自己分析
私は拳法家である。
一心不乱に拳を打っていると、ときどき陶酔状況に陥ることがある。
あ、そろそろ、来るーーー。
「‥‥‥また、お会いしましたね」
「本日はどうも‥‥‥よろしくお願いします」
「面接官の、谷口です。‥‥‥では、まず最初に自己紹介をお願いします」
「‥‥‥はい、私の名前は菊地源斎。拳法家です」
「では、菊地さん、自己PRをお願いします」
「‥‥‥はい、私の長所は、物事を注意深く冷静に判断するところです」
「それは、どのような経験から、そう思いましたか?」
「はい。まぁ‥‥‥私は拳法家ですので、敵と対峙したとき、どのように攻撃を避けるか、どのように反撃するかを考えることが多かったので、そう思いました」
「‥‥‥では、あなたが最も苦戦した相手は、なんですか?」
「‥‥‥そうですね、動いてこない相手は苦労しました。考えようがないので‥‥‥」
「‥‥‥では、そのような状況を打破するために、あなたがしたことはなんですか?」
「‥‥‥そういうときは、ちょっかいをかけますね。相手の前で、わざと隙を晒したり、相手が掴みやすいように、手をこうやって、ちょこちょこ出してみたり。相手の行動を誘うような動きをしました」
「‥‥‥では、先の自己PR以外に、自分の強みと言えるものはありますか?」
「‥‥‥そうですね、型を覚えるのが得意です」
「‥‥‥型?」
「はい、拳法には、「型」というものがあるのですが、私は今まで、それを沢山覚えてきました。‥‥‥なので、私は物を覚えて、自分のものにすることに自信があります」
「‥‥‥ふーん‥‥‥」
「‥‥‥谷口さん?」
「‥‥‥その「型」というものは、あなたが作ったものですか?」
「‥‥‥いえ、これは、拳法家に代々受け継がれてきたものでして‥‥‥」
「おや? ということはーーーお手本をなぞって、真似しただけ?」
「‥‥‥」
「菊地さぁん。それは、弊社にとって必要な能力とは言えませんよ‥‥‥」
「‥‥‥す、すみません」
「弊社に必要なのは、自分で考えて、自分で生み出す力ーーー。お手本通り、教科書通りの人材は求めていないのです」
「‥‥‥はい」
「それに、あなたは自分のことを「物事を注意深く冷静に判断する」と評していましたが、どうも怪しい‥‥‥本当にそうなら、こんなヘマは打ちませんよね」
「‥‥‥」
「‥‥‥あなた、本当に拳法家ですか?」
「‥‥‥う、うわたああああああああああ!!!」
「ハァー ハァー‥‥‥」
なんだったんだ‥‥‥。
悪夢を見ていたような気がする‥‥‥。
俺は‥‥‥本当に拳法家なのか?
俺は‥‥‥何だ?
俺は誰だ?
毎晩、毎晩、相手もなく、型を打ちーーー俺は、何のためにそんなことを?
そのとき、滝の上の夜空を、一筋の流星が流れーーー。
俺は、真理に到達した。
「‥‥‥また、お会いしましたね」
「‥‥‥」
「‥‥‥では菊地さん、まずは、自己紹介を‥‥‥」
「強くなりたい!!」
「‥‥‥は?」
「俺は、強くなりたい‥‥‥! ‥‥‥誰にも負けたくない‥‥‥!」
「‥‥‥」
「‥‥‥俺、気づきました‥‥‥自分のやりたいこと‥‥‥」
「‥‥‥菊地さん」
「‥‥‥」
「‥‥‥強くなりたいですか?」
「‥‥‥はい!」
「誰にも負けたくないですか?」
「はい!!」
「だったら山に籠ってないで勉強しろや!!!」
「うわたあああああああああああああ!!!」
おわり