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No.43493の一覧
[0] 半熟卵[しゃれコーデ](2020/03/13 11:56)
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[43493] 半熟卵
Name: しゃれコーデ◆e9bd7a34 ID:84954ba9
Date: 2020/03/13 11:56
半熟卵



「‥‥‥ケイちゃん」

「‥‥‥」

「よう、こんなところにいたか」

「‥‥‥」

「ひどいじゃないか‥‥‥話の途中で抜けたりなんかして」

「‥‥‥」

「‥‥‥どうした? 何が不満なんだ? 言ってみなよ」

「‥‥‥強いて言うなら、あなた」

「‥‥‥んん?」

「‥‥‥あなたのその態度が気に食わないの」

「‥‥‥俺の‥‥‥態度がかい?」

「‥‥‥ええ、何もかも気に入らないわ」

「‥‥‥ひどいな、そりゃ‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥俺の‥‥‥どこが気に入らないって言うんだ?」

「何もかもよ」

「‥‥‥え」

「‥‥‥あなた、自分が俳優か何かだと思っているの?」

「‥‥‥いや、別に」

「今日までずっと‥‥‥あなたのその態度に耐えてきた。‥‥‥これ以上、私に付きまとわないでくれる?」

「‥‥‥」

見計らったかのように、しとしと生ぬるい雨が降りだした。

ご令嬢は、黙って走り去ってっちまう。

「ま、待って!!」

「‥‥‥それ以上私に近づいたら警察呼ぶわ!!」

「‥‥‥」

俺は、ご令嬢を止めることが出来なかった。

「‥‥‥やれやれ」






「‥‥‥いやぁ、最近の女どもには参るね、とりつく島もありゃしない。‥‥‥どう思う? 高杉」

「‥‥‥先輩、ハードボイルドか何かですか?」

「ハ、ハードボイルド?」

「そう、先輩みたいな人のことを、ハードボイルドって言ってたんですよ。昔は」

「へぇ‥‥‥そりゃあまた、いい響きだ‥‥‥」

「やめてくださいよ、先輩、もう25ですよね」

「‥‥‥」

「‥‥‥そんな調子だから、女の子も逃げて行くんですよ」

「‥‥‥はぁ、そんなに駄目かい? これ」

「駄目ですね」

「‥‥‥いやいや、今や人一人個性が重視される時代だぜ? 今のうちにその「ハードボイルド」とやらをモノにしておくとするかな」

「‥‥‥「昔は」、ですよ。「昔は」。今や死語ですよもう」

「なら、俺が最後の「ハードボイルド」を演(や)ろうじゃないか」

「いや、勘弁してくださいよ‥‥‥」



俺の名は哲夫。

「今」を生き抜く25歳。

仕事もすっかり板に付いてきた。

誰も俺を止めることはできない。



「‥‥‥おい、哲夫」

「‥‥‥」

「‥‥‥哲夫!!」

「‥‥‥あ、猿渡さん? おはようございます」

「‥‥‥お前さんよ、何グースカいびきかいて寝てるんだ」

「‥‥‥いやいや猿渡さん、働く男には安眠が必要なんですよ‥‥‥」

「これっぽっちのノルマも達成しねえで何寝ぼけたことを言ってやがる」

「‥‥‥」

「ほら、コーヒー入れてやったから、それ飲んでとっとと頭下げて回ってくるこった」

「すません、行ってきます‥‥‥」





「‥‥‥はーぁ、どこもかしこも呑んでくれねぇ‥‥‥」

「‥‥‥先輩の態度に問題があるんじゃないですか?」

「‥‥‥俺のっ!? ‥‥‥俺のどこに問題があるって言うんだ?」

「‥‥‥いや、鼻につきますもん、今も」

「‥‥‥俺の話し方に問題があるってのかい?」

「そうですね。それだけじゃないですけど‥‥‥」

「‥‥‥いやぁ、やっぱおかしいって。俺ぁ悪くねーもん。挨拶するし悪いことちゃんと謝るし」

「そんなの当たり前ですよ」

「‥‥‥当たり前だぁ? 社内を見たまえ、その当たり前が出来ていない奴のなんと多いこと」

「‥‥‥そりゃ、社内だからでしょ」

「‥‥‥なんだい、全然味方してくれないじゃないか」

「‥‥‥いじけないでくださいよ」

「‥‥‥はぁ、どうすりゃいいのかな‥‥‥」

「‥‥‥」

「このままじゃ、恋も営業も上手く行きそうにない‥‥‥どうすりゃいいんだ?」

「‥‥‥悩むのが3年位遅い気がしますよ」

「あいにく‥‥‥‥悩みとは無縁の人生を送っていてな」

「‥‥‥キモいっすよ、先輩‥‥‥」

「「キモい」!? それだけは言ったらあかんよ!?」

「‥‥‥」

「‥‥‥わかった!? 絶対言っちゃだめだかんね!?」

「‥‥‥で、どうするんですか具体的に。ダラダラ喋ってても、何も解決しませんよ」

「そうだな‥‥‥まず、ケイちゃんと付き合えるようになりたい」

「‥‥‥ケイちゃん?」

「この間飲み会で知り合った女の子さ‥‥‥」

「ああ、あのフラれたっていう」

「そう! その子」

「‥‥‥」

「その子の事がさ、どうしても忘れられないんだ‥‥‥」

「‥‥‥本当キモいっすね、先輩」

「「キモい」!? それだけは言ったらあかんよ!?」

「‥‥‥」

「‥‥‥攻撃力高いかんね‥‥‥」

「わかりました、言わないようにします」

「頼むよ‥‥‥」

「‥‥‥でも先輩、どうするつもりですか? 一度フラれてる訳ですから、その原因を改善しないことには無理かと‥‥‥」

「ううーん、原因、なぁ‥‥‥」

「‥‥‥」

「そうだ!! ‥‥‥高杉、俺がフラれた原因を考えてくれないか!?」

「それ、前言ったじゃないですか‥‥‥」

「‥‥‥え?」

「だから、先輩のその調子をやめた方がいいって話ですよ」

「やめる‥‥‥? なんの話だい?」

「だから、カッコつけるのをやめろと言うに」





「‥‥‥うーん」

「‥‥‥わかりましたか? 今時、サラリーマンがカッコつけてモテる、なんてのはファンタジーなんですよ」

「いや、俺はそんな枠にはまった考えでやってないし‥‥‥これ」

「じゃあ尚更やめてくださいよ」

「‥‥‥第一、百歩譲って俺が俺でいられなくなるとして、ケイちゃんが振り向いてくれると思うか?」

「‥‥‥」

「むしろ、俺が俺であるからこそ、ケイちゃんはあの夜、俺と話してくれたんだと思うんだよね‥‥‥」

「それで避けられてちゃ世話ないじゃないですか‥‥‥」

「‥‥‥じゃあ聞くがな、どうすれば自分を変えられると思う?」

「‥‥‥」

「俺は変えられないと思うよ。25年続けて骨にまで染み込んだものをそう易々と捨てられるか?」

「まぁ、無理でしょうね」

「‥‥‥だろう? 無理だって。‥‥‥だから、別の原因! ‥‥‥なんか、ない?」

「死ぬしかないんじゃないですか?」

「‥‥‥そんな事言うなよ‥‥‥」

「‥‥‥まぁ、言い過ぎた事は謝りますが‥‥‥先輩、この先モテたいって思うなら変わるしかないと思いますよ、本当に」

「‥‥‥高杉」

「‥‥‥」

「‥‥‥でも、変わるっつったってなぁ‥‥‥」

「‥‥‥まぁ、いきなり変わる必要はないんじゃないですか? それこそ、意識を1日だけ変えるだとか‥‥‥」

「俺には似合わないな‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥ん? 高杉?」

「‥‥‥先輩、フラレた根本的な原因がわかりましたよ」

「え? 何々」

「先輩は、今まで一度も仕事してなかったんですよ」

「‥‥‥え?」

「‥‥‥じゃあ、先帰ってますんで」

「‥‥‥お、おい!! 仕事は!?」

「あ、心配要らないんで。じゃあ」

「「じゃあ」って‥‥‥おい!!」

高杉は、居なくなってしまった。

「‥‥‥」






「‥‥‥ふっ、誰も彼も行っちまいやがった‥‥‥やっぱ、一匹狼の俺には向いていない仕事だったのか‥‥‥」

ポケットに手を突っ込みながら、俺は街を歩いた。

すると、不意に知らないおばあちゃんに声をかけられたーーー。

「‥‥‥あんた、就活生?」

「‥‥‥就活生? 違いますよ、俺は会社員で‥‥‥」

「就活かぁ、大変ねぇ‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥ねぇ、私と若い頃はね、会社に勤めてたのよ」

「そ、そうなんですか」

「そしたらね、私ったらなんとなく暗いってんで、よくいじめられてたの」

「え‥‥‥」

「それでね、結局その会社はやめちゃったけどね」

「‥‥‥そ、そんなのっ!! それだけで、なんであなたがやめないといけなかったんだ‥‥‥!?」

「‥‥‥でもね、今ぁ私、感謝してるの」

「な‥‥‥なんで‥‥‥?」

「会社やめたおかげでね、花屋に就く事ができたの」

「‥‥‥」

「私ね、どうやらそれが向いてたらしくって‥‥‥今もそこに勤めてるんだけどねぇ」

「‥‥‥」

「‥‥‥あんた、会社は選んだ方がええよ」

「‥‥‥あの、おばあちゃん」

「‥‥‥なぁに?」

「もし、自分が暗くなかったら‥‥‥その会社に残ってた?」

「‥‥‥そうだねぇ、わからないけど‥‥‥ずうっと考えてたよ。どうすればこの会社でやってけるかってねぇ。暗いなりにねぇ」

「‥‥‥」

「‥‥‥でも、あんたは明るそうね」

「‥‥‥はは! そうだろう? 俺は悩みとは無縁なんだ」

「へぇ! 頼もしいねぇ」

「‥‥‥おばあちゃん」

「んー?」

「‥‥‥ありがとう、仕事に戻るよ」

「‥‥‥んじゃあね、就活、頑張りや」

俺は、おばあちゃんの元を去った。





「‥‥‥どうも、こんにちは‥‥‥」

「あれ、今日はやけに大人しいね」

「‥‥‥ええ、少し、仕事が欲しくなりまして‥‥‥」

「あはは! そうか、その分だとあんた、左遷されてるね?」

「‥‥‥」

「‥‥‥まぁ、日ごろの行いだよね。でも、なに、今さらどういう風の吹き回しかな?」

「‥‥‥わ、私は、極端な奴でして‥‥‥」

「‥‥‥極端?」

「はい、ですから‥‥‥皆様に顔向けできる人間になるために、今日から、態度を改めようと、決意しまして‥‥‥」

「‥‥‥で、何が言いたいの?」

「す‥‥‥すみませんでした、今まで、斜に構えたような態度を取ってしまって‥‥‥しゃ、社会人として、恥ずべき態度でした‥‥‥っ」

「‥‥‥」

「‥‥‥本当に、申し訳ございません!!」

「‥‥‥へぇ」

「‥‥‥」

「謝れるんだ、あんた」

「‥‥‥」

「‥‥‥でも、もう少し早く、そういう態度を取るべきだったね」

「‥‥‥はい、努力します」

「それ、続けなよ」

「‥‥‥はい!」






「‥‥‥あれ、先輩、遅かったっすね」

「‥‥‥」

「‥‥‥何してたんすか? 課長、怒ってましたよ」

「‥‥‥し、仕事、取ってきた‥‥‥」

「‥‥‥え、本当に!?」

「ああ‥‥‥」

「‥‥‥やったじゃないですか! これでノルマに近付きましたね!」

「‥‥‥でも、一個だけだし‥‥‥」

「いいじゃないっすか! ほら、報告しに行きましょうよ!」

「‥‥‥うん」







「‥‥‥あ、あの‥‥‥」

「なんですか、近寄らないでって言いましたよね?」

「‥‥‥この間は、すみませんでした‥‥‥」

「‥‥‥」

「‥‥‥これからは、もっと社会人らしい態度を取ります‥‥‥」

「‥‥‥あの、謝られても困るんですけど」

「‥‥‥ああ、ごめん、すぐ仕事にもどるよ‥‥‥」

「‥‥‥ごめんなさい、さっき言ったことは取り消します」

「‥‥‥えっ?」

「‥‥‥別に近寄ってもいいんですけど‥‥‥前みたいな態度はもうやめてください」

「‥‥‥あ、ああ‥‥‥本当に申し訳なかった‥‥‥!」

「そんな謝らなくても‥‥‥」






「‥‥‥」

「‥‥‥哲夫」

「はっ‥‥‥猿渡課長?」

「‥‥‥ずいぶんちゃんと仕事するようになったじゃないか」

「‥‥‥はい、遅いですが、心を改めまして‥‥‥」

「‥‥‥ふん。いいじゃないか、なんか、社会人らしくなってきたよ」

「‥‥‥ありがとうございます」

「‥‥‥だがな、別にそこまで畏まるこたぁない」

「‥‥‥と、申しますと‥‥‥?」

「‥‥‥やっと自分を認められるようになったんだ、少しフランクになってみてもいいんじゃないか?」

「‥‥‥」

「どうだ? 哲夫‥‥‥」

「‥‥‥やっぱ課長もそう思います!?」

「‥‥‥」

「そうっすよね、やっぱ俺ってこういうキャラで収まる器じゃないっていうか、俺らしくないっていうか‥‥‥」

「‥‥‥」

「やっぱ俺って、「ハードボイルド」なんでー謙虚さとは無縁っていうかぁー‥‥‥わかります? 猿渡課長。わかります?猿渡課長
わ か り ま す ? 猿 渡 課 長」

「やっぱお前クビだ‥‥‥」

おわり


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