貴族用の敷地内にあるオルブライト家専用の土地。
先祖代々受け継がれる家に。何代にも渡ってその存在を維持されている広い庭。
そのオルブライト家に新しい住人が今日。ここに来る事になっていた。
アンジェリン・エンドリュース。僕の許婚だ。いや、もう許婚ではない。
僕達はもう、夫婦したのだから。
ここはオルブライト家の中にある本宅の中。僕とアンは二人っきりの生活に入った。
とは言ってもお手伝いさんとかは普通に出入りしてるんですけどね。
オルブライト家の息子としての政務は今日はもう終わり、僕はアンとさんさんと照りつける太陽の下、パラソルをさして備え付けてあるベンチに座っている。今日も優雅な一日のようだ。
「アレックス、今日はタイチ王を誘おうと思うのですが」
「アン、…もう誘っちゃった後だろう?」
タイチ王は毎日少しずつ処理しているせいか、書類が貯まらない事は一部で有名で、時間が空くといつも城下町に出て街の様子を確認している。
本当に民の事を良く考えてくれていると思う。
しかし、毎日街を歩いているのに夜の貴族の晩餐会には必ず出席してくる。
貴族も、民も、タイチ王にとっては大切なものなのだろう。
これはどちらも切り離せない。民の心が離れてもいけないし、貴族を蔑ろにしてもいけない。
二つの顔を良く使い分けられている。
僕は小さい頃からオルブライト家の長男として、民の上に立ち、そして指導して行く事を学んだ。
上に立つものとして、みだりに姿を見せる事をしてはいけないと学んだ。
だけどタイチ王の姿を見て思う。
これが国を纏めるものの姿だと。
全ての者に慕われる。国家がタイチ王の下に集まる。それはこの国を纏めるにあたって重要な事。
あの時思った事は間違いじゃない。彼こそ忠誠を誓うに値する人だ。
彼は国を守る為に居るのだろう。民を守り、貴族を守り。そして国を守る。
才能。人が引き付けられる。人を動かす。人の事を考えられる。
きっとそういう才能だ。
だけどいつも本人は自然体で、なのにどこか引かれるものがある。
僕は、どこか待ち遠しそうにそわそわしている仕草のアンを見て思った。
きっとアンもその内の一人なのだと。
やがて約束した時間になり、タイチ王が来る。
「おっす、アン。元気にしてるか?」
「ええ、タイチ王もお変わりなく」
「背は少し伸びたんだけどな」
「その程度は変化とはいいませんわ」
楽しそうに会話をするアン。
僕と二人の時には見せない表情。
彼女の心が良く見えない。
その事をたまに不安に感じる。
何でも言ってくれる事は嬉しいけれど、あまり本心を喋らないアン。
だけど彼女が安心してるのは伝わる。僕と一緒に居て、時より甘えて、そんな彼女が大好きだ。
僕は彼女の隣で微笑み続ける。不意にこっちを見て、彼女も微笑む。
「アレックスと結婚して少しやわらかくなったな」
「いつまでもわがままで入られませんわ。私はエンドリュース家を背負っていると同時にオルブライト家も背負ってしまったんだもの」
「二人とも愛しあっているようだな」
「ええ、私達は幸せですわ」
頬を赤くしながら僕と共に歩む事に幸福感を訴えるアン。
その笑顔を見て思う。
タイチ王に若干の嫉妬はあるが、敵わない。あの器には勝てる気がしない。
しかし、タイチ王が国を守るというのなら、僕はアンを守るために生きていこう。
僕は心の中でそう誓った。
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アレックスは頭の中で小難しい事を考えすぎです。
だけどしっかり物事を理解する事が出来る聡い子です。
分析能力も優れてます。会計を預かるオルブライト家の血筋ですかね?
二人で喋る時は喋るのですが。第三者が入るととたんに空気に。
そんな感じを出して見ました。