけじゃないと何度も言っているだろう?
 お前の腕が必要なんだ」
納得いかない様子で食い下がってきたアルバート。
人の良さそうな顔と戦闘時の勇ましさがギャップを産んでゲームでありながら大勢のファンが存在する男。
だが、今は変装のための目元に穴をあけた紙袋をかぶり、ステテコパンツのみの格好である。正直、隣に座って欲しくない。変態にしか見えない。
普段の装備は5種類の竜鱗で彩られた鎧と、魔術刻印が成された隕鉄とミスリルの合金製ハルバードという一目見て高レベルプレイヤーとわかるものだ。
ちなみに彼のハルバードは私の作品だ。(自慢したくなるほどの(以下略)
「頼むからギル専になってくれよ。募集かけてないって言っているのにギル専希望のメール出してくる奴が多すぎて困ってるんだ」
ギル専とは所属したギルド専門にアイテムを製作する生産職のことだ。低レベルではまず見かけないが、上位のギルドではほぼ確実にお抱えの職人がいる。
彼のギルドは有名どころにしては珍しいことにギル専のメンバーを抱えておらず(というか全員が戦闘職で生産スキル持ちが一人も居ない)その枠を狙う輩が多いらしい。
生産職にとって上位ギルドのギル専は一種の夢である。ギルドの名が売れている=自分の名が売れるということだからだ。
現実世界でいうとこのお抱えブランドというところだろうか。
ギル専の作品は基本的に一般には出回らないので、中にはそのギル専の生産品欲しさにギルド加入を申請するものがいるほどである。
よってアルバートのチームにギル専として誘われるのは武具職人としては光栄なのだが……。
「私の目的を知っているだろう? お前のギルドじゃあ方向性が違いすぎる」
「『僕の考えた最高の武器』だったか? そんな中学生が考えるようなもの目指してどうするんだよ」
「まぁ自分でもいまさら厨二病か、と思わなくも無いが……職人としては誰でも夢見ることだと思う。それにこの『クレナシオン』なら作れるかもしれないだろう?」

このクレナシオンに私が嵌ったのはその自由度の高さである。
といっても空が飛べるなどといった、行動の自由度ではない。むしろそのあたりは他のVRMMOとあまり変わらない。
このゲームの特徴は想像力がゲームに反映されるという特殊なゲームシステムを実装していることだ。
例えば剣を鍛えるときに、より具体的に想像しながら行うと通常より切れ味の良い武器が出来たりする。戦闘時もより具体的に自分の動きや流れをイメージしながら動くとクリティカルが出やすくなったり、威力が上がったりする。
もちろん、想像したとおりのものが出来るわけもなく、その辺はスキルレベルやそのときの状況、プレイヤーの想像力、そしてリアルラックなどによって変化する。
ぶっちゃけると通常は気持ち、想像したものに近い程度の効果しかない。
だがスキルを極め想像力を極限まで働かせれば極稀にだが、ユニークアイテムが出来たりするのだから侮れないのも確かなのだ。
元々VRはプレイヤーの脳に処理を任せているところがある。
それを応用した技術らしい。
「だから最高の素材を揃えて最高の技術で挑戦してみれば、もしかしたら出来るかもしれないだろ」
そのために戦闘スキルを完全に捨てたのだ。素材から完成まで全て自作する。最高の武器を作るために。
「たとえそうだとしてもまず無理だとおもうがなぁ。お前の求める最高の素材ってのはクレナシオンのことだろう?」
「それも素材候補の一つだが……」
「個人戦優勝商品の武器を鋳潰さないと手に入らない素材なんてどうやって手に入れるんだよ」
優勝商品の武器は大会時に使用禁止となるほどの性能を誇る武器だ。まず鋳潰すなんて考えられない。
もし、私がギル専になるとしたらそのギルドに個人戦で優勝できる実力者、それも武器を譲ってくれる奇特な人物がいるときである。
アルバートのギルド『夕暮れのクラシック』はチーム戦を目的としたギルドだ。
個々人の実力は高いがそれでも全員が個人戦では10~50位くらいの間をうろちょろしている。
徹底した役割分担と惚れ惚れするような戦術、何よりアルバートの統率力。それが彼らのギルドの真価である。そしてメンバー全員が個々の目標よりもチームの目標を優先するきらいがある。
ギルド自体はアットホームな雰囲気で仲が良いのだが、私の夢へは若干遠回りになりそうなのだ。
アルバートには教えていないが最高の武器を作るために、最高の使い手にも出会いたいと思っている。最高の動きを見ることで想像力を強化したいのだ。
よって入るならば個人線で優勝できるような実力のあるプレイヤーが所属していながら、ギル専の居ないギルドにしたい。そんな都合の良いことがそうそうあるわけないのだが。
「まぁ、なんとかするさ」
「なんとかねぇ。まぁ、気が変わったら教えてくれ。他のメンバーもお前なら歓迎するとさ」
「本当にありがたいね。申し訳なさで胸が苦しいよ」
「じゃあ入ってくれよ」
鼻息で紙袋を揺らしながら詰め寄ってくるのは止めて欲しい。
「それとこれとは別だ。ところで、話はそれだけか?」
「そうそう、新しい武器を頼みたいんだが」
「もう壊れたのか?」
あのハルバードは耐久性にも自信があったのだが。
「いや俺じゃなくて新しいメンバーのなんだが……」
……驚いた。ここ2年は同じ8人で続けてきた彼らに新メンバーが加わるとは。
「珍しいな。どんな人なんだい?」
「この間、千年樹海でチーム戦の練習をしていたら迷い込んできてな。町への帰り方がわからないっていうから助けてあげたんだが、なんかうちのチームの奴らと仲良くなってたんでそのまま加入してもらった」
「……本当か?」
「マジだ。で、そのギルドから加入祝いに武器を送ろうと思うんだが」
至極真剣な声音で返された。顔色は紙袋でわからない。
千年樹海を一人で歩いていたことはそれなりの実力者なのだろう。
が、それでもアルバートのアバウトさには呆れてしまう。が、その人の良さは好感が持てた。
「まぁいいか。で、何を使う人なんだい?」
「片手剣だな」
「剣か。盾は?」
「持ってないな」
ということは素早さ重視か。
「前使っていた武器は?」
素早さ重視でクリティカル狙いなら切れ味重視の武器。
手数で戦うのなら若干の攻撃力と耐久力を重視しなければならない。
どちらにしろ、軽い素材で作るべきだろう。
私があれこれと素材と出来上がりの武器の形を想像していると、アルバートの口から今日一番のサプライズが飛び出した。
「アイアンソードだ」
……。
「いや、冗談じゃないからな?」
よほど私の顔はゆがんでいたのだろう。焦ったようにアルバートが訴えてくるが私は到底信じられなかった。
「千年樹海で出会ったんだよな?」
「あ、あぁ」
「アイアンソードで?」
「あ、あぁ」
詰問口調で詰め寄ると、アルバートはしゃがんだまま後ずさりし始めた。
「そんなバカな」
千年樹海はアイアンソードで切り抜けられるような場所ではない。夕暮れのクラシックのメンバーならばソロでも十分探索できるが、アイアンソードでとなると流石に無理だ。というかそんな酔狂なことをする奴は居ない。居るとしたら死に戻り覚悟の裸装備で特攻する奴くらいだ。どれだけマゾなのか。
「その人はluckかAGI極振りなのかい?」
運が良いか、回避率が高ければ戦闘せずに逃げ回れるかもしれない。そう思って聞いたのだが……。
「いや。INT以外のバランスだと」
「それで戦える姿が想像できないんだが」
どう考えてもステータスの振り方を間違えている。普通、前衛戦闘職ならばAGI型かVIT型に別れる。STRに振るのは当たり前。よって防御面を選択するのだが、命中率に関係するDEXは必要最低限で抑えておくのが普通である。バランスよく伸ばすのも選択肢の一つではあるが、それにしたってAGIとVITの両方を伸ばすと言う意味である。
基本的にパーティプレイで役割分担が重要になるMMOでは自然とそういう極端なステータス振りになることは生産専門の私でも知っている。
要するに樹海という高レベルダンジョンをソロ探索なんて出来るわけがないステータスなのである。
「そうだな。実際に見てみないと信じられないよなぁ。俺もステータスを聞いたときは聞き間違いだと思ったし……あ、あとレベルは30な」
ますます、たちの悪いいたずらにしか思えなくなってきた。30なんてアルバートの半分以下だ。そんなレベルでのバランス型でどうすれば樹海を歩けるというのか。
「それが本当だとしたら私はどんな武器を作ればいいんだ……」
今まで特注品は要望が無ければそのプレイヤーの戦闘スタイルに合わせて作ってきた。
今回のようなケースは初めてだった。
まずバランス振りのせいで要求ステータスに引っかかり、装備できる武器に限られるだろう。
そもそもレベル制限にすら引っかかるかもしれない。
それ以前に30LVまでアイアンソードを使い続けるとはどういうことか。どれだけ修理を繰り返したんだ。
確かに30LVなら店売り品よりもカスタム品(プレイヤー製)を求めるようになり始めるころではあるが、それでも大抵は露店売りのもので済ます。だからそんな低レベル向けの特注は受けたことが無い。
何よりその戦い方が想像できないのでは方向性も決められない。
非常に迷惑な依頼だ。多分こんな難題を受けたのはクレナシオン中で私くらいではないだろうか。
「……実際に会ってみないとなんとも言えないな」
我ながら渋い顔をしていたと思う。けれど、心のどこかで難しい依頼にワクワクしている自分も居た。やはり職人として、プロとして、難題に挑戦したい気持ちがあるのも確かなのだ。
「そうか。明日ギルドのメンバーで狩に行くんだが彼女もくる。そのときに来てくれ」
「わかった。場所は?」
「漆黒の回廊」
アルバートがこともなく告げたダンジョンは明らかに30LVのプレイヤーが行くような場所ではないが、千年樹海に比べれば難易度は下だ。
私もいまさら驚かず頷いて返すと、彼は苦笑いしながら「まぁ、明日になればわかるさ」と言って去っていった。

その後もしばらく露店を続けていたが、客も来ず、なんだか気分が高揚しているのもあって、倉庫から適当にインゴットと木材を掴んでさまざまな武器を作った。
スキルは極めてあるが、ときおりこうして発注や店頭用以外に武器を作る。
システム的には関係ないが、腕を磨くというか、鈍らないようにするというか、なんだかそんな気がして剣をうつ。
このゲームはイメージが重要だ。迷信やジンクスももしかしたら効果があるかもしれない。
結果、出来上がった大量の武器の処分に困ることになるのだが、今日はなんだか気にならなかった。










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