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No.43519の一覧
[0] requiem for the man of husband[四方膳](2020/03/28 07:47)
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[43519] requiem for the man of husband
Name: 四方膳◆e9bd7a34 ID:84954ba9
Date: 2020/03/28 07:47
requiem for the man of husband



「なぁ」

「なに?」

「今日、あいつんち行ってくるわ」

「また、愛人?」

「うん」

「はーい、行ってらっしゃい」

「‥‥‥」



どうしてこんなことになってしまったんだろうーーー。


俺には妻がいる。

妻は美人で聡明で、俺には似つかわしくないほど素晴らしい女性だと個人的に思う。

対して、俺は真面目以外取り柄のないボンクラサラリーマンだ。


話は変わるが、人間関係には、「バランス」が必要だ。

彼女は完璧な人だ。

そんな俺が、「真面目」のままで居ても、彼女は居心地が悪いだろう。

だから、俺は今後妻と生きていくのにあたって、「軽薄」を演じることにした。

今の俺は、日ごとにオンナが変わる、デラックスな男だ!!


「‥‥‥」

「おい、菊地、どうした?」

「‥‥‥俺は、クズ野郎だ!!」

「はぁ? なんでさ」

「俺はな、あの人を前にして、自信を持てないでいるんだよ」

「またその話かよ」

「俺は、あの人の事を幸せにするって、決めてたのに‥‥‥」

「‥‥‥でも、向こうもOKして結婚したわけだろ? そんな思いつめることもないんじゃ‥‥‥」

「いや、ダメなんだ。何か考えてないと、奥さんがどこかへ行ってしまいそうで‥‥‥もう、おかしくなりそうなんだ‥‥‥!!」

「そんな負担になるなら、別れればいいんじゃないか?」

「嫌だね!!」

「‥‥‥はぁ」

「‥‥‥田中、お前んとこは、どうなんだ‥‥‥その、‥‥‥」

「‥‥‥ああ、俺んとこは、お互いにフツーにしてるけど」

「フツー? フツーってなんだ」

「いや、お互い好きなようにしてるっていうか」

「好きなように!?」

「面倒くせーな!!」

「‥‥‥いやー、まぁ、できるなら俺も好きなようにしたいけどさ」

「うん」

「なんか‥‥‥皮かぶってないと、話せなくってさ」

「いやぁ、それはお前、嫁さんに失礼だろ」

「そ、そうか‥‥‥?」

「だったらお前、結婚前も、その、皮ぁかぶって嫁さんと付き合ってたわけか?」

「そ、それは‥‥‥」

「そりゃ詐欺だぜ、詐欺」

「‥‥‥いや、違う。なるだけ素を見せるようにしてきたつもりだ」

「うん、そうだろう?」

「‥‥‥でも、飽きられたら‥‥‥」

「そんときゃ、その時じゃね? 」

「‥‥‥まぁ、そうかな」

「‥‥‥だろう? 思いつめて束縛してたんじゃ、世話ないからな」

「そうだ‥‥‥俺は、彼女を束縛していたのかもしれない!」

「‥‥‥え」

「‥‥‥決めた! 俺、頑張って今の自分を貫くよ!」

「‥‥‥えっ、ちょっと」

「じゃあな、田中!!」

「おいっ、待てって!!‥‥‥もう、家に居ろよ‥‥‥」





「ただいまー!!」

「おかえりー。早かったね」

「うん」

「‥‥‥ひょっとして、またフラれたの?」

「‥‥‥えっ? ああ、そうなんだよ! なんかさ、「重い」っつって別れられたよ」

「ふぅーん」

「‥‥‥」

何か、話さなければ。

妻は掃除機をかけている。

相変わらず、綺麗だ。

しかし、俺はフローリングが綺麗になっていくのを、ただ指を咥えて見ているしかなかったーーー。

「‥‥‥う、うう‥‥‥」

「‥‥‥どうしたの?」

「い、いや、なんか‥‥‥腹が痛くなったからトイレ行ってくるわ!!」

「ああ、行ってらっしゃーい」

「‥‥‥」




どうしてこんなことになってしまったんだろうーーー。

俺は、便座の上で握りこぶしを額に当てるポーズを取っていた。

妻と会話をしたい。

だが、俺では、妻を楽しませるような会話はできない。

どうしてもっと楽しい人間に産まれてこなかったのだろうか。

もう俺など、来世は産まれてさえこないでくれーーー。



その時、尻の表面に感触があった。

「‥‥‥だ、誰だお前は!?」

「私はトイレの神様だ」

「トイレの神様!?」

「知らないのか、トイレにはそれはそれは綺麗な神様がいるんやで」

「そうか‥‥‥」

「お前は今、奥さんとうまくいっていないようだね? 」

「そうなんだ‥‥‥なんとかしてくれ!!」

「断る」

「どうして!? 」

「神様とは、願いを叶える存在ではないからだ」

「そうか‥‥‥」

「だが、話を聞いてやることはできる」

「‥‥‥じゃあ、どうしたら、俺は妻と面白い会話ができるんだ!?」

「それは簡単だ、自分から話せばよい」

「‥‥‥」

「私、何か悪いこと言ったか?」

「それが出来れば‥‥‥苦労しないっ!!」

「どうして?」

「そりゃ、話すことが思いつかないからだ!!」

「‥‥‥」

「妻は才色兼備、秀外恵中、成績優秀‥‥‥俺のツボを全て兼ね備えている!!‥‥‥だが、それは同時に、妻は俺の知性を大きく上回っているということ!!」

「‥‥‥」

「だから、その‥‥‥俺が思いつくような話は、妻にとって全部面白くないかなって‥‥‥」

「じゃあ別れなさいよ」

「嫌だね!!」

「そうか‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥じゃあ、付き合う前はどうしておったん?」

「そうだな、だいたい‥‥‥妻が話してた」

「じゃあ、そのスタイルでよくない?」

「‥‥‥ダメなんだ!! それは、つまらない男だから‥‥‥」

「つまらない男の何がいけないんだ?」

「‥‥‥え」

「つまらない男の何が悪いと聞いているんだ!! お前の奥さんは‥‥‥そんなつまらないお前を愛したんじゃないのか!!」

「‥‥‥」

「お前自身を馬鹿にすることは‥‥‥そんなお前を愛した奥さんを馬鹿にすることなんじゃないのか!?」

「‥‥‥」

「そうよ‥‥‥何が、「話すことがつまらない」よ、この馬鹿!! 私の気持ちも知らないで!!」

「お前は誰だよ!!」


バンバンッ。

ドアが叩かれた。

バンバンッ。


「‥‥‥えっ!?」

「ちょっと、何一人で話してるのよ」

「あ、ああ、今出るよ!!」

「‥‥‥さぁ、行くがいい、子羊よ‥‥‥」

「うん、ありがとう‥‥‥神様」

俺は、感謝を込めてレバーを倒した。

チュボッ‥‥‥ズゴゴゴゴッ‥‥‥ドポポンッ。

「ぐああああああああああああ」



神の間を後にした俺は、床の間にたどり着いた。

「あ、おかえり」

「‥‥‥あ、ああ」

「ねぇ、この間さ、友達とタピオカを飲みにいったんだけど」

「タ、タピオカ?」

「うん、どんなもんかなーって、飲みに行ったのはいいんだけど、甘すぎて飲み切れなかったわ」

「へぇ、甘すぎて?」

「うん」

「また連れてってや」

「また行こうね」

「うん」

「‥‥‥」

「‥‥‥でさ、その友達が今度はパンケーキ食べに行こーって誘ってきたんだけど」

「パンケーキ? ‥‥‥今?」

「うん」

「いつ?」

「土曜日」

「そっか、行ってきなよ」

「‥‥‥うん」

「‥‥‥」

「‥‥‥ねぇ、ちょっと、トイレ行ってくる」

「‥‥‥えっ、ああ、どうぞ‥‥‥」

「‥‥‥」

妻は、トイレへ旅立った。



「‥‥‥あ、ああ、ああああああああ!!!」

「だめだ、田中、トイレの神様‥‥‥俺には話を膨らませることができないッ!! できないんだああああ!!」

「もう、だめだ、死ぬしかない‥‥‥死ぬしかないんだ!!」

俺は、床の間の模造刀を手にとって、抜いたーーー。

鞘を抜くと、キラリと刃が光った。

そして、刃先を腹にあてがうと、金属の重みで、皮が少し切れそうになった。


「‥‥‥あはぁ、はぁ、‥‥‥さようならっ、さようならっ」

俺は、腹にぐっと力を込めーーー。




「どうしたらいいの?」

「‥‥‥えっ?」

妻の声が、トイレから聞こえてきた。

「‥‥‥私は、どうしたらいいの‥‥‥?」

「‥‥‥幸恵っ!!」

俺は、刀を放り捨て、走った。





「‥‥‥幸恵!!」

「‥‥‥神様、私、あの人の事がわかりません」

「なんだ、またお前か」

トイレの前に行くと、幸恵の声が聞こえてきた。

「‥‥‥幸恵」

「神様、私はもうあの人に気を使いたくありません。離婚すべきでしょうか」

「‥‥‥」

「お前がそうしたいのであれば、そうするべきだ」

「‥‥‥いいえ、神様ーーー私には、あの人がわけのわからない奇行に走って、勝手に憂鬱になっているように見えるのです」

「‥‥‥」

「‥‥‥どうすれば、彼は普通になると思いますか?」

「‥‥‥そうだな、お前の夫は、わけのわからない奇行に走って、勝手に憂鬱になるタイプだから、そっとしておいてやればいいんじゃないのか」

「そうですか、私からどうこうしようとする必要はない、と?」

「お前が嫌なら離婚すればいいだろう」

「‥‥‥そうですね、わかりました」



ガチャ。

「‥‥‥」

「‥‥‥聞いてたの?」

「‥‥‥え? ‥‥‥いやぁ? さっき通りかかったばっかで‥‥‥」

「またそうやって嘘付くんだから‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥その血、どうしたの?」

「‥‥‥え? ああっ、いやこれはあの‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥その‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥別れよっか?」

「‥‥‥」

「私と一緒にいるのが嫌なら、もう‥‥‥」

「‥‥‥嫌だね」

「‥‥‥どうして? あなたに得がないように思えるんだけど」

「あるし‥‥‥」

「‥‥‥なにが得なの?」

「‥‥‥今」

「‥‥‥今?」

「今、お前と目を合わせて話してるこの状況ーーーこの状況がもう俺には得だわ」

「‥‥‥こんな、気まずいのに?」

「知らない、そんなの」

「‥‥‥」

「この‥‥‥今の時間、お前と一緒に過ごしてるこの時間が得なのに」

「‥‥‥それは、気持ち悪くない?」

「‥‥‥なら、別れようか?」

「いや、別に‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥なぁ」

「んー?」

「俺は、あんまり‥‥‥「好き」とか、お前に言いたくない」

「なんで?」

「なんか、嘘っぽくならないか?」

「いやぁ、減るもんじゃないでしょ」

「‥‥‥じゃあ、好き‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥卑怯だね、なんか」

「‥‥‥えっ?」

「‥‥‥だって、そんなの、普通、自分から言わない?」

「‥‥‥」

「‥‥‥そんな、なに、許可制なの? こういうのって‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥もういいわ、私、寝るから」

「‥‥‥」

妻が、離れていく。

私は動かなかった。

彼女を傷付けてしまう気がした。



本当に、傷付くのか?

田中は、「好きにしている」と言っていた。

神様は、「つまらない男でもいい」と言っていた。



気が付くと、去る妻の腕を握りしめていた。

私はそのまま、あの頃みたいに、妻と口づけを交わした。

ああ、つまらない男だなぁーーーと私は思うのだ。


おわり


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