アルフレイド帝国。
ファミルス王国から北東に位置し、さらに北には万年凍土がある一年中寒い国。
しかし、国土の全てが農業に適さないわけではなく、少数だが農林業は行なわれている。
この国の主な産業は石炭・鉄鉱・銅鉱石などの鉱石類の輸出で財政が賄われている。
地理的には山に囲まれ、至る所に鉱山がある。その埋蔵量は異常の一言で、国民の一般的な鉱石類の呼び方は龍の加護とも言われている。
万年凍土の奥深くに龍が住み、小型の知恵のない竜種はアルフノイド帝国の竜騎士団として兵力がある。
魔法では下の中程度だが、体力自慢の屈強な兵が多く。進軍速度は遅いが、重騎士の防御力が高い。また、一人一人の武力の錬度は最強である。
また、東が海に面しているので、そこから商業が発展しているためか、海戦力もそこそこ高い。
アルフレイド国教であるミリスト教という宗教の本山があることで有名で、アルフレイド国内の4割はミリスト信者と言う推計が出ている。
竜種
魔力の塊が生き物として具現化した姿。とも言われるくらい体内に溢れる魔力は強大で、龍種が住むからアルフレイド帝国には魔力に乏しい土地であると言われて、作物が育ちにくく、龍の住む万年凍土は魔力が枯渇した地の姿と言う説を唱える学者がいるが、真相は定かではない。
純血の竜種は多淫であり、さまざまな種とまぐわう事ができる。文献には変身能力があるともいわれるが、その姿を見た者は現代には居ない。
鳥類とまぐわったワイバーンが一般的で、アルフレイド帝国の竜騎士団主力である。
竜種共通の能力は、硬い鱗で魔法攻撃・物理攻撃を軽減して、属性は一定ではないが口から吐くブレスでなぎ払う。
人間とまぐわった場合は龍人として人間など足元にも及ばない身体能力を持つ。だが、知恵のある龍は滅多に人に姿を見せる事がない。
純血の龍は知恵を持ち、自然災害を巻き起こす力を持つと言われ。人間などには滅多に従う事をしない。そもそも出会わない。
皇帝ですら4代前に会ったという記録が残っているが、その後姿を見せていない。
人に従おうとはしない堅物で、例外として龍人の言葉は聴くらしい。
帝国の王族には龍人の血が流れているらしく、自然災害の類は龍の仕業として王族が祭壇で祈祷するのがならわしだ。
何も生態の分かっていない龍種だが、皇帝の血族は龍の血が流れていると言われ、民の心の支えになっている事は言うまでもないが、2代前の王がミリスト教を崇拝するようになってから、国内は龍信仰から徐々に薄れ、ミリスト教にシフトするようになって行った。
今ではミリスト教4:龍信仰3:無宗教&その他宗教3と言う情勢で、表側は対立する事なく平穏な国運営が出来ている。
一時期緊張状態になったが、広める事を是としない龍信仰とは違い、ミリスト教は広める事を是とする宗教なので、帝国国内でのこれ以上の布教は難しいと判断。
近隣の国に布教し始めた。その時ちゃっかり国教としての立場を手に入れていたミリスト教幹部の手腕は評価の値するべき事柄だ。
今でも国内の布教情勢比率は変わっていないが、近隣の国と合わせるとミリスト教の圧倒的人数で無碍に出来ない情勢になっている。
そこはアルフレイド帝国場内にある会議室。帝国の上層部のみの小人数で戦略会議を催したり、この国の行く末と言うか方針を決めるための会議に使われる。いわば帝国最高決定場所だ。
「近隣の貿易状況はどうなっている?」
まず最初に発言するのは勿論リチャード・アルフレイド皇帝だ。
今回の会議は、部下達の働きを確認する場でもあり、そしてその結果によって方針を決めていく場でもある。
「技術の貿易を止める事は無理でしたが、農作物の貿易については一部完全に止める事が出来ました。その農作物は全て我が帝国に集められ、ファミルス王国で成り立っていた農作物の輸入量に追いつきました。しかし、まだファミルスの勢力圏内にいる国では難航しています」
ファミルス単独と貿易をしていたのは、一括で買い入れた方が関税の額が安く抑えられると言う観点からの事だ。いつの時代も大量に購入すれば安くなるのは変わらない。これは世界が変わっても一緒で、弱小国に分散して少量づつ集めたら割高になってしまう。
よってファミルス王国と争うことを決定した帝国は、近隣の代表者達と交渉し、関税を抑えるように持ちかけたのだ。
その会議の主な概要は、農作物の独占的販売と、大量購入に伴う関税の軽減を引き換えに、石炭・鉄鉱石等の鉱石類の販売の優遇。鉄工業の技術者派遣と言うもので、
つまり食料と引き換えに鉱石類とそれを扱う知識を上げるというもので、経済的に産業も農業くらいしかない弱小国にとってはまさに棚からぼた餅状態だったのだ。
全貿易の停止と戦力の借り入れを求めたが、それはさすがに渋い顔をされ、適わなかったが、軍事力で勝る帝国にとってはついでだったので特に問題視はしていない。
国教であるミリスト教をうまく利用すれば、いざと言う時に動かせると言う算段があっての事だ。
表向きは諦めていても、裏側では既に懐柔作業に移っている。懐柔作業に思いのほか手間取っているので、開戦までは今しばらくの時間が必要だろう。
「あの豊かな土地を手に入れる事が出来れば、我が帝国も大陸一の国家になる事はたやすい。各員の健闘を祈る」
「皇帝。皇帝はファミルスに戦うにあたってどの程度を想定しておられるのですか?」
家臣が聞くのも当然だ、戦略や細かい事などは家臣達の頭でも十分対応出来るが、大局の流れの意思統一は必須。
この名も無き家臣もそこそこ出来る男と言う事だろう。
リチャードはあらかじめ出しておいた自分の考えと自国の軍備の状況等を顧みて試算し、そして最終的な結論を出す。
「…相手国がファミルスならば、最低でも1年は余裕で戦えるだけの兵糧と軍備を確保せねばならん。いま少し備蓄に勤めよ。軍事力の強化も怠るでないぞ」
『御意』
リチャードは負けない戦い。勝てる戦いを重視する傾向がある。リチャードがそう言う試算を出したと言う事は、それより前に攻め入る事も出来るが、確実に勝つにはこの程度必要だと言う意味で、それは家臣達も心得ている。
各家臣達は、リチャードの指示通りに動き始めた。戦乱の歩みは、既に止められる事は無さそうだ。
一方ファミルス王国も、戦争に向けて何もしていないと言う事はありえない。
軍事力では圧倒的に負けていてもこちらには魔術技術がある。これはチヒロに一任するしかないが、それだけで呆けていられるほど余裕のある事態ではない。
まず金。
金は今の所心配する必要は無いな。チヒロに任せて置けば今までの水準を維持する事が出来ると思う。
そして物。
これも新兵器の分野はチヒロに頼りっきりだが…。兵糧などの物資に余裕はあるし、魔術部隊には動きを阻害する鎧は邪魔だ。魔石備蓄にも余裕がある。これから揃える装備にそれほど金を使わないので、少しの金でどうにか立ち行けるだろう。
問題なのが人。
ファミルスは魔術国家であり、魔術師の数は他の国の比ではない。だが、それを守る歩兵部隊、騎馬部隊の数と錬度が低いのだ。これはこれから鍛えているが、それでも相手の人数の圧力に勝るとも思えない。
1対1なら確実に勝てる。アビーから報告があった内偵部隊の試算によると、アルフレイド帝国の主力は重歩兵部隊に竜騎士部隊だ。竜騎士は高位の魔術師に当てるしかないが、重歩兵部隊は速度が遅いので確実に勝てる。
そして対軍殲滅魔術を使える者も数は少ないが存在する。だけどそれをするだけの技能を持つ魔術部隊はおそらく竜騎士殲滅部隊として送り込まれるので、あまり期待はしていない。
それでも数には勝てないと思うが、あちら側も余り大きな損害をこうむりたくないはずだ。領土を奪えても統治出来なければ意味がないからな。させる気はまったくないが。
勝てないのは向こうも分かっているはずなので、何も策を講じてこない馬鹿だったらあのような大国にまでなっていない。それだけの戦力で向かってくる事はないだろう。何か切り札は絶対ある。
おそらく、これは宗教戦に見せかけた領土戦だろう。理由を宗教側に押し付けた形だが近隣を武力で制圧するだけじゃなく中から殲滅して行く作戦なのだろうとは推測できる。北側は完全に諦めて南に支援を求めた方がいいか…?
いや、一応北にも継続して懐柔作業を行なって置かないとアルフレイドを追い返しても遺恨が残る。
交渉は継続して行なうべきだな。
タイチはいつもの上流貴族を召還する。先日、シーザーが北の国との交渉にノーレントまで大使として派遣したので、今日はタイチを含め4人での会議だ。ちなみにステフは一応居るが数に入れていない。
俺は家臣のから聞く情勢の情報を聞き、連日行なっている会議に最終結論を出す。
「北の貿易が止められるまでに勢力圏を拡大してるのにも驚いたが、それは各国にまだ良識が残っている事を願ってノーレントに向かったシーザーに任せるしかないだろう。我々は南に居る小さな国々を味方に付けるべく行動を開始する。交渉の場を何とかして取り付けろ。だがこの国内である事が望ましいな。中立国のノーレントは今使ってるから」
今ノーレントでは既にシーザーが使っている。2重に使うのはあまり好ましくないし、今の所友好国である南の勢力はノーレントに呼ぶほど切迫した交友状況ではない。呼べば代表者が来るだろう。
「分かりました。それでは私は南の各国を招待する旨を伝えて起きましょう」
「国家戦術は理解した。私はそれに見合った軍の動かし方を部下と協議してきます」
オルブライト6世とアーロン公が俺の政策を聞き、納得した様子で退出して行く。どうやら俺の選択は無難に立ち回れた様だ。
「しないというのが最善なんですけどね」
「まったくだな」
唯一残って会議内容を書き記していたランドル・マッケンジー書記長は、ため息と共につぶやく。その独り言に、俺は心から同意した。
それからしばらく日にちが経ち、シーザーが帰還を果たした。
その外交の成果は上々で、こちらの考えていた最高の結果になった。
北側と貿易再開が出来たのは大きい。この貿易再開で、人の流れをつくり、ミリスト教よりファミルスの方が利益があると思わせる事が出来れば、少なくとも商人への信仰は抑えられる事を望める。
兵力の不干渉を結べた国が多いのも大きい。
これは向こう側も兵力を疲弊させたくないという思惑も重なってファミルス国に比較的近い国は大丈夫そうだが、アルフレイド帝国に近い国は完全に思想支配されているようでどうにもならなかった。ほぼ吸収されたと見ていいだろう。
タイチが指定した日時に南の国々の大使が謁見の間へとやってきていた。
既に現状は理解しているようで、どれだけファミルスから利益を戴けるかと言う目でこちらを見ている。
国同士で友情はあってもその国独自の意思や思惑があり。それが無かったら今頃ファミルス領に吸収されている。
こちらがただ出せと言うだけでは絶対に出す事は無いだろう。かといって攻め滅ぼしてしまえば国力が疲弊し情勢が不安に陥るし、そこまで兵力に余裕があるわけではない。たとえ農業しか出来ない国であってもだ。内乱なんて考えたくもない。
こちらの交渉材料は
タカの開発したもはや旧時代となった魔術技術だけだ。しかし魔術技術はファミルス内の国家機密に指定してあるのでそれだけの価値がる。
なぜ丸書いて5行書くだけなのに再現できないのか未だに分からん。
多分魔術師の量と質に問題があるように見える。
ファミルスの魔術政策で魔術師は大陸の半分強は手中にあると考えていいくらいの人数いるからな。
そこら辺が原因なのだろう。
この技術を渡したら南の国は魔術師の勧誘活動で躍起になってファミルスに来る予定だった魔術師が流れるか、他国の交渉材料に使われて利益を得るか。どちらにしろ流れてくる魔術師が減るが、国内の教育で何とか補うしかあるまい。
この手札で有事の際の兵力を交渉しなければいけない。
タイチの宣誓から会議と言う名の交渉は始まった。
「よく集まってくれた。今更する必要は無いかも知れぬが、わが国の現状を説明しておこう」
オルブライトが無言で前に出て、資料を見ながら説明の体勢に入る。
「わが国は、現在国王を暗殺しようとしたアルフレイド帝国に戦争を仕掛けられています。わが国より北は、既に国教であるミリスト教によって懐柔。帝国に近い国では、もはや吸収されたと言って良い状況に陥っております。今現在もミリスト教は勢力を拡大し続け、大陸全土を脅かす存在となりつつあります」
これが現在の対外向けな言い訳だ。理の無い戦争はたとえ利益が合っても同盟を結ぶ事なんて出来ない。こちらの正義を主張しなければ、納得など貰えないからだ。まあ、今言った事の7割は事実なんですけどね。
オルブライトが説明した事項は、言い方が深刻で、危機感をあおっている。少しだけ各国に危機感の感情を抱かせる事には成功したようだ。このあたりの交渉術はタイチには真似できない。
「それで、俺からの望みは各国に兵を出してもらう事だ!」
堂々と発言するタイチの一言で渋い顔になる代表者たち。
しかし、肉体年齢は8歳だが、そこから漂う威厳は既に王のプレッシャーと変わらない。
…実際はタイチの手元には聖石が握られていて、魔力を放出し続けてプレッシャーを与えているだけだが。
そんな中、一人の猛者が名乗りを上げる。
「アルフレイドと闘わないと言う選択肢はおありですか?」
「戦わないという事は、帝国の国教を認める事になる。敵国の国教を認める事になればわが国は戦わずしてアルフレイド帝国に吸収されるな。そうなれば勢力を伸ばしたアルフレイド帝国に勝てる国はいなくなる。この先は言わなくても分かるな?」
いくらなんでもここまで噛み砕けばどんな馬鹿でも結果は見える。タイチは立て続けに言葉を浴びせる。
「帝国が牙を向けた以上、ファミルスで止めなければいかぬのだ。今戦わずしていつ戦うというのか!?」
タイチの気合の篭った宣言に、代表者たちの顔が青ざめる。実は全てカンペ通りの台詞だったりするが、それに気づく者はオルブライトしかいない。
そこでタイチは、一旦体から溢れ出ているように見えるプレッシャーをおさえ、条件を出す。
「もし、賛同して兵を出すというのなら、わが国の国家機密である魔石加工技術の設計書をやろう。そして、今まで少数しか対外向けにに売っていなかった加工済み魔石も優先的に売ってやろう。勿論関税は付くがな。さらに、ミリスト教をファミルスより南には絶対に行かせないように検問を強化する事を約束しよう」
ここで出してくる甘い誘惑。この台詞の流れも全て、ファミルスで1、2を争う商人であるケンストラ・バリスエンスからの交渉術の入れ知恵で、『押して、押して、引いてから、最後の押しで大抵何とかなりますよ』と言うありがたいお言葉を実践しているだけに過ぎない。
ちなみに台詞と雰囲気の演出は、全てクラック・オルブライトとランドル・マッケンジーが寝ないで協議しながら製作したものだったと言われるが、真相は定かではない。
そして北に売り辛くなった魔術産業技術を南に流しているだけだったりする。
物は言い様だ。
「各国、良く考えた上で結論を出すように」
タイチは最後の一押しで上々の感触を得た。
そしてしばらくした後、ほぼ全ての国から兵力支援の許可が出た。
南との交渉で人を補充する事が出来た。後は補充要因との連携を深め、来たるべき時に備えて準備をしていくしかないな…。
タイチは遠くにある圧倒的な威圧感を誇る火山を見つめ、この国の行き先を思案し続ける。
全てはチヒロを、この国を、ついでにタカを守る為に。
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想像と妄想だけで外交を書いたらこんな感じになりまして
違和感がありましたら感想にお書きください。