ルアーズ大陸の中央に位置するガルナン王国。この国がルアーズ大陸のパワーバランス首位に躍り出て、数十年が経過していた。
そもそもの神々の聖遺物が突如として歴史に現れてから約百年。万能の利器が夢を現実のモノと為せる可能性を与えた。偶然発見しようが、手にした者勝ちだ。
神々の聖遺物は剣と弓で雌雄を決する時代に、大きすぎる一石を通じたのだ。
ある国では国家を相手取り、下剋上を獲ろうとする連中もでてくる始末である。
故ガルナン王国建国王ハルバーンも、その強大な力に魅せられた一人だった。
ガルナン王国が興る以前、かの地には元々ヘイラ王国という国があった。
国を支配する王族は圧政をしき、人々を苦しめていた。
当時、ヘイラ王国内で活動していたある傭兵団の兵士として命を金に換え一日を必死に生きていたハルバーンは、生まれながらの身分で一生が決まるという世の流れに強い不満を抱えていたのだ。
喧嘩別れで団を抜け出していた放浪の最中、彼は修行のため訪れた危険な獣が住まう森の中で、偶然神々の墓を発見、エリアルの聖遺物――五体を強靭化させる首輪ジェイドを手にした。
聖人となった彼はすぐさま生まれ故郷へ引き返すと、同じ志を内に秘めていた村人達を説得、指揮して自分が前線に立ち、王族が住む城を夜襲――壊滅させて新たな国を興した。
それからは怒涛の快進撃。ヘイラ王国と同じように理不尽な統治を行っていた周辺国家へ次々と侵攻、統治下に。気づけば混乱極めるルアーズ大陸の情勢を瞬く間に突破していたのだ。
一国を治め、発展させていく確かな手腕と知略、王たる者が持つ度量にも目覚めていった彼はまさしく天才だった。
その最中にある情報を手にする。
広大になった自国内の領地に、ある期を境に戦場からポツリと姿を消していた、百年前から存在すると言われる伝説に近い存在――不老の女傭兵エレナが彷徨い歩いているというのだ。
真ならば彼がすることは決まっていた。ルアーズ大陸覇者にもっとも近い王と言われる自分を差し置いて最強と言われる女がいつ大陸制覇の邪魔になるかはわからないと――討伐するなら絶好の機会だった。
そのために自国の民ですら犠牲にすることへ躊躇はなかった。
目まぐるしい日々の中で、心から愛する伴侶が出来たことも彼を勢いづかせる。
謎に包まれてはいるものの、自身に惚れ自ら仕えたいと志願してきた女性――聖人女王となったミルンと共に誓い合った大陸制覇を現実のものとするべく、彼は天下目撃人として大軍勢を引き連れてエレナに挑む。
しかし、激闘の末――ハルバーンは敗北を喫した。
そのエレナ討伐戦で負った傷が原因で、彼は帰国後すぐに天命を全うした。
残された未亡人ミルンはその後、悲しむ間もなく国政を引き継ぐ。
勢いを失うも、他国の追従を許さないことに変わりはない。
誰もが実現できずに夢を飼い殺していった覇道、大陸統一へと今一番近い国であった。