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No.4801の一覧
[0] R.G.O! (よくあるMMO風味)[朝日山](2011/07/18 10:43)
[1] RGO2[朝日山](2011/07/17 15:57)
[2] RGO3[朝日山](2011/07/07 15:13)
[3] RGO4[朝日山](2011/07/07 15:21)
[4] RGO5[朝日山](2011/07/07 15:31)
[5] RGO6[朝日山](2011/07/17 15:59)
[6] RGO7[朝日山](2011/07/17 15:59)
[7] RGO8 ―閑話―彼女に対する考察[朝日山](2011/07/17 16:01)
[8] RGO9[朝日山](2011/07/17 16:02)
[9] RGO10[朝日山](2011/07/17 16:02)
[10] RGO11[朝日山](2011/07/17 16:03)
[11] RGO12[朝日山](2011/07/17 16:04)
[12] RGO13[朝日山](2011/07/17 16:05)
[13] RGO14[朝日山](2011/07/17 16:06)
[14] RGO15[朝日山](2011/07/17 16:07)
[15] RGO16[朝日山](2011/07/17 16:07)
[16] RGO17[朝日山](2011/07/17 16:08)
[17] RGO18[朝日山](2011/07/17 16:08)
[18] RGO19[朝日山](2011/07/19 18:32)
[19] RGO20[朝日山](2011/07/17 16:20)
[20] RGO21[朝日山](2011/07/17 16:20)
[21] RGO22[朝日山](2011/07/17 16:21)
[22] RGO23[朝日山](2011/07/17 16:21)
[23] RGO24[朝日山](2011/07/17 16:22)
[24] RGO25[朝日山](2011/07/17 16:22)
[25] RGO26[朝日山](2011/07/17 16:23)
[26] RGO27[朝日山](2011/07/17 16:24)
[27] RGO28[朝日山](2011/07/17 16:25)
[28] RGO29[朝日山](2011/07/17 16:26)
[29] RGO30[朝日山](2011/07/17 16:27)
[30] RGO31[朝日山](2011/07/18 10:32)
[31] RGO32[朝日山](2011/07/18 10:33)
[32] RGO33[朝日山](2011/07/18 10:47)
[33] RGO34[朝日山](2011/07/18 10:54)
[34] RGO35[朝日山](2011/07/18 10:53)
[35] RGO36[朝日山](2011/07/18 11:44)
[36] RGO37[朝日山](2011/07/18 11:32)
[37] RGO38[朝日山](2011/07/18 11:44)
[38] RGO39[朝日山](2011/07/18 11:47)
[39] RGO40[朝日山](2011/07/23 01:00)
[40] RGO41[朝日山](2011/07/30 08:32)
[41] RGO42[朝日山](2011/07/30 08:35)
[42] RGO43[朝日山](2011/07/30 08:36)
[43] RGO44[朝日山](2011/08/06 07:37)
[44] RGO45-閑話 彼女への既視感(前)[朝日山](2011/08/20 15:41)
[45] RGO46-閑話 彼女への既視感(後)[朝日山](2011/08/20 15:43)
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[4801] RGO16
Name: 朝日山◆56f2e972 ID:bd601240 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/17 16:07


「俺、昔っから忍者がすっごい好きなんですよ! だから絶対職業にあるならなりたくて、敏捷上げたりして頑張ってるんです。あ、でも例えなれなくても心はいつでも忍者ですから!」
 気を取り直して街道をセダに向かって歩きながら、私は隣にいるヤライ青年の語る忍者への憧れを聞いていた。
 
 心は忍者。
 心は老練な魔道士でありたい私も人のことは言えないが、なかなかに変な人だ。
 でもそういう拘りははっきり言って好きだ。面白そうな人だし、妙に言葉遣いが丁寧で礼儀正しいところも好感が持てる。
 彼によると、その心意気を示す為に服装は黒に拘って買い揃え、バリエーションに黒がなかったものはわざわざ防具生産をしているプレイヤーに注文したらしい。
 
「けどそしたら金欠になっちゃって、今節約中なんですよ。ファトスの修練所にしかない小剣スキルの取り損ねてた奴を取りに行って来たんですけど、節約しすぎて転移石の補充を忘れちゃってて……」
「なるほど、それで徒歩でセダに戻るところだったと」
 ファトスには残念ながら転移の書も転移石も売っていない。一応転移所はあるのだが、少々割高らしい。そこでついでに彼は敵が弱い境の村までは馬車で移動し、そこからは敵を倒して金稼ぎをしつつ歩いてきたらしい。
 どうやら彼はなかなかのどじっ子のようで、何だか親しみが湧くタイプだ。
 そんな事を思いながら話を聞いていると、ヤライは私にもう一度頭を下げ、巻き込んでしまったことを再び詫びた。
 
「本当に助かりました。街道のカーブしてる場所をショートカットしようとしたら森に近寄りすぎちゃって。レベル的にはいけたんですが、流石にあの数は危なかったんですよ」
 森林狼はHPは高くないが俊敏で、集団で襲って来る上に毒を持っているため、レベルに差があったとしても一人では危険な相手だ。
 さっきは彼が引き付けていてくれたので火に弱いと言う弱点を突くことで私にも簡単に勝てたが、そうでなければ絶対に一人では相手にしたくない。
 
「あの距離なら森林狼に見つからないと思ったんですが……何でかなぁ」
 私は彼の呟きを聞きながら、彼が狼に見つかった理由に見当をつけていた。
 一応言っておいてあげるのが親切というものだろう。
「言いにくいんじゃが、それは多分その黒い服のせいじゃないかのう」
「えっ? 何でですか?」
 
 私が図書館などで仕入れた情報に寄れば、狼の類は視覚と聴覚の複合によって獲物を認識するタイプのモンスターだったはずだ。
 鼻も利くが、視界が良い場所なら視覚の方を優先させるらしい。
 彼らの索敵範囲は広いのだがテリトリーがはっきりしていて、普段はそこからあまり移動したり、はみ出したりする事は少ない。
 だがそれも、そこに目を引く何かがなければ、の話だ。
 視覚がしっかりしているモンスターは、自然と目立つ獲物をターゲットに選ぶ傾向がある。
 夜ならともかくこの真昼間に黒尽くめの男が見晴らしのいい草原を歩いているなどと、目立つなと言うほうが無理と言うものだ。
 そう説明すると、ヤライはひどくショックを受けたような顔をした。
 
「そっ、そんな! 俺のアイデンティティーが! 揃えたばっかりなのに!」
「うーむ、しかし昼間に黒はやはり目立つと思うが……フィールドに出る時は目立たない色のマントでも着たらどうかの?」
 悩む男に私は代案を提案したが、彼はそれもどうも気に入らないようだった。
 だが実際、街道を行く黒い色はどうにも目立つだろう。
 ふと上を見上げた視界にその証拠の一つを捉えて私はため息を吐きつつも、隣でまだ唸っている青年に声をかけた。
 
「悩みは後にして、上を見てくれんか」
「え? あ、鳥」
「あれは視覚で獲物を捕捉する種類の代表格じゃな。普通はあまり街道付近に来なかったはずじゃよ」
 少しずつ近づいてくる大型の鳥のモンスターの名前は確かギルウィ。アレのレベル帯は13から15ほどだったはずだ。
 一応練習室で相手にしたが、上空の敵はターゲット指定し辛いのと素早いのとで、私としては少々分が悪い。
 風系の範囲魔法で一応何とかできるとは思うのだが、近くにパーティを組んでいないプレイヤーがいると巻き込む可能性があるため少々都合が悪いのだ。
 
 RGOではPvPは決まった場所や決闘の宣言なしにできない事になっているので例え当たっても魔法のダメージは通らないのだが、さっきのように揺れに足をとられたり、風に煽られたり、爆風を受けたりと言う多少の影響はある。その影響はパーティを組んだ者同士ならごく軽微で済むのだが、私と彼は並んで歩いているだけでパーティを組んでいる訳ではないのだ。
 そういうことを考えずに魔法を放てば、彼の攻撃を邪魔してしまったりして、かえって悪い影響が出るかもしれない。
 まぁ、アレの目標は恐らく私ではないので手を出さなければ私が襲われる事はないだろうが……。
 即席パーティを組む事も考えたが、視界の隅に動くものが見えたので、その暇もなさそうだ。
 
「ヤライさん、あの鳥を相手に一人で戦えるかね?」
「えーと、一匹なら多分大丈夫かと。俺今レベル18なので」
「ならあれはお任せしよう。わしはそこにいるトカゲを片付ける故な」
 私達の立っている場所の少し先、右前方の草むらをガサガサと揺らして姿を現したのは三メートル近い大きなトカゲだった。
 こいつは嗅覚で獲物を認識するタイプのモンスターだ。知らず風上に立っていた私達に惹かれたのだろう。
 
「うげ、鉄皮トカゲ! 俺アレ苦手なんですが!」
「なら、鳥の方に集中していてくれたら良いよ。わしはそっちが苦手じゃから丁度良い」
 あのトカゲは動きは遅いのだがとにかく硬いのだ。背中一面を鉄のような鱗が覆っていて刃による攻撃にはかなり強い。その分腹は柔らかいのだが何せ体重があるのでひっくり返すのも難しい。
 忍者を目指すヤライの獲物は小剣などの短めの刃物のようだし、ダメージが通らなくて苦手だというのも無理はない。
 私はトカゲが近づいてくる前に街道の端に寄って彼と距離を取り呪文を唱えた。チラリと上を見れば鳥の姿がかなりはっきり見えてきている。
 もうすぐ急降下をしてくるだろうが、それに巻き込まれる事は避けたい。多分一撃で私のHPはかなりやばい事になるだろうし。
 
『縛せ、大地の鎖』
 さっきと同じ、地属性の捕縛呪文だ。
 五メートルほど先にいるトカゲの足元が魔法によって隆起し、そこから先ほどと同じ緑の蔓が現れる。重心の低い体は揺れにも強いし、硬い鱗に覆われた体には小さな棘など何の役にも立たないだろうが動きを止めことは出来る。
 私はその効果を見る前に既にもう次の呪文を唱えていた。
 
『開け北限の華、いと冷たき氷の娘。透き通るその御手に刹那を閉じ込め、銀の槍もて全てを貫け。我が呼び声に応え、凍つく世界より疾く来たれ』
 辺りの気温が下がり、パキパキとどこからか音がする。私は青く光る杖を持ち上げ、もがくトカゲに真っ直ぐ向けた。
 
『育て 氷の槍』
 ドン、と鈍い音が響き、ギィィィィ、とトカゲが割れるような声を立てる。蔓に絡みつかれ動けぬ体を、その下の大地から生えた氷の槍が腹から貫いたのだ。その体は地面から少し浮き上がっている。
 貫いた槍は冷気を発し、パキパキとトカゲを凍らせてゆく。
 初級の単体魔法はもうどれもかなり熟練度が上がっている上、爬虫類タイプの弱点は冷気なのでよく効いている。やがてトカゲはひとしきりもがいた後、光へと姿を変えた。
 もう一発必要かと途中まで唱えて準備していたのだが、私はそのまま口を閉じて呪文を中断した。
 
 
「伏せて下さい!」
 横から鋭い声が飛ぶ。
 だが言われるまでもなく私はもう既にその場に身を低くしていた。
 私にとっては足の遅いトカゲよりも鳥の方がずっと怖いので、さっきから視界の端に入れていたのだ。たとえVRであろうとも反射神経にはまったく自信がないので油断はしない。当たったら下手すれば死ぬし。
 
 鳥は私の頭があった辺りを斜めに掠めて黒尽くめの青年に急降下を仕掛けた。
 ヤライは自分に向かって突き出された鋭い鉤爪に向かって、左手に構えていた小剣の刃を斜め下から鋭く振り上げた。
 彼の持っている小剣は少々変わった形の武器で、刃はゆるく弧を描いてまるで細い月のようだ。その背の上部には、そこからほぼ垂直に生えるような形で持ち手がついている。
 それを握ると自然と刃が腕の横に沿うような構えとなる。長さは腕よりも少し長くて、持ち手を握った手から拳二つ分ほど、肘から先にも同じくらいだけ刃が飛び出していた。
 
 白銀の刃と鉤爪は激しくぶつかり一瞬火花を散らす。下から加えられた大きな力は鉤爪の攻撃を逸らし、鳥はバランスを崩して空中でよろめき、慌てて大きく羽ばたいた。
 広げると両翼で三メートル近くあるその大きな翼の羽ばたきも十分凶器になりそうだったが、ヤライはそれに怯まず素早く高く跳び上がるとその翼の付け根の部分に切りつけた。
 ピィィ、と鋭い悲鳴が空気を切り裂く。
 それでも鳥はまだ地には落ちない。だがヤライにはそれも予想の範囲内だったらしく、彼は跳び上がった体をくるりと捻ると鳥の首辺りをダン、と強く蹴り付けた。
 
「うわ」
 道端で体育座りで見学をしていた私の傍に鳥の体が仰向けに叩き落された。
 一瞬驚いたが、鳥とほぼ同時に地面に降りたヤライはどこに装備していたのか数本の細いナイフを素早く投げ、それが次々に鳥の体や翼に突き刺さり地に縫いとめる。
「はっ!」
 掛け声と共にヤライは再び跳び、腰に挿していた忍者刀のような長さの刀を素早く抜いて振りかぶる。
 小太刀はドスッと鈍い音を立てて鳥の胸に吸い込まれた。
 鳥はそれっきり動きを止め、ゆっくりと光に変わる。
 
 おお~、なんかすごく格好良かった。
 私は思わずパチパチと拍手をした。他人が戦っているのを見たのは遠目からなら狩りをしていた時に何度かあったが、こうして間近で見ると迫力だ。
 レベルが高いせいもあるだろうが、手馴れているし本当に格好良かった。

「やりますな」
「いえ、この辺の敵ならまぁ。一匹だけでしたし。それよりもウォレスさんの方がすごいですよ。さっきの狼もすごかったし、あのトカゲも硬くて時間ばっかりかかるから俺なんていっつも避けて通ってますよ?」
「いや、弱点はわかっておったしのう。わしには逆に鳥の方が手強いから、人それぞれでしょうな」
 私は笑いながら立ち上がり、ウィンドウを開いた。
 あのトカゲは結構良い経験値のはずなのだ。
 確かめるとやはりちょうど今ので一つレベルが上がっていた。うん、嬉しい。
 
「何か出ましたか?」
「いや、今ので一つレベルが上がったようで」
 私の笑顔を見て何かあったようだと思ったのだろう。
 問いかけたヤライにそう応えると、彼は笑顔を浮かべ、おめでとうございますと言ってくれた。
 レベルが上がって誰かにおめでとうと言われるのはそういえば初めてだ。
 これもかなり嬉しい。
 ありがとう、と応え、また二人で歩き出す。
 歩きながらヤライは気になったのか、問いを投げてきた。
 
「そういえば、ウォレスさんはレベル幾つなんですか?」
「ああ、今さっき9になったところじゃよ」
「……は?」
 境の村まで来たところでレベル7の少し手前だったのだが、そこを越えて敵が強くなったおかげでもう三つもレベルが上がったのだ。
 私もようやく二桁までもう一息だ。

 隣から返事が返ってこないのでどうしたのかとそちらを見ると、ヤライはぽかんと口を開けて実に間の抜けた表情をしていた。
 普通の顔の青年の間抜け顔というのは、なかなか似合っている気がする。
 
「どうかしたかね?」
 目の前でひらひらと手を振ると、ヤライはハッと我に返った。
「……ど、どうかしたかって、それ、ほんとですか!?」
「それ?」
「レベルですよ! まだ一桁なんですか!?」
「ああ、うむ、弱くてお恥ずかしい。一人でのんびり狩りをしておったから、なかなか上がらなくての。レベル上げを兼ねての徒歩の移動なのじゃが、セダに着く前に10までは難しいかもしれんなぁ」
 しかし今後の事を考えると、セダを出る前に10くらいにはしておいた方がいいかもしれない。
 一度セダについてから、さっきのトカゲ狙いでこの辺をまたうろつくかなぁ。
 
「いえ、あの、そういう事じゃなくてですね……」
「何かおかしなことでも?」
 要領を得ないヤライの言葉に私は首を傾げた。
 レベルが一桁なのに徒歩でここまで一人で歩いてくるのは無謀だとでも言いたいのだろうか? 
 確かに普通に考えればHP的にはかなり無謀なのだが、ちゃんとその辺も検討済みだ。現に目的地まではもう少しと言うところまで来ている。
 
「おかしいっていうか、いや、でも俺もあんまり魔道士知ってる訳じゃないしな……けど、一桁って……」
 ヤライは腕を組みながらなにやらぶつぶつと独り言を呟いている。
 何が不思議なのか良くわからないが私はとりあえず彼のことは置いておき、杖を持ち上げて呪文を唱えた。

『射て 炎の矢』
 炎の矢は道の先にいた猪がこちらに気付き振り向いた瞬間に着弾し、その体を赤く包んだ。
 
「それですよ!」
「はっ?」
 パチンと弾けた猪を見ていたヤライに突然叫ばれ、私は驚いて隣を見た。
 ヤライは驚く私の手の中にあった杖をビシっと指差す。
 
「なんで、杖なんですか!」
「や、なんでって……意味がわからんのじゃが。魔道士が杖を持っていて何の不思議が?」
「だって、俺が今まで会った魔道士は皆魔道書装備でしたよ? だからパーティ組むと皆大変で、本を開いて魔法を唱える間ずっと守ってやらないとだし、本に載ってる魔法しか使えないから敵を引く前にいちいち事前に打ち合わせが必要で、何かあったら本を装備しなおさないといけないしで、ウォレスさんみたいな杖装備の人なんて初めて見ましたよ!」
 あー、やっぱり魔道士ってそういう人多いのか。
 魔道書装備だと面倒が多いだろうなぁと常日頃から思っていたが、やはりそうらしい。しかし杖装備の人は驚かれるほど少ないのだろうか。
 多分最前線まで行けばそれなりに活躍している魔道士もいるんじゃないかと思うんだが……。
 
「魔法を暗記しているなら杖の方がずっと楽なのじゃよ。初級呪文ならどれもまだ短くて済むから、敵を選んで上手く使えばわしでも結構がんばれるしの。多分君が運悪く出会わなかっただけで、他にも似たような人はおるんじゃないかのう」
「けど、色んな魔法使ってたじゃないですか。アレ全部覚えてるんですか?」
「色んなって、まだ四つほどしか使ってないじゃろう。わしが覚えているのはまだ二十を少し越えたくらいしかないよ」
 二十、とヤライはどこか呆然とした様子で呟いた。
 
「十分多いですよ、それ……レベル8で鉄皮トカゲをあんなに簡単に倒せるのも驚きだし」
「多いかのう? まぁ、幸いわしは活字の記憶力には多少の自信があってな、魔道士には向いとるらしい。そういえば円周率も小数点以下1000桁くらいは軽いかの」
「1000!?」
 
 そう、それは私の数少ない特技の一つだ。一つといっても、特技といえそうなことはこれを含めて二つくらいしか思いつかないのだが。ミツもその私の記憶力を知っているからこそ魔法職を薦めたのだ。
 だがこれが実生活で役に立つかどうかと言えば、テストの暗記問題が楽と言うくらいの役にしか立たないので、別段自慢できる事でもない。
 もう一つの特技にいたっては更に役に立たないだろう。
 得意な事と不得意な事を天秤にかけたら、運動全般がだめだと言うだけでもう不得意な事が多すぎる。
 それでも、こうしてたまには役に立つこともあるのは嬉しい事だ。
 私としては、さっきのヤライのような華麗な戦いの方が遥かに憧れなのだが、例えVRでも私にはあんな動きは出来ないような気がする。
 ああ、何か考えていたら悲しくなってきた。
 
「わしにはヤライさんの方が羨ましいがの。さっきの動きは本当に忍者っぽくて格好良かった」
「え、本当ですか!? いや、でも俺なんてまだまだ修行中ですよ!」
 彼は照れているのかぶるぶると激しく首を横に振った。
「いやいや、わしは運動が苦手でな。本当に羨ましい」
「いえいえ、俺なんて逆に、魔道書があっても呪文間違える自信ありすぎますよ。尊敬します」
 私達はしばしその場でお互いの褒め合いと謙遜し合いをしていたが、やがて我に返って二人で笑い合い、再び歩き出した。

 遠くにはいつの間にか薄っすらと、セダの街らしき影が見えてきていた。



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