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No.6047の一覧
[0] 国の歩道 (異世界国家運営)[紅い人](2009/02/12 14:26)
[1] 魂召喚前編[紅い人](2009/01/30 17:55)
[2] 魂召喚後編[紅い人](2009/01/30 18:05)
[3] 妹は俺の嫁[紅い人](2009/01/30 18:22)
[4] 街の息吹 前編[紅い人](2009/01/30 18:46)
[5] 街の息吹 後編[紅い人](2009/01/30 18:55)
[6] 番外編:ステファちゃんの悲しくも嬉しい日常[紅い人](2009/01/29 15:18)
[7] 再生の序曲[紅い人](2009/01/30 19:05)
[8] ある暑い日の魔術講義。(基礎知識編)[紅い人](2009/01/30 19:18)
[9] 晩餐会[紅い人](2009/01/30 20:37)
[10] ある暑い日の魔術講義。(実践編)[紅い人](2009/01/24 22:16)
[11] 改革の序曲[紅い人](2009/01/29 15:20)
[12] 決算[紅い人](2009/01/29 15:21)
[13] 番外編:アンジェリンの憂鬱[紅い人](2009/01/25 08:32)
[14] 1.5章:チヒロで振り返る王国暦666~668年[紅い人](2009/01/29 15:22)
[15] 2章:他国の足音[紅い人](2009/01/26 00:56)
[16] 苦悩、そして決心。[紅い人](2009/01/29 16:57)
[17] 超短編番外:アレックス・オルブライトの空気な休日[紅い人](2009/01/25 22:02)
[18] エルフの刺客[紅い人](2009/01/29 15:22)
[19] 取り残された人々[紅い人](2009/01/29 16:59)
[20] 会談の地はノーレント共和国[紅い人](2009/01/29 16:59)
[21] 二国の現状[紅い人](2009/01/30 20:39)
[22] 2章終話:チヒロの決意。千尋の覚悟。[紅い人](2009/01/30 20:42)
[23] 番外編:兄弟妹水入らず。[紅い人](2009/01/29 17:55)
[24] 2.5章:チヒロの専属メイド[紅い人](2009/01/30 09:04)
[25] 2.6章:ファミルス12騎士[紅い人](2009/01/30 20:54)
[26] 第三章:開戦!第一次ファミルス・アルフレイド大戦[紅い人](2009/02/01 09:25)
[27] テンペスタを巡る攻防 前編[紅い人](2009/02/03 04:44)
[28] テンペスタを巡る攻防 後編[紅い人](2009/02/05 02:19)
[29] 3つの想い、3つの立場[紅い人](2009/02/05 02:26)
[30] 人知を超えた力[紅い人](2009/02/12 14:21)
[31] 決断の時 前編[紅い人](2009/02/12 13:42)
[32] 決断の時 後編[紅い人](2009/02/12 13:44)
[33] 4章:旅立ちは波乱万丈?[紅い人](2009/02/12 14:23)
[34] 貿易中継都市クーリョン[紅い人](2009/02/12 14:24)
[35] 新たなる従者。[紅い人](2009/02/12 14:30)
[36] 祭り×出会い 前編[紅い人](2009/02/15 03:53)
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[6047] テンペスタを巡る攻防 後編
Name: 紅い人◆d2545d4c ID:53940b05 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/02/05 02:19




魔術師や騎士達は、魔術一斉射撃が終わった後。アーロンよりあらかじめ出されている撤退命令を実行しようと動いていた。
しかし、命令があったからと言って即座に撤退出来る訳ではない。

上を見上げれば未だに飛び交う飛竜。そして疲労した体。少し前まで仲良く話していた者達の悲惨な現状による精神的磨耗。
しかしそれでも生き残る事を諦めるわけには行かない。

魔術師はまだ息のあるもの達に治療を施し、騎士達は落ちている遺留品を集めながら高台から駆け出した。


「さすがにこれはきついかな…」

精神操作系の魔術。テンプテーションで竜を操りながら上空から騎士達や魔術師の動きを大局的に見つめているタカ・フェルト。
竜の魔力を吸い取ってなるべく自身の魔力を使わないようにして来たが、いろんな面で限界がある。


まず竜の魔力の枯渇。乗っ取ったら魔力を吸収する余裕が出来るが、テンプテーションを使う時には自身の魔力を使わなければいけない事。竜を乗り換えながら戦場を駆け抜けたタカだが、それでも限界がある。

戦闘が一段落した今。落ち着いて現状把握と、これからの方針を出さなければならない。そう思ったタカは、上空に来て一度考える事を決めたのだ。



上空の様子を覗いながら思考するタカ。

一直線にファミルス国側の協力してくれている国に逃げ出している騎士や魔術師達。その動きは、まだ中隊長クラスが生き残っている所はまともに統率を取って撤退しているが、その他は統率がとれているとは思えない。散り散りになって逃亡している所もいる。

傷ついた兵の進軍速度は遅いし、欲張りすぎて遺留品を大量に持っている兵もいる。このままでは、いくら進軍速度が遅いアルフレイド帝国の騎士達と言えども楽に追いつかれる事になるだろう。

ファミルス側の現状とは対極的で、アルフレイド帝国側はこれからがその本領を発揮する時だ。

多大な犠牲を払ったものの、これで勝利は我が手の下に入ったも当然。と言わんばかりの士気の上り様だ。



魔力が底を付きそうな肉体状況。

竜種の魔力を吸収しても、それでも限界がある。
たとえ魔力を回復できたとしても万全の状態とは程遠い。
疲労感は体を蝕んでいて、少しずつ体の各部に異常が出始めている。
人である限り休まないと言う事はあり得ないのだから。


タカ・フェルトが開けた穴以外ほとんど奪われた制空権。
ボロボロになりながらも逃げている騎士達。
高台と言うファミルス側にとって絶好条件で戦っていたのにもかかわらずこの劣勢。

どうしてこうなったのかはタカには分からない。それは上層部が勝手に考察する事だろう。タカにとっては関係のない話だ。
タカは自分の持てる力を発揮して見せたはずだ。何も文句を言われる筋合いなど無い。

タカ・フェルトに近接戦闘の心得などない。近接戦闘で戦うのであれば、即座に首が亡き別れしてしまう事だろう。
それでもやらなければいけない。タカ・フェルトにはここで死ねない理由があるのだから。


圧倒的火力で殲滅し終えるファミルスか。それを耐え切って圧倒的制圧力を発揮するアルフレイドか。この2択しかないファミルス王国とアルフレイド帝国との力関係。

アルフレイド帝国側は重歩兵4分の1を失ってしまったが、それでも今回の戦いに負ける事は許されない。

しかも現在の情勢はファミルス王国側が全滅の危機に瀕している。
簡易陣地・簡易柵も焼け石に水で、ほとんどその機能をなさない。

完全に高台に上りきったアルフレイド帝国テンペスタ攻略軍総司令官であるエドモンド・ガルビンは、既に全速力で逃走しているファミルスを見下ろす。

「皆の物、行くぞ。これより狩りの時間だ。狩猟国家である我が屈強さを見せる時ぞ!」

アルフレイド騎士側もまた、手に己の持っている武器を掲げ、自軍の勝利を信じて雄たけびを上げる。
エドモンドの鼓舞によって士気は上がり、騎士達の目はぎらついており、今までの復讐と鬱憤を晴らそうと爆発寸前の様子だ。
その様子に満足げに頷き、そして采配として己の剣をついにファミルス王国軍の方角へ振り下ろした。



「全軍突撃!」



エドモンドの号令と共に歓声が上がり、一斉に駆け下りていく騎士達。
逆に士気急下落中のファミルス王国側の兵士は必死で逃亡を続けている。
アルフレイド側は、上る時は多少の被害を覚悟の上で、体力を温存しながら速やかに上り、そして上りきった後一気にファミルス側を殲滅する作戦を取っていた。

その作戦は成功を治め、後は逃げ惑う騎士達を蹂躙するだけ。
この戦の最終的な勝者は帝国側にもたらされた。それは駆け下りていく騎士達全員の共通認識。

もう終わった。目前まで迫られた帝国騎士に逃げ惑う王国騎士。しかし、その構図は一人の攻撃によって遮られる事になる。

駆け下りる騎士達の進軍を妨害する一筋の魔術。光線が空から地面へと降り注ぐように地面に激突した瞬間、その光線の着地点を基点として小規模な爆発が連続で起こった。

空からの攻撃。騎士達は慌てて視点を空に移し、そしてその姿を捕らえる。
そこには情報にあった竜を奪った魔術師、タカ・フェルトが空中で竜を使役しながら立ち塞がり、そして宣言をする。



「ここは俺が守護する。俺を抜かねば帝国の勝利など無いと思え!」



その言葉の意味を理解するために一瞬速度が落ちる帝国騎士。
そして次の瞬間、タカ・フェルトが右手をかざしたかと思うと、その右手から焔の本流が辺りを襲う。

突然の守護者の乱入に、騎士達は慌てふためくが、エドモンドはどうでもいい事と冷静に分析する。


「アレは竜騎士に任せて騎士達は掃討を行なえ。もはやアレしか戦える物は居るまい」


冷静に現状を分析するエドモンドの指揮の声は張ったタカにも聞こえているが、
虚勢を虚勢とばれたら何の意味も無い。
陽動が敵を通したら意味を持たないのだから。


「魔術衆達。何とか2分足止めしろ。俺は『切り札』を使う」



『切り札』その言葉を聞いた騎士達は動揺する。



それは当然だ、先ほどの攻撃魔術の威力は、まさに魔術国家と言われたファミルス王国最大の戦術で。

その最大の戦術である大規模火力を先ほどその身に受けたのだ。

あの戦術よりも威力の高い何かをやってくる。
そう想像して怯えてしまう事は必然だ。

中央の騎士達は進軍を止め、弓で竜を射抜く。上空にいるタカ・フェルトの直線上には竜がいる。

多少防御力があろうとも、地面を埋め尽くすほどの兵士が蠢いている。
それら大量の兵士からの正射だ、どのような竜でもまず落ちるだろう。


竜の最大の利点はその強靭な鱗による防御力と、空を飛べてブレスや火球を放つ事による圧倒的なリーチからの攻撃が特色だ。

スピードは人を乗せているためか、一般の鳥と比べてそれほど速くなく、平均時速60キロ、旋回時30キロという程度だ。

だがダメージを完全に無くすわけではない。鱗の覆われていない部分もある。そして乗っている者を倒せば知恵の弱い竜なのでどこかに飛び去るか、そのまま墜落するかを待つしかない。

よって騎士達が取った行動は正しい。これだけの量の兵士達の一斉正射だ、ダメージが無い事はありえないし、上空を迂回して操縦者であるタカ・フェルトに当たるかもしれない。

ただ、それは普通の竜騎士の場合だ。魔術師が乗ると少し場合が違う。帝国騎士達はタカ・フェルトが乗る竜の戦術をすぐに見る事になる。

上空に射掛けた矢は、空中で羽ばたき、その場で静止している竜へと一直線で向かう。

タカは全方位バリアを展開して竜を守りつつ上空へと舞い上がって行った。そしてすぐに弓の有効射程範囲を超えた場所から、指示を出す。


「絶対守りきれよ。そして死ぬんじゃない。お前達にはまだやってもらわないといけない事が山ほどあるんだからな」


弓を撃っていた騎士達の目標は、下の方でため息を付いている魔術衆へと向けられる。
こうなるとタカ・フェルトを竜騎士隊に任せて魔術衆を抜けるしかもはや道は無い。

中央に留まっていた騎士達は、すぐさま約100メートルほど向こうにいる魔術衆に、なだれ込むかのように押し寄せていった。

タカ・フェルトによって、一時的に足止めさせられたが、進軍を再開した事に内心で安堵するエドモンド。これ以上足止めをされたら、いくらファミルス側の怪我人や疲労を負っている騎士とはいえ、鈍重な騎士達の特性上追いつけなくなるし、あまり竜部隊と距離が開きすぎるのは戦術上いただけない。
竜部隊は先行し過ぎると帰還率が大幅に悪くなる。そのような愚は犯せない。


エドモンドはタカ・フェルトも必死で虚勢を張って足止めを企てていると判断。
そのまま掃討を再開するように命令を出す。

中央では、ファミルスの魔術師の精鋭と思わしき者が少数で奮戦しているようだが、どう見ても時間稼ぎで死なないように、当たらないようにとすばやく動き回ってかく乱しているだけに過ぎない。時間が経てばバテて失速し、そのうち餌食になってしまうだろう。

しかも左右から迂回すれば合流して囲む事も出来る。
そうなれば、こちらはそのまま追いかけてファミルス側を全滅させるだけだ。

エドモンドはファミルス王国の場合の自分の昇進や待遇の向上等を頭の中で考えながら、高台で戦況を見守る。
竜騎士部隊約千に囲まれたタカ、三次元角度全てからの攻撃に、防戦一方のタカ・フェルト。

大陸にその人ありと謳われたファミルス王国の最終兵器もこの程度の魔術師だったのかと軽い落胆に襲われる。



そしてタカ・フェルトの宣言した2分間が過ぎ去ろうとしていた。



そして竜のブレスを障壁で弾きながら長い詠唱をしている。
タカは直径10センチほどの聖石を懐から取り出し、その内包している膨大な魔力を、吸収している竜の魔力と一緒に自身の魔力に変換する。



そして、詠唱は成った。



「豊穣の地、大いなる母なる神の加護を得て、大地の豊かなる体現を示せ。グランドウォール!」



地上で魔術衆と激突していた帝国騎士軍は、魔術衆を倒そうと戦っているものの、魔術衆は完全に時間稼ぎに徹しているようで、その姿に有効なダメージを与える事が出来ない。まさか、本当に切り札があるのか!?騎士の間に不安と恐怖の感情が入り混じる。

そして宣言した二分間の時が経ち、やはり何も無かったと安堵し始めたその瞬間。
地面から突き上げてくる突然の揺れに襲われた。
これがタカ・フェルトの宣言した切り札か。その効果を表しだしたタカの魔術の大規模さに、騎士達は息をのむ。

これほどの大規模な局地的地震を作り出すとは、さすがにファミルスの最終兵器と呼ばれていないなと感心するが、ただの地震なら問題は無い。ただの時間稼ぎ。歩くのが困難になった所で。それほど進軍速度には影響は無い。
しかし、それはただの時間稼ぎではなかった。

地震が収まろうかと少しだけ揺れるのが緩くなったと思ったその瞬間。
またしても強い揺れに襲われる帝国騎士達。そして徐々にせり上がってくる地盤から隆起してくる土の壁。

その様子はモーゼの奇跡を再現したかのように幻想的で、その様子を思わず立ち止まって見てしまった帝国騎士達。

やがて、1.5メートルほど隆起し続けた土の壁は、タカの乗っている竜の落下と同時に止まった。

最終的な隆起した土の壁の長さは、高さ約横1キロ、奥行き1メートルもある高さ1.5メートルほどの土の壁だった。

壁の向こう側に不時着同然で落下したタカ・フェルト。魔術衆が支えて立ち上がるが、その顔色は青く、息も荒い。魔力も枯渇して、無気力な状態になっているようだ。


「さすがにトリプルエンチャントは無謀だったか…。とりあえず、これを全軍超える頃には逃げ切っているだろう…。俺は寝るから背負って合流。そのまま街へ逃げろ…」

自身の魔力に他の魔力を同時に使い、大魔術を力技で、しかも同時詠唱しながらそれを成したタカ・フェルトに、魔術衆は「いつもこれなら…」などと呟いているが、やる時はやるタカ・フェルト。

その後魔術衆に背負われたタカ・フェルトはアーロン率いるテンペスタ攻略部隊と合流。

出陣した当初は、総数6万名。歩兵と騎兵4万で、そのうち銃を持っている歩兵が1万。後方用の非戦闘員5千。少数精鋭を含めた魔術師達が1.5万だったのが。
帰還者:歩兵&騎兵3万、銃を回収できた量は7千丁。後方用は戦っていないので5千のままだが、魔術師部隊1万2千名まで減ってしまった。

こちらの損害は1万3千。向こうの損害はおおよそ重歩兵1万6千と竜種3千。合計1万9千という数の騎士達に痛手を負わせる事に成功したが、テンペスタを取られてしまった事は大きい。


安定した防御力を誇る城壁。快適に体力を回復できる施設。兵糧の心配をしなくて済む安定性。
どれをとっても人道的な観点を除けば、今回失った兵力より価値のある物だ。


「これは厳しい戦いになるかもしれない…」


アーロンが呟くのも無理は無いのかもしれない。ここに8万集めているという事は、ウルヴァトンは大丈夫かもしれないが、それを取られたら国土がピンチに陥るのは間違い無い。

アーロンはため息と共に敗戦帰還を果たすのだった。



タイチ王執務室。

そこでは各戦場の状況が全て伝えられる場所である。
今現在この部屋にいるのは、部屋の主であるタイチ。そして戦場の意見を吸収するために訪れているチヒロ。
後ろに控えているのはステフ・カトリーナ・レイチェルのメイド達。この5人である。

後に会議を開いて戦術などを話し合わなければいけないが、その前に情報を掴んで予習しておくのも王として当然の事だ。
戦況報告資料を必要な所だけ斜め読みしているチヒロと、じっくり細部まで読んで今後を見据えるタイチ。

その行動は対照的だが、これは立場の違いにある。


王として責任を果たそうとしているタイチは、全ての状況を受けとめ、そして大局的に物を考えなくてはいけない。
味方がどれだけ死に、そして戦えなくなった者はどれくらいいて、現在のファミルス軍の影響はどの位か。
全てを把握してそして未来の戦術に活かさなければならない。


もちろんタイチも好きでこのような行為をしようとしているのではない。
戦争で大勢の人が死ぬ。それは変わらない。

だがやろうとしてやっている事ではないし、そもそも戦争とは外交上にある一つのカードにすぎない。

最終的には外交によって決着を付ける事をしなければいけないが、それにはどちらが有利かを示す必要がある。



つまりこれは殺人を容認している力比べだ。



講和を有利に運ぶ為にこちらの方が強いと認識させ、そして発言力を確保する。
それは賠償金であったり、領土であったりと様々だ。

今回の場合は、ミリスト教を布教させる事を認める事と、今後何十年かの食料の確保、そして魔術技術と領土。
アルフレイド帝国が提示してくるのはこの程度だろう。

ファミルスが勝った場合は、賠償金、鉱石類、そして武装解体。ミリスト教の布教の停止、場合によっては帝国軍によるミリスト教弾圧も視野に入れて講和の条件となる。


それはアルフレイド帝国側も同じように考えているはずだし、ファミルス王国の家臣達もそう考えている。

戦争とは国が利益を得るための一手段だ。様々な理由があるが、大抵の場合はそうだ。

時たま小さい国同士が外交を失敗して小規模な戦争が起きるが、それはこちらに介入しなければ特に関係のない話である。
まだまだ戦端は開かれたばかり、今からそのような事を考えても仕方がない。

しかし王として、最終的な落とし所を決めている事は必要な事で、タイチはなるべくファミルス王国に有利な講和に向けた備えをする為に書類を細部にまで目に通していく。




一方、研究者としてここにいるチヒロは、敵であるアルフレイド帝国側の使ってきた戦術、そして竜種の特徴。

それらを読んでこれからに必要な兵器の立案、そして生産に着手する事を念頭に置いている。
よってファミルスの騎士達がどうなっているかは見る必要は無い。


だがチヒロの場合、これは正確ではない。チヒロは見る必要がないから見ないのではなく、見る事が出来ないから見ないのだ。
その事もタイチも分かっているので何も言わない。

しかし、半分近く読んで既に顔が正常な色をしていない所を見ると、大分悲惨な表現や、状況が書かれている事が予想される。

それでもチヒロは最後まで読む事を止めると言う事はしない。
きちんと現状を見て、そして戦略的に有効な武器を作らなくてはいけないと自分を鼓舞している様子を見て取る事が出来る。


チヒロは確かに強くなった。それは間違い無い。だがそれが危うい。


立場・状況・期待。全てが重圧として圧し掛かり、それはタイチを支えにして辛うじて踏みとどまっている状況だ。

しかし、チヒロを使わないと言う事は、ファミルス国の頭脳、魔術技術の進歩を全て止めてしまうと言う事に繋がる。

タイチに出来る事は、チヒロを支え、そして重圧に負けないように支えを強化して、倒れそうになるのを抑えないといけない。


「大丈夫か、チヒロ。概略だけ載せた物でもいいんだぞ?」
「ううん。私はこの状態を知らなければいけないの。私が起こした結果、そして私がこれから作る兵器によって起こる全ての事象。みんな知らなければいけないの」


聡明さから来る責任感の暴走。タイチはそう判断した。だがこのままではこの先に耐えれまい。これからもっと戦闘は熾烈を極め、そして両軍とも大量の死傷者を出す。その全てを背負って生きていく事はさせてはいけない。

タイチはチヒロの頭を撫でながらチヒロを慰める。少しでもその傷を覆い隠せるように。


「この兵器は確かにチヒロが作った。それは変わらない。銃によって戦力が大幅に上がったのは言うまでも無い事実だ。しかし、使う事を選択したのは俺だ。だからチヒロは、もし、その重圧に耐えれなくなったら俺を怨むといい。俺にはそれを受け止めてやることしか出来ないからな」

「…ありがとう。お兄ちゃんが側にいてくれて、よかった・・」

資料を机に置き、そしてタイチの胸の中で涙するチヒロ。



タイチはその体を抱きしめる事しか出来ないでいた。




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※ちなみにトリプルエンチャントの使用していた魔術概要。
竜を操る精神操作系。
全方位に展開していたバリア。
大魔術であるグランドウォール。
吸収は技能ですので魔術ではありません。


タカの役割はぶっちゃけ張飛・呂布的な役どころです。
この場合、橋を落とす所とかの逆ヴァージョンですね。


戦闘の描写難しすぎて時間が掛かりましたが、なぜタイチとチヒロの会話だけ10分で出来るのかと激しく自分に問いたい。


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