神は細部に宿る
「ちょっと待って? ‥‥‥あのね、わかる? 「神は細部に宿る」って言葉。知ってる? ‥‥‥私が言いたいこと、わかる? あなたの絵って、大味っていうか、繊細さがないっていうか、見てて全然面白くないわけ」
「‥‥‥」
「そんな生産性のないもの描いてて恥ずかしくないの? 私なら吊るけどなー。首」
「でも先輩、ブサイクじゃん」
「‥‥‥は?」
私の名前は吉田理絵。
美術部の部長をやっている。
「ちょっとまって‥‥‥それ、どういう意味よ?」
「いや、そのまんまの意味ですよ。先輩ってお世辞にも可愛いとは言えない顔してるじゃないですか」
「‥‥‥ちょっと! 今は私の顔の話はしてないでしょう!? 知ってる? それって論点のすり替えって言うんだよ!? ストローマン論法よ!?」
「知りませんよ、そんな言葉。それに、あなたに絵を語られようが全然話が入ってこないっていうか‥‥‥」
「いや、そりゃ私は噛みすぎたガムのような顔をしているかもしれないけど‥‥‥あなたの為を思って言ってやってんのよ!?」
「うるせぇ!! あなたの為、あなたの為‥‥‥お前は俺の母親か!?」
「急に怒らないでよ‥‥‥」
「ごめんなさい、言いすぎました‥‥‥」
「いや、顔の悪口の方を謝って欲しいんだけど‥‥‥」
「‥‥‥あの、先輩」
「なによ、もう何も教えてあげないわよ」
「もう少し‥‥‥具体的に教えてくれませんか?」
「‥‥‥はぁ、あのね、その絵はまずパースがおかしいの」
「ほんほん」
「腕の角度も抑え気味だし‥‥‥ここはもう少し上げてやるとダイナミックに見えるわよ」
「へぇー、すげぇ!! 流石先輩!!」
「‥‥‥まぁね、これくらいは朝飯前よ」
「最初からそんな感じで教えてくれればいいのに!」
「‥‥‥」
「‥‥‥先輩、あの‥‥‥」
「‥‥‥なに、今度はなに?」
「‥‥‥俺と付き合ってくれませんか?」
「‥‥‥えっ?」
「‥‥‥先輩って、なんでもズバズバ言ってくれるじゃないっすか」
「‥‥‥えっ、まぁ、そういう性分だから‥‥‥」
「なんで急にしおらしくなってるんですか?」
「ああっ!! もう出てけお前!!」
「うひーーーー!!!」
私の名は吉田理絵。
今日もこいつと二人きりで美術部を運営している。
私には、ある特徴がある。
それは、顔があまりにもブサイクだということ。
この間、登校中に曲がり角でぶつかった転校生が、私の顔を見るなり血の泡を噴いて倒れたほどである。
でも、私は絵がすごく上手い。
歌も上手い。
なんならピアノもできる。
そんな私のあだ名は、「スーパーコンピューター」
人間扱いしろや!!
「先輩‥‥‥悪かったよ、先輩‥‥‥」
「はぁ、もういいってば‥‥‥」
「‥‥‥ねぇ! 先輩」
「なに、今度は?」
「‥‥‥先輩って、めっちゃスタイル良いですよね」
「‥‥‥そうでしょ? 体には自信あるわよ、私」
「‥‥‥」
「‥‥‥おら、目ぇ見て話さんか」
「でね!! 先輩‥‥‥先輩にいい話があって‥‥‥」
「ほう、なになに?」
「先輩の事が好きって奴がいるんだよ」
「‥‥‥えっ!? どこのだれ!?」
「3年2組の柳川って奴なんだけどさ! 先輩の事話してたら、「結婚した」って言ってたよ」
「‥‥‥えっ、嫌だそんな奴」
「まぁまぁ!! 先輩に選んでる余裕、ないでしょ? ふふっ。とりあえずそいつに会いに行きましょう!」
「ぶち殺すぞゴラ」
「‥‥‥柳川です」
「‥‥‥この寡黙な子が、柳川君?」
「そう、彼が柳川くん! バイト先の先輩です!」
「‥‥‥ど、どうも‥‥‥」
「‥‥‥どうも」
「こらこらぁ、なに乙女っぽくしてるんですか!」
「てめぇ、いい加減ーーー」
「‥‥‥鈴木、お前は席を外しといてくれんか」
「えっ‥‥‥」
「‥‥‥わかりました、後は若い二人に任せましょう」
「どの口がいってんだ‥‥‥」
「‥‥‥や、柳川くん」
「‥‥‥」
「柳川くん、私の事、好きなの‥‥‥?」
「‥‥‥ええ、すごく‥‥‥」
「!!‥‥‥」
「‥‥‥吉田さん‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥吉田さん、僕と真剣にお付き合いして頂きたい!!」
「‥‥‥柳川君」
「‥‥‥」
「‥‥‥柳川君、私の‥‥‥私のどこを好きになったの?」
「‥‥‥顔です」
「えっ」
「‥‥‥あなたは、「神は細部に宿る」という言葉をご存知ですか」
「はっ、はい‥‥‥」
「‥‥‥あなたのその‥‥‥個性的な顔!!」
「‥‥‥」
「‥‥‥あなたのその顔には‥‥‥神が宿りまくっている!!」
「‥‥‥は、はぁ‥‥‥」
「‥‥‥私は‥‥‥その顔を見るだけで、血湧き肉踊る!! 花は咲き乱れるし‥‥‥そんな神秘性を感じさせる顔をあなたはしていらっしゃる‥‥‥」
「‥‥‥そ、それは‥‥‥どういう意味なんですか!?」
「‥‥‥ここで、私の自己紹介と致しましょう!」
「‥‥‥」
「‥‥‥私は‥‥‥ブス専です!!」
「死ねええええええええええええええええええええええええええ」
「ピャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
バーン
体育館が粉々に砕け散った‥‥‥。
「はぁ、散々だったわ‥‥‥今日は」
「‥‥‥またダメだったんすか、先輩も懲りませんねー」
「懲りませんねじゃないわよ! 全く、恥ばっかかかせて!」
「じゃ、聞きますけど。先輩って、どんな人がタイプなんですか?」
「‥‥‥そうね、生意気な人がいいわ」
「‥‥‥えっ?」
「生意気でー、口が減らなくて‥‥‥いつも私の事をおちょくって来るような子がタイプかなぁ‥‥‥」
ちらちら
「せ、先輩って‥‥‥」
「むふー」
「特殊なんですね」
「かぁっお前マジあり得ねぇ」
こうして、二人は結婚したという‥‥‥。
だが、これが美人な高嶺の華だった場合はどうなるか?
「ちょっと待って? ‥‥‥あのね、わかる? 「神は細部に宿る」って言葉。知ってる? ‥‥‥私が言いたいこと、わかる? あなたの絵って、大味っていうか、繊細さがないっていうか、見てて全然面白くないわけ」
「結婚してください」
「無理」
おわり