ガラガラ。ゴトン。ガラガラガラ…
薄い膜のような屋根が掛かっている馬車の奏でる独特のリズムが流れていく街道。
外に視線を移せば、サンサンと4月の太陽の光が照り付け、今日もとても暑い。
でも湿度はそれほど高くなく、カラカラとした暑さなのでそれほど苦にはならない。
周りは見渡す限りの大平原。羊飼い達が餌を食べさせている情景がポツポツと見える。
馬車の中見は5人が横になって寝ても十分余裕のある広さがある。
脇の方には5人が十分に次の街に行くだけの食料があり、少量とは言いがたい金額の金貨が積まれている。
いざと言う時は聖石がお守りとなって旅の無事を約束してくれるだろう。
タイチ・ファミルス。13歳を迎え、あどけない子供の顔立ちは徐々に抜け始め、そこそこ顔が良いと行ったレベルだ。
髪型は肩まで伸びてきて前髪が鬱陶しくなってきたので、そろそろ切ろうかな。などと思っている。
髪の長さは3~5センチくらいが本人のお気に入りの長さのようだ。
服の趣味も、着れれば良い的な不精野郎で、よくチヒロに怒られているが、本人は特に気にしていない様子だ。
一応この物語の主人公で、現在4人の女性陣に囲まれてハーレム羨ましいな状態だが、チヒロの完璧ガードによって何とか貞操は守られているようだ。
タイチの13歳になった一番大きい影響として、性欲の発露が最近問題になって来ており、心とは反対に体が女を求めてしまうという、若者らしい悲しい悩みに打ちひしがれている。
しかも中にいる4人の女性陣の内、3人が割りとオープンに誘惑してくるからタイチとしては泣きそうだ。
最近は、木陰に行く回数も増えてきているようだ。同情した方がいいと思う。
タイチももう隠しても仕方無いので性の話しは割りとオープンにしている。開き直ったとも言うが。
そして女性陣が図に乗って更にからかって来ると言う悪循環に陥ってるのはタイチの知る所では無い。
全員とやっちゃえば?と作者は思うが、タイチは『チヒロの許可が無いとダメ』だと本人は固く誓っている様子なので、チヒロの赤飯まで待たなければいけないらしい。女性陣も暗黙の了解として受け入れているようだ。
濃い草の匂いをはらんだ心地いい風が、開け放たれている2つの入り口。前から入り後ろへと流れて行く。
重い荷を運ぶのは前に座り、馬を二頭操って、見飽きた大平原の風景をぼんやり見て欠伸を漏らしているステファ・カーティス。
ステフの相性で呼ばれ、本名で呼ばれる事はほとんど無い。
今年で21歳を迎える。気は弱いが、しっかり者のお姉ちゃん役だ。
機能美を追求した肉体に、エルフ特有の耳がチャームポイントで、美少女と言える容姿をしている。
一般的な女商人が好むローブを身に纏い、麦わら帽子で日焼けを防止している。
前の入り口から顔を出し、タイチはその様子を悪戯心満載の表情で凝視して見る。
ステフはその視線に気づいたのか、頬を少し赤らめながらそっぽを向いてタイチの視線から逃れる努力をするが、馬を操るのを怠ってはまっすぐ進む事などできない。
そのまま見続けるタイチ。ステフはしばらく目線をキョロキョロと動かしていたが、やがて羞恥心を吹き飛ばすように「もう……」という言葉を漏らして進行方向を向いた。
こう言う所がかわいいと思えるので、からかうのを止めれない。思わずにやけてしまう頬を戻して、馬車の中へと視線を移す。
中央には二人いる。
一人はチヒロ・ファミルス。今年8歳になる元王女という肩書きを持つマッドな研究者だ。
髪型は伸ばしっ放しではあるのだが、その髪質は母譲りのサラサラな青色で、
こまめな手入れをしてあるのか、固まる事無く一本一本が主張している。
アクセサリーとして付けている綺麗な花の髪止めは、場違いなほど高価で、少し浮いているが、友人であるアンジェリンから貰った大切な物であり、寝る時以外は片時も外さない。
Tシャツに長ズボンというファミルスでは一般的な子供服を着ているが。ラフな格好の中にもチヒロのセンスがきらりと光っている。
もう一人はチヒロの元メイドで、カトリーナ・エリオット。
現在12歳。家が魔術師の家系の為か、幼少の頃より英才教育を施され、
魔術国家であるファミルスでさえ最上位に位置する魔術技術能力を持つ天才マッドだ。
もう性根からしてマッドである。一度世界に入るとどす黒い瘴気が立ち上り、チヒロでさえ手が付けられなくなるが、普段は冷静に周りを見て空気を読む事ができる子だ。
色の濃い青色を上半分の髪だけをまとめ、残った髪はおろしたスタイル。
体系はふっくらと言う印象を受けるが、それほどスタイルは悪くない。話し口調はどことなく天然で、可愛げな雰囲気が漂っている。
今は気分が魔術師なのか、ローブを着て前以外全身を隠している。
チヒロとカトリーナは魔術関連の研究に勤しんでいる。
いつもの研究癖の影響なのか、二人ともマッドなので研究から離れたくないのだろう。
私の本分はこれだ!と主張しているように見受けられる。
やがて二人は、タイチの視線に気づいたのか。二人で書き殴っていた紙から眼を離し、
そしてバランスの取りづらい走行中の馬車に平衡感覚を揺さぶられながら何とかタイチの隣に座り、そして腕を組んでくる。
カトリーナも便乗して俺の隣に陣取って腕を組んでくる。
その微笑みは凄く輝いて見えるが、何故か本能が警告する。
『彼女は悪女だ』と。
これは経験から来るものでも、理論があってそう思うのではなく、
『本能』が警告してくる。
タイチはその本能に従って、腕を離して貰おうとさりげなくチヒロの髪を撫でる目的で腕を動かそうと……。
そのとき、タイチに……電流走る……。
普段は服で隠れてて見えないが、なかなかに質量のある物体が、タイチの腕の動きにあわせて持ち上がる。
今日の暑さはさすがに感じるらしい。
ローブを纏ってはいるが、その下は薄いシャツ一枚で、ほとんど直接的に伝えてくる肌の肉質。
タイチは固まった様に硬直し、頭を撫でられるのを待っていたチヒロが疑問に思い顔を上げる。
タイチの無意識に言った「Cだな……」という言葉で現状を察してしまったチヒロ。
比喩じゃなく、タイチに……電流走る……。
チヒロお得意の雷撃魔術がタイチの腕を駆け抜けていく。
タイチにとっては少し痺れる様な感覚が襲うが、腕の反対側にいるカトリーナにはタイチが感じた何倍もの電圧が掛けられたらしい。
魔力のコントロールは一流の域に達しているチヒロだから出来る芸当だ。
ステフにはまだまだ年季の差でコントロールと戦闘技術では勝てないものの、血筋ゆえか、体の中に流れる魔力はステフを超えている。
これは、0歳からの英才教育という所から来る差で、カトリーナが平均から劣っているわけでは無い。
カトリーナの魔術の扱い方は、12歳平均からしたら早い部類に入る。ただチヒロが優秀なだけだ。
カトリーナは思わず手を離し、チヒロを拗ねる様に唇を尖らせて睨み付ける。
「もう、チヒロさん。少しくらい分けてくれたっていいじゃないですかぁ」
「カトリーナに少しでも分けたらお兄ちゃんの貞操が危ういのよ!」
チヒロはカトリーナの事をしっかり分かっている様子で注意する。
一方、信用してもらえなかった事に対するタイチの落ち込み様はとても痛々しい。
「いや、カトリーナの攻撃はとてもよかったんだが、チヒロさんにそこまで信用されてないとなるとこっちも悲しく……」
「ほらぁ、タイチ君もこういう事言ってますから、ちょっと退いて下さいなぁ」
カトリーナはチヒロをずらし、チヒロも渋々ながらタイチから離れた。
そしてカトリーナは、チヒロとタイチの想像と妄想を超えた行動に出る事になる。
カトリーナはタイチの座っている所を跨ぎ、タイチに正面から向かい合った後そのまま抱きついたのだ。
腰に足を巻かれて固定され、どこぞの部位同士が当たっている。
抱き付かれた影響で、質量を伴った物体がタイチの胸に当たり、馬車の揺れに従って形を変えていく。
チヒロはその一連の自然な動作を見て唖然と言葉も出ない様子。
一方、抱き付かれたタイチも、今さっき言った言葉もある手前、一応の抵抗を試みるが、馬車の揺れによってすり寄せられる肉体に、タイチの理性と言う名の堅牢であるはずの城壁は一瞬にして陥落に危機に瀕していた。
タイチは10秒も持たずにチヒロに助けを求める。
その間カトリーナはタイチの耳元で「どうですかぁ?」と囁いており、既に本丸への道は丸裸と言って良い状況にまで陥っている。
よく見ると、城壁を守っているはずの騎士達が、「どうぞこちらです」と誘っているイメージが浮かんでいる。
理性と言う名の大名は、家臣の裏切りによって既に風前の灯と言えるだろう。
「チヒロさん、前言撤回です。負けそうです」
「カトリーナ!ちょっともう止めて。お兄ちゃんが。私のお兄ちゃんがぁ!」
涙目で講義するタイチに、チヒロは兄の貞操と理性を守りぬく為に立ち上がった。
そして激しい攻防の末、愛の使者は魔性の女から囚われの王子を救い出す事が出来たのである。
何とかチヒロという援軍によって一命を取りとめたタイチ理性城。
既に掘りは埋め立てられ、城壁も粉々だ。
「どこで覚えるんだよ…そういう事……」
「お母様がぁ、男の人はこうして上げるとメロメロになるって教えてくれましたのぉ」
「うん、間違って無い。全然間違って無い。ただ、恋人以外やっちゃダメだと思うよ……」
「じゃぁ、タイチ様はオッケーですねぇ」
「ダメじゃぁ!」
ガヤガヤと騒がしい楽しそうな雰囲気の会話を横目に、カトリーナと同じ元チヒロメイドである今年で11歳を迎えるレイチェル・ケンドールは、空気に馴染めずに筋トレをしていた。
研究で渡り合えるほど知能も良く無いし、タイチ様と仲良く話の出来る度胸も受け入れられない。
レイチェルは軽くカトリーナに嫉妬していた。
髪色は明るい金髪ロングを比較的高い位置で纏めておろしたツインテール。
体系は痩せ型で運動量が豊富そうなハーフエルフ。
服装はTシャツとハーフパンツという機能を重視した服装だ。
活発な性格だが、思いっきり体育会系の性格をしているため、今まで上の立場にいた人間といきなり気軽に話をする事がどうしてもできなかった。
時よりカトリーナが空気を呼んで話し掛けてくれるが、
やはりまだレイチェルの中では「チヒロ様」と「タイチ様」であり、気軽に話しかける事はまだ出来ていない。
レイチェルは孤独感を噛み締めていた。
太陽が地平線の向こうに沈み、5人を囲む焚き火がモウモウと燃え盛っている。
時よりパチンという音が響いたかと思うと火の粉が辺りに飛び散り、
焼け焦げた木の香りと、商人の旅では高級品である肉のこうばしい香りが混ざり合い辺りを包んでいる。
旅の案内人をしているステフは、地図を広げ、ある一点を指す。
「今は大体この辺りにいますので、明日になればそれなりに大きい街、クーリョンに付く事が出来ますよ」
「まだファミルス領だな。会計報告書類にそんな名前があった記憶がある」
「そうですね。ですがクーリョンを抜けたら、ファミルス国隣の小国に入る事が出来るので、もう少しですね」
タイチ達は、その情勢から北に行く事はもちろん出来ない。
よってタイチ達の取る進路は自ずと南の方へと舵を取る事になる。
「すいませぇん。明日は出れませーん」
「じゃあ早めに宿とって、カトリーナは休んでなさい」
「わかりましたぁ」
女性と旅をするとは、つまりこう言う事だ。これもタイチが性についてオープンになった理由の一つである。
皆も分かっているので、その事については何も言わない。その話は軽く流されて終わった。
「一応商人なんだから商人っぽく何か積んだ方がいいんじゃないかしら?」
チヒロが現在の積み荷の少なさを気にしている。その指摘は正しいものだ。だが。
「寝るスペースが狭くなってもいいなら考えてやろう」
「うっ、お兄ちゃんに引っ付いて寝れば何とかスペース半分くらいは……」
「俺に引っ付いて寝るって、それなんて拷問?街に付く頃には全員孕んでるんじゃねーの?」
「うん、そうよね。私もその危険は回避したいわ」
馬車の広さはかなりの物だが、商品の運搬量は並の馬車以下という現状だった。
「じゃあわらとかどうでしょう?下に敷けばベッドにもなりますし、一石二鳥ですよ」
「木や土の上で寝なくていいのは嬉しいですねぇ」
「じゃあそれで決めようか。どう考えても利益率低いけどな。多分食費とトントンじゃないか?」
「今の食費だと赤字ですね。寝るスペースをなくして、わらを荷馬車いっぱいに積んでも銀貨7枚くらいじゃ無いですか?」
「で、俺達の1日の食費は?」
「1日…銀貨1枚です…」
「このメンバーで旅を続ける限り、商人としては絶対成り立たないな……」
現在使われている通貨は金、銀、銅がある。
相場は常に変動しているが、今の相場だと大体銅貨30枚で銀貨1枚、銀貨25枚で金貨1枚となっている。、
大陸で比較的裕福だと言われているファミルス国民。4人家族全員で稼ぐ一般的な月収は銀貨15枚といったところで。
4人家族の一般家庭で約銅貨10枚で1日過ごせるのだ。
食費の浪費っぷりが覗える相場である。
※脳内設定:大体銅貨1枚500円くらい。
「え?私達ってそんなに使ってたの?」
「そのお肉1人分だけで銅貨3枚ですよ」
「うそぉ!?」
王女暮らししかして無いチヒロにはこれでも譲歩していると言った表情をしている。
そういうタイチも内心では不満に思っている事も確か。
タイチは諦めの表情でチヒロを諭した。
「チヒロ、少しづつ食事改善して行こうな……」
「うん……」
「成長が阻害されないように栄養があるものをなるべく用意しますので御安心を」
「味付けは何とかしてみますので、要望があったら言ってください」
金庫番であるステフ様の言葉は絶対である。
と言っても、ステフはそれほど料理がうまいわけでは無い。
今食べている肉も、途中でレイチェルが見つけてきたハーブで包んで火であぶっただけである。
調味料が無いから仕方無いと言えるのだが、メイド時代に料理は習わなかったみたいなので、それは仕方無い。
この中で一番料理が出来るのは、実は小さい頃から母親に料理を習っていたレイチェルだったりする。
人とは何が得意なのか見た目に拠らない物だとタイチはひそかに関心した。
「む、タイチ様。今何か失礼な事を考えませんでした?」
「……女性の第六感なめてたよ。すまんな」
「いえ、分かればそれでいいんで…」
そして就寝の時間が訪れる。
明確に時間が決まっているわけではなく、焚火の火が消えたら寝る。という曖昧な時間設定だが、朝起きれなければ馬車に乗せられてそのまま連れて行かれるだけだ。特に問題は無い。
今日は天気も快晴で、下が草むらに覆われていて寝心地がよさそうだったので、皆で馬車から毛布一枚取り出して外での就寝となった。
最初は分かれて寝るが、朝目覚めたらチヒロがすぐ横にいる事が割りと頻繁にあるので、これもタイチを困らせる原因の一つだ。主に理性的な意味で。
一度頑張って起きていたら、実はステフも隣に寝るということが判明した時は驚き、速めに寝て何も知らない方が幸せだと思った瞬間だ。
今日も即行で寝て、何も知らないで純粋なままでいたいと願いつつ目を閉じる。
そしてタイチの意識は一日の終わりを告げた。
早朝、まだ誰も起きていない時間、空は少し青くなっているが、まだ太陽は出ていない。
ステフはいつも通りタイチの隣から起き出して、荷物の確認作業に入る。
ステフは、早々後れを取るような事はないが、一応の確認である。
こういうマメさがステフの持ち味と言える。
荷物の確認作業も終わり、毎日行なっている恒例の鍛錬を開始する。
まずは精神を落ち着かせ、そして対極拳のようなゆっくりとした体操で己の魔力を練って行く。
これはステフの日課だ。いつもやっている、いつも通りの時間。
しかし、今日はいつもとは違う時間が訪れる。
一人離れた場所で眠っていたレイチェルが起き出し、ステフの動きに目を見張る。
ステフは一回中断し、レイチェルに朝の挨拶を渡す。
「おはようございます。レイチェル」
「……おはようございます。ステファさん」
「ステフでいいですよ?」
ステフは困った用に苦笑いをしながら返した。その姿に、先輩メイドとしての風格が漂い、
レイチェルの目には尊敬が入り混じっていった。
「…ステフさんは、いつもこのような事を?」
「ええ、でないと体が鈍ってしまうので」
いつまでも自己鍛錬を忘れない。その決意の篭った微笑みは、レイチェルの心を打つ笑顔だった。
レイチェルは意を決し、ステフに願い出る。
「…私も、今度から御一緒させていただけませんか?」
「構いませんよ。私は毎朝やっているのでその時に起きてください」
その日を境に、レイチェルは孤独から開放された。
馬を操るステフの隣に座り、熱く語り合っている姿を見ると、姉妹のようにも思える。
タイチ達3人も、その様子を見て、ほっと胸をなでおろした事は言うまでも無い。
旅のメンバーは、5人の家族で構成されているのだから
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一応、4章に入ったという事で、全ての自己紹介を改めてする回です。
戦争で1年潰れた。という設定ですね。
ここで通貨単位フラグ使用。
もっと早くたどり着く予定だったので、皆さん忘れてると思われます。
よってコピペで書き直し。脳内での通貨価値も500固定です。
こんな感じのほのぼので世界観を楽しんでいければと思います。