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No.6047の一覧
[0] 国の歩道 (異世界国家運営)[紅い人](2009/02/12 14:26)
[1] 魂召喚前編[紅い人](2009/01/30 17:55)
[2] 魂召喚後編[紅い人](2009/01/30 18:05)
[3] 妹は俺の嫁[紅い人](2009/01/30 18:22)
[4] 街の息吹 前編[紅い人](2009/01/30 18:46)
[5] 街の息吹 後編[紅い人](2009/01/30 18:55)
[6] 番外編:ステファちゃんの悲しくも嬉しい日常[紅い人](2009/01/29 15:18)
[7] 再生の序曲[紅い人](2009/01/30 19:05)
[8] ある暑い日の魔術講義。(基礎知識編)[紅い人](2009/01/30 19:18)
[9] 晩餐会[紅い人](2009/01/30 20:37)
[10] ある暑い日の魔術講義。(実践編)[紅い人](2009/01/24 22:16)
[11] 改革の序曲[紅い人](2009/01/29 15:20)
[12] 決算[紅い人](2009/01/29 15:21)
[13] 番外編:アンジェリンの憂鬱[紅い人](2009/01/25 08:32)
[14] 1.5章:チヒロで振り返る王国暦666~668年[紅い人](2009/01/29 15:22)
[15] 2章:他国の足音[紅い人](2009/01/26 00:56)
[16] 苦悩、そして決心。[紅い人](2009/01/29 16:57)
[17] 超短編番外:アレックス・オルブライトの空気な休日[紅い人](2009/01/25 22:02)
[18] エルフの刺客[紅い人](2009/01/29 15:22)
[19] 取り残された人々[紅い人](2009/01/29 16:59)
[20] 会談の地はノーレント共和国[紅い人](2009/01/29 16:59)
[21] 二国の現状[紅い人](2009/01/30 20:39)
[22] 2章終話:チヒロの決意。千尋の覚悟。[紅い人](2009/01/30 20:42)
[23] 番外編:兄弟妹水入らず。[紅い人](2009/01/29 17:55)
[24] 2.5章:チヒロの専属メイド[紅い人](2009/01/30 09:04)
[25] 2.6章:ファミルス12騎士[紅い人](2009/01/30 20:54)
[26] 第三章:開戦!第一次ファミルス・アルフレイド大戦[紅い人](2009/02/01 09:25)
[27] テンペスタを巡る攻防 前編[紅い人](2009/02/03 04:44)
[28] テンペスタを巡る攻防 後編[紅い人](2009/02/05 02:19)
[29] 3つの想い、3つの立場[紅い人](2009/02/05 02:26)
[30] 人知を超えた力[紅い人](2009/02/12 14:21)
[31] 決断の時 前編[紅い人](2009/02/12 13:42)
[32] 決断の時 後編[紅い人](2009/02/12 13:44)
[33] 4章:旅立ちは波乱万丈?[紅い人](2009/02/12 14:23)
[34] 貿易中継都市クーリョン[紅い人](2009/02/12 14:24)
[35] 新たなる従者。[紅い人](2009/02/12 14:30)
[36] 祭り×出会い 前編[紅い人](2009/02/15 03:53)
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[6047] 決断の時 後編
Name: 紅い人◆d2545d4c ID:53940b05 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/12 13:44





タイチが領主からの手紙を一蹴し、1ヶ月位経った頃。タイチの懐柔工作むなしく、反乱分子の動きが本格的な物になった。
普段なら処刑して終わり。のはずなのだが、今回は事情が違う。
領主の一人が「反タイチ連合」という物を設立し、それに追随するように他の領主達も反旗を翻し始め、
既に国内の半分の領地は連合に加盟している。
しかも騎士を大量に保有している所を中心に反乱が起こったのだ。
そこまでくればどんなに頭の悪い人でも気づく。帝国による内乱工作に間違い無い。
下級貴族を纏めている上流貴族達もその対策に翻弄され、現状では手を打て無い様だ。



とある領主の一室

そこでは帝国の教会、その中でも実行部隊と呼ばれる使徒と名乗るものと、この一室の主であるファミルス領主が二人で話し合っていた。

「手はずどおり進んだようですね」
「ああ、協力を求める親書を送ったら半分近く協力体制をとってきた。所詮タイチ王はこの国を任せられる器では無かったと言うことだ」
「そうですか、それは神もお喜びになられることでしょう」
「そうだな。」
「それでは失礼します」

静かに退出していく使徒を見て、重いため息を付く。
本当はこのような事を起こすつもりはなかった。
聖石などという国宝にもさして興味がないし、領土だけ守るにはこの領土内に居る騎士達の力を借りればそれで事足りる。
しかし彼にはどうしても許せない理由が一つだけあったのだ。

話を聞いていたのだろう。ドアの向こうに隠れていた息子がやってきて、提言する。その言葉はまるで、諭すようだった。

「お父様、タイチ王は絶対なのです。逆らうのはいけません」

親子間での温度差が二人の間で行き交う。
とある領主は元々、タイチの政策に反対派だった。
しかし、息子の教育に一流の講師を付ける金が無く、貴族達との交流の機会だと思って学園に教育を受けさせた。
学園で教育を施して、息子は素直に受け入れ、そしてタイチ絶対主義になって帰ってきた。
その後は思想の違いで息子との会話も噛み合わず、すれ違いの日々。
彼には許しておく事はどうしても出来なかった。


その時訪れた使徒と名乗る者の口車を聞き、理想論と分かりながらも、その甘い口上に乗っかってしまった。
それはこの領主の罪。ここまでやってしまった以上、もう止められない。
領主は息子を精一杯抱擁し、そして願った。
私の行為で、息子の未来を明るく、そして平和な物になるようにと。




タイチはタカとチヒロを呼び、ステフをドアの外に見張りに出させ、兄弟3人でこれからの対策会議を行なっていた。

「こうなってしまったら領主の騎士達を全殲滅するか、俺が大人しく死ぬかの二択だろうな」
「それで殲滅した後は帝国が攻めてくると。どう考えても不利だね。
僕の体は一つしかない。領土に人海戦術で広がって攻められたら止められないぜ」
「お兄ちゃん。一緒に逃げよう!今ならまだ間に合うから」

タイチがこれから起こる一番現実的な説を提示する。
チヒロはタイチの腕にしがみつき、何とか阻止しようと感情を振り乱して講義する。
その姿に研究者や王女としての風格は無く、ただ兄を想う一人の少女でしかなかった。

タイチは無視してタカに向き直ったので、タカもその意を汲んで話を進める。

「……兄貴の望みは?」

「このまま戦えば帝国が再び攻めて来るだろう。だからと言って俺が大人しく死ぬと次の後継者でもめる事になる。この国の制度ではチヒロは女だから王になる資格はは無い。結果的にアレックスが後継者になるだろうが、どちらにしても帝国の思い通りと言うわけだな」

「お兄ちゃん!何で!?なんでなのよぉ!」

タイチの腕をがっちり掴んで髪を振り乱して叫びながら号泣するチヒロ。
タカはそれを見て、苦々しく唇をかみ締め、一つの提案を口にする。

「……僕にも責任がある。一つだけ案があるけど、使うかい?」




「……それじゃ、姉貴をつれて寝かせておくよ。僕も準備があるしね。後で呼んでくれ」
タカは泣き疲れて眠ってしまったチヒロを抱え上げ、退出する。
チヒロの姿には安堵感が感じられ、そしてこの世の終わりのような絶望感は既に無い。

入れ替わりに入室したステフに開口一番でこれからの計画を話す。

「ステフ。上流階級のいつものメンバー、それとアレックスを緊急招集。その後メイド長を呼べ」
「分かりました、暫しお待ちください」






ファミルス王国:会議室

現在ここには、ステフにより緊急招集されたいつもの上流階級の重鎮の他に、今回新しい人物が2人いる。
タカ・フェルトとアレックス・オルブライトだ。
まさかいるとは思って無かったクラック・オルブライトは、思わず隣に座った息子のアレックスに疑問を投げかける。

「タカ・フェルト様がここに居ても不思議では無いが、なぜアレックスがここに?」
「タイチ王がぜひ出席するようにとの命を受け参列させていただいた次第。よろしくお願いします。父上」
「タイチ王が?……うーむ、まあ良かろう。この場の空気にも慣れておけよアレックス」
「分かりました」

ちょうどその時、会議室に響くドアのノック音。しばらくしてドアが開けられ、タイチ王が入室してくる。
いつもの上座に着席し、いつもの様な開始の宣言で会議は始まった。

「みんな揃っているようだな。それでは会議を始めよう」

『我ら、全ては王とこの国の為に』
タイチ王最後のファミルス国最高権利者会議である。

「さて、今のこの国の現状だが。現在領主と下級貴族の間でミリスト教がとてつもないスピードで蔓延している。その勢いは凄まじく、既に反タイチ連合が組織されている。もうすぐここに攻め込んでくるだろう」
「いきなり反タイチ連合が現れたのも驚きですが、それに賛同する領主が思いのほか多く、城下町の下級貴族にもその流れに乗ろうかと言う勢いです」
「そうだな、タイチ王の王としての資質が疑わしい物だと私の家臣からも付き上げを食らっておる」

「俺は元々王としての資質は無いからな」

城下町に居る下級家臣は、ミリスト教に懐柔されたわけでは無い。
タイチに元々不満を持っていた下級家臣が、自分から領主側に賛同し始めたのだ。
その情報を知っているからこそ、この様なため息交じりの弱気な言葉が出てしまうのも仕方の無い事だと言えよう。

「何を仰いますか。タイチ王は国のため、民のために誠心誠意努力を行なってきたではありませんか」
「貴族には見えない形でな。そこにミリスト教が付け入る隙があったのだろう。信者では無さそうでも、何らかの裏取引があったと思われる証拠も見つかっている」
「この国の領地を預かる者としてあるまじき行為ですな」
「ああ、ここまで腐っているとは正直予想していなかった。こいつらを切ってもいいんだが、疑わしい者を含めると半分は切らねばならない」

ただタイチに賛同出来ない貴族達か、ミリスト教に毒された信者なのかまったく見分けのつかない今の状態では、家臣全体の半分を切らなければならない。
全体の1割から2割が信者だと予測しているタイチにとっては絶対避けたい事態だ。
そこまでやってしまうと貴族社会は崩壊し、国を統治する事が出来なくなってしまう。

「それほどまでに……」
「たとえ切ったとしても、変わりになるような信頼できる人材はいないし、今の所ミリスト教には組していないが反タイチ思想の芽は上流階級以外全てと言っても過言では無い。これから更に増えると予測できる」

「わしらは情報誘導の時点で既に帝国に負けていると言わざるを得んのう」
この流れ自体が帝国の狙いだとすると、よほど丹念に調べ上げたか、交渉能力のずば抜けて高い人材が裏で案約していると見ていいだろう。
シーザーは素直に負けを認め、そして家臣達も、頷く事は無いが心の中で同意している。

「最初に来た宗者とはまるで違う。俺の想像をはるかに超えた能力を持っていると見ていい。おそらくミリスト教の中でも相当上位の実力者だろうな。反国家ではなく、反タイチとして煽られると、俺が何をしようとどうにもならん」

タイチ個人を攻めているのだ、タイチが何をやっても問題が収まるわけが無い。
でも救いは、タイチを打倒するという目的であって、独立して新しい国を作ろうとしていない事だ。
おそらく、帝国はすぐやってくるつもりなのだろう。2国に分けて攻めた時協力されるより、短期的に兵力を激減させて丸ごと帝国領土にしてしまおうという狙いのようだ。
もし、攻めて来なくてもいずれ独立させてしまう事になるだろう。

「領主や下級貴族の中から王が出るのは避けねばなりませんな。私達上流階級の立場も危うくなります」

出来てすぐの国は重鎮の中に入りやすい。
権力を餌に入国を促すように交渉してくれば、家臣を根こそぎ取られるという事態すらありえる。
それに1回許してしまうと、次々と独立を宣言する事態も予想できる。
魔術技術が産業の小国になり下がる事も考えられる。

「そこでタカの考えを実行しようと思う」
「タカ様の……ですか?」

そこでようやく座って黙したままだったタカが眼を開き、一つの案を提示する。

「僕がタイチ王の身代わりを立て、自殺させてその首をもって行けば反タイチ連合は自然と勢いを落とすでしょう?」
「……タイチ王はこの国を見捨てるおつもりか?」
「それが国の為になるというのなら、その選択は間違っていない。地位に執着していないと言えば嘘だが、この事態は俺の責任だ。ならば俺が決着を付け、次に繋げる為に清算する」

『……』

下手に動けば分裂。タイチがいる限り状態は悪くなる。ならばいっそタイチが下りればいいのだと主張する。
タイチも既にその考えの有効性に納得し、そして家臣に提示する。
家臣達はそのような事態にならないように動いてきたが、こうなってしまった以上、タイチが認めるのであれば、国王を変える事もやぶさかでは無い様子だ。
タイチは、一応の納得を得たと判断し、そうなった場合の処理を提示する。

「上が壊れれば下も壊れる。体制が纏まらない内に帝国に攻められる事も考慮すると、急いで後継者を決めねばならんだろう。そこで俺はアレックスを後継者として選択した」

「アレックスを!?……確かに。冷静に考えると一番その資格があるのはアレックスですね」
クラック・オルブライトは自分の息子が選ばれた事に一瞬だけ驚きと喜びの表情を浮かべるが、すぐに自分を戒め、そして冷静に判断する。
タイチはアレックスに向かって視線を這わせ、そして確認を取る。

「アレックス。受けてくれるな?」
「……おまかせ、ください」
「国王が変わっても、不和の芽はアレックス打倒か反ファミルス国になるだろう。その為に一度領主を全て入れ替える」
「それでオルブライト家の地盤を固めると言うわけですか」
「そうだ。どうせ憎まれ役になるのなら全て殺した方が手っ取り早い。誰が宗者か全体を把握出来ていないし、調べる時間も無い。そして生かしておけば反乱分子をこの国に残す事になる」

今、下級家臣からの感情は最悪だ。貴族からは愚王と陰口を叩かれている。ならばその悪感情を利用し、更に悪人になる事によって次の王はタイチよりまともだと思わせやすい。そういう狙いがある。

「タイチ王がそれでいいのならこの選択は間違ってはおらんのう。正解とはいえぬが」
「しばらくは領主選考で悩むが、内乱を起こされるよりましだな」
「……結局、俺は王としての信頼を集める事が出来なかった。それだけだ。アレックス。これが変わりに領主の勤まる器の者達のリストだ。チヒロが学校で纏めさせたのをこんなに早く使うとは思わなかった。しばらくすれば使える様になるだろう。俺の二の舞にはなるなよ」
「…はい」

「形式上は俺が領主達を皆殺しにしたことを理由に上流階級たちの手によってクーデターを起こし、そして俺は追い詰められて自害。という流れにする。皆もその流れに従って動け」
『……分かりました』








アレックスは始めて参加した最高権利者の集まる会議の様子を見て、少し前にアンと共に執務室に呼ばれた時のことを思い出していた。


あの時からタイチ様はこの事を予測していた。
だがそれでも押さえ切れなかった。その殉教者の腕前には敵ながら尊敬を覚える。
だが敵にするとなると、僕の恐ろしいという尺度をはるかに超えている。
そんな相手との知能戦。勝てるとは思えない。
僕はどこか小さく見える背中を眼で追いながらタイチ様に声を掛ける。

「タイチ様。あの…」
「アレックスか。……俺は怯え過ぎたのかもしれない」
「怯え、ですか?」

その表情は後悔。普段なかなか自分の後ろめたい表情を出さないタイチ様がこんなにも落ち込んでいる。僕は改めてこの国を思うタイチ様の志しに感服した。

「ああ、自分の地盤を固めようと怯え、改革の政策を急ぎすぎた…。何も後ろ盾の無い俺には、そうする事しか出来なかったんだ。そうして招いてしまったこの事態。なるべくしてなったのだろうな……」
「……それでも、僕はタイチ様が間違っているとは思いません」

それは本心だ、タイチ様の中で政策の優先順位はまず『民のため』から入る。国の財政を立て直し、そして教育まで施した。
ダム建設で農作物は一年中栽培する事ができ、民は豊かになった。
その事が間違っているとは僕は思わない。ただ、その優先順位が貴族に認められなかっただけ。
貴族の嫉妬やわがままでこのような事態が起きている。
僕はそう解釈した。

「俺にはその一言で満足さ、友人の為に出来る限りのお膳立てをしてやる。それが俺の王としての最後だ」
「友人…ですか…」
「俺はアレックスの事を家臣ではなく、友人だと思っている。アレックスがどう思っているのかは知らないがな」
「……タイチ様は、僕にとって最高の友人です。この先も、いつまでも」

友人とまで言ってくれて、そして僕の為に国運営の土台まで積んでくれたタイチ様。
その恩は、この国を更に発展させる事で報いなければならない。
王としての責任。それはまだ僕には分からない。だけど僕はタイチ様の様になりたいと思う。
僕は心からそう思った。

「王の仕事。がむしゃらに駆けてみろ。アンジェリンも支えてくれるだろう。それでは俺はやる事があるので失礼するよ」
「ありが、とう。ございます…」

アレックスは。本当の意味でタイチに忠誠を誓える家臣であり、そして友人だった。





ステフが呼び寄せ、姿を現せたアビーに、開口一番で指令を出す。
その内容は、冷静沈着なアビーをもってしてもうろたえる内容だった。

「メイド長。領主達を殺れ。反乱分子など関係なく、全ての領主をだ」
「そ、それではこちら側が時間を早める行為を自ら行なう事になりますが、よろしいのですか!?」

「問題ない」
「……御意」

タイチの自信満々なその態度に、アビー肩を落とし、は頷くしかなかった。




王族が緊急の事態に陥った時、逃走用に使う。だが今はただの下水道として機能している通路の入り口。
そこにはメイド3人が既に船の準備をしながら作業し、タイチとチヒロはアレックスとアンジェリンに最後の別れを惜しんでいた。

「行かれるのですね」
「アン。私はあなたの事、一生友人だと思ってるから、忘れないでね。忘れたら雷撃魔術よ!」
「チヒロ……もちろん、チヒロの事は忘れません。私も同じように、忘れたらファミルスの全騎士を差し向けますわ」
「…想像したくない大軍勢ね。アンの為にこれ作ったの。一見ただの髪飾りだけど聖石を使った全自動バリアよ。しばらくは外敵から身を守れるわ」
「あら、それでは私のお母様から戴いた髪飾りを差し上げますわ」
「こんな高給そうな物いいの?」
「お気に入りの特注品ですけど、お母様はまだ生きていらっしゃいますし、別に家宝でも何でもありませんわよ」
「それなら遠慮なく戴くわ」

女性が分かれる時に行なわれる大事な物の交換作業はどこの世界でも恒例なのか?
タイチは疑問に思いつつアレックスと視線を合わせる。
二人の間にはもう言葉いらない。
男同士の別れなんてそんなものだ。

「俺からはもう何も言う事は無い。やりぬけ」
「タイチ様の民にかける信念。受け継がせていただきます」
「それは構わないが、内乱だけは勘弁してくれよ?」
「教訓は活かします。ですので御安心を」
「それでは、そろそろ行くぞ、チヒロ。」
「了解よ。お兄ちゃん」

二人はボートに乗りこみ、そしてステフが舵を操ってゆっくりと進んでいく。
やがてその姿が見えなくなる。アレックスは二人の未来を想ってぽつりと呟いた。

「あの二人は、幸せになって欲しいな」
「私達も負けないように幸せにならないとね」
「もちろんだよ、アン。それでは即位式の準備にいくか。今頃タカ様が反乱軍の説得に成功している頃だ」
「分かりましたわ、あなた」
アンジェリンとアレックス。二人の歩く先は、きっと幸せな物になるだろう。
二人が共にいる限り。





「……ねえ、お兄ちゃん」
「……言うな。言いたい事は分かってる」

「凄く臭いんですけど!」
「仕方無いだろ!使わないと思って下水道にしたんだから!」

「風よ、ここの空気浄化して。マジでお願い!」
「ちょ、俺も範囲に入れろ!」

「お兄ちゃんの責任なんだからしっかり報いを受けなさい」
「なんでだあああ!」

この二人の旅も楽しい物となるだろう。賑やかの間違いかもしれないが。







地を埋め尽くす勢いの大軍勢。
その進路の先にある物は、ファミルス城下町。各地の領主代理が差し向けた傭兵や自前の騎士達が、長い隊列をもって殲滅せんと行軍を続けていた。

各地の領主が一人残らず殺された。それは地方の運営機能の停止。それは民達への混乱を招く。
各地の領主代理達は全て一丸となり、タイチ打倒の名分で終結し、そして軍を差し向けていた。

しかし、日程どおり全兵力が集まり、順調に行なわれているその進軍は、途中の妨害によってその勢いを止める事になる。
この国最強の魔術師が一人、仁王立ち立ち塞がっているのを、先行していた騎馬偵察隊が発見したからだ。

その事実を受け、タカ・フェルトを囲むように布陣してゆく領主の騎士達。
ファミルス国の民ならば誰でも知っている定説。


「タカ・フェルトに壊せないものはない」


それは拡張表現であるかも知れない。しかしそれを裏付ける実績は、どれをとっても否定する要素はない。

周囲の騎士達はおびえながらもその距離を詰めていく。
恐る恐る近づいていくと、いきなりタカが構えを解き、そして右手を上げる。
魔術の詠唱かと騎士達が身構えるが、その言葉は詠唱ではなく、交渉の誘いだった。

「今回は交渉に来た。各領主より派遣されている責任者よ我が前に出て来るがいい」

周囲の騎士達は安堵のため息を漏らす。
彼が暴れたらこの一体が焦土になり、全員が殺されてもおかしくないのだ。
本当はそこまで出来ないかもしれないが、騎士達のイメージではそうなっている。
実際前衛は皆殺しだろうから、その考えは当たらずとも問題は無い認識だ。
騎馬隊は急いで隊長へと伝令に走る。


後に騎士達は語る。「隊長達が来るまでの間、俺達全員は寿命が大幅に縮む空気を受け続けた」と。


隊長クラスのメンバーが集まり、すぐさま交渉が開始される。
彼らも既に命を握られている事を覚悟しているが、交渉の余地を残さないほど怒り狂っている訳ではない。

怒っているのは領主の方で、現場の騎士達の待遇は変わらないし、これから戦うのは同じ国民だ。やる気は無いが、それでも従わなければいけない。
それが雇われ騎士の辛い所である。

「このまま引き返すわけにもいきませぬぞ?」
「いや、帰って知らせてもらいたい事がある。タイチ王が今回の事を受けて国宝である聖石をどこかに隠して自害なされた。その証拠の首がこの布の中に入っている」

タカが提示した布のかなには、タイチの顔が入れてあった、中身を見た騎士達は、唖然として立ちすくむ。

「な、なんだと!?……確かに、このお顔はタイチ王に間違い無い。でもなぜ…?」

責任者達は驚き戸惑っている。
その姿を見てにやりと笑ったタカの最後の一言で、交渉は終止符を撃たれる事になった。

「既に軍を出す理由であるタイチ王はこの国におらず、貴族達も後継者で揉めている状況。そちらの代理領主達も、至急参列して欲しいとの事だ」

「……分かりました。こちらも無駄に兵を減らすのは本意ではない。兵を引いて至急その旨をお伝えする事、お約束いたしましょう」

聖石はどこかに消え、責任者であるタイチ王も死んだ。もはや戦う理由の無くなった代理領主達は、その矛を治め、参列する事になる。




数日後。王国では、既に新国王が決めり、顔見せとしての雰囲気が強い。

「これより、アレックス・オルブライトの襲位式を執り行う」

壇上に上がり、家臣を見渡すアレックス新国王。その衣装は着られている感が強く、見られている事に少し怯えているが、それでも精一杯王としての威厳を出し、そして高らかに宣言する。

「まだ先ほどの大戦によって国が疲弊し、帝国の脅威はまだ残っている。これからは国のため、皆が一丸となって強固な信頼関係を結ばねばならぬ。皆の活躍を期待しているぞ。殺されてしまった領地には新しい領主を派遣する」


上流階級により、アレックス・オルブライトの襲位が決定した。
これは軍を総括するエンドリュース家と経済を支配するオルブライト家という最上流階級の息子である事が一番大きな理由だが、既に結婚しており、子供を残す事が期待されているからだ。


この事がきっかけで、この国の内乱の目は、一応の決着を見る事になる。






からからと車輪の回る音と同時に体を揺られ、ゆっくりと進む屋根付きの少し高価な馬車の上。
そこにタイチとチヒロ、そしてそのお供のレイチェル、カトリーナ、馬を操るのはステフだ。
馬車の中には売り物の魔石に扮した少量の聖石が乗せられ、横の方には少量とは言いがたい現金が積まれている。もちろん食料もあり、現在の所無くなる気配は無い。

服装は一般人に扮した装いで、若い女商人が兄弟を連れて旅行がてら売りに行く途中。という設定で進んでいる。
税関で止められた時も、そのいい訳を使って通過できたし、ファミルス国の偉い人の所に配布される、関税通過許可証を見せたら荷物をノーチェックで通過する事が出来た。

王としての最後の権力を使って逃走を図っているタイチ後一行。

現在、見渡す限りの田畑で埋め尽くされ、心地いい風が運んでくれる野菜の匂いが食欲をそそられる。
久しぶりに感じるまったりとした時間。
そして、馬車の中では女性人が賑やかな会話に華を咲かせていた。
タイチが中の様子を見たと同時にチヒロと目が合い。
心苦しそうな表情を浮かべながらタイチに聞く。

「私が望んだ事だけど……これで良かったの?」
「いいんだ。結果、王としての立場を失ったとしても、俺は国の為になる事をやり、そして一応の平和をもたらす事が出来た。後悔は無いさ」
「ならいいんだけど」


タイチはチヒロを優しくなで上げ、そして馬車の中を見渡す。


「俺には国を失っても付いて来てくれる人が4人も居るんだ。それは俺にとって国よりも価値のあるものだと思ってる」
「私はチヒロ様に忠誠を誓ってるのであって、タイチ様には誓ってませんよ」

レイチェルは不平をもらすが、その声に本気の色がまったく無い事は誰の目にも明らかだ。
からかうと同時に自分の本心を明らかにしたいのだろう。
チヒロが本当に好かれている事の証しだ。タイチはそう判断した。
チヒロも分かっているのか、その言葉にやんわりと反論を返す。
言葉と共に返す笑顔はとてもにこやかで、国にいた時よりも輝いて見える。
いつも見慣れているタイチが、思わず目で追ってしまう。それほどの魅力だった。

「レイチェル。私はずっとお兄ちゃんと居るって決めてるんだから同じ事よ。それともう王女の肩書きは無いんだから様付けしちゃダメ」

「じゃあチヒロさんとお呼びしますね」

「私はぁ、タイチ君も好きですよぉ」

カトリーナのある意味空気を読んだ爆弾発言とも取れる物言いに、チヒロが腕をブンブン振り回しながら講義する。

「お兄ちゃんに恋したらそれはそれで許さないわよ!」
「タイチ様はもてますね。私も負けてはおれません」

馬を操って会話には参加出来ていないステフも、中の様子は気になるようだ。
ぽつりと漏らされたその言葉に、タイチはきちんと反応する。

「ステフはいつまでも一緒に居てもらうさ。俺の姉なんだから。それとステフも言葉直しておけよ。疑われたら困るんだから」
「言葉使いはおいおい……それよりしっかり恋愛対象として見てくださいよぉ!」

約7年間も続けてきた言葉使いはなかなか直ってくれないようだ。
それは今後の課題としておき、ステフを改めて見やる。

体は戦闘向けに引き締まってはいるが、出る所は出ている。
大体Cと言った所だろうか。
顔や仕草は大人しく気弱そうという雰囲気を纏っているが、なかなか作りは悪くない。
緑色の髪型も、肩までしか伸ばしていないのは戦闘に配慮した形だ。
傍から見たら美人でかわいくて守って上げたいと思えるその雰囲気。
だが実際はタイチを含め、みんなを守ろうとしてくれる面倒見のいい性格だったりする。

現代のタイチから見たらぜひともお付き合い願いたい逸材である。
だが、タイチの優先順位の頂点にはチヒロという鬼嫁の存在が既にある。タイチはチヒロを見て許可を待つ。

「それは……チヒロ、どう思う?」
「……ギリギリセーフね」
「なら考えてもいいかな?」

「ほんとですか!?私なんでもやっちゃいますよ!絶対離れませんから」
「はっはっは。ステフは要領良いな。それに扱い方が簡単だ」

皆が揃って笑い出し、そしてからかわれたステフは頬を膨らませて怒り出す。

「もう、知りません!」

これはこれで良かったのかもしれない。
俺はこれからもみんなと共に過ごしていく。
忙しい日常を離れ、のんびりとした時間。
みんなと荷馬車に揺られて楽しく談笑できる事。

このような時間の流れも悪くない。
俺は照り付けてくる太陽の下、今を楽しむ決意をした。

「お兄ちゃん何やってるの?」
「いや、こんな時間も悪くないと思ってさ」
「これから毎日一緒ね。私にはそれで十分幸せよ」
「そうか、なら俺もチヒロと一緒で幸せだ」

二人はお互い見つめ合いながら笑い、そして未来を思う。


明日もきっと、素晴らしい時間が来る事を信じて。



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