目が覚めると、俺は保健室にいた。
仕切りになっていたカーテンを開けると、書類を整理している保健の南先生が居た。
「あら、目が覚めたのね」
「先生…」
保健室には、保健の南先生と俺しか居なかった。
南先生は年の割に可愛らしい所のある先生として、男子よりも女子に人気のある先生である。
「後で桂木先生にお礼を言ったほうがいいわ。桂木先生が、貴方をここまで抱きかかえてきてくださったのよ?」
「そうだったんですか…」
「そうよー? もうすぐ学校も終わるから、職員室に寄ってから帰りなさいね。先生、貴方の事、とても心配されていたんだから」
時計を見ると、間もなく最後の授業が終わる時刻を差そうとしていた。
俺は午後丸々眠ってしまっていたらしい。
「ありがとうございました。ご心配をおかけしました」
「マラソンで張り切るのもいいけど、無理はしない事ね」
違う。張り切って倒れたわけじゃない。
俺は自分がなぜ倒れたのか。あの倒れた時の状況をもう一度思い出しながら保健室を後にした。
廊下を歩いてる途中、終業のチャイムが鳴ったので、そのまま職員室へ向かう事にした。
しかし、職員室に桂木先生は居なかった。
他の先生に聞いたが、どうやら桂木先生は午後の途中で急用が入ってしまい、ご帰宅されたという事だった。
(また明日にでも会えるだろうし、まあいいか)
お礼を言うのも、抱きかかえられた事実も、妙に気恥しい気がしてきた俺は、少しだけ明日桂木先生に合う事を億劫に感じた。
そして、俺は学校を後にした。
いつもと変わらない下校通路。変わり映えのしない町。
特別、俺は帰宅までの道のりに幼い頃からの思い入れなどはありはしなかったが、この日ばかりは妙な気分だった。
自分の今見ている景色が、ずっと昔、もう何年も昔に住み暮らし、今はもう離れてしまった、懐かしい記憶の中に閉じ込められていた町を見ているような気分だった。
なぜだろう。
その答えはいくら探しても見つからなかった。