カリウスは夢を見ていた。
今回は闇を下地に、数えるのも嫌になるくらい膨大な光の粒子が点在する空間に漂っている夢だ。
しかも前回と同じく声も発せられない。
しかし彼は、もはやどんな夢を見ようが不思議と驚かない自信があった。
(あれ、俺また夢を見てるぞ。星みたいなのがわんさかある……お次は空の上ってか。早く起きて、ミルンをぶっ倒さなきゃいけねぇってのに)
いくら待っても夢は終わらない。
不穏過ぎる予感がよぎった。
(遅すぎる。いつもならとっくに終わる頃なのに――もしや俺、死んじゃったのか!? だから目覚めないのかな……嘘、だろ!?)
有り得る。
硬い列柱へまともに衝突したのだ。そのまま即死してもおかしくない。
(そんなん嫌だぞ。まだエレナに……チクショウッ!)
カリウスが頭を掻きむしりながら喚き散らしていると、
(お! おーい。カリウスくーん)
自身にとても似た声で名を呼ばれた。
後方からだ。
声の持ち主をカリウスは知っている。そいつは昨日名前を知った男のはずだ。
(これはユート……の声?)
(正解。よくわかってるじゃないか)
振り向くと、そこには人の形をした光り輝くナニカがいた。
(喋ったぞ。お前、形だけで人には見えないけど本当にユート、なのかよ)
カリウスが尋ねると、
(いかにも。姿形は違っても僕はユートさ)
光り輝く物体がぺこりと頭を下げた。
カリウスは何故だかその姿には特に驚かなかった。知らぬ間に心を通わせた会話をしていることも気にならない。
それよりも、彼には訊かねばならない話が幾つもあったのだ。
(そうだ。おいユート、お前は俺の何なんだよ。昨日からワケがわからないんだ。俺の夢の中にいきなり出やがって。小さい頃からの夢といい……何がどうなってるんだ!?)
(そうだね、ちょっと頭を触らせてくれ。そしたら、君の疑問には答えれる)
ユートが右手らしき部位で、カリウスの頭を指した。
(俺の頭でいいんだな。いいぞ)
カリウスが双眸を閉じて素直にこまる。
ユートはカリウスの頭に触れた。
それと同時に、今までの夢では見たことがない新しい光景が次々と生まれていったのだ。
(こ、これは――)
エレナ、そしてカリウスに似たユートらしき人物や、他にも色々な人物が共にいる場面が展開していく。
夢の中のカリウスが戦っている白いドレスの敵と、違う場所で戦っている場面もだ。
その敵の顔がアップになってカリウスは度肝を抜かれた。
(あれ? 情報にあったミルン女王の素顔に似ている! ユウさんが書いた似顔絵のまんまだ!)
(そのまさかだよ。彼女はミルンだ)
(マジかよっ!? そういえば、こいつも白いドレスだった……)
面食らっている間にも情景が移り変わっていく。
中には互いに励まし合ったり、泣きながら抱き合う場面も。
瞬間。カリウスの脳内で閃光が弾ける。
様々な場面を全部見終え、真っ黒な双眸を開けた。
把握できていた。エリアル創世記の真実と自分の前世を――
(そういうワケだったのかよ。輪廻の輪を越えた先、俺の前世はお前だったのか、ユート!? じゃあ俺が神々の墓で感じたのは)
考えてみればやはり、エレナへの恋愛感情に他ならなかった。
(うん。僕はその、エレナが好きだったんだ。結局言えず仕舞いだったけどね)
気恥ずかしそうに言うユートの言葉は、カリウスの疑問を氷解させた。
(じゃあ前世の感情が俺にも残ってたってのか。エレナさんを想うお前の感情が)
(そうみたい。それに加えて君の夢が急激に変化したのも、エレナと直接会ったのが大きいんだ)
(うぇッ!? マジかよッ)
(うん。エレナ本人も記憶を取り戻す刺激になったみたいだ)
(んだと、エレナさんも思い出せてたのかよ)
記憶の障害は消えた。いよいよ、ミルンを成敗するのみである。
(あぁ。君達二人が出会えてよかった、僕も霊体になってからケルンの不具合を知ったんだ。大事になってて驚いたよ。エレナにも心の傷を負わせてしまった)
(お前のせいじゃないだろ。どれもこれも天上の神々が勝手に失敗したんだろうが……あともう一つ、お前に言っときたいことがある)
カリウスは真剣は顔で自分の決意を宣言すべくユートを指差した。
(前世の感情とか色々あるだろうがさ、俺がエレナに……その、一目惚れしちまったってのは嘘じゃねぇ、確かなものなんだ)
心の内を余すことなく伝えきった。
カリウスの正直な想いを汲み取ったユートは、
(勿論そうだろうね。前世を通過したうえで芽生えた気持ち、全部見ていたよ。だから、その件も含めて最後のお願いを聞いてくれないかい?)
思いつめたような声で言った。
カリウスは迷いなく頷く。
(んだよ?)
(最後までエレナをよろしく頼む。それとさ、光の皆は全員、君を応援していると伝えてくれ)
前世の記憶は決死の願いを伝えた。
カリウスはユートの手を力強く握る。
(おう。伝えてるよ、お前らの想い! エレナだって俺が守る。今度こそミルンを倒してみせるぜ)
揺るぎない信念を確認して安心したのか、ユートの砂のような肉体が少しづつ消え始めた。
(ありがとうカリウス。君を介してエレナにも会えたし、未練はなくなったかな。僕の霊体、前世の記憶は完全に君と同化するよ)
(そうか……てか俺自身は死んでねぇんだよな? このまま消えたりしないよな?)
さっきまでの男前は何処か、酷く狼狽するカリウス。
そんな彼を見て晴れやかに笑うユートは、消失する最後にこう言った。
(問題ないよカリウス。目覚めた時に君はもう動けるようになっているハズさ。僕らが支給された武器をもっと上手く扱えるよう、感覚を研ぎ澄ましておいたしね)