「……という訳で、今に至る、と」
無駄に長い回想終わり、と。
「何の話?」
「ああ、いや、独り言じゃよ」
六番街の小さな喫茶店でスピッツと向かい合いながら、甘いものを食べる。
窓の外の雨はいつの間にか本降りになっていた。酷くなる前に喫茶店に滑り込めて良かった、と思いながら手にしていたスプーンを口に運ぶ。うん、美味しい。
私が食べているのは甘酸っぱいソースの掛かったブランマンジェのような食べ物だ。
ような、というのは味は似ているのだがその色合いがすごいからだ。本体が綺麗な水色で、掛かっているソースがどぎついピンクというそれは微妙に食欲をそそらないのだが、味は美味しいのであまり目に入れないようにして食べている。
「あはは、おじいちゃん変なの」
そう言って笑うスピッツが食べているのは青汁のような色をしたアイスの乗った、毒々しい紫色のケーキだった。抹茶なんて可愛い色じゃないそのアイスは、さっき一口貰ったら苺のような味で美味しかった。ケーキはココア風味だ。
セダの料理は普通だったのに、ここサラムの料理は味はいいのに見た目がチャレンジャーという物が多い気がする。魔法を使って開発したり作ったりしてるからなんだろうか?
それぞれテペロのムース・コルソース掛けとか、ママナンのケーキ・ピロロのアイスを添えて、とかいうよくわからない名前がついていて、原材料はさっぱり想像がつかない。
そういえばこの付近には似たような名前のモンスターがいたような気もしたな、と考えかけて思考を止めた。
美味しいものは美味しいのだから問題はない。
深く考えるのを止めてテーブルから視線を上げれば、片手でウィンドウを操作するスピッツの姿が目に入る。彼女はさっきからケーキを食べながら、出したままのウィンドウを時々操作していた。
オークションの手続きをしたり、出品した品物の経過を見ているらしい。
先ほどファトスで渡した物ももう出品され、早速幾つか入札が入ったと少女は教えてくれた。
「おじいちゃん、生産レベル上がってきたって言ってたけど、次はどんなの作るの?」
「うむ、今オークションに掛けてもらってる初級魔道書の上位のが結構人気あるじゃろ。プラス5くらいまではどうにか安定して作れるようになってきたから、あれをもう少しだけ続ける予定じゃよ。
あとはそろそろ色々取り混ぜた複合型の魔道書をオークションで売り出してみようかとも思っとるかの。もう少し熟練度が上がると本の表紙に模様を入れたりして外装を変更できるエディタが使えるようになるようじゃから、そこまでいったらにしたい気もするが……」
スピッツにオークションで売りに出してもらった初級魔道書の合成上位版は、今の所結構良い値段で落札されている。出しているのは四から五くらいの合成に成功したものだけだ。
編纂・合で同じ書同士を掛け合わせると熟練度によって確立で失敗するので、一度にあまり沢山は作れない。失敗しても材料はなくならないのだが、魔力はなくなるので休まないといけないからだ。
「合成した魔道書、かなり強いみたいだもんね」
「プラス1するだけで、普通の物より結構ステータスが上がるからのう。初級の魔法は皆長く使っているから熟練度も上がっとることが多いじゃろうから、尚更効果が高い。初級だからといって馬鹿にしたもんでもないだろうの」
私だって覚えている魔法の中で、一番使っているのはやはり炎の矢などの初級魔道書に入っている魔法だ。呪文も短いし熟練度が上がっているので威力もかなり高い。初心者でも使えるように使い勝手も結構いいと来ている。私の作った合成上位版の魔道書はその威力を更に上乗せしてくれるのだ。
ただし、合成となると当然原価も上がるので今のところは初心者向けじゃなくオークションで出している。
プラス5くらいだともう1000R以下では販売したくないので開始の値段はそこからだ。売れるかどうか最初はビクビクしていたのだが、そこそこ人気が出ているようで本当に良かった。
伝え聞いた話だと、初級魔道書の呪文くらい暗記していても、装備しているだけでそこに載る魔法やその本と同じ属性の他の魔法の威力も上がるので結構便利に使っている、という人もいるらしい。それは嬉しい話だった。
「ファトスでの無人販売は続けるの?」
「うむ。今のところ、そっちの方が目的じゃからの。スゥちゃんにはまだ面倒をかけることになるが……」
「ううん、そんなの全然いいよ!」
結局、『初心の書』は幾つかの属性の初級魔法を混ぜた魔道書とした。どれも単体、範囲、補助、回復が一つずつ入っていて、回復は白の単体回復魔法と決まっているが、あとはその時々の気分によって属性を変えて作っている。その辺は手にする人が適当に選べばいいだろうという仕様だ。
別に同じ魔法ばっかり唱えてると飽きるとかそういうことでは決してない。ないったらない。
販売価格は800Rと初期魔道書と同じ額にした。
魔道書としては多分ちょっと中途半端だと思うのだが、魔道士を始めたばかりの人なんかが色々な魔法に触れたり、自分の戦闘スタイルを探したりする役には立つんじゃないかと思うのだ。
後は最初っから仲間とプレイする人用に、攻撃魔法一つと使い勝手の良い補助魔法を二つ、回復魔法を一つ入れた奴とか多少の変化を持たせてもいる。
売値や販売方法では色々と悩む事もあったが、今のところファトスでの販売はスピッツに相談して無人販売機スキルの機能を利用し、一度そこで買い物をしたことのある人は、二度と店を見ることが出来ないように設定してある。一見さん以外お断り、という訳だ。更に買占めなどを防ぐため、購入できるのは一人一点だけだ。
(ちなみにこの設定は他にも項目があり、性別やレベル制限、職業制限など様々な条件を付けることができたりする。本来は冷やかしで覗く人を減らして、買ってくれそうな客だけを呼び込むための機能らしい。対象者を限定して住み分けすることで、広場が無人販売所で埋まるとかそういうのを減らす効果も期待されているようだ)
「そういえば、商人スキルは熟練度が上がると何か変わるのかの?」
「うーん、基本はあんまり変わんないかな。鑑定は成功率が上がるとか、売買スキルが上がるとNPC相手には有利になるとか、そんくらい? 自販機は、一度に並べられる数が増えたりとかはするけど。
あ、でももう少し熟練度が上がると商人ていう呼称から、商会っていうのになって、自販機の設置可能数が増えるんだよ。今は一号店って言っても一軒しか出せてないけど、それが増えるんだよ! そうなると自販機に販売用NPCを置けるようになるんだって! って言ってもそれは別になくても変わんないから、ただのネタって言われてるんだけどね」
「ほう……NPC販売員も置けるのか。商会の名前は好きに変えられるんじゃったかの?」
「うん! 名前はまだ決めてないんだ。何がいいか悩んでるとこ。でもおじいちゃんのおかげでもうちょっとだよ!」
「これからも販売は頼みたいから、スゥちゃんの個人名と遠い名をおすすめしたいかもしれんの」
「そっかぁ、じゃあどうしよっかなー。販売員は今のとこメイド系にする人が多いらしいんだけど、それも悩むよぅ」
商会になるとその商会名でオークションなども出品できるらしいから、更に個人が特定しにくくなるだろう。
スゥちゃんに迷惑かける率も減るかもだし、ありがたいなぁ。
販売員と名については少しばかりアイデアが浮かんだので、後で提案してみようかな。
「しかし、売買スキルが上がってもプレイヤー相手には何かが変わるという事はないんじゃな」
「それはないかなぁ。そういうのは個人の交渉スキル次第になっちゃうみたい。でもボク、商人なのにそれ全然なんだよね」
そういうとスピッツはちょっと肩を落とした。このRGOの中ではいつも明るい彼女にしては珍しい。
「対プレイヤーの売買交渉は苦手ということかの?」
「うん。全然ダメ。そういうのはお姉ちゃんの方がずっと上手。ボクにできる事なんて、製作者を知りたい、とか言われたりしたのをハイテンションな会話に巻き込んでうやむやにしてきっぱりお断りするくらいだよ」
いや、それが出来ればそんなに肩を落とすほどの事はないんじゃないかな。私はそれすら面倒くさいもん。
「そういえば、スゥちゃんは何故商人を選んだのかの? やはり鑑定目当てだったり、ユーリィに頼まれたりしたのかの」
「え、うーんと……違う、かな」
あれ、てっきりそうかと思ってたのに違うのか。なら何故? ともう一度問うと、少女は少し言いづらそうにもじもじと話し出した。
「あの、ね。セダの露店広場、おじいちゃんも行った?」
「ああ、行ったよ。すごい活気であれは驚いたのう」
セダの中心部にある商業ギルドの周囲はかなり大きな広場になっている。そこは露店広場としてプレイヤー達に解放され、昼も夜も大変賑わっている場所なのだ。確かに、RGOの中で今のところ一番活気のある場所は、といえばあそこだろう。
「すごいよね。すっごく賑やかで、うるさいくらいで。でも楽しそうでさ。あのね、セダに行くまでは別のことやろうって思ってたんだよ。けどあそこ見てたら、なんか、楽しそうで、羨ましくて……やってみたくなっちゃって」
ぽつぽつと語る少女はさっきまでのスピッツというよりも、どこかリアルでの理恵ちゃんを思い出させるようだった。普段の大人しい中学生の少女と、このゲームの中での彼女はあまり印象が重ならないように思っていたのだが、やはりこうして静かに語っていると本人の雰囲気がよく出てくる。
「ボクね、おじいちゃんみたいに、ロールプレイっていうの? そういうのしてみたかったんだよ。自分じゃない自分になりたくて、色々考えて、結構成功してたと思ってたんだけどね」
「わしも成功しとると思うがの。最初にあった時は、スゥちゃんがリエちゃんだとはさっぱり気づかんかったよ」
リエちゃんが考えたスピッツというキャラクターがどんななのかはわからないが、リアルと違うという点では成功していると言えるんじゃないだろうか。
私はそう思ったけれど、それでも彼女は不満そうだった。
「普段はいいんだよ! お姉ちゃんとか、ライたんとかと冒険してる時はさ。でもフレンドだけじゃなくって露店なんかでお客さんと色んなやり取りしたりとか、もっと知らない人相手にも、『スピッツ』でいられるようにしたくって、それで商人になってみたかったの。このゲームの中では、何となくテンションも上がっちゃうから、スピッツのキャラならいけると思ってたんだけど」
けど、とそこまで語って少女は視線を落とす。
「実際なってみると、全然勇気がでなくってさ。露店開くと途端にお客さんと上手く会話できなくて、いっつも自販機頼りで、全然だめなんだよね。商人なんて、ホントは名乗れないのかも」
確かに性格的にはリエちゃんはもともと大人しいタイプだし、人見知りも多少する。それに中学生が交渉事に長けてるなんてことは少ないだろうしな。ずうずうしく値切る度胸やそれをあしらう余裕が身についていなくても当たり前……っていうか、むしろそんなものあまり身に着けないで欲しい気すらする。
「そうなのか……意外、でもないのかの。しかしヤライ君やミストには結構元気にふるまっとったし、わしとも初めて会った時から元気にしとったし、もう一息のような気もするがの」
「ミストはリアルでも知り合いだからまた違うもん。ライたんは……なんか話しやすいんだよね。なんでかな? お姉ちゃんとすごく仲が良いからかな? ライたん優しいしね。おじいちゃんの時は、何ていうか、こんなに本格的なおじいちゃんキャラの人見たのなんて初めてだったから、ついテンション上がっちゃって……ライたんの知り合いっぽかったっていうのもあったしね」
少女は傍らに置かれたコップを手に取ると、半分ほど残っていた蛍光ピンクの飲み物をコクリと一口飲んだ。味はレモンスカッシュだそうだ。
「お姉ちゃんがいっつも楽しそうだったからボクもこういうのやってみたくてさ。中学に入ってから勉強頑張って、ご褒美に買ってもらったんだよ、このゲーム」
「小学生まではできないからのう。頑張ったんじゃな」
「うん。でもね、ボクまだおじいちゃん以外の人で、こうしてお姉ちゃんがいない時に一緒に遊べるの、ライたんだけなんだ。後は緊張しちゃってなんか駄目なの。いっつもお姉ちゃんとライたんにくっついてて、それもよくないって思うんだけど……」
そう言ってスピッツはまたしょぼんとする。あんなに元気なのは姉と友達の前だけということか。
けど、リアルの彼女を思い出すとそれもありそうなことのようにも思えた。結局、人の本質はそう簡単には変わらないという事なんだろう。
「わしは、そのままでも構わんと思うよ。無理してなりきっても疲れが溜まるだけじゃろう。商売の交渉が多少上手くなくても構わんしの。無人販売所とオークションのみの、謎の商会、なんてなかなか渋いと思うがのう」
「渋いかな……? でも、有望な前線プレイヤーや大手ギルドと交渉して色んなアイテム流してもらったり、生産に力入れてる人から委託されたハイクオリティの生産品を前線で高値で売って回ってたりしてるやり手の商人も結構いるっていうよ?」
「そういう人はそういう人。スゥちゃんはスゥちゃんの自分のプレイスタイルを探せばいいんじゃよ。少なくともわしは助かっておるし、スゥちゃんが望むなら将来有望そうな新しいフレンドを紹介する事も出来るかもしれん。いい職人友達ができたんじゃよ」
「ホント!? どんな人?」
「こだわり派で強面のがっかりドワーフじゃよ。面白い人でな」
「がっかりドワーフ?」
この帽子を作った人だと教えると興味を持ったようで、スピッツも会ってみたいと言ってくれた。
今度会ったら紹介していいか聞いておく、と約束をする。こういう風に少しずつ交友関係を広げていけばいいのだ。別に焦ることは全然ない。
私なんてフレンド欄にはまだ五つしか名前がないが気にしたこともない。NPCの友人知人は山のようにいるけど。
「……あのさ、おじい……ナミちゃん」
「ん?」
「あの……ありがとうね」
お礼の言葉に顔を上げると、スピッツがにこりと笑った。
何に対して礼を言われたかわからず首を傾げると、委託だよ、と答えが返ってくる。
「商品をさ、ボクに売らせてくれて。なんか、さっき言ったみたいな感じだったから商人って言っても鑑定と買い出ししか役に立ってなかったからさ、嬉しくて」
「ああ、それか。こちらこそ、スゥちゃんが商人でいてくれて感謝しておるよ。お互い様じゃろう」
「でも、今すごく楽しいから。ありがと」
そう言う彼女は確かに嬉しそうだった。役に立ったことが本当に嬉しいという雰囲気で、私もなんだか嬉しくなる。
そうやってしばらく二人でにこにこしていると、そういえば、とスピッツが何か思い出したように声を上げた。
「おじいちゃん、自販機はあれでいいとして、オークションの条件はあれでいいの? あれだとあんまり値段も上がらないし、損じゃない?」
「ん、ああ、あれかの。あれはあれでいいんじゃよ。その方が面白いじゃろ?」
「面白いの? うーん、よくわかんない」
首を傾げるスピッツに頷いて笑顔を見せる。
そう、あれはあれでいいのだ。あの条件こそ私の望みだ。
「なんかよくわかんないけど……おじいちゃんが楽しそうだからいっか」
「おや、楽しそうだったかの?」
「うん、すっごく楽しそうな顔してたよ、今。けどなんていうか、おねえちゃんが意地悪する時の顔っぽかった!」
なるほど。そう言われてみれば心当たりはあるかもしれない。
今実際ちょっとだけ意地悪な気持ちだったしね。ほんのちょっとだけね。
「でもやっぱり変わってるよ。入札可能なのは魔術師系職業の人だけっていう条件はまだわかるけど、『団員数が三十人以上の旅団参加者には入札できないようにする』だなんてさ」
「いいんじゃよ。大きな組織の庇護下にいる人は、仲間探しにもアイテムを手に入れるにも有利じゃろう? それ以外の人にほんの少しチャンスがあれば、というのがわしの目的なんじゃから。組織力で値段を釣り上げて落札されても面白くないしの。それでも十分稼ぎになるんじゃから、いうことなしじゃよ」
「ふぅん。まぁ、おじいちゃんがいいならボクもいいけど」
そう、その条件だと、あの旅団なんかは私の作品を手に入れられない訳だ。
要するに、これは私の地味な嫌がらせなのだ。いや、嫌がらせっていうと語弊があるよね、違う違う。
私の生産に関するプレイスタイルだ。弱者救済。素晴らしいじゃないか。
いずれ話は広がるだろうけどそれはそれで構わない。そうなった時の条件付けも考えてあるし。
「もう少ししたらもっといい魔道書を売りに出すから、それにはまた条件を付けてくれるかの」
「うん、もちろん! 今度はどんな条件?」
「次は、商会の名前が使えるようになったらそれで出品して、その商会からの出品物を一度でも落札したことがある人は、二度と入札できない、というのが良いかと思っておるんじゃよ」
「それだともっと売上落ちない?」
「大丈夫だと考えとるよ。それに、少しくらい落ちてもいいんじゃよ。それよりもできるだけ沢山の魔道士に手にするチャンスを得て欲しいからの。一つの組織に買い占められたり、転売目的で入札されるよりはずっと良いよ」
だから売り上げは落ちても別にいい。けど、多分そんなに落ちないだろうと踏んでいる。
私が問題として想定しているのは、話が広まって大規模旅団の団員に入札参加制限がかけてあると知られた時、恐らくそこからの買い出し部隊が一時旅団を抜けてでも入札に参加するかもしれないということだ。
だがそれを一度きりに制限すれば、旅団側は毎回違う人物を送り込まないといけないことになる。それも当然してくるだろう。
だが、それがいつまで続くか。旅団の幹部は信頼がおける人間ばかりだろうから最初はいいだろう。
けれどその幹部達では足りなくなった時、更に下の人間に購入資金を託して一時旅団から脱退させなければならなくなった時。その下の人達にどこまで信用がおけるのか。その旅団の真の結束力が試されるというものだろう。
「その時は……どうなるじゃろうのう」
「……おじいちゃん、その笑顔なんか怖いよ?」
「ん? そうかの?」
スピッツにそう指摘されたので、私はにっこりとなるべく好々爺っぽく見えるよう意識して微笑む。
これは決して嫌がらせとかじゃないのだ。私はただ自分の作った品が、なるべく私の望む人達の手に渡るように工夫して販売するだけだ。私のプレイスタイルなんだから、誰にも文句は言われる筋合いはない。
もっともどんな組織にも何も問題が発生しなかったという事も十分ありうるだろうし、そうなったらそれはそれで構わない。
そういう状況でも揺るがない組織なら、きっと所属している人はそこで満足しているんだろうから、良いところなんだろうしね。
もちろん大規模な旅団こそ、その鋼の結束力をきっと私に見せつけてくれるに違いない。
そう信じているとも。
ああ、楽しみだな。本当に。
まだまだこれからも頑張って生産するぞ。
目標は魔道士救済だもんね。
「あ、そうだ、スゥちゃん。ユーリィからまだ遊べないかとせっつかれとるんじゃがの、転職してからにしようと思っておるのじゃよ。スゥちゃんももう少し待っとってくれるかの」
「あ、おじいちゃんもう転職?」
「うむ。こないだ蛇を倒してレベルが上がったのでステータスが足りたらしくての。そろそろ、塔に上ろうかと思うのじゃよ」
もうここしばらくずっと私のステータス欄には転職可能職業が現れたことを示すアイコンがつきっぱなしだ。
今まで保留にしておいたのだが、どうせなら次の冒険の前に転職してしまいたい。
「もう何になるのか決めたの? 黒? 白……はないよね。色付きとかは強いけど属性が偏るし……おじいちゃんなら黒かな、やっぱり」
「ははは、それはお楽しみじゃよ。今はまだ、秘密じゃな」
そう、それはまた今度会う時のお楽しみ。
顔を上げてゆっくりと視線を巡らせれば六番街の突き当りの塔が目に入る。
次の私の楽しみの在り処はこの街に聳えるあれら塔の上か、それとも。
「楽しみじゃのう」
呟いて、ケーキの最後の一口を口に運ぶ。
さて、次はどんな冒険と出会えるのやら。
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いつも読んで頂きありがとうございます。
とりあえず生産職話はあと閑話で終わりです。
転職についてちらっと出ましたが、多分書かずに飛ばすかと。
とりあえず閑話はあまり遅くならないうちに更新します。