プロローグ
朝日が部屋の中を射してきたのでさあ起きようかと思ったが、どういうわけか激しい違和感を感じた。寝ぼけ眼を無理して開いて部屋の中を見渡したんだが、どうにも様子がおかしい。俺の部屋は1LDKしかないはずなのに、どう見ても今いる部屋は会議室並みに広い。いや、広いだけでなくて雰囲気が全然違う。なんていうか、ギリシャ風と言ったらいいのかな。とにかく、異質な感じの部屋なんだよ。酔っ払って女をホテルに連れ込んだのかとも思ったが、隣に裸の女は寝ていないし、そういう類のホテルという感じもしない。こういう時には悩んでも仕方ないんで顔でも洗おうかと思ったんだが、ベッドを降りた時に俺は激しい違和感の正体にようやく気がついた。俺はなんと、寝ている間に子供になっていたんだよ。
「げっ!じょ、冗談だろ」
俺は、思わず口に出したよ。だが手を見ても小さいし、足を見ても小さい。小便を出すホースも小さくなっているうえに毛も生えていない。信じられるか?少なくとも、俺は信じられないね。だからこれは夢だと思ってほっぺたをつねってみたんだけれど、凄く痛かった。
「いってえっ!」
まったく、俺はなんてバカなんだ。思いっきりつねったから、涙が出るほど痛かったぜ。だが、これで夢じゃないだろうことがわかったよ。やばい。一体俺の身に何が起きたんだろう。こんな時に何が起きたのか、某アニメの主人公みたいに瞬時に108通り位の可能性を考えられればいいんだが、残念ながら俺は何も考えつかなかった。それに、考えついたとしても当たっていなければ意味が無いことに気付いたら余計に落ち込んだ。
で、しばらく呆然としていたら、いきなりドアが開いてギリシャ風の変な服を着た外人女が入ってきやがったんだ。こいつなら何か知っているかもしれないと期待して話を聞こうとしたんだが、この女はなんだか英語じゃない外国語を話しやがって、よく聞き取れなかったんだよ。そしたら、今度は俺の頭が痛くなりやがった。俺はベッドに倒れこんだが、なんだか気が遠くなっていきやがった。まずい、俺はこのまま死んでしまうのか。俺は必死になって意識を保とうとしたんだが、俺の努力は長続きしなかった。
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次に俺は夢を見たよ。なんでも、俺の魂が知らない子供の身体を乗っ取ってしまったらしく、酷く罵られたよ。でもなあ、いきなり責められても何とも言いようがないぜ。俺もわざとやったわけじゃないんだしな。それでも俺は偉いから、子供に謝ったよ。何度も何度も。そしたらその子供は俺のことを許せないけど、どうしたら元通りに出来るのかわからないから俺に協力してくれるって言ってくれたんだ。いやあ、素直に謝って良かったよ。だから俺は最初にこう頼んだんだ。言葉を理解出来るようにしてくれってね。そしたらその子供は、なんとかやってみるって言ってくれたよ。ようし、これで助かったかもしれない。俺はお礼を言うためにその子に名前を聞いたら、マヌエルって答えたんだ。なんだか聞いたことがあるような気がしたが、おそらくは気のせいだろうな。まあ、それは置いておいてだな。
「ありがとうよ、マヌエル」
俺が礼を言うと、子供の姿はどんどん薄くなっていったんだ。そこで俺は思ったよ。ああ、これで夢は終わりなんだろうなって。
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夢から覚めてようやく意識が戻ったと思ったら、俺の周りには数人のギリシャ人っぽい外国人――日本人に見えないから外国人だと思うが自信はないけどな――が立っていた。なんだこいつらはと思っていたら、女が泣きながら俺に抱きついてきやがった。
「マヌエル様が無事で、本当に良かった」
おいおい、なんだか香水の香りがしていい気持ちになるじゃないか。でもな、そんなことをしたらお前の髪の毛が俺の鼻の穴に入ってくすぐったいだろうが。俺はたまらず大きなくしゃみをしてしまった。
「風邪をひいたんでしょうか」
「元気を出してください、マヌエル様」
「このままお休みしていただくのが最善かと」
周りの連中がわいわい喚くんで、俺はなんだか無性に腹が立ったんだが、怒ってもしょうがないんで我慢することにした。なんて偉いんだ、俺は。その間に、上手く時間稼ぎをする言い訳を考え付いた。
「今は頭が痛いんだよ。だからみんな静かにしてよ。それと、寒いから横に寝て僕をあっためて」
俺は、未だに泣いている女を指名した。その女はよく見たらかなり美人だったし胸も大きいから、俺の精神の安定のために一緒に寝てもらうことにした。誰かが俺と一緒にいればこいつらも少しは安心するだろうし、一石二鳥だろう。俺のことを心配して泣くくらいの女だから、おそらくは俺の頼みも色々と聞いてくれるだろうしな。でもな、そう思っていたんだけれど、結局はそのまま俺は寝てしまったんだ。なんて俺はドジなんだろう。これじゃあ、先が思いやられるぜ。
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下記を読んでから、作品の続きを読んでいただければと思います。
・この作品はフィクションであり、登場する個人名や団体名などはすべて架空のものです。
・実在の人物・団体・事件などに類する記述があっても、一切関係ありません。
・作品の構成上、明らかに事実と異なることを書いていることも多々ありますのでご注意ください。
・この作品の主人公は、未来の世界から過去の世界に転生又は憑依した人物です。
・主人公は、善人ではありません。また、作品の傾向として勧善懲悪ではありません。
・いわゆるご都合主義が幅をきかす作品かもしれません。