大勢の身分の高そうな貴族達が部屋の真ん中に鎮座しているテーブルの横に備え付けられている椅子に座って整然と待機している。
そして王である皇帝が静かに入ってきて椅子の前に立ち、開始の宣言をする。
「ただ今から、ウルヴァリン攻略作戦の会議を始める」
そこはアルフレイド帝国に協力している国の一つ。
その国の中心に、戦線の情報を集め、そして今後の戦略を練る為に建てたれた専用の施設がある。
既存の屋敷を急場しのぎで改装したのか、隣の部屋との敷居が壊された後が残され、内装は机と椅子しかないが、一時的しか使わない会議には華美な装飾など不要と皇帝が言ったので速さを重視して作られた。その施設の会議室内に、現在リチャード・アルフレイドは、各地の戦線を担当している武官達を集め、これからの戦略を練っていた。
「後はウルヴァリンを落とすのみとなったわけですが、あそこは土地に漂う魔力値が高いので、今までの戦いのように行かないと思われます。ファミルス王国側も、落とされたら後がないので本気で守ってくるだろうことが予想されます」
一人の情報仕官が現状の報告をする。
「我が帝国の戦力状態は?」
「各国の治安を守る騎士達を除き、現在投入可能な戦力は。竜騎士1万5千、重歩兵7万です。既に戦場に向けて出撃しており、後10日で着く予定です。
ファミルス国領土に進行するには数が足りませんが、後方の帝国国内に居る人員を使えば何とかなるでしょう」
アルフレイド帝国は本国にまだ兵力を相当数残していたが、全て導入できない事情が存在していた。
「竜派の武官はいいとこ取りか、羨ましい事だな」
「いえいえ、領土侵攻の方が被害は大きいと思いますよ。御愁傷様じゃないでしょうか?」
ミリスト派の武官は、盛大な嫌味で場を濁すが、皇帝はまったく動じずに無言で椅子に座って情報を整理をしている。
竜信仰派の武官は、基本的にミリスト派と仲が悪く、既に別の組織として存在していると言っても過言ではない。
竜信仰の教祖である皇帝が乗り出して来てはいるが、一緒に行動させると戦の中であろうと険悪な雰囲気になってしまい、本来の力が出せないのだ。
よって今回、皇帝は国内に竜信仰派を残したままの行軍となった。
一応少数の兵力は出してきているが、それでも皇帝を守る近衛兵としてであり、戦場に出される事は考慮されていない。本当に最低限と言ったレベルで、その数は1万くらいだ。
このような竜派とミリスト派の対立の歴史は結構根深く、国内の数も拮抗しているため、ある意味ではバランスが取れているが、裏の方で皇帝と教皇の激しい交渉の攻防があったと言うのはそれなりに知られている。
今の所目立った対立はないが、これは両者間をなるべく顔を合わせないようにして対立させないようにしている。と言う上層部の配慮があったからこそだと言えるだろう。
しかし今この場に居ない騎士の話をしても仕方がない。一人の隊長が咳払いして話を元の流れに戻す。
「そんな事は今話すべきではない。テンペスタでは我が軍も大きな痛手を受けた。このような事態を繰り返してはならぬ」
「テンペスタではタカ・フェルト個人にやられた。と言えるでしょう。噂に違わぬ魔術師のようです」
報告するのはエドモンド・ガルビン。彼も司令官クラス。そして唯一ファミルス王国と交戦した時の目撃者である。
彼はタカ・フェルト一人何とかすれば自分の力で何とかできると主張する。
その言葉を聞いて納得した隊長達は頭を悩ませる。
皆がそれぞれ考えを出し合うが、どれも現実的な意見ではない。
アイディアを出し尽くしたのか、会議室に静寂が包まれる。
その静寂を破ったのは、若い一人の宣教師だった。
「それについては策があります」
「ほう、それはどのような?」
皇帝が若者の意見を許可すると、隊長クラスの騎士達の視線が一人に集中する。
その中で、物怖じせずに堂々と胸を張り、そしてファミルスの切り札に対抗する案を提案する。
「タカ・フェルトに対抗できる魔術師を当てればいいだけです。簡単な事でしょう?」
「タカ・フェルトに対等に渡りあう魔術師なんて……ああ、居たな。一人だけ」
「アレを当てれば何とかなるでしょう。後は竜騎士部隊で叩けばいいだけです」
「では、その作戦で行くとしようか」
ミリスト派の家臣達の賛成の声に、沈黙を保つ皇帝。
「皇帝、よろしいでしょうか?」
「……ああ、それで行こう。それでは各員準備を怠りなく進めよ。解散」
無表情のままの皇帝が退出したと同時に、各隊長クラスは己の仕事を全うする為に次々と退出していく。
そして皇帝は一人自室に篭り、中の様子を知る物は誰も居なかった。
帝国では魔術師が存在しない。
それは正解でもあるし、間違いでもある。
魔術研究部署は存在するし、魔術師も存在している。
ただ、土地柄魔力が少ないので実験資材など無く、高名な魔術師も居ないので、成果を残す事が出来ずに予算を削られて衰退しているだけだ。現状居ないと言っても差し支えない。
魔術銃の解析をしているが、成果は芳しくなく、もし解析出来て複製できたとしても魔石の在庫が無いので量産は出来ない。
上層部もまったく期待して無いし、性能だけ分かればいいと思っているので特に問題はない。
魔術師は研究所の他に、もう一箇所居る場所がある。
そこはアルフレイド牢獄、罪を犯したり、帝国の意思に反する行為をした物が収監されるべき場所。
そこに足を踏み入れる若き宣教師。名前はクレファイス・ミカウェル。彼は若くして教会の司教と言う地位にあり、そしてもうすぐ大司教になると噂されている。
これほどまでに速い出世をした理由は、彼の側近、実働部隊である使徒の能力がずば抜けており、教会の裏の仕事の成功率が他の司教の使徒と比べて高く。裏の顔を全て知っているとまで言われているからだ。
最も大きな功績は、件の魔術師を捕獲する事に成功した事が一番大きい。
その方法は語られることはなかったが、教皇は大手を上げて司教の地位を約束した。
そこまで出来る人材を殺すわけにもいかず。また、神への信仰心も問題が無いので他の宗者達も認めざるを得なかったと言う事情が存在する。
彼は、薄暗く、腐敗した臭いが漂う、ジメジメした高湿度の地下中を躊躇する事無く歩いていく。
何度か曲がり角を超え、やがて遠くの一室に騎士が立っている部屋を見る事が出来る。
ここが件の魔術師の居る部屋だ。
「様子はどうだ」
クレファイスは中に入る。そこには数人の使徒と、鎖に繋がれた一人のローブを纏った男。その姿に力はなく、体の制御を手放している。
使徒達は魔術師に既に細工し終えて休憩していたのか、椅子に座って談笑していたようだ。小汚い机に紅茶やコーヒー、それにお茶請けなどが並んでいる。しかし、クレファイスが入ってきた事により、すぐに仕事の顔に戻ったようだ。使徒達は資料を手に取り、状況を報告する。
「洗脳は無事に終わりましたが精神がまだ不安定です。使うにはまだ速いかと」
「戦闘が出来れば問題は無い。どうせ使い捨てだ。すぐに連れて行くから持ってこい」
使徒達はクレファイスの指示に従い、鎖を外して薄暗い地下からの連れ出し作業に入る。
そして彼はそのまま戦場へと運ばれる事になる。
タカと戦わせる為に。
アルフレイド帝国の隊長級会議から十数日、ウルヴァリンの周りには大規模な帝国軍が布陣していた。
その眺めは、いっそ清々しくも感じる。
上空を埋め尽くさんばかりの竜騎士の軍勢。地平線が見えないくらい広く分布している重歩兵。
久しぶりに感じる死の気配に。アーロンは身震いを起こす。
ファミルス側に居る現在の兵総数は約8万。歩兵6万そのうち魔術銃を持っている歩兵は三万五千。騎馬隊は伝令・物資の補給役としてとってあり、その総数は五千、そして二万の魔術師達で構成されている
今回の作戦は、魔術師や魔術銃で城壁の上から殲滅する方式を取るようだ。
対して敵は竜騎士1万7千、重歩兵7万と総数は上だが、今回は攻城戦である。
城を背にして戦えると言う利点は大きい。
だがこれにも弱点はある。それは竜騎士の存在だ。
空からの攻撃に城壁など意味を持たず、一方的に攻められて終わるだけになってしまう。
それに対応する為に銃の数を急遽増やし、今回魔術師は大魔術で歩兵を殲滅せずに竜騎士中心に倒すように指示を出してある。
これで先の大戦から分析した竜騎士の性能を見る限り、力関係は互角かこちらが有利だろうとアーロンは見ている。
重歩兵は銃の射程距離に入ったら撃てばいい。どの道遠くに居たら当たらないのだ。今はまだはるか遠くの重歩兵より、目の前に居る竜騎士の対応が先だ。
それは単純な戦力比をみた時の数値だ。こちらには切り札であるタカ・フェルトが存在する。彼ならば一万の銃歩兵戦力に相当する活躍を見せてくれると信じているし、彼も期待に応えてくれるだろう。
両軍の緊迫したにらみ合いは、アルフレイド帝国側の鐘の音によって出てきた、先鋒の竜騎士部隊の来襲によって幕が上がった。
竜に狙いを定め、そして城壁から空を埋め尽くさんばかりの火球・炸裂弾。
対する竜もそれに負けじとブレスで相殺しながら進軍を続けているようだ。
今回は魔術師も参戦しているので、ブレスに押し負けず、比較的有利な争いが出来ている。
そして戦が始まって十五分が経とうと言う頃。
その戦の勝敗を決める二人の男が激突する事になる。
タカは現在、右翼にて竜騎士達と交戦していた。
その姿はまさにテンペスタで見せた一騎当万の活躍で、既に右翼で戦っている竜騎士をもうすぐ五百体は落とす勢いだ。
これは竜騎士たちも前回の教訓を活かし、絶対に近づかないで、遠くからブレスを吐き、タカ以外の者を狙ったりして戦っているためで、タカに向かってくれば今頃全て落としていただろう。
上空で竜を追いかけながら戦っていたタカ・フェルトを城壁の下で眺めて居る一人の男。周りは炸裂系の魔術の爆発による重低音があたりに激しく響き渡り、衝撃で落とされた竜の死体や、ブレスで焼け焦げた魔術師が入り混じり、不快感を感じさせる臭いがたち込めている。まさに地獄絵図の様相を感じさせる。
城壁の上に居る魔術師達も、上空の竜に手一杯で下を見る余裕など無い。
そして男は、タカを仕留める、その命令を実行するために、魔力を練り始める。
そして、魔術の矢は放たれた。
突如大きな魔力の接近を感じて、思わず下の方を向くタカ・フェルト。
その時はもう回避する事は出来なかった。
魔術の矢はタカの竜にあたり、一撃で体の半分を失って落下していく。
タカは竜を捨て去って、地上へと跳び下り、そして攻撃を加えてきた敵を見据える。
その者は、タカ・フェルト。いや、遠藤孝明にとって見覚えのある顔だった。
「お前が俺の相手か? 孝明。いや、今はタカ・フェルトだっけっか?」
「有吉!? なぜお前が帝国に居るんだ!?」
突如として敵として現れた有吉と呼ばれる人物は、タカが昔出会った事のある人物だった。
筋肉が引き締まって、髪型は丸坊主。顔の作りはモテル部類に入るのではないだろうか。
目鼻はすっきり通っており、その眼光は隼のように鋭く、既にタカを獲物として捕らえている目だ。
有吉は両腕を頭付近に持ってきて、キックボクシングの構えを取る。
「ふっ、俺の事をその名前で呼ぶか。だがそんな事はどうでもいい。俺は神を冒涜したファミルスを潰す。それだけだ」
「くっ、何を言っている!? なぜ俺達が戦わなければならないんだ!」
「同じ世界同士へのせめてもの情けだ、せめて楽に殺してやるぜ」
タカは動揺して、一瞬ここが戦場だと言う事が頭から消え去り、素の表情を見せる。
そして有吉の説得にあたるが、まるで聞いていない様子だ。
彼も孝明と一緒に世界を超えし者。外から見て予測する分には、それなりに仲は良かったのだろう。
タカの頭に懐かしき記憶が浮かぶ。
だが、その回想は長い時間続けられる事は無かった。タカは上空で響く爆音によって、改めて時分の今置かれて居る立場を認識する。
彼に何があったのかはタカには分からないが、彼はタカを敵として認識し、そして構えている場所は死体が転がっている戦場。
タカは意を決し、そして譲れないものの為に宣言する。
「僕はファミルスを守る。それが僕の存在理由だ!」
「俺は俺の正義の為にお前を殺す!」
タカは魔術をいつでも放てる体勢で有吉に向かい立つ。
そして戦場に一つの爆発が起こった時、二人の譲れない想いのぶつかり合いが始まった。
有吉が使う戦術は、現代のキックボクシングそのものだ。
体の動きもそれに見合った動きをしている。限界まで身体強化をしている事を除けばだが。
近接戦闘の心得のないタカは有吉の攻撃範囲に入ったら、即行で三途の川をバタフライ200mコースレコードを塗り替える勢いで泳いでしまう。
タカが距離を稼ぎ、有吉が詰める。
この構図になってしまうのも当然の結果だ。
だが、元々の身体能力が違うのだろう、有吉は少しづつタカを追い詰め、そして右の拳を振り上げる。
タカに向かって繰り出された渾身の右ストレート。
絶対に避けられないタイミングで出された拳に、有吉は狂気な目で笑う。
しかし、その拳はタカ・フェルトに当たったと思われた瞬間、タカの姿をすり抜けてそのまま空を切った。
「変わらんな。一直線で愚直な所は」
有吉は、声のする方に振り向き、改めて拳を繰り出すが、攻撃しても攻撃してもその本体を捕らえる事は出来ない。繰り出した攻撃は幻影によって全て明後日の方向に流されて行ってしまっているのだ。
タカはもう既にその場に留まって有吉への幻術攻撃に魔力を割いている。
既に20分は同じ事を繰り返してきただろうか。
ついに有吉は攻撃を止め、頂点に上った苛立ちを露にする。
「なぜだ!なぜ当たらん!?」
「精神系魔術の得意な僕と、熱血愚直な馬鹿であるお前とでは相性の差で俺が確実に勝つって事だよ。そんなもの前から同じだったろう? もうお前は僕を捕らえる事は二度と出来ない。そのまま帰るんだな。僕はやる事があるのでね」
「チクショォォォォォォォ!!」
絶叫しながら座り込んで頭を抱える有吉。
タカは、際限の無い幻術によってこの精神的疲労の限界を待っていたのだ。
後は適当に気絶させて放置すれば、簡単に決着はつく。これもまた、二人の間ではいつもの事だった。
昔から変わらないその流れに懐かしさが押し寄せてくるが、現在ファミルス側は、タカが抜けた事でピンチになっている事が予想される。
思い出すのは後回しにして、タカは元いた戦場に向かって駆け出した。
タカは、どうやら逃げ回っているうちに戦線の端っこの方まで来てしまったようだ。
タカが復帰した戦場では、未だ膠着状態に陥っている魔術部隊の姿があった。
未だ戦線が崩壊していない事に安堵の表情を浮かべるが、事態はそう安心していられるような状態じゃない。
周りの状況を確認して、思いのほか深刻な事態である事に気づく。
「まずいな。今は統率して竜と互角に争っているが、最初から本気の今で互角だとそのうち魔術師の魔力が切れて負ける……」
戦線は膠着してはいるが、その代わり魔術師達が本気で戦っているのだ。
明らかにこの後の重歩兵用の魔力を残さずに全力で竜と対峙している。ペース配分がまったく出来ていない証拠だ。
このままでは重歩兵が来る頃には……。いや、来る前に息切れを起こしてしまう。
そうなったら重歩兵に蹂躙されて終わりだ。ファミルス国土が危険にさらされる可能性が高くなる。
だが、このままではいけないと思いつつも対抗する手段など……。
一つだけある。兄貴は止めたけど、念のためと思って持って来ているアレが。
使うしかない、このままでは全滅は必至だ。
「この国を落とされるわけには行かないっ……! 兄貴、すまんな…使わせてもらうぞ」
タカは、近くに偶然いた魔術衆に伝令を出す。
「アレを持って来い」
「アレ、ですか? わかりました持ってきます」
タカの持って来た自前の魔術道具を運搬していたのは魔術衆達だ。
もちろん彼らはその中身を知らない。全て魔力の漏れないシートをかけて見られないようにするためだ。
使わないに越した事は無いが……。この状態になっては仕方ない。
魔術衆が急いで持ってきた馬車の中から、一番大きい物体を念動魔術で浮かせ、そして地面に下ろす。
布を被せてあったのは直径1メートルの聖石だった
「これは……それにこの魔力量……もしかして聖石!?」
魔術衆の一人が、驚き戸惑って停止しているが、今はそのような事を気にかけている場合じゃない。
タカは急いで指示を出す。
「何をやってる、詠唱するから俺を守れ。どでかいのをお見舞いしてやる」
「り、了解しました」
魔術衆が横目で見守る中、タカは長い詠唱を開始する。
その集められていく魔力は、魔術特性の無い人でも幻視出来る位の強大なものだった。
地面は軽く揺れ、そして魔力の風が質量を持って吹き荒れる。
立ち上る魔力の奔流に、本能でその危険を察知したのか、竜が暴れだす。
竜の動揺で危険を悟ったのか、怒涛の勢いで詠唱妨害に雪崩れ込んで来る竜騎士たち。
魔術衆達は、その押し寄せる洪水の如く向かってくる軍勢を、多重掛けの壁を建設する事で何とか耐える。
そして、異世界の悪夢が具現化した。
「……古の地より来たりて敵を殲滅し尽くせ。ファイヤーグルード召喚!」
現在タカが使える魔術で、もっとも高難易度の魔術。
その名は召喚魔術。異世界より呼び寄せた炎の化身。
人の形を取っているが、その姿はまさしく神の具現。
天使の羽のように、背中から吹き出ている白い炎。
その体は城壁より高く、そして体からは高温すぎるのか、体表まで白く燃えている。
周囲のこの世の者とは思えないと呆然と見ている騎士に向かって指を指し、タカは一つの命令を下す。
「やれ!古の昔より恐れられし白き炎で、敵を食らい尽くせ!」
その言葉の意味が分かったのか、軽く頷き、そして悪夢が現実になる。
近くにいる全ての竜に向かって神の炎が意思を持つように蠢き。そして触れた瞬間燃焼する事無く焼き尽くした。
そのまま炎の巨人は城壁沿いに走り出し、次々と焼き殺して行く。
歩いた道に残るのは、既に生き物の原形を残さず、炭化して炭になった元人間の姿だけだった。
「な、なんと言う威力だ……」
その様子を進軍しながら見ていたエドモンドは、空いた口が塞がらないという言葉を見事なまでに体現していた。
重歩兵達も、思わず進軍を止めその様子に見入っている。
竜騎士隊を一掃し終えたのか、城壁の端まで走りきった異世界の巨人は、まっすぐに重歩兵隊に向かって走り出した。
向かってこられた方は堪った物ではない。
たった今竜が炭化して行く様子を遠目からでも見ていたのだから。
近づいたら死ぬ。それは『絶死』であり、生き残る術は触れない事のみ。
重歩兵隊は、鎧を脱ぎ去ってなるべく軽くしてから全速力で駆け出す。
しかし巨人であるがゆえに歩幅がまるで違う。
追いつかれて次々と炭化して行く元重歩兵隊。
既に軍隊としての体裁は保っていない。
あるのはただ、死の蔓延する炎の道のみ。
やがて魔力が切れたのか、契約時間が切れたのか。巨人はただの炎となって上空に舞い上がって行った。
巨人が消え去った時には、竜騎士隊全焼。重歩兵隊三分の一焼失と言う被害を出し、ウルヴァリン防衛線の幕を下ろす事になる。
「撤退だ!引き金を鳴らせ!」
撤退。今の状態で、その言葉にどれだけの意味があるのか。
ファミルス側も魔術師が疲弊し、更にそろそろ銃の弾数も怪しくなり始めた頃だったので。追撃は出来なかった。
「そうか、聖石を使ったか」
ファミルス王国:国王執務室
「使ったはいいが、その後がやばいぞ……」
まず、聖石を分析される前にしとめるしかない。
タカが使った聖石の威力から考えてもう魔力の残量は無いだろう。
あの土地だと回復するまでに4ヶ月はかかるし、同じ大きさをここから持っていくにも3ヶ月くらいかかりそうだ。
今すぐに攻めてこられる事は無さそうだが、まだ後方には大量の兵がある。
全軍で来られたらいくら聖石でも耐え切れないだろう。
そもそも使用者であるタカの身が持たない。
使用したその場で倒れ、その後1週間寝込んだと報告書に書いてある。
その間攻められたらこちらが負けるだろう。
それにタカ達が居る所は教会の手が回っている。もし取られたらまずい。
「これは短期決戦しかないな」
ばれない内に全て終わらせる。そして国内を何とか押さえ込む。
「シーザーに今すぐ連絡を取れ。ノーレント経由で停戦を急がせろ!それと今すぐウルヴァトンから出陣し、1ヶ月以内にテンペスタの城を降伏勧告で落とせ。その後の交渉で有利に運べるはずだ。」
はったりでも目の前に聖石があれば降伏を承諾するだろう。
タイチはそう判断した。
だがこの判断は時代の流れを混沌へと導く事になる。
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まさに今のガンダム並に戦術が何の意味も成してませんね。
10cmで天変地異レベルなら1m級はこれくらいはできるはず。
タカの能力が出きったので解説
・得意な魔術は精神系魔術。
・召喚魔術が使用出来るが、大規模な魔力触媒が必要。(一章の異世界召喚もフラグです)
・普通の魔術も一応使える。
とりあえず4章では軍対軍は終了です。デスガ、これで戦争のターンが一生来ないと言うわけではありません。
まあ、プロットどおりに進めば大規模な軍対軍の戦いを書く日は来るでしょう。
※帝国にある教会の使徒設定は独自な物です。
現代における使徒とは遣わされた者。派遣された者とググッたら載っていて、
特定地域の宣教に大きな働きを示した人物に、「使徒」の称号を冠する。とかwiki先生に載ってたので。
司教以上が持つ事の出来る実行部隊。その総称が「使徒」とさせていただきました。
よって使徒はいっぱいいる事になります。
現代の使徒をこちらの世界観に合わせたらこんな感じになりました。
どこぞの12使徒とは違うですよ。