皆さんステフと親しく呼んでくださるのはいいんですが、一応私にはステファ・カーティスという名前があるんです。
皆さんもちろん覚えて…くれてます…よね…?
何故か私専用イベントでステフ、としか言われずに本名が忘れられているのではと思ってましたが、大丈夫ですか?
今回も私専用です!えっへん!
私のご奉仕させていただいているタイチ様は、とてもお優しい方です。
言葉使いは少しだけ悪いですけど、それも王様ならこんなものかなと思います。
ただ、タイチ様には困った所もあります。それは…。
「秘技・高速判子乱舞!」
書類の中身を確認していただけないことです…。
そこは王の執務室、タイチの書類を処理するための判子の音が廊下にまで響き、その戦場振りがうかがえる。
ファミルス国の謁見の間に、各地に居る領主を招集する旨を記した命令書の作成を家臣の貴族に命じ、完成した書面に王の印を押す事によってその効果を発動させることが出来る。
しかし、その判子を押す前に処理しなければいけない通常業務の書類は、いつも通り届くわけで。
「タイチ様、ちゃんと書類を見てくださいよぅ」
いつも財務担当の偉い人に怒られるのは私なんですから…。
タイチは今、各貴族・領主からの会計報告、追加予算の書類と格闘していた。
予算の流れは。領主や、軍の所等から追加予算の嘆願書を受け取る。
財務の役人が相場に照らし合わせて妥当な数値を書き込み、タイチ様の印鑑を待つ。
これは見直す必要は無い。タイチ様に相場を分かれというのも酷な話だ。
会計報告は。領主やその他役職毎に上がってくる報告をタイチ様が確認し、記入漏れや、数値計算に不備がある書類はつき返される。
見直しが必要な書類が多いはずなんですが…。
「うん、数字の羅列を見ていたら無性に押したくなる衝動に駆られるんだ」
何で嘆願書とかはじっくり見るのに会計報告ばっかり適当に押しちゃうんですか!?
後で見直し作業するの私なんですからね…。
いつもそうなんです。タイチ様は、私が数値計算することが出来ると分かった次の日から、私に見直し作業を押し付けてくるんです。今回は領主の方々も全て呼び寄せる為の親書の数がとんでもないので、それぞれに判子を押す作業も大変です。
大変なのは分かりますので親書は見直さなくてもいいんですが…。
会計関係の書類だけは見ていただきたいです…。
最近は、総合学習計画という事業をなす為に、各種専門家をお呼びして日夜協議に勤しんでおられます。
忙しいときには仕方ないんですかね…?これも私の仕事だと半分諦めてます。
お昼からは各種専門家達との協議の為に、お城の会議室を使い。私は他のメイド達と共にお茶をお出しする事に給仕します。
日が落ちた頃、各種専門家達との協議も終わり。夕飯時に厨房から執務室へ料理をお運びするのも私の仕事です。
厨房から出るとき、しっかりと毒見と解毒魔術を掛けるのも忘れません。
皆さん忘れ気味かもしれませんが、私はタイチ様を守るための魔術師の専属ボディーガードでもあるんです!
タイチ様専用の絢爛豪華なお食事を、つまみ食いしているわけではないんですよっ!?
…とてもおいしいのでちょっと毒見の量が増えてるだけです…。
タイチ様はこの国にとって…、もちろん私にとっても大切なお方。少しの事でも油断は禁物です!
今日も料理に異常の無い事を確認した私は、執務室へ戻り、もはや書類を見ないで判子を押していくタイチ様を恨めしげに見ながら、お食事の時間ですので料理を並べるために一時的に書類をどかす。
椅子から立ち上がり、腰をバキバキ鳴らすタイチ様。
1週間くらいトイレと執務室と寝室の往復くらいしか動かないときもあるタイチ様は、もう少し運動をなされた方がよろしいと思います…。
「よし、今日の仕事は終わったから。後よろしく」
「……はあ、この量…私一人で…?」
自問してみるが、当然答えが返ってくるはずも無い。
タイチ様がお休みになられるために寝室へと向かわれた後、私は一人で見直し作業をしている。
「うう、睡眠時間が…お肌が…あ!枝毛!?」
今日もまた…2時間睡眠コースかしら…。
私の朝はとても早い。
どんなに眠いときにでもタイチ様より早く起きて魔術の自己鍛錬から始まる。
太極拳を通して自己の魔力を活性化。うん、今日も魔力の調子だけは絶好調ね。
肌の調子は絶不調ですけど…。
ああ、目の下に隈が…。
そして戦闘技術も衰えないように、最低限体の動きを確認。こういう毎日の積み重ねが大切なの。
一連の作業で汗を流したら、水の魔術で軽く流し、そのままタイチ様を起こす作業にはいる。
タイチ様は目覚めがとてもよいので、すぐ起きてくださいます。
タイチ様がお仕事を開始したのを見て、私は昨日見直し作業を終えた書類の束を、今日はシーザー様にお運びします。
今回の書類は、シーザー様経由で出され、シーザー様経由で財務の担当の人に渡されるようです。
三度ノックして、中から返事を受け、そして入室する。
このマナーを覚えるまでに何回怒られた事か…。今ではもう懐かしい思い出ですね。
「シーザー様。こちらが昨日タイチ様から判子を戴いた書類です。そしてこちらが不備があった書類のリストです。お確かめください」
いつもこの瞬間だけはドキドキする。私がやった失敗じゃないのに私が怒られちゃうんだもの…。
シーザー様は、一つ一つの書類に念入りに目を落とし、不備が無いか確認していく、シーザー様は、今回に書類に不備が無いのを確認する事が出来たのか、にこりと綻んだ笑みを浮かべた。
「うむ、タイチ王はよい仕事をなさった」
それ、私がやったんですけど…。
シーザー様のお部屋から退出し、執務室へと戻ると。この日のタイチ様も、いつもと同じような状態だったので、つい怒っちゃいました。
「もしダメな書類だったらどうするんですか!いつも見直すのは私なんですからね」
言ってしまってから気づいた自分の生意気な発言に、とっさに口を押さえ俯く。お叱りを受けるのを待っていた私は、私の予想に反して怒られる声が聞こえる事無く静寂に包まれた。私は恐れ多くもタイチ様の顔を覗く。
そこには、仕方ないとため息を付くタイチ様の姿があった。
「その時はステフが何とかしてくれるだろ?計算も出来るんだし。でもさすがに3日続けてはステフが持たないか。仕方ないから今日は普通にやってやろう」
何気なく言われると、どうすればいいか分からないじゃないですか…。
その後の書類を、タイチは時間をかけてゆっくり計算しながら進めていく。今日は、もう判子の押し忘れや、不備の書類を見落とす事も無さそうだと、書類を振り分けていくタイチ様の姿を見ながら思った。
いつものあの行動は…信頼をされていると見て…いいんですよね…?
「ふう、疲れた。ステフ今日もおいしいの、よろしくね。今日はコーヒーがいいかな」
まったく…。調子いいんですから…。今回は気合入れて作っちゃいますからね!
「おお、ステフが燃えている…これは期待できそうだな」
私の事を気にかけてくださるタイチ様は、ちょっと困った所がありますけど、とてもお優しい方です。